翻訳:予言の解体屋/マイク・キャノン
2014年5月14日 翻訳原文:Prophetic Facewrecker / Mike Cannon
http://www.gatheringmagic.com/mikecannon-042814-prophetic-facewrecker/
2014-04-28
《予言の炎語り》はニクスへの旅のなかで僕が一番気に入っているカードだ。二段攻撃大好きなんだよね。その他に2つもイケてる能力がついてる上にたった3マナなんだから素晴らしいとしか言いようがない。初めてこのカードを見た時に、すぐに昔作った「ブラッドストライク」(http://www.gatheringmagic.com/mike-cannon-gatecrash-budget-standard-deck-list-02112013-bloodstrike/)ってデッキを思い出した。あれもやっぱり赤の二段攻撃持ちクリーチャーを使ってたんだ。《マルコフの刃の達人》。
あのデッキはこれまで作った中でも一二を争うほど気に入ってる。《怨恨》と《ゴーア族の乱暴者》が入ってて、《マルコフの刃の達人》を強化してでかいダメージを叩きこんで、おまけに +1/+1 カウンターがどんどん乗っていく。
ただ、《怨恨》はもう落ちちゃったし、《予言の炎語り》にはもともとトランプルがついている。だとすれば緑と組むメリットは小さい。他の二段攻撃持ちクリーチャーを使うために、今回は白赤の組み合わせにすることにした。
「オーラストライク」[M14/RTR-JOU スタンダード] マイク・キャノン
クリーチャー (18)
2:《アクロスの空護衛/Akroan Skyguard》
4:《威名の英雄/Fabled Hero》
4:《剣術の名手/Fencing Ace》
4:《モーギスの軍用犬/Mogis’s Warhound》
4:《予言の炎語り/Prophetic Flamespeaker》
その他の呪文 (20)
4:《神々の思し召し/Gods Willing》
4:《タイタンの力/Titan’s Strength》
4:《岩への繋ぎ止め/Chained to the Rocks》
4:《天上の鎧/Ethereal Armor》
4:《向こう見ずな技術/Madcap Skills》
土地 (22)
10:《平地/Plains》
8:《山/Mountain》
4:《ボロスのギルド門/Boros Guildgate》
クリーチャー
《剣術の達人》はマナカーヴの一番下の2マナだけど、ちゃんと二段攻撃を持っている。こいつを2ターン目に戦場に置けることは、4ターンキルの必要条件だ。もちろん手札に適切なオーラが揃ってる必要はある。でも、普通に《向こう見ずな技術》か《モーギスの軍用犬》の授与をするだけで3ターン目には6点か8点入れられて、次のターンにもう1枚《向こう見ずな技術》があれば 12 点か 14 点与えられる。その上余ったマナで《神々の思し召し》で相手の除去をはじくこともできるし、《岩への繋ぎ止め》でブロッカーをどかすこともできるし、その両方すらできる。
2ターン目に置けるクリーチャーがもう少し欲しいので《アクロスの空護衛》を2枚とっている。二段攻撃持ちに比べればパワーは見劣りするけど、それでもオーラを貼ったり《神々の思し召し》を打ったりすれば +1/+1 カウンターが乗るし、マナ加速からでかいクリーチャーを出してくるようなデッキ相手には飛行が役に立つだろう。
《予言の炎語り》のトランプルはブロックする側にしてみれば悪夢みたいな能力だよね。《炎語り》をパンプアップできればブロックに差し出されたクリーチャーは殆ど死ぬし、その死さえもこいつの道を遮ることはできない。プレイヤーにダメージが入ったら、ほとんどカードを1枚引くのと同等の効果を得られる。このデッキには3マナ以下のカードしか入っていないから、めくれたカードはほとんど必ず唱えられるだろう。
《威名の英雄》は現環境の二段攻撃持ちでは一番のガチムチ野郎だ。ていっても場に出た時のパワーは2しかないけど、パンプするたびにノーコストで1ずつ上がっていく。《向こう見ずな技術》を1枚貼るだけで恐るべき 6/3 になるし、もし対戦相手がこいつを殺しに来たら《神々の思し召し》でひらりと交わしてさらに大きくなるチャンスにだってなりうる。
《モーギスの軍用犬》はクリーチャーっぽく見えるかもしれないけど、このデッキでは大抵クリーチャーじゃないんだ。もし2マナ域が他に手札にないとしても、多くの場合は授与のために温存した方がいい。授与にしてもたった1マナしか増えないのはかなりおかしいし、二段攻撃持ちに貼れれば上乗せできるダメージは2倍になる。こいつがクリーチャーになるのは対戦相手が授与先のクリーチャーをどうにかして除去できた時ぐらいだ。そうなればなったで 2/2 がただで手に入ったみたいなもんなわけだし、悪い筈がない。
その他の呪文
《向こう見ずな技術》はこのデッキのキーカードだ。たった2マナでパワーを3も上げてくれて、デッキ内のオーラの中でも一番いつ引いても強い。あんまり他では見ない回避能力もかなり強い。序盤はほぼアンブロッカブルになるし、中盤以降はブロックして殺そうと思えば殆ど2対1交換になる。さらに、チャンプブロックがすごくしづらくなるのがかなり大きい。《予言の炎語り》以外のクリーチャーで殴ってる時に特に強さを実感するだろう。
《天上の鎧》は1マナで大抵はパワーを2以上上げてくれるので、まあデッキに入れるに値する水準だと言える。先制攻撃は正直このデッキだと嬉しくないんだけど、中盤以降になってオーラが充分場に揃ってれば3〜4点はパワーを上乗せできて、それは間違いなく嬉しい。
《タイタンの力》は、対戦相手がブロッカーを決めた後で打てるコンバット・トリックだ。ブロックで1対1交換をとりにきた相手をずたずたにするもよし、追加の6点をたたきこむもよし。おまけに占術1もついてくる。《予言の炎語り》で殴ろうとしてるときなんかには特に素晴らしい。
《神々の思し召し》はクリーチャーを除去から守ってくれる。この手のデッキではとにかく除去を打たれるのは大問題なんだ。「ブラッドストライク」デッキでは《レインジャーの悪知恵》をメインに4枚積むまでかなり時間がかかっちゃったから、今回はここから始めてみた。残念ながら《神々の思し召し》では P/T は上がらないんだけど、最後の、止めの一撃を通すためにブロッカーを交わす使い方ができる。
《岩への繋ぎ止め》はたとえば《冒涜の悪魔》みたいな早いターンに出てくるでかいクリーチャーにも対処することができる。ほとんどのクリーチャーはパワーの上がった《予言の炎語り》で踏みつぶすことができるわけだけど、それでもそれ以外の対処方法が必要になる場面は往々にしてあるし、《岩への繋ぎ止め》はその役割にふさわしいカードだ。
プレイテスト -- 対青単信心
ゲーム1
相手は《雲ヒレの猛禽》からスタート。僕は《ボロスのギルド門》を置いてエンド。
相手は《猛禽》2号を出してエンド。こちらは《平地》から《剣術の達人》を唱えてターンを返した。
対戦相手は《凍結燃焼の奇魔》を唱えて猛禽2体を進化させると、2体でアタックして2点。僕は《剣術の達人》に《モーギスの軍用犬》を授与してアタック。相手はスルーして、こちらはターンエンド。
相手は《奇魔》を2回パンプしてフルアタック。5点僕に与えてターンを渡す。こちらは《達人》で攻撃するも《サイクロンの裂け目》でバウンスされる。僕は《予言の炎語り》を唱えて、ターンを返した。
向こうは《夜帷の死霊》をプレイ、2体の《雲ヒレの猛禽》を進化させると、その2体で攻撃して僕のライフは9点まで減らし、ターン終了。僕は返しのターン《向こう見ずな技術》を《予言の炎語り》に貼ってアタック。相手がスルーしたところで《タイタンの力》を打ち、止めを刺した。
ゲーム2
対戦相手は今回も《雲ヒレの猛禽》からのスタート。僕は《平地》をプレイしてターンを渡した。
《潮縛りの魔道士》が《雲ヒレの猛禽》の進化を誘発させて、殴って1点。こちらは《モーギスの軍用犬》を唱えた。
対戦相手は《凍結燃焼の奇魔》を唱えて、《猛禽》を再び進化させると、2体でアタックして4点。僕は《モーギスの軍用犬》に《モーギスの軍用犬》を授与して攻撃した。相手はブロックせず4点入り、僕はターンを渡した。
相手は《夜帷の死霊》を唱えると、また2体で殴ってきて4点。そのままターンが返ってきたので、僕はさらに《軍用犬》を授与し、6/6 で殴りかかる。相手は《凍結燃焼の奇魔》でチャンプブロックした。僕は《岩への繋ぎ止め》で《夜帷の死霊》を追放し、ターンを終えた。
次のターン、またしても2体に殴られてこちらの残りライフは7。ターンエンド。こちらは《軍用犬》でアタックするが、《急速混成》を打たれる。《軍用犬》2体がクリーチャーになって、さらに 3/3 のカエル・トカゲが出た。僕はターンを返す。
相手は《タッサの二叉槍》を唱えると、《雲ヒレの猛禽》で殴って2点削り、カードを1枚引いてエンド。僕は《向こう見ずの技術》と《天上の鎧》をカエル・トカゲに貼って、全軍で突撃した。《モーギスの軍用犬》が《潮縛りの魔道士》にブロックされて、2つ目の赤マナが出なかったため僕は《タイタンの力》を打つことができず、対戦相手のライフは3点残ってしまった。
次のターン、向こうはまた《猛禽》でアタックして2点と1ドロー。戦闘後に《変わり谷》をプレイすると《波使い》をプレイして、トークンを4つ戦場に出した。ターンエンド。僕は解決策を探すためにアップキープに《モーギスの軍用犬》に《タイタンの力》を唱えて、占術で《平地》をボトムに送ったけど、ドローステップに引いたカードは《剣術の達人》だった。僕は投了した。
ゲーム3
こちらが先手で、《ボロスのギルド門》スタート。対戦相手は《雲ヒレの猛禽》を唱えた。
僕は《平地》をプレイしてターンを渡した。相手は《潮縛りの魔道士》を唱えて《猛禽》を進化させる。そのまま攻撃して1点が入り、ターンが返ってくる。
《威名の英雄》を唱えてこちらのターンは終わり。相手は《変わり谷》からの《潮縛りの魔道士》で《雲ヒレの猛禽》を 2/3 に進化させると、ターンを渡してきた。
僕は《向こう見ずな技術》を《英雄》に貼って 6/3 にして、《天上の鎧》を追加して 9/6 にまで上げた。仕上げに《神々の思し召し》を唱えてプロテクション(青)を与えると共に 10/7 二段攻撃にすると、アタックしてゲームとマッチに勝利した。
まとめ
このデッキは恐ろしく速いゲームに持ち込む力がある。《剣術の名手》か、特殊な状況での《アクロンの空護り》と、適切なオーラ何枚か、の組み合わせがなければ4ターンキルは無理だと回してみるまでは思っていたけど、《威名の英雄》はワンパンで 20 点削れることがわかった。
《予言の炎語り》の“ドロー”能力は残念ながら一度も誘発しなかったけど、トランプルと《向こう見ずの技術》の組み合わせは明らかに相手にブロックをためらわせたし、1ゲーム目ではそれが致命傷になった。まあもしブロックしていたとしても、クリーチャーが2体死んでプレイヤーに7点入るんだから悪い筈がない。おまけに《炎語り》は生き残って次のターン以降も脅威になるのだから。
「ブラッドストライク」デッキでの《ゴーア族の暴行者》ほどのわからん殺し要素はないけど、それでもこのデッキも確かに予想外の角度から勝利を決める力を持っている。もし凶悪で前のめりで、何もない盤面から 20 点をたたき出すようなデッキを探してるんなら、是非こいつを試してみて欲しい。
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というわけで久々の翻訳記事は何故かスタンダード。おれも二段攻撃フェチなので、大いに楽しんで読みました。土地を見ればわかる通り「安いカードでスタンダード楽しもうぜ」的な趣旨の連載っぽいので、あまり細かい突っ込みは野暮かも知れません。
……というのを承知で書くと、《神々の思し召し》のスロットは《アジャニの存在》の方がいい気がする。まあ JOU のカードにまだ全部目を通せてなかったんだろうが。原文のコメント欄にも同じ突っ込みはあったんだけど、何故か「《至高の評決》にも効くじゃん!」みたいなことが書いてあった。いや、火力から守る時にオーラが剝がれるのが一番問題だと思うんだけども。
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いつもの奴忘れてた。例によって誤訳の指摘は歓迎します。今回ばばっと訳したんで訳注つけてませんけど訳があやふやな部分はもちろんありますので(キリリィッ
カード名間違ってるとか、自分だったらこう訳すとか、そういうのでもいいです。お気軽にコメント欄にどうぞ。
http://www.gatheringmagic.com/mikecannon-042814-prophetic-facewrecker/
2014-04-28
《予言の炎語り》はニクスへの旅のなかで僕が一番気に入っているカードだ。二段攻撃大好きなんだよね。その他に2つもイケてる能力がついてる上にたった3マナなんだから素晴らしいとしか言いようがない。初めてこのカードを見た時に、すぐに昔作った「ブラッドストライク」(http://www.gatheringmagic.com/mike-cannon-gatecrash-budget-standard-deck-list-02112013-bloodstrike/)ってデッキを思い出した。あれもやっぱり赤の二段攻撃持ちクリーチャーを使ってたんだ。《マルコフの刃の達人》。
あのデッキはこれまで作った中でも一二を争うほど気に入ってる。《怨恨》と《ゴーア族の乱暴者》が入ってて、《マルコフの刃の達人》を強化してでかいダメージを叩きこんで、おまけに +1/+1 カウンターがどんどん乗っていく。
ただ、《怨恨》はもう落ちちゃったし、《予言の炎語り》にはもともとトランプルがついている。だとすれば緑と組むメリットは小さい。他の二段攻撃持ちクリーチャーを使うために、今回は白赤の組み合わせにすることにした。
「オーラストライク」[M14/RTR-JOU スタンダード] マイク・キャノン
クリーチャー (18)
2:《アクロスの空護衛/Akroan Skyguard》
4:《威名の英雄/Fabled Hero》
4:《剣術の名手/Fencing Ace》
4:《モーギスの軍用犬/Mogis’s Warhound》
4:《予言の炎語り/Prophetic Flamespeaker》
その他の呪文 (20)
4:《神々の思し召し/Gods Willing》
4:《タイタンの力/Titan’s Strength》
4:《岩への繋ぎ止め/Chained to the Rocks》
4:《天上の鎧/Ethereal Armor》
4:《向こう見ずな技術/Madcap Skills》
土地 (22)
10:《平地/Plains》
8:《山/Mountain》
4:《ボロスのギルド門/Boros Guildgate》
クリーチャー
《剣術の達人》はマナカーヴの一番下の2マナだけど、ちゃんと二段攻撃を持っている。こいつを2ターン目に戦場に置けることは、4ターンキルの必要条件だ。もちろん手札に適切なオーラが揃ってる必要はある。でも、普通に《向こう見ずな技術》か《モーギスの軍用犬》の授与をするだけで3ターン目には6点か8点入れられて、次のターンにもう1枚《向こう見ずな技術》があれば 12 点か 14 点与えられる。その上余ったマナで《神々の思し召し》で相手の除去をはじくこともできるし、《岩への繋ぎ止め》でブロッカーをどかすこともできるし、その両方すらできる。
2ターン目に置けるクリーチャーがもう少し欲しいので《アクロスの空護衛》を2枚とっている。二段攻撃持ちに比べればパワーは見劣りするけど、それでもオーラを貼ったり《神々の思し召し》を打ったりすれば +1/+1 カウンターが乗るし、マナ加速からでかいクリーチャーを出してくるようなデッキ相手には飛行が役に立つだろう。
《予言の炎語り》のトランプルはブロックする側にしてみれば悪夢みたいな能力だよね。《炎語り》をパンプアップできればブロックに差し出されたクリーチャーは殆ど死ぬし、その死さえもこいつの道を遮ることはできない。プレイヤーにダメージが入ったら、ほとんどカードを1枚引くのと同等の効果を得られる。このデッキには3マナ以下のカードしか入っていないから、めくれたカードはほとんど必ず唱えられるだろう。
《威名の英雄》は現環境の二段攻撃持ちでは一番のガチムチ野郎だ。ていっても場に出た時のパワーは2しかないけど、パンプするたびにノーコストで1ずつ上がっていく。《向こう見ずな技術》を1枚貼るだけで恐るべき 6/3 になるし、もし対戦相手がこいつを殺しに来たら《神々の思し召し》でひらりと交わしてさらに大きくなるチャンスにだってなりうる。
《モーギスの軍用犬》はクリーチャーっぽく見えるかもしれないけど、このデッキでは大抵クリーチャーじゃないんだ。もし2マナ域が他に手札にないとしても、多くの場合は授与のために温存した方がいい。授与にしてもたった1マナしか増えないのはかなりおかしいし、二段攻撃持ちに貼れれば上乗せできるダメージは2倍になる。こいつがクリーチャーになるのは対戦相手が授与先のクリーチャーをどうにかして除去できた時ぐらいだ。そうなればなったで 2/2 がただで手に入ったみたいなもんなわけだし、悪い筈がない。
その他の呪文
《向こう見ずな技術》はこのデッキのキーカードだ。たった2マナでパワーを3も上げてくれて、デッキ内のオーラの中でも一番いつ引いても強い。あんまり他では見ない回避能力もかなり強い。序盤はほぼアンブロッカブルになるし、中盤以降はブロックして殺そうと思えば殆ど2対1交換になる。さらに、チャンプブロックがすごくしづらくなるのがかなり大きい。《予言の炎語り》以外のクリーチャーで殴ってる時に特に強さを実感するだろう。
《天上の鎧》は1マナで大抵はパワーを2以上上げてくれるので、まあデッキに入れるに値する水準だと言える。先制攻撃は正直このデッキだと嬉しくないんだけど、中盤以降になってオーラが充分場に揃ってれば3〜4点はパワーを上乗せできて、それは間違いなく嬉しい。
《タイタンの力》は、対戦相手がブロッカーを決めた後で打てるコンバット・トリックだ。ブロックで1対1交換をとりにきた相手をずたずたにするもよし、追加の6点をたたきこむもよし。おまけに占術1もついてくる。《予言の炎語り》で殴ろうとしてるときなんかには特に素晴らしい。
《神々の思し召し》はクリーチャーを除去から守ってくれる。この手のデッキではとにかく除去を打たれるのは大問題なんだ。「ブラッドストライク」デッキでは《レインジャーの悪知恵》をメインに4枚積むまでかなり時間がかかっちゃったから、今回はここから始めてみた。残念ながら《神々の思し召し》では P/T は上がらないんだけど、最後の、止めの一撃を通すためにブロッカーを交わす使い方ができる。
《岩への繋ぎ止め》はたとえば《冒涜の悪魔》みたいな早いターンに出てくるでかいクリーチャーにも対処することができる。ほとんどのクリーチャーはパワーの上がった《予言の炎語り》で踏みつぶすことができるわけだけど、それでもそれ以外の対処方法が必要になる場面は往々にしてあるし、《岩への繋ぎ止め》はその役割にふさわしいカードだ。
プレイテスト -- 対青単信心
ゲーム1
相手は《雲ヒレの猛禽》からスタート。僕は《ボロスのギルド門》を置いてエンド。
相手は《猛禽》2号を出してエンド。こちらは《平地》から《剣術の達人》を唱えてターンを返した。
対戦相手は《凍結燃焼の奇魔》を唱えて猛禽2体を進化させると、2体でアタックして2点。僕は《剣術の達人》に《モーギスの軍用犬》を授与してアタック。相手はスルーして、こちらはターンエンド。
相手は《奇魔》を2回パンプしてフルアタック。5点僕に与えてターンを渡す。こちらは《達人》で攻撃するも《サイクロンの裂け目》でバウンスされる。僕は《予言の炎語り》を唱えて、ターンを返した。
向こうは《夜帷の死霊》をプレイ、2体の《雲ヒレの猛禽》を進化させると、その2体で攻撃して僕のライフは9点まで減らし、ターン終了。僕は返しのターン《向こう見ずな技術》を《予言の炎語り》に貼ってアタック。相手がスルーしたところで《タイタンの力》を打ち、止めを刺した。
ゲーム2
対戦相手は今回も《雲ヒレの猛禽》からのスタート。僕は《平地》をプレイしてターンを渡した。
《潮縛りの魔道士》が《雲ヒレの猛禽》の進化を誘発させて、殴って1点。こちらは《モーギスの軍用犬》を唱えた。
対戦相手は《凍結燃焼の奇魔》を唱えて、《猛禽》を再び進化させると、2体でアタックして4点。僕は《モーギスの軍用犬》に《モーギスの軍用犬》を授与して攻撃した。相手はブロックせず4点入り、僕はターンを渡した。
相手は《夜帷の死霊》を唱えると、また2体で殴ってきて4点。そのままターンが返ってきたので、僕はさらに《軍用犬》を授与し、6/6 で殴りかかる。相手は《凍結燃焼の奇魔》でチャンプブロックした。僕は《岩への繋ぎ止め》で《夜帷の死霊》を追放し、ターンを終えた。
次のターン、またしても2体に殴られてこちらの残りライフは7。ターンエンド。こちらは《軍用犬》でアタックするが、《急速混成》を打たれる。《軍用犬》2体がクリーチャーになって、さらに 3/3 のカエル・トカゲが出た。僕はターンを返す。
相手は《タッサの二叉槍》を唱えると、《雲ヒレの猛禽》で殴って2点削り、カードを1枚引いてエンド。僕は《向こう見ずの技術》と《天上の鎧》をカエル・トカゲに貼って、全軍で突撃した。《モーギスの軍用犬》が《潮縛りの魔道士》にブロックされて、2つ目の赤マナが出なかったため僕は《タイタンの力》を打つことができず、対戦相手のライフは3点残ってしまった。
次のターン、向こうはまた《猛禽》でアタックして2点と1ドロー。戦闘後に《変わり谷》をプレイすると《波使い》をプレイして、トークンを4つ戦場に出した。ターンエンド。僕は解決策を探すためにアップキープに《モーギスの軍用犬》に《タイタンの力》を唱えて、占術で《平地》をボトムに送ったけど、ドローステップに引いたカードは《剣術の達人》だった。僕は投了した。
ゲーム3
こちらが先手で、《ボロスのギルド門》スタート。対戦相手は《雲ヒレの猛禽》を唱えた。
僕は《平地》をプレイしてターンを渡した。相手は《潮縛りの魔道士》を唱えて《猛禽》を進化させる。そのまま攻撃して1点が入り、ターンが返ってくる。
《威名の英雄》を唱えてこちらのターンは終わり。相手は《変わり谷》からの《潮縛りの魔道士》で《雲ヒレの猛禽》を 2/3 に進化させると、ターンを渡してきた。
僕は《向こう見ずな技術》を《英雄》に貼って 6/3 にして、《天上の鎧》を追加して 9/6 にまで上げた。仕上げに《神々の思し召し》を唱えてプロテクション(青)を与えると共に 10/7 二段攻撃にすると、アタックしてゲームとマッチに勝利した。
まとめ
このデッキは恐ろしく速いゲームに持ち込む力がある。《剣術の名手》か、特殊な状況での《アクロンの空護り》と、適切なオーラ何枚か、の組み合わせがなければ4ターンキルは無理だと回してみるまでは思っていたけど、《威名の英雄》はワンパンで 20 点削れることがわかった。
《予言の炎語り》の“ドロー”能力は残念ながら一度も誘発しなかったけど、トランプルと《向こう見ずの技術》の組み合わせは明らかに相手にブロックをためらわせたし、1ゲーム目ではそれが致命傷になった。まあもしブロックしていたとしても、クリーチャーが2体死んでプレイヤーに7点入るんだから悪い筈がない。おまけに《炎語り》は生き残って次のターン以降も脅威になるのだから。
「ブラッドストライク」デッキでの《ゴーア族の暴行者》ほどのわからん殺し要素はないけど、それでもこのデッキも確かに予想外の角度から勝利を決める力を持っている。もし凶悪で前のめりで、何もない盤面から 20 点をたたき出すようなデッキを探してるんなら、是非こいつを試してみて欲しい。
----
というわけで久々の翻訳記事は何故かスタンダード。おれも二段攻撃フェチなので、大いに楽しんで読みました。土地を見ればわかる通り「安いカードでスタンダード楽しもうぜ」的な趣旨の連載っぽいので、あまり細かい突っ込みは野暮かも知れません。
……というのを承知で書くと、《神々の思し召し》のスロットは《アジャニの存在》の方がいい気がする。まあ JOU のカードにまだ全部目を通せてなかったんだろうが。原文のコメント欄にも同じ突っ込みはあったんだけど、何故か「《至高の評決》にも効くじゃん!」みたいなことが書いてあった。いや、火力から守る時にオーラが剝がれるのが一番問題だと思うんだけども。
----
いつもの奴忘れてた。例によって誤訳の指摘は歓迎します。今回ばばっと訳したんで訳注つけてませんけど訳があやふやな部分はもちろんありますので(キリリィッ
カード名間違ってるとか、自分だったらこう訳すとか、そういうのでもいいです。お気軽にコメント欄にどうぞ。
翻訳:プロツアーの古豪(前半のみ)
2013年10月25日 翻訳原文:Pro Tour Old-Timers / Tobi Henke
http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/eventcoverage/ptths13/Old_Timers
2013-10-12
昨日の朝、428名のプレイヤーが、1996 年から綿々と続くプロツアーの最新イベント“プロツアー・テーロス”のラウンド1のためにこの会場に着席した。そう、プロツアーは既に 17 年以上の歴史を重ねているが、さらに恐ろしいことに幾人かのプレイヤーは常にその歴史と共にあり続けている。つまり、当時も現在もプレイしているのだ。
そのひとりがクリス・ピキュラだ。2000 年のインヴィテイショナル優勝時にデザインした《翻弄する魔道士(PLS)》のイラストでもおなじみの顔だが、もちろんそれだけではない。最近でこそプロツアーは御無沙汰だったが、かつてはピキュラと言えばマジックのトッププロで、1996 年から 1998 年にかけてプロツアーのトップ8に3回入賞しているし、通算参加回数も 30 を数える。今回のプロツアーには特別招待枠での出場となったが、往時と比べてどれほどプロツアーが変わったものなのか、彼の視点から少し教えてもらうこととしよう。
「昔と今との一番大きな違いはなんといってもプレイングのレベルだね。昔はほんとに上手いプレイヤーってのは数えるぐらいしかいなかった。今はみんな上手いよ。このゲームを本当にわかってないとプロツアーには出られないよね」 ピキュラは述べた。「それと、トーナメントの運営がとてもスムーズになった。昔は例えばこれだけ人数がいたらしょっちゅう小さなトラブルが起きてたものだよ。最近は、まあチームグランプリでのごたごたを別にすれば、問題らしい問題は殆ど起きてないんじゃないかな。それとこの会場! ここは本当に素晴らしいよ。最近の会場はいいところが多いよね」
今でも知ってるプレイヤーは多い? 「アメリカのトッププレイヤーならだいたいわかるよ。あとヨーロッパのベテランたちとか、殿堂プレイヤーはわかる。でも新しい人たちはあんまり知らないな。」 殿堂という言葉は今のピキュラにはほろ苦く響いたに違いない。なにしろ今年の投票で僅差で殿堂入りを逃し、ここで好成績を残せない限りは来年の投票の対象からは外れてしまうからだ。「投票に残るためにはここでトップ16に入らなくちゃならない。さすがに難しいだろうね。」 またプロツアーに来る機会はあるかと問うと彼はこう応じた。「そうできるといいね。厳しいと思うけど。今はそんなにたくさん予選にも出られないし。だけど、いつかは戻ってくるよ。」
ところで最近のプレイヤーはピキュラの名を知っているのだろうか? 「まあ知らない子もいるよ。知ってたり知らなかったりだね」 彼は認めた上で、「そういえば1回面白いやりとりがあったよ。フィーチャー・マッチに呼ばれたことがあるかって訊かれたからあるよって答えたら、『へえ、誰と対戦したんですか?』って言われちゃった」
(ここまで)
--
これで大体半分で、後半はもうひとり、ジョン・ラーキン John Larkin の話なのだけど個人的に特に馴染みもないので割愛。興味のある人は読んでみてください。
実は前回の記事の上半分を最初に書いた時点では殿堂投票の結果だけ見てこの記事を読んでおらず、投票のルールもよく知らなかったので「こりゃピキュラさん来年は決まりだな」みたいなことを書いたのだがこれを読んでびっくり。150 ポイントに上がったことすら知らなかった。
最後のやりとりは何年か前のプロツアーでダーウィン・キャッスルがやっぱり若い対戦相手に「プロツアー何回出たことあります?」って訊かれて「全部出てるよ」って答えた話思い出した。あれいつだったっけな。
http://www.wizards.com/magic/magazine/article.aspx?x=mtg/daily/eventcoverage/ptths13/Old_Timers
2013-10-12
昨日の朝、428名のプレイヤーが、1996 年から綿々と続くプロツアーの最新イベント“プロツアー・テーロス”のラウンド1のためにこの会場に着席した。そう、プロツアーは既に 17 年以上の歴史を重ねているが、さらに恐ろしいことに幾人かのプレイヤーは常にその歴史と共にあり続けている。つまり、当時も現在もプレイしているのだ。
そのひとりがクリス・ピキュラだ。2000 年のインヴィテイショナル優勝時にデザインした《翻弄する魔道士(PLS)》のイラストでもおなじみの顔だが、もちろんそれだけではない。最近でこそプロツアーは御無沙汰だったが、かつてはピキュラと言えばマジックのトッププロで、1996 年から 1998 年にかけてプロツアーのトップ8に3回入賞しているし、通算参加回数も 30 を数える。今回のプロツアーには特別招待枠での出場となったが、往時と比べてどれほどプロツアーが変わったものなのか、彼の視点から少し教えてもらうこととしよう。
「昔と今との一番大きな違いはなんといってもプレイングのレベルだね。昔はほんとに上手いプレイヤーってのは数えるぐらいしかいなかった。今はみんな上手いよ。このゲームを本当にわかってないとプロツアーには出られないよね」 ピキュラは述べた。「それと、トーナメントの運営がとてもスムーズになった。昔は例えばこれだけ人数がいたらしょっちゅう小さなトラブルが起きてたものだよ。最近は、まあチームグランプリでのごたごたを別にすれば、問題らしい問題は殆ど起きてないんじゃないかな。それとこの会場! ここは本当に素晴らしいよ。最近の会場はいいところが多いよね」
今でも知ってるプレイヤーは多い? 「アメリカのトッププレイヤーならだいたいわかるよ。あとヨーロッパのベテランたちとか、殿堂プレイヤーはわかる。でも新しい人たちはあんまり知らないな。」 殿堂という言葉は今のピキュラにはほろ苦く響いたに違いない。なにしろ今年の投票で僅差で殿堂入りを逃し、ここで好成績を残せない限りは来年の投票の対象からは外れてしまうからだ。「投票に残るためにはここでトップ16に入らなくちゃならない。さすがに難しいだろうね。」 またプロツアーに来る機会はあるかと問うと彼はこう応じた。「そうできるといいね。厳しいと思うけど。今はそんなにたくさん予選にも出られないし。だけど、いつかは戻ってくるよ。」
ところで最近のプレイヤーはピキュラの名を知っているのだろうか? 「まあ知らない子もいるよ。知ってたり知らなかったりだね」 彼は認めた上で、「そういえば1回面白いやりとりがあったよ。フィーチャー・マッチに呼ばれたことがあるかって訊かれたからあるよって答えたら、『へえ、誰と対戦したんですか?』って言われちゃった」
(ここまで)
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これで大体半分で、後半はもうひとり、ジョン・ラーキン John Larkin の話なのだけど個人的に特に馴染みもないので割愛。興味のある人は読んでみてください。
実は前回の記事の上半分を最初に書いた時点では殿堂投票の結果だけ見てこの記事を読んでおらず、投票のルールもよく知らなかったので「こりゃピキュラさん来年は決まりだな」みたいなことを書いたのだがこれを読んでびっくり。150 ポイントに上がったことすら知らなかった。
最後のやりとりは何年か前のプロツアーでダーウィン・キャッスルがやっぱり若い対戦相手に「プロツアー何回出たことあります?」って訊かれて「全部出てるよ」って答えた話思い出した。あれいつだったっけな。
翻訳:アグロ(後編)/パウロ・ヴィトフ・ダモ・ダ・ホサ
2013年8月25日 翻訳 コメント (2)原文:PV’s Playhouse - Aggro
http://www.channelfireball.com/articles/pvs-playhouse-aggro/
2012-03-29
→前編はこちら(http://drk2718.diarynote.jp/201308250117455489/)
妨害要素のあるアグロ・デッキ
第3の道は妨害要素の入ったアグロです。直接攻撃は入っていませんが、「解答」を持っていて、対戦相手がしたいことを邪魔することができます。妨害には主に2通りあります。打ち消し呪文と捨てさせです。捨てさせを使うアグロ・デッキは「スーサイド・ブラック」以後はぱっとせず、半ば忘れられています。今日日一番近いのは「ジャンド」ですが、「ジャンド」は純粋なアグロデッキではありません。打ち消し呪文の方になると、もう少しサンプルは多くなります。《マナ漏出》入りの「青白人間」デッキはいい例です。でも妨害要素の入ったアグロはスタンダードよりもレガシーで一番多く見られます。直近のグランプリでケイレブ(*6)が使っていたデッキを見てみましょう:
4 《霧深い雨林/Misty Rainforest》
4 《沸騰する小湖/Scalding Tarn》
1 《Taiga》
2 《Tropical Island》
3 《Volcanic Island》
4 《不毛の大地/Wasteland》
4 《秘密を掘り下げる者/Delver of Secrets》
4 《敏捷なマングース/Nimble Mongoose》
1 《漁る軟泥/Scavenging Ooze》
2 《瞬唱の魔道士/Snapcaster Mage》
2 《タルモゴイフ/Tarmogoyf》
4 《渦まく知識/Brainstorm》
2 《Chain Lightning》
4 《目くらまし/Daze》
4 《Force of Will》
1 《二股の稲妻/Forked Bolt》
4 《稲妻/Lightning Bolt》
4 《思案/Ponder》
1 《予報/Predict》
4 《もみ消し/Stifle》
1 《思考掃き/Thought Scour》
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(*6) ケイレブ
ケイレブ・ダーウォード Caleb Durward のこと。筆者のチームメイト。得意フォーマットはレガシーで、CFB のサイトでは ’Legacy Weapon’ を連載中。
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このデッキは「アグロコントロール」の範疇に見えるかも知れません。でも違うのです。これはアグロデッキです。“だけど PV、このデッキには打ち消し呪文が入ってて、ドロースペルと除去も入ってるのに、どうしてアグロコントロールじゃないんだい?”——それは、このデッキではそれらのスペルを絶対にゲームをコントロールするためには使わないからです! おわかりでしょうが、用語なんてものは大して重要じゃありません。デッキをどれほど正しく分類したところでマッチポイントがもらえるわけじゃありませんしね。もしクリーチャーと打ち消し呪文が両方入ってるデッキは全部アグロコントロールって呼びたいんだったらどうぞご自由になさってください。そう呼ぶ本人にとって意味のある分類なのであれば、それはそれでぜんぜん構いません。
実際にマッチポイントを得るためにはデッキを正しくプレイすることこそが大切です。このデッキについてはアグロコントロールみたいにプレイしちゃ駄目で、アグロ・デッキとして振る舞わなければならないという話です。あらゆるコントロール要素は対戦相手を素早く倒すために用いてください。ゲームを長引かせようと考えてはいけません。可能な限り速く相手を仕留めるのです。なにしろこれはアグロ・デッキですから、長引くほど弱くなるカードばかりが入っています。実は私はスタンダードの「デルバー」デッキも既にアグロ・デッキの範疇に入っているのではないかと個人的には考えています。ここで挙げたことが「デルバー」にも大体当てはまるからです。(とはいえあのデッキには充分なコントロール要素が入っていますし、アグロコントロール・デッキとしての振る舞いも要求されます。あれがアグロコントロールでなければ、アグロコントロールと呼ぶべきデッキはこの世に存在しないでしょう。)
さて、正直に言います——私はこのデッキが好きではありません。私はこの手のレガシーのデッキがどうしても好きになれないのです。とにかくあまりにも受けが狭いカードばかり入っていて、人類史上最悪のライブラリトップをしょっちゅう提供してくれるのです。たとえば《もみ消し》——もちろん、序盤は強いカードですよ。でも、中盤以降に引いたら何の役にも立ちません! 《目くらまし》も似たようなものですし、クリーチャーすらかなり早い段階で賞味期限が切れてしまいがちです。全部の要素を都合のいいタイミングで引ければ強いデッキですが、そうでなかったり、対戦相手に邪魔されたりした場合はデッキに入ってるあらゆるカードが弱いです。特にレガシーのようなカードパワーの高いフォーマットでは、私はこういうデッキは好きではありません。このデッキは言ってみればいつ引くかによって10段階で9点になったり4点になったりするカードが山ほど入っていますが、常に8点みたいなカードで作られているデッキの方が好きなのです。
もしこのデッキを使うのであれば、これはアグロデッキであることを忘れないように。対戦相手のカードパワーがこのデッキを凌駕し始める前に、相手を殺してしまわなければなりません(そして相手は必ずこのデッキより高いパワーのカードを入れています)。
アグロ・デッキの構築
アグロ・デッキのいいところは、構築の際においては、状況を考えなくていいというところです。アグロは大抵の場合どんな相手に対しても自分のゲームプランで展開するしかなく、対戦相手がなにをしているかは考えません。何か見知らぬものが問題になったとして、例えば「《密林の猿人》の代わりに《渋面の溶岩使い》を入れておけばよかった」みたいに思うことはあるわけですが、これが致命的な結果につながることはまずないのです。何故ならアグロ・デッキのカードは大体どれも似たような役割で、もしある状況で一方が強ければ大抵の場合あらゆる状況でやっぱりそっちの方が強いからです。「神様私が何をしたというのですか、《稲妻》4枚と《タルモゴイフ》4枚を入れていたのがよくなかったのですか!」なんて叫ぶ羽目には絶対なりません。コントロール・デッキではカードの選択を誤っただけで破滅することもあるのですけどね。
先週の記事に対してどなたかが指摘してくださったのですが、アグロは必ずしもプレイングが簡単ではありません(すなわち、プレイングに自信がないからというだけの理由でアグロ・デッキを選ぶ、というのはおすすめできません)。でも、いまどんなデッキが環境にあるかなんてことを気にしなくていい、という意味ではたしかに簡単ではあります。(*7) つまり、同じように技術は要求されますが、知識は少なくても大丈夫なのです。ですから、2年間マジックから離れていて復帰したばっかりなんて時にはアグロ・デッキはぴったりです。
アグロ・デッキでは、普通は「最速で相手を倒す」ことと「その上で最大限の保険」のふたつがデッキのコンセプトになります。もちろん対戦相手を可能な限り早く殺したいのですが、もしそれが叶わなかったときに自動的に負ける、なんてことは避けたいわけですね。ですから、デッキに1マナのカードを40枚詰め込むなんてことは現実的には無理です。もしそれで本当に速いデッキができたとしても、相手に序盤をしのがれてしまったら勝ち目はなくなってしまいます。絶対に序盤をしのがれない確信があれば話は別ですが(「カルドーザ・レッド」、きみのことだよ)。
逆に、3マナや4マナのカードで手札があふれるような事態も避けなければなりません。そいつらが戦線に到達する頃には、対戦相手もクリーチャーを並べているか回答を用意しているかのどちらかで、そうなるとそのカードたちも大して役には立たなくなっています。ここでマナカーヴという概念が導入されます。“1ターン目にクリーチャーを1体プレイして、2ターン目にはクリーチャーをもう1体か2体、3ターン目には除去を打ってクリーチャーをもう1体追加、もしくはでかいクリーチャーを1体だけ出す。”——という具合にプレイが進むようにデッキを構築したいわけですね。
しかしどのようなマナカーヴが理想であるかというのを決めるのは難しいのです。どういう選択肢があって、どんなデッキを倒そうとしているかによるからです。ただマナカーヴの鉄の掟として「綺麗なカーヴはカードパワーに優先する」というものがあります。すなわち、1マナ域が必要ならどんなカードでも入れなきゃならないんです。たとえそれが大して強くないとわかっていても。逆に、もし3マナ域が充分足りていれば、どんなに強いカードでもそれ以上入る余地はないのです。ひとつセオリーをお教えしておきましょう。厳密に確率の議論をするに足る数字ではありませんが、初手に1マナのカードが来る確率は1マナのカードが8枚なら約 65% で、12 枚なら 81% にまで上がります。それが実際プレイできる確率となると、マナソースが 15 枚入っていればそれぞれ 56% と 70% になります。理想論としては、私はアグロデッキには1マナのクリーチャーを 10-14 枚、2マナを 6-8 枚、3マナを 3-4 枚入れたいと考えています。残りはスペルと土地です。
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(*7) でも、いまどんなデッキが環境にあるかなんてことを気にしなくていい、という意味ではたしかに簡単ではあります。
難しい。原文をこの少し前後も含めて引用するとこうなっている。
Aggro is not necessarily easier to play (i.e. don’t play aggro just because you think you’re worse than the opposition), but it is easier if you are ignorant of what is going on. It requires the same amount of skill but less knowledge, so if you stopped playing for two years and just came back, then aggro is the deck for you.
文字通り訳せば「もしあなたが何が起きているかについて無知であればそれは簡単になります」なのだがそれではあんまりだ。そもそも「何が起きているか」what is going on ってなんのことなんだろう。で、次の文を見るとアグロ・デッキは less knowledge しか要求しないから二年ぶりの復帰戦とかにはマジおすすめ、なのだという。つまりこの knowledge が what is going on であり二年ぶりのプレイヤーが持ち得ないもの、という解釈で「環境に対する理解」だというように解釈してみた。異論がある方はコメントをくだされたし。正直全く自信がない。
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アグロ・デッキにおけるマリガン
アグロ・デッキに入っているカードはどれも状況次第で劇的に強くなります。手札に《密林の猿人》《タルモゴイフ》《稲妻》《流刑への道》と揃っていたら、それぞれのカードは単体で持っているときよりもずっと強力です。これはどんなカードでも言えるように思われるかも知れませんが、必ずしもそうではありません。4ターン目の《神の怒り》は3ターン目に《エスパーの魔除け》を挟んでいようがいまいが強いですが、2ターン目の《タルモゴイフ》は1ターン目にクリーチャーを出しているかいないかでずいぶん違います。3ターン目の《流刑への道》はクリーチャーを並べていれば強い動きですが、相手にプレッシャーをかけることができていないのであればむしろひどいです。そんなわけで、もし初手がいいシナジーを形成していなければ積極的にマリガンするべきです。どのカードも単体では大して役に立たないからです。もちろん手札が減ればシナジーが形成される確率は単純に下がってしまうのですが、それでも賭ける価値はあります。平凡な7枚よりもいい6枚が手に入るだろうからです。たとえば、《密林の猿人》と土地6枚だったら《密林の猿人》は1点です(点数は感覚的につけています)。《稲妻》と土地6枚でも《稲妻》は1点です。《タルモゴイフ》と土地6枚でも《タルモゴイフ》は1点です。でも、《稲妻》と《密林の猿人》(と土地5枚)が揃って手札にあれば、《稲妻》も《密林の猿人》もそれぞれ2点になります。もし《猿人》と《ゴイフ》と《稲妻》が3枚揃えば、それぞれが3点に値します。3枚まとめて来れば3倍どころか9倍になるというわけです。
アグロ・デッキのマリガン判断でよくあるミスは2つありますが、どちらも同じ誤解に基づいています。ひとつめは“もうデッキの中にはそんなに土地が残っていないのだから、これ以上あんまり引くことはないだろう”。まあその通りかも知れません。でも、アグロ・デッキの土地の枚数はどうして少ないのでしょうか? もちろんそんなに多くの土地が必要ないからですが、同時にあまり多くの土地を引くことを許容できないからでもあるのです。5枚の土地が入ってる初手は既に1回マリガンしているも同然です。5枚目が必要になることは滅多にないからです。4枚ですら多いこともよくあります。もっと実のある手札が必要なのです。もうひとつは“1マナクリーチャーは 12 枚も入ってるんだから、1枚ぐらい引けるだろう”。繰り返しになりますが、1マナクリーチャーが 12 枚入ってるのは初手に1枚来て欲しいからであって、土地が多めで1マナ域の入ってない初手をキープするためではありません! もし1マナなしでもキープすることがあると考えているのなら、明らかに経験不足です。この手のデッキを充分使い込んでいれば、1マナクリーチャーの無い初手をキープするにはよっぽど他のカードが強くなければならないことに気づくはずです。(もちろん相手のデッキがわかっている場合なんかには例外があり得るのですが。)
アグロ・デッキのサイドボーディング
アグロ・デッキでサイドボードするときの基本は、コントロールデッキの場合とは違って、メインでやってることをそれ以上尖らせようとしてはいけません。殆どの場合そんなことは不可能だからです。だって、メインデッキにはそれぞれのマナ域で最強のカードを詰め込んでるわけですよ。それに最強の除去と最強の火力が(あるいは最強のジャイグロとか最強の打ち消し呪文が)既に入ってるんです。
ですから、サイドボードを使って、メインとは全く違うことをできるようにしなければいけません。ミラーマッチで特に大きな意味を持つ違う方向性での勝ち筋であったり、厄介なパーマネントへの対処であったり、相手のサイドボードへのアンチカードであったりです。
一般的に、サイドボード後の方がゲームの速度は落ちます。どんなデッキでもサイドボード後には必ず軽い(コストの低い)妨害カードが入ってきます。逆にコンボを相手にしている場合はこちらが妨害カードを入れることになります。いずれにしても展開は遅くなるわけです。これによって、速さだけのカード(先週の私の記事でも書いたとおり《ゴブリンの先達》や《ステップのオオヤマネコ》といったカードです)はかなり価値を落とし、速度はなくてもカードパワーの高いカード(《聖遺の騎士》《イーオスのレインジャー》)がずっと強くなります。速度任せに相手を倒すことはもはや不可能で、より粘り強い構成にならざるをえなません。
コントロール・デッキ相手の時は、アグロ側はサイドボードからそれほど多くのカードを入れません。抜くカードは除去か火力です。相手がコントロール色を強めるほど火力は弱くなります。手元に6点分の火力があるけど相手のライフは 12 残っていてこちらのクリーチャーは皆殺しにされた後、みたいな状況が起こりやすくなるからです。もし相手がクリーチャーを使ってくるタイプのコントロール・デッキだった場合(すなわち、単体除去を打ってからタイタンを出してくるようなデッキです)、火力が必要になるかも知れません。相手がひとたびデカブツにたどり着いてしまえばこちらのクリーチャーはなにもできなくなってしまいますから、相手のデカブツを殺す手段が欲しいのです。
サイドボーディングでもっとも重要なのは、またしてもマナ・カーヴです。不適切なサイドボーディングをすればマナ・カーヴは簡単に崩れてしまいます。それは避けなくてはいけません。2006 年の世界選手権でこんなことがありました。私たちはエクステンディッドで「ボロス」を使っていて、メインデッキに4枚の《溶鉄の雨》をとっていました。サイドボードからコントロールデッキ相手には《硫黄の渦》を入れるプランです。そうすると代わりに《溶鉄の雨》をサイドアウトしなければなりません。実のところ《雨》はコントロール相手でもそう悪いカードではなく、単純なカードパワーでは例えば《銀騎士》よりは上です。でも、3マナのカードがそれだけ入るのは明らかに重すぎ、容認できる構成ではありませんでした。それに《銀騎士》+《硫黄の渦》という手札は《溶鉄の雨》+《硫黄の渦》という手札より明らかに強いです。
二番目に重要なのは脅威の密度です。相手のデッキに対する「解答」を詰め込みすぎるのは禁物です。こっちはアグロ・デッキであって、主導権を握らなければならないのです。相手はこちらと1対1の交換を繰り返しながら、高コストの呪文にたどり着いて勝ちを目指します。そういう相手にこちらが《帰化》のようなカードをプレイするのは、相手のするべきことをしてあげているようなものです。相手の脅威に対応するカードは大抵の場合無意味です。たとえその脅威が非常に強力なものであってもそれは変わりません。私が「フェアリー」をプレイしていた頃、アグロ・デッキが《苦花》を割るためのカードをサイドインしてくるのはむしろ嬉しいことでした。そうすることで相手のデッキパワーは下がり、私は《苦花》無しでも勝てるようになるのです。繰り返しになりますが、カード・パワーよりもデッキの一貫性を重視しなければなりません。
コンボ・デッキに対しては、なにか大砲のようなものを持ちこまなければなりません。中途半端な武器では歯が立たないのです。なにか破滅的で、それでいておなじみのふたつの原則——すなわちマナ・カーヴと脅威の密度の妨げにならない何かが必要です。ヘイト・ベアー(*8)はこの点において素晴らしいです。デッキの速度を落とすこともありませんし、ヘイト・カードが3枚手札に来たけどクロックが無い、なんて事態も決して起きません。欠点としては相手はどのみち除去をサイド・インしてくることで、そうなるとヘイト・ベアーたちは早晩死ぬことになります。理想としては、相手に対処されないヘイト・カードと、除去される可能性はあってもプレッシャーをかけられるヘイト・カードとを両方入れることです——《エーテル宣誓会の法学者》と《精神壊しの罠》を2枚ずつというようなサイドボードが、どちらかだけを4枚サイドにとるよりも絶対によいです。もし《法の支配》を混ぜられるならなおよいです。汎用的な打ち消し呪文、たとえば《否認》のようなカードも中々強いです。が、過度に依存しないことが大切です。クリーチャーが多ければ多いほど打ち消し呪文は強くなるからです。私たちがフィラデルフィアに持ち込んだ「ズー」はある程度の枚数を許容できましたが、あれは《貴族の教主》と《野生のナカティル》《緑の太陽の頂点》が入っていたからで、クリーチャーを1枚か2枚素早く並べて(たとえば1ターン目に《ナカティル》、2ターン目に《頂点》から《ナカティル》)、あとはそいつらで殴りながらマナを立てておく、ということができたのです。
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(*8) ヘイト・ベアー
「相手を阻害する能力を持っている、2マナでパワー2のクリーチャー」の総称。ヘイト・カードは特定の色/カードタイプ/メカニズム/部族/などなどに対抗するカードのことで、ベアーは伝統的に2マナ 2/2 のクリーチャーのことを指す。なのでもともとは阻害能力付きの2マナ 2/2 を指していたが、転じて2マナ 2/1 も含むようになった。本文中の《エーテル宣誓会の法学者》がまさにこのヘイト・ベアー。他に《ガドック・ティーグ》《スレイベンの庇護者、サリア》など、数はかなり多い。
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コントロールデッキを相手にする場合はこれまでの議論は忘れる必要があります。マナ・カーヴと密度のことはとりあえず気にしなくてかまいません。というのは、どれだけ数を並べても相手はそれを除去してきて、こちらはまたクリーチャーを出す、ということの繰り返しなので、むしろ一番最後に場に出すでかぶつが必要になるのです。
アグロ・デッキのミラーマッチでよく使われるサイドボードは大型クリーチャー(《刃砦の英雄》《最後のトロール、スラーン》《ギデオン・ジュラ》《聖遺の騎士》)やカードアドヴァンテージをとれるカード(《台所の嫌がらせ屋》《イーオスのレインジャー》《遍歴の騎士、エルズペス》)、そして戦闘をぶちこわしにする装備品(それが場に出ると相手はこちらのクリーチャーを文字通り全部倒さなければならなくなります)です。少し前までは、アグロ・デッキのミラーで後手を取るのはありうると思っていました(*9)が、今はどうも違うような気がしています。必要なのは、主導権を握って相手のクリーチャーを殺して相手をぶん殴ることか、1ターン目に《壌土のライオン》か《密林の猿人》を出して相手がブロックできないうちにぶん殴ることなんです。
もし直接攻撃のないアグロ・デッキをプレイしている場合であっても大して違いはありません。直接攻撃はふつう相手のクリーチャーを除去するために使われるからです。もちろん白除去や黒除去がどっちゃり手札に来る可能性がないとは言えませんが、まあ滅多にあることではなくて、実際に来なかったとすれば、また私たちはマナ・カーヴに立ち戻らなければなりません——プレイヤーは対戦相手のクリーチャーを皆殺しにすることはできないのですから、クリーチャーの大群を抱えることは大物を一体残すことより意味があります。自分の側にだけクリーチャーが残っているという状況にはほぼたどり着けません。どんなにでかいクリーチャーよりも、綺麗なマナカーヴの方が強いです。
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(*9) アグロ・デッキのミラーで後手を取るのはありうると思っていました
原文は I think it was correct to draw in some aggro mirrors, 。最初「サイドボードからドロースペルを入れるのはありうると思っていた」と訳したが、どうもしっくり来ない。とはいうものの to draw でほんとに「後手を選ぶ」でいいのかどうかもわからない。
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アグロ・デッキのプレイング
マジックの歴史を通じてアグロ・デッキのプレイヤーに突きつけられ続けている問いがふたつあります——すなわち「どれだけ盤面の優位を意識するべきか?」と「プレイヤーを焼くべきかクリーチャーを焼くべきか?」です。もちろんどちらにも決まった答えなんてなくて、正答は常にゲームの状況に左右されます。でも、私たちの決断の助けになってくれる基準は確かに存在します。どちらの問いにおいても、普通は複雑な要素が絡み合っています。ある行動を選べばあなたは何を負かせるか、選ばない場合あなたは何を負かせるか、相手は何を持っていそうだと考えるか。これはとてもあいまいだということはわかっていますが、それでもなるべくわかりやすく説明してみたいと思います。
まず知らなければならないのは、全体除去に勝てるかどうかと、それを迂回するプレイングがどれだけコストのかかるものであるかということです。一番簡単な例はあなたが殆ど勝ちを決めているかそれに近くて、相手に全体除去がない限り覆しようがない、という状況です。この場合、明らかにこれ以上1枚たりとも戦力を盤面に追加してはいけません。真逆の状況を考えてみましょう。何を手札に残していたとしても全体除去を喰らったら負けが確定する状況ですね。この場合は当然盤面に戦力を全展開すべきです。このふたつの中間というのが厄介です。相手に全体除去があっても勝てるかも知れない、でも相手が全体除去を持ってなくても負けるかも知れない。
私は(心の中で)選択肢に評価をつけます。実際に数値をつけてはいませんが、「ありそう」「すごくありそう」「まったくありそうにない」などの評価のための言葉を使っています。さて、では説明のための状況を設定してみましょう。私は 2/2 を2体場に出していて、手札に3枚目を持っています。対戦相手は青黒コントロールでライフは残り2点、土地を3枚コントロールしています。最悪の展開は、土地を出されて《黒の太陽の頂点》を打たれることです。ここでは私は全く盤面に触れる必要がありません。相手が《頂点》を持っていなければどっちみち勝ちですし、もし持たれていたとしても手札に 2/2 を残しておけばかなりの確率で勝てますから。では選択肢を評価してみましょう。2/2 をプレイすれば、《黒頂点》無しの相手には 100% 勝てます。相手が《黒頂点》を持っていれば 50% 。一方 2/2 を温存した場合、《黒頂点》無しの相手に勝てる確率は 90% になりますが、相手が《黒頂点》を持っていても 80% 勝てます。明らかに後者の方がよい成果です。相手が《黒頂点》を持っているかどうかにかかわらず。
さて、では次の状況を考えてみましょう。今度はこちらの 2/2 が3体、そして手札にもう1枚あります。対戦相手のライフは2ではなくて4で、土地も今回は5枚コントロールしています。《黒の太陽の頂点》を考えるなら、基本的には先ほどの状況と同じです——つまり手札の 2/2 は温存した方がよい——が、今回は情報が増えています。相手は《黒の太陽の頂点》を唱える機会が既にあったのに唱えていません。そして他にも要素があります。相手には「土地を置いて《墓所のタイタン》」という動きができて、それをされると手札に残した 2/2 は文字通り何の役にも立たなくなります。《黒頂点》についてだけ考えれば勝率は依然 100/50 対 80/80ですが、もしこちらが 2/2 を出して相手が《墓所のタイタン》を唱えたら 100% こちらの勝ち(*10)で、一方 2/2 を手札に残して相手が《墓所のタイタン》だったらこちらの勝率は 10% しかなくなってしまいます(いちおう《感電破》を引く可能性はあることにしておきます)。この状況なら《黒の太陽の頂点》で全滅するリスクがあっても展開するに値します。2/2 を出して《黒頂点》で全滅してもなお勝てる可能性はあるのに対して、2/2 を残して《タイタン》を出されたら勝ち目はないのですから、出す方がよい、ということになるわけです。
基本的に、あるカードをケアして動くというのはそのカードを打たれるより致命的な状況がありうる限りあまりいい動きとは言えません。そしてその致命的な状況というのは必ずしもタイタンのようにわかりやすく強力なものとは限りません。時には《神の怒り》を避けようとしたばっかりに《流刑への道》を持たれていても負けてしまう状況になってしまったりすることがあって、それは全展開して《神の怒り》を本当に持たれていた場合と同じぐらいひどい状況と言えます。このような場合は仮に《神の怒り》を持たれていたら相当厳しいことになるとわかっていても全展開するのが正解です。それがその状況からの唯一の出口だからです。
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(*10) もしこちらが 2/2 を出して相手が《墓所のタイタン》を唱えたら 100% こちらの勝ち
これは明らかに誤っている。むしろほぼ 100% 負けの状況だ。PV は相手のライフを4点に変えたのを忘れているのではないか。そもそも4点に変えた意味もよくわからない。
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「どっちを焼くべきか」という問いも本質的にはそんなに変わりません——普通はクリーチャーを焼きたいですし、本体火力以外では勝ち目がないという状況だったら本体に火力を打つでしょう。
しかし個人的な経験から言うと、多くのプレイヤーは対戦相手を焼かずに勝てる見込みを明らかに過大に見積もっています——言い換えると、大抵のプレイヤーは対戦相手に火力を打たなさ過ぎる傾向があります。あなたがその“大抵のプレイヤー”に含まれていて、そこは直したいと思っているのだったら、試しにどっちか迷うような状況でもどんどんプレイヤーに火力を打ち込んでみましょう。
世界選手権に向けて「ズー」を調整していた時のことです。私は「ビッグ・ズー」(*11)が「スモール・ズー」(*11)に勝てるものかどうか確信が持てずにいて、それでプレイテストをしていたのですが、その時に私は自分が「スモール・ズー」を使っている時の勝率が他のプレイヤーより高いことに気がつきました。それは私が本体火力を多用するからでした。(*12) スモール・ズー側のプレイヤーが《密林の猿人》をコントロールしていて、相手の《密林の猿人》とにらみ合いになる状況があります。そうなると他のチームメイトたちは相手の《猿人》に《稲妻》を打ってから自分の《猿人》でアタックするのですが、結局その《猿人》も相手の除去で殺されておしまいです。そういう状況では私は火力を温存します。そうこうしているうちに手札に相手を焼き殺せるだけの火力がたまって、相手のクリーチャーの方がこちらのより大きくても関係なく勝ててしまう状況が来ます。一般的にゲームの序盤では比較的クリーチャーの攻撃は通りやすく、相手のクリーチャーを焼いてもそれに見合うだけのダメージをアタックで稼ぐことができますが、中盤以降は火力は少し節約した方がよいです。自分でも気がつかないうちに“バーン・フェイズ”に突入しているかも知れないからです。
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(*11)「ビッグ・ズー」「スモール・ズー」
おそらく「ズー」の中でもややマナカーヴを高めにとって大型クリーチャーを採用しているのが「ビッグ・ズー」で、小型クリーチャー主体のオーソドックスな構成が「スモール・ズー」。
(*12) それは私が本体火力を多用するからでした。
原文は because I was going to the face a lot more。go to the face が判らなかったのでまあこんな意味かな的に訳しているがつまりそれ和訳じゃなくて作文。
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さて、今回はこの辺りにしておきましょう。アグロ・デッキについて私が語れることは大体語ったつもりです。みなさんが楽しまれているとよいのですが。そして来週は、コントロール編!
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久々の和訳。調べてみたが1年以上やってなかったのか。この記事自体も訳し始めたのは多分昨年の今頃だったが、再開したのは先々週でおそらく 10 ヶ月以上は全く手をつけていない期間があったと思う。
例によって誤訳の指摘や「自分ならこう訳す」といった意見は歓迎します。コメント欄へお願いします。
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カテゴリを修正(「トレーディングカード」→「翻訳」)。まあどっちでもいいようなものだが。
http://www.channelfireball.com/articles/pvs-playhouse-aggro/
2012-03-29
→前編はこちら(http://drk2718.diarynote.jp/201308250117455489/)
妨害要素のあるアグロ・デッキ
第3の道は妨害要素の入ったアグロです。直接攻撃は入っていませんが、「解答」を持っていて、対戦相手がしたいことを邪魔することができます。妨害には主に2通りあります。打ち消し呪文と捨てさせです。捨てさせを使うアグロ・デッキは「スーサイド・ブラック」以後はぱっとせず、半ば忘れられています。今日日一番近いのは「ジャンド」ですが、「ジャンド」は純粋なアグロデッキではありません。打ち消し呪文の方になると、もう少しサンプルは多くなります。《マナ漏出》入りの「青白人間」デッキはいい例です。でも妨害要素の入ったアグロはスタンダードよりもレガシーで一番多く見られます。直近のグランプリでケイレブ(*6)が使っていたデッキを見てみましょう:
4 《霧深い雨林/Misty Rainforest》
4 《沸騰する小湖/Scalding Tarn》
1 《Taiga》
2 《Tropical Island》
3 《Volcanic Island》
4 《不毛の大地/Wasteland》
4 《秘密を掘り下げる者/Delver of Secrets》
4 《敏捷なマングース/Nimble Mongoose》
1 《漁る軟泥/Scavenging Ooze》
2 《瞬唱の魔道士/Snapcaster Mage》
2 《タルモゴイフ/Tarmogoyf》
4 《渦まく知識/Brainstorm》
2 《Chain Lightning》
4 《目くらまし/Daze》
4 《Force of Will》
1 《二股の稲妻/Forked Bolt》
4 《稲妻/Lightning Bolt》
4 《思案/Ponder》
1 《予報/Predict》
4 《もみ消し/Stifle》
1 《思考掃き/Thought Scour》
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(*6) ケイレブ
ケイレブ・ダーウォード Caleb Durward のこと。筆者のチームメイト。得意フォーマットはレガシーで、CFB のサイトでは ’Legacy Weapon’ を連載中。
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このデッキは「アグロコントロール」の範疇に見えるかも知れません。でも違うのです。これはアグロデッキです。“だけど PV、このデッキには打ち消し呪文が入ってて、ドロースペルと除去も入ってるのに、どうしてアグロコントロールじゃないんだい?”——それは、このデッキではそれらのスペルを絶対にゲームをコントロールするためには使わないからです! おわかりでしょうが、用語なんてものは大して重要じゃありません。デッキをどれほど正しく分類したところでマッチポイントがもらえるわけじゃありませんしね。もしクリーチャーと打ち消し呪文が両方入ってるデッキは全部アグロコントロールって呼びたいんだったらどうぞご自由になさってください。そう呼ぶ本人にとって意味のある分類なのであれば、それはそれでぜんぜん構いません。
実際にマッチポイントを得るためにはデッキを正しくプレイすることこそが大切です。このデッキについてはアグロコントロールみたいにプレイしちゃ駄目で、アグロ・デッキとして振る舞わなければならないという話です。あらゆるコントロール要素は対戦相手を素早く倒すために用いてください。ゲームを長引かせようと考えてはいけません。可能な限り速く相手を仕留めるのです。なにしろこれはアグロ・デッキですから、長引くほど弱くなるカードばかりが入っています。実は私はスタンダードの「デルバー」デッキも既にアグロ・デッキの範疇に入っているのではないかと個人的には考えています。ここで挙げたことが「デルバー」にも大体当てはまるからです。(とはいえあのデッキには充分なコントロール要素が入っていますし、アグロコントロール・デッキとしての振る舞いも要求されます。あれがアグロコントロールでなければ、アグロコントロールと呼ぶべきデッキはこの世に存在しないでしょう。)
さて、正直に言います——私はこのデッキが好きではありません。私はこの手のレガシーのデッキがどうしても好きになれないのです。とにかくあまりにも受けが狭いカードばかり入っていて、人類史上最悪のライブラリトップをしょっちゅう提供してくれるのです。たとえば《もみ消し》——もちろん、序盤は強いカードですよ。でも、中盤以降に引いたら何の役にも立ちません! 《目くらまし》も似たようなものですし、クリーチャーすらかなり早い段階で賞味期限が切れてしまいがちです。全部の要素を都合のいいタイミングで引ければ強いデッキですが、そうでなかったり、対戦相手に邪魔されたりした場合はデッキに入ってるあらゆるカードが弱いです。特にレガシーのようなカードパワーの高いフォーマットでは、私はこういうデッキは好きではありません。このデッキは言ってみればいつ引くかによって10段階で9点になったり4点になったりするカードが山ほど入っていますが、常に8点みたいなカードで作られているデッキの方が好きなのです。
もしこのデッキを使うのであれば、これはアグロデッキであることを忘れないように。対戦相手のカードパワーがこのデッキを凌駕し始める前に、相手を殺してしまわなければなりません(そして相手は必ずこのデッキより高いパワーのカードを入れています)。
アグロ・デッキの構築
アグロ・デッキのいいところは、構築の際においては、状況を考えなくていいというところです。アグロは大抵の場合どんな相手に対しても自分のゲームプランで展開するしかなく、対戦相手がなにをしているかは考えません。何か見知らぬものが問題になったとして、例えば「《密林の猿人》の代わりに《渋面の溶岩使い》を入れておけばよかった」みたいに思うことはあるわけですが、これが致命的な結果につながることはまずないのです。何故ならアグロ・デッキのカードは大体どれも似たような役割で、もしある状況で一方が強ければ大抵の場合あらゆる状況でやっぱりそっちの方が強いからです。「神様私が何をしたというのですか、《稲妻》4枚と《タルモゴイフ》4枚を入れていたのがよくなかったのですか!」なんて叫ぶ羽目には絶対なりません。コントロール・デッキではカードの選択を誤っただけで破滅することもあるのですけどね。
先週の記事に対してどなたかが指摘してくださったのですが、アグロは必ずしもプレイングが簡単ではありません(すなわち、プレイングに自信がないからというだけの理由でアグロ・デッキを選ぶ、というのはおすすめできません)。でも、いまどんなデッキが環境にあるかなんてことを気にしなくていい、という意味ではたしかに簡単ではあります。(*7) つまり、同じように技術は要求されますが、知識は少なくても大丈夫なのです。ですから、2年間マジックから離れていて復帰したばっかりなんて時にはアグロ・デッキはぴったりです。
アグロ・デッキでは、普通は「最速で相手を倒す」ことと「その上で最大限の保険」のふたつがデッキのコンセプトになります。もちろん対戦相手を可能な限り早く殺したいのですが、もしそれが叶わなかったときに自動的に負ける、なんてことは避けたいわけですね。ですから、デッキに1マナのカードを40枚詰め込むなんてことは現実的には無理です。もしそれで本当に速いデッキができたとしても、相手に序盤をしのがれてしまったら勝ち目はなくなってしまいます。絶対に序盤をしのがれない確信があれば話は別ですが(「カルドーザ・レッド」、きみのことだよ)。
逆に、3マナや4マナのカードで手札があふれるような事態も避けなければなりません。そいつらが戦線に到達する頃には、対戦相手もクリーチャーを並べているか回答を用意しているかのどちらかで、そうなるとそのカードたちも大して役には立たなくなっています。ここでマナカーヴという概念が導入されます。“1ターン目にクリーチャーを1体プレイして、2ターン目にはクリーチャーをもう1体か2体、3ターン目には除去を打ってクリーチャーをもう1体追加、もしくはでかいクリーチャーを1体だけ出す。”——という具合にプレイが進むようにデッキを構築したいわけですね。
しかしどのようなマナカーヴが理想であるかというのを決めるのは難しいのです。どういう選択肢があって、どんなデッキを倒そうとしているかによるからです。ただマナカーヴの鉄の掟として「綺麗なカーヴはカードパワーに優先する」というものがあります。すなわち、1マナ域が必要ならどんなカードでも入れなきゃならないんです。たとえそれが大して強くないとわかっていても。逆に、もし3マナ域が充分足りていれば、どんなに強いカードでもそれ以上入る余地はないのです。ひとつセオリーをお教えしておきましょう。厳密に確率の議論をするに足る数字ではありませんが、初手に1マナのカードが来る確率は1マナのカードが8枚なら約 65% で、12 枚なら 81% にまで上がります。それが実際プレイできる確率となると、マナソースが 15 枚入っていればそれぞれ 56% と 70% になります。理想論としては、私はアグロデッキには1マナのクリーチャーを 10-14 枚、2マナを 6-8 枚、3マナを 3-4 枚入れたいと考えています。残りはスペルと土地です。
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(*7) でも、いまどんなデッキが環境にあるかなんてことを気にしなくていい、という意味ではたしかに簡単ではあります。
難しい。原文をこの少し前後も含めて引用するとこうなっている。
Aggro is not necessarily easier to play (i.e. don’t play aggro just because you think you’re worse than the opposition), but it is easier if you are ignorant of what is going on. It requires the same amount of skill but less knowledge, so if you stopped playing for two years and just came back, then aggro is the deck for you.
文字通り訳せば「もしあなたが何が起きているかについて無知であればそれは簡単になります」なのだがそれではあんまりだ。そもそも「何が起きているか」what is going on ってなんのことなんだろう。で、次の文を見るとアグロ・デッキは less knowledge しか要求しないから二年ぶりの復帰戦とかにはマジおすすめ、なのだという。つまりこの knowledge が what is going on であり二年ぶりのプレイヤーが持ち得ないもの、という解釈で「環境に対する理解」だというように解釈してみた。異論がある方はコメントをくだされたし。正直全く自信がない。
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アグロ・デッキにおけるマリガン
アグロ・デッキに入っているカードはどれも状況次第で劇的に強くなります。手札に《密林の猿人》《タルモゴイフ》《稲妻》《流刑への道》と揃っていたら、それぞれのカードは単体で持っているときよりもずっと強力です。これはどんなカードでも言えるように思われるかも知れませんが、必ずしもそうではありません。4ターン目の《神の怒り》は3ターン目に《エスパーの魔除け》を挟んでいようがいまいが強いですが、2ターン目の《タルモゴイフ》は1ターン目にクリーチャーを出しているかいないかでずいぶん違います。3ターン目の《流刑への道》はクリーチャーを並べていれば強い動きですが、相手にプレッシャーをかけることができていないのであればむしろひどいです。そんなわけで、もし初手がいいシナジーを形成していなければ積極的にマリガンするべきです。どのカードも単体では大して役に立たないからです。もちろん手札が減ればシナジーが形成される確率は単純に下がってしまうのですが、それでも賭ける価値はあります。平凡な7枚よりもいい6枚が手に入るだろうからです。たとえば、《密林の猿人》と土地6枚だったら《密林の猿人》は1点です(点数は感覚的につけています)。《稲妻》と土地6枚でも《稲妻》は1点です。《タルモゴイフ》と土地6枚でも《タルモゴイフ》は1点です。でも、《稲妻》と《密林の猿人》(と土地5枚)が揃って手札にあれば、《稲妻》も《密林の猿人》もそれぞれ2点になります。もし《猿人》と《ゴイフ》と《稲妻》が3枚揃えば、それぞれが3点に値します。3枚まとめて来れば3倍どころか9倍になるというわけです。
アグロ・デッキのマリガン判断でよくあるミスは2つありますが、どちらも同じ誤解に基づいています。ひとつめは“もうデッキの中にはそんなに土地が残っていないのだから、これ以上あんまり引くことはないだろう”。まあその通りかも知れません。でも、アグロ・デッキの土地の枚数はどうして少ないのでしょうか? もちろんそんなに多くの土地が必要ないからですが、同時にあまり多くの土地を引くことを許容できないからでもあるのです。5枚の土地が入ってる初手は既に1回マリガンしているも同然です。5枚目が必要になることは滅多にないからです。4枚ですら多いこともよくあります。もっと実のある手札が必要なのです。もうひとつは“1マナクリーチャーは 12 枚も入ってるんだから、1枚ぐらい引けるだろう”。繰り返しになりますが、1マナクリーチャーが 12 枚入ってるのは初手に1枚来て欲しいからであって、土地が多めで1マナ域の入ってない初手をキープするためではありません! もし1マナなしでもキープすることがあると考えているのなら、明らかに経験不足です。この手のデッキを充分使い込んでいれば、1マナクリーチャーの無い初手をキープするにはよっぽど他のカードが強くなければならないことに気づくはずです。(もちろん相手のデッキがわかっている場合なんかには例外があり得るのですが。)
アグロ・デッキのサイドボーディング
アグロ・デッキでサイドボードするときの基本は、コントロールデッキの場合とは違って、メインでやってることをそれ以上尖らせようとしてはいけません。殆どの場合そんなことは不可能だからです。だって、メインデッキにはそれぞれのマナ域で最強のカードを詰め込んでるわけですよ。それに最強の除去と最強の火力が(あるいは最強のジャイグロとか最強の打ち消し呪文が)既に入ってるんです。
ですから、サイドボードを使って、メインとは全く違うことをできるようにしなければいけません。ミラーマッチで特に大きな意味を持つ違う方向性での勝ち筋であったり、厄介なパーマネントへの対処であったり、相手のサイドボードへのアンチカードであったりです。
一般的に、サイドボード後の方がゲームの速度は落ちます。どんなデッキでもサイドボード後には必ず軽い(コストの低い)妨害カードが入ってきます。逆にコンボを相手にしている場合はこちらが妨害カードを入れることになります。いずれにしても展開は遅くなるわけです。これによって、速さだけのカード(先週の私の記事でも書いたとおり《ゴブリンの先達》や《ステップのオオヤマネコ》といったカードです)はかなり価値を落とし、速度はなくてもカードパワーの高いカード(《聖遺の騎士》《イーオスのレインジャー》)がずっと強くなります。速度任せに相手を倒すことはもはや不可能で、より粘り強い構成にならざるをえなません。
コントロール・デッキ相手の時は、アグロ側はサイドボードからそれほど多くのカードを入れません。抜くカードは除去か火力です。相手がコントロール色を強めるほど火力は弱くなります。手元に6点分の火力があるけど相手のライフは 12 残っていてこちらのクリーチャーは皆殺しにされた後、みたいな状況が起こりやすくなるからです。もし相手がクリーチャーを使ってくるタイプのコントロール・デッキだった場合(すなわち、単体除去を打ってからタイタンを出してくるようなデッキです)、火力が必要になるかも知れません。相手がひとたびデカブツにたどり着いてしまえばこちらのクリーチャーはなにもできなくなってしまいますから、相手のデカブツを殺す手段が欲しいのです。
サイドボーディングでもっとも重要なのは、またしてもマナ・カーヴです。不適切なサイドボーディングをすればマナ・カーヴは簡単に崩れてしまいます。それは避けなくてはいけません。2006 年の世界選手権でこんなことがありました。私たちはエクステンディッドで「ボロス」を使っていて、メインデッキに4枚の《溶鉄の雨》をとっていました。サイドボードからコントロールデッキ相手には《硫黄の渦》を入れるプランです。そうすると代わりに《溶鉄の雨》をサイドアウトしなければなりません。実のところ《雨》はコントロール相手でもそう悪いカードではなく、単純なカードパワーでは例えば《銀騎士》よりは上です。でも、3マナのカードがそれだけ入るのは明らかに重すぎ、容認できる構成ではありませんでした。それに《銀騎士》+《硫黄の渦》という手札は《溶鉄の雨》+《硫黄の渦》という手札より明らかに強いです。
二番目に重要なのは脅威の密度です。相手のデッキに対する「解答」を詰め込みすぎるのは禁物です。こっちはアグロ・デッキであって、主導権を握らなければならないのです。相手はこちらと1対1の交換を繰り返しながら、高コストの呪文にたどり着いて勝ちを目指します。そういう相手にこちらが《帰化》のようなカードをプレイするのは、相手のするべきことをしてあげているようなものです。相手の脅威に対応するカードは大抵の場合無意味です。たとえその脅威が非常に強力なものであってもそれは変わりません。私が「フェアリー」をプレイしていた頃、アグロ・デッキが《苦花》を割るためのカードをサイドインしてくるのはむしろ嬉しいことでした。そうすることで相手のデッキパワーは下がり、私は《苦花》無しでも勝てるようになるのです。繰り返しになりますが、カード・パワーよりもデッキの一貫性を重視しなければなりません。
コンボ・デッキに対しては、なにか大砲のようなものを持ちこまなければなりません。中途半端な武器では歯が立たないのです。なにか破滅的で、それでいておなじみのふたつの原則——すなわちマナ・カーヴと脅威の密度の妨げにならない何かが必要です。ヘイト・ベアー(*8)はこの点において素晴らしいです。デッキの速度を落とすこともありませんし、ヘイト・カードが3枚手札に来たけどクロックが無い、なんて事態も決して起きません。欠点としては相手はどのみち除去をサイド・インしてくることで、そうなるとヘイト・ベアーたちは早晩死ぬことになります。理想としては、相手に対処されないヘイト・カードと、除去される可能性はあってもプレッシャーをかけられるヘイト・カードとを両方入れることです——《エーテル宣誓会の法学者》と《精神壊しの罠》を2枚ずつというようなサイドボードが、どちらかだけを4枚サイドにとるよりも絶対によいです。もし《法の支配》を混ぜられるならなおよいです。汎用的な打ち消し呪文、たとえば《否認》のようなカードも中々強いです。が、過度に依存しないことが大切です。クリーチャーが多ければ多いほど打ち消し呪文は強くなるからです。私たちがフィラデルフィアに持ち込んだ「ズー」はある程度の枚数を許容できましたが、あれは《貴族の教主》と《野生のナカティル》《緑の太陽の頂点》が入っていたからで、クリーチャーを1枚か2枚素早く並べて(たとえば1ターン目に《ナカティル》、2ターン目に《頂点》から《ナカティル》)、あとはそいつらで殴りながらマナを立てておく、ということができたのです。
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(*8) ヘイト・ベアー
「相手を阻害する能力を持っている、2マナでパワー2のクリーチャー」の総称。ヘイト・カードは特定の色/カードタイプ/メカニズム/部族/などなどに対抗するカードのことで、ベアーは伝統的に2マナ 2/2 のクリーチャーのことを指す。なのでもともとは阻害能力付きの2マナ 2/2 を指していたが、転じて2マナ 2/1 も含むようになった。本文中の《エーテル宣誓会の法学者》がまさにこのヘイト・ベアー。他に《ガドック・ティーグ》《スレイベンの庇護者、サリア》など、数はかなり多い。
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コントロールデッキを相手にする場合はこれまでの議論は忘れる必要があります。マナ・カーヴと密度のことはとりあえず気にしなくてかまいません。というのは、どれだけ数を並べても相手はそれを除去してきて、こちらはまたクリーチャーを出す、ということの繰り返しなので、むしろ一番最後に場に出すでかぶつが必要になるのです。
アグロ・デッキのミラーマッチでよく使われるサイドボードは大型クリーチャー(《刃砦の英雄》《最後のトロール、スラーン》《ギデオン・ジュラ》《聖遺の騎士》)やカードアドヴァンテージをとれるカード(《台所の嫌がらせ屋》《イーオスのレインジャー》《遍歴の騎士、エルズペス》)、そして戦闘をぶちこわしにする装備品(それが場に出ると相手はこちらのクリーチャーを文字通り全部倒さなければならなくなります)です。少し前までは、アグロ・デッキのミラーで後手を取るのはありうると思っていました(*9)が、今はどうも違うような気がしています。必要なのは、主導権を握って相手のクリーチャーを殺して相手をぶん殴ることか、1ターン目に《壌土のライオン》か《密林の猿人》を出して相手がブロックできないうちにぶん殴ることなんです。
もし直接攻撃のないアグロ・デッキをプレイしている場合であっても大して違いはありません。直接攻撃はふつう相手のクリーチャーを除去するために使われるからです。もちろん白除去や黒除去がどっちゃり手札に来る可能性がないとは言えませんが、まあ滅多にあることではなくて、実際に来なかったとすれば、また私たちはマナ・カーヴに立ち戻らなければなりません——プレイヤーは対戦相手のクリーチャーを皆殺しにすることはできないのですから、クリーチャーの大群を抱えることは大物を一体残すことより意味があります。自分の側にだけクリーチャーが残っているという状況にはほぼたどり着けません。どんなにでかいクリーチャーよりも、綺麗なマナカーヴの方が強いです。
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(*9) アグロ・デッキのミラーで後手を取るのはありうると思っていました
原文は I think it was correct to draw in some aggro mirrors, 。最初「サイドボードからドロースペルを入れるのはありうると思っていた」と訳したが、どうもしっくり来ない。とはいうものの to draw でほんとに「後手を選ぶ」でいいのかどうかもわからない。
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アグロ・デッキのプレイング
マジックの歴史を通じてアグロ・デッキのプレイヤーに突きつけられ続けている問いがふたつあります——すなわち「どれだけ盤面の優位を意識するべきか?」と「プレイヤーを焼くべきかクリーチャーを焼くべきか?」です。もちろんどちらにも決まった答えなんてなくて、正答は常にゲームの状況に左右されます。でも、私たちの決断の助けになってくれる基準は確かに存在します。どちらの問いにおいても、普通は複雑な要素が絡み合っています。ある行動を選べばあなたは何を負かせるか、選ばない場合あなたは何を負かせるか、相手は何を持っていそうだと考えるか。これはとてもあいまいだということはわかっていますが、それでもなるべくわかりやすく説明してみたいと思います。
まず知らなければならないのは、全体除去に勝てるかどうかと、それを迂回するプレイングがどれだけコストのかかるものであるかということです。一番簡単な例はあなたが殆ど勝ちを決めているかそれに近くて、相手に全体除去がない限り覆しようがない、という状況です。この場合、明らかにこれ以上1枚たりとも戦力を盤面に追加してはいけません。真逆の状況を考えてみましょう。何を手札に残していたとしても全体除去を喰らったら負けが確定する状況ですね。この場合は当然盤面に戦力を全展開すべきです。このふたつの中間というのが厄介です。相手に全体除去があっても勝てるかも知れない、でも相手が全体除去を持ってなくても負けるかも知れない。
私は(心の中で)選択肢に評価をつけます。実際に数値をつけてはいませんが、「ありそう」「すごくありそう」「まったくありそうにない」などの評価のための言葉を使っています。さて、では説明のための状況を設定してみましょう。私は 2/2 を2体場に出していて、手札に3枚目を持っています。対戦相手は青黒コントロールでライフは残り2点、土地を3枚コントロールしています。最悪の展開は、土地を出されて《黒の太陽の頂点》を打たれることです。ここでは私は全く盤面に触れる必要がありません。相手が《頂点》を持っていなければどっちみち勝ちですし、もし持たれていたとしても手札に 2/2 を残しておけばかなりの確率で勝てますから。では選択肢を評価してみましょう。2/2 をプレイすれば、《黒頂点》無しの相手には 100% 勝てます。相手が《黒頂点》を持っていれば 50% 。一方 2/2 を温存した場合、《黒頂点》無しの相手に勝てる確率は 90% になりますが、相手が《黒頂点》を持っていても 80% 勝てます。明らかに後者の方がよい成果です。相手が《黒頂点》を持っているかどうかにかかわらず。
さて、では次の状況を考えてみましょう。今度はこちらの 2/2 が3体、そして手札にもう1枚あります。対戦相手のライフは2ではなくて4で、土地も今回は5枚コントロールしています。《黒の太陽の頂点》を考えるなら、基本的には先ほどの状況と同じです——つまり手札の 2/2 は温存した方がよい——が、今回は情報が増えています。相手は《黒の太陽の頂点》を唱える機会が既にあったのに唱えていません。そして他にも要素があります。相手には「土地を置いて《墓所のタイタン》」という動きができて、それをされると手札に残した 2/2 は文字通り何の役にも立たなくなります。《黒頂点》についてだけ考えれば勝率は依然 100/50 対 80/80ですが、もしこちらが 2/2 を出して相手が《墓所のタイタン》を唱えたら 100% こちらの勝ち(*10)で、一方 2/2 を手札に残して相手が《墓所のタイタン》だったらこちらの勝率は 10% しかなくなってしまいます(いちおう《感電破》を引く可能性はあることにしておきます)。この状況なら《黒の太陽の頂点》で全滅するリスクがあっても展開するに値します。2/2 を出して《黒頂点》で全滅してもなお勝てる可能性はあるのに対して、2/2 を残して《タイタン》を出されたら勝ち目はないのですから、出す方がよい、ということになるわけです。
基本的に、あるカードをケアして動くというのはそのカードを打たれるより致命的な状況がありうる限りあまりいい動きとは言えません。そしてその致命的な状況というのは必ずしもタイタンのようにわかりやすく強力なものとは限りません。時には《神の怒り》を避けようとしたばっかりに《流刑への道》を持たれていても負けてしまう状況になってしまったりすることがあって、それは全展開して《神の怒り》を本当に持たれていた場合と同じぐらいひどい状況と言えます。このような場合は仮に《神の怒り》を持たれていたら相当厳しいことになるとわかっていても全展開するのが正解です。それがその状況からの唯一の出口だからです。
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(*10) もしこちらが 2/2 を出して相手が《墓所のタイタン》を唱えたら 100% こちらの勝ち
これは明らかに誤っている。むしろほぼ 100% 負けの状況だ。PV は相手のライフを4点に変えたのを忘れているのではないか。そもそも4点に変えた意味もよくわからない。
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「どっちを焼くべきか」という問いも本質的にはそんなに変わりません——普通はクリーチャーを焼きたいですし、本体火力以外では勝ち目がないという状況だったら本体に火力を打つでしょう。
しかし個人的な経験から言うと、多くのプレイヤーは対戦相手を焼かずに勝てる見込みを明らかに過大に見積もっています——言い換えると、大抵のプレイヤーは対戦相手に火力を打たなさ過ぎる傾向があります。あなたがその“大抵のプレイヤー”に含まれていて、そこは直したいと思っているのだったら、試しにどっちか迷うような状況でもどんどんプレイヤーに火力を打ち込んでみましょう。
世界選手権に向けて「ズー」を調整していた時のことです。私は「ビッグ・ズー」(*11)が「スモール・ズー」(*11)に勝てるものかどうか確信が持てずにいて、それでプレイテストをしていたのですが、その時に私は自分が「スモール・ズー」を使っている時の勝率が他のプレイヤーより高いことに気がつきました。それは私が本体火力を多用するからでした。(*12) スモール・ズー側のプレイヤーが《密林の猿人》をコントロールしていて、相手の《密林の猿人》とにらみ合いになる状況があります。そうなると他のチームメイトたちは相手の《猿人》に《稲妻》を打ってから自分の《猿人》でアタックするのですが、結局その《猿人》も相手の除去で殺されておしまいです。そういう状況では私は火力を温存します。そうこうしているうちに手札に相手を焼き殺せるだけの火力がたまって、相手のクリーチャーの方がこちらのより大きくても関係なく勝ててしまう状況が来ます。一般的にゲームの序盤では比較的クリーチャーの攻撃は通りやすく、相手のクリーチャーを焼いてもそれに見合うだけのダメージをアタックで稼ぐことができますが、中盤以降は火力は少し節約した方がよいです。自分でも気がつかないうちに“バーン・フェイズ”に突入しているかも知れないからです。
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(*11)「ビッグ・ズー」「スモール・ズー」
おそらく「ズー」の中でもややマナカーヴを高めにとって大型クリーチャーを採用しているのが「ビッグ・ズー」で、小型クリーチャー主体のオーソドックスな構成が「スモール・ズー」。
(*12) それは私が本体火力を多用するからでした。
原文は because I was going to the face a lot more。go to the face が判らなかったのでまあこんな意味かな的に訳しているがつまりそれ和訳じゃなくて作文。
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さて、今回はこの辺りにしておきましょう。アグロ・デッキについて私が語れることは大体語ったつもりです。みなさんが楽しまれているとよいのですが。そして来週は、コントロール編!
