必要に応じて自らを(121 枚のアンカットシートに 101 種類のコモン)
2017年10月17日 ポエム「最小公倍数を求めればいいのでは」
新入り——いいかげん初めて会ってからけっこう長いのだが、あれ以来僕たちのコミュニティには新しい人は来ていないので——が言った。
求めてどうするの、と彼女が面白そうに訊く。ヒント、101 は素数です。
つまり 101 種類アンカットシートが必要ですね。そうなると、カード一種類ずつばらばらに刷って手で混ぜるのと同じことになっちゃうか。
それよりはよく混ざると思うけどね。
隅っこの何枚かは捨てる、っていう運用はありなんですよね? 新入りは訊いた。
もちろん。それはフィラーって言って、実際にされてる運用だから。
んー。
新入りは鉤のように曲げた人指し指を形のいい唇に当てて少しの間考え込むと、
あ、アンカットシートを5枚作ればいいんじゃないですか。それで 605 枚になるから、6枚ずつアサインしていくと 606 になって、一枚だけ捨てればよくなります。
なにを捨てるの? 彼女がにこやかに訊いた。
え? ……あ、これだと紙じゃなくてインクの方を捨ててますね。
新入りは眉根に軽くしわを寄せた。あたし自分で思ってる以上に頭悪いな。
彼女が僕の方に視線を向けた。僕はうなずく。
「今のでほぼ正解なんだよ」 彼女は新入りのほうに向き直って言った。
えっ? そうなんですか?
「『ネットのうわさによると』」 僕は言いかけたが、彼女がすぐに口を挟んだ。いや、マローが自分のtumblrで認めてたでしょうが。
マーク・ローズウォーター、でしたっけ?
そう。あの「本当にすごいんだ!」のひと。
ひどい説明だな……。
僕はつぶやいたが、新入りはにっこりと笑った。でも、よくわかりましたよ。
肩をすくめてから僕は説明をはじめた。
アンカットシート5枚に対してコモン100種類を6回ずつ割り振って、最後の1種類は5回だけ割り振る、ってところまでは間違いないというか、さっきサキモトが言ったようにマローが非公式に認めてるところ。まあ事実と考えていいとおもう。それで、具体的な割り振りは推測するしかないんだけど、海の向こうの閑人たちががっつり調べてて、いくつかのセットについてはわかってるみたいなんだよね。
僕は言いながらかばんから取り出した裏紙に書き始めた。典型的なのはこういう感じらしい。
これで 33+27+22+18+1 で 101 種類。で、このシートを 3:2 の割合で刷れば、100 種類のカードは6回ずつ出現して、最後の (Z) だけが5回出現することになる。これはまさにさっきあなたが言った通り、6枚ずつアサインしていって最後に一枚だけ捨てる、っていう操作だよね。
新入りは僕の汚い書き付けを少しのあいだ見ていたが、目を輝かせて肯いた。
はい、そうなります! そっか、必ずしもそれぞれのアンカットシートを同じ枚数刷らなくてもいいんですね。
そういうこと。
でもこうすると、この (Z) だけ微妙に希少価値が出るんじゃないですか。「レアコモン」みたいにならないですか。
ネットのうわさが正しければ、むしろすでにそうなってるんだよね。
彼女が応じた。で、マローが言うには、でも別にそれで特に問題ない、なんといっても所詮はコモンとアンコモンの間の希少度に過ぎないんだから、ってことみたい。実際、たとえば M13 ではこのレアコモンは《進化する未開地》らしいんだけど、特に高かったりはしないよね。まあもうめちゃめちゃ再版されまくってるし、構築では普通出番がないカードだし、高くなるはずもないんだけど。
そういうカードを選んでアサインするんですかね。
これもマローいわく、「アーティファクトか土地で、サイクルになってないカードを選ぶことが多い」だってさ。
「……なるほど」
--
次回に続きます。
--
「ネットのうわさによると」の元ネタは『電脳コイル』。
新入り——いいかげん初めて会ってからけっこう長いのだが、あれ以来僕たちのコミュニティには新しい人は来ていないので——が言った。
求めてどうするの、と彼女が面白そうに訊く。ヒント、101 は素数です。
つまり 101 種類アンカットシートが必要ですね。そうなると、カード一種類ずつばらばらに刷って手で混ぜるのと同じことになっちゃうか。
それよりはよく混ざると思うけどね。
隅っこの何枚かは捨てる、っていう運用はありなんですよね? 新入りは訊いた。
もちろん。それはフィラーって言って、実際にされてる運用だから。
んー。
新入りは鉤のように曲げた人指し指を形のいい唇に当てて少しの間考え込むと、
あ、アンカットシートを5枚作ればいいんじゃないですか。それで 605 枚になるから、6枚ずつアサインしていくと 606 になって、一枚だけ捨てればよくなります。
なにを捨てるの? 彼女がにこやかに訊いた。
え? ……あ、これだと紙じゃなくてインクの方を捨ててますね。
新入りは眉根に軽くしわを寄せた。あたし自分で思ってる以上に頭悪いな。
彼女が僕の方に視線を向けた。僕はうなずく。
「今のでほぼ正解なんだよ」 彼女は新入りのほうに向き直って言った。
えっ? そうなんですか?
「『ネットのうわさによると』」 僕は言いかけたが、彼女がすぐに口を挟んだ。いや、マローが自分のtumblrで認めてたでしょうが。
マーク・ローズウォーター、でしたっけ?
そう。あの「本当にすごいんだ!」のひと。
ひどい説明だな……。
僕はつぶやいたが、新入りはにっこりと笑った。でも、よくわかりましたよ。
肩をすくめてから僕は説明をはじめた。
アンカットシート5枚に対してコモン100種類を6回ずつ割り振って、最後の1種類は5回だけ割り振る、ってところまでは間違いないというか、さっきサキモトが言ったようにマローが非公式に認めてるところ。まあ事実と考えていいとおもう。それで、具体的な割り振りは推測するしかないんだけど、海の向こうの閑人たちががっつり調べてて、いくつかのセットについてはわかってるみたいなんだよね。
僕は言いながらかばんから取り出した裏紙に書き始めた。典型的なのはこういう感じらしい。
アンカットシート1:
Aグループ 33種類を2回ずつ割り振り
C1グループ 27種類を2回ずつ割り振り+1種類(Z)を1回だけ割り振り
アンカットシート2:
Bグループ 22種類を3回ずつ割り振り
C2グループ 18種類を3回ずつ割り振り+1種類(Z)を1回だけ割り振り
これで 33+27+22+18+1 で 101 種類。で、このシートを 3:2 の割合で刷れば、100 種類のカードは6回ずつ出現して、最後の (Z) だけが5回出現することになる。これはまさにさっきあなたが言った通り、6枚ずつアサインしていって最後に一枚だけ捨てる、っていう操作だよね。
新入りは僕の汚い書き付けを少しのあいだ見ていたが、目を輝かせて肯いた。
はい、そうなります! そっか、必ずしもそれぞれのアンカットシートを同じ枚数刷らなくてもいいんですね。
そういうこと。
でもこうすると、この (Z) だけ微妙に希少価値が出るんじゃないですか。「レアコモン」みたいにならないですか。
ネットのうわさが正しければ、むしろすでにそうなってるんだよね。
彼女が応じた。で、マローが言うには、でも別にそれで特に問題ない、なんといっても所詮はコモンとアンコモンの間の希少度に過ぎないんだから、ってことみたい。実際、たとえば M13 ではこのレアコモンは《進化する未開地》らしいんだけど、特に高かったりはしないよね。まあもうめちゃめちゃ再版されまくってるし、構築では普通出番がないカードだし、高くなるはずもないんだけど。
そういうカードを選んでアサインするんですかね。
これもマローいわく、「アーティファクトか土地で、サイクルになってないカードを選ぶことが多い」だってさ。
「……なるほど」
--
次回に続きます。
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「ネットのうわさによると」の元ネタは『電脳コイル』。
※補足。これは昨年の5月に書いていたが、時期を外してお蔵入りになっていた。話題になっているセットは「イニストラードを覆う影」。
--
「くっそ忙しかったわ」
彼は店に顔を出さなかった二ヶ月強を総括して言った。
まあ土日は休んでたし職場に泊まったりとかもなかったから非人道的ってほどではねえけど、それでもきつかった。
それでこないだのシールドもあんな成績だったんですか?
新入りが訊くと、彼は顔をしかめて応じた。いや、あれはおれが下手だっただけ。あと、アヴァシン引いたから別に負けてない。
なに言ってんだろうねこの人は。
わたしは半ば本気で呆れながら応じた。0-3-1 だったんだからどこに出しても恥ずかしくない完敗でしょうが。
優勝者に負けなかったのはおれだけだ。
彼はなおも言い募った。アヴァシンを売り払ったらパック代を引いてもお釣りがきた。試合には負けたけど勝負には勝った。
金銭的な出入りで勝敗を決めるのは品がないと思うよ。
わたしが言うと、彼は小さくうめいた。ぐっ、それは確かに君の言う通りだな。
「売っちゃったんですか?」
新入りが訊いた。
うん。レガシーじゃ出番もないし、シールドでは3ゲーム気持ちいい勝ち方をさせてくれたし。もうおれのところでやってもらえることはないから、あとは新しい主人の下で活躍して欲しいと思って。
「なんか、……」
新入りは少し言葉を探して逡巡してから続けた。「いや、持ち主の自由ですから、とやかく言うのおかしいですけど、でもちょっと寂しい気がします」
いいんだよ、もともと“トレーディング”カードゲームなんだから、流動性は高いほどいい。
そういうもんですかね。
うん。
彼は応じてから、「それで、なんだったっけ。……答え合わせか」
そうです。
えーっと。
彼はポケットから携帯電話を取り出し、メモしてあったらしい数字を参照しながら手元の紙に書きつけ始めた。
今回は両面カードがあって、それはとりあえず括弧の中に内数で書いてある。ほんとはたぶん外数で書くべきだったんだけど間違えた。
これを基本土地抜かして合計すると、こうなる。
で、通常カードと両面カードに分けると、こういう風になる。
「すみません」
新入りが割って入った。「なにをしてるんですか、これは?」
レアリティごとにカードを数えてる。
彼は応じてから、新入りの表情を見て続けた。マジックのカードってのは一枚一枚刷ってるわけじゃなくて、 11 枚 × 11 枚のでっかいシートに刷って、それからカードの大きさにぶったぎるんだ。それで、例えばレアと神話レアはおんなじシートに刷るわけ。レアは二枚ずつ、神話レアは一枚ずつでかいシートの中に刷る。イニストラードを覆う影だと、通常カードのレアは 53 種類。それを2枚ずつだと 106 枚で、あと神話レアが 15 種類一枚ずつで 15 枚。それを足すと、
「121 枚」 新入りが応じた。「11x11 ですね」
ちなみにこういう奴ね。でっかいシート。
わたしはスマホでアンカットシートの画像を検索して新入りに見せた。
【参考】https://www.google.co.jp/search?q=mtg+uncut+sheet&source=lnms&tbm=isch
……8、9、10、たしかに 11x11 ですね。へー、こうやって作るんだ。知りませんでした。
これで、特定のレアの出現率が特定の神話レアの出現率の二倍だっていうのが担保されるし、約8パックに一枚神話レアが入ってるっていうのは 15/121 なわけだ。
そういうことなんですね。なんか、適当な割合で混ぜてるんだと思ってましたけど、最初っから混ざった割合で作るんですね。
「その通り。で、じゃあ、この両面カードではどうなってるんだろう、みたいなことを考えてる、ってのがさっきの質問の答え」
はあ。
まったくぴんと来ない様子で新入りは応じた。
両面カードの封入については実は公式にアナウンスがあって、普通のパックでは1パックに一枚必ずコモンかアンコモンの両面カードが入ってることになってる。それで、それに加えて8パックに1パックは、レアか神話レアが入ってることになってる。
あれ、また八分の一なんですね。
その通り。そしてレアが6種類、神話レアが3種類だから、 6x2+3 で 15 枚分になる。これを 11x11 の中に割り当てると……
「八分の一ですね」
新入りの声のトーンが少しだけ上がった。「残り 106 枚にコモンとアンコモンを刷ればいいってことですか?」
……だったらよかったんだけど、そうじゃないんだよな。
彼はにやりと笑った。さっき「それに加えて」って言った通り、レアや神話レアの両面カードが入ってるパックにも、普通にコモンかアンコモンの両面カードが入ってるんだ。
そうなんですか。
新入りは画面の文章に目を通すとすぐに言った。「両面のレアか神話レアはコモンを置き換える、って書いてますね。これは普通のコモンのことですか」
そう。
てことは、121 枚のうち、15 枚は両面のレアか神話レアで、残りは普通のコモン、みたいなシートを作って刷ればいいんじゃないですか。そこから一枚とってパックに入れれば、八分の一は両面のレアか神話レアになって、八分の七は通常のコモンになります。
いいねえ。
わたしは割と本気で感心した。先ほどアンカットシートを知ってすぐにここまで辿り着けるのは大したものだ。
でも残念ながら、多分それも違うんだな。
彼が言った。
技術的に両面カードと片面カードを同じシートに刷ることができないらしいんだよ。だから根本的にできない。
そっか……。
結局、さっきの八分の一って数字があるにもかかわらず、両面カードのレア/神話レアとコモン/アンコモンはたぶん別のシートに刷られてるんだと思う。それで、文字通り8パックにひとつはコモンを1枚少なくして代わりに両面のレアか神話レアを入れる、っていう風にしてるんだろうね。
面白みのない結論だね。
わたしが言うと、彼は少し大げさに肩をすくめてみせた。
まあ、世の中、そういうもんで。
--
冒頭にも書いた通りこれは昨年の5月で、イニストラードを覆う影のアンカットシート考察。書いた当時は「でも残念ながら、多分それも違うんだな。」以降の展開が違って、だってそれだとそこに入るコモンが他のコモンとかぶっちゃうかもしれないから、という理由だったのだけど、このたび「技術的に両面カードと片面カードを同じシートに刷ることができない」(参照→http://markrosewater.tumblr.com/post/119789864268/i-dont-think-you-understand-what-people-are-asking)ということが判明したのでめでたくアイデア自体が死んだ。
というわけで前回のエントリにいただいた質問についてはこれがそのまま回答になる――両面カードは、常に両面カード専用のアンカットシートに刷られる。
両面カードの各レアリティについてはエクスパンションごとに微妙に違って、特にコモンとアンコモンは一般的な封入率とは違うんだけど、一方でレアと神話レアについてはパックから特定のカードが出る確率は通常カードとおおむね同じに揃えているようだ(大型セットなら神話レアが約 1/120、レアが 1/60、小型なら 1/80 と 1/40)。
--
追記(2017-10-12):
「後輩」→「新入り」に修正。ちゃんと対戦表作ってないとこういう間違いが起きる。
対戦表ってのはこういうやつ。
|トシミツ|サキモト|カナイ|オオジマ|タニカワ
トシミツ|僕 |彼女 |奴 |後輩 |新入り
サキモト|彼 |わたし |友人 |後輩 |新入り
これは文章用で、会話用ももちろんある、というかそっちの方が大事。
--
「くっそ忙しかったわ」
彼は店に顔を出さなかった二ヶ月強を総括して言った。
まあ土日は休んでたし職場に泊まったりとかもなかったから非人道的ってほどではねえけど、それでもきつかった。
それでこないだのシールドもあんな成績だったんですか?
新入りが訊くと、彼は顔をしかめて応じた。いや、あれはおれが下手だっただけ。あと、アヴァシン引いたから別に負けてない。
なに言ってんだろうねこの人は。
わたしは半ば本気で呆れながら応じた。0-3-1 だったんだからどこに出しても恥ずかしくない完敗でしょうが。
優勝者に負けなかったのはおれだけだ。
彼はなおも言い募った。アヴァシンを売り払ったらパック代を引いてもお釣りがきた。試合には負けたけど勝負には勝った。
金銭的な出入りで勝敗を決めるのは品がないと思うよ。
わたしが言うと、彼は小さくうめいた。ぐっ、それは確かに君の言う通りだな。
「売っちゃったんですか?」
新入りが訊いた。
うん。レガシーじゃ出番もないし、シールドでは3ゲーム気持ちいい勝ち方をさせてくれたし。もうおれのところでやってもらえることはないから、あとは新しい主人の下で活躍して欲しいと思って。
「なんか、……」
新入りは少し言葉を探して逡巡してから続けた。「いや、持ち主の自由ですから、とやかく言うのおかしいですけど、でもちょっと寂しい気がします」
いいんだよ、もともと“トレーディング”カードゲームなんだから、流動性は高いほどいい。
そういうもんですかね。
うん。
彼は応じてから、「それで、なんだったっけ。……答え合わせか」
そうです。
えーっと。
彼はポケットから携帯電話を取り出し、メモしてあったらしい数字を参照しながら手元の紙に書きつけ始めた。
今回は両面カードがあって、それはとりあえず括弧の中に内数で書いてある。ほんとはたぶん外数で書くべきだったんだけど間違えた。
白 20/17(3)/9(1)/2(1)
青 20/17(3)/8(1)/3(1)
黒 20/17(3)/8(1)/3
赤 20(2)/17(4)/9(1)/2
緑 20(2)/17(4)/9(1)/2
多 0/0/5/6(1)
ア 4/10(3)/4/0
土 1/5/7(1)/0
基 15
これを基本土地抜かして合計すると、こうなる。
105(4)/100(20)/59(6)/18(3)
で、通常カードと両面カードに分けると、こういう風になる。
通 101/80/53/15
両 4/20/6/3
「すみません」
新入りが割って入った。「なにをしてるんですか、これは?」
レアリティごとにカードを数えてる。
彼は応じてから、新入りの表情を見て続けた。マジックのカードってのは一枚一枚刷ってるわけじゃなくて、 11 枚 × 11 枚のでっかいシートに刷って、それからカードの大きさにぶったぎるんだ。それで、例えばレアと神話レアはおんなじシートに刷るわけ。レアは二枚ずつ、神話レアは一枚ずつでかいシートの中に刷る。イニストラードを覆う影だと、通常カードのレアは 53 種類。それを2枚ずつだと 106 枚で、あと神話レアが 15 種類一枚ずつで 15 枚。それを足すと、
「121 枚」 新入りが応じた。「11x11 ですね」
ちなみにこういう奴ね。でっかいシート。
わたしはスマホでアンカットシートの画像を検索して新入りに見せた。
【参考】https://www.google.co.jp/search?q=mtg+uncut+sheet&source=lnms&tbm=isch
……8、9、10、たしかに 11x11 ですね。へー、こうやって作るんだ。知りませんでした。
これで、特定のレアの出現率が特定の神話レアの出現率の二倍だっていうのが担保されるし、約8パックに一枚神話レアが入ってるっていうのは 15/121 なわけだ。
そういうことなんですね。なんか、適当な割合で混ぜてるんだと思ってましたけど、最初っから混ざった割合で作るんですね。
「その通り。で、じゃあ、この両面カードではどうなってるんだろう、みたいなことを考えてる、ってのがさっきの質問の答え」
はあ。
まったくぴんと来ない様子で新入りは応じた。
両面カードの封入については実は公式にアナウンスがあって、普通のパックでは1パックに一枚必ずコモンかアンコモンの両面カードが入ってることになってる。それで、それに加えて8パックに1パックは、レアか神話レアが入ってることになってる。
あれ、また八分の一なんですね。
その通り。そしてレアが6種類、神話レアが3種類だから、 6x2+3 で 15 枚分になる。これを 11x11 の中に割り当てると……
「八分の一ですね」
新入りの声のトーンが少しだけ上がった。「残り 106 枚にコモンとアンコモンを刷ればいいってことですか?」
……だったらよかったんだけど、そうじゃないんだよな。
彼はにやりと笑った。さっき「それに加えて」って言った通り、レアや神話レアの両面カードが入ってるパックにも、普通にコモンかアンコモンの両面カードが入ってるんだ。
そうなんですか。
Approximately one in every eight packs will also contain a rare or mythic double-faced card in addition to a normal rare or mythic rare (the rare or mythic rare double-faced card will replace a common). These packs will have two double-faced cards, the common/uncommon and the rare/mythic rare.
http://magic.wizards.com/en/articles/archive/daily-magic-update/update-2016-03-24
新入りは画面の文章に目を通すとすぐに言った。「両面のレアか神話レアはコモンを置き換える、って書いてますね。これは普通のコモンのことですか」
そう。
てことは、121 枚のうち、15 枚は両面のレアか神話レアで、残りは普通のコモン、みたいなシートを作って刷ればいいんじゃないですか。そこから一枚とってパックに入れれば、八分の一は両面のレアか神話レアになって、八分の七は通常のコモンになります。
いいねえ。
わたしは割と本気で感心した。先ほどアンカットシートを知ってすぐにここまで辿り着けるのは大したものだ。
でも残念ながら、多分それも違うんだな。
彼が言った。
技術的に両面カードと片面カードを同じシートに刷ることができないらしいんだよ。だから根本的にできない。
そっか……。
結局、さっきの八分の一って数字があるにもかかわらず、両面カードのレア/神話レアとコモン/アンコモンはたぶん別のシートに刷られてるんだと思う。それで、文字通り8パックにひとつはコモンを1枚少なくして代わりに両面のレアか神話レアを入れる、っていう風にしてるんだろうね。
面白みのない結論だね。
わたしが言うと、彼は少し大げさに肩をすくめてみせた。
まあ、世の中、そういうもんで。
--
冒頭にも書いた通りこれは昨年の5月で、イニストラードを覆う影のアンカットシート考察。書いた当時は「でも残念ながら、多分それも違うんだな。」以降の展開が違って、だってそれだとそこに入るコモンが他のコモンとかぶっちゃうかもしれないから、という理由だったのだけど、このたび「技術的に両面カードと片面カードを同じシートに刷ることができない」(参照→http://markrosewater.tumblr.com/post/119789864268/i-dont-think-you-understand-what-people-are-asking)ということが判明したのでめでたくアイデア自体が死んだ。
というわけで前回のエントリにいただいた質問についてはこれがそのまま回答になる――両面カードは、常に両面カード専用のアンカットシートに刷られる。
両面カードの各レアリティについてはエクスパンションごとに微妙に違って、特にコモンとアンコモンは一般的な封入率とは違うんだけど、一方でレアと神話レアについてはパックから特定のカードが出る確率は通常カードとおおむね同じに揃えているようだ(大型セットなら神話レアが約 1/120、レアが 1/60、小型なら 1/80 と 1/40)。
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追記(2017-10-12):
「後輩」→「新入り」に修正。ちゃんと対戦表作ってないとこういう間違いが起きる。
対戦表ってのはこういうやつ。
|トシミツ|サキモト|カナイ|オオジマ|タニカワ
トシミツ|僕 |彼女 |奴 |後輩 |新入り
サキモト|彼 |わたし |友人 |後輩 |新入り
これは文章用で、会話用ももちろんある、というかそっちの方が大事。
だいたい 216 種類ぐらいのカードセット
2017年9月16日 ポエム コメント (2)「216種類ぐらい、だってさ」
わたしが言うと、彼は即座に応じた。「ちょっと多いけど、いちおう小型セットの枚数だね」
マローことマーク・ローズウォーターが大はしゃぎで発表した『アンステイブル』。名前を見ればわかるとおり『アングルード』『アンヒンジド』に続く第三の「アン-セット」である。一応諸元は公表されたのだがまだ情報はなにもないに等しく、しかしカード数は「216 ぐらい」と書かれていた。原語では「216-ish」で、訳としては妥当だろう。
ここ最近はそんなもんなんだっけ。
うん。184 が定番。ゲートウォッチの誓いと霊気紛争がずばりその枚数で、異界月は両面カードが 21 種類あって 205 種類だから、普通のカードは 184。だからまあ、これに従う……でいいのかなあ。
ちょっと差が大きいね。
両面カードやると思うんだよねえ。どんなもの作ってくるかはわからないけど、あんなおもちゃマローに渡したら絶対悪用するに決まってるんだから。表から裏にイラストが続いてるとか。裏面が Netrunner とおんなじとか。
184 の内訳ってどうなってるんだっけ。
コモンが 70、アンコモンが 60、レアが 42、神話レアが 12。
そっか、レアと神話レアが増えたんだ。コモンもたしかリミテッドがつまらんからみたいなこと言って増やしたから(*1)、最近わりとアンカットシートに上手く収まらない感じになってきたね。
そうなんだよ。レアなんて 42*2+12 だからいま 96 とかなんだよね。アンカットシートが 11*11 だとするとすっごい中途半端にあまる。全部捨ててるのかな。
判らない時は調べてみるに限る。わたしはスマートフォンで "eldrich moon" "uncut sheet" で画像検索してみた。アンカットシートの画像なんてそうたくさんあるものでもないから都合よく見つかるとは限らないのだが、今回は運よくずばりのものが見つかった。それも全体写真だ。
https://desertbus.org/images/prizes/0267_001_UncutEMRares.jpg
「え……」
わたしは思わず声を出してしまった。
見せてくれよ。彼に言われて、わたしはあわててスマートフォンの画面を水平にした。
先ほど計算したとおり異界月の通常カードのレアと神話レアは 42*2+12=96 枚になるから、11*11=121 枚のアンカットシートにアサインすると 25 枚余る計算になる。捨てるのだとすればいわゆるフィラーカード、つまりブランクだったり「DISCARD」って書いてあったりする奴でその 25 枚分のスペースは埋めているのだろうと思っていた。ところが画像に写っているシートの下二列+三枚は通常のカード、しかもすべて同じ種類のカードで埋められている。
このイラスト……と言いかけると、彼が即座に教えてくれた。「《ウルヴェンワルドの観察者》だ」
どういうことなんだろう。
フィラー扱いなんじゃないの。これだったら間違ってブースターに入っててもたいした影響ないし。まあこれはフォイルだから、ノーマルのカードだとまた違うのかもしれないけど。
構築済デッキに入ってるとかではない?
入ってたような気はするけど、それだとしてもイラスト違いのはず。
そこで彼は苦笑いを浮かべて、いや、おれこないだシールドの時引いたんだよね、《ウルヴェンワルドの観察者》のフォイル。まさか偶然だろうけど、こういうの見ちゃうとちょっとどきっとするよ。
やー、まあ、それはないでしょう。
……つーか、何の話だったっけ。
アンステイブルのカード数の話です。
うーん、と彼は腕を組んで、結局、こういう風にアンカットシートの余りを気前よく捨てられちゃうと、もうわからんよな。いろんな妄想の前提ってアンカットシートが 11*11 になってることだからね。それにうまく上手くはまるように、って考えなくていいとなると、数種類ぐらい簡単に変わってくる。数種類変わると妄想には致命的だもんな。
それでも強引にやろうよ。
わたしは言った。両面カードはあるって決めつけたわけだから、そこまでは異界月と同じで 205 種類ってことにしよう。そうするとあと 11 種類ぐらい。もちろん基本土地はあるでしょ。毎回人気だから今回は2種類ずつ作りました。これで 10 種類だから、ほらもうあと1枚だけだ。
「……《Super Secret Tech》?」
「うーん」
オチとしてはおもしろくないし、わざわざ「-ish」なんて表現を用いたことの回収になっているとも言い難い。なんというか、もっと、「これは“種類”にカウントするのか?」というものであってほしいと個人的には思う。
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(*1) コモンもたしかリミテッドがつまらんからみたいなこと言って増やした
http://drk2718.diarynote.jp/201512110053267730/
を参照。この時点では推測だが、実際この通り 70 種類になった。また、この時判明していなかった9種類が単純に「神話レア2種類+レア7種類」であることが後に判明している。それまでは小型セットでは神話レア 10+レア 35 という構成が一般的だった。これだと 80 枚なので、3セットでほぼアンカットシート1枚分になる。
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おひさしぶりです。別にアンステイブルそこまで興味ないんですが、カードの種類数でねたを仕込まれては喰いつかないわけにも行きません。しかしアングルードで 83、アンヒンジドでも 140(+1) だったのにまたずいぶん増えたなという印象はあります。それだけ溜め込んだねたがあったということでしょうか。
わたしが言うと、彼は即座に応じた。「ちょっと多いけど、いちおう小型セットの枚数だね」
マローことマーク・ローズウォーターが大はしゃぎで発表した『アンステイブル』。名前を見ればわかるとおり『アングルード』『アンヒンジド』に続く第三の「アン-セット」である。一応諸元は公表されたのだがまだ情報はなにもないに等しく、しかしカード数は「216 ぐらい」と書かれていた。原語では「216-ish」で、訳としては妥当だろう。
ここ最近はそんなもんなんだっけ。
うん。184 が定番。ゲートウォッチの誓いと霊気紛争がずばりその枚数で、異界月は両面カードが 21 種類あって 205 種類だから、普通のカードは 184。だからまあ、これに従う……でいいのかなあ。
ちょっと差が大きいね。
両面カードやると思うんだよねえ。どんなもの作ってくるかはわからないけど、あんなおもちゃマローに渡したら絶対悪用するに決まってるんだから。表から裏にイラストが続いてるとか。裏面が Netrunner とおんなじとか。
184 の内訳ってどうなってるんだっけ。
コモンが 70、アンコモンが 60、レアが 42、神話レアが 12。
そっか、レアと神話レアが増えたんだ。コモンもたしかリミテッドがつまらんからみたいなこと言って増やしたから(*1)、最近わりとアンカットシートに上手く収まらない感じになってきたね。
そうなんだよ。レアなんて 42*2+12 だからいま 96 とかなんだよね。アンカットシートが 11*11 だとするとすっごい中途半端にあまる。全部捨ててるのかな。
判らない時は調べてみるに限る。わたしはスマートフォンで "eldrich moon" "uncut sheet" で画像検索してみた。アンカットシートの画像なんてそうたくさんあるものでもないから都合よく見つかるとは限らないのだが、今回は運よくずばりのものが見つかった。それも全体写真だ。
https://desertbus.org/images/prizes/0267_001_UncutEMRares.jpg
「え……」
わたしは思わず声を出してしまった。
見せてくれよ。彼に言われて、わたしはあわててスマートフォンの画面を水平にした。
先ほど計算したとおり異界月の通常カードのレアと神話レアは 42*2+12=96 枚になるから、11*11=121 枚のアンカットシートにアサインすると 25 枚余る計算になる。捨てるのだとすればいわゆるフィラーカード、つまりブランクだったり「DISCARD」って書いてあったりする奴でその 25 枚分のスペースは埋めているのだろうと思っていた。ところが画像に写っているシートの下二列+三枚は通常のカード、しかもすべて同じ種類のカードで埋められている。
このイラスト……と言いかけると、彼が即座に教えてくれた。「《ウルヴェンワルドの観察者》だ」
どういうことなんだろう。
フィラー扱いなんじゃないの。これだったら間違ってブースターに入っててもたいした影響ないし。まあこれはフォイルだから、ノーマルのカードだとまた違うのかもしれないけど。
構築済デッキに入ってるとかではない?
入ってたような気はするけど、それだとしてもイラスト違いのはず。
そこで彼は苦笑いを浮かべて、いや、おれこないだシールドの時引いたんだよね、《ウルヴェンワルドの観察者》のフォイル。まさか偶然だろうけど、こういうの見ちゃうとちょっとどきっとするよ。
やー、まあ、それはないでしょう。
……つーか、何の話だったっけ。
アンステイブルのカード数の話です。
うーん、と彼は腕を組んで、結局、こういう風にアンカットシートの余りを気前よく捨てられちゃうと、もうわからんよな。いろんな妄想の前提ってアンカットシートが 11*11 になってることだからね。それにうまく上手くはまるように、って考えなくていいとなると、数種類ぐらい簡単に変わってくる。数種類変わると妄想には致命的だもんな。
それでも強引にやろうよ。
わたしは言った。両面カードはあるって決めつけたわけだから、そこまでは異界月と同じで 205 種類ってことにしよう。そうするとあと 11 種類ぐらい。もちろん基本土地はあるでしょ。毎回人気だから今回は2種類ずつ作りました。これで 10 種類だから、ほらもうあと1枚だけだ。
「……《Super Secret Tech》?」
「うーん」
オチとしてはおもしろくないし、わざわざ「-ish」なんて表現を用いたことの回収になっているとも言い難い。なんというか、もっと、「これは“種類”にカウントするのか?」というものであってほしいと個人的には思う。
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(*1) コモンもたしかリミテッドがつまらんからみたいなこと言って増やした
http://drk2718.diarynote.jp/201512110053267730/
を参照。この時点では推測だが、実際この通り 70 種類になった。また、この時判明していなかった9種類が単純に「神話レア2種類+レア7種類」であることが後に判明している。それまでは小型セットでは神話レア 10+レア 35 という構成が一般的だった。これだと 80 枚なので、3セットでほぼアンカットシート1枚分になる。
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おひさしぶりです。別にアンステイブルそこまで興味ないんですが、カードの種類数でねたを仕込まれては喰いつかないわけにも行きません。しかしアングルードで 83、アンヒンジドでも 140(+1) だったのにまたずいぶん増えたなという印象はあります。それだけ溜め込んだねたがあったということでしょうか。
何を欲しがるかじゃなく/すべて彼らには同じもの
2016年2月13日 ポエム コメント (2)「《願望売り》」
彼女はちょっと照れたような笑みを浮かべながら答えた。
して、そのこころは。
うーん、この訳文の感じが好きなんだよね。このイラストといい、マナさえ出せば誰にでも力を貸しちゃう能力といい、はっきり言って胡散臭いじゃないこいつ。その感じが上手く出てる口調になってると思うんだ。「あんた」っていう絶妙の二人称といい、そのくせ最後は丁寧語で「どう欲しがるかなんです」とか言っててさ。
この口調は良いよね。ちゃんと腹立たしいもんな。
あ、そうそう、二人称といえば、これ教科書的に言えば you はいわゆる無人称主語だから訳さなくていいんだよね、たぶん。「なにを欲しがるかじゃなくて、どう欲しがるかが大事なんですよ」とかが穏当な訳になるのかな。でもそこを敢えて訳してこういう口調にしてるところも好き。
これはわざとだよね。
だと思うんだけどね。彼女はうなずいた。……あとはまあ、内容としても、この能力ちょっとだけ使い方に工夫が必要で、何色のプロテクションをどのタイミングでつけるのか、あるいはつけないで構えておくのか、そういう選択が多いんだよね。そのあたりを「何を欲しがるかじゃなく、どう欲しがるか」っていう短い言葉にこめてるのもよかったと思う。
そっか。他のモンガーたちは起動するかどうかだけだ。
まあだいたい強い奴に二色ぐらいつけて無理矢理攻撃通しに行ってた気もするんだけど。
あはは、そうだったかも知れない。
あとそうだ、今回調べるついでにテキストも見直したんだけど、この能力対象になったクリーチャーのコントローラーがプロテクションを得る色を選べるようになってて、今更ながらそれはエレガントだと思った。
ああ、そうなってるのか。
僕は普通にちょっと感心した。いや、これ起動した方が好きな色選べるとこいつの能力で全部フィズらせられちゃうし、かといってソーサリータイミングでしか使えないと全然楽しくないし、どうなってたっけなあって思ってたんだ。頭いいねそれは。
さりげなくデザインの妙味もこもっているカードであると思います。……以上です。
ありがとうございました。
「では、きみは?」
*
「《スランのレンズ》かなあ」
彼はあまり自信がなさそうに応じた。
渋いカード出てきましたねえ。そのこころは。
わたしがうながすと、彼は額のあたりに指を当てて続けた。
まあこれ、当時やってた人じゃないとあんまりぴんと来ないかも知れないんだけど。あの頃は、アーティファクトは必ず無色のカードだった。何色のマナでも唱えられたし、起動型能力も色マナを要求することはなかったよね。それでいて様々なことができるカードがあった。コスト的には高くつくけど、カードを引いたり、ダメージを与えたり、リセットしたり、ルールを変えたり、大抵のことはできた。
そうだよね。
もちろん、アーティファクトが全部色と無縁だったわけじゃなくて、古来一番強いアーティファクトは好きな色のマナが3点出る奴だし、そうでなくても色マナを出すアーティファクトはたくさんある。ラッキー・チャームみたいに色にかかわるアーティファクトもある。だけど基本的には無色だった。無色なのにいろいろできた。単にそういうもんなんだ、ってずっと思ってたけど、このフレイバーテキスト見たときにおおおおってなったんだよね。そういうことだったのか、って思った。それでこのカードの効果でしょ。
——すべてのパーマネントは無色になる。
そう、もう全部無色なの。古代のひと色とか関係なかったんだ!ってなって、それでウルザブロックに強いアーティファクトいくつも入ってて、圧倒的なオーパーツ感があったじゃない。その、マジックのカードタイプひとつを、そのカードタイプのメカニズム的な、フレイバー的な位置づけを、このたった一枚のカードのテキストとフレイバーテキストで、説明しちゃってるんだよ。
ある意味ではそうだね、確かに。
わたしは言った。彼らしい詭弁も混じっているけど、当時のアーティファクトのある側面をうまくフレイバーに落としこんだカードであるのは事実だった。
ただ、訳が一ヶ所ちょっと微妙かなって思う。彼は言った。
どこ?
最初の「スランの啓発」ってところ。enlightenment、啓発だとちょっとちがうと思うんだよね。辞書引くと確かに啓発としか出てなかったりするし、「啓発する」の名詞形だから啓発なんだけど、いやそうじゃなくって、って感じ……もう全然他に適切な日本語思いつかないから説得力全然ないんだけど、でも違うんだと思うんだよなー。
彼は大きく手ぶりをつけながら、いかにももどかしそうに説明した。
あーそうだ、《Enlightened Tutor》は《啓発された教示者》じゃないでしょ。あれは悟りじゃん。他動詞の受け身だけど、 誰かにされるわけじゃない。あれだと思うんだよこの enlightenment は。
そこで急に彼は顔を上げて、わたしと目が合うと首をちょっとすくめてみせた。
や、ごめん、むきになってしまった。ええと、訳としてそんなひどいとかは全然なくて、このカードのフレイバーにとっての瑕疵にもまったくなっていません。カードとしてはなんに使うのかよくわからないけど、実際トーナメントクラスでもサイドボードでちらほら見かけたりして意外と役に立ってたっぽかったのがよかった。……以上です。
ありがとうございました。
*
では、あなたは?
--
あけましておめでとうございます。とかいいつつスーパーボウルも終わってしまいましたが。ヴォン・ミラーちょう素晴らしかったですね。ディフェンスの選手が誰もが納得するMVPに選ばれるというのはほんとにすごいと思います。5月のジロまでスポーツ観戦はひと息つけるのでしばらくは溜まったダウントンアビーでも消化しようと思います。
今回のは、遅くなってしまいましたが、九印えらり氏の以下の二本のエントリに対するアンサーエントリです。
http://blog.goo.ne.jp/kuin_erari/e/7f9c152ced620ca4619fee05743fdfc9
《魔力のとげ/Manabarbs》のフレイバーテキストが素晴らしいという話
http://blog.goo.ne.jp/kuin_erari/e/9a1044b4a6c2fe1575fda248f08d3a3a
《命知らずの群勢/Reckless Cohort》のフレイバーテキストが素晴らしいという話
はっきり言って両エントリともレベルが高すぎて、呼応したエントリを書くのに気が引けました。取りあげたテキストもその読み解きも素晴らしく水準が高くて、これはとてもかなわないな、と。
ただ、逆にまあ絶対かなわないなら背伸びする必要もないのだし、と思い直してこれを書きました。
みなさんも、好きなフレイバーテキストについて、ぜひ書いてみてください。
--
今回で40回目、らしいです。だからというわけではないですが、実は第1回と対になっています。
彼女はちょっと照れたような笑みを浮かべながら答えた。
あんたが何を欲しがるかじゃなく、それをどう欲しがるかなんです。
"It’s not what you ask for, but how you ask for it."
http://whisper.wisdom-guild.net/card/Wishmonger/
して、そのこころは。
うーん、この訳文の感じが好きなんだよね。このイラストといい、マナさえ出せば誰にでも力を貸しちゃう能力といい、はっきり言って胡散臭いじゃないこいつ。その感じが上手く出てる口調になってると思うんだ。「あんた」っていう絶妙の二人称といい、そのくせ最後は丁寧語で「どう欲しがるかなんです」とか言っててさ。
この口調は良いよね。ちゃんと腹立たしいもんな。
あ、そうそう、二人称といえば、これ教科書的に言えば you はいわゆる無人称主語だから訳さなくていいんだよね、たぶん。「なにを欲しがるかじゃなくて、どう欲しがるかが大事なんですよ」とかが穏当な訳になるのかな。でもそこを敢えて訳してこういう口調にしてるところも好き。
これはわざとだよね。
だと思うんだけどね。彼女はうなずいた。……あとはまあ、内容としても、この能力ちょっとだけ使い方に工夫が必要で、何色のプロテクションをどのタイミングでつけるのか、あるいはつけないで構えておくのか、そういう選択が多いんだよね。そのあたりを「何を欲しがるかじゃなく、どう欲しがるか」っていう短い言葉にこめてるのもよかったと思う。
そっか。他のモンガーたちは起動するかどうかだけだ。
まあだいたい強い奴に二色ぐらいつけて無理矢理攻撃通しに行ってた気もするんだけど。
あはは、そうだったかも知れない。
あとそうだ、今回調べるついでにテキストも見直したんだけど、この能力対象になったクリーチャーのコントローラーがプロテクションを得る色を選べるようになってて、今更ながらそれはエレガントだと思った。
ああ、そうなってるのか。
僕は普通にちょっと感心した。いや、これ起動した方が好きな色選べるとこいつの能力で全部フィズらせられちゃうし、かといってソーサリータイミングでしか使えないと全然楽しくないし、どうなってたっけなあって思ってたんだ。頭いいねそれは。
さりげなくデザインの妙味もこもっているカードであると思います。……以上です。
ありがとうございました。
「では、きみは?」
*
「《スランのレンズ》かなあ」
彼はあまり自信がなさそうに応じた。
掘削施設の中の器械類はすべてスランの啓発の証拠だ。マナはすべて彼らには同じものだった。岩からのものでも、水からのものでも、成長するものも崩壊するものも、そんな調和のとれた洞察力が想像できるか。
——— ウルザの日記
"Every device in the rig is evidence of Thran enlightenment. All mana was the same to them, whether from rock or water, growth or decay. Can you imagine such unity of vision?"
Urza, journal
http://whisper.wisdom-guild.net/card/Thran%20Lens/
渋いカード出てきましたねえ。そのこころは。
わたしがうながすと、彼は額のあたりに指を当てて続けた。
まあこれ、当時やってた人じゃないとあんまりぴんと来ないかも知れないんだけど。あの頃は、アーティファクトは必ず無色のカードだった。何色のマナでも唱えられたし、起動型能力も色マナを要求することはなかったよね。それでいて様々なことができるカードがあった。コスト的には高くつくけど、カードを引いたり、ダメージを与えたり、リセットしたり、ルールを変えたり、大抵のことはできた。
そうだよね。
もちろん、アーティファクトが全部色と無縁だったわけじゃなくて、古来一番強いアーティファクトは好きな色のマナが3点出る奴だし、そうでなくても色マナを出すアーティファクトはたくさんある。ラッキー・チャームみたいに色にかかわるアーティファクトもある。だけど基本的には無色だった。無色なのにいろいろできた。単にそういうもんなんだ、ってずっと思ってたけど、このフレイバーテキスト見たときにおおおおってなったんだよね。そういうことだったのか、って思った。それでこのカードの効果でしょ。
——すべてのパーマネントは無色になる。
そう、もう全部無色なの。古代のひと色とか関係なかったんだ!ってなって、それでウルザブロックに強いアーティファクトいくつも入ってて、圧倒的なオーパーツ感があったじゃない。その、マジックのカードタイプひとつを、そのカードタイプのメカニズム的な、フレイバー的な位置づけを、このたった一枚のカードのテキストとフレイバーテキストで、説明しちゃってるんだよ。
ある意味ではそうだね、確かに。
わたしは言った。彼らしい詭弁も混じっているけど、当時のアーティファクトのある側面をうまくフレイバーに落としこんだカードであるのは事実だった。
ただ、訳が一ヶ所ちょっと微妙かなって思う。彼は言った。
どこ?
最初の「スランの啓発」ってところ。enlightenment、啓発だとちょっとちがうと思うんだよね。辞書引くと確かに啓発としか出てなかったりするし、「啓発する」の名詞形だから啓発なんだけど、いやそうじゃなくって、って感じ……もう全然他に適切な日本語思いつかないから説得力全然ないんだけど、でも違うんだと思うんだよなー。
彼は大きく手ぶりをつけながら、いかにももどかしそうに説明した。
あーそうだ、《Enlightened Tutor》は《啓発された教示者》じゃないでしょ。あれは悟りじゃん。他動詞の受け身だけど、 誰かにされるわけじゃない。あれだと思うんだよこの enlightenment は。
そこで急に彼は顔を上げて、わたしと目が合うと首をちょっとすくめてみせた。
や、ごめん、むきになってしまった。ええと、訳としてそんなひどいとかは全然なくて、このカードのフレイバーにとっての瑕疵にもまったくなっていません。カードとしてはなんに使うのかよくわからないけど、実際トーナメントクラスでもサイドボードでちらほら見かけたりして意外と役に立ってたっぽかったのがよかった。……以上です。
ありがとうございました。
*
では、あなたは?
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あけましておめでとうございます。とかいいつつスーパーボウルも終わってしまいましたが。ヴォン・ミラーちょう素晴らしかったですね。ディフェンスの選手が誰もが納得するMVPに選ばれるというのはほんとにすごいと思います。5月のジロまでスポーツ観戦はひと息つけるのでしばらくは溜まったダウントンアビーでも消化しようと思います。
今回のは、遅くなってしまいましたが、九印えらり氏の以下の二本のエントリに対するアンサーエントリです。
http://blog.goo.ne.jp/kuin_erari/e/7f9c152ced620ca4619fee05743fdfc9
《魔力のとげ/Manabarbs》のフレイバーテキストが素晴らしいという話
http://blog.goo.ne.jp/kuin_erari/e/9a1044b4a6c2fe1575fda248f08d3a3a
《命知らずの群勢/Reckless Cohort》のフレイバーテキストが素晴らしいという話
はっきり言って両エントリともレベルが高すぎて、呼応したエントリを書くのに気が引けました。取りあげたテキストもその読み解きも素晴らしく水準が高くて、これはとてもかなわないな、と。
ただ、逆にまあ絶対かなわないなら背伸びする必要もないのだし、と思い直してこれを書きました。
みなさんも、好きなフレイバーテキストについて、ぜひ書いてみてください。
--
今回で40回目、らしいです。だからというわけではないですが、実は第1回と対になっています。
「じゃあ、そろそろあがるわ」
僕が言うと、向かいの席に座っていた新入りが顔を上げた。
「帰ります?」
うん。……きみらどうする。
隣でぐだぐだの長期戦にもつれ込んでいる彼女と奴とに声をかけると、ちょっと間があってから彼女が応じた。や、これけりがつくまでやっていくよ。
投了した方がいいんじゃねえの。
奴が言うのに彼女は笑って応じる。こっちのせりふだね。
よくわからないがふたりとも戦意に満ちているので、僕は見捨てて帰ることにした。鞄を持って立ち上がると、新入りも荷物をまとめてバッグを手にしたところだった。
あたしも今日は帰ります。いいですか? 一緒に駅まで行っても。
いいよ。物騒なこともないと思うけど。
またね。またあした。
わざわざ上体をねじって片手を挙げて別れを告げてくれた彼女を背に、僕たちは店をあとにした。
いつもの癖で雑居ビルの階段を下りそうになるが、思い直してエレベータのボタンを押す。古いエレベータがゆっくり上がってきた。新入りはところ狭しと壁に貼られているポスターを興味深そうに眺めている。
何線なんだっけ、と僕が聞くと、新入りは路線名とその先で乗り換える私鉄の名前を教えてくれた。
……まで一緒ですよね。
新入りは乗換駅の名前を口にした。してみると、僕はどこかのタイミングで住んでる場所を教えたことがあることになる。確かに、ここからだと乗る路線と乗り換える駅は同じになるようだった。
ビルの外に出ると、そこそこの時刻になっていたがそれなりに人通りは多かった。土地柄どちらかといえば若い人が多く、性別で言えば男性の方がかなり多い。駅に向かって歩き出すと、あきらかにいつもと感じが違った。なんだろう、これは——
「ひとつ聞いていいですか?」
新入りがおもむろに言った。
いいよ、とだけ僕は応じた。
サキモトさんとつきあってたことありますか?
いささか思いがけない問いに、僕は間抜けな答えを返してしまった。「なんで?」
いえ、仲がいいので、そういうこともあったのかなと思って。
新入りはあっけらかんと言う。
僕は思わず頬を掻いた。素直に答えるのも癪なような気もするが、かといって隠すほどのことでもないと思う。
いや、ないよ。いちどもない。
そうなんですか。
新入りの声は普通に驚いた様子だった。じゃあ、いまつきあってるひといるんですか。
僕は先ほどとは違う質問なのに同じ応えを返してしまった。なんで?
どうなのかなー、と思って。
いそうに見える? 流石に今度はまっすぐは答えなかった。
見えます。新入りは勢いこんで即答した。歳が近くて、長くつきあってて、あんまりけんかとかしなくて……みたいな感じのひとがいそうです。
サキモトじゃないかそれ。
思わずつっこむと、新入りは笑って首をすくめた。すいません。個人の感想です。なんか思い込みが解けなくてですね。
僕は逆に気になって訊いた。そんなに仲よさそうに見える。
よさそうっていうかいいですよ。大学出てもう10年以上たつんですよね。ちょっとうらやましいです。
そうかな、と口に出しながら、へえ、そんな風に見えるのか、と思う。確かにありがたいとはかねがね思っている。うらやまれるようなものなのかどうかはわからないが。
少し大きな道との交差点で、横断歩道の縞々に踏み込む数歩前に歩行者信号が点滅し始めた。僕が立ち止まると、小走りしかけていた新入りが慌てて足を止めた。
信号待ちで停まっていた10台ほどの自動車が次々に走りだす。目の前の道路はしかし、それほど交通量が多いとは言えない。
僕は思い立って聞いてみた。
彼はカードゲームとかやるの?
いえ、全然。ウノぐらいしかやらないんじゃないかなあ。あたしがマジックやってることも知らないですよ。
むう、そうなのか。……六人目にひきずりこもうと思ったのになあ。
他をあたってもらった方がいいと思います。
こないだ忙しいとか言ってたけど、まだ忙しいって?
あ、それがやっと落ち着いたみたいで、今週は会えそうなんです。
新入りは嬉しそうな笑みを浮かべた。
へえ、それはよかったね! 会えないのってよくないもんなあ。
歩行者信号が青になって、僕は歩きだした。新入りは少し遅れて動き始め、数歩急ぎ足になって僕の横に並んだ。
それで、いるんですか?
あらためて訊いてきたその表情が予想したより真顔に近かったので、僕も真顔で答えた。
「言うなれば、」
意味ありげにためを作って、「来年から本気を出す、というところだ。」
新入りは一瞬言葉に詰まったが、すぐにぱっと笑った。状況はわかりました。……本気が実るといいですね。
むしろほんとうに僕が本気になれることを祈って欲しいものだ、と思ったが、口に出しては、そろそろパーソナルファウルですよそれは、などと適当なことを返しておいた。
ほどなく僕たちはもう一本の道路を越えて、歩道の延長がそのまま広場のようになっているところに出た。広場はさらに駅の入り口にまでつながっていて、つまり駅はもうすぐ目の前なのだった。
僕は足を止めた。
じゃあ、ここらへんで。ここまで来れば大丈夫だよね。
え、帰らないんですか。
うん、まだしなきゃならないことがある。
新入りは僕を見て口を開いたが、言葉は発さず、一秒ほど逡巡してからうなずいた。
——じゃあ、今日のところはこれで。
うん。おつかれさま。気をつけて。
こんど、この辺でご飯食べられるところ教えてください。
新入りは言った。
飯食うとこはいくらでもあるけど、ちゃんとしたところはひとつも知らないなあ。
いいですよ、ちゃんとしたところじゃなくても。
そういうわけにもいかないよ。でもまあ、考えとく。
ありがとうございます。
新入りは歯を見せて笑って、ぴょこんと頭をさげた。じゃあ、失礼します。おやすみなさい。
おつかれさま。
僕はそれだけ言って頭を軽く下げると、踵を返して歩き出した。その瞬間、先ほど雑居ビルから路面に降りたときからずっと感じていたいつもと違う感じが消えていることに気がついた。ようやく僕はそれがなんだかわかった。視線だった。
僕は振り向かずに大きな通りのほうへ向かって歩き出した。
蛋白質と脂肪分と塩分の摂取という悪徳に耽るために。
--
タイトルと最後のほうをちょっと変えました(12-23)。
どうでもいいですが、作中時間では12/16の出来事ということになっています。
年内のポエムは多分これで最後だと思います。9月以降狂ったようなペースで書いてましたが、中々楽しくはありました。来年以降どうなるかはちょっとわからないです。
僕が言うと、向かいの席に座っていた新入りが顔を上げた。
「帰ります?」
うん。……きみらどうする。
隣でぐだぐだの長期戦にもつれ込んでいる彼女と奴とに声をかけると、ちょっと間があってから彼女が応じた。や、これけりがつくまでやっていくよ。
投了した方がいいんじゃねえの。
奴が言うのに彼女は笑って応じる。こっちのせりふだね。
よくわからないがふたりとも戦意に満ちているので、僕は見捨てて帰ることにした。鞄を持って立ち上がると、新入りも荷物をまとめてバッグを手にしたところだった。
あたしも今日は帰ります。いいですか? 一緒に駅まで行っても。
いいよ。物騒なこともないと思うけど。
またね。またあした。
わざわざ上体をねじって片手を挙げて別れを告げてくれた彼女を背に、僕たちは店をあとにした。
いつもの癖で雑居ビルの階段を下りそうになるが、思い直してエレベータのボタンを押す。古いエレベータがゆっくり上がってきた。新入りはところ狭しと壁に貼られているポスターを興味深そうに眺めている。
何線なんだっけ、と僕が聞くと、新入りは路線名とその先で乗り換える私鉄の名前を教えてくれた。
……まで一緒ですよね。
新入りは乗換駅の名前を口にした。してみると、僕はどこかのタイミングで住んでる場所を教えたことがあることになる。確かに、ここからだと乗る路線と乗り換える駅は同じになるようだった。
ビルの外に出ると、そこそこの時刻になっていたがそれなりに人通りは多かった。土地柄どちらかといえば若い人が多く、性別で言えば男性の方がかなり多い。駅に向かって歩き出すと、あきらかにいつもと感じが違った。なんだろう、これは——
「ひとつ聞いていいですか?」
新入りがおもむろに言った。
いいよ、とだけ僕は応じた。
サキモトさんとつきあってたことありますか?
いささか思いがけない問いに、僕は間抜けな答えを返してしまった。「なんで?」
いえ、仲がいいので、そういうこともあったのかなと思って。
新入りはあっけらかんと言う。
僕は思わず頬を掻いた。素直に答えるのも癪なような気もするが、かといって隠すほどのことでもないと思う。
いや、ないよ。いちどもない。
そうなんですか。
新入りの声は普通に驚いた様子だった。じゃあ、いまつきあってるひといるんですか。
僕は先ほどとは違う質問なのに同じ応えを返してしまった。なんで?
どうなのかなー、と思って。
いそうに見える? 流石に今度はまっすぐは答えなかった。
見えます。新入りは勢いこんで即答した。歳が近くて、長くつきあってて、あんまりけんかとかしなくて……みたいな感じのひとがいそうです。
サキモトじゃないかそれ。
思わずつっこむと、新入りは笑って首をすくめた。すいません。個人の感想です。なんか思い込みが解けなくてですね。
僕は逆に気になって訊いた。そんなに仲よさそうに見える。
よさそうっていうかいいですよ。大学出てもう10年以上たつんですよね。ちょっとうらやましいです。
そうかな、と口に出しながら、へえ、そんな風に見えるのか、と思う。確かにありがたいとはかねがね思っている。うらやまれるようなものなのかどうかはわからないが。
少し大きな道との交差点で、横断歩道の縞々に踏み込む数歩前に歩行者信号が点滅し始めた。僕が立ち止まると、小走りしかけていた新入りが慌てて足を止めた。
信号待ちで停まっていた10台ほどの自動車が次々に走りだす。目の前の道路はしかし、それほど交通量が多いとは言えない。
僕は思い立って聞いてみた。
彼はカードゲームとかやるの?
いえ、全然。ウノぐらいしかやらないんじゃないかなあ。あたしがマジックやってることも知らないですよ。
むう、そうなのか。……六人目にひきずりこもうと思ったのになあ。
他をあたってもらった方がいいと思います。
こないだ忙しいとか言ってたけど、まだ忙しいって?
あ、それがやっと落ち着いたみたいで、今週は会えそうなんです。
新入りは嬉しそうな笑みを浮かべた。
へえ、それはよかったね! 会えないのってよくないもんなあ。
歩行者信号が青になって、僕は歩きだした。新入りは少し遅れて動き始め、数歩急ぎ足になって僕の横に並んだ。
それで、いるんですか?
あらためて訊いてきたその表情が予想したより真顔に近かったので、僕も真顔で答えた。
「言うなれば、」
意味ありげにためを作って、「来年から本気を出す、というところだ。」
新入りは一瞬言葉に詰まったが、すぐにぱっと笑った。状況はわかりました。……本気が実るといいですね。
むしろほんとうに僕が本気になれることを祈って欲しいものだ、と思ったが、口に出しては、そろそろパーソナルファウルですよそれは、などと適当なことを返しておいた。
ほどなく僕たちはもう一本の道路を越えて、歩道の延長がそのまま広場のようになっているところに出た。広場はさらに駅の入り口にまでつながっていて、つまり駅はもうすぐ目の前なのだった。
僕は足を止めた。
じゃあ、ここらへんで。ここまで来れば大丈夫だよね。
え、帰らないんですか。
うん、まだしなきゃならないことがある。
新入りは僕を見て口を開いたが、言葉は発さず、一秒ほど逡巡してからうなずいた。
——じゃあ、今日のところはこれで。
うん。おつかれさま。気をつけて。
こんど、この辺でご飯食べられるところ教えてください。
新入りは言った。
飯食うとこはいくらでもあるけど、ちゃんとしたところはひとつも知らないなあ。
いいですよ、ちゃんとしたところじゃなくても。
そういうわけにもいかないよ。でもまあ、考えとく。
ありがとうございます。
新入りは歯を見せて笑って、ぴょこんと頭をさげた。じゃあ、失礼します。おやすみなさい。
おつかれさま。
僕はそれだけ言って頭を軽く下げると、踵を返して歩き出した。その瞬間、先ほど雑居ビルから路面に降りたときからずっと感じていたいつもと違う感じが消えていることに気がついた。ようやく僕はそれがなんだかわかった。視線だった。
僕は振り向かずに大きな通りのほうへ向かって歩き出した。
蛋白質と脂肪分と塩分の摂取という悪徳に耽るために。
--
タイトルと最後のほうをちょっと変えました(12-23)。
どうでもいいですが、作中時間では12/16の出来事ということになっています。
年内のポエムは多分これで最後だと思います。9月以降狂ったようなペースで書いてましたが、中々楽しくはありました。来年以降どうなるかはちょっとわからないです。
門はどれも狡猾な罠で
2015年12月11日 ポエム「意外なところで判明したっぽいね」
彼が言った。「フィルターランド自体はまあ妥当なところなんだけど」
これは本物だろうか。
わたしは言いながら、ゲートウォッチの誓いに封入されるという expedition 版の《秘教の門》を表示させた。
(https://twitter.com/LengthyXemit/status/673660602208747520)
たぶん本物じゃないかなあ。
イラストは既出らしいけど。
(https://twitter.com/Phrost_/status/673699131869765632)
そこは明確にマイナスのポイントだね。往々にしてフェイクがばれるきっかけにもなる。でも、こういう実際のカードが写ってて背景まである画像でっちあげるの大変だよ。こないだの《Wastes》みたいなカード画像のデータだけの方がよっぽど偽造するの簡単だもん。
……こないだから気になってたんだけど、きみいちいちそういう検証のときの視点が偽造者寄りだよね。どうして?