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久々の和訳。調べてみたが1年以上やってなかったのか。この記事自体も訳し始めたのは多分昨年の今頃だったが、再開したのは先々週でおそらく 10 ヶ月以上は全く手をつけていない期間があったと思う。
例によって誤訳の指摘や「自分ならこう訳す」といった意見は歓迎します。コメント欄へお願いします。
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カテゴリを修正(「トレーディングカード」→「翻訳」)。まあどっちでもいいようなものだが。
翻訳:アグロ(前編)/パウロ・ヴィトフ・ダモ・ダ・ホサ
2013年8月25日 翻訳原文:PV’s Playhouse - Aggro
http://www.channelfireball.com/articles/pvs-playhouse-aggro/
2012-03-29
こんにちは!
今回から新しいシリーズを始めようと思います。マジックのデッキのマクロ・アーキタイプ——つまり「アグロ」「コントロール」「コンボ」、そして言及する余裕があれば「アグロコントロール」や「中速」(みなさんが知りたいと思うかどうかは知りませんが)——について、少し細かいことまで語ってみるつもりです。基本的には、このシリーズではデッキの構築とプレイングを中心に書いていくつもりです。第1回の今日はアグロをとりあげたいと思います。特に理由はありません、なんとなくアグロについて書きたい気分だからです。
まず忘れないでほしいのは、こうしてデッキをカテゴライズしたとはいえ、同一カテゴリ内であってもそれぞれにデッキは異なるということです。すべてのデッキは、ひとつひとつ違うプレイングが必要です。というかむしろ、同じデッキであっても、プレイングはゲームごとに変えなければなりません。でも、とにかく一般化は必要ですし、だとすればこれが一番いいやり方に思えます。少なくとも同じカテゴリの中のデッキの方が、違うカテゴリのデッキよりは似ているという風にはできますからね。まあ能書きはこのくらいにして、始めましょう!
1996年のことから語りたいと思います——私がマジックを始めた年ですね。この時点では私は全くのどボンクラで、マジックについてはなにもわかっていませんでした(というか、ほんとのところあらゆることについてなにもわかってませんでした。なにしろまだ8歳だったのです)。それでもわずかに知っていたことのひとつは、カードパワーが高いのはいいことだということでした。わたしはとにかく持っている中で一番強いカードをプレイしたくてしょうがなくて、マナコストなんてなんの問題でもないと思ってました。むしろ、高いコストは魅力的にすら見えました。なんたってコストが高いカードは強いですからね。私は友人が持っていた《機械仕掛けの獣》を今でも憶えています。あの頃どれほどあのカードが欲しかったことか。
しかし時は下り、いつだったかは憶えていませんが、その対戦相手は現実の厳しさを私の顔にたたきつけてくれました。私はひとつたりともスペルを唱えられないうちに負けてしまったのです——その経験こそが、私にマナカーヴの重要さを教えてくれた最初の一歩でした。《マハモティ・ジン》は強いカードですが、もし私がそれを唱えることができるようになるまえにちっぽけな敵たちに踏みつぶされてしまったら、なんの役にも立たないのです。その同じ年に、ポール・スライ Paul Sligh という男がマジックプレイヤー全員の顔に私が喰らったのと同じ現実をたたきつけました。(*1) つまり、当時はまったく実戦レベルではないと考えられていたカードが山のように詰め込まれたデッキで、プロツアー予選を準優勝したのです:
メインデッキ
2 《ドワーフ都市の廃墟/Dwarven Ruins》
4 《ミシュラの工廠/Mishra’s Factory》
13 《山/Mountain》
4 《露天鉱床/Strip Mine》
4 《真鍮人間/Brass Man》
2 《火の兄弟/Brothers of Fire》
2 《チビ・ドラゴン/Dragon Whelp》
3 《Dwarven Lieutenant》
2 《Dwarven Trader》
2 《フラーグのゴブリン/Goblins of the Flarg》
4 《鉄爪のオーク/Ironclaw Orcs》
2 《オーク弩弓隊/Orcish Artillery》
2 《Orcish Cannoneers》
2 《オークの司書/Orcish Librarian》
1 《黒の万力/Black Vise》
1 《爆破/Detonate》
1 《火の玉/Fireball》
1 《炎の供犠/Immolation》
4 《火葬/Incinerate》
4 《稲妻/Lightning Bolt》
1 《粉砕/Shatter》
サイドボード
3 《活火山/Active Volcano》
1 《An-Zerrin Ruins》
1 《爆破/Detonate》
1 《火の玉/Fireball》
4 《魔力のとげ/Manabarbs》
1 《弱者の石/Meekstone》
2 《鋸刃の矢/Serrated Arrows》
1 《粉砕/Shatter》
1 《Zuran Orb》
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(*1) ポール・スライという男が 〜 たたきつけました。
広く知られている事実だとは思うが書いておくと、この時の「スライのデッキ」のデザイナーはジェイ・シュナイダー Jay Schneider である。ポール・スライの名はマジック史上この1回しか登場しないが、その1回のために今日にまで知られる名前になった。
当時のトーナメントはシングルエリミネーションだったことにも注意されたい。
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「スライ」はマジック史上もっとも有名なアグロ・デッキでしょう。同じく 1996 年から存在する“ザ・デック”と同じ立ち位置にあるアグロ側のデッキと言えます。スライのデッキは新しいコンセプトを生み出しました。カードパワーの高さがデッキの強さを決めるのではないということ——少なくとも、カードパワーだけが唯一の王ではなく、私たちは今やスタニス・バラシオン(*2)マナ・カーヴという評価軸を持っています。
今日ではマナ・カーヴはビートダウン・デッキの基本中の基本になっています——他のことは忘れたとしてもこれだけは絶対に頭に入れてください。アグロ・デッキを組む上でもっともありがちなミスはマナ・カーヴを高くしてしまうことですし、アグロ・デッキを倒す一番簡単な方法はマナ・カーヴに沿った展開を阻害することです。
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(*2)スタニス・バラシオン Stannis Baratheon
ジョージ・R・R・マーティンの大河小説『炎と氷の歌』シリーズの登場人物。原文では one in which power was not the king - or at least not the only king, as we now have Stannis Baratheonmana curve という流れで登場する。王位継承権を持つ人物らしい(?)ので、もしかすると作中に ’we now have Stannis Baratheon’ というような科白が登場するのかも知れない。未読なのでこれ以上はご勘弁。
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一般的に、アグロ・デッキはそれ以外のデッキほどカードパワーが高くなく、より状況を選ぶカードがたくさん入っています。ここでの「状況を選ぶ」というのは一般的な意味ではありません。このことによってアグロ・デッキのカードは序盤では実に有用なシナジーを形成しますが、ゲームが進むにつれてだんだん役に立たなくなっていきます。ふつうシナジーの豊富なデッキは後半の方が有利だと考えるでしょう。リソースが多い方がシナジーも大きくなりますから。しかしアグロにはそれは当てはまりません。そんなわけで、ゴールラインが設定されます——デッキの弱点が露呈する前に、勝負をつけてしまわなければなりません。攻撃的なデッキでは、序盤にこそ集中する必要があります。序盤こそがアグロデッキの土俵です。こちらのカードはゲームの序盤には他のどんなデッキよりも強く、逆に長引けば相手のカードの方が上回ります。相手が全てのリソースをプレイする前に勝ちきってしまいたいところです。もし相手が手札に《タイタン》を持っていても、唱えられないうちに死んでしまえばなんにもなりませんからね。
アグロデッキには大別して2種類あります。直接攻撃を持つデッキと、持たないデッキです。
直接攻撃のあるアグロデッキ
このタイプはアグロデッキの中で最良のものです。他のタイプに比べてぶん回りでの勝ち(*3)が多く、ぶん回りでの負け(*3)が少ないからです。直接攻撃というのは、対戦相手がこちらの序盤の脅威を全部対処してしまってから、なお相手にとどめを刺せる手段のことで、通常は火力です。もちろん、たいていの火力はクリーチャーを除去するのにも使えます。しかし、火力呪文を使っているときにもっとも重要なことは私が考えるところの“バーン・フェイズ”——つまりあとは本体火力しか相手に届かない状況があることです。デッキ内の火力が少ないと“バーン・フェイズ”にたどり着くのは遅くなり、そこまでにより多くのライフを減らすことができますが、しかしその残り少ないライフを削るにも足りない火力しか手札に来ない恐れがあります。逆に火力が多すぎると、あまりにも早い段階で“バーン・フェイズ”に突入してしまい、いくら火力が多くても削りきれないほどライフが残っている可能性があります。デッキによって直接攻撃の射程は異なりますが、赤が入っているアグロデッキの多くは8枚から 12 枚の火力をとっています。
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(*3) ぶん回りでの勝ち/ぶん回りでの負け
それぞれ free win、free lose。あとで free loss という言葉は登場していて、そこでは「殆ど何もできないで負けること」。
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今現在、直接攻撃のあるアグロデッキの殆どはモダン環境で見られます。「ズー」「ボロス」「(《爆片波》の入った)親和」などです。マジック史上の大抵の期間において、最良のクリーチャーは火力や除去とは違う色に配されてきました。そのためにアグロデッキのマナ・ベースは非常に繊細なものです(とにかくゲームの初期に充分な呪文をプレイできなければなりません。そうできなければ負けです)。ですから、良質のクリーチャーと火力を擁するデッキというのは土地が強力なフォーマットでより多く見られるということになるわけです。「ズー」はたぶん今日ではもっとも有名な直接攻撃のあるアグロデッキでしょう。ここでは(*4)の最新版のリストを載せることにします。(この記事内のリストは私が説明に使うために載せているもので、必ずしもおすすめのデッキというわけではありません)
4 《稲妻/Lightning Bolt》
4 《流刑への道/Path to Exile》
3 《炎の印章/Seal of Fire》
4 《渋面の溶岩使い/Grim Lavamancer》
4 《密林の猿人/Kird Ape》
4 《壌土のライオン/Loam Lion》
4 《ステップのオオヤマネコ/Steppe Lynx》
4 《稲妻のらせん/Lightning Helix》
4 《タルモゴイフ/Tarmogoyf》
4 《スレイベンの守護者、サリア/Thalia, Guardian of Thraben》
4 《湿地の干潟/Marsh Flats》
4 《沸騰する小湖/Scalding Tarn》
4 《乾燥台地/Arid Mesa》
2 《霧深い雨林/Misty Rainforest》
2 《踏み鳴らされる地/Stomping Ground》
2 《聖なる鋳造所/Sacred Foundry》
1 《寺院の庭/Temple Garden》
1 《山/Mountain》
1 《平地/Plains》
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(*4) オーウェン
オーウェン・ターテンワルド Owen Turtenwald のこと。筆者(PV)のチームメイト。CFB のサイトでは ’Owen’s a win’ を連載している。
昨年(2012年)のプレイヤー選手権の質問コーナーで一番好きな本は何かという問いに『蝿の王』と答えていたことで(おれの中では)知られる。
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このオーウェンのリストは一般的なものよりやや低マナ域に寄せてあって、1マナクリーチャーが 16 枚入っていますが、これはメタゲームによるものですし、シーズンごとに変化するものです。
スタンダードでは、直接攻撃を持つアグロデッキはふたつだけあります。ただしどちらにも直接攻撃は殆ど入っておらず、単なるアグロデッキと言ってもいいほどです。そのふたつというのは「ゾンビ」と「赤緑」です。
2 《迫撃鞘/Mortarpod》
1 《虚無の呪文爆弾/Nihil Spellbomb》
1 《戦争と平和の剣/Sword of War and Peace》
1 《ファイレクシアの変形者/Phyrexian Metamorph》
4 《戦墓のグール/Diregraf Ghoul》
4 《ゲラルフの伝書使/Geralf’s Messenger》
4 《墓所這い/Gravecrawler》
4 《幻影の像/Phantasmal Image》
4 《ファイレクシアの抹消者/Phyrexian Obliterator》
4 《ゲスの評決/Geth’s Verdict》
4 《悲劇的な過ち/Tragic Slip》
1 《ヴェールのリリアナ/Liliana of the Veil》
4 《困窮/Distress》
14 《沼/Swamp》
4 《闇滑りの岸/Darkslick Shores》
4 《水没した地下墓地/Drowned Catacomb》
直近の SCG スタンダードトーナメントで優勝したデッキリストです。このデッキの直接攻撃は2枚の《迫撃鞘》、4枚の《ゲラルフの伝書使》、そして後者をコピーする5枚のカードです(《ゲスの評決》も一応含めていいかも知れません)。これは多いとは言えませんが、無いのとは全然違ってきます。こういうデッキは最後の数点をブロッカー越しに削り切ることで多くのゲームをものにするのです。黒赤のヴァージョンだとクローン系のカードが減りますが、《硫黄の流弾》が入り、直接攻撃は増えます。
赤緑のデッキについてはクアラルンプールのジェイソン・ヤップ Jason Yap(*5)のデッキが参考になるでしょう:
4 《銅線の地溝/Copperline Gorge》
7 《森/Forest》
2 《ケッシグの狼の地/Kessig Wolf Run》
6 《山/Mountain》
4 《根縛りの岩山/Rootbound Crag》
1 《酸のスライム/Acidic Slime》
4 《極楽鳥/Birds of Paradise》
3 《地獄乗り/Hellrider》
4 《高原の狩りの達人/Huntmaster of the Fells》
3 《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》
2 《ファイレクシアの変形者/Phyrexian Metamorph》
4 《絡み根の霊/Strangleroot Geist》
1 《最後のトロール、スラーン/Thrun, the Last Troll》
4 《感電破/Galvanic Blast》
3 《緑の太陽の頂点/Green Sun’s Zenith》
3 《火葬/Incinerate》
1 《赤の太陽の頂点/Red Sun’s Zenith》
1 《饗宴と飢餓の剣/Sword of Feast and Famine》
3 《戦争と平和の剣/Sword of War and Peace》
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(*5) ジェイソン・ヤップ
マレーシアのプレイヤー。この GP クアラルンプール 2012 で8位入賞し、それが唯一の GP/PT トップ8と思われる。トップ8インタヴューでは「もしこのデッキをもう一度使うならどこを直したい?」という問いに「全部このままで行くよ! 素晴らしいデッキだ」と答えていたが準々決勝で敗れた。
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このデッキには《火葬》《感電破》といった火力と、火力に準じたカードとして《地獄乗り》《高原の狩りの達人》が入っています。そして殆ど直接攻撃と言える強力なカード、《ケッシグの狼の地》を擁しています。これは除去ではありませんが、巨大なブロッカーを突破させてくれます。
世の中には「バーン」と呼ばれるデッキもあります。これはゲームが始まるなり“バーン・フェイズ”に突入するデッキです。基本的にはひどいデッキタイプです。最大の問題は、デッキに入っているあらゆるカードが(相手に止めを刺せる)7枚目以外はなんの役にも立たないということです。もし相手のライフが8だったら、《稲妻》はなんの役にも立ちません。3枚まとめて引いて初めて3枚ともが役に立つのです。対戦相手は「バーン」使いが唱える6枚目の呪文までは完全に無視することができます。そしてもし相手が止めの一撃を防ぐ手段を手に入れてしまえば、「バーン」側はなにもしなかったのと同じことです。実際のところ、「バーン」デッキはアグロ・デッキよりもコンボ・デッキに近いかも知れません(特定のリソースが一定枚数必要で、それが揃えば勝つし揃わなければ負けるので)。しかしまあ、いずれにしてもまったくプレイするには値しないデッキなので、どっちに近かろうと知ったことではありません。
直接攻撃のないアグロ・デッキ
直接攻撃を持たないアグロ・デッキは大抵白か緑を中心に組まれていて、赤は入っていません。基本的なコンセプトとしてはこういうデッキは駄目です。私の最近のデッキ選択を見ていただければおわかりかと思うのですが。
これらのデッキは“バーン・フェイズ”には入りにくいように作られているのですが、ひとたび突入してしまえば破滅が待っています。まあ、だって、火力が入ってないんですからね。火力がないために、このデッキには“ただ負け”がしばしば起こります。つまり殆どなにもできないままゲームを落としてしまうということです。もし《稲妻》がデッキに入っていれば、たまたまそれを固め引きするだけでゲームに勝ってしまうということが起こり得ます(それが《部族の炎》みたいなカードだったら、対戦相手に安全圏は殆どありません)。でも、直接攻撃のないデッキだと、盤面で行き詰まったら死ぬしかありませんし、対戦相手もそれを知っているのです! もし火力がデッキに入っていれば、対戦相手はトン死を防ぐためにひどいプレイとわかっていてもライフを守らざるを得ない状況があります。たとえ実際には手札に火力を持っていなかったとしても、です。ところが《平地》しか並べていないとしたら、対戦相手は喜んでライフを2点まで削らせてそれから悠々勝つでしょう。それだけ相手を楽にしてしまっているわけです。さらによろしくないことには、そういう緑白ベースのデッキは、基本的に対戦相手がやろうとしてることを妨害する手段をいっさい持っていません。できることと言えば祈ることぐらいなのです——相手のしようとしてることは僕のデッキを止めるのには力不足でありますように。もしくは僕のデッキを止められるようになる前に相手を倒してしまえますように。
このタイプの典型的なデッキは「白ウィニー」なのですが、人間たちは最近全然ぱっとしないので、ここでは私たちが世界選手権で使った「《鍛えられた鋼》」デッキを紹介しましょう。
4 《墨蛾の生息地/Inkmoth Nexus》
2 《ムーアランドの憑依地/Moorland Haunt》
9 《平地/Plains》
4 《金属海の沿岸/Seachrome Coast》
4 《刻まれた勇者/Etched Champion》
4 《きらめく鷹/Glint Hawk》
4 《メムナイト/Memnite》
1 《月皇ミケウス/Mikaeus, the Lunarch》
4 《信号の邪魔者/Signal Pest》
4 《大霊堂のスカージ/Vault Skirge》
4 《急送/Dispatch》
4 《きらめく鷹の偶像/Glint Hawk Idol》
4 《オパールのモックス/Mox Opal》
4 《起源の呪文爆弾/Origin Spellbomb》
4 《鍛えられた鋼/Tempered Steel》
このデッキが非常に速く、シナジーに満ちていて、すぐにリソースが尽きることは見ただけでわかるでしょう。序盤にゲームを決め損ねた場合の勝ち筋は《墨蛾の生息地》しかありません。直接攻撃のないアグロ・デッキを使うのは、常にメタゲームの上では賭けになります。いくつかのデッキにはだいたい勝てますが、決して勝てない相手も少なくありませんし、できることと言えばその勝てない相手があんまり多くありませんように祈ることぐらいです。言うまでもありませんが、私はこういう戦略は好きではありません。この手のデッキに触るのはよほどメタゲームを読み切った自信があるときだけです。
→後編に続く
http://www.channelfireball.com/articles/pvs-playhouse-aggro/
2012-03-29
こんにちは!
今回から新しいシリーズを始めようと思います。マジックのデッキのマクロ・アーキタイプ——つまり「アグロ」「コントロール」「コンボ」、そして言及する余裕があれば「アグロコントロール」や「中速」(みなさんが知りたいと思うかどうかは知りませんが)——について、少し細かいことまで語ってみるつもりです。基本的には、このシリーズではデッキの構築とプレイングを中心に書いていくつもりです。第1回の今日はアグロをとりあげたいと思います。特に理由はありません、なんとなくアグロについて書きたい気分だからです。
まず忘れないでほしいのは、こうしてデッキをカテゴライズしたとはいえ、同一カテゴリ内であってもそれぞれにデッキは異なるということです。すべてのデッキは、ひとつひとつ違うプレイングが必要です。というかむしろ、同じデッキであっても、プレイングはゲームごとに変えなければなりません。でも、とにかく一般化は必要ですし、だとすればこれが一番いいやり方に思えます。少なくとも同じカテゴリの中のデッキの方が、違うカテゴリのデッキよりは似ているという風にはできますからね。まあ能書きはこのくらいにして、始めましょう!
1996年のことから語りたいと思います——私がマジックを始めた年ですね。この時点では私は全くのどボンクラで、マジックについてはなにもわかっていませんでした(というか、ほんとのところあらゆることについてなにもわかってませんでした。なにしろまだ8歳だったのです)。それでもわずかに知っていたことのひとつは、カードパワーが高いのはいいことだということでした。わたしはとにかく持っている中で一番強いカードをプレイしたくてしょうがなくて、マナコストなんてなんの問題でもないと思ってました。むしろ、高いコストは魅力的にすら見えました。なんたってコストが高いカードは強いですからね。私は友人が持っていた《機械仕掛けの獣》を今でも憶えています。あの頃どれほどあのカードが欲しかったことか。
しかし時は下り、いつだったかは憶えていませんが、その対戦相手は現実の厳しさを私の顔にたたきつけてくれました。私はひとつたりともスペルを唱えられないうちに負けてしまったのです——その経験こそが、私にマナカーヴの重要さを教えてくれた最初の一歩でした。《マハモティ・ジン》は強いカードですが、もし私がそれを唱えることができるようになるまえにちっぽけな敵たちに踏みつぶされてしまったら、なんの役にも立たないのです。その同じ年に、ポール・スライ Paul Sligh という男がマジックプレイヤー全員の顔に私が喰らったのと同じ現実をたたきつけました。(*1) つまり、当時はまったく実戦レベルではないと考えられていたカードが山のように詰め込まれたデッキで、プロツアー予選を準優勝したのです:
メインデッキ
2 《ドワーフ都市の廃墟/Dwarven Ruins》
4 《ミシュラの工廠/Mishra’s Factory》
13 《山/Mountain》
4 《露天鉱床/Strip Mine》
4 《真鍮人間/Brass Man》
2 《火の兄弟/Brothers of Fire》
2 《チビ・ドラゴン/Dragon Whelp》
3 《Dwarven Lieutenant》
2 《Dwarven Trader》
2 《フラーグのゴブリン/Goblins of the Flarg》
4 《鉄爪のオーク/Ironclaw Orcs》
2 《オーク弩弓隊/Orcish Artillery》
2 《Orcish Cannoneers》
2 《オークの司書/Orcish Librarian》
1 《黒の万力/Black Vise》
1 《爆破/Detonate》
1 《火の玉/Fireball》
1 《炎の供犠/Immolation》
4 《火葬/Incinerate》
4 《稲妻/Lightning Bolt》
1 《粉砕/Shatter》
サイドボード
3 《活火山/Active Volcano》
1 《An-Zerrin Ruins》
1 《爆破/Detonate》
1 《火の玉/Fireball》
4 《魔力のとげ/Manabarbs》
1 《弱者の石/Meekstone》
2 《鋸刃の矢/Serrated Arrows》
1 《粉砕/Shatter》
1 《Zuran Orb》
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(*1) ポール・スライという男が 〜 たたきつけました。
広く知られている事実だとは思うが書いておくと、この時の「スライのデッキ」のデザイナーはジェイ・シュナイダー Jay Schneider である。ポール・スライの名はマジック史上この1回しか登場しないが、その1回のために今日にまで知られる名前になった。
当時のトーナメントはシングルエリミネーションだったことにも注意されたい。
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「スライ」はマジック史上もっとも有名なアグロ・デッキでしょう。同じく 1996 年から存在する“ザ・デック”と同じ立ち位置にあるアグロ側のデッキと言えます。スライのデッキは新しいコンセプトを生み出しました。カードパワーの高さがデッキの強さを決めるのではないということ——少なくとも、カードパワーだけが唯一の王ではなく、私たちは今やスタニス・バラシオン(*2)マナ・カーヴという評価軸を持っています。
今日ではマナ・カーヴはビートダウン・デッキの基本中の基本になっています——他のことは忘れたとしてもこれだけは絶対に頭に入れてください。アグロ・デッキを組む上でもっともありがちなミスはマナ・カーヴを高くしてしまうことですし、アグロ・デッキを倒す一番簡単な方法はマナ・カーヴに沿った展開を阻害することです。
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(*2)スタニス・バラシオン Stannis Baratheon
ジョージ・R・R・マーティンの大河小説『炎と氷の歌』シリーズの登場人物。原文では one in which power was not the king - or at least not the only king, as we now have Stannis Baratheonmana curve という流れで登場する。王位継承権を持つ人物らしい(?)ので、もしかすると作中に ’we now have Stannis Baratheon’ というような科白が登場するのかも知れない。未読なのでこれ以上はご勘弁。
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一般的に、アグロ・デッキはそれ以外のデッキほどカードパワーが高くなく、より状況を選ぶカードがたくさん入っています。ここでの「状況を選ぶ」というのは一般的な意味ではありません。このことによってアグロ・デッキのカードは序盤では実に有用なシナジーを形成しますが、ゲームが進むにつれてだんだん役に立たなくなっていきます。ふつうシナジーの豊富なデッキは後半の方が有利だと考えるでしょう。リソースが多い方がシナジーも大きくなりますから。しかしアグロにはそれは当てはまりません。そんなわけで、ゴールラインが設定されます——デッキの弱点が露呈する前に、勝負をつけてしまわなければなりません。攻撃的なデッキでは、序盤にこそ集中する必要があります。序盤こそがアグロデッキの土俵です。こちらのカードはゲームの序盤には他のどんなデッキよりも強く、逆に長引けば相手のカードの方が上回ります。相手が全てのリソースをプレイする前に勝ちきってしまいたいところです。もし相手が手札に《タイタン》を持っていても、唱えられないうちに死んでしまえばなんにもなりませんからね。
アグロデッキには大別して2種類あります。直接攻撃を持つデッキと、持たないデッキです。
直接攻撃のあるアグロデッキ
このタイプはアグロデッキの中で最良のものです。他のタイプに比べてぶん回りでの勝ち(*3)が多く、ぶん回りでの負け(*3)が少ないからです。直接攻撃というのは、対戦相手がこちらの序盤の脅威を全部対処してしまってから、なお相手にとどめを刺せる手段のことで、通常は火力です。もちろん、たいていの火力はクリーチャーを除去するのにも使えます。しかし、火力呪文を使っているときにもっとも重要なことは私が考えるところの“バーン・フェイズ”——つまりあとは本体火力しか相手に届かない状況があることです。デッキ内の火力が少ないと“バーン・フェイズ”にたどり着くのは遅くなり、そこまでにより多くのライフを減らすことができますが、しかしその残り少ないライフを削るにも足りない火力しか手札に来ない恐れがあります。逆に火力が多すぎると、あまりにも早い段階で“バーン・フェイズ”に突入してしまい、いくら火力が多くても削りきれないほどライフが残っている可能性があります。デッキによって直接攻撃の射程は異なりますが、赤が入っているアグロデッキの多くは8枚から 12 枚の火力をとっています。
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(*3) ぶん回りでの勝ち/ぶん回りでの負け
それぞれ free win、free lose。あとで free loss という言葉は登場していて、そこでは「殆ど何もできないで負けること」。
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今現在、直接攻撃のあるアグロデッキの殆どはモダン環境で見られます。「ズー」「ボロス」「(《爆片波》の入った)親和」などです。マジック史上の大抵の期間において、最良のクリーチャーは火力や除去とは違う色に配されてきました。そのためにアグロデッキのマナ・ベースは非常に繊細なものです(とにかくゲームの初期に充分な呪文をプレイできなければなりません。そうできなければ負けです)。ですから、良質のクリーチャーと火力を擁するデッキというのは土地が強力なフォーマットでより多く見られるということになるわけです。「ズー」はたぶん今日ではもっとも有名な直接攻撃のあるアグロデッキでしょう。ここでは(*4)の最新版のリストを載せることにします。(この記事内のリストは私が説明に使うために載せているもので、必ずしもおすすめのデッキというわけではありません)
4 《稲妻/Lightning Bolt》
4 《流刑への道/Path to Exile》
3 《炎の印章/Seal of Fire》
4 《渋面の溶岩使い/Grim Lavamancer》
4 《密林の猿人/Kird Ape》
4 《壌土のライオン/Loam Lion》
4 《ステップのオオヤマネコ/Steppe Lynx》
4 《稲妻のらせん/Lightning Helix》
4 《タルモゴイフ/Tarmogoyf》
4 《スレイベンの守護者、サリア/Thalia, Guardian of Thraben》
4 《湿地の干潟/Marsh Flats》
4 《沸騰する小湖/Scalding Tarn》
4 《乾燥台地/Arid Mesa》
2 《霧深い雨林/Misty Rainforest》
2 《踏み鳴らされる地/Stomping Ground》
2 《聖なる鋳造所/Sacred Foundry》
1 《寺院の庭/Temple Garden》
1 《山/Mountain》
1 《平地/Plains》
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(*4) オーウェン
オーウェン・ターテンワルド Owen Turtenwald のこと。筆者(PV)のチームメイト。CFB のサイトでは ’Owen’s a win’ を連載している。
昨年(2012年)のプレイヤー選手権の質問コーナーで一番好きな本は何かという問いに『蝿の王』と答えていたことで(おれの中では)知られる。
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このオーウェンのリストは一般的なものよりやや低マナ域に寄せてあって、1マナクリーチャーが 16 枚入っていますが、これはメタゲームによるものですし、シーズンごとに変化するものです。
スタンダードでは、直接攻撃を持つアグロデッキはふたつだけあります。ただしどちらにも直接攻撃は殆ど入っておらず、単なるアグロデッキと言ってもいいほどです。そのふたつというのは「ゾンビ」と「赤緑」です。
2 《迫撃鞘/Mortarpod》
1 《虚無の呪文爆弾/Nihil Spellbomb》
1 《戦争と平和の剣/Sword of War and Peace》
1 《ファイレクシアの変形者/Phyrexian Metamorph》
4 《戦墓のグール/Diregraf Ghoul》
4 《ゲラルフの伝書使/Geralf’s Messenger》
4 《墓所這い/Gravecrawler》
4 《幻影の像/Phantasmal Image》
4 《ファイレクシアの抹消者/Phyrexian Obliterator》
4 《ゲスの評決/Geth’s Verdict》
4 《悲劇的な過ち/Tragic Slip》
1 《ヴェールのリリアナ/Liliana of the Veil》
4 《困窮/Distress》
14 《沼/Swamp》
4 《闇滑りの岸/Darkslick Shores》
4 《水没した地下墓地/Drowned Catacomb》
直近の SCG スタンダードトーナメントで優勝したデッキリストです。このデッキの直接攻撃は2枚の《迫撃鞘》、4枚の《ゲラルフの伝書使》、そして後者をコピーする5枚のカードです(《ゲスの評決》も一応含めていいかも知れません)。これは多いとは言えませんが、無いのとは全然違ってきます。こういうデッキは最後の数点をブロッカー越しに削り切ることで多くのゲームをものにするのです。黒赤のヴァージョンだとクローン系のカードが減りますが、《硫黄の流弾》が入り、直接攻撃は増えます。
赤緑のデッキについてはクアラルンプールのジェイソン・ヤップ Jason Yap(*5)のデッキが参考になるでしょう:
4 《銅線の地溝/Copperline Gorge》
7 《森/Forest》
2 《ケッシグの狼の地/Kessig Wolf Run》
6 《山/Mountain》
4 《根縛りの岩山/Rootbound Crag》
1 《酸のスライム/Acidic Slime》
4 《極楽鳥/Birds of Paradise》
3 《地獄乗り/Hellrider》
4 《高原の狩りの達人/Huntmaster of the Fells》
3 《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》
2 《ファイレクシアの変形者/Phyrexian Metamorph》
4 《絡み根の霊/Strangleroot Geist》
1 《最後のトロール、スラーン/Thrun, the Last Troll》
4 《感電破/Galvanic Blast》
3 《緑の太陽の頂点/Green Sun’s Zenith》
3 《火葬/Incinerate》
1 《赤の太陽の頂点/Red Sun’s Zenith》
1 《饗宴と飢餓の剣/Sword of Feast and Famine》
3 《戦争と平和の剣/Sword of War and Peace》
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(*5) ジェイソン・ヤップ
マレーシアのプレイヤー。この GP クアラルンプール 2012 で8位入賞し、それが唯一の GP/PT トップ8と思われる。トップ8インタヴューでは「もしこのデッキをもう一度使うならどこを直したい?」という問いに「全部このままで行くよ! 素晴らしいデッキだ」と答えていたが準々決勝で敗れた。
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このデッキには《火葬》《感電破》といった火力と、火力に準じたカードとして《地獄乗り》《高原の狩りの達人》が入っています。そして殆ど直接攻撃と言える強力なカード、《ケッシグの狼の地》を擁しています。これは除去ではありませんが、巨大なブロッカーを突破させてくれます。
世の中には「バーン」と呼ばれるデッキもあります。これはゲームが始まるなり“バーン・フェイズ”に突入するデッキです。基本的にはひどいデッキタイプです。最大の問題は、デッキに入っているあらゆるカードが(相手に止めを刺せる)7枚目以外はなんの役にも立たないということです。もし相手のライフが8だったら、《稲妻》はなんの役にも立ちません。3枚まとめて引いて初めて3枚ともが役に立つのです。対戦相手は「バーン」使いが唱える6枚目の呪文までは完全に無視することができます。そしてもし相手が止めの一撃を防ぐ手段を手に入れてしまえば、「バーン」側はなにもしなかったのと同じことです。実際のところ、「バーン」デッキはアグロ・デッキよりもコンボ・デッキに近いかも知れません(特定のリソースが一定枚数必要で、それが揃えば勝つし揃わなければ負けるので)。しかしまあ、いずれにしてもまったくプレイするには値しないデッキなので、どっちに近かろうと知ったことではありません。
直接攻撃のないアグロ・デッキ
直接攻撃を持たないアグロ・デッキは大抵白か緑を中心に組まれていて、赤は入っていません。基本的なコンセプトとしてはこういうデッキは駄目です。私の最近のデッキ選択を見ていただければおわかりかと思うのですが。
これらのデッキは“バーン・フェイズ”には入りにくいように作られているのですが、ひとたび突入してしまえば破滅が待っています。まあ、だって、火力が入ってないんですからね。火力がないために、このデッキには“ただ負け”がしばしば起こります。つまり殆どなにもできないままゲームを落としてしまうということです。もし《稲妻》がデッキに入っていれば、たまたまそれを固め引きするだけでゲームに勝ってしまうということが起こり得ます(それが《部族の炎》みたいなカードだったら、対戦相手に安全圏は殆どありません)。でも、直接攻撃のないデッキだと、盤面で行き詰まったら死ぬしかありませんし、対戦相手もそれを知っているのです! もし火力がデッキに入っていれば、対戦相手はトン死を防ぐためにひどいプレイとわかっていてもライフを守らざるを得ない状況があります。たとえ実際には手札に火力を持っていなかったとしても、です。ところが《平地》しか並べていないとしたら、対戦相手は喜んでライフを2点まで削らせてそれから悠々勝つでしょう。それだけ相手を楽にしてしまっているわけです。さらによろしくないことには、そういう緑白ベースのデッキは、基本的に対戦相手がやろうとしてることを妨害する手段をいっさい持っていません。できることと言えば祈ることぐらいなのです——相手のしようとしてることは僕のデッキを止めるのには力不足でありますように。もしくは僕のデッキを止められるようになる前に相手を倒してしまえますように。
このタイプの典型的なデッキは「白ウィニー」なのですが、人間たちは最近全然ぱっとしないので、ここでは私たちが世界選手権で使った「《鍛えられた鋼》」デッキを紹介しましょう。
4 《墨蛾の生息地/Inkmoth Nexus》
2 《ムーアランドの憑依地/Moorland Haunt》
9 《平地/Plains》
4 《金属海の沿岸/Seachrome Coast》
4 《刻まれた勇者/Etched Champion》
4 《きらめく鷹/Glint Hawk》
4 《メムナイト/Memnite》
1 《月皇ミケウス/Mikaeus, the Lunarch》
4 《信号の邪魔者/Signal Pest》
4 《大霊堂のスカージ/Vault Skirge》
4 《急送/Dispatch》
4 《きらめく鷹の偶像/Glint Hawk Idol》
4 《オパールのモックス/Mox Opal》
4 《起源の呪文爆弾/Origin Spellbomb》
4 《鍛えられた鋼/Tempered Steel》
このデッキが非常に速く、シナジーに満ちていて、すぐにリソースが尽きることは見ただけでわかるでしょう。序盤にゲームを決め損ねた場合の勝ち筋は《墨蛾の生息地》しかありません。直接攻撃のないアグロ・デッキを使うのは、常にメタゲームの上では賭けになります。いくつかのデッキにはだいたい勝てますが、決して勝てない相手も少なくありませんし、できることと言えばその勝てない相手があんまり多くありませんように祈ることぐらいです。言うまでもありませんが、私はこういう戦略は好きではありません。この手のデッキに触るのはよほどメタゲームを読み切った自信があるときだけです。
→後編に続く
翻訳:ボルトとナット——デザイン・スケルトン/マーク・ローズウォーター
2012年6月26日 翻訳http://drk2718.diarynote.jp/201204142342243280/
↑の続き。実はメタゲームの奴より先に訳し始めていたのだけど、向こうを先に訳し終えてしまっていた。そして今回訳し終わってから「そういえば」と思ってぐぐってみたら先行訳が見つかるという。先にぐぐっておくのだった。
(名前考え中)-- Nuts & Bolts: 第二回 Design Skeleton 翻訳記事(前半) クリーチャーの部分
http://d.hatena.ne.jp/hirobi_ai/20110401/1301675198
幸か不幸か、この方は前半しか訳されていない。だから最低限今回の翻訳も後半部分は役に立つだろう。しかしもうひとつ、当然といえば当然ながら。
(名前考え中)-- Nuts&Bolts::Card Codesの意訳(TCG設計の地味だけれど大事な事)
http://d.hatena.ne.jp/hirobi_ai/20110324/1300988418
前回の記事も訳されていた。コメント欄で「先行訳を見た気がしてならない」とまでコメントをいただいたのに当時は見つけられなかった。お詫びの意味もこめてここで貼っておく。
そんなところで、本文に入ろう。
原文:Nuts & Bolts: Design Skeleton (*0)
http://www.wizards.com/magic/magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/mm/78
2010-02-15 Mark Rosewater
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(*0) タイトル
前回と同じ問題を抱えている。つまり、このシリーズの公式で訳されている分では design skeleton は「デザインの骨格」と訳されているのだ。
ところで、今回はその公式で訳されている分を読む前にこれを訳した。その作業中に design skeleton の訳も当然色々考えた。それこそ「デザイン骨格」とか「デザイン骨組」とか。でも、どうしても skeleton にぴったりはまる気がしなかった。ここで言う skeleton は「拡張性のある組み立て棚の枠組み部分」が一番しっくり来るイメージで、それを敢えて日本語一語にするなら「スケルトン」かなーと思う。英語の訳に片仮名言葉をあてるのはある種努力の放棄だし、これが適切かどうかはわからない。異論がある人はコメント欄に書いて欲しい。
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1年ちょっと前に、わたしは「ボルトとナット」シリーズの最初のコラムを書いた(読んだことのない人のために書いておくと、カード・コードの話だ)。そのコラムを書こうと思ったのは、デザインという作業の中ではたくさんの道具や概念や作業手順が用いられていて、それらのひとつひとつについて知ることがデザインそのものの理解に役立つのではないかと考えたからだ。コラムの最後では皆さんに対してこの手のものをもっと読んでみたいかというアンケートをとってみた。回答はごく大雑把にまとめると「たまにだったら読みたい」というところだった。というわけで、2010 年分の「ボルトとナット」をお届けしよう。今回のお題は「デザイン・スケルトン」だ。
クローゼットの中のデザイン・スケルトン
まずはこの質問に答えるところから今日のコラムを始めよう:「デザイン・スケルトンってなんなんだ?」 私が思いつく一番近い概念は「青写真」だ。大工が来て家を建て始める前に、建築家はその家の中になにがあって欲しいのかを正確に図面に示さなければならない。デザイン・スケルトンは青写真の一段階手前の絵図で、デザイナーがそのセットの中にはどんなカードがあって欲しいのかを具体化するための道具だ。今回のコラムでは、架空の小型セットのためのデザイン・スケルトンを実際にひとつ組み上げてみて、どんな風にそれが使われるのかをお見せしたいと思う。セットの名前は“正義”とでもしようか。“真実 Truth”“正義 Justice”“アメリカ式 American way”からなるブロックの2番目のセットだ(付記——今わたしが適当に考えただけで、本物のブロックではない。)。そして、単純化のために、コモンの分だけのデザイン・スケルトンを作ることにしよう。実際のデザインでは、アンコモンの分、レアの分、神話レアの分、がそれぞれ作られることになる。
デザイン・スケルトンに不可欠なのはカード・コードという概念なので、前回の「ボルトとナット」をお読みでない方はこの先へ進む前に是非読むことをおすすめしたい。
手始めに、正義のコモンのカード・コードを全部並べるところから始めてみよう。正義にはコモンにサイクルの土地があって、アーティファクトがやはりコモンに5枚あると仮定する。すると、カード・コードはこんな風になる:
CW01 -
CW02 -
CW03 -
CW04 -
CW05 -
CW06 -
CW07 -
CW08 -
CW09 -
CW10 -
CU01 -
CU02 -
CU03 -
CU04 -
CU05 -
CU06 -
CU07 -
CU08 -
CU09 -
CU10 -
CB01 -
CB02 -
CB03 -
CB04 -
CB05 -
CB06 -
CB07 -
CB08 -
CB09 -
CB10 -
CR01 -
CR02 -
CR03 -
CR04 -
CR05 -
CR06 -
CR07 -
CR08 -
CR09 -
CR10 -
CG01 -
CG02 -
CG03 -
CG04 -
CG05 -
CG06 -
CG07 -
CG08 -
CG09 -
CG10 -
CA01 -
CA02 -
CA03 -
CA04 -
CA05 -
CL01 -
CL02 -
CL03 -
CL04 -
CL05 -
最初にやらなければならないことは、クリーチャーが何枚入っている必要があるか決めることだ。そのためには、セットの構造に関するルールを知っておかなければならない。
#1——セットのおおむね 50% がクリーチャー
このパーセンテージ自体は上下しうる。研究開発部の最新リミテッド哲学は「デッキを組むとき、最後の数枚を無理矢理埋める方が、強いとわかっているカードを数枚抜くよりも楽しい」だ。そして、「マジックとは発見のゲームである」という基本哲学をリミテッドに持ち込むと、プレイヤーにはなるべくそれまで使ったことのないようなカードをデッキに入れてみてもらいたい、ということになる。ともあれこのルールに従うと、コモン 60 枚のうち、クリーチャーはわずか 30 枚ということになる。
#2——各色のクリーチャーにはそれぞれ標準的な能力が割り当てられている
一般的に、それぞれの色のクリーチャーの大半が持つ特徴は以下の通りとなる:
白——長い間、緑が最もクリーチャーを多く持つ色ということになっていたが、1年かそこら前から私たちはそれをちょっと変えてみようとしているところだ。緑がコモンの中でクリーチャー数でもクリーチャーサイズでも最大だというのはばかげた話だと気付いたからだ。白は“軍隊の色”なのだから、クリーチャーの数では白が最も多く、重量級のクリーチャーは緑の受け持ちのまま、というのが理に適っていると今は考えている。白は数をたのみに攻め、緑はでかさをたのみに攻めるというわけだ。
緑——緑はナンバー1ではなくなってしまったが、依然として“クリーチャーの色”であることに変わりはない。したがって2番目におさまる。
黒——黒はクリーチャーとスペルの枚数が同じくらいの色ということになっている。ここでも真ん中に来る。
赤——赤と青の2色はスペルの色で、5色の中では1、2を争う呪文の多さになる。とはいえ赤は青よりはクリーチャーの多い色だ。というわけで4番目。
青——5色のうちどれかがクリーチャーの一番少ない色になる。だとしたら、一番呪文の強い色しかないだろう?
アーティファクト——ブロックのテーマによっては多少は増えることもある(アーティファクトがテーマのブロックでは、しばしばナンバーワンにすらなる)が、大抵の場合コモンのアーティファクト・クリーチャーは多くて2体というところだ。
各色の割り当てを決めるために、ちょっと算数の時間だ。クリーチャーは 30 スロットを占めることになっていて、色ごとの数は上で述べた順になってほしい。1色平均6枚ずつだ。黒がちょうど真ん中の色だから、黒のクリーチャーは6枚としよう。緑はそれより多くて赤はそれより少ないわけだから、緑が7で赤は5。さらに上下に白と青を持ってこようと思うと、白は8枚で青は4枚ということになる。ここでアーティファクト・クリーチャーを入れるかどうかを決めなければならない。1体は入れたいところだが、そのためにはどこかの色から1スロット奪ってこなければならない。ここでは白から奪うことにするが、しかし白を最大勢力にとどめるためにトークンを生成するインスタント/ソーサリーを白に入れることにする。これが 50% ラインを保ちながら白を“軍隊の色”にする私流のやりかただ。
さて、スケルトンがどうなったか、ちょっと見てみよう(研究開発部ではクリーチャーには若い数字を振ることになっていることに注意):
CW01 - クリーチャー
CW02 - クリーチャー
CW03 - クリーチャー
CW04 - クリーチャー
CW05 - クリーチャー
CW06 - クリーチャー
CW07 - クリーチャー
CW08 - インスタント/ソーサリー - トークン生成
CW09 -
CW10 -
CU01 - クリーチャー
CU02 - クリーチャー
CU03 - クリーチャー
CU04 - クリーチャー
CU05 -
CU06 -
CU07 -
CU08 -
CU09 -
CU10 -
CB01 - クリーチャー
CB02 - クリーチャー
CB03 - クリーチャー
CB04 - クリーチャー
CB05 - クリーチャー
CB06 - クリーチャー
CB07 -
CB08 -
CB09 -
CB10 -
CR01 - クリーチャー
CR02 - クリーチャー
CR03 - クリーチャー
CR04 - クリーチャー
CR05 - クリーチャー
CR06 -
CR07 -
CR08 -
CR09 -
CR10 -
CG01 - クリーチャー
CG02 - クリーチャー
CG03 - クリーチャー
CG04 - クリーチャー
CG05 - クリーチャー
CG06 - クリーチャー
CG07 - クリーチャー
CG08 -
CG09 -
CG10 -
CA01 - クリーチャー
CA02 -
CA03 -
CA04 -
CA05 -
CL01 -
CL02 -
CL03 -
CL04 -
CL05 -
「クリーチャーだ」と決めるだけではもちろん不十分で、あとふたつのことを定めなければならない。ひとつは、クリーチャーの持つ“常磐木”キーワード能力を割り当てること。もうひとつはリード・デザイナーがそれぞれのクリーチャーの大きさはどれぐらいかの感覚を持つこと。スケルトン用には、私たちは3つのサイズを使っている。小と中と大だ。小は 0/1 からだいたい 2/3 ぐらいまで、中は 3/3 から 4/5 まで、大は 5/5 かそれよりでかい。それぞれの色について見てみよう:
白
キーワード——白はコモンでは以下のキーワードを持つ。飛行、先制攻撃、警戒、そして時に瞬速、プロテクション、絆魂。
サイズ——白のクリーチャーの殆どは小さい。少し前から、リミテッドのために中型クリーチャーを入れるようにしてるけど、それでも白は小さいクリーチャーが多数派だ。
青
キーワード——青は飛行と被覆の色だ。時々は島渡りや瞬速を持つ。
サイズ——青のクリーチャーはおおむね小さく、中が1体、それと大が1体居ることもある。大は大抵ウミヘビ系のクリーチャーだ。
黒
キーワード——黒は以下の能力をコモンで持つ。飛行、接死、威嚇。時には速攻、絆魂、再生、沼渡りを持つこともある。
サイズ——黒のクリーチャーは小さいか中ぐらいで、決して大きいことはない(まあ、ブロックのへんてこなテーマ次第では入ることもあるが)。
赤
キーワード——赤のコモンの能力は速攻、先制攻撃、トランプル。威嚇や山渡りも時々見られる。“火吹き(*1)”はキーワード能力ではないが、大抵のセットには入っている。
サイズ——黒とおなじく、小から中の間。赤にも大きいクリーチャーが入ったことはあるが、長いスパンで歴史を見れば小型クリーチャーが大半を占める。
緑
キーワード——コモンの緑に与えられている能力はトランプル、接死、再生あたりだ。時には瞬速、森渡り、到達、被覆、警戒なんかも持つことがある。
サイズ——緑には小さいクリーチャーと中型のクリーチャーがいるほかに、必ず1体は大きなクリーチャーが入る(時には2体)。
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(*1) 火吹き
firebreathing。《炎のブレス/Firebreathing》の起動型能力「R: エンチャントされているクリーチャーは +1/+0 の修整を受ける」に由来する、赤のクリーチャーがしばしば持つパワーのみのパンプアップ能力の総称……なんだけど、あんまり一般的な言葉じゃないかも。起動コストや上がるパワー、起動回数の制限など、定番の能力ながら細かいバリアントが多い。
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ここまでの情報すべてをふまえた上で、それをひとつにまとめてみよう。注意しておきたいのは、私はどのサイズのクリーチャーにどの能力をつけるかについては全く仮に決めているだけだということだ。デザインはまだ固まっておらず、私は好きにいじることができる。もしたとえば、警戒を中型から小型に移そうと思えばすぐにでもできる。さて、スケルトンはどうなっただろうか?
CW01 - クリーチャー,小型
CW02 - クリーチャー,小型,飛行
CW03 - クリーチャー,小型,先制攻撃
CW04 - クリーチャー,小型
CW05 - クリーチャー,小型
CW06 - クリーチャー,中型,警戒
CW07 - クリーチャー,中型,飛行
CW08 - インスタント/ソーサリー - トークン生成
CW09 -
CW10 -
CU01 - クリーチャー,小型
CU02 - クリーチャー,小型,被覆
CU03 - クリーチャー,中型,飛行
CU04 - クリーチャー,大型
CU05 -
CU06 -
CU07 -
CU08 -
CU09 -
CU10 -
CB01 - クリーチャー,小型
CB02 - クリーチャー,小型,飛行
CB03 - クリーチャー,小型,接死
CB04 - クリーチャー,中型,威嚇
CB05 - クリーチャー,中型
CB06 - クリーチャー,中型
CB07 -
CB08 -
CB09 -
CB10 -
CR01 - クリーチャー,小型
CR02 - クリーチャー,小型,先制攻撃
CR03 - クリーチャー,小型
CR04 - クリーチャー,中型,速攻
CR05 - クリーチャー,中型,トランプル
CR06 -
CR07 -
CR08 -
CR09 -
CR10 -
CG01 - クリーチャー,小型
CG02 - クリーチャー,小型,再生
CG03 - クリーチャー,小型,接死
CG04 - クリーチャー,中型,到達
CG05 - クリーチャー,中型
CG06 - クリーチャー,中型
CG07 - クリーチャー,大型,トランプル
CG08 -
CG09 -
CG10 -
CA01 - クリーチャー,中型
CA02 -
CA03 -
CA04 -
CA05 -
CL01 -
CL02 -
CL03 -
CL04 -
CL05 -
クリーチャーはこれで図に起こせた。他のカード・タイプにも目を向けてみよう。
アーティファクト——もちろん、私はコモンに5枚割り振ったばかりだ。いくつかは単純で役に立つカードになるだろう。エスパーのような特殊な例をのぞけば、アーティファクトは色を持たない。
エンチャント——デザインにあたっての一般的なルールとして、コモンに入れるエンチャントはオーラに限るというものがある。ブロックのテーマによってはこのルールが破られることもあるが、何の理由もなくコモンに全体エンチャント(これは廃語だが代わりの用語を私は知らないのでいまでもこの言葉を使っている)が入ることはない。だいたいの色には1枚はオーラが入る。白と緑には2枚以上入ることもある。
インスタント——5色ともにインスタントはあるが、白と青は他の色よりやや多い。
土地——アーティファクトとおなじく、コモンに独立のスロットを割り振ってある。色付きのカードは存在しない。
プレインズウォーカー——これもコモンには入れないことにしている。
ソーサリー——やはり5色ともにソーサリーはあるが、黒と緑にはやや多い。
部族——唯一、必ずしも全部のブロックで使うとは限らないカードタイプ。私のもとには「フレイバー的にあのスペルは部族であるべきです」というようなお便りがたくさん届いているが、私たちはブロックのテーマが部族であるとき以外はそもそも「部族」というカード・タイプを使わない。
さて、じゃあこの情報をスケルトンにかぶせてみよう。
CW01 - クリーチャー,小型
CW02 - クリーチャー,小型,飛行
CW03 - クリーチャー,小型,先制攻撃
CW04 - クリーチャー,小型,瞬速
CW05 - クリーチャー,中型,警戒
CW06 - クリーチャー,中型,飛行
CW07 - ソーサリー - トークン生成,飛行
CW08 - インスタント
CW09 - インスタント
CW10 - エンチャント,オーラ
CU01 - クリーチャー,小型
CU02 - クリーチャー,小型,被覆
CU03 - クリーチャー,中型,飛行
CU04 - クリーチャー,大型
CU05 - インスタント
CU06 - インスタント
CU07 - インスタント
CU08 - ソーサリー
CU09 - ソーサリー
CU10 - エンチャント,オーラ
CB01 - クリーチャー,小型
CB02 - クリーチャー,小型,飛行
CB03 - クリーチャー,小型,接死
CB04 - クリーチャー,中型,威嚇
CB05 - クリーチャー,中型
CB06 - クリーチャー,中型
CB07 - インスタント
CB08 - ソーサリー
CB09 - ソーサリー!
CB10 - エンチャント,オーラ
CR01 - クリーチャー,小型
CR02 - クリーチャー,小型,先制攻撃
CR03 - クリーチャー,小型
CR04 - クリーチャー,中型,速攻
CR05 - クリーチャー,中型,トランプル
CR06 - インスタント
CR07 - インスタント
CR08 - インスタント
CR09 - ソーサリー
CR10 - エンチャント,オーラ
CG01 - クリーチャー,小型
CG02 - クリーチャー,小型,再生
CG03 - クリーチャー,小型,接死
CG04 - クリーチャー,中型,到達
CG05 - クリーチャー,中型
CG06 - クリーチャー,中型
CG07 - クリーチャー,大型,トランプル
CG08 - インスタント
CG09 - ソーサリー
CG10 - エンチャント,オーラ
CA01 - クリーチャー,中型
CA02 - サクって起動
CA03 - タップ能力
CA04 - 装備品
CA05 - 装備品
CL01 - 白マナを生成する
CL02 - 青マナを生成する
CL03 - 黒マナを生成する
CL04 - 赤マナを生成する
CL05 - 緑マナを生成する
私がいくつか新しい要素を足してスケルトンをいじっていることに注目してほしい。一番分かりやすいのは白だ。私は白のスロットが少々窮屈になっていることに気付いていたので、いくつかの変更を加えた。まずクリーチャーを1枚削った。アーティファクトと土地にスペースを割いた結果 10 スロットになっているのに、クリーチャーを8枚入れるのは無理がある。白にはお家芸としてコンバット・トリックを持たせたいから、インスタントのためのスロットが欲しい。というわけでトークン生成スペルはソーサリーにした。さらにクリーチャーの1体に瞬速を持たせることにした。インスタントが2枚あっても、なお白らしい不意打ちには不足しているからだ。
以上の一連の作業が、まさにスケルトンの役に立つところを表している。スケルトンは、デザイナーの発想を制限することなく、なにを割り振らなければならないかを教えてくれる。なにかが上手くいっていないときには、デザイナーはスケルトンを組み立て直すことで、何が必要なのかを知ることができる。
もうひとつ、私がどのようなアーティファクトを入れるか決めたことと、土地がそれぞれの色のマナを生み出すサイクルであると決めたことには注目して欲しい。
次に、このセットのテーマを織り込まなければならない。“真実”“正義”“アメリカ式”は墓地をテーマにしたブロックだとしようか。真実では「捻墓」という墓地利用のメカニズムが登場した(あらためて断っておくが、この記事のために私がでっちあげたメカニズムだ)。このメカニズムはパーマネントにも呪文にも影響する能力だ。さらに捻墓はどのタイプの呪文にもつけることができるため、様々な効果と組み合わせることができる。セットのメカニズムを織り込んでいく過程では、同時に私が「基本的効果」と呼んでいるものも織り込んでいかなければならない。手早く見ていこう。大抵のセットでそれぞれの色のコモンに入ってる能力は以下の通りだ。
白——白は必ずなにかしらのライフゲイン、エンチャント除去、クリーチャー除去(《平和な心》系のものを含む)、そしてコンバットトリック(パワー/タフネスがちょっと上がってなにか能力がつくのがよくあるパターン)が入っている。チーム強化(あなたのコントロールするすべてのクリーチャーはターン終了時まで +1/+1)やダメージの軽減、移し替えもありがちな能力だ。
青——青には打ち消し呪文(しばしば2枚入っていて、1枚は強く、1枚は弱い)、“バウンス”(対象のナンタラをそのオーナーの手札に戻す)、カードを引く、クリーチャーを操るエンチャント(一番よくあるのはタップしたままにさせてしまう効果)、あたりは必ず入っている。それ以外にドロー操作、縮小(対象のクリーチャーはターン終了時まで -N/-0 の修整を受ける)、ぐるぐる(対象のナンタラをタップもしくはアンタップする)、などが時々入っている。
黒——黒には必ずクリーチャー除去が複数(大抵「対象のナンタラではないクリーチャーを破壊する」と「対象のクリーチャー1体はターン終了時まで -N/-N の修整を受ける」)と、手札破壊、墓地のクリーチャーの再利用(対象の、墓地にあるクリーチャー・カード1枚をあなたの手札に戻す)、が入っていて、しばしばパワー強化(対象のクリーチャーはターン終了時まで +N/+0 の修整を受ける)、ライフと引き換えにカードを引く、ダメージかライフロスをクリーチャーかプレイヤーに与え、往々にしてその結果ライフを得る、などが入る。
赤——赤には常に直接ダメージ(それもいくつもの呪文が入っている。プレイヤーに入るもの、クリーチャーに入るもの、どっちにも入るもの、いろいろだ)、パワー強化、パニック効果(対象のクリーチャーはブロックに参加できない)、があり、時には速攻を与える能力や土地破壊が入っている。
緑——緑はパワー/タフネス強化、土地サーチ、アーティファクト/エンチャント除去あたりがいつも入っている。しばしばマナ生成、ライフゲイン、濃霧(すべての戦闘ダメージを軽減する)、飛行クリーチャー破壊、などが含まれる。
ついでに書いておくと、コモンに登場しなかったものはどんなものであれアンコモンには登場する可能性があり、すなわちリミテッドでの存在感はあるということでもある。
さて、これまでの内容を念頭に、さらにスケルトンをぶっ叩いてみよう:
CW01 - クリーチャー,小型
CW02 - クリーチャー,小型,飛行,捻墓
CW03 - クリーチャー,小型,先制攻撃
CW04 - クリーチャー,小型,瞬速,戦場に出たとき -- ライフゲイン
CW05 - クリーチャー,中型,警戒
CW06 - クリーチャー,中型,飛行
CW07 - ソーサリー - トークン生成,飛行
CW08 - インスタント,パワー増強
CW09 - インスタント,エンチャント除去
CW10 - エンチャント,オーラ,クリーチャー除去
CU01 - クリーチャー,小型,飛行
CU02 - クリーチャー,小型,被覆
CU03 - クリーチャー,中型,飛行
CU04 - クリーチャー,大型
CU05 - インスタント,強い打ち消し呪文,捻墓
CU06 - インスタント,弱い打ち消し呪文
CU07 - インスタント,“バウンス”
CU08 - ソーサリー,カードを引く
CU09 - ソーサリー
CU10 - エンチャント,オーラ,クリーチャー除去
CB01 - クリーチャー,小型
CB02 - クリーチャー,小型,飛行
CB03 - クリーチャー,小型,接死,捻墓
CB04 - クリーチャー,中型,威嚇
CB05 - クリーチャー,中型,戦場に出たとき -- 死者再生
CB06 - クリーチャー,中型
CB07 - インスタント,クリーチャー除去
CB08 - ソーサリー,捨てさせ
CB09 - ソーサリー,クリーチャーからドレイン
CB10 - エンチャント,オーラ,正の効果、捻墓
CR01 - クリーチャー,小型,戦場に出たとき -- プレイヤーに直接ダメージ
CR02 - クリーチャー,小型,先制攻撃
CR03 - クリーチャー,小型
CR04 - クリーチャー,中型,速攻
CR05 - クリーチャー,中型,トランプル
CR06 - インスタント -- クリーチャーに直接ダメージ
CR07 - インスタント -- プレイヤーかクリーチャーに直接ダメージ
CR08 - インスタント -- パワーが上がる
CR09 - ソーサリー -- パニック,捻墓
CR10 - エンチャント,オーラ,正の効果
CG01 - クリーチャー,小型,捻墓,戦場に出たとき -- アーティファクト/エンチャント除去
CG02 - クリーチャー,小型,再生
CG03 - クリーチャー,小型,接死
CG04 - クリーチャー,中型,到達,捻墓
CG05 - クリーチャー,中型
CG06 - クリーチャー,中型
CG07 - クリーチャー,大型,トランプル
CG08 - インスタント,パワーとタフネスが上がる
CG09 - ソーサリー,ライフゲイン
CG10 - エンチャント,オーラ,正の効果
CA01 - クリーチャー,中型
CA02 - サクって起動,マナ関係
CA03 - タップ能力,マナ関係
CA04 - 装備品,パワー/タフネスがあがる
CA05 - 装備品,回避能力
CL01 - 白マナを生成する
CL02 - 青マナを生成する
CL03 - 黒マナを生成する
CL04 - 赤マナを生成する
CL05 - 緑マナを生成する
キーワードを全部はめ込んでみると、どうやら効果を詰め込みすぎているらしいことがわかる。解決する方法のひとつにはクリーチャーのスロットを用いるというものがある。たとえば戦場に出たとき(ETB = enter the battlefield)の誘発型能力を用いれば、ソーサリーをクリーチャーに擬態させることができる。さらにスケルトンを見ていると、捻墓を持つカードは何枚ぐらい必要で、それをどの色に割り振るべきかということに考えが及ぶ。加えて、色によってフレーバー的な差が生じるのではないかと思いつき試してみた。墓地の色である黒と緑には開墓を多めに割り振っている。また、白と緑ではクリーチャーにも割り振っているが、青と赤ではインスタントとソーサリーにのみ割り振っている。
あるスケルトンについてデザイナーがするべき調整の手数は、固有のセットの事情によってさまざまだ。今回のコラムでやってきた程度で充分なこともあり得るし、他にも処理しなければならない問題があるためにさらなる調整が必要かもしれない。このサンプル・スケルトンだけからでも確実に言えることがあるとすれば、一番ありがちなデザイン上の問題は、入れるべき要素が足りないことよりも、むしろ要素を詰め込もうとしすぎてしまうことの方だということだ。
スケルトンには柔軟性があって、いのちがあって、呼吸すらしているドキュメントなのだということは憶えておいてほしい。それを作るのは今この瞬間セットがどうなっているのかをぱっと把握するためだ。カードのデザインが始まれば、最初のアイデアが思うように機能しないことが必ず出てきて、それでスケルトンを再構成することになる。
まとめると、デザイン・スケルトンは、部分部分が常に変化し続けているデザイン中のセット全体の大きな絵を、デザイナーが把握することを可能にしてくれるツールだ。その絵が見えることで、デザイナーはそのセットがどのようなデザイン的な変更を必要としているかを理解できるのだ。(*2)
--------
(*2) まとめると、〜 理解できるのだ。
原文では以下の通り。
In the end, the design skeleton is a tool that better allows the designers to get a big picture of all the moving parts to their set allowing them to start figuring out what their set is going to need design-wise.
「最後に書くと、デザイン・スケルトンはデザイナーに全ての動いている部分から成る大きな絵を得ることを可能にする工具だ」まではほぼ確定で、to their set 以下のかかり方が不明瞭。一応ここでは to their set は all the moving parts に限定的にかかるように訳してるけど全く自信なし。さらに allowing them 以下のかかり方も不明。ここでは them はデザイナーと解釈して、to get a big picture of 〜 to their set の一文全体が allowing them to start 〜 するのだという風に訳した。まだ訳すの2本目だけど、マローらしからぬ悪文だと思う。
--------
骨っぽい話
今年もカードデザインの現場の隅っこの辺りを垣間見ていただいたわけだが、お楽しみいただけただろうか。もしこの記事への反応が芳しければ、また来年の「ボルトとナット」でお会いしよう。
来週は多重キッカーの話をしたいと思う。
その日までに、みなさんのスロットがうまく埋まりますように。
--------
ここまで訳した2回を読んだら、あとの2回は公式で翻訳されている。読んだことがある人も、もし最初の2回を読むのが初めてならあらためて読んでみるといいと思う。いろいろ発見がある筈だ。
基本根本:デザインの骨格を埋めよう
http://mtg-jp.com/reading/translated/001274/
「基本根本」:より高いレアリティ
http://mtg-jp.com/reading/translated/mm/003089/
訳語は合わせたり合わせなかったりした。たとえばセット名は最初「トゥルース」「ジャスティス」などとしていたが、公式では「正義」となっていたのでそちらにした。また架空のメカニズム gravetwist は「編墓」としていたのだが公式の「捻墓」に合わせている。
例によって誤訳の指摘は歓迎します。自分ならこう訳す、というのでもいいです。コメント欄までお願いします。
↑の続き。実はメタゲームの奴より先に訳し始めていたのだけど、向こうを先に訳し終えてしまっていた。そして今回訳し終わってから「そういえば」と思ってぐぐってみたら先行訳が見つかるという。先にぐぐっておくのだった。
(名前考え中)-- Nuts & Bolts: 第二回 Design Skeleton 翻訳記事(前半) クリーチャーの部分
http://d.hatena.ne.jp/hirobi_ai/20110401/1301675198
幸か不幸か、この方は前半しか訳されていない。だから最低限今回の翻訳も後半部分は役に立つだろう。しかしもうひとつ、当然といえば当然ながら。
(名前考え中)-- Nuts&Bolts::Card Codesの意訳(TCG設計の地味だけれど大事な事)
http://d.hatena.ne.jp/hirobi_ai/20110324/1300988418
前回の記事も訳されていた。コメント欄で「先行訳を見た気がしてならない」とまでコメントをいただいたのに当時は見つけられなかった。お詫びの意味もこめてここで貼っておく。
そんなところで、本文に入ろう。
原文:Nuts & Bolts: Design Skeleton (*0)
http://www.wizards.com/magic/magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/mm/78
2010-02-15 Mark Rosewater
--------
(*0) タイトル
前回と同じ問題を抱えている。つまり、このシリーズの公式で訳されている分では design skeleton は「デザインの骨格」と訳されているのだ。
ところで、今回はその公式で訳されている分を読む前にこれを訳した。その作業中に design skeleton の訳も当然色々考えた。それこそ「デザイン骨格」とか「デザイン骨組」とか。でも、どうしても skeleton にぴったりはまる気がしなかった。ここで言う skeleton は「拡張性のある組み立て棚の枠組み部分」が一番しっくり来るイメージで、それを敢えて日本語一語にするなら「スケルトン」かなーと思う。英語の訳に片仮名言葉をあてるのはある種努力の放棄だし、これが適切かどうかはわからない。異論がある人はコメント欄に書いて欲しい。
--------
1年ちょっと前に、わたしは「ボルトとナット」シリーズの最初のコラムを書いた(読んだことのない人のために書いておくと、カード・コードの話だ)。そのコラムを書こうと思ったのは、デザインという作業の中ではたくさんの道具や概念や作業手順が用いられていて、それらのひとつひとつについて知ることがデザインそのものの理解に役立つのではないかと考えたからだ。コラムの最後では皆さんに対してこの手のものをもっと読んでみたいかというアンケートをとってみた。回答はごく大雑把にまとめると「たまにだったら読みたい」というところだった。というわけで、2010 年分の「ボルトとナット」をお届けしよう。今回のお題は「デザイン・スケルトン」だ。
クローゼットの中のデザイン・スケルトン
まずはこの質問に答えるところから今日のコラムを始めよう:「デザイン・スケルトンってなんなんだ?」 私が思いつく一番近い概念は「青写真」だ。大工が来て家を建て始める前に、建築家はその家の中になにがあって欲しいのかを正確に図面に示さなければならない。デザイン・スケルトンは青写真の一段階手前の絵図で、デザイナーがそのセットの中にはどんなカードがあって欲しいのかを具体化するための道具だ。今回のコラムでは、架空の小型セットのためのデザイン・スケルトンを実際にひとつ組み上げてみて、どんな風にそれが使われるのかをお見せしたいと思う。セットの名前は“正義”とでもしようか。“真実 Truth”“正義 Justice”“アメリカ式 American way”からなるブロックの2番目のセットだ(付記——今わたしが適当に考えただけで、本物のブロックではない。)。そして、単純化のために、コモンの分だけのデザイン・スケルトンを作ることにしよう。実際のデザインでは、アンコモンの分、レアの分、神話レアの分、がそれぞれ作られることになる。
デザイン・スケルトンに不可欠なのはカード・コードという概念なので、前回の「ボルトとナット」をお読みでない方はこの先へ進む前に是非読むことをおすすめしたい。
手始めに、正義のコモンのカード・コードを全部並べるところから始めてみよう。正義にはコモンにサイクルの土地があって、アーティファクトがやはりコモンに5枚あると仮定する。すると、カード・コードはこんな風になる:
CW01 -
CW02 -
CW03 -
CW04 -
CW05 -
CW06 -
CW07 -
CW08 -
CW09 -
CW10 -
CU01 -
CU02 -
CU03 -
CU04 -
CU05 -
CU06 -
CU07 -
CU08 -
CU09 -
CU10 -
CB01 -
CB02 -
CB03 -
CB04 -
CB05 -
CB06 -
CB07 -
CB08 -
CB09 -
CB10 -
CR01 -
CR02 -
CR03 -
CR04 -
CR05 -
CR06 -
CR07 -
CR08 -
CR09 -
CR10 -
CG01 -
CG02 -
CG03 -
CG04 -
CG05 -
CG06 -
CG07 -
CG08 -
CG09 -
CG10 -
CA01 -
CA02 -
CA03 -
CA04 -
CA05 -
CL01 -
CL02 -
CL03 -
CL04 -
CL05 -
最初にやらなければならないことは、クリーチャーが何枚入っている必要があるか決めることだ。そのためには、セットの構造に関するルールを知っておかなければならない。
#1——セットのおおむね 50% がクリーチャー
このパーセンテージ自体は上下しうる。研究開発部の最新リミテッド哲学は「デッキを組むとき、最後の数枚を無理矢理埋める方が、強いとわかっているカードを数枚抜くよりも楽しい」だ。そして、「マジックとは発見のゲームである」という基本哲学をリミテッドに持ち込むと、プレイヤーにはなるべくそれまで使ったことのないようなカードをデッキに入れてみてもらいたい、ということになる。ともあれこのルールに従うと、コモン 60 枚のうち、クリーチャーはわずか 30 枚ということになる。
#2——各色のクリーチャーにはそれぞれ標準的な能力が割り当てられている
一般的に、それぞれの色のクリーチャーの大半が持つ特徴は以下の通りとなる:
白——長い間、緑が最もクリーチャーを多く持つ色ということになっていたが、1年かそこら前から私たちはそれをちょっと変えてみようとしているところだ。緑がコモンの中でクリーチャー数でもクリーチャーサイズでも最大だというのはばかげた話だと気付いたからだ。白は“軍隊の色”なのだから、クリーチャーの数では白が最も多く、重量級のクリーチャーは緑の受け持ちのまま、というのが理に適っていると今は考えている。白は数をたのみに攻め、緑はでかさをたのみに攻めるというわけだ。
緑——緑はナンバー1ではなくなってしまったが、依然として“クリーチャーの色”であることに変わりはない。したがって2番目におさまる。
黒——黒はクリーチャーとスペルの枚数が同じくらいの色ということになっている。ここでも真ん中に来る。
赤——赤と青の2色はスペルの色で、5色の中では1、2を争う呪文の多さになる。とはいえ赤は青よりはクリーチャーの多い色だ。というわけで4番目。
青——5色のうちどれかがクリーチャーの一番少ない色になる。だとしたら、一番呪文の強い色しかないだろう?
アーティファクト——ブロックのテーマによっては多少は増えることもある(アーティファクトがテーマのブロックでは、しばしばナンバーワンにすらなる)が、大抵の場合コモンのアーティファクト・クリーチャーは多くて2体というところだ。
各色の割り当てを決めるために、ちょっと算数の時間だ。クリーチャーは 30 スロットを占めることになっていて、色ごとの数は上で述べた順になってほしい。1色平均6枚ずつだ。黒がちょうど真ん中の色だから、黒のクリーチャーは6枚としよう。緑はそれより多くて赤はそれより少ないわけだから、緑が7で赤は5。さらに上下に白と青を持ってこようと思うと、白は8枚で青は4枚ということになる。ここでアーティファクト・クリーチャーを入れるかどうかを決めなければならない。1体は入れたいところだが、そのためにはどこかの色から1スロット奪ってこなければならない。ここでは白から奪うことにするが、しかし白を最大勢力にとどめるためにトークンを生成するインスタント/ソーサリーを白に入れることにする。これが 50% ラインを保ちながら白を“軍隊の色”にする私流のやりかただ。
さて、スケルトンがどうなったか、ちょっと見てみよう(研究開発部ではクリーチャーには若い数字を振ることになっていることに注意):
CW01 - クリーチャー
CW02 - クリーチャー
CW03 - クリーチャー
CW04 - クリーチャー
CW05 - クリーチャー
CW06 - クリーチャー
CW07 - クリーチャー
CW08 - インスタント/ソーサリー - トークン生成
CW09 -
CW10 -
CU01 - クリーチャー
CU02 - クリーチャー
CU03 - クリーチャー
CU04 - クリーチャー
CU05 -
CU06 -
CU07 -
CU08 -
CU09 -
CU10 -
CB01 - クリーチャー
CB02 - クリーチャー
CB03 - クリーチャー
CB04 - クリーチャー
CB05 - クリーチャー
CB06 - クリーチャー
CB07 -
CB08 -
CB09 -
CB10 -
CR01 - クリーチャー
CR02 - クリーチャー
CR03 - クリーチャー
CR04 - クリーチャー
CR05 - クリーチャー
CR06 -
CR07 -
CR08 -
CR09 -
CR10 -
CG01 - クリーチャー
CG02 - クリーチャー
CG03 - クリーチャー
CG04 - クリーチャー
CG05 - クリーチャー
CG06 - クリーチャー
CG07 - クリーチャー
CG08 -
CG09 -
CG10 -
CA01 - クリーチャー
CA02 -
CA03 -
CA04 -
CA05 -
CL01 -
CL02 -
CL03 -
CL04 -
CL05 -
「クリーチャーだ」と決めるだけではもちろん不十分で、あとふたつのことを定めなければならない。ひとつは、クリーチャーの持つ“常磐木”キーワード能力を割り当てること。もうひとつはリード・デザイナーがそれぞれのクリーチャーの大きさはどれぐらいかの感覚を持つこと。スケルトン用には、私たちは3つのサイズを使っている。小と中と大だ。小は 0/1 からだいたい 2/3 ぐらいまで、中は 3/3 から 4/5 まで、大は 5/5 かそれよりでかい。それぞれの色について見てみよう:
白
キーワード——白はコモンでは以下のキーワードを持つ。飛行、先制攻撃、警戒、そして時に瞬速、プロテクション、絆魂。
サイズ——白のクリーチャーの殆どは小さい。少し前から、リミテッドのために中型クリーチャーを入れるようにしてるけど、それでも白は小さいクリーチャーが多数派だ。
青
キーワード——青は飛行と被覆の色だ。時々は島渡りや瞬速を持つ。
サイズ——青のクリーチャーはおおむね小さく、中が1体、それと大が1体居ることもある。大は大抵ウミヘビ系のクリーチャーだ。
黒
キーワード——黒は以下の能力をコモンで持つ。飛行、接死、威嚇。時には速攻、絆魂、再生、沼渡りを持つこともある。
サイズ——黒のクリーチャーは小さいか中ぐらいで、決して大きいことはない(まあ、ブロックのへんてこなテーマ次第では入ることもあるが)。
赤
キーワード——赤のコモンの能力は速攻、先制攻撃、トランプル。威嚇や山渡りも時々見られる。“火吹き(*1)”はキーワード能力ではないが、大抵のセットには入っている。
サイズ——黒とおなじく、小から中の間。赤にも大きいクリーチャーが入ったことはあるが、長いスパンで歴史を見れば小型クリーチャーが大半を占める。
緑
キーワード——コモンの緑に与えられている能力はトランプル、接死、再生あたりだ。時には瞬速、森渡り、到達、被覆、警戒なんかも持つことがある。
サイズ——緑には小さいクリーチャーと中型のクリーチャーがいるほかに、必ず1体は大きなクリーチャーが入る(時には2体)。
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(*1) 火吹き
firebreathing。《炎のブレス/Firebreathing》の起動型能力「R: エンチャントされているクリーチャーは +1/+0 の修整を受ける」に由来する、赤のクリーチャーがしばしば持つパワーのみのパンプアップ能力の総称……なんだけど、あんまり一般的な言葉じゃないかも。起動コストや上がるパワー、起動回数の制限など、定番の能力ながら細かいバリアントが多い。
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ここまでの情報すべてをふまえた上で、それをひとつにまとめてみよう。注意しておきたいのは、私はどのサイズのクリーチャーにどの能力をつけるかについては全く仮に決めているだけだということだ。デザインはまだ固まっておらず、私は好きにいじることができる。もしたとえば、警戒を中型から小型に移そうと思えばすぐにでもできる。さて、スケルトンはどうなっただろうか?
CW01 - クリーチャー,小型
CW02 - クリーチャー,小型,飛行
CW03 - クリーチャー,小型,先制攻撃
CW04 - クリーチャー,小型
CW05 - クリーチャー,小型
CW06 - クリーチャー,中型,警戒
CW07 - クリーチャー,中型,飛行
CW08 - インスタント/ソーサリー - トークン生成
CW09 -
CW10 -
CU01 - クリーチャー,小型
CU02 - クリーチャー,小型,被覆
CU03 - クリーチャー,中型,飛行
CU04 - クリーチャー,大型
CU05 -
CU06 -
CU07 -
CU08 -
CU09 -
CU10 -
CB01 - クリーチャー,小型
CB02 - クリーチャー,小型,飛行
CB03 - クリーチャー,小型,接死
CB04 - クリーチャー,中型,威嚇
CB05 - クリーチャー,中型
CB06 - クリーチャー,中型
CB07 -
CB08 -
CB09 -
CB10 -
CR01 - クリーチャー,小型
CR02 - クリーチャー,小型,先制攻撃
CR03 - クリーチャー,小型
CR04 - クリーチャー,中型,速攻
CR05 - クリーチャー,中型,トランプル
CR06 -
CR07 -
CR08 -
CR09 -
CR10 -
CG01 - クリーチャー,小型
CG02 - クリーチャー,小型,再生
CG03 - クリーチャー,小型,接死
CG04 - クリーチャー,中型,到達
CG05 - クリーチャー,中型
CG06 - クリーチャー,中型
CG07 - クリーチャー,大型,トランプル
CG08 -
CG09 -
CG10 -
CA01 - クリーチャー,中型
CA02 -
CA03 -
CA04 -
CA05 -
CL01 -
CL02 -
CL03 -
CL04 -
CL05 -
クリーチャーはこれで図に起こせた。他のカード・タイプにも目を向けてみよう。
アーティファクト——もちろん、私はコモンに5枚割り振ったばかりだ。いくつかは単純で役に立つカードになるだろう。エスパーのような特殊な例をのぞけば、アーティファクトは色を持たない。
エンチャント——デザインにあたっての一般的なルールとして、コモンに入れるエンチャントはオーラに限るというものがある。ブロックのテーマによってはこのルールが破られることもあるが、何の理由もなくコモンに全体エンチャント(これは廃語だが代わりの用語を私は知らないのでいまでもこの言葉を使っている)が入ることはない。だいたいの色には1枚はオーラが入る。白と緑には2枚以上入ることもある。
インスタント——5色ともにインスタントはあるが、白と青は他の色よりやや多い。
土地——アーティファクトとおなじく、コモンに独立のスロットを割り振ってある。色付きのカードは存在しない。
プレインズウォーカー——これもコモンには入れないことにしている。
ソーサリー——やはり5色ともにソーサリーはあるが、黒と緑にはやや多い。
部族——唯一、必ずしも全部のブロックで使うとは限らないカードタイプ。私のもとには「フレイバー的にあのスペルは部族であるべきです」というようなお便りがたくさん届いているが、私たちはブロックのテーマが部族であるとき以外はそもそも「部族」というカード・タイプを使わない。
さて、じゃあこの情報をスケルトンにかぶせてみよう。
CW01 - クリーチャー,小型
CW02 - クリーチャー,小型,飛行
CW03 - クリーチャー,小型,先制攻撃
CW04 - クリーチャー,小型,瞬速
CW05 - クリーチャー,中型,警戒
CW06 - クリーチャー,中型,飛行
CW07 - ソーサリー - トークン生成,飛行
CW08 - インスタント
CW09 - インスタント
CW10 - エンチャント,オーラ
CU01 - クリーチャー,小型
CU02 - クリーチャー,小型,被覆
CU03 - クリーチャー,中型,飛行
CU04 - クリーチャー,大型
CU05 - インスタント
CU06 - インスタント
CU07 - インスタント
CU08 - ソーサリー
CU09 - ソーサリー
CU10 - エンチャント,オーラ
CB01 - クリーチャー,小型
CB02 - クリーチャー,小型,飛行
CB03 - クリーチャー,小型,接死
CB04 - クリーチャー,中型,威嚇
CB05 - クリーチャー,中型
CB06 - クリーチャー,中型
CB07 - インスタント
CB08 - ソーサリー
CB09 - ソーサリー!