失敬だなきみは。
彼は笑いながら言ってから、なぜか言い訳するように、いや、偽造者寄りとかじゃないんですよ。画像の加工とかちょっとでもやったことあればある程度わかるでしょ。絵とか文字とかは根気があればいろいろできるけど、光と影とか質感とかはくっそむずいんだよ。だからこのカードの後ろに置いてあるなにげない四つ折りの紙とかその上に落ちてる影とかは本物としか思えない。まあでも、そこは適当なカード置いて撮って、あとからカードの表面のところだけ画像はめ込めばいいのか……。
言わんとすることはわかるけど、普通の人は画像の加工とかしないよね。
そう?
…………。
なにか越えられない溝みたいなものが横たわっているような気がしたので、わたしはそれ以上は追求しないことにした。
さてこれが本物だと仮定しますと。
過去のカードにも遡って◇を適用するってことだよね。まさかフィルターランドだけ例外とも考えられないわけで。
そうだよね。彼は素直にうなずいた。だからこないだの予想は外れ。
うん。
でもあらためて考えてみると、そうじゃなくっちゃ筋が通らない気もしてくるね。色もマナ供給源もそのブロックにしか存在しなくて、その色のコストを払うためにはそのブロックの土地が必要なんだとしたら、土地タイプがないのと有色無色の違いがあるだけでまるっきり六色目だよね。それだとデザインとしてやっぱり引きこもり過ぎるのかも知れない。
ころっと考え変わったね。
まあ、最初はもともと過去のカードも全部修正するって考えてたから、もとに戻っただけ。
彼はあっさりそう言うと、手のひらの正しい使い方、などと言いながら手首をくるくる左右にねじって掌を上に向けたり下に向けたりしている。
相当多くのカードのテキスト修正しなきゃならなくなると思うけど。
わたしは言ってみたが、彼は動じなかった。
多分ウィザーズはそこは気にしないよ。彼らはそうした方がいいと思えばどんなに膨大な数のカードであっても修正する。クリーチャー・タイプがその典型だよね。それで、不要だと考えればもちろんしない。今回は必要だって認めたんだと思うよ。それに、難しいことは全然ないんだ。「マナ・プールに○いくつを加える」ってテキストだけ、その数字と同じ数の◇に置き換えればいいわけだから。実際プレイする時でも、ほとんど困ること無いんじゃないかな。
六色目を他の環境に解き放つことについては。
これも考えてみると、あくまでコストに◇を持つのは今のところOGWのカードだけだから、その意味では閉じ込められてるんだよね。他の環境のマナベースと組み合わせたときに悪さをされる可能性がなくはないけど、そこは調整してくるだろうし。危険になりうるのは「◇◇◇」みたいな、重さを無色マナの濃さだけに依存するようなコストだけだろうから。逆にそれをうまく使えば、モダンとかレガシーとかの方が強いカードっていうのも作れるかも知れない。
立て板に水だね。わたしはなんだか笑いそうになりながら言った。こないだと真逆のこと主張してるのに。
彼も苦笑いを浮かべた。おっしゃる通りですね。これじゃ詐欺師呼ばわりされても仕方ない。
こないだ自分の目が正しいと思いたいからあれが本物だって信じてる、みたいな話してたと思うけど、今回一部の説が棄却されたことでそこは揺らがないの?
うーん、もちろん考えが浅かったなとは思うけど。彼はまたしても苦笑いで、でも本物か偽物かって話だと本物寄りだと思うから。本物だって仮定でいろいろ考える方が面白いかなーとおもう。
そういえば、184種類の話だけど、続報があったね。わたしは言ってみた。
続報?
コモンが10種類増えるらしいよ。
やたらニッチな上に具体的な続報だなそれ。
うん。サム・スタッダードが書いてた。これからはドラフトで小さい方のセットを2パック開けるようになるんだけど、そうするとコモンの種類が少ないように感じられるんだってさ。「大型セットの3分の2をわずかに下回る程度」って書いてあるのが微妙なんだけど、多分 70 種類になるんじゃないかな。その少し下にも別の文脈で 70 って出てくるからね。
http://mtg-jp.com/reading/translated/ld/0016151/#
訳の間違いとかではない?
彼に聞かれて初めてその可能性に思い至った。あり得ないとは言えない。
原文見てみようか。
間違ってないね。この原文だけ見ると 65 種類って思えてならないけど、これまでのセットの実数から考えると 70 なんだよな。65 だとすると残り 14 種類で、70 だとすると残り9種類か。9種類ねえ。
やっぱり、基本土地のスロットにそれ以外の土地も入るんじゃない。
わたしは言った。それこそ運命再編の時みたいに。で、そこに9種類土地が入って、《Wastes》も含めて、それが全部無色のマナを出せるんじゃない。
なるほど。じゃあ闇の隆盛みたいにそのスロット用に 80 枚のアンカットシートを想定して9種類+基本土地でアサインすればいいのか。
彼は言いながら、いつものように手元のメモ帳に書きつけ始めた。
これはレアが3種類、アンコモンが5種類、あと《Wastes》で9種類。アンコモンはサイクルにしてるけど、これだと出過ぎるかな。でもなんにしてもこないだのよりは随分いいね。これならまだあり得るかもって思うもんね。
でもこれって「基本土地のアンカット・シート」そのものになっちゃうか。こないだ存在を否定したはずの。
これの基本土地自体は戦乱のゼンディカーの奴で、エクスパンション・シンボルも BFZ の奴がつくはずだから、まあいいんじゃない?
てきとうだなあ。でもそうだね、いいことにしとくか。
--
即時性のあるねたが続いて、消化するのが追いつかない状態。かなりおかしい。
彼が言った。「フィルターランド自体はまあ妥当なところなんだけど」
これは本物だろうか。
わたしは言いながら、ゲートウォッチの誓いに封入されるという expedition 版の《秘教の門》を表示させた。
(https://twitter.com/LengthyXemit/status/673660602208747520)
たぶん本物じゃないかなあ。
イラストは既出らしいけど。
(https://twitter.com/Phrost_/status/673699131869765632)
そこは明確にマイナスのポイントだね。往々にしてフェイクがばれるきっかけにもなる。でも、こういう実際のカードが写ってて背景まである画像でっちあげるの大変だよ。こないだの《Wastes》みたいなカード画像のデータだけの方がよっぽど偽造するの簡単だもん。
……こないだから気になってたんだけど、きみいちいちそういう検証のときの視点が偽造者寄りだよね。どうして?
失敬だなきみは。
彼は笑いながら言ってから、なぜか言い訳するように、いや、偽造者寄りとかじゃないんですよ。画像の加工とかちょっとでもやったことあればある程度わかるでしょ。絵とか文字とかは根気があればいろいろできるけど、光と影とか質感とかはくっそむずいんだよ。だからこのカードの後ろに置いてあるなにげない四つ折りの紙とかその上に落ちてる影とかは本物としか思えない。まあでも、そこは適当なカード置いて撮って、あとからカードの表面のところだけ画像はめ込めばいいのか……。
言わんとすることはわかるけど、普通の人は画像の加工とかしないよね。
そう?
…………。
なにか越えられない溝みたいなものが横たわっているような気がしたので、わたしはそれ以上は追求しないことにした。
さてこれが本物だと仮定しますと。
過去のカードにも遡って◇を適用するってことだよね。まさかフィルターランドだけ例外とも考えられないわけで。
そうだよね。彼は素直にうなずいた。だからこないだの予想は外れ。
うん。
でもあらためて考えてみると、そうじゃなくっちゃ筋が通らない気もしてくるね。色もマナ供給源もそのブロックにしか存在しなくて、その色のコストを払うためにはそのブロックの土地が必要なんだとしたら、土地タイプがないのと有色無色の違いがあるだけでまるっきり六色目だよね。それだとデザインとしてやっぱり引きこもり過ぎるのかも知れない。
ころっと考え変わったね。
まあ、最初はもともと過去のカードも全部修正するって考えてたから、もとに戻っただけ。
彼はあっさりそう言うと、手のひらの正しい使い方、などと言いながら手首をくるくる左右にねじって掌を上に向けたり下に向けたりしている。
相当多くのカードのテキスト修正しなきゃならなくなると思うけど。
わたしは言ってみたが、彼は動じなかった。
多分ウィザーズはそこは気にしないよ。彼らはそうした方がいいと思えばどんなに膨大な数のカードであっても修正する。クリーチャー・タイプがその典型だよね。それで、不要だと考えればもちろんしない。今回は必要だって認めたんだと思うよ。それに、難しいことは全然ないんだ。「マナ・プールに○いくつを加える」ってテキストだけ、その数字と同じ数の◇に置き換えればいいわけだから。実際プレイする時でも、ほとんど困ること無いんじゃないかな。
六色目を他の環境に解き放つことについては。
これも考えてみると、あくまでコストに◇を持つのは今のところOGWのカードだけだから、その意味では閉じ込められてるんだよね。他の環境のマナベースと組み合わせたときに悪さをされる可能性がなくはないけど、そこは調整してくるだろうし。危険になりうるのは「◇◇◇」みたいな、重さを無色マナの濃さだけに依存するようなコストだけだろうから。逆にそれをうまく使えば、モダンとかレガシーとかの方が強いカードっていうのも作れるかも知れない。
立て板に水だね。わたしはなんだか笑いそうになりながら言った。こないだと真逆のこと主張してるのに。
彼も苦笑いを浮かべた。おっしゃる通りですね。これじゃ詐欺師呼ばわりされても仕方ない。
こないだ自分の目が正しいと思いたいからあれが本物だって信じてる、みたいな話してたと思うけど、今回一部の説が棄却されたことでそこは揺らがないの?
うーん、もちろん考えが浅かったなとは思うけど。彼はまたしても苦笑いで、でも本物か偽物かって話だと本物寄りだと思うから。本物だって仮定でいろいろ考える方が面白いかなーとおもう。
そういえば、184種類の話だけど、続報があったね。わたしは言ってみた。
続報?
コモンが10種類増えるらしいよ。
やたらニッチな上に具体的な続報だなそれ。
うん。サム・スタッダードが書いてた。これからはドラフトで小さい方のセットを2パック開けるようになるんだけど、そうするとコモンの種類が少ないように感じられるんだってさ。「大型セットの3分の2をわずかに下回る程度」って書いてあるのが微妙なんだけど、多分 70 種類になるんじゃないかな。その少し下にも別の文脈で 70 って出てくるからね。
http://mtg-jp.com/reading/translated/ld/0016151/#
訳の間違いとかではない?
彼に聞かれて初めてその可能性に思い至った。あり得ないとは言えない。
原文見てみようか。
The ten extra commons take the sets to just a little below two-thirds of the size of a large set’s common sheet.
間違ってないね。この原文だけ見ると 65 種類って思えてならないけど、これまでのセットの実数から考えると 70 なんだよな。65 だとすると残り 14 種類で、70 だとすると残り9種類か。9種類ねえ。
やっぱり、基本土地のスロットにそれ以外の土地も入るんじゃない。
わたしは言った。それこそ運命再編の時みたいに。で、そこに9種類土地が入って、《Wastes》も含めて、それが全部無色のマナを出せるんじゃない。
なるほど。じゃあ闇の隆盛みたいにそのスロット用に 80 枚のアンカットシートを想定して9種類+基本土地でアサインすればいいのか。
彼は言いながら、いつものように手元のメモ帳に書きつけ始めた。
レレレレレレアアアア
アアアアアアアアアア
アアアアアアアアアア
アアアアアア平平平平
平島島島島島沼沼沼沼
沼山山山山山森森森森
森荒荒荒荒荒荒荒荒荒
荒荒荒荒荒荒荒荒荒荒
【図】ゲートウォッチの誓い・アンカット・シート「S」(80枚分/イメージ)
これはレアが3種類、アンコモンが5種類、あと《Wastes》で9種類。アンコモンはサイクルにしてるけど、これだと出過ぎるかな。でもなんにしてもこないだのよりは随分いいね。これならまだあり得るかもって思うもんね。
でもこれって「基本土地のアンカット・シート」そのものになっちゃうか。こないだ存在を否定したはずの。
これの基本土地自体は戦乱のゼンディカーの奴で、エクスパンション・シンボルも BFZ の奴がつくはずだから、まあいいんじゃない?
てきとうだなあ。でもそうだね、いいことにしとくか。
--
即時性のあるねたが続いて、消化するのが追いつかない状態。かなりおかしい。
あなたのマナ・プールに{◇}を加える。
2015年12月6日 ポエムガリガラク @UnrelentlessGRK 11月18日「……という意見が出ていますが如何でしょう」
まあ、コレクター番号の土地がCとLの違いがあるからフェイクっすね
https://twitter.com/UnrelentlessGRK/status/666777637096812545
彼女はスマートフォンにわざわざそのツイートを表示させて、僕に見せてくれた。
むう、それは全然気がついてなかったな。
カードの画像も見る?
彼女は一旦手元にスマートフォンを取り戻すと、手早く何回かパネルに触れて、例の流出画像とされる《Wastes》を表示させた。なるほど、左下のレアリティ表示は「C」になっている。基本土地なら「L」の筈だ。これは初歩的なミス……
……と、言ってしまいそうになる、が。
いやでも、考えようによっては、これはかえって本物っぽいと言えるのでは?
どうして?
だって、フェイカーがこの画像をでっちあげるとしたら、まあゼロから作ったりはしないだろうから BFZ の基本土地を加工すると思うんだよね。枠の形が同じだから。そしたらもともと L って入ってるはずだと思うんだよ。わざわざそれを C に変えるかな。
彼女はにやりと笑った。じゃあ、本物だとしたらどうして C になるの? 基本土地なんだよ。
うーんと、前マローが「ボルトとナット」のカード・コードの回(http://drk2718.diarynote.jp/201204142342243280/)で書いてたと思うんだけど、基本土地ってレアリティの一種で、カードコード的にはレアリティっていうのは基本的には「どのアンカットシートで刷られるか」っていうことをあらわしてる。これが実際のカードにまで適用されるかはわからないけど、でも仮にそうだとすると、カードのレアリティが L のカードってのは実は「基本土地」じゃなくて、「基本土地のアンカットシートに刷られたカード」を意味してるってことになる。これまではその二つは同じものだったから区別する意味はなかったんだけど、Wastes が加わると話が違ってくるわけだ。
ふんふん。彼女は笑みを浮かべたままうなずいてみせた。
それで、ゲートウォッチの誓いには通常の五種類の基本土地は入らない、ってのはこないだも話したよね。ということは、基本土地のアンカットシートってものがない。つまり、このセットには L っていうレアリティ自体がないことになる。こないだ話したみたいに特別のスロットがあるのか、それともそんなものはないのかわからないけど、とにかく《Wastes》の扱いとしては「基本土地だけど、コモンのスロットにアサインされて、レアリティも C になる」って考えても、そんなに不自然ではないと思う。これだけを理由にフェイクだと決めつけるのは少し早いんじゃないかな。
僕は考え考え話しながら、自分がだんだん自分の主張を信じ始めるのがわかった。奇妙な感覚だが、これまでに味わったことがないわけではない。妙な高揚感も伴っていてちょっと気持ちよくすらあった。
がんばって田んぼに水を引きましたねえ。
彼女の評価はそんな表現であらわされた。まあまあ、説得力がないわけでもないし。
そんなわけねえだろって言われればそれまでだけどね。
僕は言った。だって、コモンのシートにアサインしてもレアリティを L にすることは全然できるわけだから。昔のマローの記事とか引っ張ってきて、フットワークでかき回そうっていうのが見え見えだよね。
そこまで卑下することはないと思うよ。
彼女は少しだけ真剣な表情で言った。でも、それにしても、結構擁護するね。やっぱりいいアイデアだと思うから? 「これは本物であって欲しい」的な。
いや、ちょっと違う。本物であって欲しいのはそうなんだけど、いいアイデアだと思うからっていうよりは、これは実はすごいぜっていうのを見抜いた自分の目が本物であって欲しいと思ってるんだよ。
それ自分で言うんだ。
彼女は流石に驚いたというよりは呆れたような顔をしてみせた。
だってまあ、そうなんだよ、残念ながら。そこはごまかしたくないんだ。
じゃあ、こっちの反応としては「必死だな」でいいのね。
まあそうだね。自分でも必死だなって思うからね、ちょっと。
ふーん。
……ただ、ひとつだけ、気になってることはあって。
僕は言った。あの《Wastes》、イラストはぱっと見たときフェイクっぽいなーって思ったんだよね。なんか切り貼りっぽいっていうか、あと全体にちょっとかすんだみたいになってるのも胡麻貸しかなって感じがして。
それ本物だったらものすごい失礼なこと言ってない? 大丈夫?
いや、大丈夫じゃない。だから、ここだけの話。
現実みたいに謎めいた(あるいは◇マナに関する一考察)
2015年11月25日 ポエム「いや、結構天才的な発明」
彼は真顔で言った。「フェイクだとしたら、ウィザーズはあれ作った奴をスカウトすべき」
もちろん話題は例の◇マナについてだった。そろそろ新エクスパンションの具体的なカードについて噂が流れ始める頃ではあって、この時期の「流出画像」は目の上あたりに唾液を三回ぐらい塗布してから見なければならない。世の中に暇人は多いもので、フェイク画像は思い出したように出てくるし、一方でわざわざ真贋を検証してくれる奇特な人もまた多く、あれはガセだ、こっちはマジらしい、なんて見解が飛び交うのもまた一種の風物詩ではある。
わたしはいちいち飛びついて検討したりするほど熱心ではないけれど、面白いカードがあれば気になるのは人情だし、踊らされるのも祭りの楽しさだ、程度には思っている。とはいうものの、
「そこまで高評価?」
というのは率直なところだった。
うん。
彼は真剣な表情のままだった。ええと、一応整理すると、◇は無色マナを明示的に表すマナシンボル、ってとこまではいいよね。これまでは無色マナと汎用マナの表記の区別はなかったけど、考えてみるとちょっと不思議ではあって、こないだタニカワさん相手に《果てしなきもの》のプレゼンするはめになったんだけど、その時にどの色でも払えるしなんだったら無色でも払える、って言いながらなんか妙だよなって思ったんだよね。もちろん、これまでは無色マナは有色マナの純粋な下位互換だったからそれで問題は無かったんだけど、これは必ずしも自明のことじゃないし、崩すことができるルールなんだ。
「それから、基本土地の《Wastes》。六種類目の基本土地の話(*1)って読んだことある?」
わたしは頷いた。以前にも読んだことがあったし、今回の件で話題になったのでもう一度読み返してもみた。「あれに出てきた《洞窟/Cave》(*2)がほとんど《Wastes》と同じだよね」
----
(*1)六種類目の基本土地の話
http://regiant.diarynote.jp/201506281611054143/
【翻訳】6種類目の基本土地はどこにいった?/Whatever Happened to Barry’s Land?【DailyMTG】-- アラビア湾が見えたよ
(*2)《洞窟/Cave》
http://archive.wizards.com/mtg/images/daily/mm/mm25_cave.jpg
----
そう。まあ、だからこそフェイクくさいとも言えるし、悲願達成、とうとうカード化できた、とも言える。
彼は続けた。
それとは別に、無色マナを明示的にあらわすシンボルっていうアイデアも既に出てたみたい。Great Designers Search 2 で出してた人がいたらしくて。あれを読んでた上に覚えてた人がいるんだよねえ(*3)。世の中広い。尊敬する。それで GDS2 の方も見てみたんだけど(*4)、その時にその人は無色マナを出せる基本土地に《洞窟/Cave》ってつけてる。もちろんさっき言った六種類目の基本土地の記事を踏まえてね。もうこれになると《Wastes》とほぼ全く同じなんだ。残念ながら六種類目にはできなかったけど。
----
(*3)覚えてた人がいる
http://sarkhanjump.seesaa.net/article/429887040.html
第6番目の色、無色マナの与太話 -- 猿缶原理 わむ麺付き
(*4)GDS2
http://archive.wizards.com/Magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/feature/125b
The Great Designer Search 2 Finalists: Jonathon Loucks
----
そこが最大の違いだよね。
わたしは応じた。土地タイプを持たないと、基本地形である意味なくない?
そこは痛いところなんだけど、一応シナジーもなくはない。任意の土地を持って来られるカードより基本土地を持って来られるカードの方がずっと多いから。逆に三枚目ランドのアンタップインにも一応貢献するし。
じゃあ、これまでの無色マナを生み出すマナソースの扱いはどうする? 全部エラッタ出して◇の扱いにする?
それは多分しない。最初は全部修正するのかとも思ったんだよ。でも考えてみるとそこまでしなくてもいい。たとえば、フェイクじゃないとしたら新コジレックはモダンとかレガシーでも使えるわけで、そうすると古いマナベースで運用することが圧倒的に多くなるだろうから、昔のカードでも◇が出るようにしないと不便じゃないかなとも最初は思ったんだ。でも、それやっちゃうと結局◇でも○1でもあんまり変わらないかなって感じになっちゃう。トロンで出せるんなら○10となんにも変わらないじゃん。それに、この「六色目」を全環境に解き放っちゃうことになる。
そうじゃなくて逆に、◇はマナコストや起動コストに◇を持つカードを運用するときだけに影響して、それ以外の時は無色マナと同じってするんじゃないかと思う。そういう風にあくまでこのセットの中でヴァーチャルの六色目を作ることで、デザイン空間を広げると同時に運用にはある種の制限をかけることができると思うんだよね。ブロック構築——は死んだから、まあ実質スタンダード限定になるか。あるいは、このセットに入る、多分少々不便な土地をモダンやレガシーに持ち込むか。さっき天才的な発明って言ったのはこの辺で、色を増やしながらその色を閉じ込めることができてるっていうのがすげえなって思ったんだよ。これでフェイクだったら、おまえデザインチーム目指せよって言うと思う。
「信憑性はどうなんだろうね」
うーん。専門外だからなんとも言えないけど、MTGsalvasion が信頼できるソースだっつってるのはでかいよね。おれの印象では、特にこのところサルベが外したことあんまりない気がするから。でもフォーラム見に行ったら 50 ページ以上投稿あってさすがにそっ閉じしたけど。
フェイクだって断言してる人もいるね。
あ、ほんとに? それは知らなかった。見せて。
わたしはそのツイートを表示させたスマートフォンを彼に渡した。
彼はしばらく黙って画面を見つめていたが、やがてにやっと笑った。
……こう言われるとそうかなーって気はするね。今回基本土地入らないんだっけ?
入らない。戦乱のゼンディカーの奴をエクスパンションシンボルまでそのままで再録するって、これはマローが断言してた。
あれ、じゃあ《Wastes》も入る余地なし? 基本土地だもんね。
具体的にはどう言及してたかなあ……。
わたしはマローの tumblr を調べてみた。
これはどっちともとれるね。彼は少しゆっくり文を読んでから結論づけた。まあじゃあおいとこう。それより 184 っていう数字の方が気になるな。
小型セットの基本は 145 種類なんだっけ?
最近は 165 が多いね。コモン 60、アンコモン 60、レア 35、神話レア 10。神々の軍勢もニクスへの旅もこれ。運命再編はコモンのタップインランド 10 枚と基本土地が2種類ずつ入ってたから 185 だった。だから、標準を 165 と考えると、19 種類多いことになる。いかにも半端な数字だよなあ。
オリジンの教訓からすると、この不自然な数字には意味があるはず、だよね。
そう思わざるを得ないね。なにか通常と違うアンカットシートが入るのではないか、と考えたい。
とすると、ブースターに◇マナのカードだけが入ってるスロットがあるんじゃない。
……それっぽくなってまいりましたねえ。
……でしょ。
闇の隆盛のパターンかな。あれは両面カードのスロットがあって、レアリティも片面のカードとは独立だった。でも出現率は概ね片面のカードと同じになるようにされてたんだよ。つまり、そのアンカットシートには 80 枚のアサインがあって、神話レアだったらそのうちの1枚分、レアだったら2枚分、アンコモンは6枚分、コモンは 12 枚分、ってそれぞれ割り振られてた。それで神話レアが2種類、レアが3種類、アンコモンとコモンが4種類ずつ、とかだったはず。1*2+2*3+6*4+12*4 だからちょうど 80 になるよね。まあでも、適当っちゃ適当か。カード全部の枚数に対して神話レアが 1/40 ってことはないもんな。
それと同じだと、2+3+4+4 だから、13 種類か。まだ6種類足りない。
《Wastes》はきっとここに入るから、あと5種類。
5種類はサイクルの数だから、なにかサイクル。コモンの土地? タップインで、色マナ1点か、◇マナ1点出せる、みたいな。
でもアンカットシート 80 枚分使い切っちゃってるんだよね。121 枚にしてみるか……。
彼はそういってメモ帳に書き始めた。
「いやー、これ超いまいちだな」
彼が書き終わるなり苦笑しながら言って、わたしも笑ってしまった。「こうじゃないだろうね」
いいところまでは来てると思うんだけどな。
彼は首を少しかしげてメモ帳をにらむ。ちょっとこれ以上はわからないかな……。
うん、まあ、いいんじゃない。わたしは言った。与えられた材料としては、充分な妄想だと思うよ。
そのあと、ちょっと迷ってから、つけくわえた。ありがとう。面白かった。
彼ははっとしたように顔を上げてから、口元を少しゆがめて笑って言った。なんだよ急に、気持ち悪い。
--
今回はめちゃめちゃ捗った。金曜日まで待ってて下手な情報出てきちゃうと台無しなので、少し早いけど公開します。
みなさんも妄想とか考察とかあったらぜひ書いてみてください。
彼は真顔で言った。「フェイクだとしたら、ウィザーズはあれ作った奴をスカウトすべき」
もちろん話題は例の◇マナについてだった。そろそろ新エクスパンションの具体的なカードについて噂が流れ始める頃ではあって、この時期の「流出画像」は目の上あたりに唾液を三回ぐらい塗布してから見なければならない。世の中に暇人は多いもので、フェイク画像は思い出したように出てくるし、一方でわざわざ真贋を検証してくれる奇特な人もまた多く、あれはガセだ、こっちはマジらしい、なんて見解が飛び交うのもまた一種の風物詩ではある。
わたしはいちいち飛びついて検討したりするほど熱心ではないけれど、面白いカードがあれば気になるのは人情だし、踊らされるのも祭りの楽しさだ、程度には思っている。とはいうものの、
「そこまで高評価?」
というのは率直なところだった。
うん。
彼は真剣な表情のままだった。ええと、一応整理すると、◇は無色マナを明示的に表すマナシンボル、ってとこまではいいよね。これまでは無色マナと汎用マナの表記の区別はなかったけど、考えてみるとちょっと不思議ではあって、こないだタニカワさん相手に《果てしなきもの》のプレゼンするはめになったんだけど、その時にどの色でも払えるしなんだったら無色でも払える、って言いながらなんか妙だよなって思ったんだよね。もちろん、これまでは無色マナは有色マナの純粋な下位互換だったからそれで問題は無かったんだけど、これは必ずしも自明のことじゃないし、崩すことができるルールなんだ。
「それから、基本土地の《Wastes》。六種類目の基本土地の話(*1)って読んだことある?」
わたしは頷いた。以前にも読んだことがあったし、今回の件で話題になったのでもう一度読み返してもみた。「あれに出てきた《洞窟/Cave》(*2)がほとんど《Wastes》と同じだよね」
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(*1)六種類目の基本土地の話
http://regiant.diarynote.jp/201506281611054143/
【翻訳】6種類目の基本土地はどこにいった?/Whatever Happened to Barry’s Land?【DailyMTG】-- アラビア湾が見えたよ
(*2)《洞窟/Cave》
http://archive.wizards.com/mtg/images/daily/mm/mm25_cave.jpg
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そう。まあ、だからこそフェイクくさいとも言えるし、悲願達成、とうとうカード化できた、とも言える。
彼は続けた。
それとは別に、無色マナを明示的にあらわすシンボルっていうアイデアも既に出てたみたい。Great Designers Search 2 で出してた人がいたらしくて。あれを読んでた上に覚えてた人がいるんだよねえ(*3)。世の中広い。尊敬する。それで GDS2 の方も見てみたんだけど(*4)、その時にその人は無色マナを出せる基本土地に《洞窟/Cave》ってつけてる。もちろんさっき言った六種類目の基本土地の記事を踏まえてね。もうこれになると《Wastes》とほぼ全く同じなんだ。残念ながら六種類目にはできなかったけど。
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(*3)覚えてた人がいる
http://sarkhanjump.seesaa.net/article/429887040.html
第6番目の色、無色マナの与太話 -- 猿缶原理 わむ麺付き
(*4)GDS2
http://archive.wizards.com/Magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/feature/125b
The Great Designer Search 2 Finalists: Jonathon Loucks
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そこが最大の違いだよね。
わたしは応じた。土地タイプを持たないと、基本地形である意味なくない?
そこは痛いところなんだけど、一応シナジーもなくはない。任意の土地を持って来られるカードより基本土地を持って来られるカードの方がずっと多いから。逆に三枚目ランドのアンタップインにも一応貢献するし。
じゃあ、これまでの無色マナを生み出すマナソースの扱いはどうする? 全部エラッタ出して◇の扱いにする?
それは多分しない。最初は全部修正するのかとも思ったんだよ。でも考えてみるとそこまでしなくてもいい。たとえば、フェイクじゃないとしたら新コジレックはモダンとかレガシーでも使えるわけで、そうすると古いマナベースで運用することが圧倒的に多くなるだろうから、昔のカードでも◇が出るようにしないと不便じゃないかなとも最初は思ったんだ。でも、それやっちゃうと結局◇でも○1でもあんまり変わらないかなって感じになっちゃう。トロンで出せるんなら○10となんにも変わらないじゃん。それに、この「六色目」を全環境に解き放っちゃうことになる。
そうじゃなくて逆に、◇はマナコストや起動コストに◇を持つカードを運用するときだけに影響して、それ以外の時は無色マナと同じってするんじゃないかと思う。そういう風にあくまでこのセットの中でヴァーチャルの六色目を作ることで、デザイン空間を広げると同時に運用にはある種の制限をかけることができると思うんだよね。ブロック構築——は死んだから、まあ実質スタンダード限定になるか。あるいは、このセットに入る、多分少々不便な土地をモダンやレガシーに持ち込むか。さっき天才的な発明って言ったのはこの辺で、色を増やしながらその色を閉じ込めることができてるっていうのがすげえなって思ったんだよ。これでフェイクだったら、おまえデザインチーム目指せよって言うと思う。
「信憑性はどうなんだろうね」
うーん。専門外だからなんとも言えないけど、MTGsalvasion が信頼できるソースだっつってるのはでかいよね。おれの印象では、特にこのところサルベが外したことあんまりない気がするから。でもフォーラム見に行ったら 50 ページ以上投稿あってさすがにそっ閉じしたけど。
フェイクだって断言してる人もいるね。
あ、ほんとに? それは知らなかった。見せて。
わたしはそのツイートを表示させたスマートフォンを彼に渡した。
トルク歩きのコウヤ/ツイ連エディタ公開中 @koya__ 11月18日
ゲートウォッチ疑惑のリーク、
・Wastesはフェイク。コレクターナンバーの8と4の間隔が異なる
・コジレックはフェイクくさい。コレクターナンバーが離れすぎてない?お手元の004か104と比較を。
・ミラープールは断定材料なし。
https://twitter.com/koya__/status/666853526191013888
彼はしばらく黙って画面を見つめていたが、やがてにやっと笑った。
……こう言われるとそうかなーって気はするね。今回基本土地入らないんだっけ?