CB10 - エンチャント,オーラ
CR01 - クリーチャー,小型
CR02 - クリーチャー,小型,先制攻撃
CR03 - クリーチャー,小型
CR04 - クリーチャー,中型,速攻
CR05 - クリーチャー,中型,トランプル
CR06 - インスタント
CR07 - インスタント
CR08 - インスタント
CR09 - ソーサリー
CR10 - エンチャント,オーラ
CG01 - クリーチャー,小型
CG02 - クリーチャー,小型,再生
CG03 - クリーチャー,小型,接死
CG04 - クリーチャー,中型,到達
CG05 - クリーチャー,中型
CG06 - クリーチャー,中型
CG07 - クリーチャー,大型,トランプル
CG08 - インスタント
CG09 - ソーサリー
CG10 - エンチャント,オーラ
CA01 - クリーチャー,中型
CA02 - サクって起動
CA03 - タップ能力
CA04 - 装備品
CA05 - 装備品
CL01 - 白マナを生成する
CL02 - 青マナを生成する
CL03 - 黒マナを生成する
CL04 - 赤マナを生成する
CL05 - 緑マナを生成する
私がいくつか新しい要素を足してスケルトンをいじっていることに注目してほしい。一番分かりやすいのは白だ。私は白のスロットが少々窮屈になっていることに気付いていたので、いくつかの変更を加えた。まずクリーチャーを1枚削った。アーティファクトと土地にスペースを割いた結果 10 スロットになっているのに、クリーチャーを8枚入れるのは無理がある。白にはお家芸としてコンバット・トリックを持たせたいから、インスタントのためのスロットが欲しい。というわけでトークン生成スペルはソーサリーにした。さらにクリーチャーの1体に瞬速を持たせることにした。インスタントが2枚あっても、なお白らしい不意打ちには不足しているからだ。
以上の一連の作業が、まさにスケルトンの役に立つところを表している。スケルトンは、デザイナーの発想を制限することなく、なにを割り振らなければならないかを教えてくれる。なにかが上手くいっていないときには、デザイナーはスケルトンを組み立て直すことで、何が必要なのかを知ることができる。
もうひとつ、私がどのようなアーティファクトを入れるか決めたことと、土地がそれぞれの色のマナを生み出すサイクルであると決めたことには注目して欲しい。
次に、このセットのテーマを織り込まなければならない。“真実”“正義”“アメリカ式”は墓地をテーマにしたブロックだとしようか。真実では「捻墓」という墓地利用のメカニズムが登場した(あらためて断っておくが、この記事のために私がでっちあげたメカニズムだ)。このメカニズムはパーマネントにも呪文にも影響する能力だ。さらに捻墓はどのタイプの呪文にもつけることができるため、様々な効果と組み合わせることができる。セットのメカニズムを織り込んでいく過程では、同時に私が「基本的効果」と呼んでいるものも織り込んでいかなければならない。手早く見ていこう。大抵のセットでそれぞれの色のコモンに入ってる能力は以下の通りだ。
白——白は必ずなにかしらのライフゲイン、エンチャント除去、クリーチャー除去(《平和な心》系のものを含む)、そしてコンバットトリック(パワー/タフネスがちょっと上がってなにか能力がつくのがよくあるパターン)が入っている。チーム強化(あなたのコントロールするすべてのクリーチャーはターン終了時まで +1/+1)やダメージの軽減、移し替えもありがちな能力だ。
青——青には打ち消し呪文(しばしば2枚入っていて、1枚は強く、1枚は弱い)、“バウンス”(対象のナンタラをそのオーナーの手札に戻す)、カードを引く、クリーチャーを操るエンチャント(一番よくあるのはタップしたままにさせてしまう効果)、あたりは必ず入っている。それ以外にドロー操作、縮小(対象のクリーチャーはターン終了時まで -N/-0 の修整を受ける)、ぐるぐる(対象のナンタラをタップもしくはアンタップする)、などが時々入っている。
黒——黒には必ずクリーチャー除去が複数(大抵「対象のナンタラではないクリーチャーを破壊する」と「対象のクリーチャー1体はターン終了時まで -N/-N の修整を受ける」)と、手札破壊、墓地のクリーチャーの再利用(対象の、墓地にあるクリーチャー・カード1枚をあなたの手札に戻す)、が入っていて、しばしばパワー強化(対象のクリーチャーはターン終了時まで +N/+0 の修整を受ける)、ライフと引き換えにカードを引く、ダメージかライフロスをクリーチャーかプレイヤーに与え、往々にしてその結果ライフを得る、などが入る。
赤——赤には常に直接ダメージ(それもいくつもの呪文が入っている。プレイヤーに入るもの、クリーチャーに入るもの、どっちにも入るもの、いろいろだ)、パワー強化、パニック効果(対象のクリーチャーはブロックに参加できない)、があり、時には速攻を与える能力や土地破壊が入っている。
緑——緑はパワー/タフネス強化、土地サーチ、アーティファクト/エンチャント除去あたりがいつも入っている。しばしばマナ生成、ライフゲイン、濃霧(すべての戦闘ダメージを軽減する)、飛行クリーチャー破壊、などが含まれる。
ついでに書いておくと、コモンに登場しなかったものはどんなものであれアンコモンには登場する可能性があり、すなわちリミテッドでの存在感はあるということでもある。
さて、これまでの内容を念頭に、さらにスケルトンをぶっ叩いてみよう:
CW01 - クリーチャー,小型
CW02 - クリーチャー,小型,飛行,捻墓
CW03 - クリーチャー,小型,先制攻撃
CW04 - クリーチャー,小型,瞬速,戦場に出たとき -- ライフゲイン
CW05 - クリーチャー,中型,警戒
CW06 - クリーチャー,中型,飛行
CW07 - ソーサリー - トークン生成,飛行
CW08 - インスタント,パワー増強
CW09 - インスタント,エンチャント除去
CW10 - エンチャント,オーラ,クリーチャー除去
CU01 - クリーチャー,小型,飛行
CU02 - クリーチャー,小型,被覆
CU03 - クリーチャー,中型,飛行
CU04 - クリーチャー,大型
CU05 - インスタント,強い打ち消し呪文,捻墓
CU06 - インスタント,弱い打ち消し呪文
CU07 - インスタント,“バウンス”
CU08 - ソーサリー,カードを引く
CU09 - ソーサリー
CU10 - エンチャント,オーラ,クリーチャー除去
CB01 - クリーチャー,小型
CB02 - クリーチャー,小型,飛行
CB03 - クリーチャー,小型,接死,捻墓
CB04 - クリーチャー,中型,威嚇
CB05 - クリーチャー,中型,戦場に出たとき -- 死者再生
CB06 - クリーチャー,中型
CB07 - インスタント,クリーチャー除去
CB08 - ソーサリー,捨てさせ
CB09 - ソーサリー,クリーチャーからドレイン
CB10 - エンチャント,オーラ,正の効果、捻墓
CR01 - クリーチャー,小型,戦場に出たとき -- プレイヤーに直接ダメージ
CR02 - クリーチャー,小型,先制攻撃
CR03 - クリーチャー,小型
CR04 - クリーチャー,中型,速攻
CR05 - クリーチャー,中型,トランプル
CR06 - インスタント -- クリーチャーに直接ダメージ
CR07 - インスタント -- プレイヤーかクリーチャーに直接ダメージ
CR08 - インスタント -- パワーが上がる
CR09 - ソーサリー -- パニック,捻墓
CR10 - エンチャント,オーラ,正の効果
CG01 - クリーチャー,小型,捻墓,戦場に出たとき -- アーティファクト/エンチャント除去
CG02 - クリーチャー,小型,再生
CG03 - クリーチャー,小型,接死
CG04 - クリーチャー,中型,到達,捻墓
CG05 - クリーチャー,中型
CG06 - クリーチャー,中型
CG07 - クリーチャー,大型,トランプル
CG08 - インスタント,パワーとタフネスが上がる
CG09 - ソーサリー,ライフゲイン
CG10 - エンチャント,オーラ,正の効果
CA01 - クリーチャー,中型
CA02 - サクって起動,マナ関係
CA03 - タップ能力,マナ関係
CA04 - 装備品,パワー/タフネスがあがる
CA05 - 装備品,回避能力
CL01 - 白マナを生成する
CL02 - 青マナを生成する
CL03 - 黒マナを生成する
CL04 - 赤マナを生成する
CL05 - 緑マナを生成する
キーワードを全部はめ込んでみると、どうやら効果を詰め込みすぎているらしいことがわかる。解決する方法のひとつにはクリーチャーのスロットを用いるというものがある。たとえば戦場に出たとき(ETB = enter the battlefield)の誘発型能力を用いれば、ソーサリーをクリーチャーに擬態させることができる。さらにスケルトンを見ていると、捻墓を持つカードは何枚ぐらい必要で、それをどの色に割り振るべきかということに考えが及ぶ。加えて、色によってフレーバー的な差が生じるのではないかと思いつき試してみた。墓地の色である黒と緑には開墓を多めに割り振っている。また、白と緑ではクリーチャーにも割り振っているが、青と赤ではインスタントとソーサリーにのみ割り振っている。
あるスケルトンについてデザイナーがするべき調整の手数は、固有のセットの事情によってさまざまだ。今回のコラムでやってきた程度で充分なこともあり得るし、他にも処理しなければならない問題があるためにさらなる調整が必要かもしれない。このサンプル・スケルトンだけからでも確実に言えることがあるとすれば、一番ありがちなデザイン上の問題は、入れるべき要素が足りないことよりも、むしろ要素を詰め込もうとしすぎてしまうことの方だということだ。
スケルトンには柔軟性があって、いのちがあって、呼吸すらしているドキュメントなのだということは憶えておいてほしい。それを作るのは今この瞬間セットがどうなっているのかをぱっと把握するためだ。カードのデザインが始まれば、最初のアイデアが思うように機能しないことが必ず出てきて、それでスケルトンを再構成することになる。
まとめると、デザイン・スケルトンは、部分部分が常に変化し続けているデザイン中のセット全体の大きな絵を、デザイナーが把握することを可能にしてくれるツールだ。その絵が見えることで、デザイナーはそのセットがどのようなデザイン的な変更を必要としているかを理解できるのだ。(*2)
--------
(*2) まとめると、〜 理解できるのだ。
原文では以下の通り。
In the end, the design skeleton is a tool that better allows the designers to get a big picture of all the moving parts to their set allowing them to start figuring out what their set is going to need design-wise.
「最後に書くと、デザイン・スケルトンはデザイナーに全ての動いている部分から成る大きな絵を得ることを可能にする工具だ」まではほぼ確定で、to their set 以下のかかり方が不明瞭。一応ここでは to their set は all the moving parts に限定的にかかるように訳してるけど全く自信なし。さらに allowing them 以下のかかり方も不明。ここでは them はデザイナーと解釈して、to get a big picture of 〜 to their set の一文全体が allowing them to start 〜 するのだという風に訳した。まだ訳すの2本目だけど、マローらしからぬ悪文だと思う。
--------
骨っぽい話
今年もカードデザインの現場の隅っこの辺りを垣間見ていただいたわけだが、お楽しみいただけただろうか。もしこの記事への反応が芳しければ、また来年の「ボルトとナット」でお会いしよう。
来週は多重キッカーの話をしたいと思う。
その日までに、みなさんのスロットがうまく埋まりますように。
--------
ここまで訳した2回を読んだら、あとの2回は公式で翻訳されている。読んだことがある人も、もし最初の2回を読むのが初めてならあらためて読んでみるといいと思う。いろいろ発見がある筈だ。
基本根本:デザインの骨格を埋めよう
http://mtg-jp.com/reading/translated/001274/
「基本根本」:より高いレアリティ
http://mtg-jp.com/reading/translated/mm/003089/
訳語は合わせたり合わせなかったりした。たとえばセット名は最初「トゥルース」「ジャスティス」などとしていたが、公式では「正義」となっていたのでそちらにした。また架空のメカニズム gravetwist は「編墓」としていたのだが公式の「捻墓」に合わせている。
例によって誤訳の指摘は歓迎します。自分ならこう訳す、というのでもいいです。コメント欄までお願いします。
ほんやく!ネット☆ランナー
2012年5月30日 翻訳本ブログ開闢以来の誰得翻訳。往年の名作 CCG『Netrunner』が復刻されるという嬉しいニュースが入ってきたので訳してみた。あ、つまりマジック・ザ・ギャザリングの記事ですらありません。
Netrunner はリチャード・ガーフィールド博士がマジックの次次の次(これずっと勘違いしてました。マジックの次は『V:tE』で、その次が Netrunner です。2012-07-19 修正)にデザインした CCG で、TRPG『サイバーパンク2.0.2.0.』の世界を下敷きにした巨大企業と一匹狼のランナーの電脳戦を題材としている。企業側とランナー側では勝利条件も使うカードも異なる非対称性が特徴で、ソリッドなビジュアルデザインと薄汚いサイバーパンクフレイバーも独特の味わいがあった。
デッキ構築において同名カードの枚数制限がなく、にもかかわらず3年にわたるゲーム史上で禁止カードをわずか2枚しか出さなかった神がかり的なバランスは半ば伝説化している。リソース変換の自由度がきわめて高いことと不確定情報が多いこととでプレイングの難度は高い。
1996 年にウィザーズ・オヴ・ザ・コースト社から「DECKMASTER」シリーズの一作として基本セット発売、同年に最初のエクスパンション『PROTEUS』がリリース、1999 年に小型エクスパンション『CLASSIC』がリリースされるも、直後にサポートが停止された。
長くなったけど、以下訳文。
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原文:Fantasy Flight Games [News] - Announcing Android: Netrunner
http://www.fantasyflightgames.com/edge_news.asp?eidn=3272
『Android: Netrunner』
あの名作カードゲームが、舞台を『Android』世界に移して大復活!
《豆の木》のふもと、ニュー・アンジェルスへようこそ。この人類の英知の記念碑におかれた支社から、私たち NBN はあなたにとびっきりの番組をお届けできることを誇りに思います。完全リアルタイムの包括的ストリーミングで音楽、3D、ニュースにシットコム、クラシック映画にセンシイまでなんでもお送りします。私たちの得意分野はすべてです。今こそが素晴らしい新世紀であり、人類は宇宙へ進出し、驚嘆すべき未来へ向けての新たな進歩が毎日刻まれています。NBN と協力企業とはその進歩と共に歩み続けて、みなさまにふさわしい映像をお送りし続けています。
ファンタジー・フライト・ゲームズは来るべき『Android: Netrunner』の発売を発表できることを大変嬉しく思っています! このゲームの原作はリチャード・ガーフィールドがデザインして 1996 年に発売された『Netrunner』で、数ある CCG の中でも最高水準の作品のひとつだと広く見なされています。『Android: Netrunner』の発売によって、プレイヤーたちはかの名作の興奮をふたたび体験することができるでしょう……あるいは、初めて味わうプレイヤーも多いかも知れません。
『Android: Netrunner』は、二人用のリヴィング・カード・ゲーム(*1)で、非対称のシステムが特徴です。『Android』(*2)で描かれた近未来のサイバーパンク世界を舞台に、本作では巨大企業とその莫大なリソースに対して自らの才能だけを頼りに立ち向かう反体制の孤独なランナーたちの戦いが題材になっています。企業(コーポ)側のプレイヤーは自分たちの事業計画を進展させることでポイントを得ることができます。一方、ネットランナー側のプレイヤーは、企業側の防御網をくぐり抜けて金になるデータを盗み出すことでポイントを得ます。7ポイントを先取したプレイヤーが勝者となります。それまでに悪評(コーポ側)や脳へのダメージ(ランナー側)で致命傷を負わなければ、の話ですが。
明るい未来を築こう
視覚企業による人類の経験向上をめざすたゆまぬ努力によって、ひとびとは日々その恩恵を受けています。人類は太陽系を股にかけて、他の天体への植民を進め、度合いの差こそあれ成功しつつあります。月と火星は植民地化され、火星についてはテラフォーミングの計画が進んでいます。地球では大規模な軌道エレベーターが外気圏まで到達し、その終点には月やその他太陽系各所への旅行の際に拠点となるハブ宇宙港がもうけられています。そこは宇宙貿易の一大中心地でもあり、ひとびとはそこを“豆の木”の名で呼んでいます。
企業によるコンピューターの進歩と神経生理学分野におけるいくつかの発見は今やブレイン・マッピングを可能にしました。すなわち、人間の精神を電気信号として記録できるようにし、またしかるべき精神−機械インターフェイスへの接続を可能にしたのです。マウスとキーボードは過去の遺物となり、ジェスチャー・インターフェイスと非実体ディスプレイが当たり前のものになっています。人類の知性は不死に手が届くところまできています。遺伝学者、病理学者、その他の分野の学者たちによって、物理的な不死にすらたどり着こうとしているのです。
……巨大企業を信用するなよ……
ぜんぶ嘘だ。あんたが知ってると思ってることはぜんぶ嘘だ。それは企業があんたに考えさせたり見させたり聞かせたりしたいと思ってる通りのものなんだよ。もし真実を知りたければ、ファイアーウォールや、セントリー、バリアー、ついでにそこら中にはびこってるメディアのくだらないおしゃべりなんかを全部ぶち破らなきゃならない。巨大企業ってのは夢と希望の上に成り立ってるわけじゃないんだ。奴らはクレジットや嘘っぱちや、自力で立つこともできないちっぽけな連中の血と汗の上にあぐらをかいてるんだよ。奴らは自分たちのメッセージの説得力を保つために必要だと思えばいつでも誰でも殺すし、そうやって守ったメッセージをブロードキャスト・スクエアから外宇宙に向かって流し続ける。真実を求めてる? ランナーに訊いてみろよ。奴らはおれたちを犯罪者呼ばわりするし、まあそりゃその通りなんだけど、それは奴らが法に従ってるからじゃないんだぜ。奴らが法を作ってるからなんだ。奴らが現実を作ってるからなんだ。だけど、奴らがどんなものを作れると思ってようと、おれはそれをずたずたにすることができる。これだけがたったひとつの真実だ。ネットワークはどこにでもはりめぐらされてる。全てのものはネットにある。あんたの銀行口座も、あんたの購買履歴も、あんたの大好きな番組も、あんたの汚い洗濯物も。充分に深く潜って、充分に速く走れば、あらゆるものを見つけることができるし、誰にだってなれる……
アイスを壊せ
『Android: Netrunner』の非対称なゲームシステムは、コーポ側とランナー側で全く違った体験をもたらしてくれます。でもどちらであっても、プレイヤーは経験したことがないほどのゲームの流れの移り変わりを感じることでしょう。ゲームが開始した瞬間からプレイヤーには緊張が走り、各ターンのアクションをいかに巧く使って相手を出し抜くかに集中します。はったりを駆使して、リスクを計算し、損失を覚悟しつつ、短い時間で、限られた不完全な情報をもとに、プレイヤーは決断を下さなければなりません。
そして、プレイヤーたちは4つの巨大企業(ハアス−バイオロイド、ジンテキ、ウェイランド・コンソーシアム、NBN)と3つのランナーのクラス(アナーキー、クリミナル、シェイパー)を通してフレイバーに満ちた世界を味わうことができるでしょう。これら7つの陣営はいずれも『Android』世界の設定に基づいた個性的な特徴を持っていて、ゲームをより豊かなものにしています。
未来を切り開け
未来はここにあります。巨大企業とネットランナーが、現実を巡って争うのです。『Android: Netrunner』は 2012 年第3四半期のリリースを予定しています。もっと知りたい人は、製品情報ページをどうぞ!
『Android: Netrunner』はリチャード・ガーフィールドによってデザインされた古典カードゲームを基に作られた二人用のカードゲームで、『Android』に登場するディストピア的未来を舞台にしています。画一主義的巨大企業と孤独なネットランナーが、金になるデータをめぐって生きるか死ぬかの死闘を演じます。
--------
(*1) リヴィング・カード・ゲーム
Living Card Game、以下 LCG。いずれも Fantasy Flight Publishing 社の登録商標となっている。ひとことで言えば「ランダム性を排除した CCG」のようなものか。まず基本セットがあって、その後毎月エクスパンションを発売していくのだが、その内容は全部決まっている。その中からフォーマットにしたがってデッキを組んで対戦する、というのは旧来の CCG と同じ。プレイヤーの投資額が少なくて済む分参入障壁が低く、それでいてスタンドアロンのゲームとは違いカードプールが広がることによるダイナミズムも楽しめる、というシステム。らしい。メーカーとしては、CCG に比するとローリスクローリターン。
参考:Fantasy Flight Games [Living Card Games - About]
http://www.fantasyflightgames.com/edge_npm_sec.asp?eidm=14&esem=1
(*2)『Android』
Fantasy Flight Games がリリースしたボードゲーム。本文に出てきたニュー・アンジェルスと《豆の木》を舞台に、殺人事件の捜査をするゲームみたい。闇の隆盛までマジックのカードの和訳をつとめてらした進藤「みらこー」欣也氏がルールブックの私訳を作ってらっしゃって、それを読んで得た知識がおれのこのゲームに関して知るすべてなので詳しく知りたい人はそちらをご覧になってください。
奇跡家分館 -- 和訳ルールの部屋
http://logicwolf.sakura.ne.jp/kisekiya/translation/index.html
以下思いついたことなど。
・旧 Netrunner(以下「原作」とす)ではサイバーパンク 2.0.2.0. がベースになっていたけど今作では違うので、原作に登場する固有名詞は全て置き換わる、筈。
・本文中に差し挟まれている画像が実際のカードと思われるが、固有名詞を抜きにしても原作にあったカードは一枚もない。わざわざ全部変える必要もないし少なくとも機能的には残るカードも多いだろうが、まるっきり新しいカードも入るということなのだろう。
・《Adonis Campaign》あたりはリミテッド向きのカードパワーのようにも思われるが、LCG には原理上リミテッドが存在しない筈で、そこはちょっと気になるところ。リミテッド用のルールを作るのか、あるいはこれでも構築に届くのか。まあ全体のカードプール見ないとカードパワーのレベルは判断しようがないか。
・原作が出た頃は多分それほど気にならなかった筈だが、流石に『ニューロマンサー』からですら 28 年、サイバーパンクそのものがもはや完全に「来なかった未来」になっているのは否めず、訳していると future って単語が頻繁に出てくるのにとにかくひたすら懐かしい感じがした。自分は原作もちょっとだけやってたし復刻だということを知っているからこれはこれで、と思うが、若い人が初めて触れたらどんな風に感じるんだろう、というのはちょっと思った。余計なお世話だが。
・経済的/環境的理由で自分はたぶん買わないと思うが、もしここを読んでて SF 好き、かつ遊ぶ相手が周りにいる人は是非コアセットだけでも買ってみてほしい。原作通りのバランスなら面白さは保証する。
いつも通り、誤訳の指摘は歓迎します。「自分ならこう訳す」みたいなことでもいいです。コメント欄までお願いします。
Netrunner はリチャード・ガーフィールド博士がマジックの
デッキ構築において同名カードの枚数制限がなく、にもかかわらず3年にわたるゲーム史上で禁止カードをわずか2枚しか出さなかった神がかり的なバランスは半ば伝説化している。リソース変換の自由度がきわめて高いことと不確定情報が多いこととでプレイングの難度は高い。
1996 年にウィザーズ・オヴ・ザ・コースト社から「DECKMASTER」シリーズの一作として基本セット発売、同年に最初のエクスパンション『PROTEUS』がリリース、1999 年に小型エクスパンション『CLASSIC』がリリースされるも、直後にサポートが停止された。
長くなったけど、以下訳文。
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原文:Fantasy Flight Games [News] - Announcing Android: Netrunner
http://www.fantasyflightgames.com/edge_news.asp?eidn=3272
『Android: Netrunner』
あの名作カードゲームが、舞台を『Android』世界に移して大復活!
《豆の木》のふもと、ニュー・アンジェルスへようこそ。この人類の英知の記念碑におかれた支社から、私たち NBN はあなたにとびっきりの番組をお届けできることを誇りに思います。完全リアルタイムの包括的ストリーミングで音楽、3D、ニュースにシットコム、クラシック映画にセンシイまでなんでもお送りします。私たちの得意分野はすべてです。今こそが素晴らしい新世紀であり、人類は宇宙へ進出し、驚嘆すべき未来へ向けての新たな進歩が毎日刻まれています。NBN と協力企業とはその進歩と共に歩み続けて、みなさまにふさわしい映像をお送りし続けています。
ファンタジー・フライト・ゲームズは来るべき『Android: Netrunner』の発売を発表できることを大変嬉しく思っています! このゲームの原作はリチャード・ガーフィールドがデザインして 1996 年に発売された『Netrunner』で、数ある CCG の中でも最高水準の作品のひとつだと広く見なされています。『Android: Netrunner』の発売によって、プレイヤーたちはかの名作の興奮をふたたび体験することができるでしょう……あるいは、初めて味わうプレイヤーも多いかも知れません。
『Android: Netrunner』は、二人用のリヴィング・カード・ゲーム(*1)で、非対称のシステムが特徴です。『Android』(*2)で描かれた近未来のサイバーパンク世界を舞台に、本作では巨大企業とその莫大なリソースに対して自らの才能だけを頼りに立ち向かう反体制の孤独なランナーたちの戦いが題材になっています。企業(コーポ)側のプレイヤーは自分たちの事業計画を進展させることでポイントを得ることができます。一方、ネットランナー側のプレイヤーは、企業側の防御網をくぐり抜けて金になるデータを盗み出すことでポイントを得ます。7ポイントを先取したプレイヤーが勝者となります。それまでに悪評(コーポ側)や脳へのダメージ(ランナー側)で致命傷を負わなければ、の話ですが。
明るい未来を築こう
視覚企業による人類の経験向上をめざすたゆまぬ努力によって、ひとびとは日々その恩恵を受けています。人類は太陽系を股にかけて、他の天体への植民を進め、度合いの差こそあれ成功しつつあります。月と火星は植民地化され、火星についてはテラフォーミングの計画が進んでいます。地球では大規模な軌道エレベーターが外気圏まで到達し、その終点には月やその他太陽系各所への旅行の際に拠点となるハブ宇宙港がもうけられています。そこは宇宙貿易の一大中心地でもあり、ひとびとはそこを“豆の木”の名で呼んでいます。
企業によるコンピューターの進歩と神経生理学分野におけるいくつかの発見は今やブレイン・マッピングを可能にしました。すなわち、人間の精神を電気信号として記録できるようにし、またしかるべき精神−機械インターフェイスへの接続を可能にしたのです。マウスとキーボードは過去の遺物となり、ジェスチャー・インターフェイスと非実体ディスプレイが当たり前のものになっています。人類の知性は不死に手が届くところまできています。遺伝学者、病理学者、その他の分野の学者たちによって、物理的な不死にすらたどり着こうとしているのです。
……巨大企業を信用するなよ……
ぜんぶ嘘だ。あんたが知ってると思ってることはぜんぶ嘘だ。それは企業があんたに考えさせたり見させたり聞かせたりしたいと思ってる通りのものなんだよ。もし真実を知りたければ、ファイアーウォールや、セントリー、バリアー、ついでにそこら中にはびこってるメディアのくだらないおしゃべりなんかを全部ぶち破らなきゃならない。巨大企業ってのは夢と希望の上に成り立ってるわけじゃないんだ。奴らはクレジットや嘘っぱちや、自力で立つこともできないちっぽけな連中の血と汗の上にあぐらをかいてるんだよ。奴らは自分たちのメッセージの説得力を保つために必要だと思えばいつでも誰でも殺すし、そうやって守ったメッセージをブロードキャスト・スクエアから外宇宙に向かって流し続ける。真実を求めてる? ランナーに訊いてみろよ。奴らはおれたちを犯罪者呼ばわりするし、まあそりゃその通りなんだけど、それは奴らが法に従ってるからじゃないんだぜ。奴らが法を作ってるからなんだ。奴らが現実を作ってるからなんだ。だけど、奴らがどんなものを作れると思ってようと、おれはそれをずたずたにすることができる。これだけがたったひとつの真実だ。ネットワークはどこにでもはりめぐらされてる。全てのものはネットにある。あんたの銀行口座も、あんたの購買履歴も、あんたの大好きな番組も、あんたの汚い洗濯物も。充分に深く潜って、充分に速く走れば、あらゆるものを見つけることができるし、誰にだってなれる……
アイスを壊せ
『Android: Netrunner』の非対称なゲームシステムは、コーポ側とランナー側で全く違った体験をもたらしてくれます。でもどちらであっても、プレイヤーは経験したことがないほどのゲームの流れの移り変わりを感じることでしょう。ゲームが開始した瞬間からプレイヤーには緊張が走り、各ターンのアクションをいかに巧く使って相手を出し抜くかに集中します。はったりを駆使して、リスクを計算し、損失を覚悟しつつ、短い時間で、限られた不完全な情報をもとに、プレイヤーは決断を下さなければなりません。
そして、プレイヤーたちは4つの巨大企業(ハアス−バイオロイド、ジンテキ、ウェイランド・コンソーシアム、NBN)と3つのランナーのクラス(アナーキー、クリミナル、シェイパー)を通してフレイバーに満ちた世界を味わうことができるでしょう。これら7つの陣営はいずれも『Android』世界の設定に基づいた個性的な特徴を持っていて、ゲームをより豊かなものにしています。
未来を切り開け
未来はここにあります。巨大企業とネットランナーが、現実を巡って争うのです。『Android: Netrunner』は 2012 年第3四半期のリリースを予定しています。もっと知りたい人は、製品情報ページをどうぞ!
『Android: Netrunner』はリチャード・ガーフィールドによってデザインされた古典カードゲームを基に作られた二人用のカードゲームで、『Android』に登場するディストピア的未来を舞台にしています。画一主義的巨大企業と孤独なネットランナーが、金になるデータをめぐって生きるか死ぬかの死闘を演じます。
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(*1) リヴィング・カード・ゲーム
Living Card Game、以下 LCG。いずれも Fantasy Flight Publishing 社の登録商標となっている。ひとことで言えば「ランダム性を排除した CCG」のようなものか。まず基本セットがあって、その後毎月エクスパンションを発売していくのだが、その内容は全部決まっている。その中からフォーマットにしたがってデッキを組んで対戦する、というのは旧来の CCG と同じ。プレイヤーの投資額が少なくて済む分参入障壁が低く、それでいてスタンドアロンのゲームとは違いカードプールが広がることによるダイナミズムも楽しめる、というシステム。らしい。メーカーとしては、CCG に比するとローリスクローリターン。
参考:Fantasy Flight Games [Living Card Games - About]
http://www.fantasyflightgames.com/edge_npm_sec.asp?eidm=14&esem=1
(*2)『Android』
Fantasy Flight Games がリリースしたボードゲーム。本文に出てきたニュー・アンジェルスと《豆の木》を舞台に、殺人事件の捜査をするゲームみたい。闇の隆盛までマジックのカードの和訳をつとめてらした進藤「みらこー」欣也氏がルールブックの私訳を作ってらっしゃって、それを読んで得た知識がおれのこのゲームに関して知るすべてなので詳しく知りたい人はそちらをご覧になってください。
奇跡家分館 -- 和訳ルールの部屋
http://logicwolf.sakura.ne.jp/kisekiya/translation/index.html
以下思いついたことなど。
・旧 Netrunner(以下「原作」とす)ではサイバーパンク 2.0.2.0. がベースになっていたけど今作では違うので、原作に登場する固有名詞は全て置き換わる、筈。
・本文中に差し挟まれている画像が実際のカードと思われるが、固有名詞を抜きにしても原作にあったカードは一枚もない。わざわざ全部変える必要もないし少なくとも機能的には残るカードも多いだろうが、まるっきり新しいカードも入るということなのだろう。
・《Adonis Campaign》あたりはリミテッド向きのカードパワーのようにも思われるが、LCG には原理上リミテッドが存在しない筈で、そこはちょっと気になるところ。リミテッド用のルールを作るのか、あるいはこれでも構築に届くのか。まあ全体のカードプール見ないとカードパワーのレベルは判断しようがないか。
・原作が出た頃は多分それほど気にならなかった筈だが、流石に『ニューロマンサー』からですら 28 年、サイバーパンクそのものがもはや完全に「来なかった未来」になっているのは否めず、訳していると future って単語が頻繁に出てくるのにとにかくひたすら懐かしい感じがした。自分は原作もちょっとだけやってたし復刻だということを知っているからこれはこれで、と思うが、若い人が初めて触れたらどんな風に感じるんだろう、というのはちょっと思った。余計なお世話だが。
・経済的/環境的理由で自分はたぶん買わないと思うが、もしここを読んでて SF 好き、かつ遊ぶ相手が周りにいる人は是非コアセットだけでも買ってみてほしい。原作通りのバランスなら面白さは保証する。
いつも通り、誤訳の指摘は歓迎します。「自分ならこう訳す」みたいなことでもいいです。コメント欄までお願いします。
翻訳——マクロスケールにおけるメタゲーム/マックス・ブラウン
2012年5月28日 翻訳 コメント (4)ひさびさの翻訳。と思ったけどひと月半ぶりならそれほど久々でもないかも知れない。
デッキ分類やメタゲームの話。自分はプレリリース以外のトーナメント一切出ないのだが、この手の話は結構好き。
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原文:Metagames on the Macroscale | ManaDeprived.com
http://manadeprived.com/2012/04/metagames-on-the-macroscale.html
2012-04-20 Max Brown
マックス・ブラウンはニューヨーク州オルバニー在住のグラインダー(*1)。最近の主な成績は、グランプリ・ピッツバーグ 17 位、グランプリ・ボルティモア 25 位、グランプリ・プロヴィデンス 28 位。
近頃の“アグロコントロール”をめぐる議論に触発されて、僕もいろいろ考えてみた。どんなタイプのデッキが強いのか、それはいつ(およびどれほどの間)強いのか、そしてなぜ強いのか。僕は個別のカードの評価は抜きにして、時代を超えてこのアーキタイプの比較をして、それらに共通したパターンが見いだせるかどうかを検討し、さらには新しいフォーマットでどんなタイプのデッキが成功するかを予言することができるかどうかを試してみたいと思っている。
まずは現在の環境を把握することと、そこから僕が見てとれる事実をもとに仮説を構築することから始めてみたいと思う。僕が思うに、メタゲームを長期にわたって支配することができたデッキと、その環境でもっとも速いデッキやもっとも“パワフルな”デッキには明らかに本質的な違いがある。
この記事の目指すところはふたつだ:ひとつは特定のメタゲームにおいて読者がそれに適合したカードやデッキや戦略を選ぶ上での考え方の助けになること。もうひとつは、マジックプレイヤーたちがお互いに話をしたり議論したりする上での共通した認識や知識のベースをつくりあげること。
とりあえずスタンダードに話を絞ると、ここ4年でメタゲームを支配してきたデッキは「フェアリー」、「ジャンド」、「コーブレイド」(*2)、そして今の「デルバー」と移り変わってきた。そのうちの3つは一般的には“アグロコントロール”と呼ばれるデッキで、残る「ジャンド」はしばしば“中速”と言われていた(僕はでも、「ジャンド」は「フェアリー」やその他のデッキと肝腎なところでは似ていると考えている。つまりゲームをすみやかに終わらせることができるということだ)。全く予備知識がなければ、シーズンを通してもっとも活躍するだろうデッキは「一番速いデッキ」や一番“パワフルな”(多くの場合これは「一番速い」の別の言い方にすぎない)デッキに違いない、と予言することになるだろうけど、実際にはそうはなっていない。
僕が尊敬するプレイヤーたちの間でも、この現象に対する説明はまったくばらばらだ。ある人は“アグロコントロール”はマジックというゲームの構造上そもそも最強の戦略なんだというし、別の人は全く逆の主張をする。いわく、カードこそがデッキを作るのであって、デッキの強さというのはカードの強さ以上のものではない。「フェアリー」が強いのは《苦花》のおかげだし、「ジャンド」が強いのは《血編み髪のエルフ》のためだ、といった具合に。もちろんそれはある程度以上は真実だろう。でもそれは、ここ4年間繰り返されている現象を本当に充分説明できているだろうか。
僕たちに必要なのは、異なるフォーマットの間で、デッキの違いを考察することができるフレームワークだ。それはいま用いられているものよりももっと精密で、もっと一般的でなくちゃいけない。僕の考えでは、現在のモデルはメタゲームというものがどう機能しているかということをある程度までは理解する助けになっている一方で、同時により深い理解を阻害している。既存のぐちゃぐちゃになったアイデアや「“アグロコントロール”とはなにか」「“コンボ”とはなにか」に関する議論を回避するために、僕は思い切ってこれまで使われてきた用語の大半を捨てて、もっと具体的なことに焦点を当ててみたいと思う。デッキタイプの分類なんてものはあらゆる人が合意できて初めて役に立つのだし、それについての議論なんてのは本来あってはならないし、なによりわかりやすいものでなくちゃいけない。そして、どのデッキがどの分類に収まるかということははっきりしていなくちゃいけない。
まずは一番単純なモデルから始めてみて、それが僕たちになにかを予言してくれるかどうかを見てみたい。そしてその予言は物事を余計にややこしくするだけなのか、それともデッキ分類の新しい指標になるのかを確認してみよう。
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(*1) グラインダー
grinder。PV によると、「グラインダーは単に死ぬほどマジックをやりこんでいる人です。上手いか下手かは関係ありません。」とのこと。参照→http://drk2718.diarynote.jp/201108060211193316/ (#2 の最後の方)
(*2) コーブレイド
caw-blade。日本では普通カウブレードと書かれるが、おれのくだらないこだわりに従い今後もコーブレイドで通す。参照→http://drk2718.diarynote.jp/201108060211193316/ (文末の(*4))
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「制約 constraint」(*3)モデルの導入:
この分類では、デッキは「制約設定型」constraint-setting か「制約対応型」constraint-threading のどちらかに分類される。さて、制約設定型と制約対応型とはそれぞれ何を意味するのだろうか。これらの用語を適切に定義することと、その定義を完全に理解することとは、僕たちが目標としているパターンの発見のために非常に重要だ。ひとこと先に言っておくと、これから述べることは歴戦のトーナメント・プレイヤーには常識に近いことかも知れない。でもいずれにしても、定義の厳密さの度合いというのは大事で、最初に用語を開示してそれについてあらゆることを注意深く定義しておくことは、僕にとってはメタゲームの動きとその動きの理由を説明するために絶対必要なことなんだ。
制約設定型、あるいは非相互作用的なデッキは、環境の基本速度を決める。大抵の場合はコンボ・デッキか、直線的なアグロ・デッキだ。制約設定型デッキは引きに恵まれればしばしばとんでもない早さで対戦相手を葬ることができる。これらのデッキの持つ一番重要な要素は、これらのデッキこそが環境の速度を定めるのだということだ。Xターン目までにこれらのデッキに対して意味のある対応をできないデッキは生き残れない。このタイプのデッキの例としては、「《鍛えられた鋼》」(ゼンディカー−ミラディンの傷跡環境や、現在のスタンダード)、「親和」(禁止発表前および禁止発表後のモダン)、「ストーム・コンボ」(レガシー、モダン、旧エクステンディッド)、「吸血鬼」(ゼンディカー−ミラディンの傷跡のスタンダード)、「《猛火の群れ》感染」(禁止発表前のモダン)なんかが挙げられる。
“ランプ”系のデッキも制約設定型と言えるけど、どの環境にも存在するわけではないし、デッキのスピードも異なる。こういうデッキは妨害があっても勝ってしまうたぐいの速度を持っている。たとえば「ヴァラクート」(ゼンディカー−ミラディンの傷跡のスタンダード)や「《雲上の座》」(禁止前のモダン)デッキがこのタイプにあたる。このようなデッキが存在すると、環境の他のデッキは相手に干渉しながらも素早く勝つことを要求されるようになる(伝統的なコントロールデッキではしばしば対処できない類いの制約なのだけど、詳しくはまたあとで述べる)。これらのデッキに共通した特徴は相互作用を行わないように作られていることだ。制約設定型のデッキに入っているカードは大抵ひとつの役割だけに特化しているか、デッキ内の他のカードとの強力なシナジーがなければほとんど役に立たない。典型的なカードとして《はばたき飛行機械》や《炎の儀式》、《原始のタイタン》、《溶岩の打ち込み》なんかがある。
環境が研究されてくると、制約設定側のデッキはしばしば相手の妨害をする必要に迫られ、それによって弱くなっていく。スピードが落ちたりデッキの一貫性がなくなったりするからだ。昔ながらの相互作用のないデッキ、たとえば「ドレッジ」が相手の対策カードに対応しなければならなくなったところを考えてみよう。墓地対策カードへの回答となるカードをデッキに山ほど詰め込めば、相手がその対策を引かなかったとしてもデッキは満足に回らなくなってしまう。この効果は結構大きいので、デッキビルダーは変形サイドボードみたいな方法で対処しようとしたりする。
制約対応型、もしくは相互作用的なデッキは、フォーマットにおける制約をすり抜ける方法を探し、相互作用の中でアドヴァンテージを作りながら勝つ。制約対応型デッキには「ズー」(さまざまなフォーマット)のような一本調子ではないアグロ・デッキ、「ジャンド」(アラーラ=ゼンディカーのスタンダード)のような中速デッキ、「フェアリー」や「コーブレイド」のようなアグロ・コントロール、「5CC」(ローウィン=アラーラのスタンダード)や「青白コントロール」(アラーラ=ゼンディカーのスタンダード)のような伝統的なコントロールデッキなどが含まれる。これらのデッキに共通するのは、相手に干渉したり干渉されたりすることを望んでいて、その干渉を通してなんらかのアドヴァンテージ(大抵はカードかテンポだ)を稼ぎ出せるカードを選んで詰め込んでいる。制約対応型のデッキに入っているカードは単体でカードパワーが高いものか、対戦相手の脅威の回答になりつつ他にも付加価値のあるようなカードが多い。典型的なカードとしては《クァーサルの群れ魔道士》《剣を鍬に》《マナ漏出》や各種プレインズウォーカーが挙げられる。
でも、待って! 制約対応型のデッキは、自分たちが別の種類の制約をかけることはないんだろうか? たとえば「デルバー」デッキとの相性を向上させるために《はらわた撃ち》が使われるようなことはないんだろうか? もちろんある。だからこそ、メタゲームは毎週毎週うつろっていくんだ。マジックでは、あらゆるゲームはなんらかのレベルでは相互作用があると言えるのであって、このふたつのカテゴリの違いはそれぞれのデッキがなにをしようとしているかの差にすぎない。
一般的に、制約対応型のデッキを相手にする方が、制約設定型のデッキと戦うよりも厳しい(対応型の方がデッキの構造は孤立的で、シナジー抜きの純粋なパワーカードが多いからだ)。そのためメタゲームの進み方は少し遅くなる。時には対応型のデッキが強くなりすぎるために、オーダーメイドの対策カードが作られたり(《火山の流弾》《大貂皮鹿》《強情なベイロス》)、禁止カードが制定されたりする(後者は最近の潮流で、「コーブレイド」より前の制約設定型のデッキは殆ど禁止カードなんて出されることはなかった)。
そうすると、制約設定型のデッキはどうなってしまうのだろうか? 新しい環境の最初の週だけはめちゃめちゃ強くて、環境の理解が進むにつれて弱くなるんだろうか? そんなことはない(もちろん、非相互作用型のデッキは新環境のメタゲームではしばしば滅法強い。単純に強いデッキが組めるし、プレイヤーたちは対処方法をまだよく知らないからだ)。メタゲーム前線より相互作用寄りに進んでいくと、対応型のデッキは対応型同士の制約をより意識し始める。実は、そのようなメタゲームの状況はまさに制約設定型のデッキが一瞬だけふたたび活力を取り戻し、大活躍できるタイミングだ。最近では CFB が世界選手権に持ち込んだ「《鍛えられた鋼》」デッキがわかりやすい例だ。
こんなようなわけで、見たことのあるパターンが何度も繰り返される。相互作用的なデッキが長い間環境を支配し、非相互作用的なデッキが「当たりの週」にその支配をぶっ壊す。また、環境が大きく変わった時にも非相互作用的なデッキは旬を迎える。相互作用的なデッキは試行錯誤しながら新しい環境の制約を探る段階に戻ってしまうからだ。僕はこのパターンは基本的にはあらゆる“健全な”メタゲームに当てはまるのだと思っている。もし非相互作用的なデッキが環境を支配したら、禁止カードが発表されるまでそう長くはないだろう(ウィザーズ社の研究開発部の振る舞いはそのようにプログラムされている)。もし特定の相互作用的デッキがあまりにも強すぎて、非相互作用デッキがそれを打ち破れず、「当たりの週」すら作ることができなくなったとしたら、それは不健全なメタゲームというべきで、たとえばコー・ブレイドの支配はそれにあたる。
健全な環境は複雑なメタゲームへ向かっていく傾向にある。最初はどんな環境も単純な制約があるだけだが、そのうち相互作用的なデッキがいろいろなカードを試したりメタったりしていって、それが環境の複雑度を増していく。推測だけど、同じ環境が充分に長く続けば僕たちは(多変量の)円環状のパターンが生じたり、複雑性が有界であることを見ることができるだろう。現実には一定の頻度で新しいカードが刷られるため、“本当は”なにが起きるのかという問いには答えはない(でも、とてもわくわくする問いだと思う)。
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(*3) 制約
併記した通り、原文では constraint。そもそも馴染みのない単語だけど、辞書的な意味は「制約」「拘束」などで、全く頭を抱えてしまった。読み進んでいってもらえれば判るとおり、ここでの constraint は昔の理論でいう「基本ターン (fundamental turn)」やいわゆるキルターンに関連する概念で、デッキというのはその制約を設定する側とそれをすり抜ける側とに大別できる、という考え方が展開されている。結局しっくり来る訳を思いつけずに直訳で「制約」としてしまったが、なにかいい代わりを思いつく人がいらしたら教えてください。この単語こそがこの文章の肝なので、なんとか上手い言葉をあてたいのだが。
余談だけど、この単語を見て《集団監禁/Collective Restraint》を思い出したのだけど、辞書で constraint を引いたらほんとに「関連する語」という項目に restraint が出てて面白かった。意味も似たようなもんだった。
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規模別メタゲームの導入:
最後に僕が導入しようと思う概念は「規模別メタゲーム」で、僕たちプレイヤーが環境に対してとれる行動をスケール別に分けたものだ。これは制約モデルが現実世界にどのようにはまるのかを理解するためのより大きな枠組みだ。単純に言えば、「メタゲーム」のプレイヤーたる僕たちには、いくつかのレベルの“行動”がとれる。カードを変えるか、デッキを変えるか、それともいつプレイするかを変えるか、という具合に。そしてそれぞれの“行動”は、それぞれ違うスケールの思考に対応している。
カードの相互作用:小さなスケール(ここでは個々のカード選択とその選択がゲーム内で引き起こす相互作用のことを論じる)
このレベルの考え方は僕たちにとって身近なもので、毎週毎週僕たちはよく当たるだろう仮想敵に対してデッキを調整するという形でこれを実行している。たとえば《幻影の像》がたくさん使われているだろうから「《出産の殻》」デッキから《スラーン》を抜くとしたら、それが小さなスケールでのメタゲームだ。「デルバー」デッキでの《はらわた撃ち》を増減させることも同じことだ。この類の短期的な調整のおかげで、相互作用的なデッキは特定の環境で繰り返し勝ち続けることができる。そしてその同じ調整が、非相互作用的なデッキのつけいる隙を作り出す。(*4)
僕がこのカテゴリの思考で大事だと思っているのは、マッチアップというのが固定されたものだとは考えずに、流動的で変化し続けるものだと考えるべきだということだ。相互作用的なデッキは、周りに応じて構成を変え続けることで非相互作用的なデッキと戦う力を得ている。イメージとしては、地面に穴ぼこがたくさん空いていて、そのひとつひとつが違った種類のデッキで、それを埋めなきゃいけないけど全部の穴を埋めるだけの土を持ち合わせていない、という状況だ。もし新しい穴を塞ごうと思ったら、すでに埋めた穴から土を出してきてその新しい穴に放り込まなきゃならないってわけだ。「最強のデッキ」とは、つまり土をたくさん持ってて、多くの穴に多くの土を放り込めるデッキを想像するだろう。でも実際には「あるトーナメントにおける最良のデッキ」は、もっと土は少ないけれど埋めるべき穴をピンポイントにしっかり埋めている、というようなデッキだ。これについて考え始めたということは、つまり僕たちの考えは一歩進んでいて、すなわちそれはスケールがひとつ上がることを意味する。
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(*4) そしてその同じ調整が、非相互作用的なデッキのつけいる隙を作り出す。
難しい。原文は It is also this same tweaking that creates the inefficiencies for non-interactive decks to exploit. だから「その同じ調整が inefficiencies を作り出す」ってとこまでは間違いようがないんだけど、for non-interactive decks to exploit とはどういうことか。exploit は他動詞しかないので、たぶんその目的語が inefficiencies になる。だとすると普通なら inefficiencies that non-interactive decks ... になるべきところで that 〜 that がいやだったから for にしたみたいなことか?
という感じで作った訳文なので翻訳というより単なるおれ解釈。
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予言されるメタゲーム:中規模のスケール(これがつまり僕たちが普段“メタゲーム”という言葉から想像する概念——特定のトーナメントにおいて、対戦相手がどのデッキを使ってくるか、という予測だ)
これは僕たちが、特定のデッキに対する相性がミクロスケール、すなわち対策カードを入れる程度ではどうにもできないから使うデッキを変えよう、というレベルのスケールの思考だ。このレベルの思考には人脈がかかわってきたりする。あるトーナメントに出るのにどんなデッキがよさそうか、あるいはまずそうか、友だちと相談するのは単純に役に立つ。ソーシャル・ネットワークの活用や MO の結果チェック、ネットでデッキリストを探すこと、どれもデッキ選択を助けてくれる。しかし誰もが自分と同じレベルで考えるだろうと思いこんでしまうのは落とし穴だ。プロツアー予選やグランプリでは、多くのプレイヤーは直近の大きなトーナメントで優勝したデッキや、それほどお金をかけずに組めるデッキを深く考えずに使っていたりする。だからあまり深読みしすぎない方がいい。このスケールのメタゲームに関しては素晴らしい記事や情報がたくさんあるから、参考にしてみるといい。
繰り返されるメタゲーム:巨大なスケール(前述の「制約」モデルが動かすレベルで、どのようなデッキがどのタイミングで強くなるかを教えてくれる)
このレベルで考えることによって、僕たちは限られたリソース(プレイテストの時間や、カードを調達する能力)をもっとも効率よく成功確率の高いデッキタイプにつぎ込むことができる。たとえば、全く新しい環境(スタンダードのブロックが入れ替わるタイミングとか)でのプレイテストをするためには、制約モデルでいうところの非相互作用的なデッキを出発点にするべきだ。これは下のふたつのレベルの情報を切り捨てていいということではない。僕たちの最終的な目標はこの3つのレベルからそれぞれ得られる情報を統合してデッキ選択に役立てることで、個々のレベルを「マスター」することじゃない。制約モデルがある程度予言可能なのはウィザーズ・オヴ・ザ・コースト社の研究開発部の意図通りだってことを忘れないように——彼らはいまのところ相互作用的なデッキが好きで、非相互作用的なデッキの支配があまり続くようだと禁止カードを設定できる、みたいなことをね。でも、現時点での“体制”がおそらく近い将来に変わることはないだろう。だからあまり心配する必要はないと思う。
これを読んだら:
この記事がわずかでも読者の思考を整理する助けになって欲しいと思う。ここに書いてきたことはある程度以上のプレイヤーなら当たり前に意識していることだろうけど、でもこうやってあらためて書き出してみることによって、より理解は深まるし、考え方を修正しやすくもなる。メタゲームってものがどう振る舞うかについての憶測を修正できれば、正しいデッキ選択に一歩近づいたことになる。特にめまぐるしく動くスタンダードのメタゲームでは大いに役に立つと思う。このような考え方を作り上げてきたことは僕のプレイヤーとしての強みのひとつだと思っているし、これまでに考察や経験から学んできたことを分かちあうことに興奮している。
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なにかもう少し面白くなりそうな予感に満ちているけど、この記事自体はそこまで新しいことは言ってない、って理解でいいのかな。
いつもの通り、誤訳の指摘は歓迎します。「自分ならこう訳す」みたいなのでもいいです。コメント欄にお願いします。自分はプレイヤーとしては平均以下なので、このような記事だと誤読や誤解も普段より多いかも知れません。
デッキ分類やメタゲームの話。自分はプレリリース以外のトーナメント一切出ないのだが、この手の話は結構好き。
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原文:Metagames on the Macroscale | ManaDeprived.com
http://manadeprived.com/2012/04/metagames-on-the-macroscale.html
2012-04-20 Max Brown
マックス・ブラウンはニューヨーク州オルバニー在住のグラインダー(*1)。最近の主な成績は、グランプリ・ピッツバーグ 17 位、グランプリ・ボルティモア 25 位、グランプリ・プロヴィデンス 28 位。
近頃の“アグロコントロール”をめぐる議論に触発されて、僕もいろいろ考えてみた。どんなタイプのデッキが強いのか、それはいつ(およびどれほどの間)強いのか、そしてなぜ強いのか。僕は個別のカードの評価は抜きにして、時代を超えてこのアーキタイプの比較をして、それらに共通したパターンが見いだせるかどうかを検討し、さらには新しいフォーマットでどんなタイプのデッキが成功するかを予言することができるかどうかを試してみたいと思っている。
まずは現在の環境を把握することと、そこから僕が見てとれる事実をもとに仮説を構築することから始めてみたいと思う。僕が思うに、メタゲームを長期にわたって支配することができたデッキと、その環境でもっとも速いデッキやもっとも“パワフルな”デッキには明らかに本質的な違いがある。
この記事の目指すところはふたつだ:ひとつは特定のメタゲームにおいて読者がそれに適合したカードやデッキや戦略を選ぶ上での考え方の助けになること。もうひとつは、マジックプレイヤーたちがお互いに話をしたり議論したりする上での共通した認識や知識のベースをつくりあげること。
とりあえずスタンダードに話を絞ると、ここ4年でメタゲームを支配してきたデッキは「フェアリー」、「ジャンド」、「コーブレイド」(*2)、そして今の「デルバー」と移り変わってきた。そのうちの3つは一般的には“アグロコントロール”と呼ばれるデッキで、残る「ジャンド」はしばしば“中速”と言われていた(僕はでも、「ジャンド」は「フェアリー」やその他のデッキと肝腎なところでは似ていると考えている。つまりゲームをすみやかに終わらせることができるということだ)。全く予備知識がなければ、シーズンを通してもっとも活躍するだろうデッキは「一番速いデッキ」や一番“パワフルな”(多くの場合これは「一番速い」の別の言い方にすぎない)デッキに違いない、と予言することになるだろうけど、実際にはそうはなっていない。
僕が尊敬するプレイヤーたちの間でも、この現象に対する説明はまったくばらばらだ。ある人は“アグロコントロール”はマジックというゲームの構造上そもそも最強の戦略なんだというし、別の人は全く逆の主張をする。いわく、カードこそがデッキを作るのであって、デッキの強さというのはカードの強さ以上のものではない。「フェアリー」が強いのは《苦花》のおかげだし、「ジャンド」が強いのは《血編み髪のエルフ》のためだ、といった具合に。もちろんそれはある程度以上は真実だろう。でもそれは、ここ4年間繰り返されている現象を本当に充分説明できているだろうか。
僕たちに必要なのは、異なるフォーマットの間で、デッキの違いを考察することができるフレームワークだ。それはいま用いられているものよりももっと精密で、もっと一般的でなくちゃいけない。僕の考えでは、現在のモデルはメタゲームというものがどう機能しているかということをある程度までは理解する助けになっている一方で、同時により深い理解を阻害している。既存のぐちゃぐちゃになったアイデアや「“アグロコントロール”とはなにか」「“コンボ”とはなにか」に関する議論を回避するために、僕は思い切ってこれまで使われてきた用語の大半を捨てて、もっと具体的なことに焦点を当ててみたいと思う。デッキタイプの分類なんてものはあらゆる人が合意できて初めて役に立つのだし、それについての議論なんてのは本来あってはならないし、なによりわかりやすいものでなくちゃいけない。そして、どのデッキがどの分類に収まるかということははっきりしていなくちゃいけない。
まずは一番単純なモデルから始めてみて、それが僕たちになにかを予言してくれるかどうかを見てみたい。そしてその予言は物事を余計にややこしくするだけなのか、それともデッキ分類の新しい指標になるのかを確認してみよう。
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(*1) グラインダー
grinder。PV によると、「グラインダーは単に死ぬほどマジックをやりこんでいる人です。上手いか下手かは関係ありません。」とのこと。参照→http://drk2718.diarynote.jp/201108060211193316/ (#2 の最後の方)
(*2) コーブレイド
caw-blade。日本では普通カウブレードと書かれるが、おれのくだらないこだわりに従い今後もコーブレイドで通す。参照→http://drk2718.diarynote.jp/201108060211193316/ (文末の(*4))
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「制約 constraint」(*3)モデルの導入:
この分類では、デッキは「制約設定型」constraint-setting か「制約対応型」constraint-threading のどちらかに分類される。さて、制約設定型と制約対応型とはそれぞれ何を意味するのだろうか。これらの用語を適切に定義することと、その定義を完全に理解することとは、僕たちが目標としているパターンの発見のために非常に重要だ。ひとこと先に言っておくと、これから述べることは歴戦のトーナメント・プレイヤーには常識に近いことかも知れない。でもいずれにしても、定義の厳密さの度合いというのは大事で、最初に用語を開示してそれについてあらゆることを注意深く定義しておくことは、僕にとってはメタゲームの動きとその動きの理由を説明するために絶対必要なことなんだ。
制約設定型、あるいは非相互作用的なデッキは、環境の基本速度を決める。大抵の場合はコンボ・デッキか、直線的なアグロ・デッキだ。制約設定型デッキは引きに恵まれればしばしばとんでもない早さで対戦相手を葬ることができる。これらのデッキの持つ一番重要な要素は、これらのデッキこそが環境の速度を定めるのだということだ。Xターン目までにこれらのデッキに対して意味のある対応をできないデッキは生き残れない。このタイプのデッキの例としては、「《鍛えられた鋼》」(ゼンディカー−ミラディンの傷跡環境や、現在のスタンダード)、「親和」(禁止発表前および禁止発表後のモダン)、「ストーム・コンボ」(レガシー、モダン、旧エクステンディッド)、「吸血鬼」(ゼンディカー−ミラディンの傷跡のスタンダード)、「《猛火の群れ》感染」(禁止発表前のモダン)なんかが挙げられる。
“ランプ”系のデッキも制約設定型と言えるけど、どの環境にも存在するわけではないし、デッキのスピードも異なる。こういうデッキは妨害があっても勝ってしまうたぐいの速度を持っている。たとえば「ヴァラクート」(ゼンディカー−ミラディンの傷跡のスタンダード)や「《雲上の座》」(禁止前のモダン)デッキがこのタイプにあたる。このようなデッキが存在すると、環境の他のデッキは相手に干渉しながらも素早く勝つことを要求されるようになる(伝統的なコントロールデッキではしばしば対処できない類いの制約なのだけど、詳しくはまたあとで述べる)。これらのデッキに共通した特徴は相互作用を行わないように作られていることだ。制約設定型のデッキに入っているカードは大抵ひとつの役割だけに特化しているか、デッキ内の他のカードとの強力なシナジーがなければほとんど役に立たない。典型的なカードとして《はばたき飛行機械》や《炎の儀式》、《原始のタイタン》、《溶岩の打ち込み》なんかがある。
環境が研究されてくると、制約設定側のデッキはしばしば相手の妨害をする必要に迫られ、それによって弱くなっていく。スピードが落ちたりデッキの一貫性がなくなったりするからだ。昔ながらの相互作用のないデッキ、たとえば「ドレッジ」が相手の対策カードに対応しなければならなくなったところを考えてみよう。墓地対策カードへの回答となるカードをデッキに山ほど詰め込めば、相手がその対策を引かなかったとしてもデッキは満足に回らなくなってしまう。この効果は結構大きいので、デッキビルダーは変形サイドボードみたいな方法で対処しようとしたりする。
制約対応型、もしくは相互作用的なデッキは、フォーマットにおける制約をすり抜ける方法を探し、相互作用の中でアドヴァンテージを作りながら勝つ。制約対応型デッキには「ズー」(さまざまなフォーマット)のような一本調子ではないアグロ・デッキ、「ジャンド」(アラーラ=ゼンディカーのスタンダード)のような中速デッキ、「フェアリー」や「コーブレイド」のようなアグロ・コントロール、「5CC」(ローウィン=アラーラのスタンダード)や「青白コントロール」(アラーラ=ゼンディカーのスタンダード)のような伝統的なコントロールデッキなどが含まれる。これらのデッキに共通するのは、相手に干渉したり干渉されたりすることを望んでいて、その干渉を通してなんらかのアドヴァンテージ(大抵はカードかテンポだ)を稼ぎ出せるカードを選んで詰め込んでいる。制約対応型のデッキに入っているカードは単体でカードパワーが高いものか、対戦相手の脅威の回答になりつつ他にも付加価値のあるようなカードが多い。典型的なカードとしては《クァーサルの群れ魔道士》《剣を鍬に》《マナ漏出》や各種プレインズウォーカーが挙げられる。
でも、待って! 制約対応型のデッキは、自分たちが別の種類の制約をかけることはないんだろうか? たとえば「デルバー」デッキとの相性を向上させるために《はらわた撃ち》が使われるようなことはないんだろうか? もちろんある。だからこそ、メタゲームは毎週毎週うつろっていくんだ。マジックでは、あらゆるゲームはなんらかのレベルでは相互作用があると言えるのであって、このふたつのカテゴリの違いはそれぞれのデッキがなにをしようとしているかの差にすぎない。
一般的に、制約対応型のデッキを相手にする方が、制約設定型のデッキと戦うよりも厳しい(対応型の方がデッキの構造は孤立的で、シナジー抜きの純粋なパワーカードが多いからだ)。そのためメタゲームの進み方は少し遅くなる。時には対応型のデッキが強くなりすぎるために、オーダーメイドの対策カードが作られたり(《火山の流弾》《大貂皮鹿》《強情なベイロス》)、禁止カードが制定されたりする(後者は最近の潮流で、「コーブレイド」より前の制約設定型のデッキは殆ど禁止カードなんて出されることはなかった)。
そうすると、制約設定型のデッキはどうなってしまうのだろうか? 新しい環境の最初の週だけはめちゃめちゃ強くて、環境の理解が進むにつれて弱くなるんだろうか? そんなことはない(もちろん、非相互作用型のデッキは新環境のメタゲームではしばしば滅法強い。単純に強いデッキが組めるし、プレイヤーたちは対処方法をまだよく知らないからだ)。メタゲーム前線より相互作用寄りに進んでいくと、対応型のデッキは対応型同士の制約をより意識し始める。実は、そのようなメタゲームの状況はまさに制約設定型のデッキが一瞬だけふたたび活力を取り戻し、大活躍できるタイミングだ。最近では CFB が世界選手権に持ち込んだ「《鍛えられた鋼》」デッキがわかりやすい例だ。
こんなようなわけで、見たことのあるパターンが何度も繰り返される。相互作用的なデッキが長い間環境を支配し、非相互作用的なデッキが「当たりの週」にその支配をぶっ壊す。また、環境が大きく変わった時にも非相互作用的なデッキは旬を迎える。相互作用的なデッキは試行錯誤しながら新しい環境の制約を探る段階に戻ってしまうからだ。僕はこのパターンは基本的にはあらゆる“健全な”メタゲームに当てはまるのだと思っている。もし非相互作用的なデッキが環境を支配したら、禁止カードが発表されるまでそう長くはないだろう(ウィザーズ社の研究開発部の振る舞いはそのようにプログラムされている)。もし特定の相互作用的デッキがあまりにも強すぎて、非相互作用デッキがそれを打ち破れず、「当たりの週」すら作ることができなくなったとしたら、それは不健全なメタゲームというべきで、たとえばコー・ブレイドの支配はそれにあたる。
健全な環境は複雑なメタゲームへ向かっていく傾向にある。最初はどんな環境も単純な制約があるだけだが、そのうち相互作用的なデッキがいろいろなカードを試したりメタったりしていって、それが環境の複雑度を増していく。推測だけど、同じ環境が充分に長く続けば僕たちは(多変量の)円環状のパターンが生じたり、複雑性が有界であることを見ることができるだろう。現実には一定の頻度で新しいカードが刷られるため、“本当は”なにが起きるのかという問いには答えはない(でも、とてもわくわくする問いだと思う)。
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(*3) 制約
併記した通り、原文では constraint。そもそも馴染みのない単語だけど、辞書的な意味は「制約」「拘束」などで、全く頭を抱えてしまった。読み進んでいってもらえれば判るとおり、ここでの constraint は昔の理論でいう「基本ターン (fundamental turn)」やいわゆるキルターンに関連する概念で、デッキというのはその制約を設定する側とそれをすり抜ける側とに大別できる、という考え方が展開されている。結局しっくり来る訳を思いつけずに直訳で「制約」としてしまったが、なにかいい代わりを思いつく人がいらしたら教えてください。この単語こそがこの文章の肝なので、なんとか上手い言葉をあてたいのだが。
余談だけど、この単語を見て《集団監禁/Collective Restraint》を思い出したのだけど、辞書で constraint を引いたらほんとに「関連する語」という項目に restraint が出てて面白かった。意味も似たようなもんだった。
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規模別メタゲームの導入:
最後に僕が導入しようと思う概念は「規模別メタゲーム」で、僕たちプレイヤーが環境に対してとれる行動をスケール別に分けたものだ。これは制約モデルが現実世界にどのようにはまるのかを理解するためのより大きな枠組みだ。単純に言えば、「メタゲーム」のプレイヤーたる僕たちには、いくつかのレベルの“行動”がとれる。カードを変えるか、デッキを変えるか、それともいつプレイするかを変えるか、という具合に。そしてそれぞれの“行動”は、それぞれ違うスケールの思考に対応している。
カードの相互作用:小さなスケール(ここでは個々のカード選択とその選択がゲーム内で引き起こす相互作用のことを論じる)
このレベルの考え方は僕たちにとって身近なもので、毎週毎週僕たちはよく当たるだろう仮想敵に対してデッキを調整するという形でこれを実行している。たとえば《幻影の像》がたくさん使われているだろうから「《出産の殻》」デッキから《スラーン》を抜くとしたら、それが小さなスケールでのメタゲームだ。「デルバー」デッキでの《はらわた撃ち》を増減させることも同じことだ。この類の短期的な調整のおかげで、相互作用的なデッキは特定の環境で繰り返し勝ち続けることができる。そしてその同じ調整が、非相互作用的なデッキのつけいる隙を作り出す。(*4)
僕がこのカテゴリの思考で大事だと思っているのは、マッチアップというのが固定されたものだとは考えずに、流動的で変化し続けるものだと考えるべきだということだ。相互作用的なデッキは、周りに応じて構成を変え続けることで非相互作用的なデッキと戦う力を得ている。イメージとしては、地面に穴ぼこがたくさん空いていて、そのひとつひとつが違った種類のデッキで、それを埋めなきゃいけないけど全部の穴を埋めるだけの土を持ち合わせていない、という状況だ。もし新しい穴を塞ごうと思ったら、すでに埋めた穴から土を出してきてその新しい穴に放り込まなきゃならないってわけだ。「最強のデッキ」とは、つまり土をたくさん持ってて、多くの穴に多くの土を放り込めるデッキを想像するだろう。でも実際には「あるトーナメントにおける最良のデッキ」は、もっと土は少ないけれど埋めるべき穴をピンポイントにしっかり埋めている、というようなデッキだ。これについて考え始めたということは、つまり僕たちの考えは一歩進んでいて、すなわちそれはスケールがひとつ上がることを意味する。
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(*4) そしてその同じ調整が、非相互作用的なデッキのつけいる隙を作り出す。
難しい。原文は It is also this same tweaking that creates the inefficiencies for non-interactive decks to exploit. だから「その同じ調整が inefficiencies を作り出す」ってとこまでは間違いようがないんだけど、for non-interactive decks to exploit とはどういうことか。exploit は他動詞しかないので、たぶんその目的語が inefficiencies になる。だとすると普通なら inefficiencies that non-interactive decks ... になるべきところで that 〜 that がいやだったから for にしたみたいなことか?
という感じで作った訳文なので翻訳というより単なるおれ解釈。
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予言されるメタゲーム:中規模のスケール(これがつまり僕たちが普段“メタゲーム”という言葉から想像する概念——特定のトーナメントにおいて、対戦相手がどのデッキを使ってくるか、という予測だ)
これは僕たちが、特定のデッキに対する相性がミクロスケール、すなわち対策カードを入れる程度ではどうにもできないから使うデッキを変えよう、というレベルのスケールの思考だ。このレベルの思考には人脈がかかわってきたりする。あるトーナメントに出るのにどんなデッキがよさそうか、あるいはまずそうか、友だちと相談するのは単純に役に立つ。ソーシャル・ネットワークの活用や MO の結果チェック、ネットでデッキリストを探すこと、どれもデッキ選択を助けてくれる。しかし誰もが自分と同じレベルで考えるだろうと思いこんでしまうのは落とし穴だ。プロツアー予選やグランプリでは、多くのプレイヤーは直近の大きなトーナメントで優勝したデッキや、それほどお金をかけずに組めるデッキを深く考えずに使っていたりする。だからあまり深読みしすぎない方がいい。このスケールのメタゲームに関しては素晴らしい記事や情報がたくさんあるから、参考にしてみるといい。
繰り返されるメタゲーム:巨大なスケール(前述の「制約」モデルが動かすレベルで、どのようなデッキがどのタイミングで強くなるかを教えてくれる)
このレベルで考えることによって、僕たちは限られたリソース(プレイテストの時間や、カードを調達する能力)をもっとも効率よく成功確率の高いデッキタイプにつぎ込むことができる。たとえば、全く新しい環境(スタンダードのブロックが入れ替わるタイミングとか)でのプレイテストをするためには、制約モデルでいうところの非相互作用的なデッキを出発点にするべきだ。これは下のふたつのレベルの情報を切り捨てていいということではない。僕たちの最終的な目標はこの3つのレベルからそれぞれ得られる情報を統合してデッキ選択に役立てることで、個々のレベルを「マスター」することじゃない。制約モデルがある程度予言可能なのはウィザーズ・オヴ・ザ・コースト社の研究開発部の意図通りだってことを忘れないように——彼らはいまのところ相互作用的なデッキが好きで、非相互作用的なデッキの支配があまり続くようだと禁止カードを設定できる、みたいなことをね。でも、現時点での“体制”がおそらく近い将来に変わることはないだろう。だからあまり心配する必要はないと思う。
これを読んだら:
この記事がわずかでも読者の思考を整理する助けになって欲しいと思う。ここに書いてきたことはある程度以上のプレイヤーなら当たり前に意識していることだろうけど、でもこうやってあらためて書き出してみることによって、より理解は深まるし、考え方を修正しやすくもなる。メタゲームってものがどう振る舞うかについての憶測を修正できれば、正しいデッキ選択に一歩近づいたことになる。特にめまぐるしく動くスタンダードのメタゲームでは大いに役に立つと思う。このような考え方を作り上げてきたことは僕のプレイヤーとしての強みのひとつだと思っているし、これまでに考察や経験から学んできたことを分かちあうことに興奮している。
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なにかもう少し面白くなりそうな予感に満ちているけど、この記事自体はそこまで新しいことは言ってない、って理解でいいのかな。
いつもの通り、誤訳の指摘は歓迎します。「自分ならこう訳す」みたいなのでもいいです。コメント欄にお願いします。自分はプレイヤーとしては平均以下なので、このような記事だと誤読や誤解も普段より多いかも知れません。
翻訳:ボルトとナット——カード・コード/マーク・ローズウォーター
2012年4月14日 翻訳 コメント (9)ひさびさの翻訳。いつ以来か調べようと思ったけど翻訳記事に独立したカテゴリをつけていないのでいちいち遡らなければならなかった。正直このブログで読む価値があるのは翻訳ぐらいなのでこの際カテゴリをつけることにしたのだが、例によって適切なのがなかったので「おしゃれ」にしておいた。実は自分でカテゴリを作る機能があるのではないかとうすうす思い始めたところなのだけど、どうしても見つけることができないのだ。(追記:コメント欄で教えていただいたのでカテゴリ新設しました。「翻訳」にしています。ふつうに。)
さておき翻訳は 12-04 のズヴィに訊け!以来らしい。ほぼ4ヶ月ぶりということになろうか。もう 10 年近くマジック界隈の英文を和訳してるのに、マーク・ローズウォーターの文章を訳すのは今回が初めてだ。事前に勝手に想像していたよりは平易な英語だったが、使う語彙にちょっと癖があるように思う。
原文:Nuts & Bolts: Card Codes (*0)
http://www.wizards.com/Magic/magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/mm/21
2009-01-12 Mark Rosewater
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(*0) タイトル
このシリーズはこの後も続いていて、つい先日も新作が書かれて公式に翻訳が載っていた。だからこそこれを訳すことにしたのだが、公式ではシリーズのタイトルである ’Nuts & Bolts’ が「基本根本」と訳されている。ここで「ボルトとナット」としたのにはもちろん理由があるのだが、書き出したらクソ長くなってしまったので後日気が向いたら別のエントリで書くことにする。
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テレビに映される犯罪の 95% は凶悪犯罪で、軽微な犯罪は 5% しかない。これは現実に起きている割合のほぼ真逆だ(*1)。どうしてこんなことになるのか? 殺人は信号無視よりもずっと面白い物語になるからだ。
こうした逆転の結果、人々は世界の認識を少し歪められてしまう。テレビが教えてくれるところによると、世界ってのは危険なところらしい——見ろよ、あんなにやばい犯罪が毎日起き続けてるんだぜ。
こんな話題から始めたのは、この「メイキング・マジック」がまさにそれと同じ罪を犯しているのではないかと思えてきたからだ。私は「メイキング裏話」を語る際に、ほとんどの紙幅をカードデザインやカラーパイの話に費やしてきた。もちろんそれらはカード作成の工程でもっとも本質的な部分なのだが、一方で全体からすれば小さな部分でもある。多くの時間は細部を詰めるために、いわばボルトとナットのために費やされるのだ。一軒の家を建てるのには、設計士よりも大工の方がはるかに多くの時間を費やす。壁を塗ったり釘を打ったりする時間の方が、設計士との打ち合わせよりもずっと長い時間である筈だ。カードデザインにおいても同じことが言える。
……ということに気づいたので、私は新しいシリーズを始めることにした。その名も「ボルトとナット」だ。このシリーズでは、我々の製作過程においては重要であるがいささかめんどくさい細部にみなさんをご案内しよう。些細と思われがちな部分の重要さを多少たりともつかんでもらえれば幸いだ。研究開発部の新人が学ばなきゃならないことの中で一番きついことは、カード製作全体の工程が正しく働くために欠かせない無数の細かい作業を全部理解しなければならないことなのだ。このシリーズでは私は皆さんがなんの予備知識も持っていないと仮定して話を進めたいと思う。正直なところ、皆さんはこのコラムで語られる内容がどんなものか見当もついていないだろうし、そういう人がこのコラムのどこに興味を持つのかわからないからだ。
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(*1)テレビに映される犯罪の 95% は凶悪犯罪で、軽微な犯罪は 5% しかない。これは現実に起きている割合のほぼ真逆だ。
この話は re-giant さんが訳したコラムでも使われていて、読んだ時にはちょうどこちらを訳し始めていたからちょっと面白かった。
【翻訳】2人でサイクリング週間の旅に出よう/A Cycling Built For Two【Daily MTG】
http://regiant.diarynote.jp/201203102223182661/
ところで、リンク先ではこの割合がそれぞれ「90%」と「10%」になっていて、それは違う意味で面白かった。それを読んだ瞬間おれの中で感心度合いがちょっと下がったからだ。つまり「マローの奴いい加減なこと言ってやがんな」って反射的に思ったわけです。自分の理解ではこの具体的な数字自体にはあまり意味が無くて、極端な割合でありさえすれば 80% でも 92% でも 97% でも話の説得力には差がないと理屈では考えるのに、にもかかわらず別々のコラムで違う数字を出されると信用できない話だと感覚的には思ってしまう。こういう事例に出会うと説得力って理屈じゃねえんだなーってあらためて思う。まあそれは当たり前のことなんだけど。
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符号の解読
今回のお題は「カード・コード」だ。まさに上に書いたとおり、一見平凡だが大変重要なものだ。カード・コードってなんなのかって? このコラムで私は何度となくプレイテスト用のカードをお見せしてきた。こんなやつだ:
(Wall of Kelp のイラスト)
そこの、アルファベットと数字の羅列は何だろう?
(ルーペで拡大すると、「ME2-UU02」と書かれている。)
そう、これだ。私はまさにこれからこの数字について話そうとしている。これがカード・コードだ。とにかくものすごく基本的なことから説明していこう。
カード・コードってなんだ?
カード・コードはいくつかの文字といくつかの数字からなり(基本的には英字2文字に数字2桁が続く)、研究開発部や社内の他の部署で特定のカードを識別するための符号として使われている。
何故そんなものが必要なのか?
ひとたび世に出たカードの場合、プレイヤーはある特定のカードを指すのには普通カード名を用いる。「緑色のインスタントでコストが (1緑) で“アーティファクトひとつかエンチャントひとつを対象とする。それを破壊する”って書かれてるカード」って言うかわりに《帰化》という名前で呼ぶわけだ。この方法が問題なく機能するのは、印刷されたカードは変化することがないからだ。《帰化》というカードは常に同じものを意味する(ああ、エラッタの問題は常につきまとうんだけど、今回はパスだ)。
ところが、デザインやデベロップメントのあいだは、カードはもう少し曖昧なものだ。名前なんてしょっちゅう変わっている。多くのカードはデザイン中に何度も名前が変わるし、その後クリエイティヴ・チームがアーティストにうまくイメージを伝えるためにまた名前を変えるなんてことも珍しくない。それから実際のカード名がつけられるが、それさえも正式決定する前に一度ないし二度変わることがあり得る。それもいくつかの原因が重なって。
名前なんてものは開発中には忘れてもかまわないぐらいだ。デザインとデベロップメントの世界ではカード全体が作り替えられることは珍しくないし、時には最初に作り始めたときとはまるっきり別物になってしまうこともある。研究開発部はカードを単体で考えることはない。かわりに私たちはスロットという概念を用いる。例えば、小型エクスパンションではコモンが 60 枚ある。単色のカードしか入ってなくて、コモンには土地もアーティファクトも入ってないとしよう。すると各色には 12 スロットずつあることになる(60 を 5 で割ってみよう)。研究開発部流の言い方で言えば、コモンの白は 12 のスロットを持っている、となる。
ここで気をつけてほしいのが、カード・コードは特定のカードにつけられた符号ではなくて、特定のスロットにつけられた符号だということだ。それぞれのカードは没になったり新しく作られたりするが、CW01 は常に白のコモンの1番目のカードを指す(昇順で一番初めに来るということだ少なくともコレクター番号順に並べた時には(*2))。
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(*2)昇順で一番初めに来るということだ
まったく自信なし。というか多分合ってない。コラム全体の中ではさしたる意味を持たない部分ではないかと思うが、それはそれとして全然わからない。一文まるごと引用しておく。
:Cards can come and go but CW01 will always be the first card (collector numberwise at least).
追記:コメント欄で教えていただいたので修正。
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それで、文字と数字にはどういう意味がある?
解析していこう。さっき CW01 なんてコードを口にしたから、その CW01 で見ていこうか。
CW01
このコードは3つの情報を表す部分から作られている。
C-W-01
——1文字目、2文字目、そして2桁の数字だ。それぞれについて、どんな数字や文字が入るのか、ゆっくり見ていこう。
1文字目
最初の文字はカードのレアリティだ。レアリティというのは重要だ。印刷工程の都合で、異なるレアリティのカードは異なる場所に置かれることが多いからだ(ここでは工程にはこれ以上触れない。このコラムは研究開発部がどのようにカード情報を管理しているかを知らしめるものだ)。だからカード・コードの第一の機能はそのカードのレアリティを誰にでもわかるようにすることにあてられている。ところで、マジックにはレアリティは何種類あるだろうか。ちょっと真面目に考えてみてほしい。答えを心に決めたら、次の段落へ進んでみてくれ。
3だと思った? アラーラの断片から導入された神話レアのことをお忘れかな。
4だと思った? 大型エクスパンションには実際のところ5つのレアリティがあるってことをお忘れかな。5つ目はなにかって? 基本土地だ。コモンよりもありふれたレアリティとして設定されている。
5だと思った? 古今を問わずマジックには特殊なレアリティが設定されてきたのをお忘れかな。例えば時のらせんに登場した“タイムシフト”枠のような。
6だと思った? ブースターパックにはカードの枠とイラストが印刷されてるけどトーナメントリーガルじゃないカードが入っているのをお忘れかな。そう、トークン・カードだ。トークンはそれだけで独立したレアリティになっている。(実のところ、トークンにはトークン内での様々なレアリティがあるのだが、カード・コードではひとつのレアリティとして扱っている。)
そう、現在マジックのカード・コードのレアリティを表す文字は7種類となっている。
C——コモン
U——アンコモン
R——レア
M——神話レア
L——土地(これは「基本土地」だけを意味する。他のあらゆる土地は上の4つのレアリティのどれかに含まれる)
T——トークン
S——スペシャル(これには時のらせんの“タイムシフト”シートや、アンヒンジドの“《Super Secret Tech》(*3)”なんかが含まれる。ついでに書いておくと、時のらせんのデザイン中はこのシートはボーナス・シートの頭文字で「B」と呼ばれていた——特に先例もなかったので、私が勝手に選んだ文字がそのまま使われていたのだ——が、セットが完成して正式に工場に送り出される前に、正式にレアリティ記号も変更された。)
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(*3)《Super Secret Tech》
アンヒンジド 141 枚目のカード、らしい。プレミアム・カードしか存在しない、シークレットカード。
Magic Rarities によると
「このカードの出現率はアンヒンジドの他のフォイルレアに比べると 10 倍以上と推定されている」ということらしいが、このコラムでの記述からすると通常のフォイルレアのシートとは別に《Super Secret Tech》だけのシートが存在したのだろう。アンヒンジドのレアは 40 種類なので、「10 倍以上」というのが比較的 10 倍に近い数字という意味なのであれば、通常のフォイルレアのシートと《Super Secret Tech》のシートとの印刷数の比が概ね 4:1 前後だったと推定できる。この推定まじで無意味。
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2文字目
では2文字目はなにを表しているのだろうか。色だって? 残念、間違いだ。2文字目はカードの地の色を示している。実は、これはカード・コードのそもそもの機能でもある。つまり、工場の人たちにそのカードの地の色を何色で刷るべきなのか伝えているわけだ。
アルファの頃に比べると、地の色ははるかに複雑になっている。2色のマルチカラーのカードは専用の塗り分けがされるようになったし、1色もしくは2色のマナを出せる土地はどの色が出るかぱっとわかるようなカラーリングになっているし、ラヴニカではギルドの紋章が透かし模様で入ったりもした。いまや工場の人はカード・コードの2文字目を見てもそれだけで地の色を知ることはできないが、とにかく最低限のヒントを得ることはできる。
2文字目に入り得る文字のリストはこんな感じ:
W——白
U——青
B——黒
R——赤
G——緑
Z——多色
X——分割カード(ここでの分割カードは単色でないものを指す。たとえば次元の混乱で登場した両方とも赤の分割カードには単にRを使った。)
A——アーティファクト(ここでは伝統的な無色のアーティファクトをいう。色付きのアーティファクトは(《ギルド渡りの急使》と《刈り取りの王》を除いて)それぞれの色のコードを用いる。)
先へ進む前に、青についてちょっと書いておこう。私たちヴェテランはUが青を意味することを知ったときの違和感をすっかり忘れきってしまっているが、実はここは初心者が必ずひっかかるポイントだ。で、なんで青はUなんだろう? カード・コードが正しく機能するためには、同じ場所に来る文字がふたつ以上の意味で使われていてはいけない。(逆に、違う場所に来るのであれば同じ文字を使っても構わない——だからUは青でありアンコモンであるし、Rはレアであり赤でもある。)青 blue と黒 black はどちらもBで始まる。つまりどちらかには別の字をあてなくちゃいけない。
どちらの色も2文字目が「L」であることまで同じだ。上にも書いた通りLは土地を意味する。もちろんできれば1文字目を使えるに越したことはないので、土地はやはりLであるべきだ。黒 black の3文字目は「A」だ。Aはアーティファクトの予約席だ。つまり、青には「U」と「E」が空いていて、黒には「C」と「K」が空いている。(実はウィザーズ内でこれが明文化される前は、黒を「K」で表すプレイヤーも居た。)最終的にUで行くことにしたのはどうしてかって? 単純に、Uは青 blue の3文字目で、黒 black のCやKより前の文字だからだ。
最後にもうひとつだけ書いておくと、上に挙げた地の色の順番はカード・ファイルに並ぶ順番と同じだ。単色(白青黒赤緑 WUBRG の順——研究開発部で口にされるときは「ウーバーグ」と発音される)、マルチカラー、分割カード、アーティファクト、土地、の順になる。
2桁の数字
数字に関するルールはごく短い:
#1——数字は必ず2桁で表す。このルールがある理由は単純だ。こうしておけば、何か情報が抜け落ちたのではないということがわかる。もし CW1 と書かれていたら、それが白の1番目のコモンなのか、それとも 10 番台のコモンを指そうとしているのに2桁目が消えてしまったのか区別できない。常に2桁で表記することで、情報が脱落していないことを確かめることができるわけだ。このルールから導かれる系として、「最初の9枚のカードは必ず 0x、つまり 01〜09 の形で表される」というものがある。
#2——ナンバリングは必ず 01 から始める。この数字が表すもっとも重要な情報は、特定の「レアリティ+色」の組み合わせにいくつのスロットがあるかということだ。あるレアリティ+色の中で最大の番号が、とりもなおさずそのレアリティ+色に何種類のカードがあるかを示すことになる。この情報は実に便利で、デザインとデベロップのあいだはしょっちゅう参照されることになる。
#3——工場で番号を刷るまでは、順番は問題ではない。コモンの白に 12 枚カードがあるということに変わりがなければ、どの番号がどのカードに割り振られていようとも構わない。構わないのだけど、実は研究開発部は独自にいくつかのルールを定めている:
A——クリーチャーはクリーチャー以外のカードより前に来る。デザインとデベロップメントの過程では、ある色のあるレアリティに何枚クリーチャーが含まれているのかを定期的にチェックしていなければならない。その作業を簡単にするために、クリーチャーは常にひとまとめにして若い番号のところに並べられる。
B——サイクルのカードには同じ番号を振る。サイクルのカードを参照しやすいように、私たちはサイクルのカードには同じ番号を割り当てることにしている。たとえば、コモンに 1/1 クリーチャーのサイクルを作る(これらはどの色であっても1マナが適正なコストになる)場合、それらに全て「01」という番号を振る。このルールは必ず守らなければならないものではないが、しかし事情が許す限りは従うようにしている。ルールAはしばしばこのルールに立ちはだかり、私たちの頭痛の種になる。クリーチャーとクリーチャー以外のカードの境目は色によってまちまちだからだ。
C——同じスロットを争っているカードには同じ番号をつけてしまう。研究開発部で用いる小技のひとつに、複数のカードに同じカード・コード・スロットを割り当ててしまう、というものがある。これはとりもなおさず「これらのカードは同一のセットには収録することができないので、現在どれが入るかをテスト中だ」ということを意味する。ついでに、こうしておくことでリード・デザイナーは「この2枚のカードは機能がかぶってる」というコメントが山ほどつけられることを未然に防ぐことができる。
D——カードはそれぞれの区分(クリーチャー/クリーチャー以外)の中ではマナコストの低い方から高い方へ順に並べる。これも必ずしも常に守られるルールではないが、このルールでファイルをソートし直すと、チーム全員がこのセット全体のマナ・カーヴがどうなっているかを共有することができる。
E——地の色が同じサイクル(ほとんどがアーティファクトか土地だ)には連続した番号を振る。必ず白青黒赤緑 WUBRG の順にする。連続した番号をつけることができるサイクル、すなわちほとんどがアーティファクトか土地であるサイクルには、連続した番号をつけてまとめて管理する。ついでに書くと、あらゆるものは可能な限り白青黒赤緑 WUBRG の順にする。土地のサイクルや各色に関係のあるアーティファクトのサイクルであってもそれは変わらない。
研究開発部がファイルの編集を完了するときには、カード・コードには常に連続した番号が使われているが、研究開発部の中ではいくつか特別な意味を持つ数字が定められている。これらのコードはデザインとデベロップメントのあいだだけ使うことが許されていて、ファイルが余所者の手に引き渡されるまでにはすべて正しい数字に置き換えられている。それらのコードを紹介しておこう:
99——一番よく使われるコード。そのセットには収録されないことが決定したが、将来また戻ってこないとも限らない、ということを意味する。「カードを 99 する」というのは研究開発部で実際に使われてるスラングで、何かが取り除かれた時に使う。(“《肥満エルフ》はどうなった?”“99 されたよ。”)
88——そのカードはまだ正式にはセット入りしていないが、入るべきスロットを探している状態を指す。99 との違いは、こちらはどちらかと言えば収録する方向で検討されている、ということ。
33,44,55,66,77——デザインの際、私はこれらのコードをそれぞれチーム内のデザイナーひとりひとりに割り振っておく。そして、セットに入れるかどうか検討中のカードにそれらのコードを振る。こうしておくと、誰がデザインしたカードかがわかる。
00——このコードは一般的な注意書きに使われる。一番よく使われるのは CW00 で、これはファイル全体の先頭に来ることになる。あまり多くはないが、特定のセクションの注意書きとして 00 が使われることもある。
10,20,30,40,50——この区分は最近作られたもので、シャドウムーアのデザイン中に発明された。ラヴニカで初めてハイブリッドが登場したときには、単にZを使うだけで事足りた。ファイル全体でもハイブリッドは高々 12 枚しかなかったからだ。しかしシャドウムーアのデザインを始めてみると、困ったことになることに気がついた。セットの半分がハイブリッドだということは、セットの半分のカードがZのコードを持つことになってしまう。そんな有様で、デザインやデベロップメントの時にどうやって {白/青} を {青/黒} や {黒/赤} {赤/緑} {緑/白} と区別して扱えばいいだろう? これまで述べてきた通り、デザインやデベロップメントの作業にあたっては、各色や各レアリティの枚数や内訳がぱっとわかることはとても重要だ。解決方法は以下の通りだった。{白/青} には全部 10 番台のカード・コードをつける。同じように、{青/黒} には 20 番台、{黒/赤} には 30 番台、{赤/緑} は 40 番台、{緑/白} には 50 番台をそれぞれ割り当てた。こうすることで、研究開発部の誰がシャドウムーアのファイルを開いても、すぐにお目当ての色のハイブリッドにたどりつくことができる。このシステムは、イーブンタイドで対抗色のハイブリッドが登場したときも使われた。
コード・レッド(*4)(あとホワイトとブルーとブラックとグリーン)
カード・コードについてはこれで語り尽くした。
私の今日の目標は、一見ささやかで取るに足らないものが、実際にはデザインとデベロップメントの道具としてどれほど重要で役に立っているかということを示すことだった。デザインという仕事全体の流れや、そこで使われている言葉は、すべてカード・コードという道具を中心に形作られている。
最後にこれを訊いて今日のコラムの締めとさせてもらいたい:今日のコラムは面白かっただろうか? ゲームという仕掛けの裏で動いているデザインという仕事を形作っている小さな部品についての話を聞く、というのは楽しかったかな? それとも、コラムのねたには向いてない退屈な話だと思っただろうか? 私は信号無視のことは忘れて殺人の話に戻った方がいいのかな? 本気で私は答えを聞きたい。今回のような話に需要があるのかどうか私にはさっぱりわからないからだ。それでもこれを書いたのは、その答えを知るためには実際に記事を1本書いてその反応を聞いてみるのが一番だと思ったからだ。というわけで、みなさん、お答えを! 「ボルトとナット」はシリーズ化すべきか、否か?
来週はコンフラックスのプレヴューが始まるので、皆さんには新セットの味見をしていただくことができるだろう。待ちきれないあなたには、コンフラックスのオーブ・オブ・インサイトが既に稼働中だということだけお伝えしておこう。
ではまた来週。皆様が小さな物事にも大きな意味があることを学ばれませんことを。
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(*4)コード・レッド
Code Red。一昔前のコンピュータウイルス、らしい。
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この記事を書くのに先立って翻訳記事のカテゴリを全部変更して、さて本文を更新するかと思ったらちょうど中断せざるを得なくなって、それから一週間まったく更新の機会がなかった。カテゴリ変更に気づいた人がもし居たらさぞ奇妙に思ったことだろう。
追記:なにか忘れてると思ったらいつものあれだった。誤訳の指摘や「自分ならこう訳す」といった意見は歓迎します。コメント欄へお願いします。
さておき翻訳は 12-04 のズヴィに訊け!以来らしい。ほぼ4ヶ月ぶりということになろうか。もう 10 年近くマジック界隈の英文を和訳してるのに、マーク・ローズウォーターの文章を訳すのは今回が初めてだ。事前に勝手に想像していたよりは平易な英語だったが、使う語彙にちょっと癖があるように思う。
原文:Nuts & Bolts: Card Codes (*0)
http://www.wizards.com/Magic/magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/mm/21
2009-01-12 Mark Rosewater
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(*0) タイトル
このシリーズはこの後も続いていて、つい先日も新作が書かれて公式に翻訳が載っていた。だからこそこれを訳すことにしたのだが、公式ではシリーズのタイトルである ’Nuts & Bolts’ が「基本根本」と訳されている。ここで「ボルトとナット」としたのにはもちろん理由があるのだが、書き出したらクソ長くなってしまったので後日気が向いたら別のエントリで書くことにする。
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テレビに映される犯罪の 95% は凶悪犯罪で、軽微な犯罪は 5% しかない。これは現実に起きている割合のほぼ真逆だ(*1)。どうしてこんなことになるのか? 殺人は信号無視よりもずっと面白い物語になるからだ。
こうした逆転の結果、人々は世界の認識を少し歪められてしまう。テレビが教えてくれるところによると、世界ってのは危険なところらしい——見ろよ、あんなにやばい犯罪が毎日起き続けてるんだぜ。
こんな話題から始めたのは、この「メイキング・マジック」がまさにそれと同じ罪を犯しているのではないかと思えてきたからだ。私は「メイキング裏話」を語る際に、ほとんどの紙幅をカードデザインやカラーパイの話に費やしてきた。もちろんそれらはカード作成の工程でもっとも本質的な部分なのだが、一方で全体からすれば小さな部分でもある。多くの時間は細部を詰めるために、いわばボルトとナットのために費やされるのだ。一軒の家を建てるのには、設計士よりも大工の方がはるかに多くの時間を費やす。壁を塗ったり釘を打ったりする時間の方が、設計士との打ち合わせよりもずっと長い時間である筈だ。カードデザインにおいても同じことが言える。
……ということに気づいたので、私は新しいシリーズを始めることにした。その名も「ボルトとナット」だ。このシリーズでは、我々の製作過程においては重要であるがいささかめんどくさい細部にみなさんをご案内しよう。些細と思われがちな部分の重要さを多少たりともつかんでもらえれば幸いだ。研究開発部の新人が学ばなきゃならないことの中で一番きついことは、カード製作全体の工程が正しく働くために欠かせない無数の細かい作業を全部理解しなければならないことなのだ。このシリーズでは私は皆さんがなんの予備知識も持っていないと仮定して話を進めたいと思う。正直なところ、皆さんはこのコラムで語られる内容がどんなものか見当もついていないだろうし、そういう人がこのコラムのどこに興味を持つのかわからないからだ。
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(*1)テレビに映される犯罪の 95% は凶悪犯罪で、軽微な犯罪は 5% しかない。これは現実に起きている割合のほぼ真逆だ。
この話は re-giant さんが訳したコラムでも使われていて、読んだ時にはちょうどこちらを訳し始めていたからちょっと面白かった。
【翻訳】2人でサイクリング週間の旅に出よう/A Cycling Built For Two【Daily MTG】
http://regiant.diarynote.jp/201203102223182661/
ところで、リンク先ではこの割合がそれぞれ「90%」と「10%」になっていて、それは違う意味で面白かった。それを読んだ瞬間おれの中で感心度合いがちょっと下がったからだ。つまり「マローの奴いい加減なこと言ってやがんな」って反射的に思ったわけです。自分の理解ではこの具体的な数字自体にはあまり意味が無くて、極端な割合でありさえすれば 80% でも 92% でも 97% でも話の説得力には差がないと理屈では考えるのに、にもかかわらず別々のコラムで違う数字を出されると信用できない話だと感覚的には思ってしまう。こういう事例に出会うと説得力って理屈じゃねえんだなーってあらためて思う。まあそれは当たり前のことなんだけど。
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符号の解読
今回のお題は「カード・コード」だ。まさに上に書いたとおり、一見平凡だが大変重要なものだ。カード・コードってなんなのかって? このコラムで私は何度となくプレイテスト用のカードをお見せしてきた。こんなやつだ:
(Wall of Kelp のイラスト)
そこの、アルファベットと数字の羅列は何だろう?
(ルーペで拡大すると、「ME2-UU02」と書かれている。)
そう、これだ。私はまさにこれからこの数字について話そうとしている。これがカード・コードだ。とにかくものすごく基本的なことから説明していこう。
カード・コードってなんだ?
カード・コードはいくつかの文字といくつかの数字からなり(基本的には英字2文字に数字2桁が続く)、研究開発部や社内の他の部署で特定のカードを識別するための符号として使われている。
何故そんなものが必要なのか?
ひとたび世に出たカードの場合、プレイヤーはある特定のカードを指すのには普通カード名を用いる。「緑色のインスタントでコストが (1緑) で“アーティファクトひとつかエンチャントひとつを対象とする。それを破壊する”って書かれてるカード」って言うかわりに《帰化》という名前で呼ぶわけだ。この方法が問題なく機能するのは、印刷されたカードは変化することがないからだ。《帰化》というカードは常に同じものを意味する(ああ、エラッタの問題は常につきまとうんだけど、今回はパスだ)。
ところが、デザインやデベロップメントのあいだは、カードはもう少し曖昧なものだ。名前なんてしょっちゅう変わっている。多くのカードはデザイン中に何度も名前が変わるし、その後クリエイティヴ・チームがアーティストにうまくイメージを伝えるためにまた名前を変えるなんてことも珍しくない。それから実際のカード名がつけられるが、それさえも正式決定する前に一度ないし二度変わることがあり得る。それもいくつかの原因が重なって。
名前なんてものは開発中には忘れてもかまわないぐらいだ。デザインとデベロップメントの世界ではカード全体が作り替えられることは珍しくないし、時には最初に作り始めたときとはまるっきり別物になってしまうこともある。研究開発部はカードを単体で考えることはない。かわりに私たちはスロットという概念を用いる。例えば、小型エクスパンションではコモンが 60 枚ある。単色のカードしか入ってなくて、コモンには土地もアーティファクトも入ってないとしよう。すると各色には 12 スロットずつあることになる(60 を 5 で割ってみよう)。研究開発部流の言い方で言えば、コモンの白は 12 のスロットを持っている、となる。
ここで気をつけてほしいのが、カード・コードは特定のカードにつけられた符号ではなくて、特定のスロットにつけられた符号だということだ。それぞれのカードは没になったり新しく作られたりするが、CW01 は常に白のコモンの1番目のカードを指す(
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(*2)昇順で一番初めに来るということだ
まったく自信なし。というか多分合ってない。コラム全体の中ではさしたる意味を持たない部分ではないかと思うが、それはそれとして全然わからない。一文まるごと引用しておく。
:Cards can come and go but CW01 will always be the first card (collector numberwise at least).
追記:コメント欄で教えていただいたので修正。
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それで、文字と数字にはどういう意味がある?
解析していこう。さっき CW01 なんてコードを口にしたから、その CW01 で見ていこうか。
CW01
このコードは3つの情報を表す部分から作られている。
C-W-01
——1文字目、2文字目、そして2桁の数字だ。それぞれについて、どんな数字や文字が入るのか、ゆっくり見ていこう。
1文字目
最初の文字はカードのレアリティだ。レアリティというのは重要だ。印刷工程の都合で、異なるレアリティのカードは異なる場所に置かれることが多いからだ(ここでは工程にはこれ以上触れない。このコラムは研究開発部がどのようにカード情報を管理しているかを知らしめるものだ)。だからカード・コードの第一の機能はそのカードのレアリティを誰にでもわかるようにすることにあてられている。ところで、マジックにはレアリティは何種類あるだろうか。ちょっと真面目に考えてみてほしい。答えを心に決めたら、次の段落へ進んでみてくれ。
3だと思った? アラーラの断片から導入された神話レアのことをお忘れかな。
4だと思った? 大型エクスパンションには実際のところ5つのレアリティがあるってことをお忘れかな。5つ目はなにかって? 基本土地だ。コモンよりもありふれたレアリティとして設定されている。
5だと思った? 古今を問わずマジックには特殊なレアリティが設定されてきたのをお忘れかな。例えば時のらせんに登場した“タイムシフト”枠のような。
6だと思った? ブースターパックにはカードの枠とイラストが印刷されてるけどトーナメントリーガルじゃないカードが入っているのをお忘れかな。そう、トークン・カードだ。トークンはそれだけで独立したレアリティになっている。(実のところ、トークンにはトークン内での様々なレアリティがあるのだが、カード・コードではひとつのレアリティとして扱っている。)
そう、現在マジックのカード・コードのレアリティを表す文字は7種類となっている。
C——コモン
U——アンコモン
R——レア
M——神話レア
L——土地(これは「基本土地」だけを意味する。他のあらゆる土地は上の4つのレアリティのどれかに含まれる)
T——トークン
S——スペシャル(これには時のらせんの“タイムシフト”シートや、アンヒンジドの“《Super Secret Tech》(*3)”なんかが含まれる。ついでに書いておくと、時のらせんのデザイン中はこのシートはボーナス・シートの頭文字で「B」と呼ばれていた——特に先例もなかったので、私が勝手に選んだ文字がそのまま使われていたのだ——が、セットが完成して正式に工場に送り出される前に、正式にレアリティ記号も変更された。)
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(*3)《Super Secret Tech》
アンヒンジド 141 枚目のカード、らしい。プレミアム・カードしか存在しない、シークレットカード。
Super Secret Tech (3)
アーティファクト
すべてのプレミアムの呪文をプレイするためのコストは (1) 少なくなる。
すべてのプレミアムのクリーチャーは +1/+1 の修整を受ける。
Magic Rarities によると
Its rarity is supposedly ten times more common than that of other Unhinged foil rare cards.
「このカードの出現率はアンヒンジドの他のフォイルレアに比べると 10 倍以上と推定されている」ということらしいが、このコラムでの記述からすると通常のフォイルレアのシートとは別に《Super Secret Tech》だけのシートが存在したのだろう。アンヒンジドのレアは 40 種類なので、「10 倍以上」というのが比較的 10 倍に近い数字という意味なのであれば、通常のフォイルレアのシートと《Super Secret Tech》のシートとの印刷数の比が概ね 4:1 前後だったと推定できる。この推定まじで無意味。
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2文字目
では2文字目はなにを表しているのだろうか。色だって? 残念、間違いだ。2文字目はカードの地の色を示している。実は、これはカード・コードのそもそもの機能でもある。つまり、工場の人たちにそのカードの地の色を何色で刷るべきなのか伝えているわけだ。
アルファの頃に比べると、地の色ははるかに複雑になっている。2色のマルチカラーのカードは専用の塗り分けがされるようになったし、1色もしくは2色のマナを出せる土地はどの色が出るかぱっとわかるようなカラーリングになっているし、ラヴニカではギルドの紋章が透かし模様で入ったりもした。いまや工場の人はカード・コードの2文字目を見てもそれだけで地の色を知ることはできないが、とにかく最低限のヒントを得ることはできる。
2文字目に入り得る文字のリストはこんな感じ:
W——白
U——青
B——黒
R——赤
G——緑
Z——多色
X——分割カード(ここでの分割カードは単色でないものを指す。たとえば次元の混乱で登場した両方とも赤の分割カードには単にRを使った。)
A——アーティファクト(ここでは伝統的な無色のアーティファクトをいう。色付きのアーティファクトは(《ギルド渡りの急使》と《刈り取りの王》を除いて)それぞれの色のコードを用いる。)
先へ進む前に、青についてちょっと書いておこう。私たちヴェテランはUが青を意味することを知ったときの違和感をすっかり忘れきってしまっているが、実はここは初心者が必ずひっかかるポイントだ。で、なんで青はUなんだろう? カード・コードが正しく機能するためには、同じ場所に来る文字がふたつ以上の意味で使われていてはいけない。(逆に、違う場所に来るのであれば同じ文字を使っても構わない——だからUは青でありアンコモンであるし、Rはレアであり赤でもある。)青 blue と黒 black はどちらもBで始まる。つまりどちらかには別の字をあてなくちゃいけない。
どちらの色も2文字目が「L」であることまで同じだ。上にも書いた通りLは土地を意味する。もちろんできれば1文字目を使えるに越したことはないので、土地はやはりLであるべきだ。黒 black の3文字目は「A」だ。Aはアーティファクトの予約席だ。つまり、青には「U」と「E」が空いていて、黒には「C」と「K」が空いている。(実はウィザーズ内でこれが明文化される前は、黒を「K」で表すプレイヤーも居た。)最終的にUで行くことにしたのはどうしてかって? 単純に、Uは青 blue の3文字目で、黒 black のCやKより前の文字だからだ。
最後にもうひとつだけ書いておくと、上に挙げた地の色の順番はカード・ファイルに並ぶ順番と同じだ。単色(白青黒赤緑 WUBRG の順——研究開発部で口にされるときは「ウーバーグ」と発音される)、マルチカラー、分割カード、アーティファクト、土地、の順になる。
2桁の数字
数字に関するルールはごく短い:
#1——数字は必ず2桁で表す。このルールがある理由は単純だ。こうしておけば、何か情報が抜け落ちたのではないということがわかる。もし CW1 と書かれていたら、それが白の1番目のコモンなのか、それとも 10 番台のコモンを指そうとしているのに2桁目が消えてしまったのか区別できない。常に2桁で表記することで、情報が脱落していないことを確かめることができるわけだ。このルールから導かれる系として、「最初の9枚のカードは必ず 0x、つまり 01〜09 の形で表される」というものがある。
#2——ナンバリングは必ず 01 から始める。この数字が表すもっとも重要な情報は、特定の「レアリティ+色」の組み合わせにいくつのスロットがあるかということだ。あるレアリティ+色の中で最大の番号が、とりもなおさずそのレアリティ+色に何種類のカードがあるかを示すことになる。この情報は実に便利で、デザインとデベロップのあいだはしょっちゅう参照されることになる。
#3——工場で番号を刷るまでは、順番は問題ではない。コモンの白に 12 枚カードがあるということに変わりがなければ、どの番号がどのカードに割り振られていようとも構わない。構わないのだけど、実は研究開発部は独自にいくつかのルールを定めている:
A——クリーチャーはクリーチャー以外のカードより前に来る。デザインとデベロップメントの過程では、ある色のあるレアリティに何枚クリーチャーが含まれているのかを定期的にチェックしていなければならない。その作業を簡単にするために、クリーチャーは常にひとまとめにして若い番号のところに並べられる。
B——サイクルのカードには同じ番号を振る。サイクルのカードを参照しやすいように、私たちはサイクルのカードには同じ番号を割り当てることにしている。たとえば、コモンに 1/1 クリーチャーのサイクルを作る(これらはどの色であっても1マナが適正なコストになる)場合、それらに全て「01」という番号を振る。このルールは必ず守らなければならないものではないが、しかし事情が許す限りは従うようにしている。ルールAはしばしばこのルールに立ちはだかり、私たちの頭痛の種になる。クリーチャーとクリーチャー以外のカードの境目は色によってまちまちだからだ。
C——同じスロットを争っているカードには同じ番号をつけてしまう。研究開発部で用いる小技のひとつに、複数のカードに同じカード・コード・スロットを割り当ててしまう、というものがある。これはとりもなおさず「これらのカードは同一のセットには収録することができないので、現在どれが入るかをテスト中だ」ということを意味する。ついでに、こうしておくことでリード・デザイナーは「この2枚のカードは機能がかぶってる」というコメントが山ほどつけられることを未然に防ぐことができる。
D——カードはそれぞれの区分(クリーチャー/クリーチャー以外)の中ではマナコストの低い方から高い方へ順に並べる。これも必ずしも常に守られるルールではないが、このルールでファイルをソートし直すと、チーム全員がこのセット全体のマナ・カーヴがどうなっているかを共有することができる。
E——地の色が同じサイクル(ほとんどがアーティファクトか土地だ)には連続した番号を振る。必ず白青黒赤緑 WUBRG の順にする。連続した番号をつけることができるサイクル、すなわちほとんどがアーティファクトか土地であるサイクルには、連続した番号をつけてまとめて管理する。ついでに書くと、あらゆるものは可能な限り白青黒赤緑 WUBRG の順にする。土地のサイクルや各色に関係のあるアーティファクトのサイクルであってもそれは変わらない。
研究開発部がファイルの編集を完了するときには、カード・コードには常に連続した番号が使われているが、研究開発部の中ではいくつか特別な意味を持つ数字が定められている。これらのコードはデザインとデベロップメントのあいだだけ使うことが許されていて、ファイルが余所者の手に引き渡されるまでにはすべて正しい数字に置き換えられている。それらのコードを紹介しておこう:
99——一番よく使われるコード。そのセットには収録されないことが決定したが、将来また戻ってこないとも限らない、ということを意味する。「カードを 99 する」というのは研究開発部で実際に使われてるスラングで、何かが取り除かれた時に使う。(“《肥満エルフ》はどうなった?”“99 されたよ。”)
88——そのカードはまだ正式にはセット入りしていないが、入るべきスロットを探している状態を指す。99 との違いは、こちらはどちらかと言えば収録する方向で検討されている、ということ。
33,44,55,66,77——デザインの際、私はこれらのコードをそれぞれチーム内のデザイナーひとりひとりに割り振っておく。そして、セットに入れるかどうか検討中のカードにそれらのコードを振る。こうしておくと、誰がデザインしたカードかがわかる。
00——このコードは一般的な注意書きに使われる。一番よく使われるのは CW00 で、これはファイル全体の先頭に来ることになる。あまり多くはないが、特定のセクションの注意書きとして 00 が使われることもある。
10,20,30,40,50——この区分は最近作られたもので、シャドウムーアのデザイン中に発明された。ラヴニカで初めてハイブリッドが登場したときには、単にZを使うだけで事足りた。ファイル全体でもハイブリッドは高々 12 枚しかなかったからだ。しかしシャドウムーアのデザインを始めてみると、困ったことになることに気がついた。セットの半分がハイブリッドだということは、セットの半分のカードがZのコードを持つことになってしまう。そんな有様で、デザインやデベロップメントの時にどうやって {白/青} を {青/黒} や {黒/赤} {赤/緑} {緑/白} と区別して扱えばいいだろう? これまで述べてきた通り、デザインやデベロップメントの作業にあたっては、各色や各レアリティの枚数や内訳がぱっとわかることはとても重要だ。解決方法は以下の通りだった。{白/青} には全部 10 番台のカード・コードをつける。同じように、{青/黒} には 20 番台、{黒/赤} には 30 番台、{赤/緑} は 40 番台、{緑/白} には 50 番台をそれぞれ割り当てた。こうすることで、研究開発部の誰がシャドウムーアのファイルを開いても、すぐにお目当ての色のハイブリッドにたどりつくことができる。このシステムは、イーブンタイドで対抗色のハイブリッドが登場したときも使われた。
コード・レッド(*4)(あとホワイトとブルーとブラックとグリーン)
カード・コードについてはこれで語り尽くした。
私の今日の目標は、一見ささやかで取るに足らないものが、実際にはデザインとデベロップメントの道具としてどれほど重要で役に立っているかということを示すことだった。デザインという仕事全体の流れや、そこで使われている言葉は、すべてカード・コードという道具を中心に形作られている。
最後にこれを訊いて今日のコラムの締めとさせてもらいたい:今日のコラムは面白かっただろうか? ゲームという仕掛けの裏で動いているデザインという仕事を形作っている小さな部品についての話を聞く、というのは楽しかったかな? それとも、コラムのねたには向いてない退屈な話だと思っただろうか? 私は信号無視のことは忘れて殺人の話に戻った方がいいのかな? 本気で私は答えを聞きたい。今回のような話に需要があるのかどうか私にはさっぱりわからないからだ。それでもこれを書いたのは、その答えを知るためには実際に記事を1本書いてその反応を聞いてみるのが一番だと思ったからだ。というわけで、みなさん、お答えを! 「ボルトとナット」はシリーズ化すべきか、否か?
来週はコンフラックスのプレヴューが始まるので、皆さんには新セットの味見をしていただくことができるだろう。待ちきれないあなたには、コンフラックスのオーブ・オブ・インサイトが既に稼働中だということだけお伝えしておこう。
ではまた来週。皆様が小さな物事にも大きな意味があることを学ばれませんことを。
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(*4)コード・レッド
Code Red。一昔前のコンピュータウイルス、らしい。
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この記事を書くのに先立って翻訳記事のカテゴリを全部変更して、さて本文を更新するかと思ったらちょうど中断せざるを得なくなって、それから一週間まったく更新の機会がなかった。カテゴリ変更に気づいた人がもし居たらさぞ奇妙に思ったことだろう。
追記:なにか忘れてると思ったらいつものあれだった。誤訳の指摘や「自分ならこう訳す」といった意見は歓迎します。コメント欄へお願いします。
翻訳:ズヴィに訊け!パート1(その1)
2011年12月4日 翻訳 コメント (2)あいつ最近翻訳やってないな、と思われてもまあ特に困ることもないのだけど、一応やってるんだよということで小出しに公開する。というか小出しにするのが目的でこの記事を訳しているというなんだか本末転倒な状態。でも、とにかく仕事帰りの地下鉄では絶対和訳をやる、と決めていて、それは続いているので個人的には悪くない英語との付き合い具合だと思っている。某地下鉄でポメラ開いたまま寝てる奴が居たらたぶんおれです。
これはスターシティゲームズでズヴィ・モーショヴィッツが書いた記事。日付は 2005-07-12 となっているので、ウィザーズ入りして間もない頃だと思う。なんでこのタイミングでこんな企画をやっていたのかはわからない。
原文:Ask Zvi, Part I
http://www.starcitygames.com/magic/misc/10033_Ask_Zvi_Part_I.html
質問をくれたすべての皆さんにまずは感謝したい――だけど、質問に答える前に少しだけ書いておきたいことがある。こんなことを書くのは初めてだしたぶんこれ一度きりになるだろうけど、4つの免責事項(*1)だ(マイケル・フェルドマンにはお詫びする)。
1.このコラムに登場するすべての質問は厳しいチェックを受けてるけど、実のところ回答はそうじゃない。曖昧だったり、誤解を招いたり、言葉足らずだったりする質問が来ることは普通にある。真実だけを知りたいという読者は自分でコラムを書くといい。空きはいくらでもあるって聞いてるから。
2.知ってるだろうけど、素晴らしい職場を見つけた時ってのは、最高裁判所が開廷したってことなんだ(*2)。
3.ウィザーズ・オヴ・ザ・コースト社の従業員だってことは運のいいことで、特にウィザーズでは多くの社員が仕事の一部としてこれを読んでいる。つまり彼らは自分たちでは実際には質問することなく時間を使っちゃってるってわけだ。質問は複数でもかまわない。そのかわり、一度自分の質問が終わったら、手を自分の尻の下に入れておとなしく座っていて欲しい。他の誰かにチャンスを与えてやってくれ。
4.このコラムの中で表明される意見はウィザーズ・オブ・ザ・コースト社やスター・シティ・ゲームズや、そこの社員や従僕のものじゃない。そうだと言い張る人が居たら喧嘩を売ってると見なす。
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(*1)4つの免責事項
アメリカの長寿ラジオ番組「Whad’ya Know?」のクイズパートで使われている免責事項。会場の参加者に渡されるとともに、番組自体でも毎回読み上げられて放送されているらしい。マイケル・フェルドマンはその番組の司会者。以下の1~4はそれのパロディになっている。不自然だったり意味不明だったりするところがあるのは、おれの訳が悪いから。
(*2)知ってるだろうけど、素晴らしい職場を見つけた時ってのは、最高裁判所が開廷したってことなんだ
Wouldn’t you know, just when you find a great place to work there’s finally a Supreme Court opening.
何を言っているのかわからない。opening の意味すらわからないという低鱈苦。「空きがある」なのか?
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質問:研究開発部はどの程度までカードレベルを押し上げるべきだと考えてますか? 《煙突のインプ》や《彼方蒔》は許容できるレベルでしょうか?
回答:カードってのはデッキに入るようにデザインされたところまで押し上げられるべきだね。(*3)
ここで止めたらたぶん表に警官とか来ちゃうからもう少し続けよう。まず、あらゆるカードを構築で(どころかドラフトですら)通用するレベルにすることなんてできない。そんなことをしたらカードパワーのインフレが起きてしまう。どちらかを選ばなくちゃいけないんだ。個別のカードについてパワーを引き上げることは簡単だよ。だけど影響は予想がつかないし危険でもある。《彼方蒔》や《煙突のインプ》にはなにも間違ったところはない。ただちょっとマナコストが高すぎるだけで……でも僕は一度、飛行クリーチャーがほしくてたまらなかったとき、《煙突のインプ》をデッキに入れることを考えたことがある。その時は強い装備品を持ってたんだ。
僕の考えでは、大部分のカードは最低でも特定の状況ではその効果があったらいいなあと望まれる程度の力はあるべきで、そうであればおそらくそのカードはリミテッドでは出番があるだろう。僕が「これはどうだろう?」って考えるほどそのカードはよくなる。でも、許容できないほどコストの高すぎる数枚のカードはゲームにある種の個性を与えるし、カードってのはどうすれば強くなるのかを考える機会をプレイヤーに提供している。
1枚の《彼方蒔》はいい。あんなのが10枚もあるとまずい。全体としては、僕は少しだけ強く押し上げてたけど、あまり劇的にはやらないようにしてた。
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(*3)カードってのはデッキに入るようにデザインされたところまで押し上げられるべきだね。
:Cards should be pushed to the extent that they are designed to be playable.
訳も日本語になってないしお手上げ。原文は上の通り。そもそも push のニュアンスがわからない。この Q&A で同じ使い方が何度も何度も出てくるんだけどそれでもわからないんだよな。参りました。ついでに質問のほうも載せておく。
:How far should R&D push to make cards playable?
やっぱりわからない。厳しい。
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質問:リミテッドという観点からカードをデザインするとき、どこまで強いと「強すぎ」だと思いますか? 下手なプレイヤーでも試合に勝たせてしまうようないわゆる“出せば勝ち”カードは作られるべきでしょうか?(たとえば《梅澤の十手》《曇り鏡のメロク》《山伏の長、熊野》あたりのカードを意図しています)
回答:強くないプレイヤーにも、リピーターになってもらわなくちゃいけない。その強くないプレイヤーたちこそが次の年には強いプレイヤーになる。平均ぐらいのプレイヤーたちに、強いプレイヤーを負かすチャンスを与えなくちゃいけない――時には、トーナメントを勝つチャンスさえも。もし誰ひとり勝てないんだとしたら誰もカジノになんて行かないだろう? いつか誰かは必ず勝つことになってるわけだ。ポーカーだって、強い手が決してクラックされることがないとしたら、そんなのまったく楽しくない。
《梅澤の十手》ぐらい極端な例になると、それだけで格上のプレイヤーを負かすことができるほどに強い。こういうカードはレアじゃなきゃいけないし、その中でも少数にとどめなければならない。僕が思うに、《山伏の長、熊野》はリミテッドのぶっ壊れレアとして適正な強さだ。《梅澤の十手》はそれをはるかに超えてしまっている……でも、これを刷らなければよかったとまでは考えていない。それを決めるのは構築での評価のほうだしね!
以前から《ファイレクシアの処理装置》みたいな“俺の勝ち”レアは存在したけど、構築でのインパクトや、カジュアル・プレイヤーの楽しみを犠牲にしてまでリミテッドでのぶっ壊れレアを排除すべきだとは思わない。あと指摘しておきたいのは、あなたが挙げた3枚のカードはどれも構築で出番があったということだ。もしそうでなかったとしたら、そういうカードは悪でしかない。
これはスターシティゲームズでズヴィ・モーショヴィッツが書いた記事。日付は 2005-07-12 となっているので、ウィザーズ入りして間もない頃だと思う。なんでこのタイミングでこんな企画をやっていたのかはわからない。
原文:Ask Zvi, Part I
http://www.starcitygames.com/magic/misc/10033_Ask_Zvi_Part_I.html
質問をくれたすべての皆さんにまずは感謝したい――だけど、質問に答える前に少しだけ書いておきたいことがある。こんなことを書くのは初めてだしたぶんこれ一度きりになるだろうけど、4つの免責事項(*1)だ(マイケル・フェルドマンにはお詫びする)。
1.このコラムに登場するすべての質問は厳しいチェックを受けてるけど、実のところ回答はそうじゃない。曖昧だったり、誤解を招いたり、言葉足らずだったりする質問が来ることは普通にある。真実だけを知りたいという読者は自分でコラムを書くといい。空きはいくらでもあるって聞いてるから。
2.知ってるだろうけど、素晴らしい職場を見つけた時ってのは、最高裁判所が開廷したってことなんだ(*2)。
3.ウィザーズ・オヴ・ザ・コースト社の従業員だってことは運のいいことで、特にウィザーズでは多くの社員が仕事の一部としてこれを読んでいる。つまり彼らは自分たちでは実際には質問することなく時間を使っちゃってるってわけだ。質問は複数でもかまわない。そのかわり、一度自分の質問が終わったら、手を自分の尻の下に入れておとなしく座っていて欲しい。他の誰かにチャンスを与えてやってくれ。
4.このコラムの中で表明される意見はウィザーズ・オブ・ザ・コースト社やスター・シティ・ゲームズや、そこの社員や従僕のものじゃない。そうだと言い張る人が居たら喧嘩を売ってると見なす。
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(*1)4つの免責事項
アメリカの長寿ラジオ番組「Whad’ya Know?」のクイズパートで使われている免責事項。会場の参加者に渡されるとともに、番組自体でも毎回読み上げられて放送されているらしい。マイケル・フェルドマンはその番組の司会者。以下の1~4はそれのパロディになっている。不自然だったり意味不明だったりするところがあるのは、おれの訳が悪いから。
(*2)知ってるだろうけど、素晴らしい職場を見つけた時ってのは、最高裁判所が開廷したってことなんだ
Wouldn’t you know, just when you find a great place to work there’s finally a Supreme Court opening.
何を言っているのかわからない。opening の意味すらわからないという低鱈苦。「空きがある」なのか?
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質問:研究開発部はどの程度までカードレベルを押し上げるべきだと考えてますか? 《煙突のインプ》や《彼方蒔》は許容できるレベルでしょうか?
回答:カードってのはデッキに入るようにデザインされたところまで押し上げられるべきだね。(*3)
ここで止めたらたぶん表に警官とか来ちゃうからもう少し続けよう。まず、あらゆるカードを構築で(どころかドラフトですら)通用するレベルにすることなんてできない。そんなことをしたらカードパワーのインフレが起きてしまう。どちらかを選ばなくちゃいけないんだ。個別のカードについてパワーを引き上げることは簡単だよ。だけど影響は予想がつかないし危険でもある。《彼方蒔》や《煙突のインプ》にはなにも間違ったところはない。ただちょっとマナコストが高すぎるだけで……でも僕は一度、飛行クリーチャーがほしくてたまらなかったとき、《煙突のインプ》をデッキに入れることを考えたことがある。その時は強い装備品を持ってたんだ。
僕の考えでは、大部分のカードは最低でも特定の状況ではその効果があったらいいなあと望まれる程度の力はあるべきで、そうであればおそらくそのカードはリミテッドでは出番があるだろう。僕が「これはどうだろう?」って考えるほどそのカードはよくなる。でも、許容できないほどコストの高すぎる数枚のカードはゲームにある種の個性を与えるし、カードってのはどうすれば強くなるのかを考える機会をプレイヤーに提供している。
1枚の《彼方蒔》はいい。あんなのが10枚もあるとまずい。全体としては、僕は少しだけ強く押し上げてたけど、あまり劇的にはやらないようにしてた。
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(*3)カードってのはデッキに入るようにデザインされたところまで押し上げられるべきだね。
:Cards should be pushed to the extent that they are designed to be playable.
訳も日本語になってないしお手上げ。原文は上の通り。そもそも push のニュアンスがわからない。この Q&A で同じ使い方が何度も何度も出てくるんだけどそれでもわからないんだよな。参りました。ついでに質問のほうも載せておく。
:How far should R&D push to make cards playable?
やっぱりわからない。厳しい。
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質問:リミテッドという観点からカードをデザインするとき、どこまで強いと「強すぎ」だと思いますか? 下手なプレイヤーでも試合に勝たせてしまうようないわゆる“出せば勝ち”カードは作られるべきでしょうか?(たとえば《梅澤の十手》《曇り鏡のメロク》《山伏の長、熊野》あたりのカードを意図しています)
回答:強くないプレイヤーにも、リピーターになってもらわなくちゃいけない。その強くないプレイヤーたちこそが次の年には強いプレイヤーになる。平均ぐらいのプレイヤーたちに、強いプレイヤーを負かすチャンスを与えなくちゃいけない――時には、トーナメントを勝つチャンスさえも。もし誰ひとり勝てないんだとしたら誰もカジノになんて行かないだろう? いつか誰かは必ず勝つことになってるわけだ。ポーカーだって、強い手が決してクラックされることがないとしたら、そんなのまったく楽しくない。
《梅澤の十手》ぐらい極端な例になると、それだけで格上のプレイヤーを負かすことができるほどに強い。こういうカードはレアじゃなきゃいけないし、その中でも少数にとどめなければならない。僕が思うに、《山伏の長、熊野》はリミテッドのぶっ壊れレアとして適正な強さだ。《梅澤の十手》はそれをはるかに超えてしまっている……でも、これを刷らなければよかったとまでは考えていない。それを決めるのは構築での評価のほうだしね!
以前から《ファイレクシアの処理装置》みたいな“俺の勝ち”レアは存在したけど、構築でのインパクトや、カジュアル・プレイヤーの楽しみを犠牲にしてまでリミテッドでのぶっ壊れレアを排除すべきだとは思わない。あと指摘しておきたいのは、あなたが挙げた3枚のカードはどれも構築で出番があったということだ。もしそうでなかったとしたら、そういうカードは悪でしかない。
翻訳:俺が使った最強デッキ(後編)/ブライアン・キブラー
2011年10月28日 翻訳 コメント (4)引き続き後編です。
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原文:The Dragonmaster’s Lair - The Best Decks I’ve Ever Played (2011-04-08)
http://www.starcitygames.com/magic/misc/22234_The_Dragonmasters_Lair_The_Best_Decks_Ive_Ever_Played.html
デッキ名:スーパー・グロウ
トーナメント:グランプリ・ヒューストン2002
デッキリスト:
メインデッキ:
3 《冬の宝珠/Winter Orb》
4 《マーフォークの物あさり/Merfolk Looter》
3 《秘教の処罰者/Mystic Enforcer》
4 《クウィリーオンのドライアド/Quirion Dryad》
4 《熊人間/Werebear》
4 《渦まく知識/Brainstorm》
3 《目くらまし/Daze》
2 《撃退/Foil》
4 《Force of Will》
4 《噴出/Gush》
3 《剣を鍬に/Swords to Plowshares》
4 《土地譲渡/Land Grant》
4 《手練/Sleight of Hand》
1 《島/Island》
4 《氾濫原/Flood Plain》
1 《Savannah》
4 《Tropical Island》
4 《Tundra》
サイドボード:
1 《冬の宝珠/Winter Orb》
4 《翻弄する魔道士/Meddling Mage》
4 《レガシーの魅惑/Legacy’s Allure》
3 《水没/Submerge》
1 《剣を鍬に/Swords to Plowshares》
2 《増進+衰退/Wax+Wane》
ストーリー:
昔エクステンディッドってのは今でいうレガシーみたいなフォーマットだった。デュアルランドが全部使えて、《Force of Will》が使えて、その他すげえパワフルなカードとコンボが山盛り。そのコンボの中のひとつに「イリュージョン・ドネイト」ってのがあった。「ネクロ・ドネイト」デッキに組み込まれて世界中に知られたコンボなんだが、少しずつ禁止カード(ひとつひとつは充分には思えなかったが)によって力を殺がれていった。いくつもの構成パーツが禁止されて、「ドネイト」は殆ど死んだデッキだと思われてた。(*12)
だがプロツアー・ニューオーリンズで「ドネイト」は復活の勝利を飾った。誰あろう、カイ・ブッディその人の手で。俺も実はあのプロツアーでは青単タッチ赤の「ドネイト」を使ってたんだけど、カイのデッキの方が強かったのは確かだった。特に直接対戦したときは分が悪かった。実際トップ8を賭けた試合で俺はカイに負けてるんだ。
いや、ドネイトの話じゃなかった――と言いたいところだが必ずしもそうとも言えない。当時の環境は間違いなくドネイトが中心だったし、続くエクステンディッドシーズンでもそれは引き継がれた。つまり、コンボデッキとアンチコンボデッキの対決って構図だ。
アンチコンボのひとつに「ミラクル・グロウ」ってデッキがあった。後に殿堂入りしたアラン・カマー(*13)がデザインした、土地が 10 枚しか入ってない青緑のデッキで、速いクロックを打ち消し呪文でバックアップする戦略でコンボデッキに対抗していた。アランが何年も前に作った青単「ターボ・ゼロックス」デッキの言ってみれば現代版で、キャントリップを死ぬほどデッキに詰め込むことで、土地の枚数を切り詰めると同時にゲームの後半には1ターンに多くのスペルを唱えられる、という理論に基づいて組まれたデッキだった。このデッキ構築は現代レガシーでの構築理論の一里塚になっているんだが、それは後の話で、当時はこれほど土地の少ないデッキなんて初めて見たし、とにかくヘンテコなデッキだとしか思えなかったもんだった。
アランの「ミラクル・グロウ」デッキは大成功し、「ドネイト」に対する解答を探していたプレイヤーたちの間で大流行した。ついには「ドネイト」を数でしのぐまでになり、いやもしかすると超えてなかったかも知れないが、とにかく当時の環境で“倒すべきデッキ”になった。そうなると「スライ」デッキが勢力を伸ばし始める。クリーチャーが小粒な上に《ジャッカルの仔》や《ボール・ライトニング》を除去れる呪文が少ない「ミラクル・グロウ」に、「スライ」は滅法強いからだ。
グランプリ・ヒューストンが近づいたある日、ベン・ルビンがこの世で一番いかれてるデッキを持ってるんだとか言い出した。ベンは本気で言ってたらしく、俺にアプレンティス用の dec ファイルを送ってよこしたんだが、そのファイル名は "sickestever.dec" だった。ミラクル・グロウから《野生の雑種犬》《ガイアの空の民》《波止場の用心棒》といった小粒なクリーチャーを抜いて、代わりに白を足して《剣を鍬に》《翻弄する魔道士》《秘教の処罰者》を足していた。見るからに面白そうなデッキだった。
俺は「ミラクル・グロウ」は全体的にカードパワーが低すぎるから嫌いだったんだが、このデッキはミラクル・グロウの弱い部分を全部切り捨ててあった。俺たちはそのリストにさらに多少の修正を加え、《翻弄する魔道士》をサイドボードに落として、代わりに《マーフォークの物あさり》を入れた。手札の向上とスレッショルドの達成のためだ。
デッキは美の結晶だった。《剣を鍬に》は「ミラクル・グロウ」に対して素晴らしい脅威になってくれた。こっちは向こうのクリーチャーを除去できるのに、向こうはこっちの場に出てしまったクリーチャーには基本的にはさわれないのだ。また、赤単に対しても序盤の時間稼ぎとして役に立った。《翻弄する魔道士》はあらゆるコンボデッキを棺桶詰めにしたあげく蓋の釘まで打ち込んでくれたし、《秘教の処罰者》は全ての役割をこなしてくれると言ってよかった。ミラクル・グロウとの半同系対決では巨大で場を支配できる脅威になったし、赤単相手の時は火力1枚では対処できないクリーチャーとして相手に《火炎破》を打たせることができた。《火炎破》に対してならこっちは喜んで《Force of Will》を打てるってもんだ。「オース」デッキに対してすら、《冬の宝珠》でマナを縛ることができている時には《処罰者》は場を支配することができた。限られたマナでは《変異種》は彼に対処できるサイズになれないからだ。
グランプリ本戦では、このデッキを使ったプレイヤーはひとりを除いて全員二日目に進めた。ベンと俺は両方トップ8に残れた。お互いトーナメント表の違う山に入れたので、こりゃもしかして俺たちが決勝であいまみえる大団円を迎えちゃうのか、なんて思ってたんだが、ベンは準決勝でジョシュ・スミスに負けた。青緑黒のアンチ「グロウ」デッキで、《火薬樽》《破滅的な行為》《悪魔の布告》《水没》なんかが入ってて、さらにこっちの土地を切り詰めたマナベースにつけこむために《不毛の大地》まで入ってた。俺は残念ながら決勝でベンの仇をとることができず、 "sickestever.dec" もまた、家にトロフィーを持ち帰ることはできなかった。
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(*12)「ドネイト」は殆ど死んだデッキだと思われてた
2001-04-01 の禁止カード制定で《ネクロポーテンス》と《Demonic Consultation》が禁止になって、ドネイトは速度とパワーを大きく失った。
ドネイト(トリックス)の歴史については↓を参照。
http://www5.atpages.jp/rom/?mode=read&key=1281711019&log=0
(*13)アラン・カマー
本文にもある通り殿堂プレイヤー。やはり本文中に登場する「ターボ・ゼロックス」「ミラクル・グロウ」の作者としてつとに有名。ウィザーズ・オヴ・ザ・コースト社にも在籍した時期があり、初期のマジック・オンラインの開発に携わった。デッキビルダーの印象が強いが、本人がプレイヤーとして残した実績はリミテッドの方がずっと上だった。
Sideboard Online で「Deck Clinic」というデッキ診断・改造のコラムを連載していたこともある。おれが初めて和訳したのはその連載の記事だった。割と訳しやすい英語だったと記憶している。
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デッキ名:エスパー・ストーンブレイド
イベント名:プロツアー・ホノルル2009
デッキリスト:
メインデッキ:
2 《宮廷のホムンクルス/Court Homunculus》
4 《エスパーの嵐刃/Esper Stormblade》
2 《エスパーゾア/Esperzoa》
4 《エーテル宣誓会の法学者/Ethersworn Canonist》
3 《エーテル宣誓会の盾魔道士/Ethersworn Shieldmage》
4 《霞の悪鬼/Glaze Fiend》
4 《エーテリウムの達人/Master of Etherium》
4 《潮の虚ろの漕ぎ手/Tidehollow Sculler》
4 《ヴィダルケンの異国者/Vedalken Outlander》
4 《原霧の境界石/Fieldmist Borderpost》
4 《霧脈の境界石/Mistvein Borderpost》
4 《飛行機械の鋳造所/Thopter Foundry》
3 《島/Island》
6 《平地/Plains》
4 《沼/Swamp》
4 《秘儀の聖域/Arcane Sanctum》
サイドボード:
3 《聖域のガーゴイル/Sanctum Gargoyle》
3 《ゾンビの異国者/Zombie Outlander》
3 《対抗突風/Countersquall》
4 《流刑への道/Path to Exile》
2 《魂の操作/Soul Manipulation》
ストーリー:
プロツアー・ホノルルは俺にとって数年ぶりのプロレベルのイベントだった。カレッジを卒業してから、1年間マジックとポーカーのプロとして過ごしてみたが、突き詰めていくと俺はその生活には満足できなかった。VS システム(*14)のプロサーキットで初代のチャンピオンになった後、アッパー・デック社にスカウトされてサンディエゴでゲーム関係の仕事に就くことになった。俺は人生を変える機会を探してて、ちょうどそれが来たから飛びついた。マジックはしばらく後部座席に追いやられることになったってわけだ。
さて、プロツアー・ハリウッドまで時間を早送りしよう。俺はもうアッパー・デックは辞めてて、パトリック・サリヴァンとベン・セックと一緒にロサンゼルスまでドライヴがてら旧友たちに会いに行こう(それとも、テーマを探しに行こう(*15))って決めたところだ。車ん中でパットの奴が自分の使ってる赤単デッキについてしゃべりだした。《巻物の大魔術師》《月の大魔術師》《変わり谷》なんかが入ってるデッキで、どのカードも俺が昔使ってたカードのリメイク版だった。俺は戦いたくてうずうずしてきて、会場に着くなりパットのデッキに入ってるカードを全部買うか借りるかして揃えた。俺は最終予選で4勝2敗だった。1敗は本戦で優勝したジンディのデッキに似た緑黒のデッキで、もう1敗はパット本人とのミラーマッチだった。俺はその週末に会場で2回のプロツアー予選が開催されることを聞きつけて、そのフォーマットの環境がどんな感じなのか知るために飛び回って、早速それに見合ったデッキを組み始めた。俺はまたこのゲームに完璧にハマってた。
ブロック構築のプロツアー予選に「ドラン」で何回か出て、トップ8に4回入ったけど一度も勝てなかった。プロツアー・京都予選の期間中は友人の結婚式やら休暇やらで町を離れてて、結局一度も挑戦すらしなかったんだが、次のプロツアーがハワイだって知った時にはなんとしても行かなきゃならないと思った。多分1ダースぐらいの予選に出て、とうとうラスベガスでの予選で権利が取れた。そのためだけに、俺独りで車を転がしてって参加した予選だった。
俺は――サンディエゴの近所に住むようになってたもんで――ベン・ルビンと調整を始めて、すぐに「ジャンド」が明らかに最強のデッキだとわかった。《芽吹くトリナクス》《血編み髪のエルフ》《瀝青波》《荒廃稲妻》といったカードたちは環境の中でもずば抜けて強力なカードたちだった。差は歴然としていた。
不幸にも、世界中がそれを知っていた。ブロック構築はプロツアーの一週間前に行われたマジック・オンライン・チャンピオンシップで用いられていたフォーマットで、上位に入ったデッキには全部《血編み髪のエルフ》が入っていた。ここで言う「全部」ってのは殆どとか概ねとか言う意味じゃなくて、文字通りひとつ残らずってことだった。「ジャンド」のミラーマッチで確実に役に立つカードを見つけるのは簡単じゃなかった。誰もがそれを探してる状況ではなおさらだ。だが、運のいいことに、解答はハワイで俺を待っていてくれた。
それは俺の一番好きなタイプの解答でもあった。つまり、誰も考えもしないようなカードだ。世界中の誰もが「最強のデッキ」の座を狙ってる時ってのは、往々にして誰も予想してないデッキが最強だったりするもんだ。俺はプロツアー本戦の数日前、それこそハワイに着いてからそのデッキに出会った。ニール・リーヴズがデザインしてイェルガー・ヴィーガーズマが使おうとしてたエスパー・ビートダウンだ。そん時はちょっとしたメンツが揃ってた――俺、イェルガー、ベン・ルビン、ジェイミー・パーク、マーク・ハーバーホルツ、ポール・リーツル、デイヴィッド・ウィリアムズ、ガブリエル・ナシフ、ノア・ボーケン。みんな同じビーチハウスにこもってて、とにかくジャンドだけは使いたくないってことで、他のいろんなデッキをテストしてたんだ。
とはいえエスパーを使うのは躊躇した。とにかくメタられると全く弱いのは認めざるを得なくて、《ヴィティアの背教者》とか《蔓延》で即死しちまう。だけどトーナメント会場でカードを買うためにバイヤーを覗いたらジャンドミラーでしか使わない《霧を歩むもの、ウリル》が 30 ドルとかになってて、俺は確信した。どいつもこいつもジャンドのミラーマッチしか考えてないし、そのためにミラーマッチ用のサイドボードの軍拡競争になってる。そいつらにしてみれば、居るか居ないかわからないデッキのためにサイドボードに割くスペースは殆どないだろう。
計略は成功だった――まあ、少なくとも俺らの何人かにとっては、だ。俺はスイスラウンドで9勝1敗だった。《エーテル宣誓会の法学者》とプロテクション付き熊が、次から次に当たるジャンドを全部なぎ倒してくれたし、《ヴィティアの背教者》をデッキに入れてた奴はひとりだけで、《蔓延》は1枚たりとも使われてなかった。
プロツアーが終わった直後の水曜日、つまり俺が帰りの飛行機に乗ってた日だが、M10 ルールがアナウンスされて、「ダメージをスタックにのっけてから《飛行機械の鋳造所》でサクってトークンを出す」ってプレイングはできなくなった。俺たちはおそらく最強のデッキを持ち込んでたけど、それはまさにあの週のあのイヴェントのためだけのデッキだったんだ。
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(*14)VS システム
Vs. System。アッパー・デック社が発売していた、アメコミを題材としたトレーディングカードゲーム。一時期日本語版もホビージャパン社から出ていた。プロサーキットはマジックでいうプロツアーみたいなものであるようだ。2004 年に発売開始、2009 年に開発終了。キブラーはアッパー・デック社を去った後も基本的にはゲームデザイナーをやってるみたい。
(*15)それとも、テーマを探しに行こう
お手上げオヴザイヤー。ここひと月これを訳せずに悩んでいた。というのはまあ嘘ですけどともあれ原文は
I was no longer working at Upper Deck, and I decided to drive up to LA with Patrick Sullivan and Ben Seck to see some old friends (see a theme?).
こんな感じ。何故 ’see a theme?’ なんていきなり出てくるのか。
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デッキ名:パニシング・ズー
イベント名:プロツアー・オースティン2009
デッキリスト:
メインデッキ:
3 《悪斬の天使/Baneslayer Angel》
4 《聖遺の騎士/Knight of the Reliquary》
3 《貴族の教主/Noble Hierarch》
3 《クァーサルの群れ魔道士/Qasali Pridemage》
4 《タルモゴイフ/Tarmogoyf》
4 《野生のナカティル/Wild Nacatl》
4 《稲妻/Lightning Bolt》
2 《稲妻のらせん/Lightning Helix》
4 《流刑への道/Path to Exile》
4 《罰する火/Punishing Fire》
1 《遍歴の騎士、エルズペス/Elspeth, Knight-Errant》
1 《森/Forest》
1 《山/Mountain》
1 《平地/Plains》
4 《乾燥台地/Arid Mesa》
1 《幽霊街/Ghost Quarter》
4 《燃え柳の木立ち/Grove of the Burnwillows》
2 《湿地の干潟/Marsh Flats》
4 《霧深い雨林/Misty Rainforest》
1 《聖なる鋳造所/Sacred Foundry》
2 《踏み鳴らされる地/Stomping Ground》
1 《寺院の庭/Temple Garden》
2 《樹上の村/Treetop Village》
サイドボード:
4 《翻弄する魔道士/Meddling Mage》
3 《血染めの月/Blood Moon》
3 《古えの遺恨/Ancient Grudge》
1 《戦争の報い、禍汰奇/Kataki, War’s Wage》
3 《幽霊街/Ghost Quarter》
1 《神聖なる泉/Hallowed Fountain》
ストーリー:
これは以前書いてる。
Part 1
http://www.starcitygames.com/magic/extended/18218_The_Dragonmasters_Lair_A_Pro_Tour_Austin_Report_Part_1_Winner.html
Part 2
http://www.starcitygames.com/magic/extended/18246_The_Dragonmasters_Lair_A_Pro_Tour_Austin_Report_Part_2_Winner.html
デッキ名:コー・ブレイド
イベント名:プロツアー・パリ2011
デッキリスト:
メインデッキ:
1 《饗宴と飢餓の剣/Sword of Feast and Famine》
1 《シルヴォクの生命杖/Sylvok Lifestaff》
4 《戦隊の鷹/Squadron Hawk》
4 《石鍛冶の神秘家/Stoneforge Mystic》
1 《剥奪/Deprive》
3 《マナ漏出/Mana Leak》
4 《呪文貫き/Spell Pierce》
1 《冷静な反論/Stoic Rebuttal》
3 《ギデオン・ジュラ/Gideon Jura》
4 《精神を刻む者、ジェイス/Jace, the Mind Sculptor》
4 《審判の日/Day of Judgment》
4 《定業/Preordain》
5 《島/Island》
4 《平地/Plains》
4 《天界の列柱/Celestial Colonnade》
4 《氷河の城砦/Glacial Fortress》
1 《霧深い雨林/Misty Rainforest》
4 《金属海の沿岸/Seachrome Coast》
4 《地盤の際/Tectonic Edge》
サイドボード:
3 《漸増爆弾/Ratchet Bomb》
1 《肉体と精神の剣/Sword of Body and Mind》
2 《悪斬の天使/Baneslayer Angel》
2 《神への捧げ物/Divine Offering》
2 《瞬間凍結/Flashfreeze》
1 《否認/Negate》
4 《失脚/Oust》
ストーリー:
流石に今これについて知りたい人はいないんじゃないかな……
さて、今日はこの辺でおしまいだ。マジックの歴史に沿う形で俺の大好きなデッキを振り返ってきたが、楽しんでもらえたなら幸いだ。ついでに皆さんの役に立てばいいんだが。記事の中では光栄な戦績についていくつか言及することができたが、書き始めたときに考えてたよりもずっと長文になっちまったんで、最初考えてたリストは諦めざるを得なかった。もしかするといつかまた、今回取り上げられなかったデッキについて振り返ってみることもあるかも知れない。
じゃあまた。
bmk
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キブラーのデッキ、レッドゾーン以外殆ど知らなかったので興味深く読みました。思っていた以上にローグ志向が強いみたいですね。どちらかというとチューナータイプに見受けられますが、かなりピーキーなチューンをすると言えるのではないでしょうか。
例によって誤訳の指摘や「自分ならこう訳す」といった意見は歓迎します。特に註で挙げたところはご教示いただけると嬉しいです。コメント欄へお願いします。
相変わらず「うおお訳すぜええ」みたいなテンションではないのですが、一応次に訳すものは決まっているので、また細々と進めていきたいと思っています。
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原文:The Dragonmaster’s Lair - The Best Decks I’ve Ever Played (2011-04-08)
http://www.starcitygames.com/magic/misc/22234_The_Dragonmasters_Lair_The_Best_Decks_Ive_Ever_Played.html
デッキ名:スーパー・グロウ
トーナメント:グランプリ・ヒューストン2002
デッキリスト:
メインデッキ:
3 《冬の宝珠/Winter Orb》
4 《マーフォークの物あさり/Merfolk Looter》
3 《秘教の処罰者/Mystic Enforcer》
4 《クウィリーオンのドライアド/Quirion Dryad》
4 《熊人間/Werebear》
4 《渦まく知識/Brainstorm》
3 《目くらまし/Daze》
2 《撃退/Foil》
4 《Force of Will》
4 《噴出/Gush》
3 《剣を鍬に/Swords to Plowshares》
4 《土地譲渡/Land Grant》
4 《手練/Sleight of Hand》
1 《島/Island》
4 《氾濫原/Flood Plain》
1 《Savannah》
4 《Tropical Island》
4 《Tundra》
サイドボード:
1 《冬の宝珠/Winter Orb》
4 《翻弄する魔道士/Meddling Mage》
4 《レガシーの魅惑/Legacy’s Allure》
3 《水没/Submerge》
1 《剣を鍬に/Swords to Plowshares》
2 《増進+衰退/Wax+Wane》
ストーリー:
昔エクステンディッドってのは今でいうレガシーみたいなフォーマットだった。デュアルランドが全部使えて、《Force of Will》が使えて、その他すげえパワフルなカードとコンボが山盛り。そのコンボの中のひとつに「イリュージョン・ドネイト」ってのがあった。「ネクロ・ドネイト」デッキに組み込まれて世界中に知られたコンボなんだが、少しずつ禁止カード(ひとつひとつは充分には思えなかったが)によって力を殺がれていった。いくつもの構成パーツが禁止されて、「ドネイト」は殆ど死んだデッキだと思われてた。(*12)
だがプロツアー・ニューオーリンズで「ドネイト」は復活の勝利を飾った。誰あろう、カイ・ブッディその人の手で。俺も実はあのプロツアーでは青単タッチ赤の「ドネイト」を使ってたんだけど、カイのデッキの方が強かったのは確かだった。特に直接対戦したときは分が悪かった。実際トップ8を賭けた試合で俺はカイに負けてるんだ。
いや、ドネイトの話じゃなかった――と言いたいところだが必ずしもそうとも言えない。当時の環境は間違いなくドネイトが中心だったし、続くエクステンディッドシーズンでもそれは引き継がれた。つまり、コンボデッキとアンチコンボデッキの対決って構図だ。
アンチコンボのひとつに「ミラクル・グロウ」ってデッキがあった。後に殿堂入りしたアラン・カマー(*13)がデザインした、土地が 10 枚しか入ってない青緑のデッキで、速いクロックを打ち消し呪文でバックアップする戦略でコンボデッキに対抗していた。アランが何年も前に作った青単「ターボ・ゼロックス」デッキの言ってみれば現代版で、キャントリップを死ぬほどデッキに詰め込むことで、土地の枚数を切り詰めると同時にゲームの後半には1ターンに多くのスペルを唱えられる、という理論に基づいて組まれたデッキだった。このデッキ構築は現代レガシーでの構築理論の一里塚になっているんだが、それは後の話で、当時はこれほど土地の少ないデッキなんて初めて見たし、とにかくヘンテコなデッキだとしか思えなかったもんだった。
アランの「ミラクル・グロウ」デッキは大成功し、「ドネイト」に対する解答を探していたプレイヤーたちの間で大流行した。ついには「ドネイト」を数でしのぐまでになり、いやもしかすると超えてなかったかも知れないが、とにかく当時の環境で“倒すべきデッキ”になった。そうなると「スライ」デッキが勢力を伸ばし始める。クリーチャーが小粒な上に《ジャッカルの仔》や《ボール・ライトニング》を除去れる呪文が少ない「ミラクル・グロウ」に、「スライ」は滅法強いからだ。
グランプリ・ヒューストンが近づいたある日、ベン・ルビンがこの世で一番いかれてるデッキを持ってるんだとか言い出した。ベンは本気で言ってたらしく、俺にアプレンティス用の dec ファイルを送ってよこしたんだが、そのファイル名は "sickestever.dec" だった。ミラクル・グロウから《野生の雑種犬》《ガイアの空の民》《波止場の用心棒》といった小粒なクリーチャーを抜いて、代わりに白を足して《剣を鍬に》《翻弄する魔道士》《秘教の処罰者》を足していた。見るからに面白そうなデッキだった。
俺は「ミラクル・グロウ」は全体的にカードパワーが低すぎるから嫌いだったんだが、このデッキはミラクル・グロウの弱い部分を全部切り捨ててあった。俺たちはそのリストにさらに多少の修正を加え、《翻弄する魔道士》をサイドボードに落として、代わりに《マーフォークの物あさり》を入れた。手札の向上とスレッショルドの達成のためだ。
デッキは美の結晶だった。《剣を鍬に》は「ミラクル・グロウ」に対して素晴らしい脅威になってくれた。こっちは向こうのクリーチャーを除去できるのに、向こうはこっちの場に出てしまったクリーチャーには基本的にはさわれないのだ。また、赤単に対しても序盤の時間稼ぎとして役に立った。《翻弄する魔道士》はあらゆるコンボデッキを棺桶詰めにしたあげく蓋の釘まで打ち込んでくれたし、《秘教の処罰者》は全ての役割をこなしてくれると言ってよかった。ミラクル・グロウとの半同系対決では巨大で場を支配できる脅威になったし、赤単相手の時は火力1枚では対処できないクリーチャーとして相手に《火炎破》を打たせることができた。《火炎破》に対してならこっちは喜んで《Force of Will》を打てるってもんだ。「オース」デッキに対してすら、《冬の宝珠》でマナを縛ることができている時には《処罰者》は場を支配することができた。限られたマナでは《変異種》は彼に対処できるサイズになれないからだ。
グランプリ本戦では、このデッキを使ったプレイヤーはひとりを除いて全員二日目に進めた。ベンと俺は両方トップ8に残れた。お互いトーナメント表の違う山に入れたので、こりゃもしかして俺たちが決勝であいまみえる大団円を迎えちゃうのか、なんて思ってたんだが、ベンは準決勝でジョシュ・スミスに負けた。青緑黒のアンチ「グロウ」デッキで、《火薬樽》《破滅的な行為》《悪魔の布告》《水没》なんかが入ってて、さらにこっちの土地を切り詰めたマナベースにつけこむために《不毛の大地》まで入ってた。俺は残念ながら決勝でベンの仇をとることができず、 "sickestever.dec" もまた、家にトロフィーを持ち帰ることはできなかった。
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(*12)「ドネイト」は殆ど死んだデッキだと思われてた
2001-04-01 の禁止カード制定で《ネクロポーテンス》と《Demonic Consultation》が禁止になって、ドネイトは速度とパワーを大きく失った。
ドネイト(トリックス)の歴史については↓を参照。
http://www5.atpages.jp/rom/?mode=read&key=1281711019&log=0
(*13)アラン・カマー
本文にもある通り殿堂プレイヤー。やはり本文中に登場する「ターボ・ゼロックス」「ミラクル・グロウ」の作者としてつとに有名。ウィザーズ・オヴ・ザ・コースト社にも在籍した時期があり、初期のマジック・オンラインの開発に携わった。デッキビルダーの印象が強いが、本人がプレイヤーとして残した実績はリミテッドの方がずっと上だった。
Sideboard Online で「Deck Clinic」というデッキ診断・改造のコラムを連載していたこともある。おれが初めて和訳したのはその連載の記事だった。割と訳しやすい英語だったと記憶している。
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デッキ名:エスパー・ストーンブレイド
イベント名:プロツアー・ホノルル2009
デッキリスト:
メインデッキ:
2 《宮廷のホムンクルス/Court Homunculus》
4 《エスパーの嵐刃/Esper Stormblade》
2 《エスパーゾア/Esperzoa》
4 《エーテル宣誓会の法学者/Ethersworn Canonist》
3 《エーテル宣誓会の盾魔道士/Ethersworn Shieldmage》
4 《霞の悪鬼/Glaze Fiend》
4 《エーテリウムの達人/Master of Etherium》
4 《潮の虚ろの漕ぎ手/Tidehollow Sculler》
4 《ヴィダルケンの異国者/Vedalken Outlander》
4 《原霧の境界石/Fieldmist Borderpost》
4 《霧脈の境界石/Mistvein Borderpost》
4 《飛行機械の鋳造所/Thopter Foundry》
3 《島/Island》
6 《平地/Plains》
4 《沼/Swamp》
4 《秘儀の聖域/Arcane Sanctum》
サイドボード:
3 《聖域のガーゴイル/Sanctum Gargoyle》
3 《ゾンビの異国者/Zombie Outlander》
3 《対抗突風/Countersquall》
4 《流刑への道/Path to Exile》
2 《魂の操作/Soul Manipulation》
ストーリー:
プロツアー・ホノルルは俺にとって数年ぶりのプロレベルのイベントだった。カレッジを卒業してから、1年間マジックとポーカーのプロとして過ごしてみたが、突き詰めていくと俺はその生活には満足できなかった。VS システム(*14)のプロサーキットで初代のチャンピオンになった後、アッパー・デック社にスカウトされてサンディエゴでゲーム関係の仕事に就くことになった。俺は人生を変える機会を探してて、ちょうどそれが来たから飛びついた。マジックはしばらく後部座席に追いやられることになったってわけだ。
さて、プロツアー・ハリウッドまで時間を早送りしよう。俺はもうアッパー・デックは辞めてて、パトリック・サリヴァンとベン・セックと一緒にロサンゼルスまでドライヴがてら旧友たちに会いに行こう(それとも、テーマを探しに行こう(*15))って決めたところだ。車ん中でパットの奴が自分の使ってる赤単デッキについてしゃべりだした。《巻物の大魔術師》《月の大魔術師》《変わり谷》なんかが入ってるデッキで、どのカードも俺が昔使ってたカードのリメイク版だった。俺は戦いたくてうずうずしてきて、会場に着くなりパットのデッキに入ってるカードを全部買うか借りるかして揃えた。俺は最終予選で4勝2敗だった。1敗は本戦で優勝したジンディのデッキに似た緑黒のデッキで、もう1敗はパット本人とのミラーマッチだった。俺はその週末に会場で2回のプロツアー予選が開催されることを聞きつけて、そのフォーマットの環境がどんな感じなのか知るために飛び回って、早速それに見合ったデッキを組み始めた。俺はまたこのゲームに完璧にハマってた。
ブロック構築のプロツアー予選に「ドラン」で何回か出て、トップ8に4回入ったけど一度も勝てなかった。プロツアー・京都予選の期間中は友人の結婚式やら休暇やらで町を離れてて、結局一度も挑戦すらしなかったんだが、次のプロツアーがハワイだって知った時にはなんとしても行かなきゃならないと思った。多分1ダースぐらいの予選に出て、とうとうラスベガスでの予選で権利が取れた。そのためだけに、俺独りで車を転がしてって参加した予選だった。
俺は――サンディエゴの近所に住むようになってたもんで――ベン・ルビンと調整を始めて、すぐに「ジャンド」が明らかに最強のデッキだとわかった。《芽吹くトリナクス》《血編み髪のエルフ》《瀝青波》《荒廃稲妻》といったカードたちは環境の中でもずば抜けて強力なカードたちだった。差は歴然としていた。
不幸にも、世界中がそれを知っていた。ブロック構築はプロツアーの一週間前に行われたマジック・オンライン・チャンピオンシップで用いられていたフォーマットで、上位に入ったデッキには全部《血編み髪のエルフ》が入っていた。ここで言う「全部」ってのは殆どとか概ねとか言う意味じゃなくて、文字通りひとつ残らずってことだった。「ジャンド」のミラーマッチで確実に役に立つカードを見つけるのは簡単じゃなかった。誰もがそれを探してる状況ではなおさらだ。だが、運のいいことに、解答はハワイで俺を待っていてくれた。
それは俺の一番好きなタイプの解答でもあった。つまり、誰も考えもしないようなカードだ。世界中の誰もが「最強のデッキ」の座を狙ってる時ってのは、往々にして誰も予想してないデッキが最強だったりするもんだ。俺はプロツアー本戦の数日前、それこそハワイに着いてからそのデッキに出会った。ニール・リーヴズがデザインしてイェルガー・ヴィーガーズマが使おうとしてたエスパー・ビートダウンだ。そん時はちょっとしたメンツが揃ってた――俺、イェルガー、ベン・ルビン、ジェイミー・パーク、マーク・ハーバーホルツ、ポール・リーツル、デイヴィッド・ウィリアムズ、ガブリエル・ナシフ、ノア・ボーケン。みんな同じビーチハウスにこもってて、とにかくジャンドだけは使いたくないってことで、他のいろんなデッキをテストしてたんだ。
とはいえエスパーを使うのは躊躇した。とにかくメタられると全く弱いのは認めざるを得なくて、《ヴィティアの背教者》とか《蔓延》で即死しちまう。だけどトーナメント会場でカードを買うためにバイヤーを覗いたらジャンドミラーでしか使わない《霧を歩むもの、ウリル》が 30 ドルとかになってて、俺は確信した。どいつもこいつもジャンドのミラーマッチしか考えてないし、そのためにミラーマッチ用のサイドボードの軍拡競争になってる。そいつらにしてみれば、居るか居ないかわからないデッキのためにサイドボードに割くスペースは殆どないだろう。
計略は成功だった――まあ、少なくとも俺らの何人かにとっては、だ。俺はスイスラウンドで9勝1敗だった。《エーテル宣誓会の法学者》とプロテクション付き熊が、次から次に当たるジャンドを全部なぎ倒してくれたし、《ヴィティアの背教者》をデッキに入れてた奴はひとりだけで、《蔓延》は1枚たりとも使われてなかった。
プロツアーが終わった直後の水曜日、つまり俺が帰りの飛行機に乗ってた日だが、M10 ルールがアナウンスされて、「ダメージをスタックにのっけてから《飛行機械の鋳造所》でサクってトークンを出す」ってプレイングはできなくなった。俺たちはおそらく最強のデッキを持ち込んでたけど、それはまさにあの週のあのイヴェントのためだけのデッキだったんだ。
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(*14)VS システム
Vs. System。アッパー・デック社が発売していた、アメコミを題材としたトレーディングカードゲーム。一時期日本語版もホビージャパン社から出ていた。プロサーキットはマジックでいうプロツアーみたいなものであるようだ。2004 年に発売開始、2009 年に開発終了。キブラーはアッパー・デック社を去った後も基本的にはゲームデザイナーをやってるみたい。
(*15)それとも、テーマを探しに行こう
お手上げオヴザイヤー。ここひと月これを訳せずに悩んでいた。というのはまあ嘘ですけどともあれ原文は
I was no longer working at Upper Deck, and I decided to drive up to LA with Patrick Sullivan and Ben Seck to see some old friends (see a theme?).
こんな感じ。何故 ’see a theme?’ なんていきなり出てくるのか。
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デッキ名:パニシング・ズー
イベント名:プロツアー・オースティン2009
デッキリスト:
メインデッキ:
3 《悪斬の天使/Baneslayer Angel》
4 《聖遺の騎士/Knight of the Reliquary》
3 《貴族の教主/Noble Hierarch》
3 《クァーサルの群れ魔道士/Qasali Pridemage》
4 《タルモゴイフ/Tarmogoyf》
4 《野生のナカティル/Wild Nacatl》
4 《稲妻/Lightning Bolt》
2 《稲妻のらせん/Lightning Helix》
4 《流刑への道/Path to Exile》
4 《罰する火/Punishing Fire》
1 《遍歴の騎士、エルズペス/Elspeth, Knight-Errant》
1 《森/Forest》
1 《山/Mountain》
1 《平地/Plains》
4 《乾燥台地/Arid Mesa》
1 《幽霊街/Ghost Quarter》
4 《燃え柳の木立ち/Grove of the Burnwillows》
2 《湿地の干潟/Marsh Flats》
4 《霧深い雨林/Misty Rainforest》
1 《聖なる鋳造所/Sacred Foundry》
2 《踏み鳴らされる地/Stomping Ground》
1 《寺院の庭/Temple Garden》
2 《樹上の村/Treetop Village》
サイドボード:
4 《翻弄する魔道士/Meddling Mage》
3 《血染めの月/Blood Moon》
3 《古えの遺恨/Ancient Grudge》
1 《戦争の報い、禍汰奇/Kataki, War’s Wage》
3 《幽霊街/Ghost Quarter》
1 《神聖なる泉/Hallowed Fountain》
ストーリー:
これは以前書いてる。
Part 1
http://www.starcitygames.com/magic/extended/18218_The_Dragonmasters_Lair_A_Pro_Tour_Austin_Report_Part_1_Winner.html
Part 2
http://www.starcitygames.com/magic/extended/18246_The_Dragonmasters_Lair_A_Pro_Tour_Austin_Report_Part_2_Winner.html
デッキ名:コー・ブレイド
イベント名:プロツアー・パリ2011
デッキリスト:
メインデッキ:
1 《饗宴と飢餓の剣/Sword of Feast and Famine》
1 《シルヴォクの生命杖/Sylvok Lifestaff》
4 《戦隊の鷹/Squadron Hawk》
4 《石鍛冶の神秘家/Stoneforge Mystic》
1 《剥奪/Deprive》
3 《マナ漏出/Mana Leak》
4 《呪文貫き/Spell Pierce》
1 《冷静な反論/Stoic Rebuttal》
3 《ギデオン・ジュラ/Gideon Jura》
4 《精神を刻む者、ジェイス/Jace, the Mind Sculptor》
4 《審判の日/Day of Judgment》
4 《定業/Preordain》
5 《島/Island》
4 《平地/Plains》
4 《天界の列柱/Celestial Colonnade》
4 《氷河の城砦/Glacial Fortress》
1 《霧深い雨林/Misty Rainforest》
4 《金属海の沿岸/Seachrome Coast》
4 《地盤の際/Tectonic Edge》
サイドボード:
3 《漸増爆弾/Ratchet Bomb》
1 《肉体と精神の剣/Sword of Body and Mind》
2 《悪斬の天使/Baneslayer Angel》
2 《神への捧げ物/Divine Offering》
2 《瞬間凍結/Flashfreeze》
1 《否認/Negate》
4 《失脚/Oust》
ストーリー:
流石に今これについて知りたい人はいないんじゃないかな……
さて、今日はこの辺でおしまいだ。マジックの歴史に沿う形で俺の大好きなデッキを振り返ってきたが、楽しんでもらえたなら幸いだ。ついでに皆さんの役に立てばいいんだが。記事の中では光栄な戦績についていくつか言及することができたが、書き始めたときに考えてたよりもずっと長文になっちまったんで、最初考えてたリストは諦めざるを得なかった。もしかするといつかまた、今回取り上げられなかったデッキについて振り返ってみることもあるかも知れない。
じゃあまた。
bmk
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キブラーのデッキ、レッドゾーン以外殆ど知らなかったので興味深く読みました。思っていた以上にローグ志向が強いみたいですね。どちらかというとチューナータイプに見受けられますが、かなりピーキーなチューンをすると言えるのではないでしょうか。
例によって誤訳の指摘や「自分ならこう訳す」といった意見は歓迎します。特に註で挙げたところはご教示いただけると嬉しいです。コメント欄へお願いします。
相変わらず「うおお訳すぜええ」みたいなテンションではないのですが、一応次に訳すものは決まっているので、また細々と進めていきたいと思っています。
翻訳:俺が使った最強デッキ(前編)/ブライアン・キブラー
2011年10月27日 翻訳おひさしぶりです。
少し和訳のモティヴェイションが落ちたので、ちょっとペースダウンしてちまちまやってました。完全には止めないように「仕事帰りの地下鉄ではとにかく和訳」と決めて、最低でもそれだけはやるようにという感じで進めました。止めない限りはいつかは辿り着くわけで、どうにか完成できた次第です。
先日レッドゾーンのとこだけ訳したキブラーの自作デッキ解説です。存外面白かったので、せっかくだから完訳してみました。前回も思いましたが、キブラーは意外なほど訳しやすい英語を書きます。
普通にやればたぶん1本で入るんですが、註が多過ぎた所為か「-1,507文字」とか出てました。無念です。前後編に分けます。
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原文:The Dragonmaster’s Lair - The Best Decks I’ve Ever Played (2011-04-08)
http://www.starcitygames.com/magic/misc/22234_The_Dragonmasters_Lair_The_Best_Decks_Ive_Ever_Played.html
SCG オープン・シリーズのスタンダードでは「コー・ブレイド(カウ・ブレード)」が支配を続けてるわけだが、プロツアー・パリでも素晴らしい成績を残すことになった。2人のプレイヤーがトップ8に入って、うちひとりがチャンピオンのベン・スターク、んでもってトップ 16 まで広げるともう4人入ったことになる。ほんとに支配的って言っていい活躍だったんじゃないか。俺自身はひどい成績で、まったくぱっとしない6勝4敗だったけど、それでも俺たちのデッキはあのトーナメントでは間違いなく最強だったと思う。
「コー・ブレイド」は継続して好成績を残していて、デッキ自体がたしかに強いと言える。だがひとつ憶えておいてほしいのは、マジックでデッキ構築をする上で重要なことは、環境に君臨する要塞みたいなデッキを作ることじゃなくて、適切なタイミングで適切なデッキを持ち込むことだってことだ。「最強デッキ」の話となると、多くのプレイヤーは特定の環境で一定期間以上継続して実績を残したデッキを挙げると思うけど、トップレベルのトーナメントでは持続的な支配は実は大抵意味がない。プロツアーにしてもグランプリにしても単発のトーナメントで、そのイベントで一番いいパフォーマンスを見せた奴が最高の報酬を得られる。
プロツアー・レベルで戦うことと、例えば SCG オープン辺りとの最大の違いは多分そこにある。オープンシリーズは毎週あって、メタゲームは――少なくともトップレベルでは――毎週着実に進んでいく。ある週においてフォーマットを“ぶっ壊し”て、完璧に環境を攻略するデッキを持ち込めたとしても、見返りは比較的小さい。次の週には誰もが追随してくるからだ。
しかしプロツアーやグランプリでは話が別で、見返りは巨大なものになる。そもそも賞金がでかいし、なんたって次のイヴェントは違うフォーマットなんだから!