入らない。戦乱のゼンディカーの奴をエクスパンションシンボルまでそのままで再録するって、これはマローが断言してた。
あれ、じゃあ《Wastes》も入る余地なし? 基本土地だもんね。
具体的にはどう言及してたかなあ……。
わたしはマローの tumblr を調べてみた。
Oath of the Gatewatch will have full art basic lands. They will be the same full art lands from Battle for Zendikar (complete with expansion symbol).
http://markrosewater.tumblr.com/post/131186906308/will-oath-of-the-gatewatch-also-have-full-art
これはどっちともとれるね。彼は少しゆっくり文を読んでから結論づけた。まあじゃあおいとこう。それより 184 っていう数字の方が気になるな。
小型セットの基本は 145 種類なんだっけ?
最近は 165 が多いね。コモン 60、アンコモン 60、レア 35、神話レア 10。神々の軍勢もニクスへの旅もこれ。運命再編はコモンのタップインランド 10 枚と基本土地が2種類ずつ入ってたから 185 だった。だから、標準を 165 と考えると、19 種類多いことになる。いかにも半端な数字だよなあ。
オリジンの教訓からすると、この不自然な数字には意味があるはず、だよね。
そう思わざるを得ないね。なにか通常と違うアンカットシートが入るのではないか、と考えたい。
とすると、ブースターに◇マナのカードだけが入ってるスロットがあるんじゃない。
……それっぽくなってまいりましたねえ。
……でしょ。
闇の隆盛のパターンかな。あれは両面カードのスロットがあって、レアリティも片面のカードとは独立だった。でも出現率は概ね片面のカードと同じになるようにされてたんだよ。つまり、そのアンカットシートには 80 枚のアサインがあって、神話レアだったらそのうちの1枚分、レアだったら2枚分、アンコモンは6枚分、コモンは 12 枚分、ってそれぞれ割り振られてた。それで神話レアが2種類、レアが3種類、アンコモンとコモンが4種類ずつ、とかだったはず。1*2+2*3+6*4+12*4 だからちょうど 80 になるよね。まあでも、適当っちゃ適当か。カード全部の枚数に対して神話レアが 1/40 ってことはないもんな。
それと同じだと、2+3+4+4 だから、13 種類か。まだ6種類足りない。
《Wastes》はきっとここに入るから、あと5種類。
5種類はサイクルの数だから、なにかサイクル。コモンの土地? タップインで、色マナ1点か、◇マナ1点出せる、みたいな。
でもアンカットシート 80 枚分使い切っちゃってるんだよね。121 枚にしてみるか……。
彼はそういってメモ帳に書き始めた。
神神レレレレレレアアア
アアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアコ
コココココココココココ
コココココココココココ
コココココココココココ
コココココココココココ
コココ白白白白白白青青
青青青青黒黒黒黒黒黒赤
赤赤赤赤赤緑緑緑緑緑緑
荒荒荒荒荒荒荒荒荒荒荒
【図】アンカット・シート(イメージ)
「いやー、これ超いまいちだな」
彼が書き終わるなり苦笑しながら言って、わたしも笑ってしまった。「こうじゃないだろうね」
いいところまでは来てると思うんだけどな。
彼は首を少しかしげてメモ帳をにらむ。ちょっとこれ以上はわからないかな……。
うん、まあ、いいんじゃない。わたしは言った。与えられた材料としては、充分な妄想だと思うよ。
そのあと、ちょっと迷ってから、つけくわえた。ありがとう。面白かった。
彼ははっとしたように顔を上げてから、口元を少しゆがめて笑って言った。なんだよ急に、気持ち悪い。
--
今回はめちゃめちゃ捗った。金曜日まで待ってて下手な情報出てきちゃうと台無しなので、少し早いけど公開します。
みなさんも妄想とか考察とかあったらぜひ書いてみてください。
だいたいは理由もなく怒っていた
2015年11月22日 ポエム コメント (2)「コンプリートしたぜ」
友人は彼の正面の席に座るなり言うと、鞄からごそごそとデッキケースを取り出した。
早いな。流石古物商。
関係ねえよ。俺が商ってるもんじゃないし仕入れのルートとかも全然ないから、普通にカード屋とネットでぽちぽちやるだけだよ。
そう言いながら友人はケースから十数枚のカードの束を取り出すと、一枚ずつテーブルに並べ始めた。最初は旧枠で肌が緑色のゴブリンが棒状のものを手にしてこちらに突っ込んでくるイラスト。それが二枚続いた後、似た構図のやはり緑色のゴブリンが迫ってくるイラスト。どうやら 1/1 らしいがテキストはわたしのところからは読めない——と思いきや、次のイラストは馴染みがあった。横向きに描かれた、巨大な斧を振りかぶる灰色の肌のゴブリン。テキストももちろんわかる。Raging Goblin is unaffected by summoning sickness. と書かれているはずだ。《怒り狂うゴブリン》。コンプリートというからには、全部同じカードのエクスパンション違いなのだろう。
そこからはテキストが「Haste」(注釈文つき)だけになったり枠が変わったりするが、一度の例外を除いて全て同じ斧を振り上げているイラストが続いた。新枠の基本セットに白枠で三回収録されて、最後に M10 で黒枠に戻ったところでコレクションは終わっていた。
あれ? 英語だけ?
彼が煽るように聞くが友人はとりあわない。さすがにやっとれんだろこんなにあるのに。
「なんですかこのカード」
わたしの向かい、つまり友人の隣に座っている新入りが聞いた。手を伸ばしかけてぱっと引っ込め、触っていいですか、と聞く。
普通に 10 円とかのコモンだから全然いいよ。ていうか、怒り狂うゴブリン知らないのか!
す、すいません。
新入りは芝居がかった仕草で首をすくめた。まだ生まれてなかったもので。
そう言いながらひょいと手を伸ばして、一番新しい M10 のカードを手に取った。1マナ 1/1、速攻、goblin berserker。え、それだけですか。
ははは。彼が声に出して笑った。それだけですよまったくもって。
なんでコレクションするんですか?
「素晴らしいカードだから。」 彼が堂々と断言した。
低コストで、素早くて、小さくて、序盤は強いけど終盤には弱い。赤のクリーチャーの典型的なスペックです。それでゴブリン。赤の種族はアルファの昔からなんといってもゴブリンだ。あとからついたバーサーカーもいかにも赤にふさわしい種族です。でもこのカードでいちばん素晴らしいのはフレイバーなんだ。つまり、名前と、イラストと、フレイバーテキスト。ポータル・セカンドエイジで再再録された時につけられた——言いながら彼は実際にポータルセカンドエイジ版を手にとってみせた——イラストとフレイバーテキストはそこから不動のものになったんだよね。小さくてめちゃめちゃ怒ってるゴブリン。『彼は世界に対して怒り、家族に対して怒り、自分の人生に対して怒っていた。 だが、だいたいは理由もなく怒っていたんだ。』たぶんこのイラストとテキストで 10 年以上刷られ続けてたんだよ。トップダウンデザインのカードとして、ここまでのカードは作りたくてもそうそうできるもんじゃない。そりゃコレクションもしますよ。
彼は滔々と語り終えると、急に友人の方に向き直って聞いた。「なあ?」
いや、そんなめんどくせーこと考えて集めてるわけじゃねえよ。
えー。
サキモトさん、トシミツさんっていつもこんなふうですか。新入りが声をひそめるそぶりで、実際には普通の大きさの声で聞いてきた。
そういうことは本人の前で聞くもんじゃないよ。「いや、普段はもっとインチキくさいよ」とか言えなくなっちゃうでしょ。
言ってるじゃねえか。彼が笑って言う。
こんな風ってどんな風?
わたしが聞き返すと、新入りも笑みを浮かべて応じた。
いや、なんか妙な説得力があって、あたし先週もだまされたんです。《果てしなきもの》がなんか強いカードみたいに思えちゃって。
ああ、そういうのこいつの得意分野。友人が言った。気をつけな。うかつにトレードとかしないほうがいいよ。
完全に詐欺師扱いですけど。
彼はそう言いながらも楽しそうだった。さっきのだって、別に嘘ついたり騙したりしてるわけじゃないよ。市場で価値がつくようなカードじゃないけどこいつは素晴らしいんだって言ってるだけなんだから。
しかし最近ご無沙汰だよな、怒り狂うゴブリン。
彼を半ば無視して友人が言った。……M10 以来ってことは、もうまる六年か。そりゃ若い子は知らんよなあ。
「そんなに素晴らしいカードなのに、どうして再録されなくなっちゃったんですか」
新入りが訊いた。まあもっともな疑問だ。
ひとことで言えばちょっと弱すぎるんだよね。わたしが答えた。M11辺りから本格的に基本セットをリミテッドの競技イベントで使うようになって、そうするとパワーレベルをそれに向けて調整しなきゃならない。1マナ1/1速攻ってさすがにお呼びじゃないんだよ。だから居場所がなくなった。
そっか。……なんか結構せちがらいですね。
変化し続けることはトレーディングカードゲームの生命線だからね。あらゆるカードは安穏とはしていられないんだよ。
なるほど。
でもまた、いつかどこかで再録されるんじゃないかな。彼が言った。ていうか再録されてほしい。
わたしも頷く。そうだよね。それまでは、多元宇宙のどっかの片隅で、あらゆるものに対して怒り続けててほしいよね。
--
友人は彼の正面の席に座るなり言うと、鞄からごそごそとデッキケースを取り出した。
早いな。流石古物商。
関係ねえよ。俺が商ってるもんじゃないし仕入れのルートとかも全然ないから、普通にカード屋とネットでぽちぽちやるだけだよ。
そう言いながら友人はケースから十数枚のカードの束を取り出すと、一枚ずつテーブルに並べ始めた。最初は旧枠で肌が緑色のゴブリンが棒状のものを手にしてこちらに突っ込んでくるイラスト。それが二枚続いた後、似た構図のやはり緑色のゴブリンが迫ってくるイラスト。どうやら 1/1 らしいがテキストはわたしのところからは読めない——と思いきや、次のイラストは馴染みがあった。横向きに描かれた、巨大な斧を振りかぶる灰色の肌のゴブリン。テキストももちろんわかる。Raging Goblin is unaffected by summoning sickness. と書かれているはずだ。《怒り狂うゴブリン》。コンプリートというからには、全部同じカードのエクスパンション違いなのだろう。
そこからはテキストが「Haste」(注釈文つき)だけになったり枠が変わったりするが、一度の例外を除いて全て同じ斧を振り上げているイラストが続いた。新枠の基本セットに白枠で三回収録されて、最後に M10 で黒枠に戻ったところでコレクションは終わっていた。
あれ? 英語だけ?
彼が煽るように聞くが友人はとりあわない。さすがにやっとれんだろこんなにあるのに。
「なんですかこのカード」
わたしの向かい、つまり友人の隣に座っている新入りが聞いた。手を伸ばしかけてぱっと引っ込め、触っていいですか、と聞く。
普通に 10 円とかのコモンだから全然いいよ。ていうか、怒り狂うゴブリン知らないのか!
す、すいません。
新入りは芝居がかった仕草で首をすくめた。まだ生まれてなかったもので。
そう言いながらひょいと手を伸ばして、一番新しい M10 のカードを手に取った。1マナ 1/1、速攻、goblin berserker。え、それだけですか。
ははは。彼が声に出して笑った。それだけですよまったくもって。
なんでコレクションするんですか?
「素晴らしいカードだから。」 彼が堂々と断言した。
低コストで、素早くて、小さくて、序盤は強いけど終盤には弱い。赤のクリーチャーの典型的なスペックです。それでゴブリン。赤の種族はアルファの昔からなんといってもゴブリンだ。あとからついたバーサーカーもいかにも赤にふさわしい種族です。でもこのカードでいちばん素晴らしいのはフレイバーなんだ。つまり、名前と、イラストと、フレイバーテキスト。ポータル・セカンドエイジで再再録された時につけられた——言いながら彼は実際にポータルセカンドエイジ版を手にとってみせた——イラストとフレイバーテキストはそこから不動のものになったんだよね。小さくてめちゃめちゃ怒ってるゴブリン。『彼は世界に対して怒り、家族に対して怒り、自分の人生に対して怒っていた。 だが、だいたいは理由もなく怒っていたんだ。』たぶんこのイラストとテキストで 10 年以上刷られ続けてたんだよ。トップダウンデザインのカードとして、ここまでのカードは作りたくてもそうそうできるもんじゃない。そりゃコレクションもしますよ。
彼は滔々と語り終えると、急に友人の方に向き直って聞いた。「なあ?」
いや、そんなめんどくせーこと考えて集めてるわけじゃねえよ。
えー。
サキモトさん、トシミツさんっていつもこんなふうですか。新入りが声をひそめるそぶりで、実際には普通の大きさの声で聞いてきた。
そういうことは本人の前で聞くもんじゃないよ。「いや、普段はもっとインチキくさいよ」とか言えなくなっちゃうでしょ。
言ってるじゃねえか。彼が笑って言う。
こんな風ってどんな風?
わたしが聞き返すと、新入りも笑みを浮かべて応じた。
いや、なんか妙な説得力があって、あたし先週もだまされたんです。《果てしなきもの》がなんか強いカードみたいに思えちゃって。
ああ、そういうのこいつの得意分野。友人が言った。気をつけな。うかつにトレードとかしないほうがいいよ。
完全に詐欺師扱いですけど。
彼はそう言いながらも楽しそうだった。さっきのだって、別に嘘ついたり騙したりしてるわけじゃないよ。市場で価値がつくようなカードじゃないけどこいつは素晴らしいんだって言ってるだけなんだから。
しかし最近ご無沙汰だよな、怒り狂うゴブリン。
彼を半ば無視して友人が言った。……M10 以来ってことは、もうまる六年か。そりゃ若い子は知らんよなあ。
「そんなに素晴らしいカードなのに、どうして再録されなくなっちゃったんですか」
新入りが訊いた。まあもっともな疑問だ。
ひとことで言えばちょっと弱すぎるんだよね。わたしが答えた。M11辺りから本格的に基本セットをリミテッドの競技イベントで使うようになって、そうするとパワーレベルをそれに向けて調整しなきゃならない。1マナ1/1速攻ってさすがにお呼びじゃないんだよ。だから居場所がなくなった。
そっか。……なんか結構せちがらいですね。
変化し続けることはトレーディングカードゲームの生命線だからね。あらゆるカードは安穏とはしていられないんだよ。
なるほど。
でもまた、いつかどこかで再録されるんじゃないかな。彼が言った。ていうか再録されてほしい。
わたしも頷く。そうだよね。それまでは、多元宇宙のどっかの片隅で、あらゆるものに対して怒り続けててほしいよね。
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あらゆる意味を体現している
2015年11月14日 ポエム コメント (2)「なにやってるんですか。」
ここ二ヶ月ですっかり馴染みになった声に顔を上げると、新入りの、長い睫毛に縁取られた瞳が思ったより近くにあった。口元には人懐っこい笑みを浮かべている。
「デッキの調整」
とりあえずそう答えたが、たぶん期待されている答えとは少し違うだろうと思った。
右手と左手で対戦してるのかと思いました。
いや、まあ、そうなんですけど。
トーナメントプレイヤーのいう「調整」と比べれば子供の遊びに等しいが、それでも僕も組んだデッキを全くいじらないわけではない。特に全く新しいデッキを作ってみたときには、それがどの程度まともなのかを試すために他のデッキと対戦させることを時々する。恥ずかしい話だが、自分のデッキを相手にしてみて初めて「ああ、こういうことができるんだ」とか「こういうプレイングをしちゃだめなんだ」とかいうことがわかることもある。強い人ならデッキを組む前に脳内で済ませている作業の筈だ。
「ふたつ同時にいじれるし、相互作用も生じるから得られる知見も多いんですよ」
とりあえずそう言っておく。
へえ、そんな風にするんですね。初めて見ました。
おれも普段家でしかやらないですよ。
ここ、座ってもいいですか。
なにか買い物はしましたか?
僕は聞いた。カード屋さんの席に着くならなにかカードを買った方がよいです。多分カード屋さんの費用で一番大きな割合を占めるのは不動産の賃借料ですよ。
新入りははっとしたように頷くと、買ってきます、と言ってレジの方へすたすたと歩いていった。デュエルスペースにヒールの音が響くといやでも耳目を集める。しかし新入りは集まる視線を意にも介さず、ブースターを3パックほど買って戻ってくると、僕の向かいの席に腰を下ろした。
そういえば、金曜日に来るの珍しいですね。初めてじゃないですか。
はい。新入りは肯いた。なんか仕事忙しいみたいで。あ、えっと、彼が、です。
別に事情を聞いたつもりはなかったのだが、と思ったのが僕の顔に出たのだろう、新入りはつけくわえた。金曜日はみなさんここにいるって聞いたので。
ごらんの有様でしたけどね。僕が両手を広げてみせると、新入りは声を出して笑った。
ところでなにを買ったんですか。
もちろん手に持っているパックは見えていたが、敢えて聞いた。
戦乱のゼンディカーです。何を買っていいかわからないときは一番新しいのを買え、ってサキモトさんが言ってたので。
言いながら新入りは一番上のパックを剥き始めた。上端の圧着部を両手で持って引き剥がすと、指をかけて裂くように破いてしまう。裂け目が曲線を描いて裏側に回ってしまうのも気にする様子もなく、中のカードをつかんで見始めた。大胆な開けっぷりだった。
「《果てしなきもの》でした」
「なかなかいい引きですね」 僕はなにが入っていてもこう言おうと決めていた科白を言った。
そうなんですか。
新入りは意外そうに首をかしげる。……あんまり強そうには見えないです。
どうして。
場に出たらなんの能力もないです。…それに、Xをいくつで出してもそれなりのパワーとタフネスしかないです。
そこまで言ってから顔を上げて微笑むと、こう付け加えた。
「あと、イラストがひょろひょろしてて微妙です」
「イラスト大事よな」
僕は同意を示しておいた。確かにあんまり強そうじゃないんだよね。それ以外のふたつも基本的に正しいです。
新入りは黙ってうなずいた。僕は続ける。
でも、このカードの強みは、今まさにふたつめに言ってくれたことそのものなんです。何マナ使える状態でも、それなりのパワーとタフネスを持った生物が出せるんですよ。
新入りは黙ったままもう一度うなずいた。
僕は思いつくままに続けた。1ターン目なら 1/1、2ターン目なら 2/2、3ターン目なら 3/3。ゲームが長引いて土地がたくさんあれば、巨大な生物になってくれる。もし初手に来れば、他の手札と組み合わせて毎ターンマナを余らせないような動きができる。何色のデッキにでも入って何色のマナでも出せる。なんなら無色のマナでも出せる。
「つまりこのカードは柔軟性のかたまりです。柔軟性はこのゲームではしばしば単純なパワーの差を凌駕します。スタンダードで使われてる各種の《命令》は代表的な例で、あれはひとつひとつの効果は微妙でもできることが広いからよいわけですね。このカードも見た目よりはだいぶ強いと思いますよ」
僕がなんとか真顔で語り終えると、新入りは少しの間僕の顔をまじまじと見ていたが、やがて黙って立ち上がってシングルカードのショーケースの方へ歩きだした。ガラスケースをのぞきこみ、何かを確かめると、ゆっくり戻ってくる。
「……50 円でした」
「まあそんなもんだろうなあ」
僕が言うとようやく新入りは理解したようで、悔しそうな笑みを浮かべて、だまされました、と言った。
カードの価値はその人が決めるものですよ。さっきのはおれの評価です。50 円は世間の評価だ。タニカワさんはタニカワさんなりの評価をすればいいです。
「むー……」
少し新入りが考え込んでしまったので、その間に自分の前のテーブルに広げていたふたつのデッキを仕分け始めた。と、新入りはぱっと顔を上げて言った。
手伝いましょうかそれ。右手と左手でやるよりずっといいですよね。
思いがけない申し出だったので僕は一瞬どう反応したものか迷った。言われていることはもっともなのだがこれは人に手伝ってもらうようなことじゃないのだ。と思っていたら新入りが続けた。
今日デッキ持ってきてないんですよ。来る予定なかったので。
ああ、なるほど。じゃあ、3パックシールドでもやりましょうか。さっき3パック買ってましたよね。おれも買ってくるので、ちょっと待ってください。
はい! 新入りは勢いよく返事をしてから、「3パックシールドってなんですか?」と聞いてきた。
僕は席を立ちながら応じた。戻ったら説明します。
誰ひとり顧みない屍の上に
2015年10月31日 ポエム コメント (2)「さてブロック構築の息の根が止まったところで」
僕が言うと後輩はすぐに反論した。「いやまだ決まってないってあんたが言ってたでしょうが」
「いやー、水曜日だってのにみんな来ないなー」
僕たちは例によっていつものお店のいつものデュエルスペースに座っていた。混雑ぶりは中ぐらいで、大盛況とは行かないが週の真ん中なら悪くはない。時刻は誰かが顔を見せるには少し遅いぐらいになりつつあった。
露骨に胡麻貸さないでくださいよ。
だってブロック構築のイベント開催されないんだからしょうがないじゃん。それは死んだのと同じだろ。
MO でも戦乱のゼンディカーは実装されたが、今に至っても戦乱のゼンディカーブロック構築のアナウンスは一言もない。もしかすると申請すれば BFZBC の大会は開けるのかも知れないが、高田馬場のカードショップで開いても公認される人数が集められるかは疑問だと言わざるを得ない。そしてどちらにしても、今の状況はエクステンディッドの死ぬ間際とほとんど変わらない。
まあそうすね。後輩は渋々認めた。
だから新フォーマットを考えなくちゃいけないよね。
それはウィザーズ社の R&D の仕事だと思いますけど。
後輩は律儀にツッコんでから、でもまあ、去年またカードの枠もちょろっとリニューアルしたところですし、M15 とタルキールブロック以降のカードが使える「新モダン(仮)」的なものがまたできるんじゃないですか。ちょうどフェッチランドも再録して、まあ戦乱のゼンディカーでは収録しなかったけど対抗色フェッチもたぶん近いうちに再録するし、いろいろちょうどいい感じじゃないですか。
ローテーションはあるの?
ありません、もちろん。モダンのカードが高値で安定するのはローテーションがないからです。
なるほど。で、何年かしたらまたラヴニカを再再訪して。
新モダンプレイヤーに待ち望まれていたショックランドが再録されて。
おおー。大盛り上がりのバカ売れだあ。
「いやバカ売れかどうかわかんないですけど」
後輩は急に冷静な口調になって言った。
ちょっとモダンもカードプールかなり広くなってきて、流石に新規参入厳しくなってきてるし、メタゲームのダイナミズムが失われつつあるんじゃないかなって気はしてるんです。だから、ここらで競技向けの、もう少し狭いフォーマット作るのはありなのかなって。
一理あるね。
僕は上から目線を保ちつつ言った。しかし新モダンって名前はあまりに安直じゃないかね。
(仮)ですよ(仮)。なんかいい名前あるんですか。
スタンダードよりは広いってことをきっちりアピールしたいだろ。だから、拡張っていう意味の「エクステンディッド」。
……真面目に聞いた私があほでした。
まあ聞け。エクステンディッドだって昔のと死ぬ直前じゃ別物だっただろう。言葉というのは時代によってまた文脈によって意味内容が変わってくるものだ。だからここで敢えてまた違うフォーマットに同じ名前をつけるのはむしろ必然というべき。
いうべきじゃねえよ。
とうとう後輩がタメ口になった。ここまでの会話の当然の帰結と言えた。
ところでさっきは敢えてさらっと流したのだが。
僕は言った。メタゲームのダイナミズムってなんだ。
それは定義してます。後輩は真顔で即答した。逆説的な定義なんですけど、今後一切新しいカードが刷られないとしたら、それがダイナミズムの全くない状態です。でも、それは必ずしもメタゲームが動かないことを意味しません。
ああ。決まったプールの中のじゃんけんでも、勝つデッキはぐるぐる変わるよな。
そういうことです。で、例えばレガシーって多分もうそれに近いんだと思うんですよ。プールが広くなればなるほど新しいセットの影響力は弱まるので。ローテーションがないフォーマットだと必ずそうなっていくんですけど。
でも、こないだディグが禁止されて結構メタが動いたみたいな話があっただろ。てことは、逆に言えばディグにはそれだけの影響力があったわけだ。
それを言うなら、影響を及ぼすカードを刷ろうと思って一歩間違えると禁止レベルになる、とも言えます。開発側にとっては悪夢じゃないですか。
後輩は淀みなく反論してきた。この程度の地点はすでに通過しているということなのだろう。
んー。まあ確かに、あるカードの禁止でメタゲーム激変ってほんとはいいニュースじゃないよな。
あとは、やっぱり参入障壁ですよね。いまや下手なデュアルランドよりタルモの方が全然高いわけですよ。競技フォーマットでこれだとやっぱりちょっと辛いと思います。持ってなければ確実にデッキの選択肢が狭まるクラスのカードで「とりあえず8万払え」とか、さすがにやばいでしょう。
でも今はスタンダードでもジェイス揃えたら4万だぜ。
それは確かにそうですね。でも、たぶんモダンの方が深刻だと思います。
まあそうだろうな。僕は肯いた。
モダンマスターズも、最上級のカードの相場にはほとんど影響しなかったんですよね。需要にある程度限りのあるカードは値段下がったんで、あれはあれでカードの供給としては意味あったと思うんですけど、タルモとかボブとかはほとんど下がらなかったんじゃないですか。
あんまり値崩れしてもカードショップが苦しむみたいなところがあるし、難しいんだとは思うけど。
ちょっとの間だけ沈黙があった。
新モダン(仮)、もしほんとにやるとしたらどのブロックからになりますかね。
後輩が言った。さっきは M15 とタルキールからって言いましたけど、それだと導入するまで少し時間かかりますよね。たぶんあと2年ぐらい経たないと充分なプールにならないから。
ああ、そうか。かといって、今すぐ始めようと思うと RTR 入れざるを得なくなって、そうするといきなりショックランドとフェッチランドが揃っちゃう。さっきの大盛り上がりバカ売れ計画も頓挫しちまうな。
とすると、間をとってテーロスからですかね。そうすると、マナベースが占術ランドと友好色フェッチとバトルランドと……あと対抗色のペインランドか。
「ピーキーだな」
僕は率直な感想を述べた。
「でも、フォーマットのスタート地点としては悪くないと思いますよ。ローテーションがないんだから尚更です」
それもそうか。ていうか、さっきフェッチとショックがいきなり揃っちゃうって問題視したばっかりだったわ。
そうですよ。
……。
また少しの間ふたりとも黙っていた。デュエルスペースのにぎやかさ自体は先ほどとあまり変わらないが、時間が深くなった分ちょっと雰囲気も沈んだような気がした。
しっかし、来ないですなー。
後輩が言った。
まあしゃーない、マジックでもやるか。僕は言ってデッキケースを鞄から取り出した。
やりましょうか。後輩もうなずいた。
「おや、おそろいで」
後輩はわたしたちを見上げると、いつもの感じのいい笑顔を浮かべて言った。あれ、でもここで食べるの珍しくないですか。
今日は中で食べる日なんです。
わたしの部下でもある新入り女子が応じた。
レストスペース、という曖昧な名前で呼ばれているこの部屋は、主に社内のクリエイティブ部門の気分転換のためにもうけられたはずの空間ではあったが、実体としては業務中は休憩室、昼休み中は食事場所、繁忙期の夜は仮眠部屋、と状況に応じて酷使されていた。
水曜日はカロリー制限の日、と新入りは宣言し、少なくとも外食はしないというルールを自らに課していた。そして実際にかなりストイックな昼食をとっていた。最近はわたしも便乗することが多くなっていた。自分より小柄で細くなによりはるかに若い相手に張り合おうなどとは考えもしなかったが、その習慣自体はたぶん悪いものではなかったし、自分ひとりで努力するよりも他人に乗っかる方がいくらか楽ではあった。
後輩は社内の他部署の友達に渡すものがあってここで待ち合わせているが、相手の出ている会議が終わらないらしくまだ現れないのだという。
「渡すものってこれなんですけどね」
そう言って後輩はトップローダーに入った一枚のカードを見せてくれた。プレミアム・カードの——オラクルにしたがうなら——《破滅の伝導者》だったが、実際はカード名の欄には《破滅を導くもの》と印刷されていた。
裏はこうなっています。
後輩はトップローダーを裏返した。そちらには「本物の」《破滅を導くもの》(の、プレミアム・カード)が入っていた。
え? あれ?
新入りが戸惑う。両面カード? じゃないですよね?
両面カードは表裏でカード名違うからね。これは二枚背中合わせに入ってるだけで、表と裏は別のカード。
あれ、でもおんなじ名前だったような……。ちょっと借りていいですか。
新入りはトップローダーを手に取って、二回ほど表裏表裏とひるがえしてカード名を見た。おんなじですね。
「日本語版ではこの2枚に同じカード名が印刷されちゃってるんだよ」
わたしは説明した。「もちろん元々の英語のカード名は違うんだけど、和訳がかぶっちゃって」
…………。
新入りが首をかしげた。どうしてですか?