オープンシリーズやプロツアー予選での連戦は、コンスタントに強力なデッキを使い続けてプレイングを磨くのがおそらく一番いいやり方になる。イベントごとに全く新しいデッキを持ち込もうとするのは、コストと見返りを考えると見合わない。
そこら辺を頭に置いてもらいつつ、俺がこれまで使った最強のデッキを紹介していこう。紹介するデッキは必ずしもプロツアー予選シーズンやフライデー・ナイト・マジックを席巻したわけじゃないが、適切なタイミングに適切な場所で使われたことは確かなんだ。
デッキが素晴らしい順にランク付けをしようかとも思ったんだが、ストーリーをつけることにしたんで、時系列順のままにした。
デッキ名:セラテッド・イリュージョニスト
イベント:グランプリ・トロント
デッキリスト:
メインデッキ:
4 《ギザギザ・バイスケリオン/Serrated Biskelion》
4 《大クラゲ/Man-o’-War》
4 《知恵の蛇/Ophidian》
4 《ヴォーデイリアの幻術師/Vodalian Illusionist》
4 《竜巻のジン/Waterspout Djinn》
3 《誘拐/Abduction》
4 《雲散霧消/Dissipate》
4 《衝動/Impulse》
2 《記憶の欠落/Memory Lapse》
3 《魔力消沈/Power Sink》
1 《命令の光/Ray of Command》
17 《島/Island》
4 《流砂/Quicksand》
2 《七曲がりの峡谷/Winding Canyons》
サイドボード:
2 《水門/Floodgate》
2 《霧の騎士/Knight of the Mists》
1 《夢の潮流/Dream Tides》
1 《海嘯/Flooded Shoreline》
2 《ブーメラン/Boomerang》
2 《撹乱/Disrupt》
1 《魔力消沈/Power Sink》
2 《命令の光/Ray of Command》
2 《再帰/Undo》
ストーリー:
読者は上のリストのうちどれぐらいのカードを知ってるのかな? グランプリ・トロントはミラージュ/ビジョンズ/ウェザーライトのブロック構築だった。1997 年のことで、マジックは今とは全く違うものだった。もちろんカードも今とは全然違うがそれだけじゃない。インターネットでマジックについて知識を得ようと思ったら、二種類しか方法がなかったんだ。ひとつがユーズネットの掲示板(*1)で、もうひとつがマジック・ドージョー(*2)。ドージョーは当時の「テク」のまさに中心で、メタゲームって奴を正確に知ろうと思ったら、そこに投稿されてる記事を熟読するしかなかった。
俺の記憶が正しければ、グランプリ前のミラージュブロック構築で一番人気があったのは黒単のアグロで、《堕ちたるアスカーリ》《ネクロエイトグ》《墓所のネズミ》辺りを《ネクラタル》や《闇への追放》といった除去でバックアップするデッキだった。グランプリ・トロントの直前に、ゲリー・ワイズ(そう、あのゲリー・ワイズ(*3)だ!)がドージョーにトロント近郊のプロツアー予選で優勝したって内容のトーナメントレポートを投稿してた。《血の歌》と《ネクロエイトグ》のコンボを内蔵したデッキで、墓地を肥やすことで黒単を踏みつぶせた、という内容だった。
俺はそれを読んでメタゲームの最先端に立てた気になって、そのデッキを地元ボストンのプロツアー予選に持ち込んだ。そこで長年来の IRC の友人で、後にはリアルでも友人になるブライアン・シュナイダーにたまたま会った。ブライアンは青単の《知恵の蛇》デッキを持ってきてたんだけど、なかなかいい感じのデッキに見えた。トーナメントが始まるまで、俺たちは何度か対戦した。彼のデッキにはいくつか入るべきカード、例えば《衝動》とかが欠けているように思えたが、それでもおれはそのデッキが気に入った。ブライアンが俺に殆ど勝ち続けてたんだから尚更だった。運命のいたずらか、俺たちは1ラウンドで対戦することになって、やっぱりブライアンが勝った。俺はほどなく2敗目を喫して(そこらじゅう《血の歌》デッキだらけだった)、トーナメントを棄権した。
マイク・ブレゴリ(misetings.com(*4) でおなじみの)がグランプリとかいうもののことを教えてくれたのはその時だった。まさにグランプリ・サーキットが始まろうとしていたときで、でかいイベントでプレイするってのはすごく魅力的だった。俺はちょうどアメリカ合衆国選手権で悲しい成績を収めたばっかりだった。直前最終予選を抜けて本戦に出て、スイスラウンドの最終ラウンドで勝てばトップ8ってとこまで行っておきながら、その年のアメリカ代表になったジェフ・バッツに負けて、傷心のうちに 12 位でトーナメントを終えた。俺はまたでかい舞台で戦いたかった。そのためなら 10 時間のドライヴぐらいどうってことないと思った。
次の週いっぱいかけて、俺は《知恵の蛇》デッキをぶっ通しでオンラインで調整した。ここでいうオンラインってのは Apprentice のことだ。なにしろマジック・オンラインが出るまだ何年も前の話だから。調整相手は IRC の #mtgpro チャンネルの住人で、ブライアン・シュナイダー、ラン・ホー、マット・プレイス、エリック・ローアー(*5)辺りも入ってた。
グランプリの一週間前、マット・プレイスが《ヴォーデイリアの幻術師》のスロットに《ドレイクの雛》が入っている以外は殆ど同じ構成の青単でプロツアー予選を勝った。俺は青単が増えるだろうと予想してデッキのマナ・ベースに《七曲がりの峡谷》を2枚足した。青単を使うって決めた他の連中より確実に長期戦のゲームで強くなるように。
《ギザギザ・バイスケリオン》と《ヴォーデイリアの幻術師》のセットをいつ入れることにしたのかはっきり憶えてないんだが、この2枚のおかげで環境に存在した他の青いデッキに差をつけることができたのは確かだった。この“コンボ”はミラーマッチで強力な決め手になってくれた。なにしろこのデッキのミラーはお互いの《知恵の蛇》が睨みあって、それぞれになんとかしてそれを通そうとして《誘拐》やらバウンス呪文やらを唱えあう、というものだからだ。
そういえば、今日日だったらこのコンボは2枚のカードテキストを読めば誰にでもわかるものだよな。対戦相手のクリーチャーを対象に《ギザギザ・バイスケリオン》を起動して、《幻術師》でフェイズ・アウトさせる。そうすると、相手のクリーチャーにだけ -1/-1 カウンターが乗って、こちらには乗らない。
でも当時はまだルールが全然整ってなくて、“解釈”次第で変わっちまう余地が今よりずっと大きかったんだ。あるイベントでこのルールについて訊かれて、ジャッジが《バイスケリオン》は自分自身にカウンターを乗せない限り対象にもカウンターを乗せることができない、なんて裁定を下したこともあった。俺はグランプリに向けて、まずヘッドジャッジがルールを正しく理解してくれて、俺のコンボが正しく機能することを祈らなくちゃいけなかった。
幸いにもルーリングはトーナメントの間中俺の望んだ通りになってくれた。俺は二日間の戦いで凶悪な対戦相手をばったばったとなぎ倒した。アレックス・シュヴァルツマン、テリー・ボアラー、スティーヴ・OMS、マット・プレイス、ワース・ウォルパート。俺はトップ8に残れて、シングル・エリミネーションではマイク・チュリアンに勝ち、マット・プレイス(またしても!)に勝ち、最後はエリック・ローアーに勝って初めてのグランプリタイトルを手に入れた。
この時は適切な時に適切なデッキを使うだけじゃなくて、適切なルーリングも味方になったって感じかな!
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(*1)ユーズネットの掲示板
揚げ足取りに近いしマジック関係ないんだが、「ユーズネットの掲示板」(原文だと Usenet bulletin boards)って言い方はおかしい。ユーズネットは今で言えばニューズグループみたいなもんなんだから、掲示板ではない。でもまあ、知らない人は掲示板みたいなもんだと思っておけばいいと思うし、キブラーもそう思ってわざと書いたのかも知れない。
(*2)ドージョー
The Dojo。インターネット黎明期の伝説的なウェブサイト。管理人はフランク・クスモト。サイト自体は現存しないが、大手サイトで記事を引き取ったりしてるっぽい。あと、Internet Archive にかなりよく残っている。
(*3)ゲリー・ワイズ
Gary Wise。殿堂プレイヤーで、ライターとしても著名だった。初期のドージョーでも活躍したらしい。公式サイトにも Wise Words という連載を持っていた。2004 年にマジックからは引退、以後ポーカーに転向している。親日家だが書く文章は訳しづらい。
(*4)misetings.com
マジック系のジョークサイト。いつからあったのかはちょっとわからないが、2007 年に閉鎖されたとのこと。
(*5)エリック・ローアー
Erik Lauer。チーム CMU でデッキビルダーとして活躍し、のちにウィザーズ社のマジック研究開発部入りという黄金ルートを辿った。ところでこの人の苗字、公式の日本語記事だと「ラウアー」って書かれてるんだけど、この綴りは英語だと普通はラウアーとは読まないのでいつも気になっている。まあ公式だから直接聞いたりしてそうなんだけど。
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デッキ名:ティンカー
イベント:世界選手権 2000
デッキリスト:
メインデッキ:
1 《崩れゆく聖域/Crumbling Sanctuary》
4 《厳かなモノリス/Grim Monolith》
1 《ミシュラのらせん/Mishra’s Helix》
4 《ファイレクシアの処理装置/Phyrexian Processor》
4 《からみつく鉄線/Tangle Wire》
4 《スランの発電機/Thran Dynamo》
4 《通電式キー/Voltaic Key》
4 《マスティコア/Masticore》
4 《金属細工師/Metalworker》
1 《ファイレクシアの巨像/Phyrexian Colossus》
4 《渦まく知識/Brainstorm》
4 《修繕/Tinker》
9 《島/Island》
4 《水晶鉱脈/Crystal Vein》
4 《リシャーダの港/Rishadan Port》
4 《サプラーツォの岩礁/Saprazzan Skerry》
サイドボード:
1 《ミシュラのらせん/Mishra’s Helix》
4 《寒け/Chill》
2 《水位の上昇/Rising Waters》
4 《無効/Annul》
4 《誤算/Miscalculation》
ストーリー:
2000 年の世界選手権は、俺にとって数年ぶりに参加するプロ・レベルのイベントだった。高校時代何年間かちょっと他のことをやったりしてて(*6)マジックからは離れてたんだけど、大学に上がってみるとすぐに退屈で刺激のない日々が待ってたもんで、またマジックの世界にはまり始めたところだった。ある日のチャットで、ラン・D・ホーにプロツアー・シカゴ 99 を観に来ないか、ついでに旧友にも会えるし、と誘われた。悪くないプランに思えたんで、俺はシカゴに行って、ランが“アイアン・ジャイアント”ティンカー・デッキを組むのを初日の前夜に手伝う羽目になった。のちにマジックのヘッド・ディヴェロッパーになるブライアン・シュナイダーと、計り知れぬ男ダン・バーディックも一緒だった。俺たちは徹夜で《冬の宝珠》/《氷の干渉器》のくそロックデッキを爆発的にパワフルなデッキに作り替えた。ランはもう少しでトップ8に残れるところまで行って、俺はまたこのゲームのとりこになってた。
俺は地元のプロツアー予選に何回か出て、毎回いいところまでは行くんだが一度も勝てずにいた。そうこうしてるうちにレーティングがぐんぐん上がって、とうとう世界選手権に招待される数字になった。俺は昔なじみの友人たちのオンラインでのプレイテストグループに加わった。グループにはベン・ルビン、ウィリアム・ジェンセン、ジョン・フィンケル、OMS 兄弟辺りが入ってた。コネは作っといて損はしないぜ!
当時のスタンダード環境は実に多様性に富んでいて、「ストンピィ」「ポンザ」「アングリー・ハーミット」「アクセラレイティッド・ブルー」「補充」辺りがそれぞれメタゲームの確固たる地位を占めていた。ジョン・フィンケルは黒単の「ナップスター」デッキで全米選手権を勝ってたけど、なにしろ全員にネタバレしているというのはかなりのマイナス材料だった。この環境に適したデッキを探しているうちに、ダン・OMS と俺はカナダ選手権に出ていた《金属細工師》入り「ティンカー」デッキを見つけた。そのデッキにはかなりの潜在能力があるように思えた。爆発的なスピードがあって、環境のクリーチャーデッキではついて来れなかったし、《リシャーダの港》から《からみつく鉄線》にいたるまでマナ拘束が入ってて、コントロールとも充分やれた。それになにより、このデッキを真面目に検討してる奴は殆ど居なかったから、対策されることがなさそうだった。
なんでこのデッキの評価がそんなに低かったかっつうと、絶望的に「《補充》」デッキに対して相性が悪かったからだ。《浄化の印章》にはでかいアーティファクトを叩き割られちまうし、こっちのマナロック手段である《からみつく鉄線》《リシャーダの港》《ミシュラのらせん》は全部マナを浮かせてからのドロー・ステップ《大あわての捜索》で全部かわされちまう。「補充」は間違いなく世界選手権でもメタゲームの中心になるはずだし、このデッキにとっては悪夢のマッチアップだった。少なくとも、そう信じられていた。
でも「ティンカー」はやっぱり強かったんで、俺は簡単には諦めようとは思わなかった。俺は解答を探し始めた。必要だったのは《大あわての捜索》に対抗できるカードだった。なにしろこれ1枚でこっちのマナ拘束を抜け出しちまうんだから。俺はその解答がもともとプロツアー・シカゴ 99 でランが使ってたオリジナルのデッキの中に入ってたことに気がついた。《冬の宝珠》、すなわち《水位の上昇》だ。《無効》《誤算》《水位の上昇》に加えて2枚目の《ミシュラのらせん》まで突っ込んだサイドボーディングで、相性は「ほぼ勝てない」から「圧倒的」に転換した。
トーナメント中に、ジョン・フィンケルは一度ゲーム・ロスを喰らった。対戦相手(いくつかの理由で名前が思い出せない(*7))のデッキは「補充」だった。俺は要するにこれってマッチ・ロスと同じだよな、とジョークを飛ばした。なんたって1ゲーム目はほぼ勝てないし、サイドボード後にやっとその逆になるんだから。
俺個人のスタンダードの成績は 4-2 どまりだったんだが、ジョン・フィンケルとボブ・マーハーが殆ど同じデッキで対決したのは、たぶんプロ・ツアー史上でも一番印象に残る決勝戦だったんじゃないかな。俺がそれに一役買えたことを嬉しく思うよ。
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(*6)ちょっと他のことをやったりしてて
世界選手権2000のカバレッジにキブラーへのショートインタビューがあって、その中では「レスリングをやってた」と明記されている。元レスラーというのは時々書かれてて元ねたわからなかったんだが、やっとそれらしい記述を見つけた。
(*7)いくつかの理由で名前が思い出せない
調べたらロバート・ドハティだった。まさかドハティの名前を忘れるとも思えないので、なんらかの意図があるのだろうけど、詳しいことは不明。あるいはまるっきりの誤訳かも知れない。原文は (for reasons that escape me right now)。
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訳注:この「レッドゾーン」のパートは以前訳載したものとほぼ同じ。
デッキ名:レッドゾーン
トーナメント:プロツアー・シカゴ 2000
デッキリスト:
メインデッキ:
4 《極楽鳥/Birds of Paradise》
4 《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》
4 《リバー・ボア/River Boa》
4 《キマイラ像/Chimeric Idol》
4 《ブラストダーム/Blastoderm》
3 《翡翠のヒル/Jade Leech》
4 《古代のハイドラ/Ancient Hydra》
2 《煽動するものリース/Rith, the Awakener》
3 《増進+衰退/Wax+Wane》
4 《ハルマゲドン/Armageddon》
8 《森/Forest》
4 《低木林地/Brushland》
4 《真鍮の都/City of Brass》
4 《カープルーザンの森/Karplusan Forest》
4 《リシャーダの港/Rishadan Port》
サイドボード:
3 《カヴーのカメレオン/Kavu Chameleon》
4 《アルマジロの外套/Armadillo Cloak》
2 《サイムーン/Simoon》
3 《サーボの命令/Tsabo’s Decree》
2 《野火/Flashfires》
1 《抹消/Obliterate》
ストーリー:
世界選手権が終わってみると、俺はまた権利無しの立場に戻ってるってことに気がついた。当時はまだニューイングランドに住んでたんだけど、とにかく夏中プロツアー予選に出続けて、一度も権利が取れなかった。秋になったら学校に戻らなくちゃならなくなって、当面プロツアーに戻れる見込みはなくなった。ある日、ベアネイキッド・レディース(*8)のライヴに行って、すっかり遅くなって(ついでにしこたま酔っぱらって)帰ったら、ダン・ブライディからインスタント・メッセージが届いてた。
「よう、権利が取れたらしいな!」
心臓が胸郭の中でひっくり返った。何が取れたって? 俺はシカゴのレーティングによる権利獲得者リストの一覧表のリンクを踏んで、確かに自分の名前があるのを確認した。ちょうどその頃ウィザーズがスタンダードとエクステンディッドのレーティングを統合して「構築」にして、それに伴ってレーティングでの招待をあてにしてた奴が権利取れないなんてことがないように、全員のレーティングが「凍結」された。俺のレートは凍結直前で招待枠の下から二番目だったんだ。つってもその時その辺の事情までわかったわけじゃない。その日俺がしたことと言えば一晩中寮の周りを大声で叫びながら走り回ることと、カレッジの友人全員に「MISE MISE MISE MISE MISE!(*9)」って書いたメッセージを送りつけまくることだった。誰にも意味がわからなかったと思う。
俺は Apprentice(*10) でのプレイテストを再開した。面子は世界選手権の時とほぼ同じ。シカゴで予想されるデッキは「《ヤヴィマヤの火》(ファイアーズ)」デッキ、「レベル」、《まばゆい天使》を使った「青白コントロール」、そして「青黒《冥界のスピリット》コントロール」辺りで、大雑把にこの順番で多いだろうと思った。俺はこの全部に勝てるデッキを作り始めた。
テストを始めてすぐに、上に挙げたこの環境でのメジャーなデッキは全部マナ喰い虫だってことに気がついた。「ファイアーズ」は《はじける子嚢》を出したいし、「レベル」はクリーチャーを連れてくるために(*11)マナをめちゃくちゃ使う。そしてコントロールデッキはなにをするにもマナがたくさん欲しい。俺はこいつらを倒すために《ハルマゲドン》の入ったデッキを組んでやろうと決めた。
《ハルマゲドン》の最良のお供がマナ・クリーチャーなのは間違いないので、色は緑白に決まった。まずは直球の緑白デッキを組んでみたが、時代は《剣を鍬に》後《流刑への道》前だったんで、緑白デッキは対戦相手のクリーチャーに手出しができなかった。コントロールデッキが《まばゆい天使》という絶対殺さなきゃならないクリーチャーを積んでるってわかってるのに除去無しで戦うのは嫌だった。当時「レベル」が使ってたみたいに《パララクスの波》を入れる手も考えたんだが、《ヤヴィマヤの火》《はじける子嚢》《パララクスの波》があふれる環境で、エンチャント除去はみんな積んでるだろうから、エンチャントにクリーチャー除去の役目を任せる気にはなれなかった。
そこへ《古代のハイドラ》があらわれた。アプレンティスではだいたいベン・ルビンと調整してたんだけど、《ハイドラ》はルビンが「ファイアーズ」に入れてたあんまり見慣れないカードだった。俺は《ハイドラ》が気に入った。殆どの除去呪文と違って、どんな時に引いても無駄カードにならないのがいい。《まばゆい天使》を倒せるだけじゃなくて、複数の《ラノワールのエルフ》や《極楽鳥》を片付けて、その後の《ハルマゲドン》を壊滅的な打撃にすることもできる。緑白が緑白赤になるまで時間はかからなかった。
運命というべきだろう、その三色のマルチカラーのカードが《扇動するもの、リース》だった。俺は「ファイアーズ」デッキはでかいクリーチャーを倒す有効な手段を持ってないってことに気付いてた。ファイアーズとやり合う一番いい方法は、エンチャント除去をデッキに入れつつ、相手よりでかいクリーチャーを出すことだ。リースはこのプランの中心になった。彼女は《ブラストダーム》をブロックしても生き残れる(被覆があるおかげで《ヤヴィマヤの火》で対象にとることができないからだ)し、1回でも殴って苗木を出すことができれば、ファイアーズ側が挽回することは殆ど不可能だ。
ファイアーズの棺桶に打ち込むための最後の釘をサイドボードに用意した。《アルマジロの外套》は州別選手権でジョン・ソンヌが使ってた緑白デッキのサイドボードで見かけたカードなんだが、「ファイアーズ」デッキとのマッチアップには完璧に思えた。面白かったのは、そもそもは《翡翠のヒル》とか《リバー・ボア》とかに《外套》をつけて盤面を支配したり、「《ヤヴィマヤの火》+《はじける子嚢》」の総攻撃に備えるためのライフを稼いだりするだけの心算だったのが、実際使ってみるともっとずっとすごいことができるカードだったってこと。
《リース》に《アルマジロの外套》をつけたってのがトーナメントの後には話題になってたんだが、一番役に立ったサイドボードは2枚のインスタントだった。《サイムーン》と《サーボの命令》はこのイベントを通しての MVP だ。どっちも最後の方に足したカードだったが――《命令》なんて当日の朝入れたんだぜ――それぞれ完璧に「ファイアーズ」と「レベル」を叩きのめしてくれた。ファイアーズとの対戦はとにかくマナがなにより重要で、特に絶対に相手には充分なマナを与えないようにしなくちゃいけない。《ハルマゲドン》と《古代のハイドラ》がその仕事の担当なんだが、《サイムーン》はもっと速い。俺は2枚の《サイムーン》だけで何ゲームかは拾ったと思う。《サーボの命令》はレベルを使ってる対戦相手が全員すげえ驚いてたが、到底勝てそうもないゲームをたった一枚でひっくり返してくれて、これだけでマッチアップの相性までこっちの有利がつくぐらいだった。
もしあの準決勝でもう少し引きに恵まれて、もう少しだけいいプレイングができてたら、カイ・ブッディが「ジャーマン・ジャガーノート」って呼ばれるのもちょっとだけ遅くなってたかも知れない。で、俺がプロツアーを勝つのも 10 年ばかり早くなってたかも知れないんだ。
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(*8)ベアネイキッド・レディース
Barenaked Ladies。バンドの名前。
(*9)mise
マジックのスラングで、単なるラッキーを指す言葉らしい。語源は might as well から、とのこと。(*4) MiseTings のネーミングもこれが由来らしい。
参考→http://wiki.mtgsalvation.com/article/Magic_slang
(*10)Apprentice
オンラインでマジックの対戦ができるフリーウェア。
(*11)クリーチャーを連れてくるために
「レベル」という部族テーマのメカニズムのひとつに「ライブラリからレベル・クリーチャーを直接場に出せる」という能力があって、「レベル」デッキの強さはこのメカニズムがもたらす膨大なカード/ボードアドヴァンテージにある。
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後編につづきます。
少し和訳のモティヴェイションが落ちたので、ちょっとペースダウンしてちまちまやってました。完全には止めないように「仕事帰りの地下鉄ではとにかく和訳」と決めて、最低でもそれだけはやるようにという感じで進めました。止めない限りはいつかは辿り着くわけで、どうにか完成できた次第です。
先日レッドゾーンのとこだけ訳したキブラーの自作デッキ解説です。存外面白かったので、せっかくだから完訳してみました。前回も思いましたが、キブラーは意外なほど訳しやすい英語を書きます。
普通にやればたぶん1本で入るんですが、註が多過ぎた所為か「-1,507文字」とか出てました。無念です。前後編に分けます。
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原文:The Dragonmaster’s Lair - The Best Decks I’ve Ever Played (2011-04-08)
http://www.starcitygames.com/magic/misc/22234_The_Dragonmasters_Lair_The_Best_Decks_Ive_Ever_Played.html
SCG オープン・シリーズのスタンダードでは「コー・ブレイド(カウ・ブレード)」が支配を続けてるわけだが、プロツアー・パリでも素晴らしい成績を残すことになった。2人のプレイヤーがトップ8に入って、うちひとりがチャンピオンのベン・スターク、んでもってトップ 16 まで広げるともう4人入ったことになる。ほんとに支配的って言っていい活躍だったんじゃないか。俺自身はひどい成績で、まったくぱっとしない6勝4敗だったけど、それでも俺たちのデッキはあのトーナメントでは間違いなく最強だったと思う。
「コー・ブレイド」は継続して好成績を残していて、デッキ自体がたしかに強いと言える。だがひとつ憶えておいてほしいのは、マジックでデッキ構築をする上で重要なことは、環境に君臨する要塞みたいなデッキを作ることじゃなくて、適切なタイミングで適切なデッキを持ち込むことだってことだ。「最強デッキ」の話となると、多くのプレイヤーは特定の環境で一定期間以上継続して実績を残したデッキを挙げると思うけど、トップレベルのトーナメントでは持続的な支配は実は大抵意味がない。プロツアーにしてもグランプリにしても単発のトーナメントで、そのイベントで一番いいパフォーマンスを見せた奴が最高の報酬を得られる。
プロツアー・レベルで戦うことと、例えば SCG オープン辺りとの最大の違いは多分そこにある。オープンシリーズは毎週あって、メタゲームは――少なくともトップレベルでは――毎週着実に進んでいく。ある週においてフォーマットを“ぶっ壊し”て、完璧に環境を攻略するデッキを持ち込めたとしても、見返りは比較的小さい。次の週には誰もが追随してくるからだ。
しかしプロツアーやグランプリでは話が別で、見返りは巨大なものになる。そもそも賞金がでかいし、なんたって次のイヴェントは違うフォーマットなんだから!
オープンシリーズやプロツアー予選での連戦は、コンスタントに強力なデッキを使い続けてプレイングを磨くのがおそらく一番いいやり方になる。イベントごとに全く新しいデッキを持ち込もうとするのは、コストと見返りを考えると見合わない。
そこら辺を頭に置いてもらいつつ、俺がこれまで使った最強のデッキを紹介していこう。紹介するデッキは必ずしもプロツアー予選シーズンやフライデー・ナイト・マジックを席巻したわけじゃないが、適切なタイミングに適切な場所で使われたことは確かなんだ。
デッキが素晴らしい順にランク付けをしようかとも思ったんだが、ストーリーをつけることにしたんで、時系列順のままにした。
デッキ名:セラテッド・イリュージョニスト
イベント:グランプリ・トロント
デッキリスト:
メインデッキ:
4 《ギザギザ・バイスケリオン/Serrated Biskelion》
4 《大クラゲ/Man-o’-War》
4 《知恵の蛇/Ophidian》
4 《ヴォーデイリアの幻術師/Vodalian Illusionist》
4 《竜巻のジン/Waterspout Djinn》
3 《誘拐/Abduction》
4 《雲散霧消/Dissipate》
4 《衝動/Impulse》
2 《記憶の欠落/Memory Lapse》
3 《魔力消沈/Power Sink》
1 《命令の光/Ray of Command》
17 《島/Island》
4 《流砂/Quicksand》
2 《七曲がりの峡谷/Winding Canyons》
サイドボード:
2 《水門/Floodgate》
2 《霧の騎士/Knight of the Mists》
1 《夢の潮流/Dream Tides》
1 《海嘯/Flooded Shoreline》
2 《ブーメラン/Boomerang》
2 《撹乱/Disrupt》
1 《魔力消沈/Power Sink》
2 《命令の光/Ray of Command》
2 《再帰/Undo》
ストーリー:
読者は上のリストのうちどれぐらいのカードを知ってるのかな? グランプリ・トロントはミラージュ/ビジョンズ/ウェザーライトのブロック構築だった。1997 年のことで、マジックは今とは全く違うものだった。もちろんカードも今とは全然違うがそれだけじゃない。インターネットでマジックについて知識を得ようと思ったら、二種類しか方法がなかったんだ。ひとつがユーズネットの掲示板(*1)で、もうひとつがマジック・ドージョー(*2)。ドージョーは当時の「テク」のまさに中心で、メタゲームって奴を正確に知ろうと思ったら、そこに投稿されてる記事を熟読するしかなかった。
俺の記憶が正しければ、グランプリ前のミラージュブロック構築で一番人気があったのは黒単のアグロで、《堕ちたるアスカーリ》《ネクロエイトグ》《墓所のネズミ》辺りを《ネクラタル》や《闇への追放》といった除去でバックアップするデッキだった。グランプリ・トロントの直前に、ゲリー・ワイズ(そう、あのゲリー・ワイズ(*3)だ!)がドージョーにトロント近郊のプロツアー予選で優勝したって内容のトーナメントレポートを投稿してた。《血の歌》と《ネクロエイトグ》のコンボを内蔵したデッキで、墓地を肥やすことで黒単を踏みつぶせた、という内容だった。
俺はそれを読んでメタゲームの最先端に立てた気になって、そのデッキを地元ボストンのプロツアー予選に持ち込んだ。そこで長年来の IRC の友人で、後にはリアルでも友人になるブライアン・シュナイダーにたまたま会った。ブライアンは青単の《知恵の蛇》デッキを持ってきてたんだけど、なかなかいい感じのデッキに見えた。トーナメントが始まるまで、俺たちは何度か対戦した。彼のデッキにはいくつか入るべきカード、例えば《衝動》とかが欠けているように思えたが、それでもおれはそのデッキが気に入った。ブライアンが俺に殆ど勝ち続けてたんだから尚更だった。運命のいたずらか、俺たちは1ラウンドで対戦することになって、やっぱりブライアンが勝った。俺はほどなく2敗目を喫して(そこらじゅう《血の歌》デッキだらけだった)、トーナメントを棄権した。
マイク・ブレゴリ(misetings.com(*4) でおなじみの)がグランプリとかいうもののことを教えてくれたのはその時だった。まさにグランプリ・サーキットが始まろうとしていたときで、でかいイベントでプレイするってのはすごく魅力的だった。俺はちょうどアメリカ合衆国選手権で悲しい成績を収めたばっかりだった。直前最終予選を抜けて本戦に出て、スイスラウンドの最終ラウンドで勝てばトップ8ってとこまで行っておきながら、その年のアメリカ代表になったジェフ・バッツに負けて、傷心のうちに 12 位でトーナメントを終えた。俺はまたでかい舞台で戦いたかった。そのためなら 10 時間のドライヴぐらいどうってことないと思った。
次の週いっぱいかけて、俺は《知恵の蛇》デッキをぶっ通しでオンラインで調整した。ここでいうオンラインってのは Apprentice のことだ。なにしろマジック・オンラインが出るまだ何年も前の話だから。調整相手は IRC の #mtgpro チャンネルの住人で、ブライアン・シュナイダー、ラン・ホー、マット・プレイス、エリック・ローアー(*5)辺りも入ってた。
グランプリの一週間前、マット・プレイスが《ヴォーデイリアの幻術師》のスロットに《ドレイクの雛》が入っている以外は殆ど同じ構成の青単でプロツアー予選を勝った。俺は青単が増えるだろうと予想してデッキのマナ・ベースに《七曲がりの峡谷》を2枚足した。青単を使うって決めた他の連中より確実に長期戦のゲームで強くなるように。
《ギザギザ・バイスケリオン》と《ヴォーデイリアの幻術師》のセットをいつ入れることにしたのかはっきり憶えてないんだが、この2枚のおかげで環境に存在した他の青いデッキに差をつけることができたのは確かだった。この“コンボ”はミラーマッチで強力な決め手になってくれた。なにしろこのデッキのミラーはお互いの《知恵の蛇》が睨みあって、それぞれになんとかしてそれを通そうとして《誘拐》やらバウンス呪文やらを唱えあう、というものだからだ。
そういえば、今日日だったらこのコンボは2枚のカードテキストを読めば誰にでもわかるものだよな。対戦相手のクリーチャーを対象に《ギザギザ・バイスケリオン》を起動して、《幻術師》でフェイズ・アウトさせる。そうすると、相手のクリーチャーにだけ -1/-1 カウンターが乗って、こちらには乗らない。
でも当時はまだルールが全然整ってなくて、“解釈”次第で変わっちまう余地が今よりずっと大きかったんだ。あるイベントでこのルールについて訊かれて、ジャッジが《バイスケリオン》は自分自身にカウンターを乗せない限り対象にもカウンターを乗せることができない、なんて裁定を下したこともあった。俺はグランプリに向けて、まずヘッドジャッジがルールを正しく理解してくれて、俺のコンボが正しく機能することを祈らなくちゃいけなかった。
幸いにもルーリングはトーナメントの間中俺の望んだ通りになってくれた。俺は二日間の戦いで凶悪な対戦相手をばったばったとなぎ倒した。アレックス・シュヴァルツマン、テリー・ボアラー、スティーヴ・OMS、マット・プレイス、ワース・ウォルパート。俺はトップ8に残れて、シングル・エリミネーションではマイク・チュリアンに勝ち、マット・プレイス(またしても!)に勝ち、最後はエリック・ローアーに勝って初めてのグランプリタイトルを手に入れた。
この時は適切な時に適切なデッキを使うだけじゃなくて、適切なルーリングも味方になったって感じかな!
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(*1)ユーズネットの掲示板
揚げ足取りに近いしマジック関係ないんだが、「ユーズネットの掲示板」(原文だと Usenet bulletin boards)って言い方はおかしい。ユーズネットは今で言えばニューズグループみたいなもんなんだから、掲示板ではない。でもまあ、知らない人は掲示板みたいなもんだと思っておけばいいと思うし、キブラーもそう思ってわざと書いたのかも知れない。
(*2)ドージョー
The Dojo。インターネット黎明期の伝説的なウェブサイト。管理人はフランク・クスモト。サイト自体は現存しないが、大手サイトで記事を引き取ったりしてるっぽい。あと、Internet Archive にかなりよく残っている。
(*3)ゲリー・ワイズ
Gary Wise。殿堂プレイヤーで、ライターとしても著名だった。初期のドージョーでも活躍したらしい。公式サイトにも Wise Words という連載を持っていた。2004 年にマジックからは引退、以後ポーカーに転向している。親日家だが書く文章は訳しづらい。
(*4)misetings.com
マジック系のジョークサイト。いつからあったのかはちょっとわからないが、2007 年に閉鎖されたとのこと。
(*5)エリック・ローアー
Erik Lauer。チーム CMU でデッキビルダーとして活躍し、のちにウィザーズ社のマジック研究開発部入りという黄金ルートを辿った。ところでこの人の苗字、公式の日本語記事だと「ラウアー」って書かれてるんだけど、この綴りは英語だと普通はラウアーとは読まないのでいつも気になっている。まあ公式だから直接聞いたりしてそうなんだけど。
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デッキ名:ティンカー
イベント:世界選手権 2000
デッキリスト:
メインデッキ:
1 《崩れゆく聖域/Crumbling Sanctuary》
4 《厳かなモノリス/Grim Monolith》
1 《ミシュラのらせん/Mishra’s Helix》
4 《ファイレクシアの処理装置/Phyrexian Processor》
4 《からみつく鉄線/Tangle Wire》
4 《スランの発電機/Thran Dynamo》
4 《通電式キー/Voltaic Key》
4 《マスティコア/Masticore》
4 《金属細工師/Metalworker》
1 《ファイレクシアの巨像/Phyrexian Colossus》
4 《渦まく知識/Brainstorm》
4 《修繕/Tinker》
9 《島/Island》
4 《水晶鉱脈/Crystal Vein》
4 《リシャーダの港/Rishadan Port》
4 《サプラーツォの岩礁/Saprazzan Skerry》
サイドボード:
1 《ミシュラのらせん/Mishra’s Helix》
4 《寒け/Chill》
2 《水位の上昇/Rising Waters》
4 《無効/Annul》
4 《誤算/Miscalculation》
ストーリー:
2000 年の世界選手権は、俺にとって数年ぶりに参加するプロ・レベルのイベントだった。高校時代何年間かちょっと他のことをやったりしてて(*6)マジックからは離れてたんだけど、大学に上がってみるとすぐに退屈で刺激のない日々が待ってたもんで、またマジックの世界にはまり始めたところだった。ある日のチャットで、ラン・D・ホーにプロツアー・シカゴ 99 を観に来ないか、ついでに旧友にも会えるし、と誘われた。悪くないプランに思えたんで、俺はシカゴに行って、ランが“アイアン・ジャイアント”ティンカー・デッキを組むのを初日の前夜に手伝う羽目になった。のちにマジックのヘッド・ディヴェロッパーになるブライアン・シュナイダーと、計り知れぬ男ダン・バーディックも一緒だった。俺たちは徹夜で《冬の宝珠》/《氷の干渉器》のくそロックデッキを爆発的にパワフルなデッキに作り替えた。ランはもう少しでトップ8に残れるところまで行って、俺はまたこのゲームのとりこになってた。
俺は地元のプロツアー予選に何回か出て、毎回いいところまでは行くんだが一度も勝てずにいた。そうこうしてるうちにレーティングがぐんぐん上がって、とうとう世界選手権に招待される数字になった。俺は昔なじみの友人たちのオンラインでのプレイテストグループに加わった。グループにはベン・ルビン、ウィリアム・ジェンセン、ジョン・フィンケル、OMS 兄弟辺りが入ってた。コネは作っといて損はしないぜ!
当時のスタンダード環境は実に多様性に富んでいて、「ストンピィ」「ポンザ」「アングリー・ハーミット」「アクセラレイティッド・ブルー」「補充」辺りがそれぞれメタゲームの確固たる地位を占めていた。ジョン・フィンケルは黒単の「ナップスター」デッキで全米選手権を勝ってたけど、なにしろ全員にネタバレしているというのはかなりのマイナス材料だった。この環境に適したデッキを探しているうちに、ダン・OMS と俺はカナダ選手権に出ていた《金属細工師》入り「ティンカー」デッキを見つけた。そのデッキにはかなりの潜在能力があるように思えた。爆発的なスピードがあって、環境のクリーチャーデッキではついて来れなかったし、《リシャーダの港》から《からみつく鉄線》にいたるまでマナ拘束が入ってて、コントロールとも充分やれた。それになにより、このデッキを真面目に検討してる奴は殆ど居なかったから、対策されることがなさそうだった。
なんでこのデッキの評価がそんなに低かったかっつうと、絶望的に「《補充》」デッキに対して相性が悪かったからだ。《浄化の印章》にはでかいアーティファクトを叩き割られちまうし、こっちのマナロック手段である《からみつく鉄線》《リシャーダの港》《ミシュラのらせん》は全部マナを浮かせてからのドロー・ステップ《大あわての捜索》で全部かわされちまう。「補充」は間違いなく世界選手権でもメタゲームの中心になるはずだし、このデッキにとっては悪夢のマッチアップだった。少なくとも、そう信じられていた。
でも「ティンカー」はやっぱり強かったんで、俺は簡単には諦めようとは思わなかった。俺は解答を探し始めた。必要だったのは《大あわての捜索》に対抗できるカードだった。なにしろこれ1枚でこっちのマナ拘束を抜け出しちまうんだから。俺はその解答がもともとプロツアー・シカゴ 99 でランが使ってたオリジナルのデッキの中に入ってたことに気がついた。《冬の宝珠》、すなわち《水位の上昇》だ。《無効》《誤算》《水位の上昇》に加えて2枚目の《ミシュラのらせん》まで突っ込んだサイドボーディングで、相性は「ほぼ勝てない」から「圧倒的」に転換した。
トーナメント中に、ジョン・フィンケルは一度ゲーム・ロスを喰らった。対戦相手(いくつかの理由で名前が思い出せない(*7))のデッキは「補充」だった。俺は要するにこれってマッチ・ロスと同じだよな、とジョークを飛ばした。なんたって1ゲーム目はほぼ勝てないし、サイドボード後にやっとその逆になるんだから。
俺個人のスタンダードの成績は 4-2 どまりだったんだが、ジョン・フィンケルとボブ・マーハーが殆ど同じデッキで対決したのは、たぶんプロ・ツアー史上でも一番印象に残る決勝戦だったんじゃないかな。俺がそれに一役買えたことを嬉しく思うよ。
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(*6)ちょっと他のことをやったりしてて
世界選手権2000のカバレッジにキブラーへのショートインタビューがあって、その中では「レスリングをやってた」と明記されている。元レスラーというのは時々書かれてて元ねたわからなかったんだが、やっとそれらしい記述を見つけた。
(*7)いくつかの理由で名前が思い出せない
調べたらロバート・ドハティだった。まさかドハティの名前を忘れるとも思えないので、なんらかの意図があるのだろうけど、詳しいことは不明。あるいはまるっきりの誤訳かも知れない。原文は (for reasons that escape me right now)。
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訳注:この「レッドゾーン」のパートは以前訳載したものとほぼ同じ。
デッキ名:レッドゾーン
トーナメント:プロツアー・シカゴ 2000
デッキリスト:
メインデッキ:
4 《極楽鳥/Birds of Paradise》
4 《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》
4 《リバー・ボア/River Boa》
4 《キマイラ像/Chimeric Idol》
4 《ブラストダーム/Blastoderm》
3 《翡翠のヒル/Jade Leech》
4 《古代のハイドラ/Ancient Hydra》
2 《煽動するものリース/Rith, the Awakener》
3 《増進+衰退/Wax+Wane》
4 《ハルマゲドン/Armageddon》
8 《森/Forest》
4 《低木林地/Brushland》
4 《真鍮の都/City of Brass》
4 《カープルーザンの森/Karplusan Forest》
4 《リシャーダの港/Rishadan Port》
サイドボード:
3 《カヴーのカメレオン/Kavu Chameleon》
4 《アルマジロの外套/Armadillo Cloak》
2 《サイムーン/Simoon》
3 《サーボの命令/Tsabo’s Decree》
2 《野火/Flashfires》
1 《抹消/Obliterate》
ストーリー:
世界選手権が終わってみると、俺はまた権利無しの立場に戻ってるってことに気がついた。当時はまだニューイングランドに住んでたんだけど、とにかく夏中プロツアー予選に出続けて、一度も権利が取れなかった。秋になったら学校に戻らなくちゃならなくなって、当面プロツアーに戻れる見込みはなくなった。ある日、ベアネイキッド・レディース(*8)のライヴに行って、すっかり遅くなって(ついでにしこたま酔っぱらって)帰ったら、ダン・ブライディからインスタント・メッセージが届いてた。
「よう、権利が取れたらしいな!」
心臓が胸郭の中でひっくり返った。何が取れたって? 俺はシカゴのレーティングによる権利獲得者リストの一覧表のリンクを踏んで、確かに自分の名前があるのを確認した。ちょうどその頃ウィザーズがスタンダードとエクステンディッドのレーティングを統合して「構築」にして、それに伴ってレーティングでの招待をあてにしてた奴が権利取れないなんてことがないように、全員のレーティングが「凍結」された。俺のレートは凍結直前で招待枠の下から二番目だったんだ。つってもその時その辺の事情までわかったわけじゃない。その日俺がしたことと言えば一晩中寮の周りを大声で叫びながら走り回ることと、カレッジの友人全員に「MISE MISE MISE MISE MISE!(*9)」って書いたメッセージを送りつけまくることだった。誰にも意味がわからなかったと思う。
俺は Apprentice(*10) でのプレイテストを再開した。面子は世界選手権の時とほぼ同じ。シカゴで予想されるデッキは「《ヤヴィマヤの火》(ファイアーズ)」デッキ、「レベル」、《まばゆい天使》を使った「青白コントロール」、そして「青黒《冥界のスピリット》コントロール」辺りで、大雑把にこの順番で多いだろうと思った。俺はこの全部に勝てるデッキを作り始めた。
テストを始めてすぐに、上に挙げたこの環境でのメジャーなデッキは全部マナ喰い虫だってことに気がついた。「ファイアーズ」は《はじける子嚢》を出したいし、「レベル」はクリーチャーを連れてくるために(*11)マナをめちゃくちゃ使う。そしてコントロールデッキはなにをするにもマナがたくさん欲しい。俺はこいつらを倒すために《ハルマゲドン》の入ったデッキを組んでやろうと決めた。
《ハルマゲドン》の最良のお供がマナ・クリーチャーなのは間違いないので、色は緑白に決まった。まずは直球の緑白デッキを組んでみたが、時代は《剣を鍬に》後《流刑への道》前だったんで、緑白デッキは対戦相手のクリーチャーに手出しができなかった。コントロールデッキが《まばゆい天使》という絶対殺さなきゃならないクリーチャーを積んでるってわかってるのに除去無しで戦うのは嫌だった。当時「レベル」が使ってたみたいに《パララクスの波》を入れる手も考えたんだが、《ヤヴィマヤの火》《はじける子嚢》《パララクスの波》があふれる環境で、エンチャント除去はみんな積んでるだろうから、エンチャントにクリーチャー除去の役目を任せる気にはなれなかった。
そこへ《古代のハイドラ》があらわれた。アプレンティスではだいたいベン・ルビンと調整してたんだけど、《ハイドラ》はルビンが「ファイアーズ」に入れてたあんまり見慣れないカードだった。俺は《ハイドラ》が気に入った。殆どの除去呪文と違って、どんな時に引いても無駄カードにならないのがいい。《まばゆい天使》を倒せるだけじゃなくて、複数の《ラノワールのエルフ》や《極楽鳥》を片付けて、その後の《ハルマゲドン》を壊滅的な打撃にすることもできる。緑白が緑白赤になるまで時間はかからなかった。
運命というべきだろう、その三色のマルチカラーのカードが《扇動するもの、リース》だった。俺は「ファイアーズ」デッキはでかいクリーチャーを倒す有効な手段を持ってないってことに気付いてた。ファイアーズとやり合う一番いい方法は、エンチャント除去をデッキに入れつつ、相手よりでかいクリーチャーを出すことだ。リースはこのプランの中心になった。彼女は《ブラストダーム》をブロックしても生き残れる(被覆があるおかげで《ヤヴィマヤの火》で対象にとることができないからだ)し、1回でも殴って苗木を出すことができれば、ファイアーズ側が挽回することは殆ど不可能だ。
ファイアーズの棺桶に打ち込むための最後の釘をサイドボードに用意した。《アルマジロの外套》は州別選手権でジョン・ソンヌが使ってた緑白デッキのサイドボードで見かけたカードなんだが、「ファイアーズ」デッキとのマッチアップには完璧に思えた。面白かったのは、そもそもは《翡翠のヒル》とか《リバー・ボア》とかに《外套》をつけて盤面を支配したり、「《ヤヴィマヤの火》+《はじける子嚢》」の総攻撃に備えるためのライフを稼いだりするだけの心算だったのが、実際使ってみるともっとずっとすごいことができるカードだったってこと。
《リース》に《アルマジロの外套》をつけたってのがトーナメントの後には話題になってたんだが、一番役に立ったサイドボードは2枚のインスタントだった。《サイムーン》と《サーボの命令》はこのイベントを通しての MVP だ。どっちも最後の方に足したカードだったが――《命令》なんて当日の朝入れたんだぜ――それぞれ完璧に「ファイアーズ」と「レベル」を叩きのめしてくれた。ファイアーズとの対戦はとにかくマナがなにより重要で、特に絶対に相手には充分なマナを与えないようにしなくちゃいけない。《ハルマゲドン》と《古代のハイドラ》がその仕事の担当なんだが、《サイムーン》はもっと速い。俺は2枚の《サイムーン》だけで何ゲームかは拾ったと思う。《サーボの命令》はレベルを使ってる対戦相手が全員すげえ驚いてたが、到底勝てそうもないゲームをたった一枚でひっくり返してくれて、これだけでマッチアップの相性までこっちの有利がつくぐらいだった。
もしあの準決勝でもう少し引きに恵まれて、もう少しだけいいプレイングができてたら、カイ・ブッディが「ジャーマン・ジャガーノート」って呼ばれるのもちょっとだけ遅くなってたかも知れない。で、俺がプロツアーを勝つのも 10 年ばかり早くなってたかも知れないんだ。
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(*8)ベアネイキッド・レディース
Barenaked Ladies。バンドの名前。
(*9)mise
マジックのスラングで、単なるラッキーを指す言葉らしい。語源は might as well から、とのこと。(*4) MiseTings のネーミングもこれが由来らしい。
参考→http://wiki.mtgsalvation.com/article/Magic_slang
(*10)Apprentice
オンラインでマジックの対戦ができるフリーウェア。
(*11)クリーチャーを連れてくるために
「レベル」という部族テーマのメカニズムのひとつに「ライブラリからレベル・クリーチャーを直接場に出せる」という能力があって、「レベル」デッキの強さはこのメカニズムがもたらす膨大なカード/ボードアドヴァンテージにある。
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後編につづきます。
翻訳:歴史に残る支配的なデッキ(後編)/ズヴィ・モーショウィッツ
2011年9月22日 翻訳 コメント (7)原文:The Most Dominant Decks Of All Time -- by Zvi Mowshowitz (2011-03-24)
http://www.starcitygames.com/magic/misc/21457_The_Most_Dominant_Decks_Of_All_Time.html
前編はこちら→http://drk2718.diarynote.jp/201109030047489054
トリックス/ミシェル・ブッシュ ―― 初期型(*12),2000 年(エクステンディッド)
メインデッキ:
4 《魔力の櫃/Mana Vault》
4 《Illusions of Grandeur》
4 《ネクロポーテンス/Necropotence》
1 《ブーメラン/Boomerang》
4 《暗黒の儀式/Dark Ritual》
4 《Demonic Consultation》
1 《炎の嵐/Firestorm》
4 《Force of Will》
4 《吸血の教示者/Vampiric Tutor》
4 《寄付/Donate》
4 《強迫/Duress》
4 《Badlands》
1 《真鍮の都/City of Brass》
4 《宝石鉱山/Gemstone Mine》
4 《泥炭の沼地/Peat Bog》
4 《サプラーツォの岩礁/Saprazzan Skerry》
1 《地底の大河/Underground River》
4 《Underground Sea》
(訳注:サイドボード未掲載)
多くの支配的なデッキと違って、「トリックス」は初めてトーナメントリーガルになったプロツアー(*13)では姿を見せなかった。トニー・ドブソンが「ココア・ペブルス」デッキ――《ネクロポーテンス》を使って作られた初めてのトップレベルのコンボデッキで、「フルーティ・ペブルス」デッキに使われていた《永劫の輪廻》《ゴブリンの大砲》、そして《ファイレクシアの歩行機械》のような0マナクリーチャーの3枚コンボに《ネクロポーテンス》を加えたもの――を持ち込んだが、そのプロツアーが終わるとほどなくコンボ部分は《Illusions of Grandeur》と《寄付》に置き換えられた。《ネクロポーテンス》はこれまでも長年もっとも危険なカードドロー・エンジンと見なされてきたが、真の潜在能力はコンボデッキのドローエンジンとして使われた時初めて解放されたのだった。《永劫の輪廻》はカードが3枚必要な上に不完全なコンボエンジンで、《ネクロポーテンス》とも強いシナジーを形成するとは言えないが、それでも人を殺せたし、トップレベルのデッキになるに充分な力があった。3枚コンボが2枚コンボになって、そのうちの1枚は消耗したエンジンを復活させてくれて、2枚とも《Force of Will》で切れる青いカードで、《魔力の櫃》によるマナ加速を最大限に活かせる、とここまで揃えば、他のデッキにできることはなにもなかった。
どのトーナメントにもトリックスはいた。トリックスに入ってる8枚のコンボパーツと1、2枚のパーマネントに対処する保険のカード以外のすべてのカードは《ネクロポーテンス》を唱えるためか通すためのカードだった。メインデッキにすら《強迫》と《Force of Will》が入っていて、《Demonic Consultation》が状況に応じてどちらかを引っ張ってくる、あるいは《ネクロポーテンス》に化けてくれた。対策カードはあるにはあったが、トリックスの基礎部分は妨害カードのかたまりで、どんな戦略のデッキを相手にしても役に立った。そのため、特に同型対決では《寄付》が《寄付》し返される可能性があるため使いづらいカードになることもあって、変形サイドボードは一般的な戦略になっていった。トリックスがリーガルだった時代の最後の頃には、殆どのプレイヤーはどのトーナメントでも一番勝ちに近いのは最強のトリックス使いだと考えるようになっていた。際限なく続くミラーマッチを勝ち抜く自信がないプレイヤーや、勝ち抜ける力はあっても耐えられないと感じるプレイヤーは、トリックス以外のデッキをプレイするようになっていた。マジックは常に勝つ可能性を最大限に高めるゲームじゃない。もっと楽しいものであっていいし、大半の時間は楽しいものであるべきなんだ。
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(*12)初期型
このリストをどこから持ってきたか判らないが、おそらく最初期のものではない。最初期のトリックスは2色で組まれた。赤が足されて3色になるのは翌春のマスターズ・ニューヨークを待たなければならない。
(*13)初めてトーナメントリーガルになったプロツアー
プロツアー・シカゴ 1999 のこと。この時東野将幸が《Illusions of Grandeur》と《寄付》のコンボデッキを持ち込んでいるが、それは青単色で組まれていた。
# その他トリックスに興味のある向きは
http://www5.atpages.jp/rom/?mode=read&key=1281711019&log=0
を読まれたし。自分が書いた記事で、完璧にはほど遠いが、にもかかわらず今ネット上で読めるトリックスに関する文章としてはもっとも網羅的であると思う。これより詳しいものがあればむしろ読んでみたいので教えて欲しい。
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レベル/ウォーレン・マーシュ ―― プロツアー・ニューヨーク:準優勝,2000-04-14~16
メインデッキ:
2 《レイモス教の副長/Ramosian Lieutenant》
3 《レイモス教の兵長/Ramosian Sergeant》
4 《不動の守備兵/Steadfast Guard》
4 《果敢な勇士リン・シヴィー/Lin Sivvi, Defiant Hero》
3 《真理の声/Voice of Truth》
1 《レイモス教の空の元帥/Ramosian Sky Marshal》
1 《ジョーヴァルの女王/Jhovall Queen》
4 《パララクスの波/Parallax Wave》
4 《物語の円/Story Circle》
4 《恭しきマントラ/Reverent Mantra》
2 《解呪/Disenchant》
2 《浄化の印章/Seal of Cleansing》
22 《平地/Plains》
4 《リシャーダの港/Rishadan Port》
サイドボード:
1 《ひずんだレンズ/Distorting Lens》
4 《ヴェクの防衛者/Defender en-Vec》
1 《光をもたらす者/Lightbringer》
1 《夜風の滑空者/Nightwind Glider》
1 《真理の声/Voice of Truth》
1 《浄化の印章/Seal of Cleansing》
2 《解呪/Disenchant》
4 《ぐらつき/Topple》
あらためて考えてみると「レベル(反逆者)」はマジック史上でももっともまずいネーミングだ。レベルたちはなにも変革しない。奴らはどのゲームでも全く同じ動きを見せる。繰り返し繰り返し。お決まりの手順で、一度に一体ずつコントロールするクリーチャーを増やしていく。これは僕が反逆者って言葉を聞いて思い浮かべる概念とは全く違う。だから、シグルド・エシェランドが奴らを本来の牢獄に送り返したとき本当に嬉しかった。レベルはトーナメント全体を完全に支配してた。奴らは環境の 40% 以上を占めてて、2日目でも最多の勢力だった。2日目の朝、僕はジャスティン・ゲーリーに約束の地である《森》や《山》や《沼》について期待をこめて聞いてみた。でもそういう土地はどこにもなかったんだ。
面白かったのは、最高順位って尺度から見れば、レベルはこのプロツアーで一番成功したデッキじゃなくて、その名誉を「《水位の上昇》(ライジング・ウォーターズ)」デッキに譲ってたってことだ。「ライジング・ウォーターズ」はレベルともやりあえたし、環境の他のデッキを全部蹴散らすことができた。トーナメントの最後のほうになると、このふたつ以外のデッキは存在自体が珍しくなっていたが、黒緑だけは辛うじて生き残っていた。しかし黒緑はレベルには強いものの、ライジング・ウォーターズとやりあえる力はなかった。
不幸なことに、反逆者たちの反乱はこの後も長らくスタンダードを舞台に繰り広げられることになってしまう。そしてプロツアー・シカゴ 2000 では、とうとう反逆者同士が決勝で戦うことになってしまった。だが、そのプロツアー自体は、間違いなくまるで違う戦略のデッキが支配していた。
シェヴィ・ファイアーズ(または、もう少し不名誉な名で言えば、「マイ・ファイアーズ」)/ズヴィ・モーショウィッツ ―― プロツアー・シカゴ:7位,2000-12-01~03(スタンダード)
メインデッキ:
4《極楽鳥/Birds of Paradise》
4《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》
4《キマイラ像/Chimeric Idol》
4《ブラストダーム/Blastoderm》
3《翡翠のヒル/Jade Leech》
3《双頭のドラゴン/Two-Headed Dragon》
4《ヤヴィマヤの火/Fires of Yavimaya》
4《はじける子嚢/Saproling Burst》
4《暴行+殴打/Assault+Battery》
1《地震/Earthquake》
10《森/Forest》
5《山/Mountain》
2《黄塵地帯/Dust Bowl》
4《カープルーザンの森/Karplusan Forest》
4《リシャーダの港/Rishadan Port》
サイドボード:
4《カヴーのカメレオン/Kavu Chameleon》
2《もつれ/Tangle》
3《地震/Earthquake》
3《野火/Flashfires》
1《抹消/Obliterate》
2《恭しき沈黙/Reverent Silence》
ランディ・ビューラーがマジック・ザ・ギャザリングの研究開発部に足を踏み入れてから、マジックは〈コンボの冬〉を乗り越えて活気を取り戻しつつあった。ビューラーの最大の失敗は、「盲点」に陥ってしまったことだった。ひとたびウィザーズ社に入社すると、1年間はあっちこっち旅して回る羽目になる。それによってその1年間に刷られたカードについては他のカードよりも馴染みが薄くなる。結果として、それらのカードに関する本来もっと早く気付く筈だったシナジイやコンボに気付くのが遅くなってしまう。この時は、《はじける子嚢》と《ヤヴィマヤの火》を組み合わせるとどうなるのか誰も気付いていなかった。このあまりに強力な組み合わせは“結合”(*14)と呼ばれることになった。
どちらのカードも伝統的な赤緑デッキの戦略に合っているものの、そういうデッキには普通単体ではどちらのカードも入らない。ところが“結合”は「ファイアーズ」デッキのクリーチャーに速攻を持たせると同時に、1枚のカードから複数の大型クリーチャーを生成する能力をもたらした。これによって全体除去を持つ相手にも特に失うものもなくダメージを叩き出せるようになり、他のカードにはできないような予想外の角度から攻撃を仕掛けて勝利をもぎとることができるようになっていった。ひとたび“結合”が完成したら、大抵の場合対戦相手は速やかに死ぬ。これは比較的相性が悪いデッキ相手にすら通用するし、対戦相手をサイドボード後に地獄に突き落とすことができることもある。こっちはその気になればアーティファクトとエンチャントを全抜きして相手の(アーティファクト/エンチャント)除去を役立たずにさせることができるから、相手は“結合”に対するサイドボードを無条件で入れることができないんだ。
このデッキの僕が使ったヴァージョンは、カード一枚一枚にいたるまで細かに説明した“マイ・ファイアーズ”(*15)という7つものパートに分かれた僕のコラムとともに、未だにある種の汚名とともに語られている。この無残で悲惨な失敗のおかげで、僕はどういう要素がマジックに関する記事をいいものにするのか、あるいは人気のあるものにするのかを考え直さざるを得なくなった。結論としては、ひとつのものをあんまり多くの部分に分割しちゃいけないってことだ。もし全く同じ記事を前後編で投稿していたら、多分素晴らしいって評価を受けてたと思う。でもああいう風にしちゃったから、一種のジョークになってしまった。
このヴァージョンはプロツアー・シカゴの中でも最良のデッキだった。僕はこの後サイドボードを少しいじっただけで、メインは全く同じ構成のまま、第2回ボストン vs. ニューヨーク・グラッジ・マッチ(*16)を勝つことができた。
シカゴでは優勝できなかったにもかかわらず、「ファイアーズ」はスタンダードを支配し、あらゆるデッキはファイアーズを意識して組まれるようになった。《はじける子嚢》がスタンダードから落ちるまで、ファイアーズは環境の最多数派であり続けた。ファイアーズは弱点も多いデッキで、特に青白コントロールは苦手としていたが、完膚なきまで叩きのめされることもまたなかった。色々な意味でこのデッキは支配的なデッキの理想の形だったと思う。組むのにお金がかかりすぎないし、本当のマジックをプレイできるし、倒そうと思えば普通に倒すことができる。ミラーマッチも多くのプレイヤーが気づいていたよりずっとプレイングの腕を問われるものだった。“結合”をいつも気にしてなきゃならないのはちょっとストレスだったけど、それでも僕が思うにファイアーズのせいでマジックを嫌いになった人は殆ど居なかったんじゃないかと思う。過去の「ハイ・タイド」や「アカデミー」、あるいは後の「親和」がやらかしたようには。
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(*14)“結合”
原文では "The Fix"。実に訳しづらい言葉で、辞書に出ているどの意味を選んでもぴんと来ない。一応「結合」としておいたが、fix には結合という意味はない。
(*15)“マイ・ファイアーズ”
そのまま "My Fires"。ここに書かれている通り、ズヴィがサイドボード・オンラインに投稿したこのデッキの解説記事。採用しなかったカードにまで事細かに触れたパラノイア的な長文記事だったがくそ面白かった。「デュエリスト・ジャパン」誌にも日本語訳が掲載されていて(vol.14 辺りだったと思う。訳されていたのはパート4まで)、当時夢中になって何度も読んだ憶えがある。ズヴィの真骨頂の記事だ、と認識していたので、この記事を読むまでそこまで評価が低いとも知らなかったし、この本人の殆ど卑屈な文章を見てちょっと悲しくなってしまった。少なくともおれは一連の記事を失敗だとは思っていないし、デッキ自体もズヴィの代表作のひとつだと思っている。多くの日本人は似たような感想を持っているのではないだろうか。
なお、原文では記事にリンクが張ってあるが、diarynote ではもちろんできないのでここに置いておく。
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20001215a
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20001219a
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20001227a
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20010103a
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20010110a
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20010116a
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20010124b
(*16)ボストン vs. ニューヨーク・グラッジ・マッチ
ボストンのショップ Your Move Games とニューヨークのショップ Neutral Grounds が年2回のペースで行っていた対抗戦。各店舗で予選のシリーズを行い、それぞれの優勝者同士で決勝戦を行う。決勝戦のフォーマットが面白くて、スタンダードのデッキを3つずつ用意してそれぞれを1回ずつ使って3試合行うのだが、同一のカードは3つのデッキを合わせて4枚までしか使えないという制限があった。まあそういう制限ないと3つデッキ作る意味がなくなっちゃうんだけど。
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スタンダード・ティンカー/ジョン・フィンケル ―― 世界選手権於ブリュッセル:優勝,2000-08-02~06
メインデッキ:
1 《崩れゆく聖域/Crumbling Sanctuary》
4 《厳かなモノリス/Grim Monolith》
1 《ミシュラのらせん/Mishra’s Helix》
4 《ファイレクシアの処理装置/Phyrexian Processor》
4 《からみつく鉄線/Tangle Wire》
4 《スランの発電機/Thran Dynamo》
4 《通電式キー/Voltaic Key》
4 《マスティコア/Masticore》
4 《金属細工師/Metalworker》
1 《ファイレクシアの巨像/Phyrexian Colossus》
4 《渦まく知識/Brainstorm》
4 《修繕/Tinker》
9 《島/Island》
4 《水晶鉱脈/Crystal Vein》
4 《リシャーダの港/Rishadan Port》
4 《サプラーツォの岩礁/Saprazzan Skerry》
サイドボード:
1 《ミシュラのらせん/Mishra’s Helix》
4 《寒け/Chill》
2 《水位の上昇/Rising Waters》
4 《無効/Annul》
4 《誤算/Miscalculation》
ジョージ・W・ボッシュ(ティンカー)/リカルド・オステルベリィ ―― プロツアー・ニューオーリンズ:優勝,2003-10-31~11-02
メインデッキ:
2 《彩色の宝球/Chromatic Sphere》
1 《シタヌールのフルート/Citanul Flute》
1 《金粉の水蓮/Gilded Lotus》
4 《厳かなモノリス/Grim Monolith》
3 《稲妻のすね当て/Lightning Greaves》
4 《からみつく鉄線/Tangle Wire》
3 《通電式キー/Voltaic Key》
1 《マスティコア/Masticore》
4 《金属細工師/Metalworker》
1 《ペンタバス/Pentavus》
1 《白金の天使/Platinum Angel》
4 《ゴブリンの溶接工/Goblin Welder》
4 《知識の渇望/Thirst For Knowledge》
1 《精神隷属器/Mindslaver》
1 《鉄のゴーレム、ボッシュ/Bosh, Iron Golem》
4 《修繕/Tinker》
2 《大焼炉/Great Furnace》
4 《教議会の座席/Seat of the Synod》
4 《古えの墳墓/Ancient Tomb》
3 《真鍮の都/City of Brass》
4 《裏切り者の都/City of Traitors》
4 《シヴの浅瀬/Shivan Reef》
サイドボード:
3 《防御の光網/Defense Grid》
4 《溶接の壺/Welding Jar》
1 《エルフの模造品/Elf Replica》
1 《トリスケリオン/Triskelion》
3 《荒残/Rack and Ruin》
2 《破壊的脈動/Shattering Pulse》
1 《精神隷属器/Mindslaver》
《修繕》は、刷られた当初は影が薄かった。当時は〈コンボの冬〉の最中で、みんなアーティファクトをいじって遊ぶのに忙しかった。
最初に「ティンカー」デッキがブレイクしたのはウルザ・ブロック構築のプロツアーで、トップ8のうち6人を占めた。エクステンディッドでは当初は二種類のアプローチが試されていて、ひとつは「スーサイド・ブラウン」、もうひとつは「アイアン・ジャイアント」と呼ばれていた。スーサイド・ブラウンはスタンダードでの構築をベースにしていて、やはり最強のアーティファクト戦略を目指すデッキだった。つまり《ファイレクシアの処理装置》を可能な限り早く場に出して、巨人を降臨させる。たった4マナで起動できる《処理装置》が回り出せば殆どのデッキにはどうすることもできない。《崩れゆく聖域》は《処理装置》で支払ったライフを事実上なかったことにしてくれるし、《処理装置》がゲームを支配するまでの時間を稼いでくれる。ジョン・フィンケルとボブ・マーハーが世界選手権の決勝で実質的なミラーマッチを戦ったのは、まさしくこのデッキが環境を支配していたからだった。ボブ・マーハーの「ティンカー」には、その後マスターズ優勝という戦績も加わることになった。
《修繕》を悪用しようと思ったら、まず思いつくのができるだけマナ・コストの高いアーティファクトを探してきてそのコストを踏み倒そうとすることだが、実際のところこのやり方だと《修繕》は大して強くない。コストの高いアーティファクトは基本的に弱いからだ。一番ましなのが《白金の天使》だが、それだって対処が難しいカードじゃない。《修繕》が強いのは、《ファイレクシアの処理装置》や《スランの発電機》を出せるだけで充分以上な効果なのに、ひとたびそれらのカードが場に出てしまえば、1、2枚のカードの損は殆ど問題にならないからだ。それに加えてライブラリーから好きなカードを探し出せる能力があって、コストには余った無色のマナソースをあてることができる。
後に「ティンカー」がエクステンディッド環境を支配したときには、このデッキは大量のマナを稼ぐ手段とそのマナを勝利に結びつける手段をそれぞれ何通りも持ち合わせていた。このデッキがマナを大量生産することを止めるのは不可能で、ひとたびマナを生産されてしまったら、素早くエンドカードが飛び出してくる。あまりにも脅威が早すぎるため、どんなデッキも有効な回答は用意できなかった。逆に「ティンカー」はたとえ防御側に回っても、相手の攻撃を押しとどめるアーティファクトをサーチする手段を複数持っていた。
プロツアー・ニューオーリーンズでは、環境全体としては伝統的なティンカーに支配されていたが、勝利を収めたのは先進的な構成のリカルド・オステルベリィのデッキだった。彼のデッキがやってのけたことは、僕たちのチームがテストしてみようとすら思いつかなかったことだった。
ここまでは初期のミラディンの力の片鱗にすぎない。この後事態はずっとずっと悪くなっていく。
薬瓶親和/イェルガー・ヴィーガーズマ プロツアー・神戸:4位,2004-02-27~29(ミラディン・ブロック構築)
メインデッキ:
4《霊気の薬瓶/Aether Vial》
2《彩色の宝球/Chromatic Sphere》
4《頭蓋骨絞め/Skullclamp》
1《威圧のタリスマン/Talisman of Dominance》
4《電結の荒廃者/Arcbound Ravager》
4《電結の働き手/Arcbound Worker》
4《金属ガエル/Frogmite》
4《マイアの処罰者/Myr Enforcer》
3《マイアの回収者/Myr Retriever》
3《羽ばたき飛行機械/Ornithopter》
4《大霊堂の信奉者/Disciple of the Vault》
4《物読み/Thoughtcast》
4《ダークスティールの城塞/Darksteel Citadel》
2《大焼炉/Great Furnace》
4《教議会の座席/Seat of the Synod》
4《囁きの大霊堂/Vault of Whispers》
4《ちらつき蛾の生息地/Blinkmoth Nexus》
1《空僻地/Glimmervoid》
サイドボード:
3《起源室/Genesis Chamber》
1《マイアの回収者/Myr Retriever》
1《炉のドラゴン/Furnace Dragon》
4《静電気の稲妻/Electrostatic Bolt》
3《恐怖/Terror》
1《大焼炉/Great Furnace》
2《空僻地/Glimmervoid》
ぶっ壊れたアーティファクトの雪崩の真最中に、ひとりの男が《霊気の薬瓶》が転がり落ちてくるのを見た。僕はこんなカードがあっていいのか疑いながら(*17)も、セットのベスト10にこのカードを入れて、細部は大きく違うものの、この明らかにこれまでのものとは力が違う、新しいヴァージョンの「親和」デッキを作り組み上げた。プレイヤーはいずれにしてもこのデッキの強さに気付いたことだろう。ブロック構築のプロツアーでの「親和」のパフォーマンスは思わしくなかったが、これはマジックの歴史には時々現れる現象の一例だった。すなわち、その環境初のプレミアイベントで、プレイヤーたちがよってたかってひとつのデッキの対策のためにリソースを注ぎ込んだ結果、そのデッキは本来持つ力よりはるかに低い能力しか発揮できない、という現象である。そうなった原因は、この環境では全くアーティファクトをデッキに入れないことが難しく、したがってアーティファクト対策が裏目に出ることが少ないことにあった。
時が経つと、状況は悪化していった。ブロック構築のトーナメントは完全に親和に支配され、スタンダードでも同様だった。ウィザーズ社は《頭蓋骨締め》のみならず《大霊堂の信奉者》とアーティファクトランド全てを禁止にして、親和が本当に完全に死に絶えるようにせざるを得なくなった。確かに目論見通り親和は死んだ。だが、その時にはすでに深い傷跡が刻まれたあとだった。多くのプレイヤーがマジックを去るか、あるいは数ヶ月間潜伏することを選んでいて、僕もそのひとりだった。誰もわかりきった壁にぶちあたって死ぬ毎回理不尽に負けることを望んではいなかったし、際限なく続く親和同士のミラーマッチで退屈とストレスを味わい続けたくもなかったからだ。(*18)
今やマジックは復活し、往時より強固な立場を築いているが、しかし親和の君臨はマジックのもっとも根本的な失敗だったといえるだろう。たったひとつのデッキが全員を不幸にしていたのに、あまりにも長い期間存続が許されていたのだ。
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(*17)僕はこんなカードがあっていいのか疑いながら
自信なし。ちょっと長めに引用してみる。この注の部分は青字。
Amidst an avalanche of broken artifacts, one man saw Aether Vial coming. I doubt my noticing it, putting it in my top ten of the set, and building this version of Affinity made that much difference.
最初さらっと見て「僕はこれに気付いていたかどうか憶えていないんだけど」というような意味かと思ったのだが、その後のトップ 10 に入れたというのと整合しない。あと分詞構文って割と何気なく訳しちゃうけど突き詰めると正しいかどうか自信なくなってくるな。
(*18)誰もわかりきった壁にぶちあたって死ぬことを望んではいなかったし、際限なく続く親和同士のミラーマッチで退屈とストレスを味わい続けたくもなかったからだ。
今週のどハマリ。前半部分が本当にわからない。
No one wanted to face dying out of nowhere on a consistent basis or the tedium and frustration of endless Affinity mirrors.
「out of nowhere」は成句で「突然」「だしぬけに」なんだけどぴんと来ない。「consistent basis」は「首尾一貫した基礎」だけど、それもなにを指しているのかわからない。後半はどうってことないのだが。
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フェアリー/パウロ・ヴィトフ・ダモ・ダ・ホサ ―― プロツアー・ハリウッド:8位,2008-05-23~25
メインデッキ:
4 《霧縛りの徒党/Mistbind Clique》
4 《ウーナの末裔/Scion of Oona》
4 《呪文づまりのスプライト/Spellstutter Sprite》
4 《謎めいた命令/Cryptic Command》
4 《ルーンのほつれ/Rune Snag》
4 《恐怖/Terror》
3 《ヴェンディリオン三人衆/Vendilion Clique》
4 《祖先の幻視/Ancestral Vision》
4 《苦花/Bitterblossom》
4 《島/Island》
2 《フェアリーの集会場/Faerie Conclave》
4 《変わり谷/Mutavault》
3 《涙の川/River of Tears》
4 《人里離れた谷間/Secluded Glen》
2 《沈んだ廃墟/Sunken Ruins》
4 《地底の大河/Underground River》
2 《ペンデルヘイヴン/Pendelhaven》
サイドボード:
3 《ボトルのノーム/Bottle Gnomes》
3 《剃刀毛のマスティコア/Razormane Masticore》
2 《残忍なレッドキャップ/Murderous Redcap》
3 《滅び/Damnation》
4 《思考囲い/Thoughtseize》
《苦花》が刷られる前ですら「フェアリー」デッキは有力なデッキだったが、《苦花》のおかげでこのデッキは他のデッキでは手の届かないレベルに達した。《苦花》さえ場に出てしまえば「フェアリー」は殆ど負けようがないし、場に出なかったとしてもそれなりのクリーチャーデッキとして戦える。「フェアリー」はどんな展開でもうまく戦うことができて、しばしば予想外の動きをし、対戦相手のあらゆる小さなミスを逃さずとがめたてることができる。
ゆっくりと、だが確実に少しずつ少しずつプレイヤーたちはダークサイドに堕ちていき、少しずつ少しずつミラーマッチが増え、それはしばしば一方だけが場に出した《苦花》で勝敗が決した。こうなるとフェアリーの優位性は薄れ、数多くのデッキの中のひとつという位置づけになったが、それでもこのデッキの柔軟性とパワーのおかげでトーナメントでの使用率は3割前後程度の数字を保ち、常に平均以上の成績を叩き出した。ブロック構築、スタンダード、エクステンディッドと、フォーマットやカードプールは変わっても、「フェアリー」はその翼を広げ続け、デッキは本質的な部分ではずっと変わらなかった。このデッキに数え切れないほどの時間を注ぎ込んだプレイヤーたちは、使うデッキを変えようとはせず、自分たちの経験に基づいて微調整を施すことで、不利な環境や対戦相手にも備えられると信じていた。サム・ブラックはこの点で悪名高く、何度も何度も新作のデッキをプレイするのだと喧伝していたが、誰も彼には耳を貸さなかった。今日に至るまで、みんなが彼の言うことに耳を貸すだろうということを彼に納得させることは難しい。
「フェアリー」が嫌になってしまうのは決して姿を消してくれなかったことだ。このデッキを倒す簡単な方法は存在しなかった(とにかく柔軟性が非常に高いからだ)し、他にどんなカードが刷られようとも「フェアリー」デッキの基礎自体は全然変わらない。ある年の世界選手権に僕が初期のフェアリーを持ち込んだことがあったんだけど、研究開発部の連中が何のデッキを使ってるのか訊いてきた。フェアリーだってわかると、誰がデザインしたんだって訊いてきたもんだから、僕は連中を見渡しながらもったいぶって考え込んで、アーロン・フォーサイス(*19)を指さしてやった。僕は正しかった。
このデッキは一度や二度なら楽しい。でも同じカードを使っておんなじことを繰り返し繰り返しやってると、あっという間にくたびれ果ててしまう。もし「親和」がどんなコストを払ってもなんとしても避けなければならない災害型の失敗だったとしたら、「フェアリー」はもっと潜伏期間の長い疫病のようなものだ。決して物事をひどく悪くし過ぎることはなかったから、僕たちはただ座ってうんざりしていることしかできなかった。僕は《苦花》を禁止にしろという人全員に同情したけど、内心ではそんなことは決してできっこないと知っていた。
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(*19)アーロン・フォーサイス
Aaron Forsythe。チーム CMU(前編の(*8)参照)で活躍した後にウィザーズ社入り。いくつかのセットのデザイナーを勤めた後、研究開発部のディレクターとなった。ローウィンではリード・デザイナーをつとめているので、ズヴィの指摘はあながち冗談とも言い切れない。
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ソプター・デプス/ジェリー・トンプソン ―― マジック・オンライン・プロツアー予選:優勝,2010-01-17
メインデッキ:
4 《金属モックス/Chrome Mox》
1 《仕組まれた爆薬/Engineered Explosives》
2 《弱者の剣/Sword of the Meek》
3 《飛行機械の鋳造所/Thopter Foundry》
4 《闇の腹心/Dark Confidant》
4 《吸血鬼の呪詛術士/Vampire Hexmage》
1 《破滅の刃/Doom Blade》
1 《乱動への突入/Into the Roil》
4 《交錯の混乱/Muddle the Mixture》
1 《殺戮の契約/Slaughter Pact》
4 《渇き/Thirst》 For Knowledge
3 《女王への懇願/Beseech the Queen》
4 《思考囲い/Thoughtseize》
2 《島/Island》
2 《沼/Swamp》
4 《涙の川/River of Tears》
4 《沈んだ廃墟/Sunken Ruins》
3 《トレイリア西部/Tolaria West》
1 《アカデミーの廃墟/Academy Ruins》
4 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ/Urborg, Tomb of Yawgmoth》
4 《暗黒の深部/Dark Depths》
サイドボード:
1 《虚空の杯/Chalice of the Void》
1 《弱者の剣/Sword of the Meek》
1 《飛行機械の鋳造所/Thopter Foundry》
1 《トーモッドの墓所/Tormod’s Crypt》
3 《根絶/Extirpate》
1 《ハーキルの召還術/Hurkyl’s Recall》
3 《死の印/Deathmark》
3 《強迫/Duress》
1 《幽霊街/Ghost Quarter》
ソプター・デプス(以下 TTD)は、ゆっくりと締めあげるようにエクステンディッドを支配し、環境から締め出されるまでその死の手を離さなかった。つまり、《暗黒の深部》がローテイトアウトして、《弱者の剣》が禁止されるまで。TTD の対戦相手は決して何が起きているかを知ることはなかった。不幸にも何が起きるかを正確に知ったときには、二種類のコンボに全く違った角度から攻めたてられている。もしマリット・レイジや《暗黒の深部》に対処できるカードを入れていても、《飛行機械の鋳造所》の前では何の役にも立たないし、《飛行機械の鋳造所》への回答を握りしめていても、《暗黒の深部》を止めることはできない。さらに TTD は相手の手札を《思考囲い》や《強迫》でのぞき込んできて、《闇の腹心》で第3の角度からアドヴァンテージを稼ぎにかかり、それらをどう組み合わせれば相手が対処できないかを経験から知っている。このデッキには本当にたくさんできることがあって、大抵の問題にも様々なカードをサーチする能力を使って対処することができる。
ソプター・デプスは他の著名なデッキができなかったことを成し遂げている。すなわち、対戦相手はこのデッキを目の敵にしながらも、どうやったら勝てるのかが全くわからないのだ。誰ひとりとして、TTD に対抗できてかつ有効な脅威を突きつけることのできるデッキを、半分も完成させることができていない。もし勝つ手段を見つけられたとしても、あまりにも多くの妨害が待っているし、デッキの力の差は歴然としている。シーズンの終了までに、エクステンディッドのトップクラスプレイヤーたちはみな肩をすくめて TTD への回答を見つけるのを諦め、ミラーマッチでの戦い方を究めることに集中しはじめていた。
他のフォーマットには派生しなかったことと、あまり長く存続したデッキではなかったことで、TTD は過去の先達たちのような汚名は着せられずに済んだが、これ以上の実績を残せるデッキはちょっと考えづらい。まさに“倒せるものなら倒してみろ”と言わんばかりのデッキであり、その挑発に対して世界は全き沈黙で応じるしかなかった。
それこそが、僕にとっての、真の支配だ。
最初の候補一覧を作り、その中から最終的な 11 のデッキを選ぶのにも協力してくれたジョン・デイル・ビーティに感謝したい。
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というわけで後編でした。随分かかったと思ったけどまだ三週間経ってないのだから悲観したものでもないですね。しかしどういうわけか後編の方が難しくて、時間がかかってしまいました。
註については特にコメントもありませんでしたし引き続き途中に挟んでいます。少なくとも書いている方としてはこの方が楽なので。
例によって誤訳の指摘や「自分ならこう訳す」といった意見は歓迎します。今回特に難しかったのでお知恵を拝借できると有難いです。コメント欄へお願いします。
ちょっとモティヴェイションが落ちてきたので、次に何をやるかは悩みどころです。
http://www.starcitygames.com/magic/misc/21457_The_Most_Dominant_Decks_Of_All_Time.html
前編はこちら→http://drk2718.diarynote.jp/201109030047489054
トリックス/ミシェル・ブッシュ ―― 初期型(*12),2000 年(エクステンディッド)
メインデッキ:
4 《魔力の櫃/Mana Vault》
4 《Illusions of Grandeur》
4 《ネクロポーテンス/Necropotence》
1 《ブーメラン/Boomerang》
4 《暗黒の儀式/Dark Ritual》
4 《Demonic Consultation》
1 《炎の嵐/Firestorm》
4 《Force of Will》
4 《吸血の教示者/Vampiric Tutor》
4 《寄付/Donate》
4 《強迫/Duress》
4 《Badlands》
1 《真鍮の都/City of Brass》
4 《宝石鉱山/Gemstone Mine》
4 《泥炭の沼地/Peat Bog》
4 《サプラーツォの岩礁/Saprazzan Skerry》
1 《地底の大河/Underground River》
4 《Underground Sea》
(訳注:サイドボード未掲載)
多くの支配的なデッキと違って、「トリックス」は初めてトーナメントリーガルになったプロツアー(*13)では姿を見せなかった。トニー・ドブソンが「ココア・ペブルス」デッキ――《ネクロポーテンス》を使って作られた初めてのトップレベルのコンボデッキで、「フルーティ・ペブルス」デッキに使われていた《永劫の輪廻》《ゴブリンの大砲》、そして《ファイレクシアの歩行機械》のような0マナクリーチャーの3枚コンボに《ネクロポーテンス》を加えたもの――を持ち込んだが、そのプロツアーが終わるとほどなくコンボ部分は《Illusions of Grandeur》と《寄付》に置き換えられた。《ネクロポーテンス》はこれまでも長年もっとも危険なカードドロー・エンジンと見なされてきたが、真の潜在能力はコンボデッキのドローエンジンとして使われた時初めて解放されたのだった。《永劫の輪廻》はカードが3枚必要な上に不完全なコンボエンジンで、《ネクロポーテンス》とも強いシナジーを形成するとは言えないが、それでも人を殺せたし、トップレベルのデッキになるに充分な力があった。3枚コンボが2枚コンボになって、そのうちの1枚は消耗したエンジンを復活させてくれて、2枚とも《Force of Will》で切れる青いカードで、《魔力の櫃》によるマナ加速を最大限に活かせる、とここまで揃えば、他のデッキにできることはなにもなかった。
どのトーナメントにもトリックスはいた。トリックスに入ってる8枚のコンボパーツと1、2枚のパーマネントに対処する保険のカード以外のすべてのカードは《ネクロポーテンス》を唱えるためか通すためのカードだった。メインデッキにすら《強迫》と《Force of Will》が入っていて、《Demonic Consultation》が状況に応じてどちらかを引っ張ってくる、あるいは《ネクロポーテンス》に化けてくれた。対策カードはあるにはあったが、トリックスの基礎部分は妨害カードのかたまりで、どんな戦略のデッキを相手にしても役に立った。そのため、特に同型対決では《寄付》が《寄付》し返される可能性があるため使いづらいカードになることもあって、変形サイドボードは一般的な戦略になっていった。トリックスがリーガルだった時代の最後の頃には、殆どのプレイヤーはどのトーナメントでも一番勝ちに近いのは最強のトリックス使いだと考えるようになっていた。際限なく続くミラーマッチを勝ち抜く自信がないプレイヤーや、勝ち抜ける力はあっても耐えられないと感じるプレイヤーは、トリックス以外のデッキをプレイするようになっていた。マジックは常に勝つ可能性を最大限に高めるゲームじゃない。もっと楽しいものであっていいし、大半の時間は楽しいものであるべきなんだ。
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(*12)初期型
このリストをどこから持ってきたか判らないが、おそらく最初期のものではない。最初期のトリックスは2色で組まれた。赤が足されて3色になるのは翌春のマスターズ・ニューヨークを待たなければならない。
(*13)初めてトーナメントリーガルになったプロツアー
プロツアー・シカゴ 1999 のこと。この時東野将幸が《Illusions of Grandeur》と《寄付》のコンボデッキを持ち込んでいるが、それは青単色で組まれていた。
# その他トリックスに興味のある向きは
http://www5.atpages.jp/rom/?mode=read&key=1281711019&log=0
を読まれたし。自分が書いた記事で、完璧にはほど遠いが、にもかかわらず今ネット上で読めるトリックスに関する文章としてはもっとも網羅的であると思う。これより詳しいものがあればむしろ読んでみたいので教えて欲しい。
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レベル/ウォーレン・マーシュ ―― プロツアー・ニューヨーク:準優勝,2000-04-14~16
メインデッキ:
2 《レイモス教の副長/Ramosian Lieutenant》
3 《レイモス教の兵長/Ramosian Sergeant》
4 《不動の守備兵/Steadfast Guard》
4 《果敢な勇士リン・シヴィー/Lin Sivvi, Defiant Hero》
3 《真理の声/Voice of Truth》
1 《レイモス教の空の元帥/Ramosian Sky Marshal》
1 《ジョーヴァルの女王/Jhovall Queen》
4 《パララクスの波/Parallax Wave》
4 《物語の円/Story Circle》
4 《恭しきマントラ/Reverent Mantra》
2 《解呪/Disenchant》
2 《浄化の印章/Seal of Cleansing》
22 《平地/Plains》
4 《リシャーダの港/Rishadan Port》
サイドボード:
1 《ひずんだレンズ/Distorting Lens》
4 《ヴェクの防衛者/Defender en-Vec》
1 《光をもたらす者/Lightbringer》
1 《夜風の滑空者/Nightwind Glider》
1 《真理の声/Voice of Truth》
1 《浄化の印章/Seal of Cleansing》
2 《解呪/Disenchant》
4 《ぐらつき/Topple》
あらためて考えてみると「レベル(反逆者)」はマジック史上でももっともまずいネーミングだ。レベルたちはなにも変革しない。奴らはどのゲームでも全く同じ動きを見せる。繰り返し繰り返し。お決まりの手順で、一度に一体ずつコントロールするクリーチャーを増やしていく。これは僕が反逆者って言葉を聞いて思い浮かべる概念とは全く違う。だから、シグルド・エシェランドが奴らを本来の牢獄に送り返したとき本当に嬉しかった。レベルはトーナメント全体を完全に支配してた。奴らは環境の 40% 以上を占めてて、2日目でも最多の勢力だった。2日目の朝、僕はジャスティン・ゲーリーに約束の地である《森》や《山》や《沼》について期待をこめて聞いてみた。でもそういう土地はどこにもなかったんだ。
面白かったのは、最高順位って尺度から見れば、レベルはこのプロツアーで一番成功したデッキじゃなくて、その名誉を「《水位の上昇》(ライジング・ウォーターズ)」デッキに譲ってたってことだ。「ライジング・ウォーターズ」はレベルともやりあえたし、環境の他のデッキを全部蹴散らすことができた。トーナメントの最後のほうになると、このふたつ以外のデッキは存在自体が珍しくなっていたが、黒緑だけは辛うじて生き残っていた。しかし黒緑はレベルには強いものの、ライジング・ウォーターズとやりあえる力はなかった。
不幸なことに、反逆者たちの反乱はこの後も長らくスタンダードを舞台に繰り広げられることになってしまう。そしてプロツアー・シカゴ 2000 では、とうとう反逆者同士が決勝で戦うことになってしまった。だが、そのプロツアー自体は、間違いなくまるで違う戦略のデッキが支配していた。
シェヴィ・ファイアーズ(または、もう少し不名誉な名で言えば、「マイ・ファイアーズ」)/ズヴィ・モーショウィッツ ―― プロツアー・シカゴ:7位,2000-12-01~03(スタンダード)
メインデッキ:
4《極楽鳥/Birds of Paradise》
4《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》
4《キマイラ像/Chimeric Idol》
4《ブラストダーム/Blastoderm》
3《翡翠のヒル/Jade Leech》
3《双頭のドラゴン/Two-Headed Dragon》
4《ヤヴィマヤの火/Fires of Yavimaya》
4《はじける子嚢/Saproling Burst》
4《暴行+殴打/Assault+Battery》
1《地震/Earthquake》
10《森/Forest》
5《山/Mountain》
2《黄塵地帯/Dust Bowl》
4《カープルーザンの森/Karplusan Forest》
4《リシャーダの港/Rishadan Port》
サイドボード:
4《カヴーのカメレオン/Kavu Chameleon》
2《もつれ/Tangle》
3《地震/Earthquake》
3《野火/Flashfires》
1《抹消/Obliterate》
2《恭しき沈黙/Reverent Silence》
ランディ・ビューラーがマジック・ザ・ギャザリングの研究開発部に足を踏み入れてから、マジックは〈コンボの冬〉を乗り越えて活気を取り戻しつつあった。ビューラーの最大の失敗は、「盲点」に陥ってしまったことだった。ひとたびウィザーズ社に入社すると、1年間はあっちこっち旅して回る羽目になる。それによってその1年間に刷られたカードについては他のカードよりも馴染みが薄くなる。結果として、それらのカードに関する本来もっと早く気付く筈だったシナジイやコンボに気付くのが遅くなってしまう。この時は、《はじける子嚢》と《ヤヴィマヤの火》を組み合わせるとどうなるのか誰も気付いていなかった。このあまりに強力な組み合わせは“結合”(*14)と呼ばれることになった。
どちらのカードも伝統的な赤緑デッキの戦略に合っているものの、そういうデッキには普通単体ではどちらのカードも入らない。ところが“結合”は「ファイアーズ」デッキのクリーチャーに速攻を持たせると同時に、1枚のカードから複数の大型クリーチャーを生成する能力をもたらした。これによって全体除去を持つ相手にも特に失うものもなくダメージを叩き出せるようになり、他のカードにはできないような予想外の角度から攻撃を仕掛けて勝利をもぎとることができるようになっていった。ひとたび“結合”が完成したら、大抵の場合対戦相手は速やかに死ぬ。これは比較的相性が悪いデッキ相手にすら通用するし、対戦相手をサイドボード後に地獄に突き落とすことができることもある。こっちはその気になればアーティファクトとエンチャントを全抜きして相手の(アーティファクト/エンチャント)除去を役立たずにさせることができるから、相手は“結合”に対するサイドボードを無条件で入れることができないんだ。
このデッキの僕が使ったヴァージョンは、カード一枚一枚にいたるまで細かに説明した“マイ・ファイアーズ”(*15)という7つものパートに分かれた僕のコラムとともに、未だにある種の汚名とともに語られている。この無残で悲惨な失敗のおかげで、僕はどういう要素がマジックに関する記事をいいものにするのか、あるいは人気のあるものにするのかを考え直さざるを得なくなった。結論としては、ひとつのものをあんまり多くの部分に分割しちゃいけないってことだ。もし全く同じ記事を前後編で投稿していたら、多分素晴らしいって評価を受けてたと思う。でもああいう風にしちゃったから、一種のジョークになってしまった。
このヴァージョンはプロツアー・シカゴの中でも最良のデッキだった。僕はこの後サイドボードを少しいじっただけで、メインは全く同じ構成のまま、第2回ボストン vs. ニューヨーク・グラッジ・マッチ(*16)を勝つことができた。
シカゴでは優勝できなかったにもかかわらず、「ファイアーズ」はスタンダードを支配し、あらゆるデッキはファイアーズを意識して組まれるようになった。《はじける子嚢》がスタンダードから落ちるまで、ファイアーズは環境の最多数派であり続けた。ファイアーズは弱点も多いデッキで、特に青白コントロールは苦手としていたが、完膚なきまで叩きのめされることもまたなかった。色々な意味でこのデッキは支配的なデッキの理想の形だったと思う。組むのにお金がかかりすぎないし、本当のマジックをプレイできるし、倒そうと思えば普通に倒すことができる。ミラーマッチも多くのプレイヤーが気づいていたよりずっとプレイングの腕を問われるものだった。“結合”をいつも気にしてなきゃならないのはちょっとストレスだったけど、それでも僕が思うにファイアーズのせいでマジックを嫌いになった人は殆ど居なかったんじゃないかと思う。過去の「ハイ・タイド」や「アカデミー」、あるいは後の「親和」がやらかしたようには。
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(*14)“結合”
原文では "The Fix"。実に訳しづらい言葉で、辞書に出ているどの意味を選んでもぴんと来ない。一応「結合」としておいたが、fix には結合という意味はない。
(*15)“マイ・ファイアーズ”
そのまま "My Fires"。ここに書かれている通り、ズヴィがサイドボード・オンラインに投稿したこのデッキの解説記事。採用しなかったカードにまで事細かに触れたパラノイア的な長文記事だったがくそ面白かった。「デュエリスト・ジャパン」誌にも日本語訳が掲載されていて(vol.14 辺りだったと思う。訳されていたのはパート4まで)、当時夢中になって何度も読んだ憶えがある。ズヴィの真骨頂の記事だ、と認識していたので、この記事を読むまでそこまで評価が低いとも知らなかったし、この本人の殆ど卑屈な文章を見てちょっと悲しくなってしまった。少なくともおれは一連の記事を失敗だとは思っていないし、デッキ自体もズヴィの代表作のひとつだと思っている。多くの日本人は似たような感想を持っているのではないだろうか。
なお、原文では記事にリンクが張ってあるが、diarynote ではもちろんできないのでここに置いておく。
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20001215a
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20001219a
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20001227a
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20010103a
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20010110a
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20010116a
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20010124b
(*16)ボストン vs. ニューヨーク・グラッジ・マッチ
ボストンのショップ Your Move Games とニューヨークのショップ Neutral Grounds が年2回のペースで行っていた対抗戦。各店舗で予選のシリーズを行い、それぞれの優勝者同士で決勝戦を行う。決勝戦のフォーマットが面白くて、スタンダードのデッキを3つずつ用意してそれぞれを1回ずつ使って3試合行うのだが、同一のカードは3つのデッキを合わせて4枚までしか使えないという制限があった。まあそういう制限ないと3つデッキ作る意味がなくなっちゃうんだけど。
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スタンダード・ティンカー/ジョン・フィンケル ―― 世界選手権於ブリュッセル:優勝,2000-08-02~06
メインデッキ:
1 《崩れゆく聖域/Crumbling Sanctuary》
4 《厳かなモノリス/Grim Monolith》
1 《ミシュラのらせん/Mishra’s Helix》
4 《ファイレクシアの処理装置/Phyrexian Processor》
4 《からみつく鉄線/Tangle Wire》
4 《スランの発電機/Thran Dynamo》
4 《通電式キー/Voltaic Key》
4 《マスティコア/Masticore》
4 《金属細工師/Metalworker》
1 《ファイレクシアの巨像/Phyrexian Colossus》
4 《渦まく知識/Brainstorm》
4 《修繕/Tinker》
9 《島/Island》
4 《水晶鉱脈/Crystal Vein》
4 《リシャーダの港/Rishadan Port》
4 《サプラーツォの岩礁/Saprazzan Skerry》
サイドボード:
1 《ミシュラのらせん/Mishra’s Helix》
4 《寒け/Chill》
2 《水位の上昇/Rising Waters》
4 《無効/Annul》
4 《誤算/Miscalculation》
ジョージ・W・ボッシュ(ティンカー)/リカルド・オステルベリィ ―― プロツアー・ニューオーリンズ:優勝,2003-10-31~11-02
メインデッキ:
2 《彩色の宝球/Chromatic Sphere》
1 《シタヌールのフルート/Citanul Flute》
1 《金粉の水蓮/Gilded Lotus》
4 《厳かなモノリス/Grim Monolith》
3 《稲妻のすね当て/Lightning Greaves》
4 《からみつく鉄線/Tangle Wire》
3 《通電式キー/Voltaic Key》
1 《マスティコア/Masticore》
4 《金属細工師/Metalworker》
1 《ペンタバス/Pentavus》
1 《白金の天使/Platinum Angel》
4 《ゴブリンの溶接工/Goblin Welder》
4 《知識の渇望/Thirst For Knowledge》
1 《精神隷属器/Mindslaver》
1 《鉄のゴーレム、ボッシュ/Bosh, Iron Golem》
4 《修繕/Tinker》
2 《大焼炉/Great Furnace》
4 《教議会の座席/Seat of the Synod》
4 《古えの墳墓/Ancient Tomb》
3 《真鍮の都/City of Brass》
4 《裏切り者の都/City of Traitors》
4 《シヴの浅瀬/Shivan Reef》
サイドボード:
3 《防御の光網/Defense Grid》
4 《溶接の壺/Welding Jar》
1 《エルフの模造品/Elf Replica》
1 《トリスケリオン/Triskelion》
3 《荒残/Rack and Ruin》
2 《破壊的脈動/Shattering Pulse》
1 《精神隷属器/Mindslaver》
《修繕》は、刷られた当初は影が薄かった。当時は〈コンボの冬〉の最中で、みんなアーティファクトをいじって遊ぶのに忙しかった。
最初に「ティンカー」デッキがブレイクしたのはウルザ・ブロック構築のプロツアーで、トップ8のうち6人を占めた。エクステンディッドでは当初は二種類のアプローチが試されていて、ひとつは「スーサイド・ブラウン」、もうひとつは「アイアン・ジャイアント」と呼ばれていた。スーサイド・ブラウンはスタンダードでの構築をベースにしていて、やはり最強のアーティファクト戦略を目指すデッキだった。つまり《ファイレクシアの処理装置》を可能な限り早く場に出して、巨人を降臨させる。たった4マナで起動できる《処理装置》が回り出せば殆どのデッキにはどうすることもできない。《崩れゆく聖域》は《処理装置》で支払ったライフを事実上なかったことにしてくれるし、《処理装置》がゲームを支配するまでの時間を稼いでくれる。ジョン・フィンケルとボブ・マーハーが世界選手権の決勝で実質的なミラーマッチを戦ったのは、まさしくこのデッキが環境を支配していたからだった。ボブ・マーハーの「ティンカー」には、その後マスターズ優勝という戦績も加わることになった。
《修繕》を悪用しようと思ったら、まず思いつくのができるだけマナ・コストの高いアーティファクトを探してきてそのコストを踏み倒そうとすることだが、実際のところこのやり方だと《修繕》は大して強くない。コストの高いアーティファクトは基本的に弱いからだ。一番ましなのが《白金の天使》だが、それだって対処が難しいカードじゃない。《修繕》が強いのは、《ファイレクシアの処理装置》や《スランの発電機》を出せるだけで充分以上な効果なのに、ひとたびそれらのカードが場に出てしまえば、1、2枚のカードの損は殆ど問題にならないからだ。それに加えてライブラリーから好きなカードを探し出せる能力があって、コストには余った無色のマナソースをあてることができる。
後に「ティンカー」がエクステンディッド環境を支配したときには、このデッキは大量のマナを稼ぐ手段とそのマナを勝利に結びつける手段をそれぞれ何通りも持ち合わせていた。このデッキがマナを大量生産することを止めるのは不可能で、ひとたびマナを生産されてしまったら、素早くエンドカードが飛び出してくる。あまりにも脅威が早すぎるため、どんなデッキも有効な回答は用意できなかった。逆に「ティンカー」はたとえ防御側に回っても、相手の攻撃を押しとどめるアーティファクトをサーチする手段を複数持っていた。
プロツアー・ニューオーリーンズでは、環境全体としては伝統的なティンカーに支配されていたが、勝利を収めたのは先進的な構成のリカルド・オステルベリィのデッキだった。彼のデッキがやってのけたことは、僕たちのチームがテストしてみようとすら思いつかなかったことだった。
ここまでは初期のミラディンの力の片鱗にすぎない。この後事態はずっとずっと悪くなっていく。
薬瓶親和/イェルガー・ヴィーガーズマ プロツアー・神戸:4位,2004-02-27~29(ミラディン・ブロック構築)
メインデッキ:
4《霊気の薬瓶/Aether Vial》
2《彩色の宝球/Chromatic Sphere》
4《頭蓋骨絞め/Skullclamp》
1《威圧のタリスマン/Talisman of Dominance》
4《電結の荒廃者/Arcbound Ravager》
4《電結の働き手/Arcbound Worker》
4《金属ガエル/Frogmite》
4《マイアの処罰者/Myr Enforcer》
3《マイアの回収者/Myr Retriever》
3《羽ばたき飛行機械/Ornithopter》
4《大霊堂の信奉者/Disciple of the Vault》
4《物読み/Thoughtcast》
4《ダークスティールの城塞/Darksteel Citadel》
2《大焼炉/Great Furnace》
4《教議会の座席/Seat of the Synod》
4《囁きの大霊堂/Vault of Whispers》
4《ちらつき蛾の生息地/Blinkmoth Nexus》
1《空僻地/Glimmervoid》
サイドボード:
3《起源室/Genesis Chamber》
1《マイアの回収者/Myr Retriever》
1《炉のドラゴン/Furnace Dragon》
4《静電気の稲妻/Electrostatic Bolt》
3《恐怖/Terror》
1《大焼炉/Great Furnace》
2《空僻地/Glimmervoid》
ぶっ壊れたアーティファクトの雪崩の真最中に、ひとりの男が《霊気の薬瓶》が転がり落ちてくるのを見た。僕はこんなカードがあっていいのか疑いながら(*17)も、セットのベスト10にこのカードを入れて、
時が経つと、状況は悪化していった。ブロック構築のトーナメントは完全に親和に支配され、スタンダードでも同様だった。ウィザーズ社は《頭蓋骨締め》のみならず《大霊堂の信奉者》とアーティファクトランド全てを禁止にして、親和が本当に完全に死に絶えるようにせざるを得なくなった。確かに目論見通り親和は死んだ。だが、その時にはすでに深い傷跡が刻まれたあとだった。多くのプレイヤーがマジックを去るか、あるいは数ヶ月間潜伏することを選んでいて、僕もそのひとりだった。誰も
今やマジックは復活し、往時より強固な立場を築いているが、しかし親和の君臨はマジックのもっとも根本的な失敗だったといえるだろう。たったひとつのデッキが全員を不幸にしていたのに、あまりにも長い期間存続が許されていたのだ。
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(*17)僕はこんなカードがあっていいのか疑いながら
自信なし。ちょっと長めに引用してみる。この注の部分は青字。
Amidst an avalanche of broken artifacts, one man saw Aether Vial coming. I doubt my noticing it, putting it in my top ten of the set, and building this version of Affinity made that much difference.
最初さらっと見て「僕はこれに気付いていたかどうか憶えていないんだけど」というような意味かと思ったのだが、その後のトップ 10 に入れたというのと整合しない。あと分詞構文って割と何気なく訳しちゃうけど突き詰めると正しいかどうか自信なくなってくるな。
(*18)誰もわかりきった壁にぶちあたって死ぬことを望んではいなかったし、際限なく続く親和同士のミラーマッチで退屈とストレスを味わい続けたくもなかったからだ。
今週のどハマリ。前半部分が本当にわからない。
No one wanted to face dying out of nowhere on a consistent basis or the tedium and frustration of endless Affinity mirrors.
「out of nowhere」は成句で「突然」「だしぬけに」なんだけどぴんと来ない。「consistent basis」は「首尾一貫した基礎」だけど、それもなにを指しているのかわからない。後半はどうってことないのだが。
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フェアリー/パウロ・ヴィトフ・ダモ・ダ・ホサ ―― プロツアー・ハリウッド:8位,2008-05-23~25
メインデッキ:
4 《霧縛りの徒党/Mistbind Clique》
4 《ウーナの末裔/Scion of Oona》
4 《呪文づまりのスプライト/Spellstutter Sprite》
4 《謎めいた命令/Cryptic Command》
4 《ルーンのほつれ/Rune Snag》
4 《恐怖/Terror》
3 《ヴェンディリオン三人衆/Vendilion Clique》
4 《祖先の幻視/Ancestral Vision》
4 《苦花/Bitterblossom》
4 《島/Island》
2 《フェアリーの集会場/Faerie Conclave》
4 《変わり谷/Mutavault》
3 《涙の川/River of Tears》
4 《人里離れた谷間/Secluded Glen》
2 《沈んだ廃墟/Sunken Ruins》
4 《地底の大河/Underground River》
2 《ペンデルヘイヴン/Pendelhaven》
サイドボード:
3 《ボトルのノーム/Bottle Gnomes》
3 《剃刀毛のマスティコア/Razormane Masticore》
2 《残忍なレッドキャップ/Murderous Redcap》
3 《滅び/Damnation》
4 《思考囲い/Thoughtseize》
《苦花》が刷られる前ですら「フェアリー」デッキは有力なデッキだったが、《苦花》のおかげでこのデッキは他のデッキでは手の届かないレベルに達した。《苦花》さえ場に出てしまえば「フェアリー」は殆ど負けようがないし、場に出なかったとしてもそれなりのクリーチャーデッキとして戦える。「フェアリー」はどんな展開でもうまく戦うことができて、しばしば予想外の動きをし、対戦相手のあらゆる小さなミスを逃さずとがめたてることができる。
ゆっくりと、だが確実に少しずつ少しずつプレイヤーたちはダークサイドに堕ちていき、少しずつ少しずつミラーマッチが増え、それはしばしば一方だけが場に出した《苦花》で勝敗が決した。こうなるとフェアリーの優位性は薄れ、数多くのデッキの中のひとつという位置づけになったが、それでもこのデッキの柔軟性とパワーのおかげでトーナメントでの使用率は3割前後程度の数字を保ち、常に平均以上の成績を叩き出した。ブロック構築、スタンダード、エクステンディッドと、フォーマットやカードプールは変わっても、「フェアリー」はその翼を広げ続け、デッキは本質的な部分ではずっと変わらなかった。このデッキに数え切れないほどの時間を注ぎ込んだプレイヤーたちは、使うデッキを変えようとはせず、自分たちの経験に基づいて微調整を施すことで、不利な環境や対戦相手にも備えられると信じていた。サム・ブラックはこの点で悪名高く、何度も何度も新作のデッキをプレイするのだと喧伝していたが、誰も彼には耳を貸さなかった。今日に至るまで、みんなが彼の言うことに耳を貸すだろうということを彼に納得させることは難しい。
「フェアリー」が嫌になってしまうのは決して姿を消してくれなかったことだ。このデッキを倒す簡単な方法は存在しなかった(とにかく柔軟性が非常に高いからだ)し、他にどんなカードが刷られようとも「フェアリー」デッキの基礎自体は全然変わらない。ある年の世界選手権に僕が初期のフェアリーを持ち込んだことがあったんだけど、研究開発部の連中が何のデッキを使ってるのか訊いてきた。フェアリーだってわかると、誰がデザインしたんだって訊いてきたもんだから、僕は連中を見渡しながらもったいぶって考え込んで、アーロン・フォーサイス(*19)を指さしてやった。僕は正しかった。
このデッキは一度や二度なら楽しい。でも同じカードを使っておんなじことを繰り返し繰り返しやってると、あっという間にくたびれ果ててしまう。もし「親和」がどんなコストを払ってもなんとしても避けなければならない災害型の失敗だったとしたら、「フェアリー」はもっと潜伏期間の長い疫病のようなものだ。決して物事をひどく悪くし過ぎることはなかったから、僕たちはただ座ってうんざりしていることしかできなかった。僕は《苦花》を禁止にしろという人全員に同情したけど、内心ではそんなことは決してできっこないと知っていた。
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(*19)アーロン・フォーサイス
Aaron Forsythe。チーム CMU(前編の(*8)参照)で活躍した後にウィザーズ社入り。いくつかのセットのデザイナーを勤めた後、研究開発部のディレクターとなった。ローウィンではリード・デザイナーをつとめているので、ズヴィの指摘はあながち冗談とも言い切れない。
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ソプター・デプス/ジェリー・トンプソン ―― マジック・オンライン・プロツアー予選:優勝,2010-01-17
メインデッキ:
4 《金属モックス/Chrome Mox》
1 《仕組まれた爆薬/Engineered Explosives》
2 《弱者の剣/Sword of the Meek》
3 《飛行機械の鋳造所/Thopter Foundry》
4 《闇の腹心/Dark Confidant》
4 《吸血鬼の呪詛術士/Vampire Hexmage》
1 《破滅の刃/Doom Blade》
1 《乱動への突入/Into the Roil》
4 《交錯の混乱/Muddle the Mixture》
1 《殺戮の契約/Slaughter Pact》
4 《渇き/Thirst》 For Knowledge
3 《女王への懇願/Beseech the Queen》
4 《思考囲い/Thoughtseize》
2 《島/Island》
2 《沼/Swamp》
4 《涙の川/River of Tears》
4 《沈んだ廃墟/Sunken Ruins》
3 《トレイリア西部/Tolaria West》
1 《アカデミーの廃墟/Academy Ruins》
4 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ/Urborg, Tomb of Yawgmoth》
4 《暗黒の深部/Dark Depths》
サイドボード:
1 《虚空の杯/Chalice of the Void》
1 《弱者の剣/Sword of the Meek》
1 《飛行機械の鋳造所/Thopter Foundry》
1 《トーモッドの墓所/Tormod’s Crypt》
3 《根絶/Extirpate》
1 《ハーキルの召還術/Hurkyl’s Recall》
3 《死の印/Deathmark》
3 《強迫/Duress》
1 《幽霊街/Ghost Quarter》
ソプター・デプス(以下 TTD)は、ゆっくりと締めあげるようにエクステンディッドを支配し、環境から締め出されるまでその死の手を離さなかった。つまり、《暗黒の深部》がローテイトアウトして、《弱者の剣》が禁止されるまで。TTD の対戦相手は決して何が起きているかを知ることはなかった。不幸にも何が起きるかを正確に知ったときには、二種類のコンボに全く違った角度から攻めたてられている。もしマリット・レイジや《暗黒の深部》に対処できるカードを入れていても、《飛行機械の鋳造所》の前では何の役にも立たないし、《飛行機械の鋳造所》への回答を握りしめていても、《暗黒の深部》を止めることはできない。さらに TTD は相手の手札を《思考囲い》や《強迫》でのぞき込んできて、《闇の腹心》で第3の角度からアドヴァンテージを稼ぎにかかり、それらをどう組み合わせれば相手が対処できないかを経験から知っている。このデッキには本当にたくさんできることがあって、大抵の問題にも様々なカードをサーチする能力を使って対処することができる。
ソプター・デプスは他の著名なデッキができなかったことを成し遂げている。すなわち、対戦相手はこのデッキを目の敵にしながらも、どうやったら勝てるのかが全くわからないのだ。誰ひとりとして、TTD に対抗できてかつ有効な脅威を突きつけることのできるデッキを、半分も完成させることができていない。もし勝つ手段を見つけられたとしても、あまりにも多くの妨害が待っているし、デッキの力の差は歴然としている。シーズンの終了までに、エクステンディッドのトップクラスプレイヤーたちはみな肩をすくめて TTD への回答を見つけるのを諦め、ミラーマッチでの戦い方を究めることに集中しはじめていた。
他のフォーマットには派生しなかったことと、あまり長く存続したデッキではなかったことで、TTD は過去の先達たちのような汚名は着せられずに済んだが、これ以上の実績を残せるデッキはちょっと考えづらい。まさに“倒せるものなら倒してみろ”と言わんばかりのデッキであり、その挑発に対して世界は全き沈黙で応じるしかなかった。
それこそが、僕にとっての、真の支配だ。
最初の候補一覧を作り、その中から最終的な 11 のデッキを選ぶのにも協力してくれたジョン・デイル・ビーティに感謝したい。
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というわけで後編でした。随分かかったと思ったけどまだ三週間経ってないのだから悲観したものでもないですね。しかしどういうわけか後編の方が難しくて、時間がかかってしまいました。
註については特にコメントもありませんでしたし引き続き途中に挟んでいます。少なくとも書いている方としてはこの方が楽なので。
例によって誤訳の指摘や「自分ならこう訳す」といった意見は歓迎します。今回特に難しかったのでお知恵を拝借できると有難いです。コメント欄へお願いします。
ちょっとモティヴェイションが落ちてきたので、次に何をやるかは悩みどころです。
翻訳:俺が使った最強デッキ(抄)/ブライアン・キブラー
2011年9月8日 翻訳 コメント (10)ズヴィの後編はちょっとあとまわしにして、今回は箸休め的にキブラーの自作デッキ解説を。元記事はもっともっと長いのですが、レッドゾーンのところだけ訳してみました。個人的にレッドゾーンってデッキはかなり好きで、MTG Wiki の「レッドゾーン」の項は殆どおれひとりで書いたほどなのですが、今回この記事を読んだらやっぱり新たに知れたこともありました。
原文:The Dragonmaster’s Lair - The Best Decks I’ve Ever Played (2011-04-08)
http://www.starcitygames.com/magic/misc/22234_The_Dragonmasters_Lair_The_Best_Decks_Ive_Ever_Played.html
デッキ名:レッドゾーン
トーナメント:プロツアー・シカゴ 2000
デッキリスト:
メインデッキ:
4 《極楽鳥/Birds of Paradise》
4 《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》
4 《リバー・ボア/River Boa》
4 《キマイラ像/Chimeric Idol》
4 《ブラストダーム/Blastoderm》
3 《翡翠のヒル/Jade Leech》
4 《古代のハイドラ/Ancient Hydra》
2 《煽動するものリース/Rith, the Awakener》
3 《増進+衰退/Wax+Wane》
4 《ハルマゲドン/Armageddon》
8 《森/Forest》
4 《低木林地/Brushland》
4 《真鍮の都/City of Brass》
4 《カープルーザンの森/Karplusan Forest》
4 《リシャーダの港/Rishadan Port》
サイドボード:
3 《カヴーのカメレオン/Kavu Chameleon》
4 《アルマジロの外套/Armadillo Cloak》
2 《サイムーン/Simoon》
3 《サーボの命令/Tsabo’s Decree》
2 《野火/Flashfires》
1 《抹消/Obliterate》
ストーリー:
世界選手権が終わってみると、俺はまた権利無しの立場に戻ってるってことに気がついた。当時はまだニューイングランドに住んでたんだけど、とにかく夏中プロツアー予選に出続けて、一度も権利が取れなかった。秋になったら学校に戻らなくちゃならなくなって、当面プロツアーに戻れる見込みはなくなった。ある日、ベアネイキッド・レディース(*1)のライヴに行って、すっかり遅くなって(ついでにしこたま酔っぱらって)帰ったら、ダン・ブライディからインスタント・メッセージが届いてた。
「よう、権利が取れたらしいな!」
心臓が胸郭の中でひっくり返った。何が取れたって? 俺はシカゴのレーティングによる権利獲得者リストの一覧表のリンクを踏んで、確かに自分の名前があるのを確認した。ちょうどその頃ウィザーズがスタンダードとエクステンディッドのレーティングを統合して「構築」にして、それに伴ってレーティングでの招待をあてにしてた奴が権利取れないなんてことがないように、全員のレーティングが「凍結」された。俺のレートは凍結直前で招待枠の下から二番目だったんだ。つってもその時その辺の事情までわかったわけじゃない。その日俺がしたことと言えば一晩中寮の周りを大声で叫びながら走り回ることと、カレッジの友人全員に「MISE MISE MISE MISE MISE!(*2)」って書いたメッセージを送りつけまくることだった。誰にも意味がわからなかったと思う。
俺は Apprentice(*3) でのプレイテストを再開した。面子は世界選手権の時とほぼ同じ。シカゴで予想されるデッキは「《ヤヴィマヤの火》(ファイアーズ)」デッキ、「レベル」、《まばゆい天使》を使った「青白コントロール」、そして「青黒《冥界のスピリット》コントロール」辺りで、大雑把にこの順番で多いだろうと思った。俺はこの全部に勝てるデッキを作り始めた。
テストを始めてすぐに、上に挙げたこの環境でのメジャーなデッキは全部マナ喰い虫だってことに気がついた。「ファイアーズ」は《はじける子嚢》を出したいし、「レベル」はクリーチャーを連れてくるために(*4)マナをめちゃくちゃ使う。そしてコントロールデッキはなにをするにもマナがたくさん欲しい。俺はこいつらを倒すために《ハルマゲドン》の入ったデッキを組んでやろうと決めた。
《ハルマゲドン》の最良のお供がマナ・クリーチャーなのは間違いないので、色は緑白に決まった。まずは直球の緑白デッキを組んでみたが、時代は《剣を鍬に》後《流刑への道》前だったんで、緑白デッキは対戦相手のクリーチャーに手出しができなかった。コントロールデッキが《まばゆい天使》という絶対殺さなきゃならないクリーチャーを積んでるってわかってるのに除去無しで戦うのは嫌だった。当時「レベル」が使ってたみたいに《パララクスの波》を入れる手も考えたんだが、《ヤヴィマヤの火》《はじける子嚢》《パララクスの波》があふれる環境で、エンチャント除去はみんな積んでるだろうから、エンチャントにクリーチャー除去の役目を任せる気にはなれなかった。
そこへ《古代のハイドラ》があらわれた。アプレンティスではだいたいベン・ルビンと調整してたんだけど、《ハイドラ》はルビンが「ファイアーズ」に入れてたあんまり見慣れないカードだった。俺は《ハイドラ》が気に入った。殆どの除去呪文と違って、どんな時に引いても無駄カードにならないのがいい。《まばゆい天使》を倒せるだけじゃなくて、複数の《ラノワールのエルフ》や《極楽鳥》を片付けて、その後の《ハルマゲドン》を壊滅的な打撃にすることもできる。緑白が緑白赤になるまで時間はかからなかった。
運命というべきだろう、その三色のマルチカラーのカードが《扇動するもの、リース》だった。俺は「ファイアーズ」デッキはでかいクリーチャーを倒す有効な手段を持ってないってことに気付いてた。ファイアーズとやり合う一番いい方法は、エンチャント除去をデッキに入れつつ、相手よりでかいクリーチャーを出すことだ。リースはこのプランの中心になった。彼女は《ブラストダーム》をブロックしても生き残れる(被覆があるおかげで《ヤヴィマヤの火》で対象にとることができないからだ)し、1回でも殴って苗木を出すことができれば、ファイアーズ側が挽回することは殆ど不可能だ。
ファイアーズの棺桶に打ち込むための最後の釘をサイドボードに用意した。《アルマジロの外套》は州別選手権でジョン・ソンヌが使ってた緑白デッキのサイドボードで見かけたカードなんだが、「ファイアーズ」デッキとのマッチアップには完璧に思えた。面白かったのは、そもそもは《翡翠のヒル》とか《リバー・ボア》とかに《外套》をつけて盤面を支配したり、「《ヤヴィマヤの火》+《はじける子嚢》」の総攻撃に備えるためのライフを稼いだりするだけの心算だったのが、実際使ってみるともっとずっとすごいことができるカードだったってこと。
《リース》に《アルマジロの外套》をつけたってのがトーナメントの後には話題になってたんだが、一番役に立ったサイドボードは2枚のインスタントだった。《サイムーン》と《サーボの命令》はこのイベントを通しての MVP だ。どっちも最後の方に足したカードだったが――《命令》なんて当日の朝入れたんだぜ――それぞれ完璧に「ファイアーズ」と「レベル」を叩きのめしてくれた。ファイアーズとの対戦はとにかくマナがなにより重要で、特に絶対に相手には充分なマナを与えないようにしなくちゃいけない。《ハルマゲドン》と《古代のハイドラ》がその仕事の担当なんだが、《サイムーン》はもっと速い。俺は2枚の《サイムーン》だけで何ゲームかは拾ったと思う。《サーボの命令》はレベルを使ってる対戦相手が全員すげえ驚いてたが、到底勝てそうもないゲームをたった一枚でひっくり返してくれて、これだけでマッチアップの相性までこっちの有利がつくぐらいだった。
もしあの準決勝でもう少し引きに恵まれて、もう少しだけいいプレイングができてたら、カイ・ブッディが「ジャーマン・ジャガーノート」って呼ばれるのもちょっとだけ遅くなってたかも知れない。で、俺がプロツアーを勝つのも 10 年ばかり早くなってたかも知れないんだ。
---------------------------
(*1)ベアネイキッド・レディース
Barenaked Ladies。バンドの名前。
(*2)mise
マジックのスラングで、単なるラッキーを指す言葉らしい。語源は might as well から、とのこと。MiseTings のネーミングもこれが由来らしい。全く知らなかった。
参考→http://wiki.mtgsalvation.com/article/Magic_slang
(*3)Apprentice
オンラインでマジックの対戦ができるフリーウェア。
(*4)クリーチャーを連れてくるために
「レベル」という部族テーマのメカニズムのひとつに「ライブラリからレベル・クリーチャーを直接場に出せる」という能力があって、「レベル」デッキの強さはこのメカニズムがもたらす膨大なカード/ボードアドヴァンテージにある。
---------------------------
--
なんでこのデッキが好きかというと、ひとつは環境を殆ど完璧に読み切れていて、なおかつ誰もやらないアプローチをしてるから。「アグロ・ウォーター」がいたのは計算違いだったみたいだけど、それ以外はデッキ分布も大体キブラーの予想通り。
もうひとつは、にもかかわらず完璧とは到底言い難いデッキだから。《リシャーダの港》全盛期に《真鍮の都》を4枚使った3色デッキ、しかも自分でも《港》4枚という攻めっぷり。言われてみると確かにいかにも当日の朝突っこみましたという感じの《サーボの命令》。
でも、そんな突っ込みどころがありながらコンセプトの正しさだけで勝ち上がった、というところがなんとなく面白いなあと思う。好きなのはその辺りまで含めて、かな。
--
アクセス解析好きなのでちまちま見てるんだけど、放課後まじっく倶楽部さんがとにかく強い。Private Square さんと互角ぐらいだろうと思っていたのだが、体感ではいささか差があるようだ。ただ、トップページの形態の違いも影響してそうではある。たとえば Private Square さんは1日経つともう前日のリンクはかなり下に行ってしまうのだけど、放課後さんだとトップページからはみ出すまではほぼ最初の一画面に収まっている。調べようがないけどこの差はたぶん結構あると思う。
あと先日の PV の「試合に負けるための 10 の方法」は遊戯王プレイヤーの方のツイートからリンク張られててわりとちょくちょく人が来てた。面白い。普遍的な内容だとそういうこともあるか。
原文:The Dragonmaster’s Lair - The Best Decks I’ve Ever Played (2011-04-08)
http://www.starcitygames.com/magic/misc/22234_The_Dragonmasters_Lair_The_Best_Decks_Ive_Ever_Played.html
デッキ名:レッドゾーン
トーナメント:プロツアー・シカゴ 2000
デッキリスト:
メインデッキ:
4 《極楽鳥/Birds of Paradise》
4 《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》
4 《リバー・ボア/River Boa》
4 《キマイラ像/Chimeric Idol》
4 《ブラストダーム/Blastoderm》
3 《翡翠のヒル/Jade Leech》
4 《古代のハイドラ/Ancient Hydra》
2 《煽動するものリース/Rith, the Awakener》
3 《増進+衰退/Wax+Wane》
4 《ハルマゲドン/Armageddon》
8 《森/Forest》
4 《低木林地/Brushland》
4 《真鍮の都/City of Brass》
4 《カープルーザンの森/Karplusan Forest》
4 《リシャーダの港/Rishadan Port》
サイドボード:
3 《カヴーのカメレオン/Kavu Chameleon》
4 《アルマジロの外套/Armadillo Cloak》
2 《サイムーン/Simoon》
3 《サーボの命令/Tsabo’s Decree》
2 《野火/Flashfires》
1 《抹消/Obliterate》
ストーリー:
世界選手権が終わってみると、俺はまた権利無しの立場に戻ってるってことに気がついた。当時はまだニューイングランドに住んでたんだけど、とにかく夏中プロツアー予選に出続けて、一度も権利が取れなかった。秋になったら学校に戻らなくちゃならなくなって、当面プロツアーに戻れる見込みはなくなった。ある日、ベアネイキッド・レディース(*1)のライヴに行って、すっかり遅くなって(ついでにしこたま酔っぱらって)帰ったら、ダン・ブライディからインスタント・メッセージが届いてた。
「よう、権利が取れたらしいな!」
心臓が胸郭の中でひっくり返った。何が取れたって? 俺はシカゴのレーティングによる権利獲得者リストの一覧表のリンクを踏んで、確かに自分の名前があるのを確認した。ちょうどその頃ウィザーズがスタンダードとエクステンディッドのレーティングを統合して「構築」にして、それに伴ってレーティングでの招待をあてにしてた奴が権利取れないなんてことがないように、全員のレーティングが「凍結」された。俺のレートは凍結直前で招待枠の下から二番目だったんだ。つってもその時その辺の事情までわかったわけじゃない。その日俺がしたことと言えば一晩中寮の周りを大声で叫びながら走り回ることと、カレッジの友人全員に「MISE MISE MISE MISE MISE!(*2)」って書いたメッセージを送りつけまくることだった。誰にも意味がわからなかったと思う。
俺は Apprentice(*3) でのプレイテストを再開した。面子は世界選手権の時とほぼ同じ。シカゴで予想されるデッキは「《ヤヴィマヤの火》(ファイアーズ)」デッキ、「レベル」、《まばゆい天使》を使った「青白コントロール」、そして「青黒《冥界のスピリット》コントロール」辺りで、大雑把にこの順番で多いだろうと思った。俺はこの全部に勝てるデッキを作り始めた。
テストを始めてすぐに、上に挙げたこの環境でのメジャーなデッキは全部マナ喰い虫だってことに気がついた。「ファイアーズ」は《はじける子嚢》を出したいし、「レベル」はクリーチャーを連れてくるために(*4)マナをめちゃくちゃ使う。そしてコントロールデッキはなにをするにもマナがたくさん欲しい。俺はこいつらを倒すために《ハルマゲドン》の入ったデッキを組んでやろうと決めた。
《ハルマゲドン》の最良のお供がマナ・クリーチャーなのは間違いないので、色は緑白に決まった。まずは直球の緑白デッキを組んでみたが、時代は《剣を鍬に》後《流刑への道》前だったんで、緑白デッキは対戦相手のクリーチャーに手出しができなかった。コントロールデッキが《まばゆい天使》という絶対殺さなきゃならないクリーチャーを積んでるってわかってるのに除去無しで戦うのは嫌だった。当時「レベル」が使ってたみたいに《パララクスの波》を入れる手も考えたんだが、《ヤヴィマヤの火》《はじける子嚢》《パララクスの波》があふれる環境で、エンチャント除去はみんな積んでるだろうから、エンチャントにクリーチャー除去の役目を任せる気にはなれなかった。
そこへ《古代のハイドラ》があらわれた。アプレンティスではだいたいベン・ルビンと調整してたんだけど、《ハイドラ》はルビンが「ファイアーズ」に入れてたあんまり見慣れないカードだった。俺は《ハイドラ》が気に入った。殆どの除去呪文と違って、どんな時に引いても無駄カードにならないのがいい。《まばゆい天使》を倒せるだけじゃなくて、複数の《ラノワールのエルフ》や《極楽鳥》を片付けて、その後の《ハルマゲドン》を壊滅的な打撃にすることもできる。緑白が緑白赤になるまで時間はかからなかった。
運命というべきだろう、その三色のマルチカラーのカードが《扇動するもの、リース》だった。俺は「ファイアーズ」デッキはでかいクリーチャーを倒す有効な手段を持ってないってことに気付いてた。ファイアーズとやり合う一番いい方法は、エンチャント除去をデッキに入れつつ、相手よりでかいクリーチャーを出すことだ。リースはこのプランの中心になった。彼女は《ブラストダーム》をブロックしても生き残れる(被覆があるおかげで《ヤヴィマヤの火》で対象にとることができないからだ)し、1回でも殴って苗木を出すことができれば、ファイアーズ側が挽回することは殆ど不可能だ。
ファイアーズの棺桶に打ち込むための最後の釘をサイドボードに用意した。《アルマジロの外套》は州別選手権でジョン・ソンヌが使ってた緑白デッキのサイドボードで見かけたカードなんだが、「ファイアーズ」デッキとのマッチアップには完璧に思えた。面白かったのは、そもそもは《翡翠のヒル》とか《リバー・ボア》とかに《外套》をつけて盤面を支配したり、「《ヤヴィマヤの火》+《はじける子嚢》」の総攻撃に備えるためのライフを稼いだりするだけの心算だったのが、実際使ってみるともっとずっとすごいことができるカードだったってこと。
《リース》に《アルマジロの外套》をつけたってのがトーナメントの後には話題になってたんだが、一番役に立ったサイドボードは2枚のインスタントだった。《サイムーン》と《サーボの命令》はこのイベントを通しての MVP だ。どっちも最後の方に足したカードだったが――《命令》なんて当日の朝入れたんだぜ――それぞれ完璧に「ファイアーズ」と「レベル」を叩きのめしてくれた。ファイアーズとの対戦はとにかくマナがなにより重要で、特に絶対に相手には充分なマナを与えないようにしなくちゃいけない。《ハルマゲドン》と《古代のハイドラ》がその仕事の担当なんだが、《サイムーン》はもっと速い。俺は2枚の《サイムーン》だけで何ゲームかは拾ったと思う。《サーボの命令》はレベルを使ってる対戦相手が全員すげえ驚いてたが、到底勝てそうもないゲームをたった一枚でひっくり返してくれて、これだけでマッチアップの相性までこっちの有利がつくぐらいだった。
もしあの準決勝でもう少し引きに恵まれて、もう少しだけいいプレイングができてたら、カイ・ブッディが「ジャーマン・ジャガーノート」って呼ばれるのもちょっとだけ遅くなってたかも知れない。で、俺がプロツアーを勝つのも 10 年ばかり早くなってたかも知れないんだ。
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(*1)ベアネイキッド・レディース
Barenaked Ladies。バンドの名前。
(*2)mise
マジックのスラングで、単なるラッキーを指す言葉らしい。語源は might as well から、とのこと。MiseTings のネーミングもこれが由来らしい。全く知らなかった。
参考→http://wiki.mtgsalvation.com/article/Magic_slang
(*3)Apprentice
オンラインでマジックの対戦ができるフリーウェア。
(*4)クリーチャーを連れてくるために
「レベル」という部族テーマのメカニズムのひとつに「ライブラリからレベル・クリーチャーを直接場に出せる」という能力があって、「レベル」デッキの強さはこのメカニズムがもたらす膨大なカード/ボードアドヴァンテージにある。
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なんでこのデッキが好きかというと、ひとつは環境を殆ど完璧に読み切れていて、なおかつ誰もやらないアプローチをしてるから。「アグロ・ウォーター」がいたのは計算違いだったみたいだけど、それ以外はデッキ分布も大体キブラーの予想通り。
もうひとつは、にもかかわらず完璧とは到底言い難いデッキだから。《リシャーダの港》全盛期に《真鍮の都》を4枚使った3色デッキ、しかも自分でも《港》4枚という攻めっぷり。言われてみると確かにいかにも当日の朝突っこみましたという感じの《サーボの命令》。
でも、そんな突っ込みどころがありながらコンセプトの正しさだけで勝ち上がった、というところがなんとなく面白いなあと思う。好きなのはその辺りまで含めて、かな。
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アクセス解析好きなのでちまちま見てるんだけど、放課後まじっく倶楽部さんがとにかく強い。Private Square さんと互角ぐらいだろうと思っていたのだが、体感ではいささか差があるようだ。ただ、トップページの形態の違いも影響してそうではある。たとえば Private Square さんは1日経つともう前日のリンクはかなり下に行ってしまうのだけど、放課後さんだとトップページからはみ出すまではほぼ最初の一画面に収まっている。調べようがないけどこの差はたぶん結構あると思う。
あと先日の PV の「試合に負けるための 10 の方法」は遊戯王プレイヤーの方のツイートからリンク張られててわりとちょくちょく人が来てた。面白い。普遍的な内容だとそういうこともあるか。
翻訳:歴史に残る支配的なデッキ(前編)/ズヴィ・モーショウィッツ
2011年9月3日 翻訳 コメント (2)同じ人の文章ばっかり訳してると脳の使う部分が偏るので違う人のを訳してみる。で、ズヴィ。今年の3月に SCG で書かれた記事。例によって少し長いので、前後編に分けます。
原文:The Most Dominant Decks Of All Time -- by Zvi Mowshowitz(*0) (2011-03-24)
http://www.starcitygames.com/magic/misc/21457_The_Most_Dominant_Decks_Of_All_Time.html
真の意味で“支配的な”デッキとはなんだろうか?
あるトーナメントの中で最良のデッキであることは簡単だ。あまたのコピーデッキより高い勝率を示すことや、トップ8に複数のプレイヤーを送り込むことも簡単だ。だから、誰かのデッキがその程度の成功をおさめたところでなにもがっかりすることはない(*1)。もし正しいコンセプトのデッキを正しいタイミングで使えば、きみはトーナメント会場を「支配」できる。それは実に素晴らしいことだ。きみはその日のトーナメントの「ソリューション」(*2)になれる。きみは他のプレイヤーたちが予想もしない角度から切り込んで、みんなが役にも立たない悪あがきをするのを眺めることができる。次の週になると、誰もがきみのデッキをコピーする。その次の週には、全員が対策を知っていて、そして世界は新しい平衡状態になる。
持続的な支配というのは難しい。真の支配的なデッキはメタゲームの産物やシステムの穴みたいなものじゃなくて、数週間は君臨する。これらはプレイテストを重ねた上で抜きん出て強く、ファンデッキ的な要素は一切なくて、純粋なデッキパワーを持っている。こういうデッキを倒すためにデッキリストをいじるのは簡単な仕事じゃない。それも、環境の他のデッキをまるっきり無視したとしてもだ。多くのデッキビルダーはサイドボードの対策スロットをたっぷり使って、メインでも歪んだ調整をして、やっとマッチアップが互角になったと感じられるのが関の山だ。で、そのデッキビルダーたちは自分が間違ってたことに気付いて、自分たちは革命を起こせない側なんだって気付くわけだ。
候補となるデッキの一覧を見て検討を重ねながら、僕は持続的な支配をなしとげたデッキを探していた。純粋に強くて、メタゲームの目標にされても生き残ることができたようなデッキ。つまり、複数のトーナメントにわたってメタゲームの中心であり続けたデッキか、たった1回の活躍でも誰もが知るにいたって、環境に知れ渡ることになったデッキだ。
そうしてリストのデッキは 11 にまで絞られた。つまりそれが、この記事で僕がとりあげるデッキの数ってわけだ。ここに挙がっていないデッキで、僕が入れるべきだったものがあると考える人は、是非フォーラムで議論をして欲しい。強い瞬間があったデッキは確かにたくさんある(*3)。
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(*0)Zvi Mowshowitz
アメリカ合衆国の誇る奇才デッキビルダーにしてライター。殿堂プレイヤー。独特のデッキ、面白い文章、奇矯な振る舞いで大人気。2005 年からウィザーズ・オヴ・ザ・コースト社で働いていたが、働き始めてから2週間で「全く楽しくない」と気付き、翌年には退職してしまったという経歴を持っている。
(*1)誰かのデッキがその程度の成功をおさめたところでなにもがっかりすることはない
くそ自信ない。ひとつ前の文から載せてみる。
It’s easy to put up a good match-win percentage over many copies or to fill a lot of Top 8 slots. There’s not even anything discouraging about that when it happens.
about that が何を指すのか、when it happens の it は何なのか、そして何故それが there’s not anything discouraging なのか、文の頭からケツまで解らない。ひとつ考えついたのは、(ズヴィによると)それは簡単なのだから、誰か自分以外の奴が作ったデッキがトップ8に何人も入ってたりしてもがっかりすることはないんだ、という解釈。一応その線に沿って訳しているが苦しい。難しい。
(*2)「ソリューション」
構築戦の、特定のトーナメントにおける最良のデッキ。プロツアー東京でモーショヴィッツ自身が使って優勝したデッキ「The Solution」が元ねた。「必ずしもフォーマット最強のデッキではないがその日のデッキ分布のもとでは一番いいデッキ」みたいなニュアンスを含意している。ちなみに本家 The Solution は7人が使って二日目に6人が残り、ひとりが優勝、トップ 16 にもうひとりだった。
(*3)強い瞬間があったデッキは確かにたくさんある
原文は「There are many decks that can make a strong case.」 make a strong case をどう訳したものか。
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ネクロポーテンス/グレアム・タトーマー ―― プロツアー・ニューヨーク:ジュニア部門優勝,1996-02-17/18(修正タイプ2)
メインデッキ:
1《象牙の塔/Ivory Tower》
3《ネビニラルの円盤/Nevinyrral’s Disk》
1《Zuran Orb》
4《惑乱の死霊/Hypnotic Specter》
4《Order of the Ebon Hand》
3《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》
3《ネクロポーテンス/Necropotence》
2《麻痺/Paralyze》
4《暗黒の儀式/Dark Ritual》
3《Demonic Consultation》
4《Hymn to Tourach》
4《Icequake》
18《沼/Swamp》
4《ミシュラの工廠/Mishra’s Factory》
2《露天鉱床/Strip Mine》
(訳注:サイドボードは未掲載)
ネクロポーテンス/レオン・リンドバック ―― プロツアー・ニューヨーク,1996-02-17/18(修正タイプ2)
メインデッキ:
1《象牙の塔/Ivory Tower》
1《ジェイラム秘本/Jalum Tome》
2《ネビニラルの円盤/Nevinyrral’s Disk》
2《鋸刃の矢/Serrated Arrows》
1《Zuran Orb》
4《惑乱の死霊/Hypnotic Specter》
3《ストロームガルドの騎士/Knight of Stromgald》
4《Order of the Ebon Hand》
1《Dance of the Dead》
4《ネクロポーテンス/Necropotence》
1《闇への追放/Dark Banishing》
4《暗黒の儀式/Dark Ritual》
4《生命吸収/Drain Life》
4《Hymn to Tourach》
1《霊魂焼却/Soul Burn》
17《沼/Swamp》
2《漆黒の要塞/Ebon Stronghold》
4《露天鉱床/Strip Mine》
サイドボード:
1《Apocalypse Chime》
1《フェルドンの杖/Feldon’s Cane》
1《ジェイラム秘本/Jalum Tome》
1《弱者の石/Meekstone》
2《ネビニラルの円盤/Nevinyrral’s Disk》
1《鋸刃の矢/Serrated Arrows》
3《拷問台/The Rack》
1《ストロームガルドの陰謀団/Stromgald Cabal》
1《拷問/Torture》
1《灰は灰に/Ashes to Ashes》
1《真鍮の都/City of Brass》
1《隠れ家/Safe Haven》
史上初のプロツアーでは、最良のデッキはジュニア部門にあらわれた。僕は土曜日に行われるイヴェントの参加に対して親から拒否権を発動されてしまって、なすすべなく脇で眺めながら、来る人来る人を《灰燼のグール》と《冥界の影》がフル投入された《ネクロポーテンス》デッキでなぎ倒しているしかなかった。(*4)
レオン・リンドバックはかなり正しいカード選択をしてるヴァージョンをシニア部門に持ち込んだけど、グレアム・タトーマーは他のプレイヤーがたどり着けなかった《Demonic Consultations》を3枚デッキに入れる英断を下していた。このカードのデッキを大幅に削って(時には即死して)しまう効果に他のプレイヤーたちはおびえてたが、グレアムは制限カード以外のあらゆるカードを1マナで持って来られる上に、緊急時には博打的な使い方もできる(*5)このカードの強さをよくわかっていた。グレアムは《生命吸収》で時間稼ぎをしようとはせず攻撃的な戦略をとっていて、肝腎の《ネクロポーテンス》を3枚しか入れていないというミスを犯していた。しかし、すぐにプレイヤーたちは4枚目の《ネクロポーテンス》を入れて、《Icequake》の代わりに《生命吸収》を入れるべきだという結論にたどり着いていた。
《ネクロポーテンス》に対処するのは当時のデッキにとって長期的な課題となった。多くのプレイヤーは対策カードを詰め込んで対抗しようとしたが、あまりにも頻繁に《Hymn to Tourach》や《露天鉱床》に妨害され、《ネビニラルの円盤》にずたずたにされた。《ネクロポーテンス》のプレイヤーは継続的にカードアドヴァンテージを稼ぐとともに、デッキに詰め込まれたほとんどあらゆる対策カードに対する回答をサーチすることができた。プロテクション(黒)や小型クリーチャーには《鋸刃の矢》があったし、《生の躍動》みたいなカードにすら《ネビニラルの円盤》は有効だった。《対抗呪文》も《ネクロポーテンス》を止められなかった。仮に《Hymn to Tourach》で落ちなくても、ネクロ側のプレイヤーは《暗黒の儀式》でカウンターをかいくぐって《ネクロポーテンス》を通してきた。もし《ネクロポーテンス》というドローエンジンを沈黙させても、デッキの残りの部分は普通に機能した。
結局、役に立った対抗策はふたつしかなかった。ひとつはバーン戦略だ。《ネクロポーテンス》デッキはあまりにも自分からライフを減らすため、《魔力のとげ》みたいなカードには耐えられなかった。バーンデッキは《ネクロポーテンス》との対戦以外ではぱっとしなかったが、とにかく自分の仕事はした。もうひとつは「ターボ・ステイシス」デッキ(*6)だった。《吠えたける鉱山》が《ネクロポーテンス》が稼ぎ出すカード差を埋めてくれて、かつマナをロックすることで《ネクロポーテンス》がもたらしたカードを使わせる機会を与えない。ゲームを長引かせることで、ネクロ側はドロー・ステップを飛ばすというデメリットで自滅していった。
--------------------------------------------
(*4)僕は土曜日に行われる~なぎ倒しているしかなかった。
自信なし。原文は以下の通り。
I was upstairs watching helplessly from the sidelines, unable to attend due to a parental veto of Saturday competition, and crushing all comers with my Necropotence deck built with a full complement of Ashen Ghouls and Nether Shadows.
「土曜日は出させてもらえなくて日曜日は会場の脇で見てた」というような状況だったのだろうと想像。
(*5)緊急時には博打的な使い方もできる
原文では「and in an emergency, the ability to roll the dice.」 1枚挿しのカードをサーチするのにも使ったということだろうか。
(*6)「ターボ・ステイシス」デッキ
《停滞》と《吠えたける鉱山》を用いたロックデッキ。《停滞》のアップキープコストを《吠えたける鉱山》による追加ドローで引いてくる土地でなんとかしよう、という大雑把なデッキ。
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デッドガイ・レッド/デイヴィッド・プライス ―― プロツアー・ロサンゼルス:優勝,1998-05-06~08(テンペスト・ブロック構築)
メインデッキ:
4《呪われた巻物/Cursed Scroll》
2《煮沸ばさみ/Scalding Tongs》
4《峡谷の山猫/Canyon Wildcat》
4《投火師/Fireslinger》
4《ジャッカルの仔/Jackal Pup》
4《モグの徴集兵部隊/Mogg Conscripts》
4《モグの狂信者/Mogg Fanatic》
4《モグの略奪者/Mogg Raider》
2《ラースのドラゴン/Rathi Dragon》
4《巨人の力/Giant Strength》
4《焚きつけ/Kindle》
16《山/Mountain》
4《不毛の大地/Wasteland》
サイドボード:
2《凶運の彫像/Jinxed Idol》
2《煮沸ばさみ/Scalding Tongs》
1《拷問室/Torture Chamber》
1《ラースのドラゴン/Rathi Dragon》
4《粉砕/Shatter》
1《黙示録/Apocalypse》
4《石の雨/Stone Rain》
僕がまだ世界の片隅に居て、自力で赤いデッキを「発見」したりしていた頃、既に世界の残りの部分ではそのデッキはそびえ立つ巨人と見なされていた。それまでにも支配的なデッキってのは存在したし、「プロス-ブルーム」デッキ(*7)はひとつ前のブロック構築のプロツアーでは大いなる脅威だったけど、このデッキはこれまでと違う点がふたつあった――広く知られていて、かつたどり着くのもいじるのも簡単だってことだ。このプロツアーが始まった時点では、様々なヴァリエーションこそあったけど、環境の4割近くは同じ色のデッキを持ち込もうとしているみたいだった。赤単はスタンダードのデッキと張り合えるほど強くて、ブロック構築じゃ並ぶものもなく、赤いデッキを倒すためだけに組まれたデッキですら満足に仕事をさせてもらえなかった。(これは支配的なデッキにはしばしば起きることなんだ。)
なんとか対抗できる程度には強いデッキは3つだけあった。ひとつは CMU(*8)の天才どもが作ったスリヴァー・デッキ「CMU グリーン」で、これはどうにか勝負には加わわれるってとこだった。最高成績は7位と同ポイントで、タイブレーカーの結果 11 位だったブライアン・シュナイダー。大差じゃなかったけど、洗練された赤単にはかなわなかった。
それよりは強かったのが、パワフルな《ボトルのノーム》を擁する「《生ける屍》」デッキで、ふたつのデッキがトップ8に残った。ベン・ルビンが使ってた三色ヴァージョンの方は決勝まで残って悪くないゲームをしてたんだけど、真打ちはダーウィン・キャッスルが組んだ二色ヴァージョンの方だ。もう少しでアダム・カッツにプロツアー優勝をもたらすとこだった。実に理にかなった構成で、マナトラブルを避けるために二色にまとめられてて、ナチュラルに厄介なクリーチャーたちが詰め込まれてた。僕と当たった時点では(*9)、ダーウィン・キャッスルは赤単に対して 7-0 という成績を残していた。あと1勝すればアダム・カッツと並んでトップ8へのタイブレーカーラインまで届いていたところだった。
終わってみると、赤単はずば抜けて強いデッキで、ブロック内でも最強の戦略だってことがはっきりした。他のデッキにも出番を与えるために、ブロック構築では赤単の最強カード《呪われた巻物》が禁止された。それでも赤単はなお使うに値する程度には強かったし、フォーマットにはバランスと活気が取り戻された。このブロックはめでたしめでたし、で終われたけど、ブロック構築って奴はしばしば片手に収まる程度しか使えるデッキがなくなっちゃったりする。またしてもおんなじぐらいぶっ壊れたブロック構築のプロツアーが開催されるまで、それほどの年月はかからなかった。
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(*7)「プロス-ブルーム」デッキ
《死体の花》と《資源の浪費》《自然の均衡》《繁栄》を用いたコンボデッキ。手札とマナを相互に変換しながらマナを増やし、最後は《生命吸収》で止めを刺す。ブロック構築とは思えぬほど入り組んだコンボデッキ。
(*8)CMU
1997 年から 00 年代初頭にかけて活躍した、一説にはマジック史上最も成功したチーム……なのだが日本では妙に知名度が低い(と思う)。チーム名の由来はカーネギー・メロン大学の略で、実際キャンパス内でマジックやってたらしい。後にウィザーズ・オヴ・ザ・コースト社の研究開発部に多くのメンバーを送り込んだ。
(*9)僕と当たった時点では
ズヴィはこの時が初のシニア・プロツアー参戦で、本人によると《日和見主義者》の入った赤単を使い、キャッスルに勝って 12 位に入賞した。13 位の石田格が 10-4 ながらオポネントマッチウィンパーセンテージが 70% あったそうなので、ズヴィは 10-3-1 ぐらいだったと推測される。
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CMU アカデミー/エリック・ローアー ―― プロツアー・ローマ:トップ8,1998-11-13~15(エクステンディッド)
メインデッキ:
4《水蓮の花びら/Lotus Petal》
4《魔力の櫃/Mana Vault》
4《モックス・ダイアモンド/Mox Diamond》
3《巻物棚/Scroll Rack》
2《ウルザのガラクタ/Urza’s Bauble》
1《精神力/Mind Over Matter》
3《中断/Abeyance》
2《対抗呪文/Counterspell》
4《衝動/Impulse》
1《天才のひらめき/Stroke of Genius》
3《吸血の教示者/Vampiric Tutor》
4《時のらせん/Time Spiral》
4《意外な授かり物/Windfall》
3《真鍮の都/City of Brass》
3《Tundra》
4《Underground Sea》
3《Volcanic Island》
4《不毛の大地/Wasteland》
4《トレイリアのアカデミー/Tolarian Academy》
サイドボード:
1《ゴリラのシャーマン/Gorilla Shaman》
4《寒け/Chill》
1《孤独の都/City of Solitude》
1《憂鬱/Gloom》
1《中断/Abeyance》
1《転覆/Capsize》
2《水流破/Hydroblast》
3《紅蓮破/Pyroblast》
1《非業の死/Perish》
プロツアー・ローマはいくつかの点で特別なプロツアーだったと言えるけど、中でもいちばん特別だったのは、デッキ分布がカード資産に影響を受けたってことだ。この時点での最強のデッキは、発見したり構築したりするのが難しいわけじゃなかったのに、パーツを手に入れられなくて使うことができなかったプレイヤーがたくさん居たんだ。未だにどうしてだかわからないんだけど、この時僕が使ったデッキは本当にひどいもんで、当時のスタンダードのデッキの方がよっぽどましって代物だった。それはそれとして、多くのプレイヤーは「アカデミー」デッキを使いたくても《トレイリアのアカデミー》や《時のらせん》が手に入らなくて諦めていた。そういう事情さえなければ「アカデミー」デッキは歴史的な使用率になってたはずだ。といっても実際に残した数字の二倍は行かなかっただろうけど(*10)。でも、首尾よく「アカデミー」デッキで出ることができたプレイヤーたちの多くは、その幸運を上回るつけを払わされる羽目になった。
「アカデミー」デッキは本当に強力で支配的だったのに、このプロツアーでは実に控えめな結果しか残せなかった。大半のプレイヤーは「アカデミー」のようなデッキについてはまるで練習不足だった。特に厳しいトーナメントでの経験が不足していて、結果として多くのゲームや試合を落とすことになった。適切に構築されてなかったり、正しいサイドボーディングができていないデッキもすごく多かった。トミ・ホヴィが使って優勝したデッキリストは明らかに最低限の構成だったが、これはホヴィが《Force of Will》をはじめとするエクステンディッドならではのパワーカードに手を伸ばさず、スタンダードのデッキをそのまま持ち込んで若干修正する作戦をとったからだ。充分優勝に値するデッキだったが、最強のデッキを持ち込んだのは(《Gustha’s Scepter》を使ったハッカーのデッキを別にすれば)チーム CMU だったと思う。連中は《吸血の教示者》がデッキにぴったりだって気付いてた。これがあればキーカードを探すことができるのと同時に、1枚挿しのサイドボードをとれるので、サイドボーディングの枚数が多すぎてデッキ本来の動きが機能不全に陥る事態を防げた。
だれもが禁止はやむを得ないと考えていたことは疑いの余地がなかった。それ以外に「アカデミー」の支配を止める方法はなかった。
「アカデミー」が去ると、「ハイ・タイド」デッキがコンボデッキの中心に浮かび上がった。でも「アカデミー」に対処する必要がなくなった今となっては、「ハイ・タイド」はどんなデッキでも充分対処可能なデッキになっていた――ウルザズ・レガシーが発売され、《大あわての捜索》が世に出るまでは。
かくして、「ハイ・タイド」は支配的なデッキの座を受け継いだ。
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(*10)といっても実際に残した数字の二倍は行かなかっただろうけど
原文は although it wouldn’t have put up the same percentages as it did. 最初「それがかつて叩き出したパーセンテージには及ばなかっただろう」と解釈して、どっか別のトーナメントですげえ使用率出してたのかなと思ったのだが、だとするとローマではカード資産が原因で人数が少なかったというのに説明がつかないし、時制的にも最後 it had done になってないとおかしい気がするのでこう訳した。合ってるかはわからない。
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ハイ・タイド/カイ・ブッディ ―― グランプリ・ウィーン:優勝,1999-05-13~15(エクステンディッド)
メインデッキ:
1《パリンクロン/Palinchron》
2《Arcane Denial》
1《渦まく知識/Brainstorm》
4《対抗呪文/Counterspell》
4《Force of Will》
3《大あわての捜索/Frantic Search》
4《High Tide》
4《衝動/Impulse》
1《神秘の教示者/Mystical Tutor》
3《天才のひらめき/Stroke of Genius》
3《転換/Turnabout》
3《商人の巻物/Merchant Scroll》
4《時のらせん/Time Spiral》
16《島/Island》
4《Thawing Glaciers》
3《Volcanic Island》
サイドボード:
2《無のロッド/Null Rod》
4《知恵の蛇/Ophidian》
4《水流破/Hydroblast》
4《紅蓮破/Pyroblast》
1《山/Mountain》
「アカデミー」デッキは組むのが難しく、構築ミスも起こりがちだが、「ハイ・タイド」デッキは驚くほど構築ミスの少ないデッキだ。このデッキにはマナソースと打ち消し呪文とドロー呪文と勝ち手段しか入ってなくて、早ければ3ターン目には勝ってしまう。対戦相手はタップアウトすれば負けてしまうかも知れないとわかっていても、どうすればいいかわからない。
《Thawing Glaciers》が入っていることで、「ハイ・タイド」デッキはコントロールデッキ並みに受動的に動くことができる。さらにサイドボード後には《知恵の蛇》と《紅蓮波》、あるいは打ち消し呪文の増量として《紅蓮波》だけを入れることで、文字通り本物のコントロールデッキに変形することもできる。「ハイ・タイド」に対抗する最も有効な戦略は3ターン目に「ハイ・タイド」側が勝ち手段を整えてしまう前に片をつけてしまうことだったが、(訳注:《大あわての捜索》のおかげで(*11))その隙は半ターン縮まった。「ハイ・タイド」はカウンターデッキより打ち消し合戦に強く、ビートダウンデッキよりも確実に速く、対抗する術は殆どなかった。
ウィーンの二日目はほぼ完全に「ハイ・タイド」に支配されていた。そしてこの状況は禁止カードが次々に指定されて「ハイ・タイド」が成立しなくなるまで、かけらもましにならなかった。
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(*11)《大あわての捜索》のおかげで
原文には書かれておらず、単に and that window was narrower by half a turn. とあるだけなので、ここは全く自信のない部分。ただ、前段落の最後で《大あわての捜索》が世に出るまではハイ・タイドは対処可能なデッキだった、と書かれていることと、他に事情らしき説明はないことから、まあそうなのではないかと。
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前編はここまで。5つ紹介したところですが、序文があるのでちょうどこれで半分ぐらいです。
今回は註を途中に入れてみました。diarynote は註へのリンクを張れない(というかまあ、大抵のことはできない)ので、本文が長くなると参照するのがくそめんどくさいんですよね。さいわいデッキごとにパートが切れるのでそこに挟んでみた次第。どっちがいいとかどっちもよくないとかあればコメント欄でお知らせください。
例によって誤訳の指摘や「自分ならこう訳す」といった意見は歓迎します。こちらもコメント欄へお願いします。
原文:The Most Dominant Decks Of All Time -- by Zvi Mowshowitz(*0) (2011-03-24)
http://www.starcitygames.com/magic/misc/21457_The_Most_Dominant_Decks_Of_All_Time.html
真の意味で“支配的な”デッキとはなんだろうか?
あるトーナメントの中で最良のデッキであることは簡単だ。あまたのコピーデッキより高い勝率を示すことや、トップ8に複数のプレイヤーを送り込むことも簡単だ。だから、誰かのデッキがその程度の成功をおさめたところでなにもがっかりすることはない(*1)。もし正しいコンセプトのデッキを正しいタイミングで使えば、きみはトーナメント会場を「支配」できる。それは実に素晴らしいことだ。きみはその日のトーナメントの「ソリューション」(*2)になれる。きみは他のプレイヤーたちが予想もしない角度から切り込んで、みんなが役にも立たない悪あがきをするのを眺めることができる。次の週になると、誰もがきみのデッキをコピーする。その次の週には、全員が対策を知っていて、そして世界は新しい平衡状態になる。
持続的な支配というのは難しい。真の支配的なデッキはメタゲームの産物やシステムの穴みたいなものじゃなくて、数週間は君臨する。これらはプレイテストを重ねた上で抜きん出て強く、ファンデッキ的な要素は一切なくて、純粋なデッキパワーを持っている。こういうデッキを倒すためにデッキリストをいじるのは簡単な仕事じゃない。それも、環境の他のデッキをまるっきり無視したとしてもだ。多くのデッキビルダーはサイドボードの対策スロットをたっぷり使って、メインでも歪んだ調整をして、やっとマッチアップが互角になったと感じられるのが関の山だ。で、そのデッキビルダーたちは自分が間違ってたことに気付いて、自分たちは革命を起こせない側なんだって気付くわけだ。
候補となるデッキの一覧を見て検討を重ねながら、僕は持続的な支配をなしとげたデッキを探していた。純粋に強くて、メタゲームの目標にされても生き残ることができたようなデッキ。つまり、複数のトーナメントにわたってメタゲームの中心であり続けたデッキか、たった1回の活躍でも誰もが知るにいたって、環境に知れ渡ることになったデッキだ。
そうしてリストのデッキは 11 にまで絞られた。つまりそれが、この記事で僕がとりあげるデッキの数ってわけだ。ここに挙がっていないデッキで、僕が入れるべきだったものがあると考える人は、是非フォーラムで議論をして欲しい。強い瞬間があったデッキは確かにたくさんある(*3)。
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(*0)Zvi Mowshowitz
アメリカ合衆国の誇る奇才デッキビルダーにしてライター。殿堂プレイヤー。独特のデッキ、面白い文章、奇矯な振る舞いで大人気。2005 年からウィザーズ・オヴ・ザ・コースト社で働いていたが、働き始めてから2週間で「全く楽しくない」と気付き、翌年には退職してしまったという経歴を持っている。
(*1)誰かのデッキがその程度の成功をおさめたところでなにもがっかりすることはない
くそ自信ない。ひとつ前の文から載せてみる。
It’s easy to put up a good match-win percentage over many copies or to fill a lot of Top 8 slots. There’s not even anything discouraging about that when it happens.
about that が何を指すのか、when it happens の it は何なのか、そして何故それが there’s not anything discouraging なのか、文の頭からケツまで解らない。ひとつ考えついたのは、(ズヴィによると)それは簡単なのだから、誰か自分以外の奴が作ったデッキがトップ8に何人も入ってたりしてもがっかりすることはないんだ、という解釈。一応その線に沿って訳しているが苦しい。難しい。
(*2)「ソリューション」
構築戦の、特定のトーナメントにおける最良のデッキ。プロツアー東京でモーショヴィッツ自身が使って優勝したデッキ「The Solution」が元ねた。「必ずしもフォーマット最強のデッキではないがその日のデッキ分布のもとでは一番いいデッキ」みたいなニュアンスを含意している。ちなみに本家 The Solution は7人が使って二日目に6人が残り、ひとりが優勝、トップ 16 にもうひとりだった。
(*3)強い瞬間があったデッキは確かにたくさんある
原文は「There are many decks that can make a strong case.」 make a strong case をどう訳したものか。
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ネクロポーテンス/グレアム・タトーマー ―― プロツアー・ニューヨーク:ジュニア部門優勝,1996-02-17/18(修正タイプ2)
メインデッキ:
1《象牙の塔/Ivory Tower》
3《ネビニラルの円盤/Nevinyrral’s Disk》
1《Zuran Orb》
4《惑乱の死霊/Hypnotic Specter》
4《Order of the Ebon Hand》
3《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》
3《ネクロポーテンス/Necropotence》
2《麻痺/Paralyze》
4《暗黒の儀式/Dark Ritual》
3《Demonic Consultation》
4《Hymn to Tourach》
4《Icequake》
18《沼/Swamp》
4《ミシュラの工廠/Mishra’s Factory》
2《露天鉱床/Strip Mine》
(訳注:サイドボードは未掲載)
ネクロポーテンス/レオン・リンドバック ―― プロツアー・ニューヨーク,1996-02-17/18(修正タイプ2)
メインデッキ:
1《象牙の塔/Ivory Tower》
1《ジェイラム秘本/Jalum Tome》
2《ネビニラルの円盤/Nevinyrral’s Disk》
2《鋸刃の矢/Serrated Arrows》
1《Zuran Orb》
4《惑乱の死霊/Hypnotic Specter》
3《ストロームガルドの騎士/Knight of Stromgald》
4《Order of the Ebon Hand》
1《Dance of the Dead》
4《ネクロポーテンス/Necropotence》
1《闇への追放/Dark Banishing》
4《暗黒の儀式/Dark Ritual》
4《生命吸収/Drain Life》
4《Hymn to Tourach》
1《霊魂焼却/Soul Burn》
17《沼/Swamp》
2《漆黒の要塞/Ebon Stronghold》
4《露天鉱床/Strip Mine》
サイドボード:
1《Apocalypse Chime》
1《フェルドンの杖/Feldon’s Cane》
1《ジェイラム秘本/Jalum Tome》
1《弱者の石/Meekstone》
2《ネビニラルの円盤/Nevinyrral’s Disk》
1《鋸刃の矢/Serrated Arrows》
3《拷問台/The Rack》
1《ストロームガルドの陰謀団/Stromgald Cabal》
1《拷問/Torture》
1《灰は灰に/Ashes to Ashes》
1《真鍮の都/City of Brass》
1《隠れ家/Safe Haven》
史上初のプロツアーでは、最良のデッキはジュニア部門にあらわれた。僕は土曜日に行われるイヴェントの参加に対して親から拒否権を発動されてしまって、なすすべなく脇で眺めながら、来る人来る人を《灰燼のグール》と《冥界の影》がフル投入された《ネクロポーテンス》デッキでなぎ倒しているしかなかった。(*4)
レオン・リンドバックはかなり正しいカード選択をしてるヴァージョンをシニア部門に持ち込んだけど、グレアム・タトーマーは他のプレイヤーがたどり着けなかった《Demonic Consultations》を3枚デッキに入れる英断を下していた。このカードのデッキを大幅に削って(時には即死して)しまう効果に他のプレイヤーたちはおびえてたが、グレアムは制限カード以外のあらゆるカードを1マナで持って来られる上に、緊急時には博打的な使い方もできる(*5)このカードの強さをよくわかっていた。グレアムは《生命吸収》で時間稼ぎをしようとはせず攻撃的な戦略をとっていて、肝腎の《ネクロポーテンス》を3枚しか入れていないというミスを犯していた。しかし、すぐにプレイヤーたちは4枚目の《ネクロポーテンス》を入れて、《Icequake》の代わりに《生命吸収》を入れるべきだという結論にたどり着いていた。
《ネクロポーテンス》に対処するのは当時のデッキにとって長期的な課題となった。多くのプレイヤーは対策カードを詰め込んで対抗しようとしたが、あまりにも頻繁に《Hymn to Tourach》や《露天鉱床》に妨害され、《ネビニラルの円盤》にずたずたにされた。《ネクロポーテンス》のプレイヤーは継続的にカードアドヴァンテージを稼ぐとともに、デッキに詰め込まれたほとんどあらゆる対策カードに対する回答をサーチすることができた。プロテクション(黒)や小型クリーチャーには《鋸刃の矢》があったし、《生の躍動》みたいなカードにすら《ネビニラルの円盤》は有効だった。《対抗呪文》も《ネクロポーテンス》を止められなかった。仮に《Hymn to Tourach》で落ちなくても、ネクロ側のプレイヤーは《暗黒の儀式》でカウンターをかいくぐって《ネクロポーテンス》を通してきた。もし《ネクロポーテンス》というドローエンジンを沈黙させても、デッキの残りの部分は普通に機能した。
結局、役に立った対抗策はふたつしかなかった。ひとつはバーン戦略だ。《ネクロポーテンス》デッキはあまりにも自分からライフを減らすため、《魔力のとげ》みたいなカードには耐えられなかった。バーンデッキは《ネクロポーテンス》との対戦以外ではぱっとしなかったが、とにかく自分の仕事はした。もうひとつは「ターボ・ステイシス」デッキ(*6)だった。《吠えたける鉱山》が《ネクロポーテンス》が稼ぎ出すカード差を埋めてくれて、かつマナをロックすることで《ネクロポーテンス》がもたらしたカードを使わせる機会を与えない。ゲームを長引かせることで、ネクロ側はドロー・ステップを飛ばすというデメリットで自滅していった。
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(*4)僕は土曜日に行われる~なぎ倒しているしかなかった。
自信なし。原文は以下の通り。
I was upstairs watching helplessly from the sidelines, unable to attend due to a parental veto of Saturday competition, and crushing all comers with my Necropotence deck built with a full complement of Ashen Ghouls and Nether Shadows.