さあどうしてでしょうねえ。
「なんでこれが防げないんでしょうね、ほんとに」
後輩も首をかしげながら言った。
日本語のカード名の重複は、初期にはあまり見られなかったが、インベイジョンの《抵抗+救出》あたりからちらほら起きはじめ、最近ではギルド門侵犯の《爆弾部隊》に至るまでコンスタントに見られるミスだ。一番有名なのはたぶん《ファルケンラスの貴族》で、こちらは構築でよく使われる方が変更されてしまったので影響が大きかった。
これ、どっちも戦乱のゼンディカーですよね。
新入りが聞いてきたのでわたしはうん、と答えると、そしたら、それこそエクセルとかでも防げそうな気がしますけど。一覧表とか作らないんでしょうか。
そこら辺の工程はわからないけど、印刷所にはデータを渡すはずだからまあなにかしらは作るよね。
過去のカードとだけ突き合わせてて、うっかり今回追加分のおたがいの重複をチェックしてなかった、みたいな可能性はあるかも、とわたしは一応弁護してみたが、後輩はにべもなく、それだって一回やらかしたら学習しそうなもんじゃないですか、と両断した。まあもう 10 年前になっちゃいますけど、神河物語のときやってますよね。
おっしゃるとおりです。
どうするんですか、これって。新入りが聞いた。再版のとき直すんですか。
大昔はカードを重版していたが(日本語版の《呪われた巻物》は初版にだけ誤植があるのはよく知られた話だ)、もうかなり前——おそらくウルザブロックぐらいから再版はしていないという旨をわたしは説明した。ワンロットで全部作って出荷のタイミングだけ調整しているのだろうとは思うのだが、詳しいことはわからない。とにかく、間違えたらそのセットの分は全部間違ってるから、訂正を出すしかない。
「具体的に言うと、レアの方が《破滅の伝導者》って名前になってるよ」 後輩が補足した。
「……ややこしいですね」
新入りがつぶやくように言い、それから少し考えながら続けた。「たとえば、あるカードについて、あたしみたいなのが、調べようと思ったら、カード名で調べるじゃないですか。でもそうするとこっちは出てこなくて——」 トップローダーを裏返して、「——こっちだけ出てくる。……ってことですよね」
それがまさに問題。
わたしは言った。だから、カード名の訂正ってのは本来あり得ないことなんだよ。
マジックのルールでは、あるカードのアイデンティティを保っているのはまさにカード名に他ならない。イラストや枠は再録のたびに変わりうる。コレクターナンバーも同様だ。マナ・コストは不変だが一意性はない。テキストはオラクルに書かれていて、それもカード名がなければ参照すらできない。いわゆる拡張アートをほどこす時のガイドラインは「カード名とマナ・コストは見えるように残すこと」だったはずだ。《沼》のイラストが印刷されてしまったドイツ語版《蠢く骸骨》——通称“沼ルトン”ですら、カードとしては《蠢く骸骨》として扱われる。そこはもっとも根本的なルールなのだ。
だからこのミスは防いで欲しかったんだよね、とわたしは言った。
もったいないですよねえ。後輩も言う。折角誤訳減ってたのになあ。
減ってたよね?
減ってました減ってました。あの声明出してから、ほんとに減ったんですよ。あの、あなたが僕に『人を叩く時は相手をよく見なくちゃ駄目だ』っていうありがたい教訓をたまわったときの声明。
……そんなこと申し上げたかしら。
……。
後輩は少しの間わたしをにらむように見つめたが、やがて小さく息をついて首を横に振った。
そんなに誤訳って多かったんですか、と新入りが割って入るように聞いた。
一時期ひどかったんだよね。
後輩が応じる。ドラゴンの迷路では、些細なのも含めると七枚も誤訳というか誤植があって。スモールエクスパンションだから 150 枚とかしかないんだよ。それで七枚だから、さすがにやばいよね。
……そうですね。
それで、ウィザーズの日本法人がとうとう、改善しますっていう声明文をサイトに載せたんだよ。それ以来明らかに誤訳は減ったから、たぶん工程か関わる人数かその両方か、体制を大きく変えてることは間違いないと思う。
http://mtg-jp.com/publicity/020563/#
マジック:ザ・ギャザリング日本語版の翻訳に関するお知らせとお詫び -- 2013-05-02
ドラゴンの迷路の発売後に出されたこの短い「お知らせとお詫び」——すなわち後輩の言う“声明”の中では、具体的な改善に着手する旨が明記されていた。それから二年と四ヶ月。三つの基本セットと七つのエクスパンションが発売されたが、その中ではカードの機能に影響がある誤植は三枚だけだ。地名と人名を取り違えている、といった誤りを含めればもっと多くなるし、もちろんそれはそれで減らすべき誤りではあるのだが、しかし機能に関わらない部分の誤訳は減らすことがより難しいし、それでいてカードゲームとしての出来に寄与する部分は相対的に小さい。限られた時間と人員でできることの中で優先順位が下がるのは仕方のないところだろう。
このタイミングでってのもあれだけど、誤訳が減ったことは評価すべきだね。
たぶん全然話題になってないし気の毒でもありますよね。
後輩も言う。よくやった、翻訳チーム。あともう少しだけ頑張れ。
なんか上から目線じゃない?
あ、すいません。ありがとうございます、頑張ってください。で。
よろしい。
あれ、なんでおれがダメ出しされてるんですか。
きびしいですよね、サキモトさん。
やりとりを横で聞いていた新入りが、くすくすと笑った。
--
「教訓」のくだりは第 17 回を参照。→http://drk2718.diarynote.jp/201305130048233481/
後輩はわたしたちを見上げると、いつもの感じのいい笑顔を浮かべて言った。あれ、でもここで食べるの珍しくないですか。
今日は中で食べる日なんです。
わたしの部下でもある新入り女子が応じた。
レストスペース、という曖昧な名前で呼ばれているこの部屋は、主に社内のクリエイティブ部門の気分転換のためにもうけられたはずの空間ではあったが、実体としては業務中は休憩室、昼休み中は食事場所、繁忙期の夜は仮眠部屋、と状況に応じて酷使されていた。
水曜日はカロリー制限の日、と新入りは宣言し、少なくとも外食はしないというルールを自らに課していた。そして実際にかなりストイックな昼食をとっていた。最近はわたしも便乗することが多くなっていた。自分より小柄で細くなによりはるかに若い相手に張り合おうなどとは考えもしなかったが、その習慣自体はたぶん悪いものではなかったし、自分ひとりで努力するよりも他人に乗っかる方がいくらか楽ではあった。
後輩は社内の他部署の友達に渡すものがあってここで待ち合わせているが、相手の出ている会議が終わらないらしくまだ現れないのだという。
「渡すものってこれなんですけどね」
そう言って後輩はトップローダーに入った一枚のカードを見せてくれた。プレミアム・カードの——オラクルにしたがうなら——《破滅の伝導者》だったが、実際はカード名の欄には《破滅を導くもの》と印刷されていた。
裏はこうなっています。
後輩はトップローダーを裏返した。そちらには「本物の」《破滅を導くもの》(の、プレミアム・カード)が入っていた。
え? あれ?
新入りが戸惑う。両面カード? じゃないですよね?
両面カードは表裏でカード名違うからね。これは二枚背中合わせに入ってるだけで、表と裏は別のカード。
あれ、でもおんなじ名前だったような……。ちょっと借りていいですか。
新入りはトップローダーを手に取って、二回ほど表裏表裏とひるがえしてカード名を見た。おんなじですね。
「日本語版ではこの2枚に同じカード名が印刷されちゃってるんだよ」
わたしは説明した。「もちろん元々の英語のカード名は違うんだけど、和訳がかぶっちゃって」
…………。
新入りが首をかしげた。どうしてですか?
さあどうしてでしょうねえ。
「なんでこれが防げないんでしょうね、ほんとに」
後輩も首をかしげながら言った。
日本語のカード名の重複は、初期にはあまり見られなかったが、インベイジョンの《抵抗+救出》あたりからちらほら起きはじめ、最近ではギルド門侵犯の《爆弾部隊》に至るまでコンスタントに見られるミスだ。一番有名なのはたぶん《ファルケンラスの貴族》で、こちらは構築でよく使われる方が変更されてしまったので影響が大きかった。
これ、どっちも戦乱のゼンディカーですよね。
新入りが聞いてきたのでわたしはうん、と答えると、そしたら、それこそエクセルとかでも防げそうな気がしますけど。一覧表とか作らないんでしょうか。
そこら辺の工程はわからないけど、印刷所にはデータを渡すはずだからまあなにかしらは作るよね。
過去のカードとだけ突き合わせてて、うっかり今回追加分のおたがいの重複をチェックしてなかった、みたいな可能性はあるかも、とわたしは一応弁護してみたが、後輩はにべもなく、それだって一回やらかしたら学習しそうなもんじゃないですか、と両断した。まあもう 10 年前になっちゃいますけど、神河物語のときやってますよね。
おっしゃるとおりです。
どうするんですか、これって。新入りが聞いた。再版のとき直すんですか。
大昔はカードを重版していたが(日本語版の《呪われた巻物》は初版にだけ誤植があるのはよく知られた話だ)、もうかなり前——おそらくウルザブロックぐらいから再版はしていないという旨をわたしは説明した。ワンロットで全部作って出荷のタイミングだけ調整しているのだろうとは思うのだが、詳しいことはわからない。とにかく、間違えたらそのセットの分は全部間違ってるから、訂正を出すしかない。
「具体的に言うと、レアの方が《破滅の伝導者》って名前になってるよ」 後輩が補足した。
「……ややこしいですね」
新入りがつぶやくように言い、それから少し考えながら続けた。「たとえば、あるカードについて、あたしみたいなのが、調べようと思ったら、カード名で調べるじゃないですか。でもそうするとこっちは出てこなくて——」 トップローダーを裏返して、「——こっちだけ出てくる。……ってことですよね」
それがまさに問題。
わたしは言った。だから、カード名の訂正ってのは本来あり得ないことなんだよ。
マジックのルールでは、あるカードのアイデンティティを保っているのはまさにカード名に他ならない。イラストや枠は再録のたびに変わりうる。コレクターナンバーも同様だ。マナ・コストは不変だが一意性はない。テキストはオラクルに書かれていて、それもカード名がなければ参照すらできない。いわゆる拡張アートをほどこす時のガイドラインは「カード名とマナ・コストは見えるように残すこと」だったはずだ。《沼》のイラストが印刷されてしまったドイツ語版《蠢く骸骨》——通称“沼ルトン”ですら、カードとしては《蠢く骸骨》として扱われる。そこはもっとも根本的なルールなのだ。
だからこのミスは防いで欲しかったんだよね、とわたしは言った。
もったいないですよねえ。後輩も言う。折角誤訳減ってたのになあ。
減ってたよね?
減ってました減ってました。あの声明出してから、ほんとに減ったんですよ。あの、あなたが僕に『人を叩く時は相手をよく見なくちゃ駄目だ』っていうありがたい教訓をたまわったときの声明。
……そんなこと申し上げたかしら。
……。
後輩は少しの間わたしをにらむように見つめたが、やがて小さく息をついて首を横に振った。
そんなに誤訳って多かったんですか、と新入りが割って入るように聞いた。
一時期ひどかったんだよね。
後輩が応じる。ドラゴンの迷路では、些細なのも含めると七枚も誤訳というか誤植があって。スモールエクスパンションだから 150 枚とかしかないんだよ。それで七枚だから、さすがにやばいよね。
……そうですね。
それで、ウィザーズの日本法人がとうとう、改善しますっていう声明文をサイトに載せたんだよ。それ以来明らかに誤訳は減ったから、たぶん工程か関わる人数かその両方か、体制を大きく変えてることは間違いないと思う。
http://mtg-jp.com/publicity/020563/#
マジック:ザ・ギャザリング日本語版の翻訳に関するお知らせとお詫び -- 2013-05-02
ドラゴンの迷路の発売後に出されたこの短い「お知らせとお詫び」——すなわち後輩の言う“声明”の中では、具体的な改善に着手する旨が明記されていた。それから二年と四ヶ月。三つの基本セットと七つのエクスパンションが発売されたが、その中ではカードの機能に影響がある誤植は三枚だけだ。地名と人名を取り違えている、といった誤りを含めればもっと多くなるし、もちろんそれはそれで減らすべき誤りではあるのだが、しかし機能に関わらない部分の誤訳は減らすことがより難しいし、それでいてカードゲームとしての出来に寄与する部分は相対的に小さい。限られた時間と人員でできることの中で優先順位が下がるのは仕方のないところだろう。
このタイミングでってのもあれだけど、誤訳が減ったことは評価すべきだね。
たぶん全然話題になってないし気の毒でもありますよね。
後輩も言う。よくやった、翻訳チーム。あともう少しだけ頑張れ。
なんか上から目線じゃない?
あ、すいません。ありがとうございます、頑張ってください。で。
よろしい。
あれ、なんでおれがダメ出しされてるんですか。
きびしいですよね、サキモトさん。
やりとりを横で聞いていた新入りが、くすくすと笑った。
--
「教訓」のくだりは第 17 回を参照。→http://drk2718.diarynote.jp/201305130048233481/
メタゲームは時計まわりで
2015年10月17日 ポエム「ふーん。なるほど」
彼女は軽く腕を組んだまま言った。
店の隅の二人掛けテーブルは細長いスペースに縦向きに置かれていて、僕の側からはほとんど店内をうかがうことができない。しかしそれほど混んでもおらず、さりとて静かすぎもせず、まずまず理想的なコンディションではあった。
それで?
あ、えっと、つまり——、
僕はうまく言葉に喉を通過させられなかったが、強いて続けた。……ごめんなさい。あのスリーブを使うべきじゃなかった。気分を害するかも知れないってことに想像がおよばなくて、わるかった。
彼女はなにも言わず、少しだけ目を細めた。先ほどと変わらず腕を軽く組んでいる。僕はふとすると逸れてしまいそうになる視線を必死に彼女に固定し続けた。かなりの間があってから、やっと彼女が応じた。
正直なところ、そこまでっていうか、大して気にしてなかったよ。もちろん人にもよるから一般化されると困るけど、わたしときみの間の話としてだったら、謝るほどのことじゃない。
少しほっとしかけたところで、彼女は続けた。
だけどね、変なもんで、考えてみると使われるよりは使われない方がいいかな、って思うんだ。ってことはたぶん、わたしはさっき気にしてないって言ったけど、本当はちょっとだけいやなんだね、使われるのは。あとは、ああいう表現が人を不快にする可能性については常に敏感であるべき。だから態度をあらためるのは正しい。
彼女は腕を解いて、テーブルに置いたままにしていたソイラテを口にした。
あとそうだ、ついでだから言うけど。
彼女は僕がこの話を始めてから初めてうっすらと笑みを浮かべた。あれがきみがやったこともないカードゲームのスリーブだったのはもにょっとした。なんて言えばいいのかな。その表層だけ消費してるのにつき合わされる感じはいい気分じゃなかったな。
「……すいません」
もう返す言葉もなく、僕も自分のカップを口に持って行った。温かい湯気が顔にふわりと近づき、続いてカプチーノの泡が唇に触れる。
ごめん、気にしてないって言ったくせにいろいろ言っちゃったね。
……いや、まあ、むしろ言いたいことあったら言ってもらった方が。
僕は自分でもよく意図がわからないことを言った。
少しの間沈黙が流れた。僕はカプチーノにもう一度口をつけた。彼女もソイラテのカップに目を落とし、指で30度ぐらいずつくいくいと回してから、手にとって口元に運んだ。
彼女が再び口を開いた。
まあ、ゾーニングの問題だとは思うんだ。公序良俗に反するもの、ではないけど、不快になる人がそれなりにいる可能性があるもの、の範疇だと思う。だから上手く住み分ければそれでいいことだけど、お店でそこまでやろうと思うとちょっと難しくはあるよね。そこは諦めますっていうことなら、それはそれでひとつの判断でよくて、ただそうすると、お店全体が“不快になるかもしれない人は避けるゾーン”になっちゃうよ、っていう話なんだよね。
彼女は表情らしい表情は浮かべず、淡々と言った。
でもまあ、それはずっと前からほとんどの店でそうだし、もっと言えば業界全体にもあんまりなんとかしようっていう気風も見られないし、だからまあこっちも期待はしなくなってるよね。まあ慣れちゃうのもあるし、この業界はそういうもんなんだって思ってて。やっぱりああいうイラストの方が今のお客さんには売れるんでしょ、売れないと続かないんでしょ、だったらどうぞそのままで、でもこれ以上はもう近づきませんから、ってなるよね。
彼女はそこまで話すと再び僕を見つめた。僕はもちろんなにも言うことができなかった。
また少しの間彼女は黙って僕に視線を向けていたが、急に愛想笑いめいた笑みを浮かべて言った。
「……ごめん、話がずれたね」
いや、でも関係なくはないし、言ってることもっともだと思うよ。
しかし彼女は首を横に振った。だけど、きみに言ってもしょーがないもの。
僕は反射的に口を開きかけたが、思いとどまった。
彼女はテーブルの上に乗り出していた上体を後ろに少しそらせて、椅子に軽くもたれた。……しかしきみも、なんというか、たいがいめんどくさい性格だよね。
僕は思わず笑ってしまった。
まあ、そう思うよ。
僕は残っていたカプチーノを全部喉に流し込み、カップを置いて言った。
「時間とってくれてありがとう」
行く? 聞きながら彼女は背中を背もたれから離した。
伝えるべきだと思ったことは伝えたから。
僕が席を立って鞄を持つと、彼女もすっと立ち上がって、左腕にバッグを提げて右手でカップを持った。その目の高さは僕よりちょっと下ぐらいだった。
……身長何センチだっけ?
僕は聞いていた。
彼女は一瞬戸惑った表情を見せたが、すぐに応じた。「知ってるでしょ。165。もうさすがに伸びたりしないよ」
そっか。
なんだよ急に。
いや、なんでもない、と僕は言った。自分でも何故そんなことを聞いたのかわからなかった。
店の出口の方へ歩きながら、途中のごみ箱のところでカップと紙ナプキンを捨てた。彼女もすぐ後ろをついてきて同じようにしている。
なんか予定ある? このあと。
彼女が聞いてきたので、僕は、ない、と簡潔に答えた。実際家に帰って風呂に入って寝る以外の予定はなかった。
じゃあ晩ごはんつきあってよ。
単純に意外だったので僕は少し反応が遅れたのだが、彼女が言葉をかぶせるように言った。「悪いと思ったんでしょ?」
僕はそれには応じずに言った。いいよ、ご相伴しますよ。なんか食べたいものある?
すかさず彼女はにやっと笑って答えた。
なんでもいいよ。
……性格悪いなきみは。
僕は思わず口にしたが、彼女は笑みを浮かべたまま何も言わなかった。
--
マジック関係なくなってきたな……。
彼女は軽く腕を組んだまま言った。
店の隅の二人掛けテーブルは細長いスペースに縦向きに置かれていて、僕の側からはほとんど店内をうかがうことができない。しかしそれほど混んでもおらず、さりとて静かすぎもせず、まずまず理想的なコンディションではあった。
それで?
あ、えっと、つまり——、
僕はうまく言葉に喉を通過させられなかったが、強いて続けた。……ごめんなさい。あのスリーブを使うべきじゃなかった。気分を害するかも知れないってことに想像がおよばなくて、わるかった。
彼女はなにも言わず、少しだけ目を細めた。先ほどと変わらず腕を軽く組んでいる。僕はふとすると逸れてしまいそうになる視線を必死に彼女に固定し続けた。かなりの間があってから、やっと彼女が応じた。
正直なところ、そこまでっていうか、大して気にしてなかったよ。もちろん人にもよるから一般化されると困るけど、わたしときみの間の話としてだったら、謝るほどのことじゃない。
少しほっとしかけたところで、彼女は続けた。
だけどね、変なもんで、考えてみると使われるよりは使われない方がいいかな、って思うんだ。ってことはたぶん、わたしはさっき気にしてないって言ったけど、本当はちょっとだけいやなんだね、使われるのは。あとは、ああいう表現が人を不快にする可能性については常に敏感であるべき。だから態度をあらためるのは正しい。
彼女は腕を解いて、テーブルに置いたままにしていたソイラテを口にした。
あとそうだ、ついでだから言うけど。
彼女は僕がこの話を始めてから初めてうっすらと笑みを浮かべた。あれがきみがやったこともないカードゲームのスリーブだったのはもにょっとした。なんて言えばいいのかな。その表層だけ消費してるのにつき合わされる感じはいい気分じゃなかったな。
「……すいません」
もう返す言葉もなく、僕も自分のカップを口に持って行った。温かい湯気が顔にふわりと近づき、続いてカプチーノの泡が唇に触れる。
ごめん、気にしてないって言ったくせにいろいろ言っちゃったね。
……いや、まあ、むしろ言いたいことあったら言ってもらった方が。
僕は自分でもよく意図がわからないことを言った。
少しの間沈黙が流れた。僕はカプチーノにもう一度口をつけた。彼女もソイラテのカップに目を落とし、指で30度ぐらいずつくいくいと回してから、手にとって口元に運んだ。
彼女が再び口を開いた。
まあ、ゾーニングの問題だとは思うんだ。公序良俗に反するもの、ではないけど、不快になる人がそれなりにいる可能性があるもの、の範疇だと思う。だから上手く住み分ければそれでいいことだけど、お店でそこまでやろうと思うとちょっと難しくはあるよね。そこは諦めますっていうことなら、それはそれでひとつの判断でよくて、ただそうすると、お店全体が“不快になるかもしれない人は避けるゾーン”になっちゃうよ、っていう話なんだよね。
彼女は表情らしい表情は浮かべず、淡々と言った。
でもまあ、それはずっと前からほとんどの店でそうだし、もっと言えば業界全体にもあんまりなんとかしようっていう気風も見られないし、だからまあこっちも期待はしなくなってるよね。まあ慣れちゃうのもあるし、この業界はそういうもんなんだって思ってて。やっぱりああいうイラストの方が今のお客さんには売れるんでしょ、売れないと続かないんでしょ、だったらどうぞそのままで、でもこれ以上はもう近づきませんから、ってなるよね。
彼女はそこまで話すと再び僕を見つめた。僕はもちろんなにも言うことができなかった。
また少しの間彼女は黙って僕に視線を向けていたが、急に愛想笑いめいた笑みを浮かべて言った。
「……ごめん、話がずれたね」
いや、でも関係なくはないし、言ってることもっともだと思うよ。
しかし彼女は首を横に振った。だけど、きみに言ってもしょーがないもの。
僕は反射的に口を開きかけたが、思いとどまった。
彼女はテーブルの上に乗り出していた上体を後ろに少しそらせて、椅子に軽くもたれた。……しかしきみも、なんというか、たいがいめんどくさい性格だよね。
僕は思わず笑ってしまった。
まあ、そう思うよ。
僕は残っていたカプチーノを全部喉に流し込み、カップを置いて言った。
「時間とってくれてありがとう」
行く? 聞きながら彼女は背中を背もたれから離した。
伝えるべきだと思ったことは伝えたから。
僕が席を立って鞄を持つと、彼女もすっと立ち上がって、左腕にバッグを提げて右手でカップを持った。その目の高さは僕よりちょっと下ぐらいだった。
……身長何センチだっけ?
僕は聞いていた。
彼女は一瞬戸惑った表情を見せたが、すぐに応じた。「知ってるでしょ。165。もうさすがに伸びたりしないよ」
そっか。
なんだよ急に。
いや、なんでもない、と僕は言った。自分でも何故そんなことを聞いたのかわからなかった。
店の出口の方へ歩きながら、途中のごみ箱のところでカップと紙ナプキンを捨てた。彼女もすぐ後ろをついてきて同じようにしている。
なんか予定ある? このあと。
彼女が聞いてきたので、僕は、ない、と簡潔に答えた。実際家に帰って風呂に入って寝る以外の予定はなかった。
じゃあ晩ごはんつきあってよ。
単純に意外だったので僕は少し反応が遅れたのだが、彼女が言葉をかぶせるように言った。「悪いと思ったんでしょ?」
僕はそれには応じずに言った。いいよ、ご相伴しますよ。なんか食べたいものある?
すかさず彼女はにやっと笑って答えた。
なんでもいいよ。
……性格悪いなきみは。
僕は思わず口にしたが、彼女は笑みを浮かべたまま何も言わなかった。
--
マジック関係なくなってきたな……。
「しかし週のど真ん中だっつーのに」
後輩が半分笑いながら言った。「わざわざ仕事上がりに人んちにお邪魔してマジックやろうってのもまあなんというか、すみませんねほんとに」
あたしが悪いんです、と“新入り”が横から言う。金曜日が空いてなかったもんですから。
いや、いいんだよ、もともとわたしが用事あるから変えてもらったんだ。
彼女が少し慌てた様子で言った。あ、そこの建物。こげ茶色の。
え、ここですか。
新入りがいかにも若者らしい率直さで聞いた。めちゃめちゃ近くないですか。
確かに集合した JR のとある駅から彼女の部屋までまだ5分と歩いていない。
駅からの近さを第一の基準にしたんだよ。彼女はさらりと言うとバッグから鍵を取り出して、エントランスのオートロックを解除した。僕たちは各々コンビニの袋を提げたままぞろぞろとあとに続く。
エレベーターを降りて部屋に向かう通路も内廊下で、ぴしりとカーペットが敷かれている。なんとなく気後れしながら歩を進めた。
「どうぞ。上がってください」
部屋に入ると彼女は言い置いて、先に立って両側に一枚ずつ扉のある短い廊下の先の広くなっている方へすたすたと歩いていった。
「おじゃましまーす」「お邪魔します」
口々に言いながら僕たちは遠慮がちに上がり込み、ついきょろきょろしたりしながら彼女の後を追った。
きれいなお部屋ですね。
新入りが言うと彼女は笑いながら応じた。昨日必死で掃除したからね。
や、そうではなくて、建物そのものも、廊下とかも、まだ新しそうだし、造りがしっかりしているっていうか。
それはどうも。棟梁に伝えとくよ。
「棟梁いねえだろ」「じゃあ現場監督?」
僕は新入りの観察力に感心していた。実際この建物の築年数はおそらくまだ比較的浅いし、内装にもそれなりに金がかけられている。
広い LDK の壁面には天井まで届くスライド本棚があって、見えている面にはぱっと見た限りでは小説ばかりが作者別に綺麗に並べられていた。ここも整理したのだろうか。本棚と別の壁面にはテレビ台が置かれていて、その上には部屋の大きさに対して明らかに小さすぎるテレビが載っている。
中央には長方形のラグが敷かれていて、その上にこの部屋に一番似つかわしくない家具である長方形の座卓が置かれていた。布団こそ被せられていなかったがそれが電気炬燵であることは想像がつく。その周りに揃いの小さな座布団が5枚並べられていた。
床で申し訳ないけど、その辺に適当にお座りください、と彼女が言い、僕たちはそれぞれ自分の座布団をなんとなく定めて、コンビニ袋をその陣地の前の座卓に置いた。
——これで家賃いくらだ。
奴が聞いた。僕はその空気の読めなさに感謝した。
わたしがオーナーだよ。
え? 買ったの?
うん。
みんなおお、とかええっ、とか感嘆のリアクションを示したが、意味のあることは誰も言わなかった。
そんなに驚かなくてもいいでしょ。
彼女は笑いながら言った。さあ、とりあえず食べちゃおう。勝負はそれからだ。
それぞれに自分の陣地に腰を下ろし、コンビニ袋から食事を取り出す。僕はこういう時はサンドイッチを選びがちだ。ゲームが大好きすぎてパンで具をはさんだ食事を作らせたという人物に大いに尊敬と共感の念を抱いている。
お湯ってもらえます? 新入りがスープパスタのフィルムを剥きながら聞いている。
あ、そうだったよね。今沸かすよ。彼女は台所の方に立っていって、ティファールのらしき電気ケトルに慣れた手つきで水を注いだ。ほかにお湯欲しい人いますか。
いや、……いなさそう。大丈夫。
「あとビール飲みたい人居たら言ってね。ビールだけはあるから」
彼女が告げると奴がすぐに反応した。ビール何あるんだよ。
いろいろあるよ。秋味、チンタオビール、プレミアムモルツ、金麦、オールフリー、…そんなもんかな。
最後の方ビールじゃねえじゃねえか。まあまあ、昔は発泡酒よく飲んだじゃん。なんかオランダとかベルギーとかの。
プレミアムモルツなんて飲んだっけ。
僕は独り言のつもりで言ったのだが、意図したより声が大きかったのか、彼女が反応した。「さいきん始めました」
結局僕以外の全員がビールを飲むことを選択した。こうなったら負けるわけにはいかない。勝負事でアルコールを入れた奴は必ず負けると僕は固く信じている。たとえどれほどのデッキ相性差があったとしてもだ。
プレリリースって誰か行った?
奴が焼きそば弁当を食べる合間に聞くと、後輩がおにぎりを口に運ぶ手を休めて満面の笑みで応じた。待ってましたよその質問を。そう言いながら鞄からなにかを取り出す。
まじか。引いたの? うえー。
きょとんとしている新入り以外の3人が悲鳴に近い声をあげた。
ハードケースに入った箔押しのカード——プレミアム神話レア版の《溢れかえる岸辺》だった。
しかもフェッチかよ。相変わらず引き強いなあ。
まぶしー、神々しー。
「そんなに強いカードなんですか?」 新入りがまだ事態を飲み込めていない様子で訊いてくるので、僕は教えてやる。
「うん。プレミアム神話レアです」
「プレミアム神話レア」
「店で買えば300ドル」
「300ドル」
その微妙にゲスい説明止めてください、と後輩が笑って言うので僕は敢えて反論しなかったが、実際僕は事実以外のことは伝えていないということはここで確認しておきたい。
今回のセットの目玉のカードで、昔の強いカードのイラスト違いなんだけどフォイルで枠のレイアウトも特別で、たぶん 150 パックに1枚ぐらいしか入ってないみたい。というような普通の説明はその後彼女が新入りにしてくれていた。
ただねー、引いといて文句言うのもほんとあれなんですけどねー。
後輩は座卓に置いたカードを見ながら言った。テキストボックスは半透明じゃなくて透明にして欲しかった。
「ああ、ゲームデープロモみたいな感じ?」 彼女が聞いた。
そうです。でも、最近のじゃなくて、ちょっと前のあのほんとに外枠しかなかった奴がいいと思うんですよね。ネットで画像作ってた人がいるんですけど、あ、これこっちの方がいいわーって思って。
後輩はスマートフォンを操作して、目当てのブログ(http://acesimper.diarynote.jp/201509172216103521/)とそこに貼ってある画像を表示してみせた。説明でだいたいのイメージはつかめていたが、実際見せられてみると説得力があった。たしかにこっちの方が見てみたかった。そのブログのコメント欄にもある通り、ただでさえ可読性が低いのに色の識別も難しいのでプレイに支障が出る、という側面はあるのだろうけど、これらのカードを実際ゲームで使う人がどれだけいるか。
透明にしてほしかったのは賛成だけど、わたしは枠がある方が好きだな。それこそ最近のゲームデープロモの奴みたいな。
彼女はそう言いながら自分のスマートフォンにプロモ版《衰滅》の画像(http://mtg-jp.com/publicity/img/20150624a/JP_coiq84kyu3.jpg)を表示させる。たしかにこちらも中々に魅力的なデザインではあった。
プレリリースって、あの発売一週間前ぐらいにやる大会ですよね?