「土曜日は出させてもらえなくて日曜日は会場の脇で見てた」というような状況だったのだろうと想像。
(*5)緊急時には博打的な使い方もできる
原文では「and in an emergency, the ability to roll the dice.」 1枚挿しのカードをサーチするのにも使ったということだろうか。
(*6)「ターボ・ステイシス」デッキ
《停滞》と《吠えたける鉱山》を用いたロックデッキ。《停滞》のアップキープコストを《吠えたける鉱山》による追加ドローで引いてくる土地でなんとかしよう、という大雑把なデッキ。
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デッドガイ・レッド/デイヴィッド・プライス ―― プロツアー・ロサンゼルス:優勝,1998-05-06~08(テンペスト・ブロック構築)
メインデッキ:
4《呪われた巻物/Cursed Scroll》
2《煮沸ばさみ/Scalding Tongs》
4《峡谷の山猫/Canyon Wildcat》
4《投火師/Fireslinger》
4《ジャッカルの仔/Jackal Pup》
4《モグの徴集兵部隊/Mogg Conscripts》
4《モグの狂信者/Mogg Fanatic》
4《モグの略奪者/Mogg Raider》
2《ラースのドラゴン/Rathi Dragon》
4《巨人の力/Giant Strength》
4《焚きつけ/Kindle》
16《山/Mountain》
4《不毛の大地/Wasteland》
サイドボード:
2《凶運の彫像/Jinxed Idol》
2《煮沸ばさみ/Scalding Tongs》
1《拷問室/Torture Chamber》
1《ラースのドラゴン/Rathi Dragon》
4《粉砕/Shatter》
1《黙示録/Apocalypse》
4《石の雨/Stone Rain》
僕がまだ世界の片隅に居て、自力で赤いデッキを「発見」したりしていた頃、既に世界の残りの部分ではそのデッキはそびえ立つ巨人と見なされていた。それまでにも支配的なデッキってのは存在したし、「プロス-ブルーム」デッキ(*7)はひとつ前のブロック構築のプロツアーでは大いなる脅威だったけど、このデッキはこれまでと違う点がふたつあった――広く知られていて、かつたどり着くのもいじるのも簡単だってことだ。このプロツアーが始まった時点では、様々なヴァリエーションこそあったけど、環境の4割近くは同じ色のデッキを持ち込もうとしているみたいだった。赤単はスタンダードのデッキと張り合えるほど強くて、ブロック構築じゃ並ぶものもなく、赤いデッキを倒すためだけに組まれたデッキですら満足に仕事をさせてもらえなかった。(これは支配的なデッキにはしばしば起きることなんだ。)
なんとか対抗できる程度には強いデッキは3つだけあった。ひとつは CMU(*8)の天才どもが作ったスリヴァー・デッキ「CMU グリーン」で、これはどうにか勝負には加わわれるってとこだった。最高成績は7位と同ポイントで、タイブレーカーの結果 11 位だったブライアン・シュナイダー。大差じゃなかったけど、洗練された赤単にはかなわなかった。
それよりは強かったのが、パワフルな《ボトルのノーム》を擁する「《生ける屍》」デッキで、ふたつのデッキがトップ8に残った。ベン・ルビンが使ってた三色ヴァージョンの方は決勝まで残って悪くないゲームをしてたんだけど、真打ちはダーウィン・キャッスルが組んだ二色ヴァージョンの方だ。もう少しでアダム・カッツにプロツアー優勝をもたらすとこだった。実に理にかなった構成で、マナトラブルを避けるために二色にまとめられてて、ナチュラルに厄介なクリーチャーたちが詰め込まれてた。僕と当たった時点では(*9)、ダーウィン・キャッスルは赤単に対して 7-0 という成績を残していた。あと1勝すればアダム・カッツと並んでトップ8へのタイブレーカーラインまで届いていたところだった。
終わってみると、赤単はずば抜けて強いデッキで、ブロック内でも最強の戦略だってことがはっきりした。他のデッキにも出番を与えるために、ブロック構築では赤単の最強カード《呪われた巻物》が禁止された。それでも赤単はなお使うに値する程度には強かったし、フォーマットにはバランスと活気が取り戻された。このブロックはめでたしめでたし、で終われたけど、ブロック構築って奴はしばしば片手に収まる程度しか使えるデッキがなくなっちゃったりする。またしてもおんなじぐらいぶっ壊れたブロック構築のプロツアーが開催されるまで、それほどの年月はかからなかった。
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(*7)「プロス-ブルーム」デッキ
《死体の花》と《資源の浪費》《自然の均衡》《繁栄》を用いたコンボデッキ。手札とマナを相互に変換しながらマナを増やし、最後は《生命吸収》で止めを刺す。ブロック構築とは思えぬほど入り組んだコンボデッキ。
(*8)CMU
1997 年から 00 年代初頭にかけて活躍した、一説にはマジック史上最も成功したチーム……なのだが日本では妙に知名度が低い(と思う)。チーム名の由来はカーネギー・メロン大学の略で、実際キャンパス内でマジックやってたらしい。後にウィザーズ・オヴ・ザ・コースト社の研究開発部に多くのメンバーを送り込んだ。
(*9)僕と当たった時点では
ズヴィはこの時が初のシニア・プロツアー参戦で、本人によると《日和見主義者》の入った赤単を使い、キャッスルに勝って 12 位に入賞した。13 位の石田格が 10-4 ながらオポネントマッチウィンパーセンテージが 70% あったそうなので、ズヴィは 10-3-1 ぐらいだったと推測される。
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CMU アカデミー/エリック・ローアー ―― プロツアー・ローマ:トップ8,1998-11-13~15(エクステンディッド)
メインデッキ:
4《水蓮の花びら/Lotus Petal》
4《魔力の櫃/Mana Vault》
4《モックス・ダイアモンド/Mox Diamond》
3《巻物棚/Scroll Rack》
2《ウルザのガラクタ/Urza’s Bauble》
1《精神力/Mind Over Matter》
3《中断/Abeyance》
2《対抗呪文/Counterspell》
4《衝動/Impulse》
1《天才のひらめき/Stroke of Genius》
3《吸血の教示者/Vampiric Tutor》
4《時のらせん/Time Spiral》
4《意外な授かり物/Windfall》
3《真鍮の都/City of Brass》
3《Tundra》
4《Underground Sea》
3《Volcanic Island》
4《不毛の大地/Wasteland》
4《トレイリアのアカデミー/Tolarian Academy》
サイドボード:
1《ゴリラのシャーマン/Gorilla Shaman》
4《寒け/Chill》
1《孤独の都/City of Solitude》
1《憂鬱/Gloom》
1《中断/Abeyance》
1《転覆/Capsize》
2《水流破/Hydroblast》
3《紅蓮破/Pyroblast》
1《非業の死/Perish》
プロツアー・ローマはいくつかの点で特別なプロツアーだったと言えるけど、中でもいちばん特別だったのは、デッキ分布がカード資産に影響を受けたってことだ。この時点での最強のデッキは、発見したり構築したりするのが難しいわけじゃなかったのに、パーツを手に入れられなくて使うことができなかったプレイヤーがたくさん居たんだ。未だにどうしてだかわからないんだけど、この時僕が使ったデッキは本当にひどいもんで、当時のスタンダードのデッキの方がよっぽどましって代物だった。それはそれとして、多くのプレイヤーは「アカデミー」デッキを使いたくても《トレイリアのアカデミー》や《時のらせん》が手に入らなくて諦めていた。そういう事情さえなければ「アカデミー」デッキは歴史的な使用率になってたはずだ。といっても実際に残した数字の二倍は行かなかっただろうけど(*10)。でも、首尾よく「アカデミー」デッキで出ることができたプレイヤーたちの多くは、その幸運を上回るつけを払わされる羽目になった。
「アカデミー」デッキは本当に強力で支配的だったのに、このプロツアーでは実に控えめな結果しか残せなかった。大半のプレイヤーは「アカデミー」のようなデッキについてはまるで練習不足だった。特に厳しいトーナメントでの経験が不足していて、結果として多くのゲームや試合を落とすことになった。適切に構築されてなかったり、正しいサイドボーディングができていないデッキもすごく多かった。トミ・ホヴィが使って優勝したデッキリストは明らかに最低限の構成だったが、これはホヴィが《Force of Will》をはじめとするエクステンディッドならではのパワーカードに手を伸ばさず、スタンダードのデッキをそのまま持ち込んで若干修正する作戦をとったからだ。充分優勝に値するデッキだったが、最強のデッキを持ち込んだのは(《Gustha’s Scepter》を使ったハッカーのデッキを別にすれば)チーム CMU だったと思う。連中は《吸血の教示者》がデッキにぴったりだって気付いてた。これがあればキーカードを探すことができるのと同時に、1枚挿しのサイドボードをとれるので、サイドボーディングの枚数が多すぎてデッキ本来の動きが機能不全に陥る事態を防げた。
だれもが禁止はやむを得ないと考えていたことは疑いの余地がなかった。それ以外に「アカデミー」の支配を止める方法はなかった。
「アカデミー」が去ると、「ハイ・タイド」デッキがコンボデッキの中心に浮かび上がった。でも「アカデミー」に対処する必要がなくなった今となっては、「ハイ・タイド」はどんなデッキでも充分対処可能なデッキになっていた――ウルザズ・レガシーが発売され、《大あわての捜索》が世に出るまでは。
かくして、「ハイ・タイド」は支配的なデッキの座を受け継いだ。
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(*10)といっても実際に残した数字の二倍は行かなかっただろうけど
原文は although it wouldn’t have put up the same percentages as it did. 最初「それがかつて叩き出したパーセンテージには及ばなかっただろう」と解釈して、どっか別のトーナメントですげえ使用率出してたのかなと思ったのだが、だとするとローマではカード資産が原因で人数が少なかったというのに説明がつかないし、時制的にも最後 it had done になってないとおかしい気がするのでこう訳した。合ってるかはわからない。
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ハイ・タイド/カイ・ブッディ ―― グランプリ・ウィーン:優勝,1999-05-13~15(エクステンディッド)
メインデッキ:
1《パリンクロン/Palinchron》
2《Arcane Denial》
1《渦まく知識/Brainstorm》
4《対抗呪文/Counterspell》
4《Force of Will》
3《大あわての捜索/Frantic Search》
4《High Tide》
4《衝動/Impulse》
1《神秘の教示者/Mystical Tutor》
3《天才のひらめき/Stroke of Genius》
3《転換/Turnabout》
3《商人の巻物/Merchant Scroll》
4《時のらせん/Time Spiral》
16《島/Island》
4《Thawing Glaciers》
3《Volcanic Island》
サイドボード:
2《無のロッド/Null Rod》
4《知恵の蛇/Ophidian》
4《水流破/Hydroblast》
4《紅蓮破/Pyroblast》
1《山/Mountain》
「アカデミー」デッキは組むのが難しく、構築ミスも起こりがちだが、「ハイ・タイド」デッキは驚くほど構築ミスの少ないデッキだ。このデッキにはマナソースと打ち消し呪文とドロー呪文と勝ち手段しか入ってなくて、早ければ3ターン目には勝ってしまう。対戦相手はタップアウトすれば負けてしまうかも知れないとわかっていても、どうすればいいかわからない。
《Thawing Glaciers》が入っていることで、「ハイ・タイド」デッキはコントロールデッキ並みに受動的に動くことができる。さらにサイドボード後には《知恵の蛇》と《紅蓮波》、あるいは打ち消し呪文の増量として《紅蓮波》だけを入れることで、文字通り本物のコントロールデッキに変形することもできる。「ハイ・タイド」に対抗する最も有効な戦略は3ターン目に「ハイ・タイド」側が勝ち手段を整えてしまう前に片をつけてしまうことだったが、(訳注:《大あわての捜索》のおかげで(*11))その隙は半ターン縮まった。「ハイ・タイド」はカウンターデッキより打ち消し合戦に強く、ビートダウンデッキよりも確実に速く、対抗する術は殆どなかった。
ウィーンの二日目はほぼ完全に「ハイ・タイド」に支配されていた。そしてこの状況は禁止カードが次々に指定されて「ハイ・タイド」が成立しなくなるまで、かけらもましにならなかった。
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(*11)《大あわての捜索》のおかげで
原文には書かれておらず、単に and that window was narrower by half a turn. とあるだけなので、ここは全く自信のない部分。ただ、前段落の最後で《大あわての捜索》が世に出るまではハイ・タイドは対処可能なデッキだった、と書かれていることと、他に事情らしき説明はないことから、まあそうなのではないかと。
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前編はここまで。5つ紹介したところですが、序文があるのでちょうどこれで半分ぐらいです。
今回は註を途中に入れてみました。diarynote は註へのリンクを張れない(というかまあ、大抵のことはできない)ので、本文が長くなると参照するのがくそめんどくさいんですよね。さいわいデッキごとにパートが切れるのでそこに挟んでみた次第。どっちがいいとかどっちもよくないとかあればコメント欄でお知らせください。
例によって誤訳の指摘や「自分ならこう訳す」といった意見は歓迎します。こちらもコメント欄へお願いします。
翻訳:マジックにおける選択/パウロ・ヴィトフ・ダモ・ダ・ホサ
2011年8月30日 翻訳 コメント (2)PV がまだ SCG で書いてた頃の記事です。実は今回検索するまで SCG で書いていたことを知りませんでした。
原文:PV’s Playhouse - Making Decisions in Magic (2010-02-04)
http://www.starcitygames.com/magic/fundamentals/18753_PVs_Playhouse_Making_Decisions_in_Magic.html
少し前のことですが、あるプレイヤーがこんな意見をくれました。「あなたは毎回毎回“ハロー”で記事を書き出してるけど、いつかあらためた方がいいと思う」。というわけで、今日はハローは止めて、私の大好きなシリーズからの引用で始めてみることにしました(もっとも、その中では一番気に入っていない作品なのですが)。
そんなわけで……ハロー!
今日の記事は「選択」について書いていきたいと思います。(まさか私が何の理由もなく上の引用部分を選んだとは思ってませんよね?) 網膜に焼き付くほど繰り返していますが、マジックのゲームというのは選択と決断のかたまりです。ゲームの始まる前には、まずデッキに入れるカードを選びます。そして先手か後手かを選び、キープするかマリガンするかを選び、1ターン毎にどのカードを使ってなにをするかを選びます。その選択の差こそが、強いプレイヤーと弱いプレイヤーとを根本的にわかたっています。強いプレイヤーは大抵正しい選択をします(常に正しい選択をできるプレイヤーなんてのはどこにもいませんが)。しかし弱いプレイヤーは、ほとんどの状況で、そこに選択の余地があることにも気づかないのです。
マジックについてに限って言えば、ダンブルドアは必ずしも正しくないという議論をすることができるでしょう。私たちの選択こそが私たちの本質をあらわす、というのは正しいですが、「能力よりもはるかに」などということはありません。なにしろ、マジックにおいては「能力」というのは即ち選択の能力に他ならないのです。つまりどちらかが重要だとか表面にあらわれやすいとかいうことはマジックではあり得ません。そのふたつは本質的には同じものだからです。
できる限り正しい選択をするためには、必要なことがいくつかあります。ひとつは、上でも書いた通り、選択が存在していることを知っていなければなりません。例を挙げてもらうとわかりやすい、とみなさんから言われているのでここでは例をあげてみましょう:
あなたは先手で、以下のようなデッキをプレイしています。(オリヴィエ・ルエル(*2)の記事から借りてきました)
10《平地/Plains》
6《島/Island》
1《カビーラの交差路/Kabira Crossroads》
1《セジーリの隠れ家/Sejiri Refuge》
1《コーの飛空士/Kor Aeronaut》
2《コーの装具役/Kor Outfitter》
1《コーの空漁師/Kor Skyfisher》
1《カザンドゥの刃の達人/Kazandu Blademaster》
2《崖を縫う者/Cliff Threader》
1《ゴーマゾア/Gomazoa》
2《コーの鉤の達人/Kor Hookmaster》
1《風乗りの長魚/Windrider Eel》
1《生きている津波/Living Tsunami》
1《柱平原の雄牛/Pillarfield Ox》
1《空の遺跡のドレイク/Sky Ruin Drake》
1《ジュワー島のスフィンクス/Sphinx of Jwar Isle》
1《冒険者の装具/Adventuring Gear》
1《盾の仲間の祝福/Shieldmate’s Blessing》
1《精霊への挑戦/Brave the Elements》
1《勇敢な防御/Bold Defense》
1《鞭打ちの罠/Whiplash Trap》
1《飛来する矢の罠/Arrow Volley Trap》
1《征服者の誓約/Conqueror’s Pledge》
あなたの初手は《平地》《平地》《島》《島》《島》《勇敢な防御》《空の遺跡のドレイク》です。さあ、最初の一手は?
…
…
多くのプレイヤーは第1ターンのプレイングなど考えもせずに、適当な土地や手札にあるスペルを唱えてしまいます。断じていけません。考えなければならないのです。この例で言えば、理に適ったプレイの選択はひとつしかありません。「マリガン」と言って、新たに6枚手札を引き直すことです。え? その発想はありませんでしたか?
さて、取り直した6枚の初手は《平地》《平地》《島》《島》《コーの鉤の達人》《生きている津波》です。これなら始められます。そしてあなたは選択しなければなりません。《島》か《平地》か? この例では《平地》から出すべきであることは明らかです。2マナ域に白白のカードが何枚も入っている一方で、青青は1枚もありません。例えば次のターンに《コーの飛空士》を引いた場合に、すぐに出せるようにしたいのです。こういう選択がゲームの今後を決めていくことになるのですが、しかし多くのプレイヤーはこういうことをきちんと考えません。それどころか、なにが問題になるかもわかっていないのです。
同じく1ターン目のプレイングで、もう少し複雑な例に移ってみましょう。
フォーマットはレガシーで、グランプリシカゴ 2009 でナシフ(*3)が優勝したデッキ(青タッチ緑黒白の「《相殺》-《独楽》」デッキで《闇の腹心》《タルモゴイフ》《剣を鍬に》その他青い呪文が入っている)を使っています。
訳注:デッキリスト入れときます。
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/eventcoverage/gpchi09/top8decks
メインデッキ
4《溢れかえる岸辺/Flooded Strand》
2《島/Island》
4《汚染された三角州/Polluted Delta》
3《Tropical Island》
3《Tundra》
4《Underground Sea》
4《闇の腹心/Dark Confidant》
2《誘惑蒔き/Sower of Temptation》
4《タルモゴイフ/Tarmogoyf》
2《三角エイの捕食者/Trygon Predator》
4《渦まく知識/Brainstorm》
4《相殺/Counterbalance》
3《目くらまし/Daze》
4《Force of Will》
1《クローサの掌握/Krosan Grip》
2《思案/Ponder》
4《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》
4《剣を鍬に/Swords to Plowshares》
2《ヴィダルケンの枷/Vedalken Shackles》
サイドボード
1《青霊破/Blue Elemental Blast》
1《ブレンタンの炉の世話人/Burrenton Forge-Tender》
1《暗黒破/Darkblast》
1《魔力流出/Energy Flux》
1《仕組まれた疫病/Engineered Plague》
1《悟りの教示者/Enlightened Tutor》
1《水流破/Hydroblast》
1《戦争の報い、禍汰奇/Kataki, War’s Wage》
1《クローサの掌握/Krosan Grip》
1《非業の死/Perish》
1《次元の狭間/Planar Void》
1《大祖始の遺産/Relic of Progenitus》
1《不忠の糸/Threads of Disloyalty》
1《トーモッドの墓所/Tormod’s Crypt》
1《梅澤の十手/Umezawa’s Jitte》
あなたが先手で、相手のデッキはわかりません。こんな初手が来ました:
《Underground Sea》
《Tundra》
《思案》
《渦まく知識》
《闇の腹心》
《Force of Will》
《Force of Will》
さあ、1ターン目のプレイングは?
…
…
実験のため、いろいろなプレイヤーにこれを実際に訊いてみました。その中には強いプレイヤーも弱いプレイヤーも含まれています。多くのプレイヤーが「土地を置いてエンド」と答えましたが、これは明らかに誤りです。というより、正しい答えではあり得ません。「土地を置いて《思案》」という答えもたくさんありましたが、これも明らかに誤りです。回答に「土地」という言葉を使う時点でもう間違っているのです。あなたは2枚の土地のどちらかを選ばなければなりません。
さて、多くのプレイヤーはこの初手を見て、《思案》か《渦まく知識》のどちらを唱えるべきかに気をとられてしまい、もうひとつの選択――どちらの土地をプレイすべきか――を完全に忘れ去ってしまうことがわかりました。では、正しいプレイングはどのようなものでしょう?
私の考えでは、《Tundra》を置いて《思案》が正しいプレイングです。《不毛の大地》を喰らうかも知れないことを考えると、《Underground Sea》から入りたくはありません。このデッキには黒マナが出る土地は多くなく、かりに土地をもう一枚引いても《闇の腹心》をプレイできない可能性があるからです。つまり《Tundra》は失っても構いませんが《Underground Sea》は失いたくありません。だから《Tundra》から入るべきです。《思案》と《渦まく知識》についてですが、1ターン目なら《思案》がよいと考えます。《思案》はいつでも同じですが、《渦まく知識》はライブラリをシャッフルする手段がある時の方が、要らないカードをライブラリに混ぜてしまえるぶん断然強くなります。しかしこの状況ではシャッフル手段がありませんから、唱えることすらできないようなカードを見つけてもそれを手札にため込む羽目になってしまいます。
というわけで、私は《Tundra》《思案》が明らかに正しいプレイだと考えています。それ以外の手は――例えば《Underground Sea》《思案》は――単純に正しくありません。《渦まく知識》は相手の《思考囲い》からボブ(《闇の腹心》)を隠すことができる、という議論はあり得ますが、このフォーマットに関する私の限られた知識から言うと、《思考囲い》はそこまで広く使われているカードではありません。それに、どのみち《Force of Will》を打つこともできます。
さて、マリガンして初手が6枚になったとしましょう。すると、先ほどの7枚から《思案》が抜けた6枚を引き当てました。今度の選択は《渦まく知識》を打つか打たないかということに変わりました。打ちたくない理由ははっきりしています。ライブラリをシャッフルする手段を引き当てた時までとっておく方が強いからです。しかしこの状況では打ったほうがいいと考えます(正直なところ、これは間違っているかも知れません。そうなるとこの後のプレイングも変わってきてしまうのですが、ここでは仮に打たないほうがいいとお考えの方でも打つものとして1ターン目の土地について考えてみてください)。この状況では、1ターン目の土地は《Underground Sea》が最良です。なぜ今度は《Underground Sea》になるのでしょうか? それは、先ほども述べたように、《渦まく知識》を打つ時には不要なカードをシャッフルする手段が欲しいからです。例えば、《渦まく知識》でフェッチランドを探し当てたとしましょう。戻した2枚のカードのうち1枚は絶対引かなければなりませんが、2枚目は引かなくてもよくなります。しかし、もしここで1ターン目に《Tundra》を置いていて、不要なカードをライブラリに送り返そうと思ったら、2ターン目にボブをプレイするためにはフェッチランドでもう一枚《Underground Sea》を持ってこなければならず、みすみす《Tropical Island》を持ってくる機会を失うことになるのです。もし《Sea》を先に出していれば、好きな土地を持ってくることができて、なおかつ2ターン目にボブを出せます。
ここまでの考えは1ターン目に《思案》より《渦まく知識》を優先した場合の思考の続きで、同時に「《Tundra》から《思案》」がもっとも優れていると考えられるもうひとつの理由でもあります。(*4)
1ターン目でも中々難しいものでしょう? 単純に見えるかもしれなくても、そこには多くの選択肢があります。どちらの土地を選んでどちらのスペルを唱えるかでその先は全て変わってきますし、スペルを打たないという選択すらあるのです(土地を出さないという選択は考えなくていいと思います)。
そして、覚えておいてほしいのは、一連の思考を、必要な材料を得た最初の機会に全てまとめて行うべきだということです。すなわち、この例の場合はマリガンチェック中に全部考えるのです。対戦相手はあなたが実際には何を考えているか知る手がかりはありませんから。
とりわけ重要なのは、ひとつひとつのプレイを切り分けて考えてはいけないということです。もし《不毛の大地》をケアして《Tundra》から入ろうと決めて《Tundra》をプレイして、その後でなにかの理由で《渦まく知識》をプレイしたとしましょう。そうしてしまうと、「もし《渦まく知識》をプレイするのなら《Underground Sea》の方がよかった」と思いついたとしてももう後戻りはできません。思考は常に一連のプレイの形でなされなければならず、その中からひとつを選ぶことで、その後の行動全ての方針が決定されなければなりません。
プレイヤーは実際には選択の余地がある状況なのに無いと信じ込んでしまっていることがあります。以下のような場面を何度目にしたことでしょうか。
「この6枚をキープして、負けたよ」
「なんでそんなひどい手札キープしたんだい?」
「5枚にするわけにはいかないから」
視野狭窄になってはいけません。あなたにはダブルマリガン、どころかトリプルマリガンだってする選択肢が常にあります。
自分のデッキに入れているカードのモードを全部知っておきましょう。《バントの魔除け》や《ジャンドの魔除け》には3つの選択肢があるのです。もし知らなければ、対戦相手の《恐血鬼》を追放するのが最良の一手という状況に出遭ったときでも、その手を考えつくことすらできません。あなたにとっては、それは選択ですらないからです。
他にプレイヤーがミスを犯しやすい状況としては、選択が存在することはわかっていても、その選択がどのような意味を持つかわかっていない時、というのがあります。いい一例として、私が神河ブロック構築のプロツアー予選に出たときのある一戦を挙げます。私は《けちな贈り物》デッキを使って、白ウィニーと対戦していました。場には 6/6 の《初めて苦しんだもの、影麻呂》をコントロールしていて、アンタップ状態の土地が3枚ありました。ただし緑マナが出る土地は1枚しかありませんでした。私は手札に《引き裂く蔦》と《森》を持っていました。
ここで選択肢が生まれます。私は《森》をプレイすることができますが、その《森》は対戦相手が返しのターンに《梅澤の十手》を引いた時のために《引き裂く蔦》を構える以外には役に立たず、次のターンが過ぎればおそらくゲームが終わるまで一度も必要になることはないでしょう。一方、私は《森》を手札に残して《影麻呂》のサイズを保つこともできます。私は《森》をプレイすることにしました。《十手》はやはり厄介だからです。これも単純な決断ですが、《森》を1枚プレイするかどうかだけであっても、そこには選択があるのだということは理解しなければなりません。
さて、次の状況に進みましょう:
私は 6/6 の《影麻呂》をコントロールしていて、立っている土地は《森》《森》《沼》《沼》《先祖の院、翁神社》でした。私は《影麻呂》でアタックして、対戦相手はそれを《灯籠の神》でブロックした後、X=5で《輝く群れ》を打ってきて《影麻呂》を倒そうとしました。しかし私はただ《翁神社》で《影麻呂》をパンプすれば生き残らせることができて、対戦相手はそれを見逃していました。すると、先ほどと似たような状況になります。ここで上記の状況が出現します。《蔦》のために緑マナを立たせておくかどうか。同じ選択ですよね?
そんなわけはありません!
この場合は選択自体は同じです。土地を立てておくか否か土地を置くか否か、すなわち《蔦》を構えるか否か。しかしその選択がもたらす結果はまるっきり違います。最初の例では、私は単に《影麻呂》を 6/6 に保つか、《十手》を引かれた時にカウンターを乗せられてしまう潜在的なリスクを防ぐか、それだけの選択でした。二番目の例では、《十手》にカウンターが乗ることを防ぐか、何もしなければ死ぬ《影麻呂》を生き残らせるかの選択になっているのです。もし注意深くプレイをしていれば、7/7 の《影麻呂》が6点のダメージを受けるだけで済んだことでしょう。しかし実際の私のゲームでは、私は《森》を出すか否かの選択は意識していましたが、頭の中では最初の例としてこれを考えていて、二番目の例まで考えが届きませんでした。もし私が自分の選択の結果として《影麻呂》が死ぬことに気付いていれば、私は《森》をプレイすることはなかったでしょう。
この例では、私は選択が存在することには気付いていましたが、その選択が実際にはなにを選んでいるのかということを理解できておらず、正しい選択ができませんでした。結果として私の 6/6 の《影麻呂》は6点のダメージを受けて墓地に落ち(*5)、私はそのゲームに負けて試合にも負けました(幸い結果に影響はありませんでしたが)。かりに正しい選択を下せる力があっても、なにを選んでいるのか解っていなければ何の役にも立ちません!
かくのごとく選択というのは本当に重要なものですから、私たちはふたつのことを心がけなければなりません。ひとつは、できるだけ多くの選択肢を持つこと。もうひとつは、できるだけ多くの選択に役立つ情報を持つこと。これは通常は決断をできるだけ遅らせることと同義です。多くの情報を得れば得るほど、より適切な選択を下せるようになります。トーナメントレベルのプレイヤーが「4ターン目に土地を置いて《思案》」などとしているのを私は見たことがあります。何故そんなことをするのでしょう? さっき置いた土地よりも先に出したかった土地を《思案》で引いたら? このターンに特定の土地を置かない限り次のターンにプレイできない呪文を引き当てて、さっき置いた土地はその土地じゃなかったとしたら? どうして対戦相手に《思案》を打つ前から土地を持ってることを教えるんでしょう?
初手を取るときは、7枚全部を見て、どうプレイしていくか決めますよね。最初に4枚見て、その中から1ターン目に出す土地を選んで、それからその土地の選択が正しいようにって祈りながら残りの3枚をめくったりしないですよね? おんなじことです。選択を下す前には、できるだけ多くの情報を得なければいけません。
インスタントは相手のターンの終了ステップに唱えるべきだ、と固く信じていて、そう信じているというだけの理由で盲目的にエンドにスペルを唱えるプレイヤーがいます。実際にはそんな必要はないのに。たとえば「ジャンド」デッキを使っていて、土地が8枚場に出ていて《終止》が手札にあるとしましょう。相手が《悪斬の天使》を唱えて場に出しました。私は相手のターンエンドに《終止》を打つことができます。もちろん、《天使》を生かしておく心算はありません。じゃあさっさと打ってしまうべき、でしょうか? 違います! その2マナぶんを自分のターンに使えたところで何になるでしょうか。なりません。エンドに《終止》を打つべき理由はなにもないのです。もし《血編み髪のエルフ》を引いてきて唱えて、続唱で《終止》がめくれたら? さぞバカなことをしたと思うでしょう。本当に決めなければならない瞬間まで、選択は先延ばしにしましょう。急ぐ理由はひとつもないのです。起動にコストがかからない、たとえば《炎の印章》のようなカードならなおのことです。《印章》を相手のターンエンドに生け贄に捧げたりしていませんか? 次のターンのドローを見てから、本当に起動すべきかどうかを考えればいいのではないですか。
同じことの裏返しですが、対戦相手にはなるべく選択肢を与えてはいけません。もちろん、まるっきりの莫迦相手なら話は別です。中には毎ターン《精神隷属器》でコントロールされてるんじゃないかと思うぐらいひどいプレイヤーもいますし、そんな相手にならいくら選択肢をくれてやってもどうせ間違ったのを選ぶに決まってますから構わないのですが、でもまあそういう相手に勝つのには特に工夫も要らないわけで。強いプレイヤーと対戦したときには、選択肢を与えてはいけません。
《壌土のライオン》は《密林の猿人》より強い、という意見を複数のところで目にしたことがあります。いわく、もろもろの条件を考慮したとき、《壌土のライオン》は確かに《死の印》で死にますが、それは逆に、対戦相手が本来《タルモゴイフ》《野生のナカティル》《悪斬の天使》《聖遺の騎士》あたりに打つべきだった《死の印》を使わせられる、というメリットになるというのです。これは単純に間違いです。相手は打てるからといってなにもこいつに《死の印》を打たなくてもいいのです。《密林の猿人》に対しては、相手は《死の印》をそもそも打つことができません。でも《壌土のライオン》に対してだったら、相手には打つか打たないかの選択があって、それはただ相手にだけ有利な要素です。もし対戦相手が先ほど挙げたようなカードたちに直面して死にかけていたら、相手はわざわざ《ライオン》に《死の印》は打ってこないでしょう。でもこれでやっと《密林の猿人》と互角です。相手が《壌土のライオン》に殺されかけているとしたら? 相手の手札に《死の印》が4枚あったとしたら? 相手はもうすぐあなたを殺せて、後から出てくるかも知れない大物をケアする必要がなかったとしたら? 相手が残りライフ2であなたのクリーチャーは《壌土のライオン》1体しか居ないとしたら?
対戦相手がミスしてくれるのを期待するのは望みすぎというものです。どんな相手でも、時にはあなたのクリーチャーを除去したくなることがあるでしょう。その時に、対象にすることができないクリーチャーなら、そもそもやられる心配はないのです。
余談ですが書いておきますと、私は実際《壌土のライオン》は《密林の猿人》より強いのではないかと思います。でも上記したような理由ではありません。色マナの問題です。アンチ赤のカードの方がアンチ白のカードより多いからです(《ブレンタンの炉の世話人》《コーの火歩き》《赤の防御円》など)。
個人的に好きな「次の一手」問題があります。一時期そればっかり考えていたこともあるぐらいなのですが、こんな状況です。対戦相手、《山》から《モグの狂信者》。自分は《森》、《ラノワールのエルフ》。次のターン、相手はドローして攻撃。私がこれを考えるのに何時間も費やしてた頃のルールに従うとします(つまり、ダメージがスタックに乗ります)。さて、ブロックしますか?
圧倒的に多くの場合は、ブロックしてもしなくても同じ結果になります――あなたは1点のダメージを受けて、《エルフ》は死にます。じゃあこの問いに何の意味があるのでしょう? 答えは、ブロックすれば、あなたは相手に選択を与えずにすむということにあります。対戦相手に選択肢を与えたいですか?
《エルフ》があなたにとって本当に重要だったとしましょう。相手に選択肢を与えれば、相手はその重要さをわかっていなくて、殺さないでくれるかも知れません。でも、敢えてブロックしないことによって、あなたにとっていかにエルフが重要かを相手に知らせてしまい、この《エルフ》を殺されるのみならず後続のマナ・エルフも片っぱしから除去されてしまうかも知れません。あなたにとってこの《エルフ》がいかに重要かを相手が知らないように、あなたも《モグ》が相手にとっていかに重要かを知りません。相手の手札が《稲妻》3枚と《溶岩の撃ち込み》3枚だったらどうでしょう? それだけで 18 点のダメージです。そこで《モグの狂信者》をブロックしなかったら、あなたは相手に《エルフ》を殺すかそれともあなたのライフの最後の1点を削りきらせるかの選択を与えてしまったことになるのです。もし相手の手札に《ゴブリンの王》が3枚あったらどうなるでしょう? 相手は《モグ》を生け贄にしないでしょうし、あなたは間もなく 4/4 にまで成長する《モグ》を片付けるチャンスを失ったことになります。相手の持ち得る可能性は様々で、あなたにはそれを知る術はありません。だからよほど下手な相手でない限りは、相手に選択肢を与えてはいけません。つまり、常にブロックすべきです。相手がミスして本来殺すべきエルフを見逃す可能性よりも、相手があなたの知らない情報を持っている可能性の方が高いです。
ブロックしなかった場合でも、少しでも怪しいと思えば相手は《エルフ》を殺してきます。それは基本的な定石で、殆ど機械的なプレイングです。もしそうして来なかったとしたら、よほどはっきりした理由があります。あなたの方になにか明確な理由があるのでない限り、相手に選択肢を与えてはいけません。
もちろん、現在のルールではダメージはスタックに乗りませんから、常にブロックするのが正解です。しかし、《モグの狂信者》が使われることもなくなっています。
自分の方が「より多く知っている」状況であれば、対戦相手に選択肢を与える方が正しいこともあります。私は「ハルク・フラッシュ」デッキ(*6)を使っていたときは、しばしば相手が《もみ消し》を構えているところでわざとフェッチランドを起動しました。他の、普通のデッキを使っているときは、わざわざ相手に《もみ消し》を打たせたりはしません。しかしハルク・フラッシュの場合はフェッチランドに対する相手の《もみ消し》が正しいプレイングになることはあり得ません。たとえ相手が《もみ消し》を4枚持っていたとしても、こちらはそれをかいくぐってコンボを決めなければならないのです。というわけで、この場合は相手に選択肢を与えることに全く害がありません。「成功/失敗」ではなく、「成功/特に変化なし」なのです。対戦相手のミスに期待しなくてもいいのです。ミスしなかったとしても、失うものはなにもありません。例えば対戦相手は手札に《もみ消し》を2枚持っていて、こちらのデッキを知らないかも知れません。そうすると、相手はフェッチに《もみ消し》を打ってくるかも知れませんが、それは有難いことなので、わざわざ相手のタップアウトの隙にこっそりフェッチランドを起動する必要はないわけです。これはしかし非常にまれな状況です。ほとんどのデッキの場合こんなことはしません。
ついでながら、これは対戦相手に選択権があるカードが弱い理由でもあります。例えば《怒鳴りつけ》はぱっと見たところ充分使えるカードに思えます。(2)(赤)でカードを3枚引ける、もしくは(2)(赤)で5点のダメージ、どちらもいい取引です、よね? でもこれを対戦相手が選べるとなると、途端に大していい取引ではなくなってしまいます。その時欲しくない方をつかまされてしまうからです。《神の怒り》を喰らって立ち直りたい時だったら? 相手は5点を甘んじて受けるでしょう。とどめの一枚の火力を叩きつけたい時だったら? トップの3枚に火力があって、なおかつ《怒鳴りつけ》のあとにそれを唱えられるマナが残ってなきゃ殺せません。
《精神の誓約》というカードをご存知ですか? 5マナで5枚引けるかも知れないので素晴らしいと思う人もいるかも知れませんが、実際にはこのカードは5マナで3ドロー以下です。対戦相手がミスをすることをあてにしてはいけません。もし対戦相手がめくれた3枚を墓地に送ったなら、それは相手にとってよほど厄介なカードだったに違いなく、無作為な5枚よりもそちらの方が絶対にいいのです。いくつか例外のカードはあって、例えば《けちな贈り物》や《嘘か真か》がそうなのですが、でもそれが強いのは根本的には対戦相手ではなく自分が選ぶことができるからなのです。
対戦相手が下手であれば、これらのカードも強くなるのですが、それを期待するのはお門違いというものです。
マジックとは選択のゲームです。いいプレイをしたいと思ったら、ゲームの中でどこに選択が発生するのか、そしてその選択は本当は何を選んでいるのかを知らなければなりません。そして、可能な限り多くの情報をもとに、可能な限り多くの選択肢を持たなければなりません。対戦相手も同じことを目指していますから、相手には情報や選択の余地をできるだけ与えないようにすることです。強いプレイヤーほどコントロール・デッキを好みますが、理由のひとつとしては取れる選択肢が多いからということがあるでしょう。
相手の人生を楽にしてやることはありません。そんなことをしてもあなたの得にはなりませんよ。
お楽しみいただけたでしょうか。また来週!
PV
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前回の記事と比べたら随分短いやと思って訳し始めたのですが、単に前回のが長すぎただけでこれも充分長いのでした。やや散漫な嫌いはありますが、ツンドラと地底海の話とモグの狂信者とラノワールのエルフの話は面白かったです。
この記事みたいな、比較的いつ読んでも意義があるような記事を訳したいと思っています。なにしろおれは訳が遅い。即時性の高い記事はおれのようなカジュアルプレイヤーが読んでもわくわくするものなのですが、訳し終わった頃には昨今のメタゲームは遥か先まで進んでしまいます。であれば多分、こういうファンダメンタルな記事を訳した方が有意義というものでしょう。もちろん、和訳というのは有意義だからやるとか無意義だからやらないとかいうものではないのですが。
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脚注
(*1)引用文
私訳。原書、訳書ともに未読。
(*2)オリヴィエ・ルエル
フランス人。Olivier Ruel。兄のアントワン Antoine Ruel と共にマジック世界最強兄弟の一角を成す。殿堂プレイヤー。未婚。
(*3)ナシフ
ガブリエル・ナシフ。Gabriel Nassif。フランスの強豪。構築レーティング世界最高記録の保持者。殿堂プレイヤー。未婚既婚。ほんとについ先日結婚したみたいです。失礼しました。一応書く前には「gabriel nassif married」とかでぐぐったりしてんですけどね……。
(*4)1ターン目に渦まく知識を打つならツンドラより地下海を先に出すべき
おれはこのデッキを回したことも対戦したこともないから想像でしか言えないのだが、(わざわざ色を足してまでデッキに入れている)《闇の腹心》を2ターン目に着地させるのはこのデッキにとってかなり優先順位の高い行動と思われ、一方手札に《思案》があろうともなかろうとも《不毛の大地》のリスクは変わらない。《渦まく知識》でフェッチランドを掘り当てた場合の損得勘定よりも、既に手札にある《闇の腹心》の着地の方が明らかに重要ではないだろうか。そうだとすれば、1ターン目は《Tundra》から《渦まく知識》、もしくは《Tundra》を置いてエンドが正着ではないかと考える。
(*5)私の 6/6 の《影麻呂》は6点のダメージを受けて墓地に落ち
直訳。実際のゲームがどう進行したか微妙にわからないが、第二の状況で手札が一枚少なくて代わりに《森》がもう一枚場に出ている、みたいな状況になったのではないだろうか。書かれている内容からすると、第一の状況から第二の状況が想定できた、ということになりそうなのだが、《輝く群れ》を X=5 で打たれるところまで想定できるものだろうか? というのは気になった。X=6 で打たれれば翁神社があっても死んでしまうからだ。多分おれが何かを見落としているか、根本的にわかっていない。
追記:コメント欄を参照のこと。やはりおれが根本的にわかっていなかった。
(*6)「ハルク・フラッシュ」デッキ
《変幻の大男》と《閃光》のコンボデッキ。《閃光》で《変幻の大男》を戦場に出し、そのまま墓地に落として《変幻の大男》が死亡した時の能力が誘発すればコンボスタート。勝ち手段はいくつかあるが、一般的にはコンボが決まれば特に妨害がない限り勝てるように組まれている。エターナル環境で一瞬だけ成立したが、レガシーでは速攻で《閃光》が禁止されて息の根を止められた。ヴィンテージでも《閃光》とついでに《商人の巻物》まで制限を受けるという厳しい監視を受けている。
原文:PV’s Playhouse - Making Decisions in Magic (2010-02-04)
http://www.starcitygames.com/magic/fundamentals/18753_PVs_Playhouse_Making_Decisions_in_Magic.html
選択なのだ、ハリー。私たちの選択こそが、私たちの能力なんかよりはるかに、私たちの本質をあらわしているのだ。
――アルバス・ダンブルドア/『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(*1)
少し前のことですが、あるプレイヤーがこんな意見をくれました。「あなたは毎回毎回“ハロー”で記事を書き出してるけど、いつかあらためた方がいいと思う」。というわけで、今日はハローは止めて、私の大好きなシリーズからの引用で始めてみることにしました(もっとも、その中では一番気に入っていない作品なのですが)。
そんなわけで……ハロー!
今日の記事は「選択」について書いていきたいと思います。(まさか私が何の理由もなく上の引用部分を選んだとは思ってませんよね?) 網膜に焼き付くほど繰り返していますが、マジックのゲームというのは選択と決断のかたまりです。ゲームの始まる前には、まずデッキに入れるカードを選びます。そして先手か後手かを選び、キープするかマリガンするかを選び、1ターン毎にどのカードを使ってなにをするかを選びます。その選択の差こそが、強いプレイヤーと弱いプレイヤーとを根本的にわかたっています。強いプレイヤーは大抵正しい選択をします(常に正しい選択をできるプレイヤーなんてのはどこにもいませんが)。しかし弱いプレイヤーは、ほとんどの状況で、そこに選択の余地があることにも気づかないのです。
マジックについてに限って言えば、ダンブルドアは必ずしも正しくないという議論をすることができるでしょう。私たちの選択こそが私たちの本質をあらわす、というのは正しいですが、「能力よりもはるかに」などということはありません。なにしろ、マジックにおいては「能力」というのは即ち選択の能力に他ならないのです。つまりどちらかが重要だとか表面にあらわれやすいとかいうことはマジックではあり得ません。そのふたつは本質的には同じものだからです。
できる限り正しい選択をするためには、必要なことがいくつかあります。ひとつは、上でも書いた通り、選択が存在していることを知っていなければなりません。例を挙げてもらうとわかりやすい、とみなさんから言われているのでここでは例をあげてみましょう:
あなたは先手で、以下のようなデッキをプレイしています。(オリヴィエ・ルエル(*2)の記事から借りてきました)
10《平地/Plains》
6《島/Island》
1《カビーラの交差路/Kabira Crossroads》
1《セジーリの隠れ家/Sejiri Refuge》
1《コーの飛空士/Kor Aeronaut》
2《コーの装具役/Kor Outfitter》
1《コーの空漁師/Kor Skyfisher》
1《カザンドゥの刃の達人/Kazandu Blademaster》
2《崖を縫う者/Cliff Threader》
1《ゴーマゾア/Gomazoa》
2《コーの鉤の達人/Kor Hookmaster》
1《風乗りの長魚/Windrider Eel》
1《生きている津波/Living Tsunami》
1《柱平原の雄牛/Pillarfield Ox》
1《空の遺跡のドレイク/Sky Ruin Drake》
1《ジュワー島のスフィンクス/Sphinx of Jwar Isle》
1《冒険者の装具/Adventuring Gear》
1《盾の仲間の祝福/Shieldmate’s Blessing》
1《精霊への挑戦/Brave the Elements》
1《勇敢な防御/Bold Defense》
1《鞭打ちの罠/Whiplash Trap》
1《飛来する矢の罠/Arrow Volley Trap》
1《征服者の誓約/Conqueror’s Pledge》
あなたの初手は《平地》《平地》《島》《島》《島》《勇敢な防御》《空の遺跡のドレイク》です。さあ、最初の一手は?
…
…
多くのプレイヤーは第1ターンのプレイングなど考えもせずに、適当な土地や手札にあるスペルを唱えてしまいます。断じていけません。考えなければならないのです。この例で言えば、理に適ったプレイの選択はひとつしかありません。「マリガン」と言って、新たに6枚手札を引き直すことです。え? その発想はありませんでしたか?
さて、取り直した6枚の初手は《平地》《平地》《島》《島》《コーの鉤の達人》《生きている津波》です。これなら始められます。そしてあなたは選択しなければなりません。《島》か《平地》か? この例では《平地》から出すべきであることは明らかです。2マナ域に白白のカードが何枚も入っている一方で、青青は1枚もありません。例えば次のターンに《コーの飛空士》を引いた場合に、すぐに出せるようにしたいのです。こういう選択がゲームの今後を決めていくことになるのですが、しかし多くのプレイヤーはこういうことをきちんと考えません。それどころか、なにが問題になるかもわかっていないのです。
同じく1ターン目のプレイングで、もう少し複雑な例に移ってみましょう。
フォーマットはレガシーで、グランプリシカゴ 2009 でナシフ(*3)が優勝したデッキ(青タッチ緑黒白の「《相殺》-《独楽》」デッキで《闇の腹心》《タルモゴイフ》《剣を鍬に》その他青い呪文が入っている)を使っています。
訳注:デッキリスト入れときます。
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/eventcoverage/gpchi09/top8decks
メインデッキ
4《溢れかえる岸辺/Flooded Strand》
2《島/Island》
4《汚染された三角州/Polluted Delta》
3《Tropical Island》
3《Tundra》
4《Underground Sea》
4《闇の腹心/Dark Confidant》
2《誘惑蒔き/Sower of Temptation》
4《タルモゴイフ/Tarmogoyf》
2《三角エイの捕食者/Trygon Predator》
4《渦まく知識/Brainstorm》
4《相殺/Counterbalance》
3《目くらまし/Daze》
4《Force of Will》
1《クローサの掌握/Krosan Grip》
2《思案/Ponder》
4《師範の占い独楽/Sensei’s Divining Top》
4《剣を鍬に/Swords to Plowshares》
2《ヴィダルケンの枷/Vedalken Shackles》
サイドボード
1《青霊破/Blue Elemental Blast》
1《ブレンタンの炉の世話人/Burrenton Forge-Tender》
1《暗黒破/Darkblast》
1《魔力流出/Energy Flux》
1《仕組まれた疫病/Engineered Plague》
1《悟りの教示者/Enlightened Tutor》
1《水流破/Hydroblast》
1《戦争の報い、禍汰奇/Kataki, War’s Wage》
1《クローサの掌握/Krosan Grip》
1《非業の死/Perish》
1《次元の狭間/Planar Void》
1《大祖始の遺産/Relic of Progenitus》
1《不忠の糸/Threads of Disloyalty》
1《トーモッドの墓所/Tormod’s Crypt》
1《梅澤の十手/Umezawa’s Jitte》
あなたが先手で、相手のデッキはわかりません。こんな初手が来ました:
《Underground Sea》
《Tundra》
《思案》
《渦まく知識》
《闇の腹心》
《Force of Will》
《Force of Will》
さあ、1ターン目のプレイングは?
…
…
実験のため、いろいろなプレイヤーにこれを実際に訊いてみました。その中には強いプレイヤーも弱いプレイヤーも含まれています。多くのプレイヤーが「土地を置いてエンド」と答えましたが、これは明らかに誤りです。というより、正しい答えではあり得ません。「土地を置いて《思案》」という答えもたくさんありましたが、これも明らかに誤りです。回答に「土地」という言葉を使う時点でもう間違っているのです。あなたは2枚の土地のどちらかを選ばなければなりません。
さて、多くのプレイヤーはこの初手を見て、《思案》か《渦まく知識》のどちらを唱えるべきかに気をとられてしまい、もうひとつの選択――どちらの土地をプレイすべきか――を完全に忘れ去ってしまうことがわかりました。では、正しいプレイングはどのようなものでしょう?
私の考えでは、《Tundra》を置いて《思案》が正しいプレイングです。《不毛の大地》を喰らうかも知れないことを考えると、《Underground Sea》から入りたくはありません。このデッキには黒マナが出る土地は多くなく、かりに土地をもう一枚引いても《闇の腹心》をプレイできない可能性があるからです。つまり《Tundra》は失っても構いませんが《Underground Sea》は失いたくありません。だから《Tundra》から入るべきです。《思案》と《渦まく知識》についてですが、1ターン目なら《思案》がよいと考えます。《思案》はいつでも同じですが、《渦まく知識》はライブラリをシャッフルする手段がある時の方が、要らないカードをライブラリに混ぜてしまえるぶん断然強くなります。しかしこの状況ではシャッフル手段がありませんから、唱えることすらできないようなカードを見つけてもそれを手札にため込む羽目になってしまいます。
というわけで、私は《Tundra》《思案》が明らかに正しいプレイだと考えています。それ以外の手は――例えば《Underground Sea》《思案》は――単純に正しくありません。《渦まく知識》は相手の《思考囲い》からボブ(《闇の腹心》)を隠すことができる、という議論はあり得ますが、このフォーマットに関する私の限られた知識から言うと、《思考囲い》はそこまで広く使われているカードではありません。それに、どのみち《Force of Will》を打つこともできます。
さて、マリガンして初手が6枚になったとしましょう。すると、先ほどの7枚から《思案》が抜けた6枚を引き当てました。今度の選択は《渦まく知識》を打つか打たないかということに変わりました。打ちたくない理由ははっきりしています。ライブラリをシャッフルする手段を引き当てた時までとっておく方が強いからです。しかしこの状況では打ったほうがいいと考えます(正直なところ、これは間違っているかも知れません。そうなるとこの後のプレイングも変わってきてしまうのですが、ここでは仮に打たないほうがいいとお考えの方でも打つものとして1ターン目の土地について考えてみてください)。この状況では、1ターン目の土地は《Underground Sea》が最良です。なぜ今度は《Underground Sea》になるのでしょうか? それは、先ほども述べたように、《渦まく知識》を打つ時には不要なカードをシャッフルする手段が欲しいからです。例えば、《渦まく知識》でフェッチランドを探し当てたとしましょう。戻した2枚のカードのうち1枚は絶対引かなければなりませんが、2枚目は引かなくてもよくなります。しかし、もしここで1ターン目に《Tundra》を置いていて、不要なカードをライブラリに送り返そうと思ったら、2ターン目にボブをプレイするためにはフェッチランドでもう一枚《Underground Sea》を持ってこなければならず、みすみす《Tropical Island》を持ってくる機会を失うことになるのです。もし《Sea》を先に出していれば、好きな土地を持ってくることができて、なおかつ2ターン目にボブを出せます。
ここまでの考えは1ターン目に《思案》より《渦まく知識》を優先した場合の思考の続きで、同時に「《Tundra》から《思案》」がもっとも優れていると考えられるもうひとつの理由でもあります。(*4)
1ターン目でも中々難しいものでしょう? 単純に見えるかもしれなくても、そこには多くの選択肢があります。どちらの土地を選んでどちらのスペルを唱えるかでその先は全て変わってきますし、スペルを打たないという選択すらあるのです(土地を出さないという選択は考えなくていいと思います)。
そして、覚えておいてほしいのは、一連の思考を、必要な材料を得た最初の機会に全てまとめて行うべきだということです。すなわち、この例の場合はマリガンチェック中に全部考えるのです。対戦相手はあなたが実際には何を考えているか知る手がかりはありませんから。
とりわけ重要なのは、ひとつひとつのプレイを切り分けて考えてはいけないということです。もし《不毛の大地》をケアして《Tundra》から入ろうと決めて《Tundra》をプレイして、その後でなにかの理由で《渦まく知識》をプレイしたとしましょう。そうしてしまうと、「もし《渦まく知識》をプレイするのなら《Underground Sea》の方がよかった」と思いついたとしてももう後戻りはできません。思考は常に一連のプレイの形でなされなければならず、その中からひとつを選ぶことで、その後の行動全ての方針が決定されなければなりません。
プレイヤーは実際には選択の余地がある状況なのに無いと信じ込んでしまっていることがあります。以下のような場面を何度目にしたことでしょうか。
「この6枚をキープして、負けたよ」
「なんでそんなひどい手札キープしたんだい?」
「5枚にするわけにはいかないから」
視野狭窄になってはいけません。あなたにはダブルマリガン、どころかトリプルマリガンだってする選択肢が常にあります。
自分のデッキに入れているカードのモードを全部知っておきましょう。《バントの魔除け》や《ジャンドの魔除け》には3つの選択肢があるのです。もし知らなければ、対戦相手の《恐血鬼》を追放するのが最良の一手という状況に出遭ったときでも、その手を考えつくことすらできません。あなたにとっては、それは選択ですらないからです。
他にプレイヤーがミスを犯しやすい状況としては、選択が存在することはわかっていても、その選択がどのような意味を持つかわかっていない時、というのがあります。いい一例として、私が神河ブロック構築のプロツアー予選に出たときのある一戦を挙げます。私は《けちな贈り物》デッキを使って、白ウィニーと対戦していました。場には 6/6 の《初めて苦しんだもの、影麻呂》をコントロールしていて、アンタップ状態の土地が3枚ありました。ただし緑マナが出る土地は1枚しかありませんでした。私は手札に《引き裂く蔦》と《森》を持っていました。
ここで選択肢が生まれます。私は《森》をプレイすることができますが、その《森》は対戦相手が返しのターンに《梅澤の十手》を引いた時のために《引き裂く蔦》を構える以外には役に立たず、次のターンが過ぎればおそらくゲームが終わるまで一度も必要になることはないでしょう。一方、私は《森》を手札に残して《影麻呂》のサイズを保つこともできます。私は《森》をプレイすることにしました。《十手》はやはり厄介だからです。これも単純な決断ですが、《森》を1枚プレイするかどうかだけであっても、そこには選択があるのだということは理解しなければなりません。
さて、次の状況に進みましょう:
私は 6/6 の《影麻呂》をコントロールしていて、立っている土地は《森》《森》《沼》《沼》《先祖の院、翁神社》でした。私は《影麻呂》でアタックして、対戦相手はそれを《灯籠の神》でブロックした後、X=5で《輝く群れ》を打ってきて《影麻呂》を倒そうとしました。しかし私はただ《翁神社》で《影麻呂》をパンプすれば生き残らせることができて、対戦相手はそれを見逃していました。
そんなわけはありません!
この場合は選択自体は同じです。
この例では、私は選択が存在することには気付いていましたが、その選択が実際にはなにを選んでいるのかということを理解できておらず、正しい選択ができませんでした。結果として私の 6/6 の《影麻呂》は6点のダメージを受けて墓地に落ち(*5)、私はそのゲームに負けて試合にも負けました(幸い結果に影響はありませんでしたが)。かりに正しい選択を下せる力があっても、なにを選んでいるのか解っていなければ何の役にも立ちません!
かくのごとく選択というのは本当に重要なものですから、私たちはふたつのことを心がけなければなりません。ひとつは、できるだけ多くの選択肢を持つこと。もうひとつは、できるだけ多くの選択に役立つ情報を持つこと。これは通常は決断をできるだけ遅らせることと同義です。多くの情報を得れば得るほど、より適切な選択を下せるようになります。トーナメントレベルのプレイヤーが「4ターン目に土地を置いて《思案》」などとしているのを私は見たことがあります。何故そんなことをするのでしょう? さっき置いた土地よりも先に出したかった土地を《思案》で引いたら? このターンに特定の土地を置かない限り次のターンにプレイできない呪文を引き当てて、さっき置いた土地はその土地じゃなかったとしたら? どうして対戦相手に《思案》を打つ前から土地を持ってることを教えるんでしょう?
初手を取るときは、7枚全部を見て、どうプレイしていくか決めますよね。最初に4枚見て、その中から1ターン目に出す土地を選んで、それからその土地の選択が正しいようにって祈りながら残りの3枚をめくったりしないですよね? おんなじことです。選択を下す前には、できるだけ多くの情報を得なければいけません。
インスタントは相手のターンの終了ステップに唱えるべきだ、と固く信じていて、そう信じているというだけの理由で盲目的にエンドにスペルを唱えるプレイヤーがいます。実際にはそんな必要はないのに。たとえば「ジャンド」デッキを使っていて、土地が8枚場に出ていて《終止》が手札にあるとしましょう。相手が《悪斬の天使》を唱えて場に出しました。私は相手のターンエンドに《終止》を打つことができます。もちろん、《天使》を生かしておく心算はありません。じゃあさっさと打ってしまうべき、でしょうか? 違います! その2マナぶんを自分のターンに使えたところで何になるでしょうか。なりません。エンドに《終止》を打つべき理由はなにもないのです。もし《血編み髪のエルフ》を引いてきて唱えて、続唱で《終止》がめくれたら? さぞバカなことをしたと思うでしょう。本当に決めなければならない瞬間まで、選択は先延ばしにしましょう。急ぐ理由はひとつもないのです。起動にコストがかからない、たとえば《炎の印章》のようなカードならなおのことです。《印章》を相手のターンエンドに生け贄に捧げたりしていませんか? 次のターンのドローを見てから、本当に起動すべきかどうかを考えればいいのではないですか。
同じことの裏返しですが、対戦相手にはなるべく選択肢を与えてはいけません。もちろん、まるっきりの莫迦相手なら話は別です。中には毎ターン《精神隷属器》でコントロールされてるんじゃないかと思うぐらいひどいプレイヤーもいますし、そんな相手にならいくら選択肢をくれてやってもどうせ間違ったのを選ぶに決まってますから構わないのですが、でもまあそういう相手に勝つのには特に工夫も要らないわけで。強いプレイヤーと対戦したときには、選択肢を与えてはいけません。
《壌土のライオン》は《密林の猿人》より強い、という意見を複数のところで目にしたことがあります。いわく、もろもろの条件を考慮したとき、《壌土のライオン》は確かに《死の印》で死にますが、それは逆に、対戦相手が本来《タルモゴイフ》《野生のナカティル》《悪斬の天使》《聖遺の騎士》あたりに打つべきだった《死の印》を使わせられる、というメリットになるというのです。これは単純に間違いです。相手は打てるからといってなにもこいつに《死の印》を打たなくてもいいのです。《密林の猿人》に対しては、相手は《死の印》をそもそも打つことができません。でも《壌土のライオン》に対してだったら、相手には打つか打たないかの選択があって、それはただ相手にだけ有利な要素です。もし対戦相手が先ほど挙げたようなカードたちに直面して死にかけていたら、相手はわざわざ《ライオン》に《死の印》は打ってこないでしょう。でもこれでやっと《密林の猿人》と互角です。相手が《壌土のライオン》に殺されかけているとしたら? 相手の手札に《死の印》が4枚あったとしたら? 相手はもうすぐあなたを殺せて、後から出てくるかも知れない大物をケアする必要がなかったとしたら? 相手が残りライフ2であなたのクリーチャーは《壌土のライオン》1体しか居ないとしたら?
対戦相手がミスしてくれるのを期待するのは望みすぎというものです。どんな相手でも、時にはあなたのクリーチャーを除去したくなることがあるでしょう。その時に、対象にすることができないクリーチャーなら、そもそもやられる心配はないのです。
余談ですが書いておきますと、私は実際《壌土のライオン》は《密林の猿人》より強いのではないかと思います。でも上記したような理由ではありません。色マナの問題です。アンチ赤のカードの方がアンチ白のカードより多いからです(《ブレンタンの炉の世話人》《コーの火歩き》《赤の防御円》など)。
個人的に好きな「次の一手」問題があります。一時期そればっかり考えていたこともあるぐらいなのですが、こんな状況です。対戦相手、《山》から《モグの狂信者》。自分は《森》、《ラノワールのエルフ》。次のターン、相手はドローして攻撃。私がこれを考えるのに何時間も費やしてた頃のルールに従うとします(つまり、ダメージがスタックに乗ります)。さて、ブロックしますか?
圧倒的に多くの場合は、ブロックしてもしなくても同じ結果になります――あなたは1点のダメージを受けて、《エルフ》は死にます。じゃあこの問いに何の意味があるのでしょう? 答えは、ブロックすれば、あなたは相手に選択を与えずにすむということにあります。対戦相手に選択肢を与えたいですか?
《エルフ》があなたにとって本当に重要だったとしましょう。相手に選択肢を与えれば、相手はその重要さをわかっていなくて、殺さないでくれるかも知れません。でも、敢えてブロックしないことによって、あなたにとっていかにエルフが重要かを相手に知らせてしまい、この《エルフ》を殺されるのみならず後続のマナ・エルフも片っぱしから除去されてしまうかも知れません。あなたにとってこの《エルフ》がいかに重要かを相手が知らないように、あなたも《モグ》が相手にとっていかに重要かを知りません。相手の手札が《稲妻》3枚と《溶岩の撃ち込み》3枚だったらどうでしょう? それだけで 18 点のダメージです。そこで《モグの狂信者》をブロックしなかったら、あなたは相手に《エルフ》を殺すかそれともあなたのライフの最後の1点を削りきらせるかの選択を与えてしまったことになるのです。もし相手の手札に《ゴブリンの王》が3枚あったらどうなるでしょう? 相手は《モグ》を生け贄にしないでしょうし、あなたは間もなく 4/4 にまで成長する《モグ》を片付けるチャンスを失ったことになります。相手の持ち得る可能性は様々で、あなたにはそれを知る術はありません。だからよほど下手な相手でない限りは、相手に選択肢を与えてはいけません。つまり、常にブロックすべきです。相手がミスして本来殺すべきエルフを見逃す可能性よりも、相手があなたの知らない情報を持っている可能性の方が高いです。
ブロックしなかった場合でも、少しでも怪しいと思えば相手は《エルフ》を殺してきます。それは基本的な定石で、殆ど機械的なプレイングです。もしそうして来なかったとしたら、よほどはっきりした理由があります。あなたの方になにか明確な理由があるのでない限り、相手に選択肢を与えてはいけません。
もちろん、現在のルールではダメージはスタックに乗りませんから、常にブロックするのが正解です。しかし、《モグの狂信者》が使われることもなくなっています。
自分の方が「より多く知っている」状況であれば、対戦相手に選択肢を与える方が正しいこともあります。私は「ハルク・フラッシュ」デッキ(*6)を使っていたときは、しばしば相手が《もみ消し》を構えているところでわざとフェッチランドを起動しました。他の、普通のデッキを使っているときは、わざわざ相手に《もみ消し》を打たせたりはしません。しかしハルク・フラッシュの場合はフェッチランドに対する相手の《もみ消し》が正しいプレイングになることはあり得ません。たとえ相手が《もみ消し》を4枚持っていたとしても、こちらはそれをかいくぐってコンボを決めなければならないのです。というわけで、この場合は相手に選択肢を与えることに全く害がありません。「成功/失敗」ではなく、「成功/特に変化なし」なのです。対戦相手のミスに期待しなくてもいいのです。ミスしなかったとしても、失うものはなにもありません。例えば対戦相手は手札に《もみ消し》を2枚持っていて、こちらのデッキを知らないかも知れません。そうすると、相手はフェッチに《もみ消し》を打ってくるかも知れませんが、それは有難いことなので、わざわざ相手のタップアウトの隙にこっそりフェッチランドを起動する必要はないわけです。これはしかし非常にまれな状況です。ほとんどのデッキの場合こんなことはしません。
ついでながら、これは対戦相手に選択権があるカードが弱い理由でもあります。例えば《怒鳴りつけ》はぱっと見たところ充分使えるカードに思えます。(2)(赤)でカードを3枚引ける、もしくは(2)(赤)で5点のダメージ、どちらもいい取引です、よね? でもこれを対戦相手が選べるとなると、途端に大していい取引ではなくなってしまいます。その時欲しくない方をつかまされてしまうからです。《神の怒り》を喰らって立ち直りたい時だったら? 相手は5点を甘んじて受けるでしょう。とどめの一枚の火力を叩きつけたい時だったら? トップの3枚に火力があって、なおかつ《怒鳴りつけ》のあとにそれを唱えられるマナが残ってなきゃ殺せません。
《精神の誓約》というカードをご存知ですか? 5マナで5枚引けるかも知れないので素晴らしいと思う人もいるかも知れませんが、実際にはこのカードは5マナで3ドロー以下です。対戦相手がミスをすることをあてにしてはいけません。もし対戦相手がめくれた3枚を墓地に送ったなら、それは相手にとってよほど厄介なカードだったに違いなく、無作為な5枚よりもそちらの方が絶対にいいのです。いくつか例外のカードはあって、例えば《けちな贈り物》や《嘘か真か》がそうなのですが、でもそれが強いのは根本的には対戦相手ではなく自分が選ぶことができるからなのです。
対戦相手が下手であれば、これらのカードも強くなるのですが、それを期待するのはお門違いというものです。
マジックとは選択のゲームです。いいプレイをしたいと思ったら、ゲームの中でどこに選択が発生するのか、そしてその選択は本当は何を選んでいるのかを知らなければなりません。そして、可能な限り多くの情報をもとに、可能な限り多くの選択肢を持たなければなりません。対戦相手も同じことを目指していますから、相手には情報や選択の余地をできるだけ与えないようにすることです。強いプレイヤーほどコントロール・デッキを好みますが、理由のひとつとしては取れる選択肢が多いからということがあるでしょう。
相手の人生を楽にしてやることはありません。そんなことをしてもあなたの得にはなりませんよ。
お楽しみいただけたでしょうか。また来週!
PV
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前回の記事と比べたら随分短いやと思って訳し始めたのですが、単に前回のが長すぎただけでこれも充分長いのでした。やや散漫な嫌いはありますが、ツンドラと地底海の話とモグの狂信者とラノワールのエルフの話は面白かったです。
この記事みたいな、比較的いつ読んでも意義があるような記事を訳したいと思っています。なにしろおれは訳が遅い。即時性の高い記事はおれのようなカジュアルプレイヤーが読んでもわくわくするものなのですが、訳し終わった頃には昨今のメタゲームは遥か先まで進んでしまいます。であれば多分、こういうファンダメンタルな記事を訳した方が有意義というものでしょう。もちろん、和訳というのは有意義だからやるとか無意義だからやらないとかいうものではないのですが。
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脚注
(*1)引用文
私訳。原書、訳書ともに未読。
(*2)オリヴィエ・ルエル
フランス人。Olivier Ruel。兄のアントワン Antoine Ruel と共にマジック世界最強兄弟の一角を成す。殿堂プレイヤー。未婚。
(*3)ナシフ
ガブリエル・ナシフ。Gabriel Nassif。フランスの強豪。構築レーティング世界最高記録の保持者。殿堂プレイヤー。
(*4)1ターン目に渦まく知識を打つならツンドラより地下海を先に出すべき
おれはこのデッキを回したことも対戦したこともないから想像でしか言えないのだが、(わざわざ色を足してまでデッキに入れている)《闇の腹心》を2ターン目に着地させるのはこのデッキにとってかなり優先順位の高い行動と思われ、一方手札に《思案》があろうともなかろうとも《不毛の大地》のリスクは変わらない。《渦まく知識》でフェッチランドを掘り当てた場合の損得勘定よりも、既に手札にある《闇の腹心》の着地の方が明らかに重要ではないだろうか。そうだとすれば、1ターン目は《Tundra》から《渦まく知識》、もしくは《Tundra》を置いてエンドが正着ではないかと考える。
(*5)私の 6/6 の《影麻呂》は6点のダメージを受けて墓地に落ち
直訳。実際のゲームがどう進行したか微妙にわからないが、第二の状況で手札が一枚少なくて代わりに《森》がもう一枚場に出ている、みたいな状況になったのではないだろうか。書かれている内容からすると、第一の状況から第二の状況が想定できた、ということになりそうなのだが、《輝く群れ》を X=5 で打たれるところまで想定できるものだろうか? というのは気になった。X=6 で打たれれば翁神社があっても死んでしまうからだ。多分おれが何かを見落としているか、根本的にわかっていない。
追記:コメント欄を参照のこと。やはりおれが根本的にわかっていなかった。
(*6)「ハルク・フラッシュ」デッキ
《変幻の大男》と《閃光》のコンボデッキ。《閃光》で《変幻の大男》を戦場に出し、そのまま墓地に落として《変幻の大男》が死亡した時の能力が誘発すればコンボスタート。勝ち手段はいくつかあるが、一般的にはコンボが決まれば特に妨害がない限り勝てるように組まれている。エターナル環境で一瞬だけ成立したが、レガシーでは速攻で《閃光》が禁止されて息の根を止められた。ヴィンテージでも《閃光》とついでに《商人の巻物》まで制限を受けるという厳しい監視を受けている。
翻訳:試合に負けるための10の方法(後編)/パウロ・ヴィトフ・ダモ・ダ・ホサ
2011年8月13日 翻訳 コメント (8)というわけで後編です。さすがに一週間かかってしまった。
原文:PV’s Playhouse - How to Lose a Match in 10 Plays
http://www.channelfireball.com/articles/pvs-playhouse-how-to-lose-a-match-in-10-plays/
前編はこちら
http://drk2718.diarynote.jp/201108060211193316/
#5 ディテイルに注意を払わない
マジックでは、大半のゲームの敗因は「大きな全体の絵」(訳注:#4 を参照)の中で失敗することにありますが、その中には小さな失敗しやすいポイントが数多くあります。特定の状況にならなければ決して大事に至らなかっただろう誤りというのは多いのです。私が考えるに、もっともありがちで、それでいてもっとも深刻な事態につながりうる細かいミスは土地に関するものです――セットランドするべき時にセットしないミスと、誤った土地をタップしてしまうミスとの2種類があります。
今や、はったりのために手札に土地を抱えておくテクニックは誰もが知っています。対戦相手にただで情報を与えたくはありませんものね。でもその一方で、自分のデッキからどんなカードをドローする可能性があるのかは常に意識していなければなりません。その土地を戦場に出しておく必要が生じるかも知れないからです。ブラッド・ネルソンが最近書いた記事で(それともリッチ・ハーゴンだったかな?)、ハワイに住む私の友人ルーカス・バーサウドと彼が対戦して、それを見ていた私が彼の勝利に対して文句をつけた、というようなくだりがありましたが、その中でブラッドが言及していないことがあります。それは、ある時点でブラッドがあえて土地をプレイせず、それが最終的に彼にとってひどいことにつながった、ということです。本当に小さなことで、普通はゲームに一切影響しないレベルでしたが、しかしその 11 枚目かそこらの土地をひとつ前のターンに出してさえいれば、彼はその場でゲームに勝てた、という瞬間があったのです――その土地をはったりのために手札に溜めておいたりせずに。私が文句をつけたのはそのことについてです。結局は彼が勝ったとはいえ。
誰もが――文字通り誰もが、どんなに素晴らしいプレイヤーであっても、こういう小さなミスを犯します。さほど重要には思えなかった決断が、しかし最終的には勝敗を左右することになるのです。
《島》2枚の代わりに《島》と《金属海の沿岸》を残して《瞬間凍結》を構えて、これなら《糾弾》を持ってるふりもできるし、と思ってたら戦闘前に《地盤の際》を使われてカウンターすら構えられなくなったのは誰でしょう?
10 枚目の土地を置いてしまったばっかりに、《精神腐敗》を打たれてスペルを2枚捨てる羽目になって、それで負けたのは誰でしょう?
打ち消し呪文を持ってたのに、相手の3枚目の《霊気の薬瓶》を、「どうせもう2枚場に出てるんだから一緒だよな?」と思って通してしまい、おかげで負けたのは誰でしょう?
3ターン目に土地が詰まって、6マナのカードをディスカードしたら、ゲームが長引いて終盤出すものがなくなって負けたのは誰でしょう?
《渦巻く知識》を打つ前に土地を置いてしまったばっかりに、3枚見た中にもっといい土地があったのに、それがプレイできなくて負けたのは誰でしょう?(これだけは私はやったことがありません――でも他のものは全部私がやりました)
指摘しておきたいのは、その決断が一見重要そうには見えないからこのようなことが起きるのだ、というわけではないということです。バタフライ効果という言葉をご存知でしょうか。蝶々の羽ばたきがハリケーンを起こすことがある、という奴です。マジックでは、まさにその通りのことが起きます。何かを無意味だと切り捨てる前に、それが本当に無意味であるかどうか、パーセント単位まで検証してみましょう。《面晶体のカニ》の能力が誘発したときに、それにスタックしてフェッチランドを起動しないようにすると(*10)、重要なスペルの代わりに土地がライブラリから墓地に落とされる確率がちょっとだけ上がります。仮にそれが 1% だけ上がるとすると、このような状況が 100 回起きたとしたら、そのうち 99 回はやってもやらなくても同じです。でも、最後の1回はプロツアー予選の決勝戦かも知れないのです!
もうひとつ、殆ど誰もやっていないプレイングがあります。赤単デッキでライブラリを「圧縮」したい時には、対戦相手の終了ステップではなく、自分のターンのアップキープに入ってからフェッチランドを起動しましょう。こうすれば、そのターン《焼尽の猛火》を上陸で打てますから、手札の《山》を、もう1枚《焼尽の猛火》を引いた時のためにとっておくことができます。殆ど影響がない? まるで無意味? 絶対にそんなことはありません。とにかく、このプレイングをしたところで失うものは3ミリ秒ぐらいしかないのだ、ということは頭に入れておいてもいいでしょう。
#6 デッキを選ぶときに、理性より感情を優先させる
数日前のことですが、ギャヴィンがツイッターで「これまでに使ったカードの中で、トーナメントでいい成績を収めた一番変なカードは何?」というお題を出していました。みんなの答えは《三つの夢》から《的外れの激怒》《死相の否命》まで様々で、なかなか楽しそうな会話だったので私も加わりたいと思いました。ところが、私は真剣勝負のトーナメントで成功を収めたときに使った“へんてこな”カードを1枚たりとも思いつくことができませんでした(13歳かそこらの頃使った、3バイ明けから 3-1-2 だった《機知の戦い》デッキを「成功」に数えなければ、の話ですが)。本当です。もちろん、1枚も無いということはないのでしょうが、とにかく思い出すことができません――もっともそれに近いのは、《夜景学院の弟子》が4枚入った「サイカトグ」デッキであるトーナメントに優勝したことですが、それにしたってデッキリストに《夜景学院の使い魔》と書くべきところを間違えてしまい、デッキに入れなければならなくなった(*11)だけなのです。
要するに、私は変なカードが入っているデッキを使うことは滅多にありませんし、使ったときは負けている、ということになります。このことに気付くまでにはそれほど時間はかかりませんでした。
今は、私は自分がもっとも強いと考えるデッキを必ず使うことにしています。もちろん、これはこれで私の「最強」観によってバイアスがかかってきます――白ウィニーはマイナス、マナランプ系もマイナス、コントロールとか驚くようなコンボはプラス、サイドボードがよければプラス、サイドボードが駄目ならマイナス、といった具合に。
私の見たところでは、多くのプレイヤーは単に他人と違ったことをしたいだけのカードをデッキに入れていながら、それが最良の選択肢だと本気で信じているふしがあります。他人と違ったことをしたい、ということ自体にはなにも悪いことはありません。でも、これだけはわかっていなければいけません。トーナメントで勝つために最善を尽くそうと考えることと、単に人と違ったことをしようとすることとは、決して両立しないのです。
「でも奇襲要素があるよ!」「誰もこのカードに対する正しいプレイングを知らないんだ」そうでしょうとも、自分を騙し続けなさい。たとえ大っぴらに認めることはできないとしても、心の奥底でどう思っているか――自分自身でデザインした、他に誰も使っていないようなカードの入ったデッキで勝てる見込みはどの程度あると考えているのかが、本当に考慮すべき要素です(*12)。もし最高のレベルで戦いたいのなら、先に書いたような欺瞞は決して自分自身に許してはならないことです。
ある時パトリック・チャピンが私に、きみの最大の強さは理性がほぼ完全に感情を制していることだと思う、と言ってくれたことがありました。それは私が感情を持っていないということではありません。『ケアベア』に登場するノーハートみたいなのを想像しないでください。私が、論理が必要とされる場面では決して感情に支配されないということです。チャピンが言うには、多くのプレイヤーはある状況に対処するために備えることができる筈なのに、判断を感情で曇らせてしまうために、プレイヤー自身の最高の能力を発揮できない。それに対して私は殆ど常に限界近くまで理性的な判断を下している、というのです。
ひとつ思うのは、私が特定のデッキに愛着を持つことがないのは大いに意味があるだろうということです。意識するしないに関わらず、それはトーナメントに持ち込むデッキを選択する上ではいいことですし、それが好成績に直結していると思います。(*13)
#7 どうサイドボードしていいかわかってない
サイドボードは、充分に練習を積んだ上で、どの試合でも何を入れて何を抜くべきか完璧に解っている、という状態が理想的です。しかし現実にはそんなことは起こり得ないということは誰もが知っています。大抵の人はサイドボードの調整に1日かそれ以下しかかけませんし、殆どの場合最後の最後に何枚か入れ替えたりすらします。プレイテストの時間を伸ばせ、とまでは言いませんが、重要なマッチアップでどういうサイドボードをするかは必ずわかっていなければなりません。
サイドボードを作る時には、抜くカードと入れたいカードの枚数の帳尻が合っているかを確かめましょう。もし合わなければさらに抜ける/入れるカードがないかを検討して、それでも駄目なら別のサイドボード候補を探しましょう。これを全てのマッチアップについて行う必要はありませんが、例えば今スタンダードのトーナメントに出るのだったら「コー・ブレイド(カウ・ブレード)」相手のサイドボードは気合いを入れて考えるべきです。ラウンド1から当たったとしても全く文句は言えませんから。
プロツアー・ハリウッドの準々決勝で、私は「フェアリー」デッキを使っていて、「緑黒エルフ」を駆る中村修平と対戦しました。前日に中村のデッキリストが公開されていたにもかかわらず、私はサイドアウトするべき最後の1枚のカードがわかりませんでした。確か 10 枚ほど入れたいカードがあったのですが、9枚しか抜けるカードがないのです。こんな場合どうすればいいのでしょうか? どれほどプレイテストをすれば、あるカードが2枚必要かそれとも3枚必要かわかるのでしょうか? 結局、私は自分で考えてみて、あらゆる人に訊いてみて、さらに考えて、なお結論を出せませんでした。私はとりあえず寝ることにしました。翌朝起きて、また考えて、朝食をとって、なお考えて、それでもわかりませんでした。1ゲーム目が終わると、私はサイドボードを前に苦しむ羽目になりました。テッド・ナットソンはこの場面をカバレッジ(*14)でこう書いています。「パウロはサイドボードの選択に数分を費やした。昨夜にはすでにとり得る選択肢を頭の中で何度も検討しただろうにもかかわらず。」ええ、確かに検討はしたんですが……。とうとう私は最後の一枚を殆ど無作為に選びました。その一枚が結果に影響を及ぼしたかって? 知りたくもありません。このお話の教訓は、サイドボードを決める時は必ず出入りの枚数を合わせておきましょう、ということです!
最後にサイドボーディングのコツをいくつか書いときます:
・《定業》みたいなカードを抜くのは殆どの場合間違いです。
・先手と後手ではサイドボードを変えるべき場合がしばしばあります。
・土地をサイドアウトしても構いません。特に《地盤の際》のような、マナが主目的ではない土地については。
・リミテッドの試合ではサイドボード時に色を変えても構いません。
#8 プレイテストが内輪メタになっている(*15)
プレイテストのためのグループを作ることには様々なメリットがあります。より質の高いテスト時間が持てますし、違った視点を取り入れられますし、他のプレイヤーとのつながりも生じます。しかし、閉じたグループ内でテストをしていると内輪メタの問題は起こりがちです。よくあるのは、誰かが組んだデッキが、一般にトーナメントで広く使われていてプレイテストの対象とすべきものと細かいところで違っていて、優れていたり劣っていたりすることです。そうすると、マッチアップで重要な点は何か、あるいはどのデッキがどのデッキに勝つのかといったことについて間違った結論に辿り着いてしまいます。それはデッキ選択の誤りや敗北の原因となります。
それは大抵そこまで大事にはならないのですが、時には悲惨なことになることもあります。プロツアー・サンディエゴに向けての調整中、私たちのチームの「ナヤ」デッキはプレイテストでは「ジャンド」デッキを圧倒していました。しかしそれは私が作ったテスト用の「ジャンド」が弱かったからでした。実際のプロツアーで見られた「ジャンド」はかなり違うヴァージョンで、もっと強力で、私たちが思っていたよりはずっと際どい相性になっていました。プロツアー・名古屋では、私たちの白単には必ず《刃砦の英雄》が4枚入っていて、絶対に4枚が正解だと確信していました。あらゆるデッキに対して勝ちを決めてくれるカードだからです。しかしふたを開けてみると、どのデッキを見ても2~3枚しか入っていません。私たちは恐ろしくなりました。プレイテスト中に(訳注:4枚入っている)《刃砦の英雄》に沈められて、検討するに値しないと思っていたデッキが、誰も4枚入れていない環境では浮上してきているかも知れません。しかし、私たちにどうすることができたでしょう? 自分たちの方が正しいことはわかっているのに、他のプレイヤーたちが同じ結論に辿り着けないのです。
私は、このような時は、とにかく自分たちが一番強いと考えているヴァージョンを相手に想定するのがよいと考えています(そうすればそれより弱いヴァージョンにも多分勝てるでしょうから)。しかし、違うヴァージョンを使っているプレイヤーと対戦することもあり得るということは頭に入れておいたほうがいいでしょう。
もうひとつ内輪メタで起こりがちなことは、あるデッキの評価が本来よりも高く、あるいは低くなり過ぎてしまうことです。もしあなたの属するグループのメンバー全員が「フェアリー」を大好きで、フェアリーが最強だと考えていたら、「《目覚ましヒバリ》」デッキはあまり好い選択肢には思えないでしょう。すると「緑黒エルフ」のような中速デッキが強そうに見えてきます。それを受けて「フェアリー」を中速デッキに強い構造に作り変えます。こういった過程を経て、最後には最強デッキが完成します。ただし、そのデッキが最強なのはプレイヤー全員があなたたちと仮定を共有している場合だけです。例えば多くのプレイヤーが「フェアリー」はそれほど強くないと考えていれば、「目覚ましヒバリ」が相対的に浮上します。すると「目覚ましヒバリ」に勝てない「緑黒エルフ」は数を減らします。そうなってしまうと、中速デッキを相手に調整してきたことは無駄になってしまいます。もちろん、現実に起きることはもっと複雑です。しかし、これについては、一番強いと考えるものに備えるよりも、一番多く居そうだと思うものに備えるべきです。
まとめると、デッキのヴァージョンについては、自分が最強だと考えるヴァージョンに備えるべきで、デッキ分布については、自分の考えよりも“民衆の意見”を参考にすべきです。
#9 負けをなくせばいい時に勝ちに向かうプレイングをしてしまう
負けそうな時というのは、集中するものです。逆に勝ちそうな時は、気が緩みます。少なくとも私はそうですし、これについて話をした大半のプレイヤーもそうでした。もし勝ちそうな状況にある時には、その状況が崩れないように注意する必要があります。そのためには、何があると負けなのかを考えて、それを回避するようにプレイすることです。有利であればあるほど、回避できる余地は増えます。私の場合有利になるほどひどいプレイが増えてしまうのですが。
私たちがシンガポールでプレイテストをしていたとき、とあるプレイヤー(特に名を秘す)が白ウィニーに対して圧倒的な優位に立っていました。しかし彼は毒カウンターを9個受けていて、対戦相手は《墨蛾の生息地》をコントロールしていました。相手の手札は空で、彼はブロッカーを1体立てていました。そこで匿名プレイヤー氏は忠誠カウンターが3個乗っている《解放された者、カーン》を起動して……対戦相手にディスカードさせたのです! 対戦相手は当然《急送》をトップデッキして、ブロッカーをタップし、《墨蛾の生息地》で彼を毒殺しました。私が「当然」と書くのは、前述したとおり(訳注:#3 参照)、悪いプレイはその報いを受けるべきだからです。
匿名プレイヤー氏が理解していなかったのは、あれだけ圧倒的に場を支配していたのですから、《カーン》をなげうつことには何の問題もなかったということです。それで《生息地》を追放してしまえば、もはや負けようがない盤面でした。もちろん、負けそうな状況なら、1枚のカードから得られるリソースを最大にしなければなりません。でも、圧倒的に有利なら、確実に死ななくなるプレイングをすることです! このためには、カードからのさらなるリソースが必要か必要でないのかを判断できるようになることが大切です。以下のような状況を考えてみましょう:
あなたのライフは5点で、青マナ1個だけを立てています。手札はフェッチランド、《渦まく知識》《Force of Will》の3枚。対戦相手が《溶岩の斧》を唱えてきました。さあ、《渦まく知識》を打ちますか?