新入りが聞いた。
あ、ごめん、そうそう。この前の土日がちょうどそうだったんだよ。
前に一回だけ出たことあります。新たなるファイレクシアだったかな。
……どうだった?
彼女が聞くと新入りは即座に応じた。
ゼロ勝三敗とかでしたね。全然勝てなくて、結構悔しかったの憶えてます。
へえ、最初に出てくるのが勝敗なんだ、と思いかけたときに、新入りは苦笑いを浮かべて続けた。あと、試合終わった後やたら長々とデッキについてアドバイスくれたりとか、握手求めてくる人とかいて、それはちょっとうわーってなりました。
ああ……。
彼女が目を伏せた。あるんだよねえ、そういうの。わたしですら握手求められたことあるからなー……。
あ、でも真剣に勝負するの自体は面白かったですよ。構築時間とか、試合時間とかもちゃんと決まってるじゃないですか。あの感じは新鮮でよかったです。
無理にフォローしなくてもいいんだよ?
後輩が言って笑いが起き、ちょっと空気が和んだ。
「来週の土曜日、この面子でシールド戦やるんですけど」
なんとなくというか、行きがかり上というか、僕は切り出していた。「新しいセットが出るといつもやるんだけど、よかったらタニカワさんもどうですか」
え、いいんですか。やりたいです!
新入りの少し低い声がちょっと上擦った。でも、あたしが入ると5人になっちゃうから、ひとりあぶれちゃいませんか。
それは今日ここに来る前に心配するべきだったかもね。
彼女が言うと、新入りはつりこまれるように笑った。あは、それもそうですね。
あれ、来週って場所はどこなんだっけ。カード法師でいいんだっけ?
ここでいいんじゃないの。
彼女が言った。みんながよければ、だけど。お店でやると抜け番の人ちょっと気の毒じゃない。
いいんですか、そんな、今週も来週もで。
後輩が聞いたが、彼女はさして気にする様子もなく、いいよ、十日ぐらいならむしろ掃除した状態をキープできるし、と応じた。
じゃあすみません、お言葉に甘えてお邪魔するということで。11 時からでよろしいでしょうか。
いいよ。10 時には入れるようにしておくから、早く来てレガシーやりたい人とかは早く来てもいいよ。
「さて、飯終わった奴、勝負するか」
奴が空になった焼きそば弁当の殻をコンビニ袋に突っ込みながら言った。「どいつが相手だ」
いや、そこはタニカワさんと対戦しましょうよ。
後輩が言ったが、新入りは首を横に振った。すみません、まだ食べ終わってないので、お先にどなたか。
「じゃあおれと勝負だ」
僕が言うと奴は普通に顔をしかめてみせた。それ一番希少性が低い対戦じゃねえか。
ライバル同士の名勝負、ってことでひとつ。
僕はデッキケースからデッキを取り出し、座卓の上でシャッフルし始めた。
--
一昨日書いた目的の話でいうと今回などはめちゃめちゃ S/N 比が低い。ひとことで言えば「長い!!」。
ちなみに今回は5人(つまり全員)いるのだが、それすら伝わっている自信がない。だからほんとはシグナルノイズもくそもないのかも知れない。
--
これで 30 回目、らしいです。
後輩が半分笑いながら言った。「わざわざ仕事上がりに人んちにお邪魔してマジックやろうってのもまあなんというか、すみませんねほんとに」
あたしが悪いんです、と“新入り”が横から言う。金曜日が空いてなかったもんですから。
いや、いいんだよ、もともとわたしが用事あるから変えてもらったんだ。
彼女が少し慌てた様子で言った。あ、そこの建物。こげ茶色の。
え、ここですか。
新入りがいかにも若者らしい率直さで聞いた。めちゃめちゃ近くないですか。
確かに集合した JR のとある駅から彼女の部屋までまだ5分と歩いていない。
駅からの近さを第一の基準にしたんだよ。彼女はさらりと言うとバッグから鍵を取り出して、エントランスのオートロックを解除した。僕たちは各々コンビニの袋を提げたままぞろぞろとあとに続く。
エレベーターを降りて部屋に向かう通路も内廊下で、ぴしりとカーペットが敷かれている。なんとなく気後れしながら歩を進めた。
「どうぞ。上がってください」
部屋に入ると彼女は言い置いて、先に立って両側に一枚ずつ扉のある短い廊下の先の広くなっている方へすたすたと歩いていった。
「おじゃましまーす」「お邪魔します」
口々に言いながら僕たちは遠慮がちに上がり込み、ついきょろきょろしたりしながら彼女の後を追った。
きれいなお部屋ですね。
新入りが言うと彼女は笑いながら応じた。昨日必死で掃除したからね。
や、そうではなくて、建物そのものも、廊下とかも、まだ新しそうだし、造りがしっかりしているっていうか。
それはどうも。棟梁に伝えとくよ。
「棟梁いねえだろ」「じゃあ現場監督?」
僕は新入りの観察力に感心していた。実際この建物の築年数はおそらくまだ比較的浅いし、内装にもそれなりに金がかけられている。
広い LDK の壁面には天井まで届くスライド本棚があって、見えている面にはぱっと見た限りでは小説ばかりが作者別に綺麗に並べられていた。ここも整理したのだろうか。本棚と別の壁面にはテレビ台が置かれていて、その上には部屋の大きさに対して明らかに小さすぎるテレビが載っている。
中央には長方形のラグが敷かれていて、その上にこの部屋に一番似つかわしくない家具である長方形の座卓が置かれていた。布団こそ被せられていなかったがそれが電気炬燵であることは想像がつく。その周りに揃いの小さな座布団が5枚並べられていた。
床で申し訳ないけど、その辺に適当にお座りください、と彼女が言い、僕たちはそれぞれ自分の座布団をなんとなく定めて、コンビニ袋をその陣地の前の座卓に置いた。
——これで家賃いくらだ。
奴が聞いた。僕はその空気の読めなさに感謝した。
わたしがオーナーだよ。
え? 買ったの?
うん。
みんなおお、とかええっ、とか感嘆のリアクションを示したが、意味のあることは誰も言わなかった。
そんなに驚かなくてもいいでしょ。
彼女は笑いながら言った。さあ、とりあえず食べちゃおう。勝負はそれからだ。
それぞれに自分の陣地に腰を下ろし、コンビニ袋から食事を取り出す。僕はこういう時はサンドイッチを選びがちだ。ゲームが大好きすぎてパンで具をはさんだ食事を作らせたという人物に大いに尊敬と共感の念を抱いている。
お湯ってもらえます? 新入りがスープパスタのフィルムを剥きながら聞いている。
あ、そうだったよね。今沸かすよ。彼女は台所の方に立っていって、ティファールのらしき電気ケトルに慣れた手つきで水を注いだ。ほかにお湯欲しい人いますか。
いや、……いなさそう。大丈夫。
「あとビール飲みたい人居たら言ってね。ビールだけはあるから」
彼女が告げると奴がすぐに反応した。ビール何あるんだよ。
いろいろあるよ。秋味、チンタオビール、プレミアムモルツ、金麦、オールフリー、…そんなもんかな。
最後の方ビールじゃねえじゃねえか。まあまあ、昔は発泡酒よく飲んだじゃん。なんかオランダとかベルギーとかの。
プレミアムモルツなんて飲んだっけ。
僕は独り言のつもりで言ったのだが、意図したより声が大きかったのか、彼女が反応した。「さいきん始めました」
結局僕以外の全員がビールを飲むことを選択した。こうなったら負けるわけにはいかない。勝負事でアルコールを入れた奴は必ず負けると僕は固く信じている。たとえどれほどのデッキ相性差があったとしてもだ。
プレリリースって誰か行った?
奴が焼きそば弁当を食べる合間に聞くと、後輩がおにぎりを口に運ぶ手を休めて満面の笑みで応じた。待ってましたよその質問を。そう言いながら鞄からなにかを取り出す。
まじか。引いたの? うえー。
きょとんとしている新入り以外の3人が悲鳴に近い声をあげた。
ハードケースに入った箔押しのカード——プレミアム神話レア版の《溢れかえる岸辺》だった。
しかもフェッチかよ。相変わらず引き強いなあ。
まぶしー、神々しー。
「そんなに強いカードなんですか?」 新入りがまだ事態を飲み込めていない様子で訊いてくるので、僕は教えてやる。
「うん。プレミアム神話レアです」
「プレミアム神話レア」
「店で買えば300ドル」
「300ドル」
その微妙にゲスい説明止めてください、と後輩が笑って言うので僕は敢えて反論しなかったが、実際僕は事実以外のことは伝えていないということはここで確認しておきたい。
今回のセットの目玉のカードで、昔の強いカードのイラスト違いなんだけどフォイルで枠のレイアウトも特別で、たぶん 150 パックに1枚ぐらいしか入ってないみたい。というような普通の説明はその後彼女が新入りにしてくれていた。
ただねー、引いといて文句言うのもほんとあれなんですけどねー。
後輩は座卓に置いたカードを見ながら言った。テキストボックスは半透明じゃなくて透明にして欲しかった。
「ああ、ゲームデープロモみたいな感じ?」 彼女が聞いた。
そうです。でも、最近のじゃなくて、ちょっと前のあのほんとに外枠しかなかった奴がいいと思うんですよね。ネットで画像作ってた人がいるんですけど、あ、これこっちの方がいいわーって思って。
後輩はスマートフォンを操作して、目当てのブログ(http://acesimper.diarynote.jp/201509172216103521/)とそこに貼ってある画像を表示してみせた。説明でだいたいのイメージはつかめていたが、実際見せられてみると説得力があった。たしかにこっちの方が見てみたかった。そのブログのコメント欄にもある通り、ただでさえ可読性が低いのに色の識別も難しいのでプレイに支障が出る、という側面はあるのだろうけど、これらのカードを実際ゲームで使う人がどれだけいるか。
透明にしてほしかったのは賛成だけど、わたしは枠がある方が好きだな。それこそ最近のゲームデープロモの奴みたいな。
彼女はそう言いながら自分のスマートフォンにプロモ版《衰滅》の画像(http://mtg-jp.com/publicity/img/20150624a/JP_coiq84kyu3.jpg)を表示させる。たしかにこちらも中々に魅力的なデザインではあった。
プレリリースって、あの発売一週間前ぐらいにやる大会ですよね?
新入りが聞いた。
あ、ごめん、そうそう。この前の土日がちょうどそうだったんだよ。
前に一回だけ出たことあります。新たなるファイレクシアだったかな。
……どうだった?
彼女が聞くと新入りは即座に応じた。
ゼロ勝三敗とかでしたね。全然勝てなくて、結構悔しかったの憶えてます。
へえ、最初に出てくるのが勝敗なんだ、と思いかけたときに、新入りは苦笑いを浮かべて続けた。あと、試合終わった後やたら長々とデッキについてアドバイスくれたりとか、握手求めてくる人とかいて、それはちょっとうわーってなりました。
ああ……。
彼女が目を伏せた。あるんだよねえ、そういうの。わたしですら握手求められたことあるからなー……。
あ、でも真剣に勝負するの自体は面白かったですよ。構築時間とか、試合時間とかもちゃんと決まってるじゃないですか。あの感じは新鮮でよかったです。
無理にフォローしなくてもいいんだよ?
後輩が言って笑いが起き、ちょっと空気が和んだ。
「来週の土曜日、この面子でシールド戦やるんですけど」
なんとなくというか、行きがかり上というか、僕は切り出していた。「新しいセットが出るといつもやるんだけど、よかったらタニカワさんもどうですか」
え、いいんですか。やりたいです!
新入りの少し低い声がちょっと上擦った。でも、あたしが入ると5人になっちゃうから、ひとりあぶれちゃいませんか。
それは今日ここに来る前に心配するべきだったかもね。
彼女が言うと、新入りはつりこまれるように笑った。あは、それもそうですね。
あれ、来週って場所はどこなんだっけ。カード法師でいいんだっけ?
ここでいいんじゃないの。
彼女が言った。みんながよければ、だけど。お店でやると抜け番の人ちょっと気の毒じゃない。
いいんですか、そんな、今週も来週もで。
後輩が聞いたが、彼女はさして気にする様子もなく、いいよ、十日ぐらいならむしろ掃除した状態をキープできるし、と応じた。
じゃあすみません、お言葉に甘えてお邪魔するということで。11 時からでよろしいでしょうか。
いいよ。10 時には入れるようにしておくから、早く来てレガシーやりたい人とかは早く来てもいいよ。
「さて、飯終わった奴、勝負するか」
奴が空になった焼きそば弁当の殻をコンビニ袋に突っ込みながら言った。「どいつが相手だ」
いや、そこはタニカワさんと対戦しましょうよ。
後輩が言ったが、新入りは首を横に振った。すみません、まだ食べ終わってないので、お先にどなたか。
「じゃあおれと勝負だ」
僕が言うと奴は普通に顔をしかめてみせた。それ一番希少性が低い対戦じゃねえか。
ライバル同士の名勝負、ってことでひとつ。
僕はデッキケースからデッキを取り出し、座卓の上でシャッフルし始めた。
--
一昨日書いた目的の話でいうと今回などはめちゃめちゃ S/N 比が低い。ひとことで言えば「長い!!」。
ちなみに今回は5人(つまり全員)いるのだが、それすら伝わっている自信がない。だからほんとはシグナルノイズもくそもないのかも知れない。
--
これで 30 回目、らしいです。
うまくやっていけそうな気がする
2015年9月26日 ポエム「わかったよ、神話レアが 16 種類だった理由」
わたしが言うと、彼はさほど関心もなさそうにうなずいた。関心はなさそうだったが、目はこちらに向けている。
「両面カードがあるからだったんだね」
もう少し詳しく、と彼はそっけなくうながす。
そう言われてもなあ。
わたしは普通に困ってしまう。
大型セットだとほぼ間違いなく、神話レアとレアの種類数は「15」と「53」に固定されている。これはある種の魔法の数字で、レアの出現率は神話レアの2倍だから2倍すると 106 になるのだけど、15+106 = 121 であるからこれがアンカットシート1枚分の枚数と等しくなる。そして、神話レアの封入率は約 1/8 というのを自動的に満たしてもいる。もちろん魔法というのは明らかに大げさで、小型セットであればこれが「10」と「35」になるだけのことだ。簡単な算数と、印刷工程的な制約がもたらす必然にすぎない。
……というようなことを今更彼に説明しても仕方ないからだ。
「えーと、神話レアのうち5枚がプレインズウォーカーで、それは全部両面カードだから、別のアンカットシートに入ることになる。」
わたしはとにかく説明を始める。
そうすると、15:53 はそのまま使うことができなくて、まあいろいろ変えようもあるにはあるんだけど、アンカットシートを綺麗に埋めることと、できるだけ元の数字に近いことを優先すると、両面じゃない方のシートには神話レアを 11 枚と通常レアを 55 枚配置するのが一番収まりがいい。11+55*2 = 121 だから、これでぴったりになる。だから、神話レアの種類は 5+11 で 16 種類になっている。以上。
「なるほどー」
彼はわざとらしくうなずいてみせた。「そうかあ、両面カードかあ」
「でもそう考えてみると、両面カードのアンカットシートは全部プレインズウォーカーなんだね。想像すると中々壮観だよね」
わたしが言うと、彼は急に反応した。「あ、そうか。そりゃ考えなかったな」
「5人分のプレインズウォーカーが 24 セット印刷されてるわけですよ」
それで、神話レア/レアをパックに封入するときは、そのどちらかのシートから入れなければならない。ところがそのように割り付けられているから、アンカットシートの枚数が両面1枚に対して片面が実に 24 枚ということになる。これを均質に混ぜるのはなかなか骨が折れそうだ。
だからもしかすると、オリジンのボックスを開けた人が時々言っているような“プレインズウォーカー箱”みたいな偏りができちゃうのはそういう理由かもしれない。
わたしは言ったが、その部分については彼は懐疑的だった。
うーん、まああり得なくはないけど、普通に理想的に混ざっててもそれなりには偏るでしょ。それに、そういうのってそういう引きをした人はなんか書くし普通の引きだった人はなんにも書かないから、報告される件数は常に多めになると思うよ。
それはそうかも知れないね。わたしはうなずいた。
いやあ、しかしちょっと悔しかったな、これは。
え?
オリジンが最初に発表されたとき、ほら、必ず種類数が出てるだろ、あれ。あのときに 272 種類ってなんか変な数字だなーとは思ったんだよ。普通に数えると、基本土地を 25 種類としてコモンが 99 種類か、基本土地が 20 種類でコモンが 104 か、みたいになっちゃうんだよね。両面カードは予想できないにしても、アンカットシートが違う理由があるぞってとこまでは予想できてしかるべきだった。
笑ってはいけないと思うが、口許に笑みが浮かぶのはおさえられなかった。
……いや、予想できなくていいと思うよ、それは。
--
時系列でいうと今回の話は三回前の「そこを深い溝が縦横に走り」の前にあたります。少し前から書いていたのですが、Zendikar Expeditions の話が出たのでこれは速攻でねたにしなければと思って三回前を書き、Zombie Hunt の話題があったので二回前を書き、という感じでどんどん後回しにされていました。
こういう回だとサブタイトルに困りますね。
--
ちなみにオリジンはコモンが 101 種類、アンコモンが 80 種類、レアが 55 種類、神話レアが 16 種類、基本土地が 20 種類で全 272 種類(MTG wiki の色別内訳から手計算で合算した)。レアと神話レア以外は大型セットでごく一般的に見られる数字。
わたしが言うと、彼はさほど関心もなさそうにうなずいた。関心はなさそうだったが、目はこちらに向けている。
「両面カードがあるからだったんだね」
もう少し詳しく、と彼はそっけなくうながす。
そう言われてもなあ。
わたしは普通に困ってしまう。
大型セットだとほぼ間違いなく、神話レアとレアの種類数は「15」と「53」に固定されている。これはある種の魔法の数字で、レアの出現率は神話レアの2倍だから2倍すると 106 になるのだけど、15+106 = 121 であるからこれがアンカットシート1枚分の枚数と等しくなる。そして、神話レアの封入率は約 1/8 というのを自動的に満たしてもいる。もちろん魔法というのは明らかに大げさで、小型セットであればこれが「10」と「35」になるだけのことだ。簡単な算数と、印刷工程的な制約がもたらす必然にすぎない。
……というようなことを今更彼に説明しても仕方ないからだ。
「えーと、神話レアのうち5枚がプレインズウォーカーで、それは全部両面カードだから、別のアンカットシートに入ることになる。」
わたしはとにかく説明を始める。
そうすると、15:53 はそのまま使うことができなくて、まあいろいろ変えようもあるにはあるんだけど、アンカットシートを綺麗に埋めることと、できるだけ元の数字に近いことを優先すると、両面じゃない方のシートには神話レアを 11 枚と通常レアを 55 枚配置するのが一番収まりがいい。11+55*2 = 121 だから、これでぴったりになる。だから、神話レアの種類は 5+11 で 16 種類になっている。以上。
「なるほどー」
彼はわざとらしくうなずいてみせた。「そうかあ、両面カードかあ」
「でもそう考えてみると、両面カードのアンカットシートは全部プレインズウォーカーなんだね。想像すると中々壮観だよね」
わたしが言うと、彼は急に反応した。「あ、そうか。そりゃ考えなかったな」
「5人分のプレインズウォーカーが 24 セット印刷されてるわけですよ」
それで、神話レア/レアをパックに封入するときは、そのどちらかのシートから入れなければならない。ところがそのように割り付けられているから、アンカットシートの枚数が両面1枚に対して片面が実に 24 枚ということになる。これを均質に混ぜるのはなかなか骨が折れそうだ。
だからもしかすると、オリジンのボックスを開けた人が時々言っているような“プレインズウォーカー箱”みたいな偏りができちゃうのはそういう理由かもしれない。
わたしは言ったが、その部分については彼は懐疑的だった。
うーん、まああり得なくはないけど、普通に理想的に混ざっててもそれなりには偏るでしょ。それに、そういうのってそういう引きをした人はなんか書くし普通の引きだった人はなんにも書かないから、報告される件数は常に多めになると思うよ。
それはそうかも知れないね。わたしはうなずいた。
いやあ、しかしちょっと悔しかったな、これは。
え?
オリジンが最初に発表されたとき、ほら、必ず種類数が出てるだろ、あれ。あのときに 272 種類ってなんか変な数字だなーとは思ったんだよ。普通に数えると、基本土地を 25 種類としてコモンが 99 種類か、基本土地が 20 種類でコモンが 104 か、みたいになっちゃうんだよね。両面カードは予想できないにしても、アンカットシートが違う理由があるぞってとこまでは予想できてしかるべきだった。
笑ってはいけないと思うが、口許に笑みが浮かぶのはおさえられなかった。
……いや、予想できなくていいと思うよ、それは。
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時系列でいうと今回の話は三回前の「そこを深い溝が縦横に走り」の前にあたります。少し前から書いていたのですが、Zendikar Expeditions の話が出たのでこれは速攻でねたにしなければと思って三回前を書き、Zombie Hunt の話題があったので二回前を書き、という感じでどんどん後回しにされていました。
こういう回だとサブタイトルに困りますね。
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ちなみにオリジンはコモンが 101 種類、アンコモンが 80 種類、レアが 55 種類、神話レアが 16 種類、基本土地が 20 種類で全 272 種類(MTG wiki の色別内訳から手計算で合算した)。レアと神話レア以外は大型セットでごく一般的に見られる数字。
「“戦乱のゼンディカー しょっぱい”っていう検索でおれのブログに人が来ててさ」
友人が言って、俺は思わず笑った。いろいろ形容はあり得るだろうによりによってしょっぱいという単語を選ぶ辺りにセンスを感じる。
今日フルスポイラー出たけど、まあ確かにしょっぱめかねえ。
今更なに言ってやがんだ。
俺は言った。おまえ何年プレヴュー見てるんだよ。プレヴューで出てこなかったすげえカードがフルスポイラーになって突然出てくることなんてねえんだから。もう出てくるもんのインパクトはとっくにピーク越えてるんだって。
うーん、理屈ではわかってる心算なんだが。
今回で言や明らかにプレミアム神話土地だ。どんなに強いカードだってまああれのインパクトにはかなわないんだから、あれを出したらあれよりいいもんは出てこねえよ。カードパワーで言えばあれの前後に公開されたあたりが一番高いだろ、多分。ウィザーズだって早いうちにいいカード見せていっぱい予約してもらったほうがいいに決まってるんだから、もったいぶる意味がない——
「つまり奇数野郎最強ってことだ」
俺は堂々と結論を述べたが、普通に突っ込まれた。
いやあいつ出てきたのつい先週だろ。
いやーああいうわけのわからんデザイン好きでさ。わくわくするっていうか、なんだろうな、じっとしてられん感じがする。俺に対するアピール力では間違いなく最強。
それ KP 関係ないじゃん、などと彼はぶつぶつ言っていたが、俺はとりあわなかった。
「そういや一昨日、なんでマルドゥ戦士出さなかったんだよ。ていうか出しかけて引っ込めてたのはなんなんだ」
俺は特別な準備は何もしなかったが、彼は一応与えられた条件(ひさしぶりにこのゲームを遊ぶ、おそらく過去のスタンダードのデッキを持ってくる)をもとに手持ちの中では一番よさそうなデッキを選んできた、というようなことを言っていた。そんなに尖りすぎないフェアデッキがいいだろう、という結論だったらしいのだが、それはものすごく当たり前だし、だいたいあいつが普段手持ちにしているデッキは九割がたその条件に当てはまる。あとの一割はオリジナルコンボデッキの出来損ないだ。
彼はなにかちょっとほっとしたような顔をして、しかしぐずぐずと言った。「いやー、スリーヴがキャラスリのまんまだったんだよね」
ああ。あれか。
彼は普段はだいたい実用的な無地のスリーヴを使っていて、時々ウルトラプロあたりのマナシンボルとか公式のイラストとかの奴を使う程度なのだが、少し前にどうした風の吹き回しかキャラクタースリーヴを一組だけ使い出した。やったこともないカードゲームのスリーヴだったが、発売から少し日が経って投げ売りされていたのだという。「安かったしイラストが気に入ったから」買ってきたのだと本人は言っていたが、品質の方には不満があったようで、ぺらぺらだなこれ、と評していた。そのわりには普通に使っていたので、気に入っていないわけではないようだった。
「あれやっぱだめだよなあ」
肝心のイラストは、そのカードゲームに登場するらしいキャラクターで、若くてかわいい女の子で巨乳で、大雑把に言えば水着みたいな服を着ていた。
おまえ、あのイラストを会社のパソコンの壁紙に設定できるか?
俺が聞くと彼は首を横に振った。できない。
どうしてできないって考える?
……セクハラになるだろ、たぶん。
じゃあ聞くまでもねえじゃねえか。駄目だ、それは。そっち系の趣味があるんだと思われたら恥ずかしいとかめんどくさいとかいう理由なんだったらそれは個人の趣味の範疇だから、カードゲームで使うんならぜんぜん問題ないと思うぜ。でもセクハラはどこ行ってもセクハラだろ。
そうだよなあ。
ついでだから聞くけど、おまえあのスリーブサキモト相手には普通に使ってたよな?
そうなんだよ。それもひどい話だなあと思ってさ。
なにがひどい話だ、と俺は内心思ったがとりあえずは口に出さない。これまで黙っていたという意味では俺にも非がないわけでもないような気がするからだ。それに、いずれにしてもここから先はこいつの問題だ。
今日来るのかな。彼がつぶやくように言った。
サキモトなら来ねえっつってたぞ。俺は教えてやってからメールの文面を思い出した。そうか、おまえには入ってなかったんだ。
彼は後ろ手に尻ポケットに手を突っ込んで、いささか年季の入ったガラケーを引っぱりだした。ボタンを2回ほど押して、あ、おれにも来てるっぽい、と言いながら端末を開き、もう2回ボタンを押して画面に見入った。2秒ほどでその眉間にはっきりとしわが寄る。「はあ?」
なんだって?
意味がわからん。彼は言いながら首を横に振ると、黙って開いたままの携帯を手渡してきた。
ナゼ?ナニ?ハンガーバック!読
んでナゼ・ナニ・マジック検索し
てみたらまだあったからちょっと
読んでしまった。
ははは。俺は声を出して笑った。おまえにはその程度の用しかないんだな。
そういうことみたいだね。彼は意外に明るい笑みを浮かべながら自分の携帯に手を伸ばし、ポケットにしまいこんだ。
じゃあ、やるか。
いいぜ。新作組んできた。赤白タッチ青サイクリングデッキ、名付けてツール・ド・フランス。
おまえそれ絶対名前先に考えてるだろ。
いや、意外と強いから。大丈夫だから。
--
この調子でえんえんと新キャラ姿見せないままって展開もありかも。
友人が言って、俺は思わず笑った。いろいろ形容はあり得るだろうによりによってしょっぱいという単語を選ぶ辺りにセンスを感じる。
今日フルスポイラー出たけど、まあ確かにしょっぱめかねえ。
今更なに言ってやがんだ。
俺は言った。おまえ何年プレヴュー見てるんだよ。プレヴューで出てこなかったすげえカードがフルスポイラーになって突然出てくることなんてねえんだから。もう出てくるもんのインパクトはとっくにピーク越えてるんだって。
うーん、理屈ではわかってる心算なんだが。
今回で言や明らかにプレミアム神話土地だ。どんなに強いカードだってまああれのインパクトにはかなわないんだから、あれを出したらあれよりいいもんは出てこねえよ。カードパワーで言えばあれの前後に公開されたあたりが一番高いだろ、多分。ウィザーズだって早いうちにいいカード見せていっぱい予約してもらったほうがいいに決まってるんだから、もったいぶる意味がない——
「つまり奇数野郎最強ってことだ」
俺は堂々と結論を述べたが、普通に突っ込まれた。
いやあいつ出てきたのつい先週だろ。
いやーああいうわけのわからんデザイン好きでさ。わくわくするっていうか、なんだろうな、じっとしてられん感じがする。俺に対するアピール力では間違いなく最強。
それ KP 関係ないじゃん、などと彼はぶつぶつ言っていたが、俺はとりあわなかった。
「そういや一昨日、なんでマルドゥ戦士出さなかったんだよ。ていうか出しかけて引っ込めてたのはなんなんだ」
俺は特別な準備は何もしなかったが、彼は一応与えられた条件(ひさしぶりにこのゲームを遊ぶ、おそらく過去のスタンダードのデッキを持ってくる)をもとに手持ちの中では一番よさそうなデッキを選んできた、というようなことを言っていた。そんなに尖りすぎないフェアデッキがいいだろう、という結論だったらしいのだが、それはものすごく当たり前だし、だいたいあいつが普段手持ちにしているデッキは九割がたその条件に当てはまる。あとの一割はオリジナルコンボデッキの出来損ないだ。
彼はなにかちょっとほっとしたような顔をして、しかしぐずぐずと言った。「いやー、スリーヴがキャラスリのまんまだったんだよね」
ああ。あれか。
彼は普段はだいたい実用的な無地のスリーヴを使っていて、時々ウルトラプロあたりのマナシンボルとか公式のイラストとかの奴を使う程度なのだが、少し前にどうした風の吹き回しかキャラクタースリーヴを一組だけ使い出した。やったこともないカードゲームのスリーヴだったが、発売から少し日が経って投げ売りされていたのだという。「安かったしイラストが気に入ったから」買ってきたのだと本人は言っていたが、品質の方には不満があったようで、ぺらぺらだなこれ、と評していた。そのわりには普通に使っていたので、気に入っていないわけではないようだった。
「あれやっぱだめだよなあ」
肝心のイラストは、そのカードゲームに登場するらしいキャラクターで、若くてかわいい女の子で巨乳で、大雑把に言えば水着みたいな服を着ていた。
おまえ、あのイラストを会社のパソコンの壁紙に設定できるか?
俺が聞くと彼は首を横に振った。できない。
どうしてできないって考える?
……セクハラになるだろ、たぶん。
じゃあ聞くまでもねえじゃねえか。駄目だ、それは。そっち系の趣味があるんだと思われたら恥ずかしいとかめんどくさいとかいう理由なんだったらそれは個人の趣味の範疇だから、カードゲームで使うんならぜんぜん問題ないと思うぜ。でもセクハラはどこ行ってもセクハラだろ。
そうだよなあ。
ついでだから聞くけど、おまえあのスリーブサキモト相手には普通に使ってたよな?
そうなんだよ。それもひどい話だなあと思ってさ。
なにがひどい話だ、と俺は内心思ったがとりあえずは口に出さない。これまで黙っていたという意味では俺にも非がないわけでもないような気がするからだ。それに、いずれにしてもここから先はこいつの問題だ。
今日来るのかな。彼がつぶやくように言った。
サキモトなら来ねえっつってたぞ。俺は教えてやってからメールの文面を思い出した。そうか、おまえには入ってなかったんだ。
彼は後ろ手に尻ポケットに手を突っ込んで、いささか年季の入ったガラケーを引っぱりだした。ボタンを2回ほど押して、あ、おれにも来てるっぽい、と言いながら端末を開き、もう2回ボタンを押して画面に見入った。2秒ほどでその眉間にはっきりとしわが寄る。「はあ?」
なんだって?
意味がわからん。彼は言いながら首を横に振ると、黙って開いたままの携帯を手渡してきた。
ナゼ?ナニ?ハンガーバック!読
んでナゼ・ナニ・マジック検索し
てみたらまだあったからちょっと
読んでしまった。
ははは。俺は声を出して笑った。おまえにはその程度の用しかないんだな。
そういうことみたいだね。彼は意外に明るい笑みを浮かべながら自分の携帯に手を伸ばし、ポケットにしまいこんだ。
じゃあ、やるか。
いいぜ。新作組んできた。赤白タッチ青サイクリングデッキ、名付けてツール・ド・フランス。
おまえそれ絶対名前先に考えてるだろ。
いや、意外と強いから。大丈夫だから。
--
この調子でえんえんと新キャラ姿見せないままって展開もありかも。
「セットランド。どうぞ」
奴は先手の第一ターンにノータイムで《Underground Sea》を置いて、ターンを渡してきた。青いデッキを使っているのは珍しいが、さすがにこれだけでは大したことはわからない。もちろん先手1ターン目の土地を置くまでにだってさまざまな選択があるのだし、トッププレイヤーが対戦相手の挙動から驚くほど多くの情報を得ることも知識としては知っている。しかし僕にしても奴にしてもパウロ・ヴィトフ・ダモ・ダ・ホサではないのだ。一方で奴は僕が平日に適当に鞄に入れているデッキにたまたま《不毛の大地》が入っている可能性は非常に低いことを知っているし、僕は奴が初手にツンドラとアンシーを持っていたらその他のあらゆる条件に係らずおおむね 50% はツンドラを先に出してくることを知っている。ある意味では極北のメタゲームが成立しているとも言える。
僕はフェッチから《Volcanic Island》を持ってきて、《秘密を掘り下げる者》を唱えてターンを終えた。
奴の2ターン目はドローして《地底の大河》をプレイ、2マナ出して
「《ゾンビの横行》」
「あ、てめえ、アレだな」 僕は思わず口走っていた。
知ってたか。
知らいでか。
いや、ひさびさにデッキリスト見て感動して、思わず組んでしまった。簡単に組めると思ったけど意外と苦労したよ。
どこに苦労したんだよ、とは言わないでおく。おおかた《宝物探し》が見つからなかったとかそんな理由だろうし、ちゃんと4枚持っててそれを探し出せたのだとすれば僕にしてみればそちらの方が意外だ。
「で、通んのか」「……通します」「じゃあエンド」
さて、相手のデッキがわかったところで、どうするか。アップキープに《秘密を掘り下げる者》の能力がスタックに乗ったところでちょっと考える。ゾンビの横行から出してくるからには天和ハンドだろう。勝ちに行くならとりあえずこのターンはピアスを構えながらデルヴァーで殴る、なのだがさすがに大人気ないか。僕はなにもせずに誘発型能力を解決した。見たカードは《断絶》で、公開して《昆虫の逸脱者》に変身する。ドローして土地を置いて逸脱者で殴り、第二メインに《窯の悪鬼》をプレイしてターンを返した。
いいのか? 奴がにやにやしながら言い、メインフェイズに土地は置かずに《宝物探し》をプレイした。
どうぞ。僕は解決をうながした。
ライブラリのトップから土地がぺらぺらとめくれてゆく。《すべてを護るもの、母聖樹》が入っていたのには素直に感心した。ちょうど 10 枚めくれて、11 枚目に《宝物探し》が表になった。聖遺の塔を引けなかったため、母聖樹をプレイして、ゾンビを四体出し、ターンを返してきた。
僕の3ターン目、《断絶》でゾンビを一体除去し、《昆虫の逸脱者》と《窯の悪鬼》でアタック。奴が《二度裂き》しか想定せずに《悪鬼》1体でチャンプブロックしたところで《ティムールの激闘》を打つと、奴はまじまじとカードテキストを見た。
……いいカードじゃねえか。
もう負け惜しみかよ?
奴に 15 点ダメージが入る。返しのターン、奴はターンエンドに出した分も含めて四体のゾンビで僕を攻撃したあと、再度の宝物探しから 15 枚カードを手に入れた。今度は《聖遺の塔》もプレイしたが、次の僕のドローは《火+氷》だった。
「おまえに2点」「死にました。」
奴は手札の土地を広げて見せながら首をかしげた。「やっぱ弱いよなー、これ。WCMQトップ4なんてちょっと信じられんよ。」
ああ、あれは誤報だったらしいよ。
「誤報?」
僕が調べた限りでの情報だが、どうも WMCQ のデッキリスト入力担当者がひとり分リストを家に持って帰るのを忘れたことに気付いて、その時場所埋めのために仮に入力しておいたのを、更新操作をミスしてそのまま上げてしまった、というような経緯らしい。それで次の日には直したらしいのだが、その前にほかのサイトに転載されていて、そこで日本のカード屋さんが見つけて拡散した、というようなことだったようだ。
なるほどなあ。
奴はいったん言葉を切ってから、自分に言い聞かせるみたいに続けた。いやでも、あのリストを見たときのわくわくは本物だった。たとえ誤報だったとしてもだ。
リストはリストで元ネタがあったみたいね。mtggoldfish っていうサイトで、なんか6月頃には出てた記事らしいよ。
奴はさすがに咄嗟には言葉が出なかったようで、ぐぬぬと唸った。
まあでも、この手の騒ぎとしては結構幸せだったんじゃないかな、これ。けっこう多くの人が確かに一瞬盛り上がったと思うし、ほとんど誰も損してないし、狙ってもこうは巧くいかんだろうって感じがする。
カード屋は冷や汗かいたんじゃないか?
僕は言わんとするところがすぐにはわからなかった。奴は続けた。
たまたまコモンとアンコモンしか入ってないデッキだったからまあよかったけど、これで変なレアでも入ってて高騰して、それから間違いでしたとか判明してたらガセネタで値段つり上げたみたいな格好になるわけだろ。叩かれてたかも知れないぜ。
仮にそんなことが起きたとして、一軒一軒のカード屋が儲ける金額なんてたかが知れてると思うけど。
そりゃ多分正しいが、叩く奴にはそんなこと関係ないだろ。
うーん。そういうことはありうるかもしれないなあ。なるほど、ちょっと怖いね。
「ああ、よかった、ふたりともいた」
僕たちの方へ近づいてくる少し急いでいる足音を認識したのとほぼ同時に、足音の主の声が耳に入ってきた。
あなたが居ろって言ったんでしょうが。
僕が抗議すると彼女はあっさり認めた。ごめん、たしかにそうだね、ありがとう。
まあ座れよ。奴が自分の家のように言った。
彼女はちょっと逡巡したが、おとなしく僕の隣の椅子に腰を下ろした。
「みなさんにお許しをいただいたので、来週新入りさんを連れてくるよ」
そう言ってから彼女は日付を告げた。5日後、すなわち次週の水曜日だった。空けておきます、などと応じてはみたが、実のところは空けるまでもなく空いていたし、むしろそれは実のところとか言うほどの事実でもなかった。
どれぐらいやってるんだその人は。
ミラディンの傷跡からっていうから、まあけっこう最近だよね。でももう5年前なんだよ、ミラキズ。そのころつきあってた彼氏がやってて、それで始めたっていう、まあ時々聞くようなきっかけで。
あれ、女の子なのか。
僕も内心驚いたが奴に先を越されたので、とりあえず別の角度から指摘してみた。
そうとは限らないぜ。
そうだけど、女の子だよ、じっさい。
彼女が口許にやや苦笑いに似た表情を浮かべて言った。まあよろしくね。ここ2年ぐらいはほとんどさわってないらしいけど、前組んでたデッキは一応持ってるって言ってたから、とりあえず持ってきてもらうよ。だから、なんかそういうシチュエイションに適切なデッキを持ってきて。
はいよー。はい。
僕たちが口々に応じると、彼女は椅子を引いて席を立つ構えを見せた。「それじゃあ、今日はこれで。」
「なんだ、もう帰るのか。おれのスーパーシークレットネットパクリデックと対戦しないのか」
奴が言ったが彼女は笑って首を横に振り、そのまま席を立った。今日はやめとく。またこんどね。
じゃあね、と彼女はあらためて告げると、こつこつと靴音を響かせてレジのところまで歩いて行き、なにかブースターパックをひとつだけ買っているようだった。
「さて」 奴が僕の方に向き直って言った。「2本目行くか」
いや、他のデッキ出せよ。
僕が言うと奴は笑って応じた。
……やっぱそうだよな。
--
最初の回は9月に書いたらしいので今月でまる4年になるが、ゲームやってるシーンを書くのは4回目。
--
参考資料:
http://mtgpulse.com/eventrevisions/21421
担当者がデッキリストを載せたサイト。更新履歴も見られる。→http://mtgpulse.com/event/21421#302762
http://www.mtgdecks.net/decks/view/321807
転載先。ここは未だに修正されていない。
http://www.mtggoldfish.com/articles/budget-magic-18-0-5-tix-modern-zombie-hunt
Zombie Hunt の元ネタのサイト。
https://www.reddit.com/r/magicTCG/comments/3k1oq6/simon_nielsen_just_got_top4_with_treasure_hunt_in/
担当者本人が経緯を投稿していたスレッド。「ほんとにがっかりさせて申し訳ないんだけど、」とか書き出してておもろい。
--
ゲームのシーンでひどいミスしてたのでこっそり修正(2015-11-18)。恥ずかしい限り。
奴は先手の第一ターンにノータイムで《Underground Sea》を置いて、ターンを渡してきた。青いデッキを使っているのは珍しいが、さすがにこれだけでは大したことはわからない。もちろん先手1ターン目の土地を置くまでにだってさまざまな選択があるのだし、トッププレイヤーが対戦相手の挙動から驚くほど多くの情報を得ることも知識としては知っている。しかし僕にしても奴にしてもパウロ・ヴィトフ・ダモ・ダ・ホサではないのだ。一方で奴は僕が平日に適当に鞄に入れているデッキにたまたま《不毛の大地》が入っている可能性は非常に低いことを知っているし、僕は奴が初手にツンドラとアンシーを持っていたらその他のあらゆる条件に係らずおおむね 50% はツンドラを先に出してくることを知っている。ある意味では極北のメタゲームが成立しているとも言える。
僕はフェッチから《Volcanic Island》を持ってきて、《秘密を掘り下げる者》を唱えてターンを終えた。
奴の2ターン目はドローして《地底の大河》をプレイ、2マナ出して
「《ゾンビの横行》」
「あ、てめえ、アレだな」 僕は思わず口走っていた。
知ってたか。
知らいでか。
いや、ひさびさにデッキリスト見て感動して、思わず組んでしまった。簡単に組めると思ったけど意外と苦労したよ。
どこに苦労したんだよ、とは言わないでおく。おおかた《宝物探し》が見つからなかったとかそんな理由だろうし、ちゃんと4枚持っててそれを探し出せたのだとすれば僕にしてみればそちらの方が意外だ。
「で、通んのか」「……通します」「じゃあエンド」
さて、相手のデッキがわかったところで、どうするか。アップキープに《秘密を掘り下げる者》の能力がスタックに乗ったところでちょっと考える。ゾンビの横行から出してくるからには天和ハンドだろう。勝ちに行くならとりあえずこのターンはピアスを構えながらデルヴァーで殴る、なのだがさすがに大人気ないか。僕はなにもせずに誘発型能力を解決した。見たカードは《断絶》で、公開して《昆虫の逸脱者》に変身する。ドローして土地を置いて逸脱者で殴り、第二メインに《窯の悪鬼》をプレイしてターンを返した。
いいのか? 奴がにやにやしながら言い、メインフェイズに土地は置かずに《宝物探し》をプレイした。
どうぞ。僕は解決をうながした。
ライブラリのトップから土地がぺらぺらとめくれてゆく。《すべてを護るもの、母聖樹》が入っていたのには素直に感心した。ちょうど 10 枚めくれて、11 枚目に《宝物探し》が表になった。聖遺の塔を引けなかったため、母聖樹をプレイして、ゾンビを四体出し、ターンを返してきた。
僕の3ターン目、《断絶》でゾンビを一体除去し、《昆虫の逸脱者》と《窯の悪鬼》でアタック。奴が《二度裂き》しか想定せずに《悪鬼》1体でチャンプブロックしたところで《ティムールの激闘》を打つと、奴はまじまじとカードテキストを見た。
……いいカードじゃねえか。
もう負け惜しみかよ?
奴に 15 点ダメージが入る。返しのターン、奴はターンエンドに出した分も含めて四体のゾンビで僕を攻撃したあと、再度の宝物探しから 15 枚カードを手に入れた。今度は《聖遺の塔》もプレイしたが、次の僕のドローは《火+氷》だった。
「おまえに2点」「死にました。」
奴は手札の土地を広げて見せながら首をかしげた。「やっぱ弱いよなー、これ。WCMQトップ4なんてちょっと信じられんよ。」
ああ、あれは誤報だったらしいよ。
「誤報?」
僕が調べた限りでの情報だが、どうも WMCQ のデッキリスト入力担当者がひとり分リストを家に持って帰るのを忘れたことに気付いて、その時場所埋めのために仮に入力しておいたのを、更新操作をミスしてそのまま上げてしまった、というような経緯らしい。それで次の日には直したらしいのだが、その前にほかのサイトに転載されていて、そこで日本のカード屋さんが見つけて拡散した、というようなことだったようだ。
なるほどなあ。
奴はいったん言葉を切ってから、自分に言い聞かせるみたいに続けた。いやでも、あのリストを見たときのわくわくは本物だった。たとえ誤報だったとしてもだ。
リストはリストで元ネタがあったみたいね。mtggoldfish っていうサイトで、なんか6月頃には出てた記事らしいよ。
奴はさすがに咄嗟には言葉が出なかったようで、ぐぬぬと唸った。
まあでも、この手の騒ぎとしては結構幸せだったんじゃないかな、これ。けっこう多くの人が確かに一瞬盛り上がったと思うし、ほとんど誰も損してないし、狙ってもこうは巧くいかんだろうって感じがする。
カード屋は冷や汗かいたんじゃないか?
僕は言わんとするところがすぐにはわからなかった。奴は続けた。
たまたまコモンとアンコモンしか入ってないデッキだったからまあよかったけど、これで変なレアでも入ってて高騰して、それから間違いでしたとか判明してたらガセネタで値段つり上げたみたいな格好になるわけだろ。叩かれてたかも知れないぜ。
仮にそんなことが起きたとして、一軒一軒のカード屋が儲ける金額なんてたかが知れてると思うけど。
そりゃ多分正しいが、叩く奴にはそんなこと関係ないだろ。
うーん。そういうことはありうるかもしれないなあ。なるほど、ちょっと怖いね。
「ああ、よかった、ふたりともいた」
僕たちの方へ近づいてくる少し急いでいる足音を認識したのとほぼ同時に、足音の主の声が耳に入ってきた。
あなたが居ろって言ったんでしょうが。
僕が抗議すると彼女はあっさり認めた。ごめん、たしかにそうだね、ありがとう。
まあ座れよ。奴が自分の家のように言った。
彼女はちょっと逡巡したが、おとなしく僕の隣の椅子に腰を下ろした。
「みなさんにお許しをいただいたので、来週新入りさんを連れてくるよ」
そう言ってから彼女は日付を告げた。5日後、すなわち次週の水曜日だった。空けておきます、などと応じてはみたが、実のところは空けるまでもなく空いていたし、むしろそれは実のところとか言うほどの事実でもなかった。
どれぐらいやってるんだその人は。
ミラディンの傷跡からっていうから、まあけっこう最近だよね。でももう5年前なんだよ、ミラキズ。そのころつきあってた彼氏がやってて、それで始めたっていう、まあ時々聞くようなきっかけで。
あれ、女の子なのか。
僕も内心驚いたが奴に先を越されたので、とりあえず別の角度から指摘してみた。
そうとは限らないぜ。
そうだけど、女の子だよ、じっさい。
彼女が口許にやや苦笑いに似た表情を浮かべて言った。まあよろしくね。ここ2年ぐらいはほとんどさわってないらしいけど、前組んでたデッキは一応持ってるって言ってたから、とりあえず持ってきてもらうよ。だから、なんかそういうシチュエイションに適切なデッキを持ってきて。
はいよー。はい。
僕たちが口々に応じると、彼女は椅子を引いて席を立つ構えを見せた。「それじゃあ、今日はこれで。」
「なんだ、もう帰るのか。おれのスーパーシークレットネットパクリデックと対戦しないのか」
奴が言ったが彼女は笑って首を横に振り、そのまま席を立った。今日はやめとく。またこんどね。
じゃあね、と彼女はあらためて告げると、こつこつと靴音を響かせてレジのところまで歩いて行き、なにかブースターパックをひとつだけ買っているようだった。
「さて」 奴が僕の方に向き直って言った。「2本目行くか」
いや、他のデッキ出せよ。
僕が言うと奴は笑って応じた。
……やっぱそうだよな。
--
最初の回は9月に書いたらしいので今月でまる4年になるが、ゲームやってるシーンを書くのは4回目。
--
参考資料:
http://mtgpulse.com/eventrevisions/21421
担当者がデッキリストを載せたサイト。更新履歴も見られる。→http://mtgpulse.com/event/21421#302762
http://www.mtgdecks.net/decks/view/321807
転載先。ここは未だに修正されていない。
http://www.mtggoldfish.com/articles/budget-magic-18-0-5-tix-modern-zombie-hunt
Zombie Hunt の元ネタのサイト。
https://www.reddit.com/r/magicTCG/comments/3k1oq6/simon_nielsen_just_got_top4_with_treasure_hunt_in/
担当者本人が経緯を投稿していたスレッド。「ほんとにがっかりさせて申し訳ないんだけど、」とか書き出してておもろい。
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ゲームのシーンでひどいミスしてたのでこっそり修正(2015-11-18)。恥ずかしい限り。
そこを深い溝が縦横に走り(プレミアム神話レアの封入率)
2015年9月6日 ポエム コメント (6)「やっぱ戦乱のゼンディカーの土地がちょっとしょっぱいからこういうの入れることにしたのかな」
彼女がスマートフォンを見ながら言った。
「え、しょっぱいかな、あれ——」
僕は言ってからあれの適切な呼び名が決まっていないことに気付いた。「——あれ、なんて呼べばいいんだろう。三枚目ランド?」
きみほんとネーミングセンス悪いよね。
彼女に一点の緩みもない真顔で言われてさすがに僕もなにか悪いことをしたような気に一瞬なった。「……三枚目だけにね」
「やかましい」
……まあ、1ターン目と2ターン目にはほぼタップインなわけだからテンポは悪いか。基本地形とフェッチランドをある程度採用してないと3ターン目4ターン目でも全然タップインするし、そう考えるとかなり厳しいかもね。
うん。もちろん使ってみなきゃわからないし、フェッチで持って来られるからスタンダードでは使われるだろうけど、それ以上は難しいと思う。それより、これだよこれ。
彼女はスマートフォンを僕との間に差し出し、画面を見せてくれた。今回のセットの商業的な目玉、プレミアム神話レア土地が並んでいる。僕はコレクターにはほど遠いし、可処分所得的にもこういうカードを集める能力はない。にもかかわらずそのフルアートの土地は魅力的だった。プロモカードで度重なるマイナーチェンジを続けてデザインを洗練させてきたフルアートカードの、ひとつの集大成と言うべき作品群だ。
これって封入率どれぐらいなんだっけ。
神話レアのフォイルよりちょっと多いぐらいって話だけどね。神話レアのフォイルの封入率は……。
言いながら彼女はスマートフォンを手にとって検索を始めた。……1ボックスあたりの期待値が 0.44 枚っていうのが出てきたな(http://shimonkinonly.diarynote.jp/201508311046253470/)。
多くない??
そうだよねえ。これだとレアのフォイルがボックスから4枚近く出る計算になるもんね。
彼女は再び検索した。大体1カートンに1〜2枚程度って言ってるひともいる(http://81428.diarynote.jp/201509011209333839/)。カートンって何ボックスだっけ?
6ボックス。
……だとすると、これぐらいが妥当な気がするなあ。
だよね。
わたしの感覚だと、ボックスあたりレア以上のフォイルが大体1枚は入ってて、運がいいと2枚って感じがする。そのうち 1/8 が神話だとすると、6ボックスあればまあ1枚か2枚ぐらいになるよね。
彼女はちょっとうつむいて頬に指を当てると、少し考えてから、顔を上げて言った。
ここまで来たら、どうしてその割合になるのか、大雑把にでも確率を推定してみたいな。
うーん。何パックに一枚フォイルが入ってるかは統計的にしか知りようがないから、考えるだけで推定しようとするとわりと不毛なことになっちゃう気もするけど。
じゃあ、一歩戻って、フォイルが入ってたとしたら、そのフォイルのレアリティの出現度合いはどうあるべきか、だったらどう?
それだったらまだできるかもね。
よし。
彼女は小さくうなずいて、そして続けた。
「単純に考えれば、パック内の封入比率とおんなじであってほしいよね。コモンが 11/16、アンコモンが 3/16、レアと神話レアが 1/16、基本土地が 1/16。」
これはおおむね妥当だと思う。
「でも、コモンとアンコモンって、フォイルのアンカットシートには基本土地も一緒に刷られてるよね」
「あれ、そうなんだっけ?」
トーナメントのサイドイベントの賞品などで時折登場するアンカットシートはレア/神話レアのものが多く、コモンやアンコモンのアンカットシートは中々見られないが、それでも皆無ではない。
「そういえば、前ラヴニカへの帰還のアンコモンのフォイルのアンカットシートが海外のオークションに出てたよね。あれも基本土地が入ってたんだったっけか」
言うなり彼女はスマートフォンで検索を始め、すぐに目的の画像に到達した。やはりそうだった。11x11 枚のアンカットシートに、40 種類のラヴニカへの帰還のアンコモンと基本土地5種1枚ずつがそれぞれ入り混じった配置で2回ずつ割り付けられ、下の方は実に 31 枚分のブランク(フィラー)が並んでいる奇妙なシートだ。
他にも、僕が以前ネットで見たことがあるエルドラージ覚醒のコモンフォイルのアンカットシートには、やはり基本土地が散らされて挿入されていた。散らされているということは、単に同時に刷っているだけではなくて、ブースターに挿入されるときも同じスロットに入っていると考えるべきだろう。
「ん、でもこれでちょっと真実に近づいたかも。さっきの比率だとレア/神話レアとおんなじだから、ボックスあたり1〜2枚ってことになっちゃって、それだといくらなんでも少ない気がしてたから。」
これが一般的だとすると、コモンとアンコモンのスロットのうちいくらかは基本土地が入っていることになる。サンプルがひとつずつしかないが、とりあえずそれを採用するならコモンの 20/121、アンコモンの 1/9 が基本土地だ。20/121 はさすがに細かくなってしまうのでここは 1/6 で近似する。
「それとは別に、基本土地だけのアンカットシートがあると思う?」 僕は訊いた。これが無いなら分母も減らさなければならない。
「ここはあるってことで行きたいんだよね。今後の論旨にも影響するので」
よくわからないが、ではあるということにして、その前提でもう一度計算してみる。コモンは (5/6)*(11/16) だから 55/96。アンコモンは (8/9)*(3/16) で 16/96。基本土地は (1/6)*(11/16)+(1/9)*(3/16)+1/16 = 19/96。残りのレア/神話レアは 6/96 となる、ので計算は合っていそうだ。神話レアはこの 1/8 なのだから、1/16*8 = 1/128。フォイルのうち 128 枚に1枚が神話レア。
まあ、元にした仮定を考えれば 16*8 だから 1/128 に決まっているのだが。
「それで、ここからはわたしの仮説」
彼女はわずかに座り直した。テーブルの下でレインブーツの靴底がタイルにこすれるぎゅっという音がした。
いや、ここまでも全部仮説だぜ、という科白を僕は飲み込む。
……えへん。
彼女は芝居がかった咳払いをした。今回のプレミアム土地は基本土地のシートに入るんじゃないかな。
どうしてそう思う。
神話レアのフォイルよりちょっと出やすいぐらい、って情報が出てるでしょ。たぶんそれって1枚あたりじゃないと思うんだよね。だとすれば、アンカットシート的な意味での封入率は同じで、種類が 25 種類ある分 15 種類である神話レアよりちょっと出やすい。次のセットでも 20 種類だっていうから、多分小型セットだから神話レアは 10 種類で、やっぱりそれよりは出やすい。……ってことなんじゃないかなあ。
結構いい線かもね。でも、必ずしも基本土地のシートじゃなくてもいいよね、それだと。
それはそう。そうなんだけど、じゃあ余った部分どうするのかなっていうのがちょっとあって。121 枚ほぼびっしり埋まってないとこの計算成り立たなくなっちゃうので、残りは基本土地で埋まってる方が都合がいいのです。
なるほど。
「というわけでそれで計算すると、……かなり丸めてるから細かい誤差はあるけど、」 言いながら彼女は式を書きつけた。
(1/128)*(25/15) = 5/384 ≒ 1/77
「……普通にもっともらしいなこれ」
「……だよね」
それで、また戻って。これはフォイルが入ってた場合の出現率だから、全体に対する封入率を出すには、何パックに一枚フォイルが入ってるのかを推定しなくちゃならない。
「1ボックスに一枚ぐらいはレア/神話レアのフォイルが入ってるとすると、1/16 って仮定だと2パックに一枚ぐらいって計算になる」
「んー。32 と、4パックだから、期待値が 1.125 か。」
彼女は顔をしかめた。「それはそんなものかも知れないけど、1ボックス剥いてフォイルが 18 枚出るのはさすがに多すぎる気がするなー」
たしかにそうだ。個人的な感覚では昔よりフォイルは出やすくなっている気はするのだが、それにしても 1/2 までは行かないようにも思う。
でも、シールドで3枚フォイルを引くと考えると、まあそれぐらい入ってそうな気もしない?
僕が訊くと彼女は苦笑いを浮かべて応じた。そうかもしれない。人間っていいかげんなもんだねえ。
まあじゃあ気前よく 1/2 ということにしまして。
しましょう。
「1/154」
強引な推定を進めて、ひとまずたどり着いた数。154 パックに1枚だから、およそ 4.3 ボックスに1枚というところか。なんとなくもっともらしい確率に思えるのは、たぶん僕たちが長々と考えたり計算してきたりしたからだろう。
そしてもちろん、ここまでの計算には改善の余地がある。ひとつは最初に仮定したフォイルが入っていた場合の各レアリティの出現率。もうひとつは、何パックに1枚フォイルが入っているかの割合。統計的にある程度以上信頼できる数を割り出そうと思えばかなりのパックを剥かなければならないだろうが、だいたいの割合でいいということであれば 20 ボックスぐらいでそれなりの精度にはなると思う。とはいえ、ショップはたとえそんな分析をしたとしても決して結果は教えてくれないだろうし、さすがに個人で買えるような数ではない。
「うん、ここまでかな」
彼女は満足げな笑みを浮かべて小さくうなずくと、椅子を小さく引いてバッグにメモやボールペンをしまいはじめた。
あれ、もう帰るの。
今日はね。予定があって。
あっさりと言うと、すっと立ち上がった。それから座っている僕をまっすぐ見下ろして、口を開きかけてからちょっとためらって、聞いてきた。
——今度、新入り連れてきてもいいかな。会社の後輩なんだけど。
僕は何故そんなことをわざわざ聞かれるのかよくわからなかった。いいよもちろん。なんで?
いちおう聞いといたほうがいいと思って。
奴らには聞いたの。
オオジマくんは聞いた。カナイくんはこれから。
ふうん。
じゃあね。
彼女は片手をちらっとだけ挙げると、踵をかえしてデュエルスペースの出口の方へ歩き出した。僕はそれを座ったままぼんやりと見送った。
歩み去る靴音が妙に大きく聞こえた。
--
いくつか補足しておきたいこともあるのだけど、眠いので後日追記する予定。
--
以下追記(2015-09-07)
前回も書きましたが、当ブログの「ポエム」というカテゴリにあるエントリは基本的に筆者の妄想です。マジックに関することでは大きな嘘は書いていないつもりですが、内容の保証はしかねます。この手の題材だと毎度書くべきですね、たぶん。
さっそくコメント欄でひとつ情報をいただいてまして、フォイル(プレミアムカード)の封入率は「67 枚に1枚の割合」なのだそうです。これだとおおむね 4.2 パックに1枚というところになります。そのうちレア/神話レアの占有率が 1/16 だとすると少し少なすぎる気がするので、おそらくどこかで仮定が間違っているのでしょう。たぶんその 1/16 というところが違うのだと思いますが、そこはまとまった数を剥かないと推定しようのない数字なので当方ではこれ以上はなんとも。
というわけで、皆さんもご自分で封入率を妄想してみるといろいろ面白いと思います。それで何らかの数値に辿り着かれたらちょっと DN に書いたりしていただくと、個人的には楽しいかなあと。
彼女がスマートフォンを見ながら言った。
「え、しょっぱいかな、あれ——」
僕は言ってからあれの適切な呼び名が決まっていないことに気付いた。「——あれ、なんて呼べばいいんだろう。三枚目ランド?」
きみほんとネーミングセンス悪いよね。
彼女に一点の緩みもない真顔で言われてさすがに僕もなにか悪いことをしたような気に一瞬なった。「……三枚目だけにね」
「やかましい」
……まあ、1ターン目と2ターン目にはほぼタップインなわけだからテンポは悪いか。基本地形とフェッチランドをある程度採用してないと3ターン目4ターン目でも全然タップインするし、そう考えるとかなり厳しいかもね。
うん。もちろん使ってみなきゃわからないし、フェッチで持って来られるからスタンダードでは使われるだろうけど、それ以上は難しいと思う。それより、これだよこれ。
彼女はスマートフォンを僕との間に差し出し、画面を見せてくれた。今回のセットの商業的な目玉、プレミアム神話レア土地が並んでいる。僕はコレクターにはほど遠いし、可処分所得的にもこういうカードを集める能力はない。にもかかわらずそのフルアートの土地は魅力的だった。プロモカードで度重なるマイナーチェンジを続けてデザインを洗練させてきたフルアートカードの、ひとつの集大成と言うべき作品群だ。
これって封入率どれぐらいなんだっけ。
神話レアのフォイルよりちょっと多いぐらいって話だけどね。神話レアのフォイルの封入率は……。
言いながら彼女はスマートフォンを手にとって検索を始めた。……1ボックスあたりの期待値が 0.44 枚っていうのが出てきたな(http://shimonkinonly.diarynote.jp/201508311046253470/)。
多くない??
そうだよねえ。これだとレアのフォイルがボックスから4枚近く出る計算になるもんね。
彼女は再び検索した。大体1カートンに1〜2枚程度って言ってるひともいる(http://81428.diarynote.jp/201509011209333839/)。カートンって何ボックスだっけ?
6ボックス。
……だとすると、これぐらいが妥当な気がするなあ。
だよね。
わたしの感覚だと、ボックスあたりレア以上のフォイルが大体1枚は入ってて、運がいいと2枚って感じがする。そのうち 1/8 が神話だとすると、6ボックスあればまあ1枚か2枚ぐらいになるよね。
彼女はちょっとうつむいて頬に指を当てると、少し考えてから、顔を上げて言った。
ここまで来たら、どうしてその割合になるのか、大雑把にでも確率を推定してみたいな。
うーん。何パックに一枚フォイルが入ってるかは統計的にしか知りようがないから、考えるだけで推定しようとするとわりと不毛なことになっちゃう気もするけど。
じゃあ、一歩戻って、フォイルが入ってたとしたら、そのフォイルのレアリティの出現度合いはどうあるべきか、だったらどう?
それだったらまだできるかもね。
よし。
彼女は小さくうなずいて、そして続けた。
「単純に考えれば、パック内の封入比率とおんなじであってほしいよね。コモンが 11/16、アンコモンが 3/16、レアと神話レアが 1/16、基本土地が 1/16。」
これはおおむね妥当だと思う。
「でも、コモンとアンコモンって、フォイルのアンカットシートには基本土地も一緒に刷られてるよね」
「あれ、そうなんだっけ?」
トーナメントのサイドイベントの賞品などで時折登場するアンカットシートはレア/神話レアのものが多く、コモンやアンコモンのアンカットシートは中々見られないが、それでも皆無ではない。
「そういえば、前ラヴニカへの帰還のアンコモンのフォイルのアンカットシートが海外のオークションに出てたよね。あれも基本土地が入ってたんだったっけか」
言うなり彼女はスマートフォンで検索を始め、すぐに目的の画像に到達した。やはりそうだった。11x11 枚のアンカットシートに、40 種類のラヴニカへの帰還のアンコモンと基本土地5種1枚ずつがそれぞれ入り混じった配置で2回ずつ割り付けられ、下の方は実に 31 枚分のブランク(フィラー)が並んでいる奇妙なシートだ。
他にも、僕が以前ネットで見たことがあるエルドラージ覚醒のコモンフォイルのアンカットシートには、やはり基本土地が散らされて挿入されていた。散らされているということは、単に同時に刷っているだけではなくて、ブースターに挿入されるときも同じスロットに入っていると考えるべきだろう。
「ん、でもこれでちょっと真実に近づいたかも。さっきの比率だとレア/神話レアとおんなじだから、ボックスあたり1〜2枚ってことになっちゃって、それだといくらなんでも少ない気がしてたから。」
これが一般的だとすると、コモンとアンコモンのスロットのうちいくらかは基本土地が入っていることになる。サンプルがひとつずつしかないが、とりあえずそれを採用するならコモンの 20/121、アンコモンの 1/9 が基本土地だ。20/121 はさすがに細かくなってしまうのでここは 1/6 で近似する。
「それとは別に、基本土地だけのアンカットシートがあると思う?」 僕は訊いた。これが無いなら分母も減らさなければならない。
「ここはあるってことで行きたいんだよね。今後の論旨にも影響するので」
よくわからないが、ではあるということにして、その前提でもう一度計算してみる。コモンは (5/6)*(11/16) だから 55/96。アンコモンは (8/9)*(3/16) で 16/96。基本土地は (1/6)*(11/16)+(1/9)*(3/16)+1/16 = 19/96。残りのレア/神話レアは 6/96 となる、ので計算は合っていそうだ。神話レアはこの 1/8 なのだから、1/16*8 = 1/128。フォイルのうち 128 枚に1枚が神話レア。
まあ、元にした仮定を考えれば 16*8 だから 1/128 に決まっているのだが。
「それで、ここからはわたしの仮説」
彼女はわずかに座り直した。テーブルの下でレインブーツの靴底がタイルにこすれるぎゅっという音がした。
いや、ここまでも全部仮説だぜ、という科白を僕は飲み込む。
……えへん。
彼女は芝居がかった咳払いをした。今回のプレミアム土地は基本土地のシートに入るんじゃないかな。
どうしてそう思う。
神話レアのフォイルよりちょっと出やすいぐらい、って情報が出てるでしょ。たぶんそれって1枚あたりじゃないと思うんだよね。だとすれば、アンカットシート的な意味での封入率は同じで、種類が 25 種類ある分 15 種類である神話レアよりちょっと出やすい。次のセットでも 20 種類だっていうから、多分小型セットだから神話レアは 10 種類で、やっぱりそれよりは出やすい。……ってことなんじゃないかなあ。
結構いい線かもね。でも、必ずしも基本土地のシートじゃなくてもいいよね、それだと。
それはそう。そうなんだけど、じゃあ余った部分どうするのかなっていうのがちょっとあって。121 枚ほぼびっしり埋まってないとこの計算成り立たなくなっちゃうので、残りは基本土地で埋まってる方が都合がいいのです。
なるほど。
「というわけでそれで計算すると、……かなり丸めてるから細かい誤差はあるけど、」 言いながら彼女は式を書きつけた。
(1/128)*(25/15) = 5/384 ≒ 1/77
「……普通にもっともらしいなこれ」
「……だよね」
それで、また戻って。これはフォイルが入ってた場合の出現率だから、全体に対する封入率を出すには、何パックに一枚フォイルが入ってるのかを推定しなくちゃならない。
「1ボックスに一枚ぐらいはレア/神話レアのフォイルが入ってるとすると、1/16 って仮定だと2パックに一枚ぐらいって計算になる」
「んー。32 と、4パックだから、期待値が 1.125 か。」
彼女は顔をしかめた。「それはそんなものかも知れないけど、1ボックス剥いてフォイルが 18 枚出るのはさすがに多すぎる気がするなー」
たしかにそうだ。個人的な感覚では昔よりフォイルは出やすくなっている気はするのだが、それにしても 1/2 までは行かないようにも思う。
でも、シールドで3枚フォイルを引くと考えると、まあそれぐらい入ってそうな気もしない?
僕が訊くと彼女は苦笑いを浮かべて応じた。そうかもしれない。人間っていいかげんなもんだねえ。
まあじゃあ気前よく 1/2 ということにしまして。
しましょう。
「1/154」
強引な推定を進めて、ひとまずたどり着いた数。154 パックに1枚だから、およそ 4.3 ボックスに1枚というところか。なんとなくもっともらしい確率に思えるのは、たぶん僕たちが長々と考えたり計算してきたりしたからだろう。
そしてもちろん、ここまでの計算には改善の余地がある。ひとつは最初に仮定したフォイルが入っていた場合の各レアリティの出現率。もうひとつは、何パックに1枚フォイルが入っているかの割合。統計的にある程度以上信頼できる数を割り出そうと思えばかなりのパックを剥かなければならないだろうが、だいたいの割合でいいということであれば 20 ボックスぐらいでそれなりの精度にはなると思う。とはいえ、ショップはたとえそんな分析をしたとしても決して結果は教えてくれないだろうし、さすがに個人で買えるような数ではない。
「うん、ここまでかな」
彼女は満足げな笑みを浮かべて小さくうなずくと、椅子を小さく引いてバッグにメモやボールペンをしまいはじめた。
あれ、もう帰るの。
今日はね。予定があって。
あっさりと言うと、すっと立ち上がった。それから座っている僕をまっすぐ見下ろして、口を開きかけてからちょっとためらって、聞いてきた。
——今度、新入り連れてきてもいいかな。会社の後輩なんだけど。
僕は何故そんなことをわざわざ聞かれるのかよくわからなかった。いいよもちろん。なんで?
いちおう聞いといたほうがいいと思って。
奴らには聞いたの。
オオジマくんは聞いた。カナイくんはこれから。
ふうん。
じゃあね。
彼女は片手をちらっとだけ挙げると、踵をかえしてデュエルスペースの出口の方へ歩き出した。僕はそれを座ったままぼんやりと見送った。
歩み去る靴音が妙に大きく聞こえた。
--
いくつか補足しておきたいこともあるのだけど、眠いので後日追記する予定。
--
以下追記(2015-09-07)
前回も書きましたが、当ブログの「ポエム」というカテゴリにあるエントリは基本的に筆者の妄想です。マジックに関することでは大きな嘘は書いていないつもりですが、内容の保証はしかねます。この手の題材だと毎度書くべきですね、たぶん。
さっそくコメント欄でひとつ情報をいただいてまして、フォイル(プレミアムカード)の封入率は「67 枚に1枚の割合」なのだそうです。これだとおおむね 4.2 パックに1枚というところになります。そのうちレア/神話レアの占有率が 1/16 だとすると少し少なすぎる気がするので、おそらくどこかで仮定が間違っているのでしょう。たぶんその 1/16 というところが違うのだと思いますが、そこはまとまった数を剥かないと推定しようのない数字なので当方ではこれ以上はなんとも。
というわけで、皆さんもご自分で封入率を妄想してみるといろいろ面白いと思います。それで何らかの数値に辿り着かれたらちょっと DN に書いたりしていただくと、個人的には楽しいかなあと。
さらばブロック構築(番外編)
2015年5月28日 ポエム コメント (2)「タルキールのブロック構築、全然人が集まらないらしいな」
奴が言った。「とうとうイベントそのものまでなくなっちまったのか。ひでえな」
そういえばそんなような話は目にしたことがあった。運命再編が入って以来 MO の DE が一度も成立していないとかなんとか。まだその状況が続いてたのか……と僕はぼんやり思ったが、それと同時に腑に落ちたような感覚もあった。
「イベント開くこと自体にはほとんどコストかからないだろうに、なんでやめちゃうんだろうね」 彼女が言う。
僕は考えを整理しながら訊いた。「ブロック構築って、そもそもなんのためのフォーマットだと思う?」
面白えじゃん、と奴が間髪を入れずに応じた。
なんのためか訊いてるんだっつーの。
面白いことが存在理由じゃいけねえのかよ。トレーディングカードゲームの存在意義否定かよ。
そうは言ってないだろ。
「次のスタンダード環境を占うための実験場、でしょ」
不毛な言い争いを断ち切るように彼女が言った。「きみが言ってたんじゃないか」
「その通り」
一般的にはあまり人気の高いフォーマットとは言えないけど(面白えのに、と奴がしつこく言うのを僕は無視した)、主にR&D的な事情で大事にされてきた。実際にブロック構築から生まれたスタンダードのデッキもたくさんある。少なくともそういう風に言われてきたし、だいたいは事実に近かったんじゃないかと思う。
「でも秋からはそうはならなくなる。ブロック構築で次期のスタンダードを占うのは難しくなる」
ここまで言えば彼女は察したようだった。この辺りはさすがだ。
「ローテーションが変わるからか」
「その通り。これまでは新しいスタンダードのカードプールの半分ぐらいはいっこ前のブロックのカードだった。基本セットのカードの影響が限定的であることを考えれば、実質的な占有率はもっと大きい。それが新しいローテーションになるとかなり下がる」
「……正味で4割ぐらいかな?」 彼女は手元に何か書きつけながら言った。
だいたいそんなものだろう。基本セットはなくなるのでほぼ占有率が影響力に近くなる筈だが、それでも半分を切る。それに、ひとつ前のブロックが丸々残るのもこれまでと違うところだ。つまるところ、ブロック構築のデッキはスタンダードのメタゲームにはこれまでのようにはリンクしなくなってくるに違いない。……というようなことを僕は説明した。
「なるほどねえ」
彼女はうなずいた。「それに、そもそも年2回ブロック構築のプロツアーやるわけにもいかないもんね。実験場としてはプロツアーじゃないと意味がないし、プロツアーは年に4回しかない」
「現実的な理由としてはそれもあるだろうね」
僕は肯いた。
「じゃあどうなるんだ、ブロック構築」
奴が訊いた。
「一番ありそうなシナリオは、このままなし崩し的に無くなる」
僕は正直に言った。
「まじか」
「まじだ」
腑に落ちたというのは、つまりウィザーズ社はもうブロック構築を必要としていないんだ、というのが突然わかったからだ。
秋にローテーションの変更を聞いたときにも、ブロック構築がこれまで通りには運用できないだろうということはわかっていた。それでも僕はなんとなくブロック構築そのものは存続するんじゃないかと思っていた。でもそれはもはや根拠のないことだった。冷静に考えれば、ブロック構築が廃止される――廃止までする必要はないが、主要フォーマットからは外されるほうが、ずっと筋が通っている。
「特にてこ入れとかアナウンスとかもなくて、なんか淡々と開催予定から消えてるような話だったから、もう無理に維持する必要も感じてないんじゃないかな」
「でも廃止までする必要はないんじゃねえの?」 奴は言った。「MO でもカジュアルなフォーマット色々あるんだろ。モミールとかポーパーとか」
「じゃあ訊くが、エクステンディッドっていまどうなってるか知ってるかね」
「…………死んだ?」
「あれ、フォーマットとしては残ってるんじゃなかった?」
ふたりの回答は分かれた。この問いに自信を持って答えられる人はそれほど多くないのではないかと思う。
「正解は『一昨年の7月に正式に終了した』。競技フォーマットだったからサポートはされてたし、正式に終了するまでは申請すれば公認の大会も開けた。でも、プレミアイベントから外れてからは誰も見向きもしなかっただろ。ただでさえ人気があるとは言えないブロック構築がプロツアーから外れたら、まあどうなるかはお察しだ」
「ぐぬぬ」
奴はしかしなおも粘った。「でもそうなるとプロツアーの構築フォーマットってモダンとスタンダードのテレコにならねえか? それでいいのか?」
「もうなりつつあるんだよ、すでに」 僕は応じた。「ここ何年か、プロツアーはスタンダード、モダン、ブロック構築ってローテーションで開催されてた。それが、去年のニクスへの旅を最後にブロック構築のプロツアーは開催されてない。本来ブロック構築の順番だった筈のタルキール龍紀伝もスタンダードだった。グランプリも年に1回は辛うじてやってたのが今シーズンはやってない。もうはっきりしてたんだよ。気付くのが遅すぎたぐらいだ」
「でもこんな終わり方じゃあんまりじゃない?」
彼女は言った。「歴史もあるし、数々の名勝負を生んだフォーマットなのに」
「もちろんウィザーズだってこのブロック終わるまでは普通にやるつもりだったと思うよ」 僕は応じた。「今やってないのは単に卓が立たなさすぎて止めただけで、ブロック構築を終了することとは多分関係ない。」
そのふたつの事象は直接の原因は独立だが、もしかすると関係はあるかも知れない。ブロック構築をフォーマットとして想定せずにデザイン/デヴェロップされた環境ではやはりブロック構築は面白くなりようがない、という可能性は充分ある。だがいずれにしても、DE が成立しなくなってフォーマットごとフェイドアウトする、なんて結末をウィザーズが意図していたとは考えられない。
「そうかー。」 奴が珍しく本気で感慨深そうに言った。「好きだったけどなあ、ブロック構築」
「でももうここ何年もやってないだろ、ブロック構築なんて」
まあそうなんだけどさ。言いながら奴は苦笑いを浮かべた。
「それにまだ、決まったわけではないよね」
彼女がいちおう、という感じで言った。
遅くとも、秋にはすべてが判る。おそらくは夏までには正式な発表があるだろう。少しカードパワーの落ちる、狭いプールで繰り広げられるメタゲームには独特の味わいがあった。ズヴィ・モーショヴィッツも一番好きなフォーマットに挙げていたことがあった筈だ。もう二度とブロック構築シーズンが来ないのだとすれば、到底熱心なファンとは言えなかった僕にとっても、やはりいくばくかの寂しさがあるのは否めなかった。まして最後の季節が昨年のうちに終わってしまったのだとすれば、それはいささか不当過ぎる扱いのような気はするのだ。
---
このエントリは以下のエントリに触発されて書きました。だいぶ時間がかかってしまいましたが。
http://mtgmtg.diarynote.jp/201504071143234639/
【悲報】タルキール覇王譚ブロック構築、遂に消滅する -- タルキール覇王譚ブロック構築のブログ
また、MO の DE の動向については下のブログを参考にしました。
http://eiseal.diarynote.jp/
当ブログの「ポエム」というカテゴリにあるエントリは基本的に筆者の妄想であり、マジックに関することでは大きな嘘は書いていないつもりですが、内容の保証はしかねます。
奴が言った。「とうとうイベントそのものまでなくなっちまったのか。ひでえな」
そういえばそんなような話は目にしたことがあった。運命再編が入って以来 MO の DE が一度も成立していないとかなんとか。まだその状況が続いてたのか……と僕はぼんやり思ったが、それと同時に腑に落ちたような感覚もあった。
「イベント開くこと自体にはほとんどコストかからないだろうに、なんでやめちゃうんだろうね」 彼女が言う。
僕は考えを整理しながら訊いた。「ブロック構築って、そもそもなんのためのフォーマットだと思う?」
面白えじゃん、と奴が間髪を入れずに応じた。
なんのためか訊いてるんだっつーの。
面白いことが存在理由じゃいけねえのかよ。トレーディングカードゲームの存在意義否定かよ。
そうは言ってないだろ。
「次のスタンダード環境を占うための実験場、でしょ」
不毛な言い争いを断ち切るように彼女が言った。「きみが言ってたんじゃないか」
「その通り」
一般的にはあまり人気の高いフォーマットとは言えないけど(面白えのに、と奴がしつこく言うのを僕は無視した)、主にR&D的な事情で大事にされてきた。実際にブロック構築から生まれたスタンダードのデッキもたくさんある。少なくともそういう風に言われてきたし、だいたいは事実に近かったんじゃないかと思う。
「でも秋からはそうはならなくなる。ブロック構築で次期のスタンダードを占うのは難しくなる」
ここまで言えば彼女は察したようだった。この辺りはさすがだ。
「ローテーションが変わるからか」
「その通り。これまでは新しいスタンダードのカードプールの半分ぐらいはいっこ前のブロックのカードだった。基本セットのカードの影響が限定的であることを考えれば、実質的な占有率はもっと大きい。それが新しいローテーションになるとかなり下がる」
「……正味で4割ぐらいかな?」 彼女は手元に何か書きつけながら言った。
だいたいそんなものだろう。基本セットはなくなるのでほぼ占有率が影響力に近くなる筈だが、それでも半分を切る。それに、ひとつ前のブロックが丸々残るのもこれまでと違うところだ。つまるところ、ブロック構築のデッキはスタンダードのメタゲームにはこれまでのようにはリンクしなくなってくるに違いない。……というようなことを僕は説明した。
「なるほどねえ」
彼女はうなずいた。「それに、そもそも年2回ブロック構築のプロツアーやるわけにもいかないもんね。実験場としてはプロツアーじゃないと意味がないし、プロツアーは年に4回しかない」
「現実的な理由としてはそれもあるだろうね」
僕は肯いた。
「じゃあどうなるんだ、ブロック構築」
奴が訊いた。
「一番ありそうなシナリオは、このままなし崩し的に無くなる」
僕は正直に言った。
「まじか」
「まじだ」
腑に落ちたというのは、つまりウィザーズ社はもうブロック構築を必要としていないんだ、というのが突然わかったからだ。
秋にローテーションの変更を聞いたときにも、ブロック構築がこれまで通りには運用できないだろうということはわかっていた。それでも僕はなんとなくブロック構築そのものは存続するんじゃないかと思っていた。でもそれはもはや根拠のないことだった。冷静に考えれば、ブロック構築が廃止される――廃止までする必要はないが、主要フォーマットからは外されるほうが、ずっと筋が通っている。
「特にてこ入れとかアナウンスとかもなくて、なんか淡々と開催予定から消えてるような話だったから、もう無理に維持する必要も感じてないんじゃないかな」
「でも廃止までする必要はないんじゃねえの?」 奴は言った。「MO でもカジュアルなフォーマット色々あるんだろ。モミールとかポーパーとか」
「じゃあ訊くが、エクステンディッドっていまどうなってるか知ってるかね」
「…………死んだ?」
「あれ、フォーマットとしては残ってるんじゃなかった?」
ふたりの回答は分かれた。この問いに自信を持って答えられる人はそれほど多くないのではないかと思う。
「正解は『一昨年の7月に正式に終了した』。競技フォーマットだったからサポートはされてたし、正式に終了するまでは申請すれば公認の大会も開けた。でも、プレミアイベントから外れてからは誰も見向きもしなかっただろ。ただでさえ人気があるとは言えないブロック構築がプロツアーから外れたら、まあどうなるかはお察しだ」
「ぐぬぬ」
奴はしかしなおも粘った。「でもそうなるとプロツアーの構築フォーマットってモダンとスタンダードのテレコにならねえか? それでいいのか?」
「もうなりつつあるんだよ、すでに」 僕は応じた。「ここ何年か、プロツアーはスタンダード、モダン、ブロック構築ってローテーションで開催されてた。それが、去年のニクスへの旅を最後にブロック構築のプロツアーは開催されてない。本来ブロック構築の順番だった筈のタルキール龍紀伝もスタンダードだった。グランプリも年に1回は辛うじてやってたのが今シーズンはやってない。もうはっきりしてたんだよ。気付くのが遅すぎたぐらいだ」
「でもこんな終わり方じゃあんまりじゃない?」
彼女は言った。「歴史もあるし、数々の名勝負を生んだフォーマットなのに」
「もちろんウィザーズだってこのブロック終わるまでは普通にやるつもりだったと思うよ」 僕は応じた。「今やってないのは単に卓が立たなさすぎて止めただけで、ブロック構築を終了することとは多分関係ない。」
そのふたつの事象は直接の原因は独立だが、もしかすると関係はあるかも知れない。ブロック構築をフォーマットとして想定せずにデザイン/デヴェロップされた環境ではやはりブロック構築は面白くなりようがない、という可能性は充分ある。だがいずれにしても、DE が成立しなくなってフォーマットごとフェイドアウトする、なんて結末をウィザーズが意図していたとは考えられない。
「そうかー。」 奴が珍しく本気で感慨深そうに言った。「好きだったけどなあ、ブロック構築」
「でももうここ何年もやってないだろ、ブロック構築なんて」
まあそうなんだけどさ。言いながら奴は苦笑いを浮かべた。
「それにまだ、決まったわけではないよね」
彼女がいちおう、という感じで言った。
遅くとも、秋にはすべてが判る。おそらくは夏までには正式な発表があるだろう。少しカードパワーの落ちる、狭いプールで繰り広げられるメタゲームには独特の味わいがあった。ズヴィ・モーショヴィッツも一番好きなフォーマットに挙げていたことがあった筈だ。もう二度とブロック構築シーズンが来ないのだとすれば、到底熱心なファンとは言えなかった僕にとっても、やはりいくばくかの寂しさがあるのは否めなかった。まして最後の季節が昨年のうちに終わってしまったのだとすれば、それはいささか不当過ぎる扱いのような気はするのだ。
---
このエントリは以下のエントリに触発されて書きました。だいぶ時間がかかってしまいましたが。
http://mtgmtg.diarynote.jp/201504071143234639/
【悲報】タルキール覇王譚ブロック構築、遂に消滅する -- タルキール覇王譚ブロック構築のブログ
また、MO の DE の動向については下のブログを参考にしました。
http://eiseal.diarynote.jp/
当ブログの「ポエム」というカテゴリにあるエントリは基本的に筆者の妄想であり、マジックに関することでは大きな嘘は書いていないつもりですが、内容の保証はしかねます。
かつて龍たちが眠りに
2014年12月26日 ポエムhttp://mtg-jp.com/publicity/0011806/
「完全に味をしめたな」
というのが彼の第一感想だった。わたしも同感だった。ドラゴンの迷路で、同じブロックに入っていたショックランドを特殊土地のスロットで再録したやりかたを、ウィザーズ社は早くもまた使ってきた。単純極まりないし、あざといの一言だが、しかし効果はある。運命再編の売り上げは確実にちょっと増えるだろう。
「今回は封入確率を書いてないんだね」
わたしは気になっていたことを口に出してみた。
あれ、ほんとはまずかったんじゃないかな。
彼が応じた。あの時も英語版の記事だと消えてたでしょ。たしか未だにマジックのパックには「レアが1枚以上入ってること」すら保証はされてなかった筈だよね。いわんや確率をや、ってことなんだと思う。
あ、そっか。それは忘れてたな。今でもそうなんだっけ。
うん、多分。最近はレア無しパックの話とかあんまり聞かないけどね。テーロスで神ばっかり入ってるパックがあったとか言うのがあったか。
昔はレアの入ってないパックというのが偶にあって、グランプリなどのリミテッドのプレミアイヴェントでもプレイヤーがそういうパックに遭遇する事例があった。その場合でも「15枚カードが入っている限りは交換は認めない」という裁定だった。だがそれも昔の話で、最近はまた裁定も変わったというような話もどこかで見た気もする。
「でもまあ、基本地形のシートにフェッチランドと二色コモン土地入れるだけだから、封入率もドラゴンの迷路の時と同じだよな、たぶん」
彼は紙を取り出して適当にアンカットシート(?)を書き始める。
フフフフフ基基基基基基
基基基基基基基基基基基
基基基基基基基基基基基
基基基基基基基基基基基
基基基基基基基基基基基
基基基基基基基基基基二
二二二二二二二二二二二
二二二二二二二二二二二
二二二二二二二二二二二
二二二二二二二二二二二
二二二二二二二二二二■
【図1.1】アンカット・シート(イメージ)
実際はフェッチランドの位置は散らされているはず。
もちろん彼がこんなに綺麗な図を書いたわけではない。概念的にはこれと同等の図であった、ということを示したいだけだ。これだとフェッチランド5枚、基本土地 60 枚、KTK の二色土地が 55 枚になる(隅の1枚は捨てる)。
フフフフフ基基基基基基 フフフフフ基基基基基基
基基基基基基基基基基基 基基基基基基基基基基基
基基基基基基基基基基基 基基基基基基基基基基基
基基基基基基基基基基基 基基基基基基基基基基基
基基基基基基基基基基基 基基基基基基基基基基基
基基基基基基基基基基二 基基基基基基基基基基二
二二二二二二二二二二二 二二二二二二二二二二二
二二二二二二二二二二二 二二二二二二二二二二二
二二二二二二二二二二二 二二二二二二二二二二二
二二二二二二二二二二二 二二二二二二二二二二二
二二二二二二二二二二■ 二二二二二二二二二二■
【図1.2】2種類のアンカット・シート(イメージ)
こうすれば2シートでフェッチランドが 10 枚、基本土地が 120 枚、KTK 二色土地が 110 枚になる。
「基本土地と KTK 土地の比率についてはほとんどヒントがないから、これ以上は追求するだけ無駄かな。」 彼は言って一旦ペンを置いた。
注釈についてはどう。
わたしは聞いて、もう一度スマートフォンを渡した。
いくつかの言語(韓国語、ポルトガル語、繁体字中国語、ロシア語)では、基本でない土地と並行して、基本土地が高い頻度で土地枠に含まれます。これは、当該言語において『運命再編』の基本土地を印刷できる枠が他にないためです。
ああ、これはエントリーセットとかが関係あるんだと思うよ。えっとねえ、だからこの、「枠が他にない」って言葉が微妙におかしいんだな。
どういうこと?
原文見ようか。
Certain languages----Korean, Portuguese, Chinese (Traditional), and Russian----will also contain basic lands in this slot at a high frequency alongside nonbasic lands, as Fate Reforged basic lands will not otherwise be printed in those languages.
「ふぇいと・りふぉーじど・べいしっく・らんず・うぃる・のっと・あざーわいず・びー・ぷりんてっど、あず、」
彼の英語の発音は本当に酷いが、幸か不幸かそれは英語の理解力とは関係ないらしい、ということは経験的にわかっている。
だから、それらの言語ではブースターパックのこのスロット以外に運命再編の基本土地が印刷されることはない、ってことになる。つまり基本土地を封入する商品がない、ってことなんだと思う。スターターがなくなったから、基本土地をまとめて手に入れる方法はその手の構築済とかしかないんだよね。だけど言語によってはそういう商品そのものが発売されないから、ブースターのこの土地スロットの基本土地の比率を高くしますよ、ってこと。
てことは、それらの言語だとリミテッドは微妙に違うゲームになるわけね。
「そういうことになるねえ」
そういうのって前もあったのかな。
さあ。でも大抵の人はどちらかしかプレイしないから、あんまり影響はしないんじゃないかな。もしかするとプレミア・イヴェントでは、その辺りの国でも全部英語版で行う、とかいう風にするかも知れないけど。
----
あと 167/185 は何よ?というねたもあるのだけどカット。それは単に土地が1種類入るだけだろうから。ただ神話レア(おそらく 10 種類だろう)のうち1枚が無色ということがわかっているから、土地の神話レアも1枚ぐらいあるかも知れない、ぐらいの妄想はできる。