この問題文だけでは、正しい答えは存在しません。ゲームの状況によって正しい答えは変わってくるからです。もし次のターンに相手に止めを刺せるのなら、《渦まく知識》を打つ必要はありません――これ以上のカードは必要ないのですし、一方で死なないようにプレイすべきで、ギャンブルの必要はありません。もし逆に次のターンには負けてしまうという状況だったら、もちろん、なにか解決策が必要です! この場合は単純に《渦まく知識》を打って、青いカードともう一枚なにかを引き当てなければなりません。それで引けなかったとしたら、まあどのみち勝ち目は殆ど無かったということになります。
つまるところ、カードになにをしてもらうことが必要か、ということが問題になります。時には、少しだけ長く生き延びるためにカードを費やさなければならないときもあります。そんな時に能動的に勝ちに行くためにそのカードを費ってしまうと、それがゲームに負ける原因になることもあるのです。
#10 やりこみが足りない
これは負ける理由と言うよりは勝てない理由に該当します。「僕はプロツアー予選のトップ8でいつも負けてしまいます。なにがいけないんでしょう? トーナメントで優勝するためには、何が必要なんでしょうか?」――これは私がもっともよく受ける質問のひとつなのですが(ところでこの質問を私にするのはあまりいい人選とは言えません。プレミア・イヴェントで優勝するまでに、12 回のトップ8進出を要したのですから。)、私の答えはいつも大体同じです。あなたが勝てない理由はたぶん、確率的にはあなたは大抵負けることになってるからですよ。
なにしろトップ8には8人居て、勝てるのはひとりなのです。もしあなたがトップ8に4回残って一度も優勝できなかったとしても、特にあり得ない確率でもありませんし、世界一不運というわけでもありません。なにか特別に悪い点がなくても、ただ単に起こり得ることです。残り7人のうち6人まではあなたと全く同じことを思っているかも知れません。「でも僕があの中では一番強かったのに」? ええ、まあ他の6人もそう思ってることでしょうよ。それに、もし本当にあなたが最強で、あらゆる試合で勝率が 67% あったとしても、なお優勝できる可能性は 30% にも満たないのです。
これを乗り越えるには、とにかくたくさんプレイして、何度も何度も挑戦することです。もちろんプレイングを磨くことは乗り越える助けになるでしょうし、ひとつのゴールでもあるべきなのですが、それはそれとして好むと好まざるとに関わらずマジックには運が絡むのです。そして運の要素を乗り越えるためには、運が結果に与える影響を無視できるほどに、とにかくたくさんのトーナメントに出ることです。
それはまた、プレイミスを減らす最良の方法でもあります。もし大事な一戦でミスをして負けたら、なんらかの教訓を得られるでしょうし、何度も挑戦を続ければ、その教訓を活かす機会にも巡り会えるでしょう。
プロツアー予選に2回出て、2回とも運に恵まれなくても、それは不思議なことではありません。10回参加して、それで10回とも運が悪ければ、おめでとうございます、あなたは世界一不運な人です。でも、実際には世界一不運な人なんて居ませんし、もし居たとしてもそれがあなたである可能性は極めて低いです。
ああ、すっかり長くなってしまいました(訳注:ほんとだよ)。もちろん、ゲームの敗北につながることは他にもたくさんあります。たとえば睡眠不足みたいなことだって負ける原因にはなり得ます。この記事ではごく一般的なものを挙げたつもりです。お楽しみいただけたでしょうか。
パウロ・ヴィトフ(*16)
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ということでここまでです。長かったですね。
誤訳の指摘、あるいは自分ならこう訳すというような意見、などは全体的に歓迎します。コメント欄でどうぞ。特に脚注に挙げているところは意味がとりづらかったところです。ご教授頂ければ幸いです。
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脚注
(*10)それにスタックしてフェッチランドを起動しないようにする
これ文字通り訳してるんだけど意味がわかっていない。いや、理屈は理解できる(と思う)のだが、普通起動しないのではないか。
(*11)デッキに入れなければならなくなった
当時のルールではデッキリストと実際のデッキに齟齬がある場合はデッキリストに合うようにデッキのカードを入れ替えなければならなかった。現在は原則として実際のデッキに合うようにデッキリストを修正することとなっている。
(*12)たとえ大っぴらに~考慮すべき要素です。
原文は "Deep down, even if you do not consider it out loud, the prospect of winning with a deck of your own design, with cards no one else plays, s going to be a factor." くそ難しい。plays, の後は脱字があると思われるが(原文ではここの s 一文字だけが斜体になっている)ここでは is と考えて訳している。要するに、surprize factor なんぞという怪しげな factor ではなく、誰も使ってないカードが入ってるおまえのオリジナル・デッキの勝ち目がどんぐらいあると思うか心の中で考えてみろ、それこそが factor だ、と言いたいのだと思う。
(*13)ひとつ思うのは、~直結していると思います。
原文は "I think the fact that I am not attached to the decks in a meaningful way, consciously or not, has resulted in me choosing better decks for tournaments and, therefore, directly impacted my success." 大筋では特に難しいところはないのだが、in a meaningful way がさっぱりわからない。attached to the decks にかかるとは到底思えないので、その前の I think the fact that に無理矢理くっつけた。訳せないところを省くことは極力しないようにしているのだが、これは省いた方が綺麗にまとまるかも知れない。
(*14)カバレッジ
これ。
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Events.aspx?x=mtgevent/pthol08/qf2
試合結果がどうなったか気になる人は読んでみよう。余談だけど coverage の発音はカヴァリッジに近いみたい。
(*15)内輪メタになっている
ここは思い切って意訳した。原文では "Your testing is inbred" だから、直訳すると「テストが近親交配になっている」になるが流石に意味が通じなさ過ぎる。というか初めて聞いた言い回しだしはっきり言って全然ぴんと来ない。一般的な言い回しなのかマジックスラングの一種なのかも不明。ちなみに競馬で言うインブリードと同じ言葉。競馬でインブリードって言う場合一般的には(以下 700 行省略)
(*16)パウロ・ヴィトフ
ポルトガル語の発音に近いらしい表記にしてみた(タイトルのところも同じ)。誰だこれって感じになる。
原文:PV’s Playhouse - How to Lose a Match in 10 Plays
http://www.channelfireball.com/articles/pvs-playhouse-how-to-lose-a-match-in-10-plays/
前編はこちら
http://drk2718.diarynote.jp/201108060211193316/
#5 ディテイルに注意を払わない
マジックでは、大半のゲームの敗因は「大きな全体の絵」(訳注:#4 を参照)の中で失敗することにありますが、その中には小さな失敗しやすいポイントが数多くあります。特定の状況にならなければ決して大事に至らなかっただろう誤りというのは多いのです。私が考えるに、もっともありがちで、それでいてもっとも深刻な事態につながりうる細かいミスは土地に関するものです――セットランドするべき時にセットしないミスと、誤った土地をタップしてしまうミスとの2種類があります。
今や、はったりのために手札に土地を抱えておくテクニックは誰もが知っています。対戦相手にただで情報を与えたくはありませんものね。でもその一方で、自分のデッキからどんなカードをドローする可能性があるのかは常に意識していなければなりません。その土地を戦場に出しておく必要が生じるかも知れないからです。ブラッド・ネルソンが最近書いた記事で(それともリッチ・ハーゴンだったかな?)、ハワイに住む私の友人ルーカス・バーサウドと彼が対戦して、それを見ていた私が彼の勝利に対して文句をつけた、というようなくだりがありましたが、その中でブラッドが言及していないことがあります。それは、ある時点でブラッドがあえて土地をプレイせず、それが最終的に彼にとってひどいことにつながった、ということです。本当に小さなことで、普通はゲームに一切影響しないレベルでしたが、しかしその 11 枚目かそこらの土地をひとつ前のターンに出してさえいれば、彼はその場でゲームに勝てた、という瞬間があったのです――その土地をはったりのために手札に溜めておいたりせずに。私が文句をつけたのはそのことについてです。結局は彼が勝ったとはいえ。
誰もが――文字通り誰もが、どんなに素晴らしいプレイヤーであっても、こういう小さなミスを犯します。さほど重要には思えなかった決断が、しかし最終的には勝敗を左右することになるのです。
《島》2枚の代わりに《島》と《金属海の沿岸》を残して《瞬間凍結》を構えて、これなら《糾弾》を持ってるふりもできるし、と思ってたら戦闘前に《地盤の際》を使われてカウンターすら構えられなくなったのは誰でしょう?
10 枚目の土地を置いてしまったばっかりに、《精神腐敗》を打たれてスペルを2枚捨てる羽目になって、それで負けたのは誰でしょう?
打ち消し呪文を持ってたのに、相手の3枚目の《霊気の薬瓶》を、「どうせもう2枚場に出てるんだから一緒だよな?」と思って通してしまい、おかげで負けたのは誰でしょう?
3ターン目に土地が詰まって、6マナのカードをディスカードしたら、ゲームが長引いて終盤出すものがなくなって負けたのは誰でしょう?
《渦巻く知識》を打つ前に土地を置いてしまったばっかりに、3枚見た中にもっといい土地があったのに、それがプレイできなくて負けたのは誰でしょう?(これだけは私はやったことがありません――でも他のものは全部私がやりました)
指摘しておきたいのは、その決断が一見重要そうには見えないからこのようなことが起きるのだ、というわけではないということです。バタフライ効果という言葉をご存知でしょうか。蝶々の羽ばたきがハリケーンを起こすことがある、という奴です。マジックでは、まさにその通りのことが起きます。何かを無意味だと切り捨てる前に、それが本当に無意味であるかどうか、パーセント単位まで検証してみましょう。《面晶体のカニ》の能力が誘発したときに、それにスタックしてフェッチランドを起動しないようにすると(*10)、重要なスペルの代わりに土地がライブラリから墓地に落とされる確率がちょっとだけ上がります。仮にそれが 1% だけ上がるとすると、このような状況が 100 回起きたとしたら、そのうち 99 回はやってもやらなくても同じです。でも、最後の1回はプロツアー予選の決勝戦かも知れないのです!
もうひとつ、殆ど誰もやっていないプレイングがあります。赤単デッキでライブラリを「圧縮」したい時には、対戦相手の終了ステップではなく、自分のターンのアップキープに入ってからフェッチランドを起動しましょう。こうすれば、そのターン《焼尽の猛火》を上陸で打てますから、手札の《山》を、もう1枚《焼尽の猛火》を引いた時のためにとっておくことができます。殆ど影響がない? まるで無意味? 絶対にそんなことはありません。とにかく、このプレイングをしたところで失うものは3ミリ秒ぐらいしかないのだ、ということは頭に入れておいてもいいでしょう。
#6 デッキを選ぶときに、理性より感情を優先させる
数日前のことですが、ギャヴィンがツイッターで「これまでに使ったカードの中で、トーナメントでいい成績を収めた一番変なカードは何?」というお題を出していました。みんなの答えは《三つの夢》から《的外れの激怒》《死相の否命》まで様々で、なかなか楽しそうな会話だったので私も加わりたいと思いました。ところが、私は真剣勝負のトーナメントで成功を収めたときに使った“へんてこな”カードを1枚たりとも思いつくことができませんでした(13歳かそこらの頃使った、3バイ明けから 3-1-2 だった《機知の戦い》デッキを「成功」に数えなければ、の話ですが)。本当です。もちろん、1枚も無いということはないのでしょうが、とにかく思い出すことができません――もっともそれに近いのは、《夜景学院の弟子》が4枚入った「サイカトグ」デッキであるトーナメントに優勝したことですが、それにしたってデッキリストに《夜景学院の使い魔》と書くべきところを間違えてしまい、デッキに入れなければならなくなった(*11)だけなのです。
要するに、私は変なカードが入っているデッキを使うことは滅多にありませんし、使ったときは負けている、ということになります。このことに気付くまでにはそれほど時間はかかりませんでした。
今は、私は自分がもっとも強いと考えるデッキを必ず使うことにしています。もちろん、これはこれで私の「最強」観によってバイアスがかかってきます――白ウィニーはマイナス、マナランプ系もマイナス、コントロールとか驚くようなコンボはプラス、サイドボードがよければプラス、サイドボードが駄目ならマイナス、といった具合に。
私の見たところでは、多くのプレイヤーは単に他人と違ったことをしたいだけのカードをデッキに入れていながら、それが最良の選択肢だと本気で信じているふしがあります。他人と違ったことをしたい、ということ自体にはなにも悪いことはありません。でも、これだけはわかっていなければいけません。トーナメントで勝つために最善を尽くそうと考えることと、単に人と違ったことをしようとすることとは、決して両立しないのです。
「でも奇襲要素があるよ!」「誰もこのカードに対する正しいプレイングを知らないんだ」そうでしょうとも、自分を騙し続けなさい。たとえ大っぴらに認めることはできないとしても、心の奥底でどう思っているか――自分自身でデザインした、他に誰も使っていないようなカードの入ったデッキで勝てる見込みはどの程度あると考えているのかが、本当に考慮すべき要素です(*12)。もし最高のレベルで戦いたいのなら、先に書いたような欺瞞は決して自分自身に許してはならないことです。
ある時パトリック・チャピンが私に、きみの最大の強さは理性がほぼ完全に感情を制していることだと思う、と言ってくれたことがありました。それは私が感情を持っていないということではありません。『ケアベア』に登場するノーハートみたいなのを想像しないでください。私が、論理が必要とされる場面では決して感情に支配されないということです。チャピンが言うには、多くのプレイヤーはある状況に対処するために備えることができる筈なのに、判断を感情で曇らせてしまうために、プレイヤー自身の最高の能力を発揮できない。それに対して私は殆ど常に限界近くまで理性的な判断を下している、というのです。
ひとつ思うのは、私が特定のデッキに愛着を持つことがないのは大いに意味があるだろうということです。意識するしないに関わらず、それはトーナメントに持ち込むデッキを選択する上ではいいことですし、それが好成績に直結していると思います。(*13)
#7 どうサイドボードしていいかわかってない
サイドボードは、充分に練習を積んだ上で、どの試合でも何を入れて何を抜くべきか完璧に解っている、という状態が理想的です。しかし現実にはそんなことは起こり得ないということは誰もが知っています。大抵の人はサイドボードの調整に1日かそれ以下しかかけませんし、殆どの場合最後の最後に何枚か入れ替えたりすらします。プレイテストの時間を伸ばせ、とまでは言いませんが、重要なマッチアップでどういうサイドボードをするかは必ずわかっていなければなりません。
サイドボードを作る時には、抜くカードと入れたいカードの枚数の帳尻が合っているかを確かめましょう。もし合わなければさらに抜ける/入れるカードがないかを検討して、それでも駄目なら別のサイドボード候補を探しましょう。これを全てのマッチアップについて行う必要はありませんが、例えば今スタンダードのトーナメントに出るのだったら「コー・ブレイド(カウ・ブレード)」相手のサイドボードは気合いを入れて考えるべきです。ラウンド1から当たったとしても全く文句は言えませんから。
プロツアー・ハリウッドの準々決勝で、私は「フェアリー」デッキを使っていて、「緑黒エルフ」を駆る中村修平と対戦しました。前日に中村のデッキリストが公開されていたにもかかわらず、私はサイドアウトするべき最後の1枚のカードがわかりませんでした。確か 10 枚ほど入れたいカードがあったのですが、9枚しか抜けるカードがないのです。こんな場合どうすればいいのでしょうか? どれほどプレイテストをすれば、あるカードが2枚必要かそれとも3枚必要かわかるのでしょうか? 結局、私は自分で考えてみて、あらゆる人に訊いてみて、さらに考えて、なお結論を出せませんでした。私はとりあえず寝ることにしました。翌朝起きて、また考えて、朝食をとって、なお考えて、それでもわかりませんでした。1ゲーム目が終わると、私はサイドボードを前に苦しむ羽目になりました。テッド・ナットソンはこの場面をカバレッジ(*14)でこう書いています。「パウロはサイドボードの選択に数分を費やした。昨夜にはすでにとり得る選択肢を頭の中で何度も検討しただろうにもかかわらず。」ええ、確かに検討はしたんですが……。とうとう私は最後の一枚を殆ど無作為に選びました。その一枚が結果に影響を及ぼしたかって? 知りたくもありません。このお話の教訓は、サイドボードを決める時は必ず出入りの枚数を合わせておきましょう、ということです!
最後にサイドボーディングのコツをいくつか書いときます:
・《定業》みたいなカードを抜くのは殆どの場合間違いです。
・先手と後手ではサイドボードを変えるべき場合がしばしばあります。
・土地をサイドアウトしても構いません。特に《地盤の際》のような、マナが主目的ではない土地については。
・リミテッドの試合ではサイドボード時に色を変えても構いません。
#8 プレイテストが内輪メタになっている(*15)
プレイテストのためのグループを作ることには様々なメリットがあります。より質の高いテスト時間が持てますし、違った視点を取り入れられますし、他のプレイヤーとのつながりも生じます。しかし、閉じたグループ内でテストをしていると内輪メタの問題は起こりがちです。よくあるのは、誰かが組んだデッキが、一般にトーナメントで広く使われていてプレイテストの対象とすべきものと細かいところで違っていて、優れていたり劣っていたりすることです。そうすると、マッチアップで重要な点は何か、あるいはどのデッキがどのデッキに勝つのかといったことについて間違った結論に辿り着いてしまいます。それはデッキ選択の誤りや敗北の原因となります。
それは大抵そこまで大事にはならないのですが、時には悲惨なことになることもあります。プロツアー・サンディエゴに向けての調整中、私たちのチームの「ナヤ」デッキはプレイテストでは「ジャンド」デッキを圧倒していました。しかしそれは私が作ったテスト用の「ジャンド」が弱かったからでした。実際のプロツアーで見られた「ジャンド」はかなり違うヴァージョンで、もっと強力で、私たちが思っていたよりはずっと際どい相性になっていました。プロツアー・名古屋では、私たちの白単には必ず《刃砦の英雄》が4枚入っていて、絶対に4枚が正解だと確信していました。あらゆるデッキに対して勝ちを決めてくれるカードだからです。しかしふたを開けてみると、どのデッキを見ても2~3枚しか入っていません。私たちは恐ろしくなりました。プレイテスト中に(訳注:4枚入っている)《刃砦の英雄》に沈められて、検討するに値しないと思っていたデッキが、誰も4枚入れていない環境では浮上してきているかも知れません。しかし、私たちにどうすることができたでしょう? 自分たちの方が正しいことはわかっているのに、他のプレイヤーたちが同じ結論に辿り着けないのです。
私は、このような時は、とにかく自分たちが一番強いと考えているヴァージョンを相手に想定するのがよいと考えています(そうすればそれより弱いヴァージョンにも多分勝てるでしょうから)。しかし、違うヴァージョンを使っているプレイヤーと対戦することもあり得るということは頭に入れておいたほうがいいでしょう。
もうひとつ内輪メタで起こりがちなことは、あるデッキの評価が本来よりも高く、あるいは低くなり過ぎてしまうことです。もしあなたの属するグループのメンバー全員が「フェアリー」を大好きで、フェアリーが最強だと考えていたら、「《目覚ましヒバリ》」デッキはあまり好い選択肢には思えないでしょう。すると「緑黒エルフ」のような中速デッキが強そうに見えてきます。それを受けて「フェアリー」を中速デッキに強い構造に作り変えます。こういった過程を経て、最後には最強デッキが完成します。ただし、そのデッキが最強なのはプレイヤー全員があなたたちと仮定を共有している場合だけです。例えば多くのプレイヤーが「フェアリー」はそれほど強くないと考えていれば、「目覚ましヒバリ」が相対的に浮上します。すると「目覚ましヒバリ」に勝てない「緑黒エルフ」は数を減らします。そうなってしまうと、中速デッキを相手に調整してきたことは無駄になってしまいます。もちろん、現実に起きることはもっと複雑です。しかし、これについては、一番強いと考えるものに備えるよりも、一番多く居そうだと思うものに備えるべきです。
まとめると、デッキのヴァージョンについては、自分が最強だと考えるヴァージョンに備えるべきで、デッキ分布については、自分の考えよりも“民衆の意見”を参考にすべきです。
#9 負けをなくせばいい時に勝ちに向かうプレイングをしてしまう
負けそうな時というのは、集中するものです。逆に勝ちそうな時は、気が緩みます。少なくとも私はそうですし、これについて話をした大半のプレイヤーもそうでした。もし勝ちそうな状況にある時には、その状況が崩れないように注意する必要があります。そのためには、何があると負けなのかを考えて、それを回避するようにプレイすることです。有利であればあるほど、回避できる余地は増えます。私の場合有利になるほどひどいプレイが増えてしまうのですが。
私たちがシンガポールでプレイテストをしていたとき、とあるプレイヤー(特に名を秘す)が白ウィニーに対して圧倒的な優位に立っていました。しかし彼は毒カウンターを9個受けていて、対戦相手は《墨蛾の生息地》をコントロールしていました。相手の手札は空で、彼はブロッカーを1体立てていました。そこで匿名プレイヤー氏は忠誠カウンターが3個乗っている《解放された者、カーン》を起動して……対戦相手にディスカードさせたのです! 対戦相手は当然《急送》をトップデッキして、ブロッカーをタップし、《墨蛾の生息地》で彼を毒殺しました。私が「当然」と書くのは、前述したとおり(訳注:#3 参照)、悪いプレイはその報いを受けるべきだからです。
匿名プレイヤー氏が理解していなかったのは、あれだけ圧倒的に場を支配していたのですから、《カーン》をなげうつことには何の問題もなかったということです。それで《生息地》を追放してしまえば、もはや負けようがない盤面でした。もちろん、負けそうな状況なら、1枚のカードから得られるリソースを最大にしなければなりません。でも、圧倒的に有利なら、確実に死ななくなるプレイングをすることです! このためには、カードからのさらなるリソースが必要か必要でないのかを判断できるようになることが大切です。以下のような状況を考えてみましょう:
あなたのライフは5点で、青マナ1個だけを立てています。手札はフェッチランド、《渦まく知識》《Force of Will》の3枚。対戦相手が《溶岩の斧》を唱えてきました。さあ、《渦まく知識》を打ちますか?
この問題文だけでは、正しい答えは存在しません。ゲームの状況によって正しい答えは変わってくるからです。もし次のターンに相手に止めを刺せるのなら、《渦まく知識》を打つ必要はありません――これ以上のカードは必要ないのですし、一方で死なないようにプレイすべきで、ギャンブルの必要はありません。もし逆に次のターンには負けてしまうという状況だったら、もちろん、なにか解決策が必要です! この場合は単純に《渦まく知識》を打って、青いカードともう一枚なにかを引き当てなければなりません。それで引けなかったとしたら、まあどのみち勝ち目は殆ど無かったということになります。
つまるところ、カードになにをしてもらうことが必要か、ということが問題になります。時には、少しだけ長く生き延びるためにカードを費やさなければならないときもあります。そんな時に能動的に勝ちに行くためにそのカードを費ってしまうと、それがゲームに負ける原因になることもあるのです。
#10 やりこみが足りない
これは負ける理由と言うよりは勝てない理由に該当します。「僕はプロツアー予選のトップ8でいつも負けてしまいます。なにがいけないんでしょう? トーナメントで優勝するためには、何が必要なんでしょうか?」――これは私がもっともよく受ける質問のひとつなのですが(ところでこの質問を私にするのはあまりいい人選とは言えません。プレミア・イヴェントで優勝するまでに、12 回のトップ8進出を要したのですから。)、私の答えはいつも大体同じです。あなたが勝てない理由はたぶん、確率的にはあなたは大抵負けることになってるからですよ。
なにしろトップ8には8人居て、勝てるのはひとりなのです。もしあなたがトップ8に4回残って一度も優勝できなかったとしても、特にあり得ない確率でもありませんし、世界一不運というわけでもありません。なにか特別に悪い点がなくても、ただ単に起こり得ることです。残り7人のうち6人まではあなたと全く同じことを思っているかも知れません。「でも僕があの中では一番強かったのに」? ええ、まあ他の6人もそう思ってることでしょうよ。それに、もし本当にあなたが最強で、あらゆる試合で勝率が 67% あったとしても、なお優勝できる可能性は 30% にも満たないのです。
これを乗り越えるには、とにかくたくさんプレイして、何度も何度も挑戦することです。もちろんプレイングを磨くことは乗り越える助けになるでしょうし、ひとつのゴールでもあるべきなのですが、それはそれとして好むと好まざるとに関わらずマジックには運が絡むのです。そして運の要素を乗り越えるためには、運が結果に与える影響を無視できるほどに、とにかくたくさんのトーナメントに出ることです。
それはまた、プレイミスを減らす最良の方法でもあります。もし大事な一戦でミスをして負けたら、なんらかの教訓を得られるでしょうし、何度も挑戦を続ければ、その教訓を活かす機会にも巡り会えるでしょう。
プロツアー予選に2回出て、2回とも運に恵まれなくても、それは不思議なことではありません。10回参加して、それで10回とも運が悪ければ、おめでとうございます、あなたは世界一不運な人です。でも、実際には世界一不運な人なんて居ませんし、もし居たとしてもそれがあなたである可能性は極めて低いです。
ああ、すっかり長くなってしまいました(訳注:ほんとだよ)。もちろん、ゲームの敗北につながることは他にもたくさんあります。たとえば睡眠不足みたいなことだって負ける原因にはなり得ます。この記事ではごく一般的なものを挙げたつもりです。お楽しみいただけたでしょうか。
パウロ・ヴィトフ(*16)
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ということでここまでです。長かったですね。
誤訳の指摘、あるいは自分ならこう訳すというような意見、などは全体的に歓迎します。コメント欄でどうぞ。特に脚注に挙げているところは意味がとりづらかったところです。ご教授頂ければ幸いです。
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脚注
(*10)それにスタックしてフェッチランドを起動しないようにする
これ文字通り訳してるんだけど意味がわかっていない。いや、理屈は理解できる(と思う)のだが、普通起動しないのではないか。
(*11)デッキに入れなければならなくなった
当時のルールではデッキリストと実際のデッキに齟齬がある場合はデッキリストに合うようにデッキのカードを入れ替えなければならなかった。現在は原則として実際のデッキに合うようにデッキリストを修正することとなっている。
(*12)たとえ大っぴらに~考慮すべき要素です。
原文は "Deep down, even if you do not consider it out loud, the prospect of winning with a deck of your own design, with cards no one else plays, s going to be a factor." くそ難しい。plays, の後は脱字があると思われるが(原文ではここの s 一文字だけが斜体になっている)ここでは is と考えて訳している。要するに、surprize factor なんぞという怪しげな factor ではなく、誰も使ってないカードが入ってるおまえのオリジナル・デッキの勝ち目がどんぐらいあると思うか心の中で考えてみろ、それこそが factor だ、と言いたいのだと思う。
(*13)ひとつ思うのは、~直結していると思います。
原文は "I think the fact that I am not attached to the decks in a meaningful way, consciously or not, has resulted in me choosing better decks for tournaments and, therefore, directly impacted my success." 大筋では特に難しいところはないのだが、in a meaningful way がさっぱりわからない。attached to the decks にかかるとは到底思えないので、その前の I think the fact that に無理矢理くっつけた。訳せないところを省くことは極力しないようにしているのだが、これは省いた方が綺麗にまとまるかも知れない。
(*14)カバレッジ
これ。
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Events.aspx?x=mtgevent/pthol08/qf2
試合結果がどうなったか気になる人は読んでみよう。余談だけど coverage の発音はカヴァリッジに近いみたい。
(*15)内輪メタになっている
ここは思い切って意訳した。原文では "Your testing is inbred" だから、直訳すると「テストが近親交配になっている」になるが流石に意味が通じなさ過ぎる。というか初めて聞いた言い回しだしはっきり言って全然ぴんと来ない。一般的な言い回しなのかマジックスラングの一種なのかも不明。ちなみに競馬で言うインブリードと同じ言葉。競馬でインブリードって言う場合一般的には(以下 700 行省略)
(*16)パウロ・ヴィトフ
ポルトガル語の発音に近いらしい表記にしてみた(タイトルのところも同じ)。誰だこれって感じになる。
ちょっと和訳ゲージが溜まったので久々に解放してみます。が、想像以上に長かったので前後編にしました。今回は前編。
原文:PV’s Playhouse - How to Lose a Match in 10 Plays
http://www.channelfireball.com/articles/pvs-playhouse-how-to-lose-a-match-in-10-plays/
今回の記事の元ネタは『10日間で男を上手にフル方法』(*1)という映画です。もしこの件について質問があっても、私は自らを犯罪者と認めることを避けるために、答えない権利を行使します(これは『グッド・ワイフ』(*2)で学んだ言い回し)。
さておき、今日の記事ではマジックにおいて試合に負ける原因になり得るミスについて、10種類に分けて説明してみたいと思います。私が考えるに、ミスを直すために最も重要なことはそのミスを認識することです。つまり、自分で自分はミスをしているとわかっている人は半分ミスを直せているようなものなのですが、それでも私がお手伝いできることがあると思います。以下に書くことは全て私が過去に犯したことのあるミスで、残念なことにいくつかのことは未だにしばしばやらかします。
#1 ちゃんとマリガンしない
ゲームの敗北の原因として挙げられるもののうち、単独で原因になりうるものとしてはマリガンが一番大きな割合を占めていることは疑いようがありません。多くのゲームにおいて、マリガンするか否かはゲーム中で最も重要な決断になるでしょう。しかし不思議なことに、マリガンはそこまで重要なものだとは見做されていません。
マリガンについて重要なことは、「灰色の部分」が他の要素に比べるとはるかに大きいということです。優れたプレイヤーを何人か集めて、ゲーム中の特定の状況を例示して議論させたら、殆どの場合おそらく正しいだろう答えにたどり着くことができます。しかしマリガンについてはそうはなりません。ある人はマリガンすべきだといい、ある人はキープすべきだといい、誰ひとりとしてどちらが正しいのか確かな答えを知りません。そしてどうすべきかは個人的なスタイルの問題だということになってしまうのです。これは必ずしも正しい答えが存在しないことを意味しません。単に誰も正答を知らないというだけのことです。
例を挙げると、ルイス(*3)と私は明らかにキープ基準が違います。私はマリガンしすぎる傾向にあり、ルイスはキープしすぎる嫌いがあります。私は自分の基準が絶対正しいと考えていますが(間違ってたら自分の基準じゃないって言い張りますけど)、しかしほんとうにそれが正しいとは言い切れずにいます。なにしろ世界で一番このゲームが上手いとみなされてる人(と、それ以外にも大勢の強いプレイヤー)が私に同意してくれないわけですから。この違いがはっきりわかったのは、世界選手権の時にルイスが私の準決勝のために吸血鬼デッキ相手のテストプレイを手伝ってくれたときのことでした(ちなみに結果的には役に立ちませんでした。マティノンがエフロを負かしてしまったので)。ある局面で、私は《定業》を打ってライブラリの上から《皮裂き》とあとなにかスペル1枚を見ました。私は4枚目の土地を置けておらず、手札には《皮裂き》がすでにありましたから、2枚とも下に送りました。しかしルイスは皮裂きを上に残すべきだというのです。私はその後土地を3枚続けて引いて、下に送った《皮裂き》が手札になかったがために負けました。別のゲームでも殆ど同じような状況になりました――確か今度は《精神を刻む者、ジェイス》が手札にいる時にやはり《定業》で《皮裂き》を見つけたのです。ルイスはやっぱり上に残せと言い、私も今回はそれに従いました。で、ドローが《皮裂き》《ジェイス》と続いて、その次にあった土地を引けないうちに死にました。強欲に行くべきか、安全に行くべきか、どちらが正しいのでしょう? なんとも言えません。どちらもそれぞれに正しい状況があるからです。マリガンについても同じことが言えます。
こういう曖昧な部分があるために、「正しい答えなんてないんだから、つまりこれは完全に個人のプレイスタイルの問題なんだ」と理解してしまっている人が居るのですが、私はそう思ってしまうことこそが最大の問題だと考えています。それは完全な誤りというわけではありません。きわどい手札であれば、個人的なスタイルによって答えが左右されることももちろんあるでしょう。でもとんでもない手札をキープしてしまうプレイヤーは実際に居ます。少し前にリミテッドのグランプリのカバレッジ記事を読んでいたら、1ゲーム目に土地7枚の初手をキープして、2ゲーム目には土地6枚と《法務官の相談》という初手をキープしているというプレイヤーがいました。これはプレイスタイルの問題ではあり得ません。単に間違っています。ええと、この例だと完全確実に間違いとは言い切れませんね。こうしましょう――相手のライフが3点の時でも相手のクリーチャーに《稲妻》を打つのは個人のスタイルの問題か?という話です。あるプレイスタイルは、別のプレイスタイルを完全に上回っていることがある、ということです。
マリガンが適切にできるようになる頃には、マリガンという行為が何を意味しているか理解できている筈です。マリガンとはつまり、1枚カードを失ってでもゲームに勝てる可能性を高めるための選択です。単に手札がよくないから取り直す、というものではありません――好い初手でもマリガンしなきゃならない時もありますし、悪い初手でもキープしなくてはいけないときもあります。
個人的な意見ですが、マリガンに関してリスクが高すぎる選択をするプレイヤーが多い気がします。特に、2マナ域にキー・カードが入っているデッキではその傾向が顕著です。初手に土地が1枚しかないハンドが来るたびに、その2マナのキー・カードの誘惑が待ち受けているからです。例えば、土地なしで《霧縛りの徒党》《霧縛りの徒党》《謎めいた命令》《謎めいた命令》と続いて、ここまではマリガンしても全く惜しくないのですが、その後が土地、《思考囲い》《苦花》と続いたりするのです。私はこういう初手は決してキープしません。もしこれをキープしたら、まあ 30% ぐらいの確率で何もできないまま負けるでしょう。ここからが間違えやすいところなのですが、仮に負けずに済んだところで、勝てるとは限らないのです! 残りの 70% というのは、マジックというゲームに参加できる可能性に過ぎません。私としてはこんな初手をキープするのはよろしくないと思いますが、これでも私が実戦で引き当てる初手に比べれば随分ましです。《思考囲い》《苦花》の初手は確かに強力です。しかし(訳注:土地が1枚しかないのであれば)、マリガンして6枚引き直した初手の期待値の方が上です。私はこの点には堅い信念を持っています。もしこの「土地1枚だけど魅力的な初手」をキープするのを止めれば、少なくともそのために敗れることは減るでしょう。
リミテッドでよくある初手としては、土地1枚ながらも2枚目の土地さえ引き当てられれば回る、というタイプのものがあります。しかしこれも「回る」の定義がどういうものかによります。例えばこんな手を見てみましょう:
《山》《感電波》《銅のマイア》《鉄のマイア》
《マイコシンスの水源》《マイコシンスの水源》《使徒の祝福》
土地1枚の初手に欲しいものがすべて詰まっています。なにもできずに死ぬことはありませんし、2枚目の土地を引き当て次第すぐにでも動き出せます。というわけで、キープしましょうか? いいえ!! この手札は最悪です。この手札の最大の問題は土地が1枚しかないことではありません。何もできないことこそが問題なのです。この手をキープして、すぐに2枚目の土地を引き当てたらどうなるか想像してみてください。できるようになることといえば……さらに土地を伸ばすことだけです! それに加えて、単純に2枚目の土地を引けないまま負ける可能性と、マナを伸ばすためだけにマナを費やしていってぐだぐだになる可能性を考えると、おめでとうございます、あなたは土地事故と逆土地事故が両方ありうる初手をキープしたことになりました! 私だったら先手だろうと後手だろうとこの手札はキープしませんが、多くのプレイヤーは「《感電波》で時間が稼げるし、もう1枚土地を引きさえすればどのスペルも唱えられるようになる」と主張することでしょう。
もうひとつマリガンがゲームの敗北につながるパターンとしては戦略的なものがあります。多くのプレイヤーはマリガンに対して病的な恐怖を抱いているように思われてなりませんが、マリガンというのは単に初手が悪くてそれよりよくなる見込みがあると思えたらその手札を山札に戻すというだけのことです。
私が思うに、「フェアリー」のミラーマッチや「コー・ブレイド」(カウ・ブレード)(*4)のミラーマッチでは、プレイングの腕よりも、悪い初手をきちんとマリガンできるか、の方が勝敗に与える影響が大きいと思います(特にコー・ブレイドにおいて顕著です)。
#2 対戦相手がなにをしているか考えない
マジックは2人用のゲームで、対戦するふたりの間には常に相互作用があります。試合中、自分だけが競技者であるかのように振る舞うプレイヤーは決して強くはなれません。対戦相手は理性的な存在であるということをまず理解しなくてはなりません。相手は自分にとってなにが最良であるかを考えながら、その考えに基づいてプレイを選択しているのであって、決して適当にやっているわけではありません。このことが理解できれば、対戦相手の手札やゲームプランを推測することができるようになりますし、手札にないカードをさも持っているように思わせたり、対戦相手にあなたの得になるようなプレイをさせることさえできるのです。
対戦相手が何を持っているか明らかにわかるようなプレイをしてくることは時々あります。たとえば、「ヴァラクート」デッキを使っている対戦相手が1ターン目に《広漠なる変幻地》を生け贄に捧げて《山》を持ってきたら、相手の手札に《森》が少なくとも1枚、おそらくは2枚あることは殆ど明らかです。持っていなければ、《広漠なる変幻地》で持ってこない理由がありません。
それ自体は大して役に立つとも思えないかも知れませんが、しかしどんな小さな情報でも意味はあるのです。もちろん、演繹的な思考の連鎖の方が重要なのですが。――もし相手が《森》を持っていなければ、《森》を持ってくる筈です。《森》を持ってこなかったということは、実際に《森》をテーブルに置かれたのと殆ど同じくらい確実に、手札に一枚あるということです。もし次のターン、相手が《不屈の自然》でもう一枚《山》を場に出すようなら、たぶん手札にはもう一枚《森》があるでしょう。そうすると、《広がりゆく海》を《森》に貼っても緑マナを潰すことは難しそうです。《海》は《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》のためにとっておいた方がいいかも知れません……といった具合に。
M12 のリミテッドをプレイしていて、手札に《踏み荒らし》があったら、クリーチャー同士の交換は避けたいでしょう。ではもし対戦相手がクリーチャーの交換をしてこなかったら? もしかすると相手は《踏み荒らし》を持っているのかも知れません。単純な話です。
時にプレイヤーは、もし少しでも対戦相手の視点に立ってゲームを考えていれば決して考慮する必要のなかったカードについて思い悩んでしまったりすることがあります。大昔のことですが、私はブラジル選手権予選の試合を地元のお店で観戦していました。赤緑対黒赤の対戦で、一方が《抹消》を打ってゲームが振り出しに戻ったところでした。(《抹消》はこのマッチアップではひどいカードだと思いますが、まあここではおいときましょう。)赤緑のプレイヤーは3枚目の土地を置いて、《獣群の呼び声》でトークンを出して、次のターンにはそのトークンで攻撃して相手のライフを2まで減らしました(これでライフは2対2です)。そして3マナを立てたままターンを渡しました。相手はアンタップして、4枚目の土地を置き、手札にある《火炎舌のカヴー》と《燃え立つ死霊》の2枚をじっと見つめたまま長考に入りました。明らかに簡単に下せる決断ではありません。それでも彼は最後には心を決めて、4枚の土地をタップすると《燃え立つ死霊》をプレイしました。赤緑のプレイヤーは何も持っておらず、黒赤のプレイヤーは勝利を決めて安堵のため息をもらしました。終わるなりプレイヤーの友人が訊きました――「なにをそんなに考え込んでたの?」「いや、《ショック》があるんじゃないかと思ってさ……」「ショックがあったらおまえに打ってるよ!」「あ、ほんとだ……」 それまでのプレイを見ていれば持っている筈のないカードにおびえることのないようにしましょう。
ここまでできたら、次のレベルに進みましょう。あなたの対戦相手も、あなたが理性的な存在であることを理解している、ということを理解することです。対戦相手もまさにあなたがやろうとしていることをやろうとしているわけです――あなたの行動から、どういうプランを進めているのかを知ろうとしているのです。昔カイ・ブッディ(*5)が書いたレポートでこんな場面がありました。対戦相手が4枚目の《沼》を置いてから 2/2 でブッディの 6/6 のドラゴンに突っ込んできたのです。カイはその場面について「もし《泥沼病》を持っているなら、どうしてわざわざ《沼》を戦闘前にプレイしたりするだろう? ブロックの一手だ!」と書いています。ここではカイは対戦相手が理性的な存在であることを理解し、相手もまた自分が理性的な存在であることを意識していることをも計算に入れています。もしブロックさせる意図があるのなら、可能な限りそのブロックが危険な選択肢であることを匂わせないようにするでしょう。まとめるとこんな風になります:
レベル1――対戦相手はアタックして《泥沼病》との合わせ技でドラゴンを仕留めなければならないことを理解しています。
レベル2――対戦相手は、もし4枚目の《沼》をプレイすれば、カイがブロックする可能性が下がることを理解しています。なぜならドラゴンを仕留めるのに必要な「《沼》と《泥沼病》」という組み合わせのうち、一方を持っていることを明らかにしてしまうから。
レベル3――カイは対戦相手がレベル2まで理解していることを知っています。だからこそ、「戦闘前に《沼》を置いたから、彼は《泥沼病》を持っていない」という結論に達することができるのです。
もちろん、その対戦相手はカイと互角の思考をしていて、カイが「レベル3」の考えにまで至っていることをわかっているかも知れません。しかし、それほどのマスター同士の対戦というのはあまりありそうなことには思えません。
補遺:2011 年4月9日、「マスター」は「あまりにもマジック界で濫用されすぎたために意味を失ってしまった単語リスト」入りを果たしました。マジック界のためにも、ここでリスト入りしている単語の適切な使い方を説明させてください:
マスター(master):マスターであるということはマジック全般もしくは特定のデッキに関して大変に大変に優れているということです。「グランドマスター」みたいな呼び方が登場しない限りは、誰かをマスターと呼ぶということはその人が世界中の殆ど誰よりも優れていることを意味します。あるデッキを使って小さなトーナメントをひとつふたつ優勝する、程度ではマスターと呼ばれるには程遠いです。
リンガー(ringer):リンガーは見えざる実力者のことを指します――強いのですが、誰もそのことを知らないのです。私の理解が正しければ、この言葉は例えばプロの選手が学生に変装して高校野球に出る、みたいな時に使われる言葉であったと思います。単に「実力者」を指す言葉ではありません。LSV やブラッド・ネルソンはリンガーではありませんし、もう長いことリンガーではあり得ません。みんなが強いことを知っているからです。ここでの「みんな」があなたの知り合い全員という意味ではないことに気をつけてください。あなたの友人のひとりがとても強かったとして、誰もそれを知らなかったとしてもリンガーではありませんからね。「犯罪的に過小評価されている」という言い回しとセットで使われることが多いです。
グラインダー(grinder):グラインダーは単に死ぬほどマジックをやりこんでいる人です。上手いか下手かは関係ありません。
文字通り(Literally):「文字通り」には強調の意味はありません。後ろに来る単語に重要性を持たせる言葉ではないのです。「文字通り」というのは、つまり言葉の意味が書かれている通りだということです。「僕が食べた中で文字通り一番素晴らしいものだった」という文はそれが本当においしかったということを意味せず、単に人生を通じてそれよりいいものを食べたことがないということです。「彼は文字通り負けたことがない」というと生涯成績が無敗ということになります。「君は文字通り biggest barn だ」(*6)といったなら、あなたは大変巨大な建築物でその中に穀物をしまっとける、ということです。「《ステップのオオヤマネコ》に文字通り殺された」だとあなたは既に死んでいますからそんなことは言えません――そしてそんなヤマネコには近づくべきではありませんでした。
ここまでの単語や言い回しを組み合わせるとこんなパワフルなセンテンスが作れます。「彼は文字通り犯罪的に過小評価されてる DI のマスター・リンガーだ」(*7)
#3 「権利」(*8)の感覚をもとに行動してしまう
誤解しないでください――「権利」の感覚を持ってはいけないということではないのです。世の中では権利とか報いとかいう単語は害毒みたいに語られていますが、実際のところそんなことはありません。以前ブラッドが「報い」なんてものがいかに幻であるかについて記事にしていたことがありますし、ギャヴィンは記事の出だしを「報い? 報いなんてどこにもない。」で始めていたこともあります。私は同意できません。私は自分が優れたプレイヤーだと思っていますし、そうなるために長い時間と強くなるための多くの努力を重ねてきました。デッキの選択には慎重に時間を費やしますし、選択のための理由が感情を押さえ込めるように自分をコントロールしています。こういったことが報われてはいけない理由があるでしょうか? もしミスの上にミスを重ねている対戦相手と対戦したら、その相手はやはりミスの報いとして負けるべきではないでしょうか? それはすなわち、ミスを重ねずにプレイできたのなら、その報償として勝利が得られるべきだ、ということにはならないでしょうか?
対戦相手が、現環境の8割のデッキに勝ち目がない白単のライフゲイン・デッキを使っていたとしたら、彼はやはりその選択の報いとして敗れるべきではないでしょうか。私は敗れるべきだと思います。人は、マジックにおける正しい決断に対しては報償を得るべきですし、誤った決断については罰を受けるべきだと考えています。私から見ればひどい選択だとはっきり判るようなデッキを使っているプレイヤーが、対戦運や引きに恵まれて勝っているのを見るといらいらします。私の努力までもがおとしめられたような気がするからです。正しい選択をした人が勝っていると、努力しようという気になります。逆に誤った選択をしたために敗れた時にも、やはりもっと努力しようという気になれます。間違った選択をしている人が勝つのを見ると……ええ、まあ。
強調したいのは、あなたが「報われる権利がある」という感覚を持ってはいけないということです。あなたがあることに対して時間をかけて努力を重ねたのなら、当然その努力は報われるべきだと感じると思います。しかし、その感覚がプレイに影響を与えることはなんとしても避けなければなりません。あなたの努力がどれほどのものであるかは、何が起きるべきかには全く影響しませんし、実際それが起きるとも限りません。私は自分が報われるべきだと感じているプレイヤーをたくさん見ていますし、それだけたくさん居れば実際に報われるプレイヤーもいるでしょう。あなたも報われるかも知れませんが、しかしながら「努力」と「試合中に起きること」には何の相関関係もありません。実際に行われているゲームの中では、報いなんてのは見当違いの概念です。「相手がもう一枚《踏み荒らし》を持ってるなんてあり得ない。ばかばかし過ぎる」などというのは敗北につながる実に素晴らしい考え方です。「さっきのゲームでは9枚連続土地を引けなかったから、今回は土地1枚の初手をキープするよ。土地引き運が溜まってるはずだから。」うん、そうでしょうとも。
この教訓が骨身に沁みたのは、青白の「ストーム」デッキを使ってプロツアーの予選に出ていた時のことです。対戦相手は「ティーン・タイタンズ」(*9)デッキで、当時の私よりも明らかにはるかに腕の落ちるプレイヤーでしたが、引きがかみ合っていて1ゲーム目を取られてしまいました。2ゲーム目の私の初手は土地1枚でした――そこで私は、相手のプレイングはひどいのだから、このゲームは私が勝つに値するのだと考えて、その手をキープしてしまいました。3ターン後には私は棄権していました。そして、対戦相手のプレイングがいかにひどいかということを誰も気にしていないことに気がつきました。
おかしなことですが、大抵の場合、同じプレイヤーが、もっと強い相手と対戦する場合には適切なプレイをできるのです。対戦相手が強いプレイヤーの時は、「相手は《否認》や《安全な道》を持っているかも知れない」と考えるために、それらの呪文を回避することができます。しかし弱いプレイヤーを相手にしていて、そして彼がひどいミスを犯した後なんかだったりすると、「ぷぷ、どうせ《安全な道》なんて持ってるわけないよ……今のターンに引いてなきゃいけないんだ……あり得ない……あんなミスをしたんだから、その報いを当然受けなきゃいけないだろ……」となってしまいます。
まとめると、努力が勝利で報われることはない、などと思う必要はありません。しかし同時に、その報いがあなたを当然勝たせてくれるのだと考えてはいけません。その甘えた考えの代償――逆の意味の「報い」はすぐにでもやってくることでしょう。
#4 ゲームを全体的に考えない
数ヶ月前、ポルトガル語を勉強するために1年間ブラジルに滞在している中国人のグループに、友人経由で紹介されました。何回か会った後、私は彼らと夕食を共にし、その席で「これまでなにをしてきたか」という話題になりました。話の途中でひとりの女の子がこう聞いてきました。「それで、この【マジック】ではなにが一番重要なの?」
多分運と技術のどちらが重要なのかと訊きたいのだろうと私は考えて、少し笑いながら、自分の頭を指差して答えました――「頭脳だよ」。彼女はもう少し詳しく知りたがりました。私は彼女にチェスでは何が一番重要だと思うか訊ねました。こう訊けば「ああ、わかったわ」とかなんとか答えるだろうと決めてかかっていたのですが、彼女は少し間を置くと、正しい言葉を頭の中で探しました。なにしろ彼らはやっとポルトガル語を少々しゃべれる程度で、それも彼らにとっては簡単ではないらしく、流暢とはほど遠い口調でした。それからようやく、「ええと、チェスで重要なのは、次に、その次に、さらにその次に、何が起こるのかを考えること」というようなことを言いました。
その答えを聞いて私は自分が馬鹿なことを言ったと思いました。どこかで彼女を見くびっていたのかも知れません。明らかに彼女は運ゲーかどうかなんてことを聞きたかったのではありませんでした――どういう要素が重要なのかを知りたかったのです。私は答えようとしましたが、答えが出てきませんでした。とても奇妙な気分でした。私の場合、人にマジックについて訊かれて答えに詰まってしまう時は、殆どは答えを知らないのではなくてただどう答えていいかわからないのです。例えば、私はたしかにマジックが何であるかを知っています。でも、それを人に説明しようとするためには多大な努力を要します。
でもこの質問については、単純に私には答えがわかりませんでした。あなたはどうですか?
私はこの会話のあと少し時間をかけて考えてみたのですが、「このマジック」において一番重要なことは、ゲームをひとつひとつの行動の集積としてではなく、全体として考えることだ、という答えを考えつきました。これはチェスについても全く同じことが言えて、彼女の答えは不完全であったと思います――チェスにしてもマジックにしても、重要なのはひとつひとつの動きはすべて大きな全体の絵の中の一部であって、孤立した行動ではないのだということを理解することです。そうするためには、プレイヤーは「次に、その次に、さらにその次に、何が起こるのかを考え」なければなりません。
マジックにおいてはもちろん、10ターン後にゲームがどうなっているのかを予期することは非常に困難です。非公開情報が多いからです。しかし、だからと言って全く判断材料がないかというとそんなことはありません。私はチェスは下手で、そんなに先の手までは読めないのですが、マーテルが私にチェスを教えるときに3つのポイントを教えてくれました。駒を前進させること、盤の中央を支配すること、キングを守ること。私は駒を動かすとき、正確にその後どういう手が続くかは読めないにしても、その動きによって自分がその3つのゴールに向かっているかどうか、あるいは相手がゴールに向かうことを妨げているかどうかを判断することができます。
マジックでも同じです。私はチェスよりはマジックのほうがずっと上手いですが、それでもそんなに先の「動き」を読むことはできません。そうするだけの情報が足りないからです。ですから、プレイというのはゴールに向かっていくことを心がけなければなりません。ここからがチェスと大きく違うところです。マジックでは、局面ごとにゴールが変わり得ます。時には1ゲームの間に二転三転することもあるのです。
ですから、常になにがゴールであるかを認識していることが大切です。そして、すべてのカードとあらゆる行動をそのゴールに差し向けなければなりません。対戦相手の 2/2 を自分の 2/2 でブロックしたら、あなたはある方向へ進んだことになります。ブロックしなければ、全く違う方向へ進んだことになります。マリガンをするかしないか、クリーチャーを除去するかしないか。あらゆる選択は、闇雲になされるべきものではないのです。
かつてとある記事で、齋藤友晴が、緑は入っているが赤は入っていない(つまり、パンプアップはあり得ても火力は入っていない)デッキと対戦したときのことを読んだのを憶えています。相手は 3/3 で 4/4 に突っ込んできた。齋藤のデッキはとても攻撃的で、手札には除去があってそれを打てるマナも立っていました。99.9% のプレイヤーが、この状況だったらブロックすると思います。もし相手がパンプアップスペルを打ってきたら、対応して除去を打てば1対2交換になりますし、マナを使わせることもできます。しかし齋藤はブロックしませんでした。もっと攻撃的なプレイを選択するべきだし、そのためには手札の除去は将来のブロッカー排除のためにとっておくべきだ、というのがその理由です。彼は自分のライフも1対2交換も二の次だと考えていました。彼のゴールはできる限り速く対戦相手を倒すことで、カードアドヴァンテイジをとることではありません――そして彼は未来の利益のために、目の前の利益をなげうったのです。
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前編はここまでです。後編もなるべく早いうちにお目にかけたいところですが、なにせゲージが切れたらおしまいなので、どうなるかはちょっとわかりません。タイトルの通り #10 までありますが、後に行くほど短くなるのでこれでも全体の半分は越えています。
誤訳の指摘、あるいは自分ならこう訳すというような意見、などは全体的に歓迎します。コメント欄でどうぞ。
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脚注
(*1) 『10日間で男を上手にフル方法』
原題は "How to Lose a Guy in 10 Days"。映画。ロマンティック・コメディらしいがそれ以上は触れない。この記事の原題は ’How to Lose a Match in 10 Plays’。なんとか邦題と韻を踏んだりして訳したかったが諦めた。days と plays を対応させるのが難しい。
(*2)『グッド・ワイフ』
アメリカのテレビドラマシリーズ。主人公は弁護士。PV が使っているのはおそらく法律的に/もしくはドラマ的にお約束の言い回しで、ほぼ間違いなく日本語訳がある筈だが見つけられなかった。
(*3)ルイス
ルイス・スコット・ヴァーガス(Luis Scott-Vargas)。チャネル・ファイアボールのボスで、著者である PV のチームメイト。現在世界最強のプレイヤーのひとり。後に出てくる「LSV」もこの人。既婚。
(*4)コー・ブレイド
綴りは Caw Blade だから発音を片仮名に直せばこれが一番近い筈。いい加減と言われる英語の綴りにも一応規則があって、aw/au の発音は「オー」となる。これは例外が非常に少なくて、おれは今ぱっとはひとつも思いつかない。あと二重母音は長音符号を使わずに表記する方が個人的には好き。というわけでコーブレイド。一般的には圧倒的にカウブレードなのでまあ翻訳的には 100% カウブレードにすべき。PV は以前「Caw-go ってデッキ名は嫌いだ。響きが馬鹿みたいだから」みたいなことを書いていたと記憶しているが、流石にこれだけ広まると抗いようもないというところか。
(*5)カイ・ブッディ
綴りは Kai Budde。かつての世界最強プレイヤー。ドイツ人。めちゃめちゃ強かった上に図体もでかいので「ジャーマン・ジャガーノート」の異名を持っていた。史上最強のプレイヤーのひとりと見做されている。調べてないけど多分未婚。
(*6)「君は文字通り biggest barn だ」
原文は“You’re literally the biggest barn ever”。barn は「納屋」なのだけど、ここではもちろん違う意味で使っている筈で、その違う方の意味が見つけられない。ご存知の方教えてください。本筋にはくそ関係ないので興味ない人は読み飛ばして結構。そもそもこの節英語では literally だから誤解が生じる余地があるのであって、日本語に訳して「文字通り」にしちゃうと全然意味わからなくなってる。
(*7)「彼は文字通り犯罪的に過小評価されてる DI のマスター・リンガーだ」
原文は“He’s literally a criminally underrated DI master ringer.”。DI がなんだかわからない。
(*8)「権利」
原文では entitlement。この節で極めて重要な意味を持つ単語なのだけど、上手く訳せなくてもどかしい。
もうひとつ重要な単語は deserve で、これは辞書的には「……に値する」なのだけど、この段落ではおおむね「報い」「報われる」という風に訳している。一応「報い」自体は好い意味にも悪い意味にも使われる言葉なので間違ってはいないと思う。
(*9)「ティーン・タイタンズ」
Teen Titans。同名のアニメがあるので元ネタはほぼ間違いなくそれなのだが、そう呼ばれたデッキがあったのか、それとも単に強くて重いカードをごっちゃり詰め込んだ「お子様」デッキをそう総称するのかはちょっとわからず。一応 MTG Salvation のフォーラムには言及のあるスレッドがあった。それによるとエクステンディッドの《ゴブリンの溶接工》入りリアニメイターらしい。
http://forums.mtgsalvation.com/showthread.php?t=6453
原文:PV’s Playhouse - How to Lose a Match in 10 Plays
http://www.channelfireball.com/articles/pvs-playhouse-how-to-lose-a-match-in-10-plays/
今回の記事の元ネタは『10日間で男を上手にフル方法』(*1)という映画です。もしこの件について質問があっても、私は自らを犯罪者と認めることを避けるために、答えない権利を行使します(これは『グッド・ワイフ』(*2)で学んだ言い回し)。
さておき、今日の記事ではマジックにおいて試合に負ける原因になり得るミスについて、10種類に分けて説明してみたいと思います。私が考えるに、ミスを直すために最も重要なことはそのミスを認識することです。つまり、自分で自分はミスをしているとわかっている人は半分ミスを直せているようなものなのですが、それでも私がお手伝いできることがあると思います。以下に書くことは全て私が過去に犯したことのあるミスで、残念なことにいくつかのことは未だにしばしばやらかします。
#1 ちゃんとマリガンしない
ゲームの敗北の原因として挙げられるもののうち、単独で原因になりうるものとしてはマリガンが一番大きな割合を占めていることは疑いようがありません。多くのゲームにおいて、マリガンするか否かはゲーム中で最も重要な決断になるでしょう。しかし不思議なことに、マリガンはそこまで重要なものだとは見做されていません。
マリガンについて重要なことは、「灰色の部分」が他の要素に比べるとはるかに大きいということです。優れたプレイヤーを何人か集めて、ゲーム中の特定の状況を例示して議論させたら、殆どの場合おそらく正しいだろう答えにたどり着くことができます。しかしマリガンについてはそうはなりません。ある人はマリガンすべきだといい、ある人はキープすべきだといい、誰ひとりとしてどちらが正しいのか確かな答えを知りません。そしてどうすべきかは個人的なスタイルの問題だということになってしまうのです。これは必ずしも正しい答えが存在しないことを意味しません。単に誰も正答を知らないというだけのことです。
例を挙げると、ルイス(*3)と私は明らかにキープ基準が違います。私はマリガンしすぎる傾向にあり、ルイスはキープしすぎる嫌いがあります。私は自分の基準が絶対正しいと考えていますが(間違ってたら自分の基準じゃないって言い張りますけど)、しかしほんとうにそれが正しいとは言い切れずにいます。なにしろ世界で一番このゲームが上手いとみなされてる人(と、それ以外にも大勢の強いプレイヤー)が私に同意してくれないわけですから。この違いがはっきりわかったのは、世界選手権の時にルイスが私の準決勝のために吸血鬼デッキ相手のテストプレイを手伝ってくれたときのことでした(ちなみに結果的には役に立ちませんでした。マティノンがエフロを負かしてしまったので)。ある局面で、私は《定業》を打ってライブラリの上から《皮裂き》とあとなにかスペル1枚を見ました。私は4枚目の土地を置けておらず、手札には《皮裂き》がすでにありましたから、2枚とも下に送りました。しかしルイスは皮裂きを上に残すべきだというのです。私はその後土地を3枚続けて引いて、下に送った《皮裂き》が手札になかったがために負けました。別のゲームでも殆ど同じような状況になりました――確か今度は《精神を刻む者、ジェイス》が手札にいる時にやはり《定業》で《皮裂き》を見つけたのです。ルイスはやっぱり上に残せと言い、私も今回はそれに従いました。で、ドローが《皮裂き》《ジェイス》と続いて、その次にあった土地を引けないうちに死にました。強欲に行くべきか、安全に行くべきか、どちらが正しいのでしょう? なんとも言えません。どちらもそれぞれに正しい状況があるからです。マリガンについても同じことが言えます。
こういう曖昧な部分があるために、「正しい答えなんてないんだから、つまりこれは完全に個人のプレイスタイルの問題なんだ」と理解してしまっている人が居るのですが、私はそう思ってしまうことこそが最大の問題だと考えています。それは完全な誤りというわけではありません。きわどい手札であれば、個人的なスタイルによって答えが左右されることももちろんあるでしょう。でもとんでもない手札をキープしてしまうプレイヤーは実際に居ます。少し前にリミテッドのグランプリのカバレッジ記事を読んでいたら、1ゲーム目に土地7枚の初手をキープして、2ゲーム目には土地6枚と《法務官の相談》という初手をキープしているというプレイヤーがいました。これはプレイスタイルの問題ではあり得ません。単に間違っています。ええと、この例だと完全確実に間違いとは言い切れませんね。こうしましょう――相手のライフが3点の時でも相手のクリーチャーに《稲妻》を打つのは個人のスタイルの問題か?という話です。あるプレイスタイルは、別のプレイスタイルを完全に上回っていることがある、ということです。
マリガンが適切にできるようになる頃には、マリガンという行為が何を意味しているか理解できている筈です。マリガンとはつまり、1枚カードを失ってでもゲームに勝てる可能性を高めるための選択です。単に手札がよくないから取り直す、というものではありません――好い初手でもマリガンしなきゃならない時もありますし、悪い初手でもキープしなくてはいけないときもあります。
個人的な意見ですが、マリガンに関してリスクが高すぎる選択をするプレイヤーが多い気がします。特に、2マナ域にキー・カードが入っているデッキではその傾向が顕著です。初手に土地が1枚しかないハンドが来るたびに、その2マナのキー・カードの誘惑が待ち受けているからです。例えば、土地なしで《霧縛りの徒党》《霧縛りの徒党》《謎めいた命令》《謎めいた命令》と続いて、ここまではマリガンしても全く惜しくないのですが、その後が土地、《思考囲い》《苦花》と続いたりするのです。私はこういう初手は決してキープしません。もしこれをキープしたら、まあ 30% ぐらいの確率で何もできないまま負けるでしょう。ここからが間違えやすいところなのですが、仮に負けずに済んだところで、勝てるとは限らないのです! 残りの 70% というのは、マジックというゲームに参加できる可能性に過ぎません。私としてはこんな初手をキープするのはよろしくないと思いますが、これでも私が実戦で引き当てる初手に比べれば随分ましです。《思考囲い》《苦花》の初手は確かに強力です。しかし(訳注:土地が1枚しかないのであれば)、マリガンして6枚引き直した初手の期待値の方が上です。私はこの点には堅い信念を持っています。もしこの「土地1枚だけど魅力的な初手」をキープするのを止めれば、少なくともそのために敗れることは減るでしょう。
リミテッドでよくある初手としては、土地1枚ながらも2枚目の土地さえ引き当てられれば回る、というタイプのものがあります。しかしこれも「回る」の定義がどういうものかによります。例えばこんな手を見てみましょう:
《山》《感電波》《銅のマイア》《鉄のマイア》
《マイコシンスの水源》《マイコシンスの水源》《使徒の祝福》
土地1枚の初手に欲しいものがすべて詰まっています。なにもできずに死ぬことはありませんし、2枚目の土地を引き当て次第すぐにでも動き出せます。というわけで、キープしましょうか? いいえ!! この手札は最悪です。この手札の最大の問題は土地が1枚しかないことではありません。何もできないことこそが問題なのです。この手をキープして、すぐに2枚目の土地を引き当てたらどうなるか想像してみてください。できるようになることといえば……さらに土地を伸ばすことだけです! それに加えて、単純に2枚目の土地を引けないまま負ける可能性と、マナを伸ばすためだけにマナを費やしていってぐだぐだになる可能性を考えると、おめでとうございます、あなたは土地事故と逆土地事故が両方ありうる初手をキープしたことになりました! 私だったら先手だろうと後手だろうとこの手札はキープしませんが、多くのプレイヤーは「《感電波》で時間が稼げるし、もう1枚土地を引きさえすればどのスペルも唱えられるようになる」と主張することでしょう。
もうひとつマリガンがゲームの敗北につながるパターンとしては戦略的なものがあります。多くのプレイヤーはマリガンに対して病的な恐怖を抱いているように思われてなりませんが、マリガンというのは単に初手が悪くてそれよりよくなる見込みがあると思えたらその手札を山札に戻すというだけのことです。
私が思うに、「フェアリー」のミラーマッチや「コー・ブレイド」(カウ・ブレード)(*4)のミラーマッチでは、プレイングの腕よりも、悪い初手をきちんとマリガンできるか、の方が勝敗に与える影響が大きいと思います(特にコー・ブレイドにおいて顕著です)。
#2 対戦相手がなにをしているか考えない
マジックは2人用のゲームで、対戦するふたりの間には常に相互作用があります。試合中、自分だけが競技者であるかのように振る舞うプレイヤーは決して強くはなれません。対戦相手は理性的な存在であるということをまず理解しなくてはなりません。相手は自分にとってなにが最良であるかを考えながら、その考えに基づいてプレイを選択しているのであって、決して適当にやっているわけではありません。このことが理解できれば、対戦相手の手札やゲームプランを推測することができるようになりますし、手札にないカードをさも持っているように思わせたり、対戦相手にあなたの得になるようなプレイをさせることさえできるのです。
対戦相手が何を持っているか明らかにわかるようなプレイをしてくることは時々あります。たとえば、「ヴァラクート」デッキを使っている対戦相手が1ターン目に《広漠なる変幻地》を生け贄に捧げて《山》を持ってきたら、相手の手札に《森》が少なくとも1枚、おそらくは2枚あることは殆ど明らかです。持っていなければ、《広漠なる変幻地》で持ってこない理由がありません。
それ自体は大して役に立つとも思えないかも知れませんが、しかしどんな小さな情報でも意味はあるのです。もちろん、演繹的な思考の連鎖の方が重要なのですが。――もし相手が《森》を持っていなければ、《森》を持ってくる筈です。《森》を持ってこなかったということは、実際に《森》をテーブルに置かれたのと殆ど同じくらい確実に、手札に一枚あるということです。もし次のターン、相手が《不屈の自然》でもう一枚《山》を場に出すようなら、たぶん手札にはもう一枚《森》があるでしょう。そうすると、《広がりゆく海》を《森》に貼っても緑マナを潰すことは難しそうです。《海》は《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》のためにとっておいた方がいいかも知れません……といった具合に。
M12 のリミテッドをプレイしていて、手札に《踏み荒らし》があったら、クリーチャー同士の交換は避けたいでしょう。ではもし対戦相手がクリーチャーの交換をしてこなかったら? もしかすると相手は《踏み荒らし》を持っているのかも知れません。単純な話です。
時にプレイヤーは、もし少しでも対戦相手の視点に立ってゲームを考えていれば決して考慮する必要のなかったカードについて思い悩んでしまったりすることがあります。大昔のことですが、私はブラジル選手権予選の試合を地元のお店で観戦していました。赤緑対黒赤の対戦で、一方が《抹消》を打ってゲームが振り出しに戻ったところでした。(《抹消》はこのマッチアップではひどいカードだと思いますが、まあここではおいときましょう。)赤緑のプレイヤーは3枚目の土地を置いて、《獣群の呼び声》でトークンを出して、次のターンにはそのトークンで攻撃して相手のライフを2まで減らしました(これでライフは2対2です)。そして3マナを立てたままターンを渡しました。相手はアンタップして、4枚目の土地を置き、手札にある《火炎舌のカヴー》と《燃え立つ死霊》の2枚をじっと見つめたまま長考に入りました。明らかに簡単に下せる決断ではありません。それでも彼は最後には心を決めて、4枚の土地をタップすると《燃え立つ死霊》をプレイしました。赤緑のプレイヤーは何も持っておらず、黒赤のプレイヤーは勝利を決めて安堵のため息をもらしました。終わるなりプレイヤーの友人が訊きました――「なにをそんなに考え込んでたの?」「いや、《ショック》があるんじゃないかと思ってさ……」「ショックがあったらおまえに打ってるよ!」「あ、ほんとだ……」 それまでのプレイを見ていれば持っている筈のないカードにおびえることのないようにしましょう。
ここまでできたら、次のレベルに進みましょう。あなたの対戦相手も、あなたが理性的な存在であることを理解している、ということを理解することです。対戦相手もまさにあなたがやろうとしていることをやろうとしているわけです――あなたの行動から、どういうプランを進めているのかを知ろうとしているのです。昔カイ・ブッディ(*5)が書いたレポートでこんな場面がありました。対戦相手が4枚目の《沼》を置いてから 2/2 でブッディの 6/6 のドラゴンに突っ込んできたのです。カイはその場面について「もし《泥沼病》を持っているなら、どうしてわざわざ《沼》を戦闘前にプレイしたりするだろう? ブロックの一手だ!」と書いています。ここではカイは対戦相手が理性的な存在であることを理解し、相手もまた自分が理性的な存在であることを意識していることをも計算に入れています。もしブロックさせる意図があるのなら、可能な限りそのブロックが危険な選択肢であることを匂わせないようにするでしょう。まとめるとこんな風になります:
レベル1――対戦相手はアタックして《泥沼病》との合わせ技でドラゴンを仕留めなければならないことを理解しています。
レベル2――対戦相手は、もし4枚目の《沼》をプレイすれば、カイがブロックする可能性が下がることを理解しています。なぜならドラゴンを仕留めるのに必要な「《沼》と《泥沼病》」という組み合わせのうち、一方を持っていることを明らかにしてしまうから。
レベル3――カイは対戦相手がレベル2まで理解していることを知っています。だからこそ、「戦闘前に《沼》を置いたから、彼は《泥沼病》を持っていない」という結論に達することができるのです。
もちろん、その対戦相手はカイと互角の思考をしていて、カイが「レベル3」の考えにまで至っていることをわかっているかも知れません。しかし、それほどのマスター同士の対戦というのはあまりありそうなことには思えません。
補遺:2011 年4月9日、「マスター」は「あまりにもマジック界で濫用されすぎたために意味を失ってしまった単語リスト」入りを果たしました。マジック界のためにも、ここでリスト入りしている単語の適切な使い方を説明させてください:
マスター(master):マスターであるということはマジック全般もしくは特定のデッキに関して大変に大変に優れているということです。「グランドマスター」みたいな呼び方が登場しない限りは、誰かをマスターと呼ぶということはその人が世界中の殆ど誰よりも優れていることを意味します。あるデッキを使って小さなトーナメントをひとつふたつ優勝する、程度ではマスターと呼ばれるには程遠いです。
リンガー(ringer):リンガーは見えざる実力者のことを指します――強いのですが、誰もそのことを知らないのです。私の理解が正しければ、この言葉は例えばプロの選手が学生に変装して高校野球に出る、みたいな時に使われる言葉であったと思います。単に「実力者」を指す言葉ではありません。LSV やブラッド・ネルソンはリンガーではありませんし、もう長いことリンガーではあり得ません。みんなが強いことを知っているからです。ここでの「みんな」があなたの知り合い全員という意味ではないことに気をつけてください。あなたの友人のひとりがとても強かったとして、誰もそれを知らなかったとしてもリンガーではありませんからね。「犯罪的に過小評価されている」という言い回しとセットで使われることが多いです。
グラインダー(grinder):グラインダーは単に死ぬほどマジックをやりこんでいる人です。上手いか下手かは関係ありません。
文字通り(Literally):「文字通り」には強調の意味はありません。後ろに来る単語に重要性を持たせる言葉ではないのです。「文字通り」というのは、つまり言葉の意味が書かれている通りだということです。「僕が食べた中で文字通り一番素晴らしいものだった」という文はそれが本当においしかったということを意味せず、単に人生を通じてそれよりいいものを食べたことがないということです。「彼は文字通り負けたことがない」というと生涯成績が無敗ということになります。「君は文字通り biggest barn だ」(*6)といったなら、あなたは大変巨大な建築物でその中に穀物をしまっとける、ということです。「《ステップのオオヤマネコ》に文字通り殺された」だとあなたは既に死んでいますからそんなことは言えません――そしてそんなヤマネコには近づくべきではありませんでした。
ここまでの単語や言い回しを組み合わせるとこんなパワフルなセンテンスが作れます。「彼は文字通り犯罪的に過小評価されてる DI のマスター・リンガーだ」(*7)
#3 「権利」(*8)の感覚をもとに行動してしまう
誤解しないでください――「権利」の感覚を持ってはいけないということではないのです。世の中では権利とか報いとかいう単語は害毒みたいに語られていますが、実際のところそんなことはありません。以前ブラッドが「報い」なんてものがいかに幻であるかについて記事にしていたことがありますし、ギャヴィンは記事の出だしを「報い? 報いなんてどこにもない。」で始めていたこともあります。私は同意できません。私は自分が優れたプレイヤーだと思っていますし、そうなるために長い時間と強くなるための多くの努力を重ねてきました。デッキの選択には慎重に時間を費やしますし、選択のための理由が感情を押さえ込めるように自分をコントロールしています。こういったことが報われてはいけない理由があるでしょうか? もしミスの上にミスを重ねている対戦相手と対戦したら、その相手はやはりミスの報いとして負けるべきではないでしょうか? それはすなわち、ミスを重ねずにプレイできたのなら、その報償として勝利が得られるべきだ、ということにはならないでしょうか?
対戦相手が、現環境の8割のデッキに勝ち目がない白単のライフゲイン・デッキを使っていたとしたら、彼はやはりその選択の報いとして敗れるべきではないでしょうか。私は敗れるべきだと思います。人は、マジックにおける正しい決断に対しては報償を得るべきですし、誤った決断については罰を受けるべきだと考えています。私から見ればひどい選択だとはっきり判るようなデッキを使っているプレイヤーが、対戦運や引きに恵まれて勝っているのを見るといらいらします。私の努力までもがおとしめられたような気がするからです。正しい選択をした人が勝っていると、努力しようという気になります。逆に誤った選択をしたために敗れた時にも、やはりもっと努力しようという気になれます。間違った選択をしている人が勝つのを見ると……ええ、まあ。
強調したいのは、あなたが「報われる権利がある」という感覚を持ってはいけないということです。あなたがあることに対して時間をかけて努力を重ねたのなら、当然その努力は報われるべきだと感じると思います。しかし、その感覚がプレイに影響を与えることはなんとしても避けなければなりません。あなたの努力がどれほどのものであるかは、何が起きるべきかには全く影響しませんし、実際それが起きるとも限りません。私は自分が報われるべきだと感じているプレイヤーをたくさん見ていますし、それだけたくさん居れば実際に報われるプレイヤーもいるでしょう。あなたも報われるかも知れませんが、しかしながら「努力」と「試合中に起きること」には何の相関関係もありません。実際に行われているゲームの中では、報いなんてのは見当違いの概念です。「相手がもう一枚《踏み荒らし》を持ってるなんてあり得ない。ばかばかし過ぎる」などというのは敗北につながる実に素晴らしい考え方です。「さっきのゲームでは9枚連続土地を引けなかったから、今回は土地1枚の初手をキープするよ。土地引き運が溜まってるはずだから。」うん、そうでしょうとも。
この教訓が骨身に沁みたのは、青白の「ストーム」デッキを使ってプロツアーの予選に出ていた時のことです。対戦相手は「ティーン・タイタンズ」(*9)デッキで、当時の私よりも明らかにはるかに腕の落ちるプレイヤーでしたが、引きがかみ合っていて1ゲーム目を取られてしまいました。2ゲーム目の私の初手は土地1枚でした――そこで私は、相手のプレイングはひどいのだから、このゲームは私が勝つに値するのだと考えて、その手をキープしてしまいました。3ターン後には私は棄権していました。そして、対戦相手のプレイングがいかにひどいかということを誰も気にしていないことに気がつきました。
おかしなことですが、大抵の場合、同じプレイヤーが、もっと強い相手と対戦する場合には適切なプレイをできるのです。対戦相手が強いプレイヤーの時は、「相手は《否認》や《安全な道》を持っているかも知れない」と考えるために、それらの呪文を回避することができます。しかし弱いプレイヤーを相手にしていて、そして彼がひどいミスを犯した後なんかだったりすると、「ぷぷ、どうせ《安全な道》なんて持ってるわけないよ……今のターンに引いてなきゃいけないんだ……あり得ない……あんなミスをしたんだから、その報いを当然受けなきゃいけないだろ……」となってしまいます。
まとめると、努力が勝利で報われることはない、などと思う必要はありません。しかし同時に、その報いがあなたを当然勝たせてくれるのだと考えてはいけません。その甘えた考えの代償――逆の意味の「報い」はすぐにでもやってくることでしょう。
#4 ゲームを全体的に考えない
数ヶ月前、ポルトガル語を勉強するために1年間ブラジルに滞在している中国人のグループに、友人経由で紹介されました。何回か会った後、私は彼らと夕食を共にし、その席で「これまでなにをしてきたか」という話題になりました。話の途中でひとりの女の子がこう聞いてきました。「それで、この【マジック】ではなにが一番重要なの?」
多分運と技術のどちらが重要なのかと訊きたいのだろうと私は考えて、少し笑いながら、自分の頭を指差して答えました――「頭脳だよ」。彼女はもう少し詳しく知りたがりました。私は彼女にチェスでは何が一番重要だと思うか訊ねました。こう訊けば「ああ、わかったわ」とかなんとか答えるだろうと決めてかかっていたのですが、彼女は少し間を置くと、正しい言葉を頭の中で探しました。なにしろ彼らはやっとポルトガル語を少々しゃべれる程度で、それも彼らにとっては簡単ではないらしく、流暢とはほど遠い口調でした。それからようやく、「ええと、チェスで重要なのは、次に、その次に、さらにその次に、何が起こるのかを考えること」というようなことを言いました。
その答えを聞いて私は自分が馬鹿なことを言ったと思いました。どこかで彼女を見くびっていたのかも知れません。明らかに彼女は運ゲーかどうかなんてことを聞きたかったのではありませんでした――どういう要素が重要なのかを知りたかったのです。私は答えようとしましたが、答えが出てきませんでした。とても奇妙な気分でした。私の場合、人にマジックについて訊かれて答えに詰まってしまう時は、殆どは答えを知らないのではなくてただどう答えていいかわからないのです。例えば、私はたしかにマジックが何であるかを知っています。でも、それを人に説明しようとするためには多大な努力を要します。
でもこの質問については、単純に私には答えがわかりませんでした。あなたはどうですか?
私はこの会話のあと少し時間をかけて考えてみたのですが、「このマジック」において一番重要なことは、ゲームをひとつひとつの行動の集積としてではなく、全体として考えることだ、という答えを考えつきました。これはチェスについても全く同じことが言えて、彼女の答えは不完全であったと思います――チェスにしてもマジックにしても、重要なのはひとつひとつの動きはすべて大きな全体の絵の中の一部であって、孤立した行動ではないのだということを理解することです。そうするためには、プレイヤーは「次に、その次に、さらにその次に、何が起こるのかを考え」なければなりません。
マジックにおいてはもちろん、10ターン後にゲームがどうなっているのかを予期することは非常に困難です。非公開情報が多いからです。しかし、だからと言って全く判断材料がないかというとそんなことはありません。私はチェスは下手で、そんなに先の手までは読めないのですが、マーテルが私にチェスを教えるときに3つのポイントを教えてくれました。駒を前進させること、盤の中央を支配すること、キングを守ること。私は駒を動かすとき、正確にその後どういう手が続くかは読めないにしても、その動きによって自分がその3つのゴールに向かっているかどうか、あるいは相手がゴールに向かうことを妨げているかどうかを判断することができます。
マジックでも同じです。私はチェスよりはマジックのほうがずっと上手いですが、それでもそんなに先の「動き」を読むことはできません。そうするだけの情報が足りないからです。ですから、プレイというのはゴールに向かっていくことを心がけなければなりません。ここからがチェスと大きく違うところです。マジックでは、局面ごとにゴールが変わり得ます。時には1ゲームの間に二転三転することもあるのです。
ですから、常になにがゴールであるかを認識していることが大切です。そして、すべてのカードとあらゆる行動をそのゴールに差し向けなければなりません。対戦相手の 2/2 を自分の 2/2 でブロックしたら、あなたはある方向へ進んだことになります。ブロックしなければ、全く違う方向へ進んだことになります。マリガンをするかしないか、クリーチャーを除去するかしないか。あらゆる選択は、闇雲になされるべきものではないのです。
かつてとある記事で、齋藤友晴が、緑は入っているが赤は入っていない(つまり、パンプアップはあり得ても火力は入っていない)デッキと対戦したときのことを読んだのを憶えています。相手は 3/3 で 4/4 に突っ込んできた。齋藤のデッキはとても攻撃的で、手札には除去があってそれを打てるマナも立っていました。99.9% のプレイヤーが、この状況だったらブロックすると思います。もし相手がパンプアップスペルを打ってきたら、対応して除去を打てば1対2交換になりますし、マナを使わせることもできます。しかし齋藤はブロックしませんでした。もっと攻撃的なプレイを選択するべきだし、そのためには手札の除去は将来のブロッカー排除のためにとっておくべきだ、というのがその理由です。彼は自分のライフも1対2交換も二の次だと考えていました。彼のゴールはできる限り速く対戦相手を倒すことで、カードアドヴァンテイジをとることではありません――そして彼は未来の利益のために、目の前の利益をなげうったのです。
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前編はここまでです。後編もなるべく早いうちにお目にかけたいところですが、なにせゲージが切れたらおしまいなので、どうなるかはちょっとわかりません。タイトルの通り #10 までありますが、後に行くほど短くなるのでこれでも全体の半分は越えています。
誤訳の指摘、あるいは自分ならこう訳すというような意見、などは全体的に歓迎します。コメント欄でどうぞ。
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脚注
(*1) 『10日間で男を上手にフル方法』
原題は "How to Lose a Guy in 10 Days"。映画。ロマンティック・コメディらしいがそれ以上は触れない。この記事の原題は ’How to Lose a Match in 10 Plays’。なんとか邦題と韻を踏んだりして訳したかったが諦めた。days と plays を対応させるのが難しい。
(*2)『グッド・ワイフ』
アメリカのテレビドラマシリーズ。主人公は弁護士。PV が使っているのはおそらく法律的に/もしくはドラマ的にお約束の言い回しで、ほぼ間違いなく日本語訳がある筈だが見つけられなかった。
(*3)ルイス
ルイス・スコット・ヴァーガス(Luis Scott-Vargas)。チャネル・ファイアボールのボスで、著者である PV のチームメイト。現在世界最強のプレイヤーのひとり。後に出てくる「LSV」もこの人。既婚。
(*4)コー・ブレイド
綴りは Caw Blade だから発音を片仮名に直せばこれが一番近い筈。いい加減と言われる英語の綴りにも一応規則があって、aw/au の発音は「オー」となる。これは例外が非常に少なくて、おれは今ぱっとはひとつも思いつかない。あと二重母音は長音符号を使わずに表記する方が個人的には好き。というわけでコーブレイド。一般的には圧倒的にカウブレードなのでまあ翻訳的には 100% カウブレードにすべき。PV は以前「Caw-go ってデッキ名は嫌いだ。響きが馬鹿みたいだから」みたいなことを書いていたと記憶しているが、流石にこれだけ広まると抗いようもないというところか。
(*5)カイ・ブッディ
綴りは Kai Budde。かつての世界最強プレイヤー。ドイツ人。めちゃめちゃ強かった上に図体もでかいので「ジャーマン・ジャガーノート」の異名を持っていた。史上最強のプレイヤーのひとりと見做されている。調べてないけど多分未婚。
(*6)「君は文字通り biggest barn だ」
原文は“You’re literally the biggest barn ever”。barn は「納屋」なのだけど、ここではもちろん違う意味で使っている筈で、その違う方の意味が見つけられない。ご存知の方教えてください。本筋にはくそ関係ないので興味ない人は読み飛ばして結構。そもそもこの節英語では literally だから誤解が生じる余地があるのであって、日本語に訳して「文字通り」にしちゃうと全然意味わからなくなってる。
(*7)「彼は文字通り犯罪的に過小評価されてる DI のマスター・リンガーだ」
原文は“He’s literally a criminally underrated DI master ringer.”。DI がなんだかわからない。
(*8)「権利」
原文では entitlement。この節で極めて重要な意味を持つ単語なのだけど、上手く訳せなくてもどかしい。
もうひとつ重要な単語は deserve で、これは辞書的には「……に値する」なのだけど、この段落ではおおむね「報い」「報われる」という風に訳している。一応「報い」自体は好い意味にも悪い意味にも使われる言葉なので間違ってはいないと思う。
(*9)「ティーン・タイタンズ」
Teen Titans。同名のアニメがあるので元ネタはほぼ間違いなくそれなのだが、そう呼ばれたデッキがあったのか、それとも単に強くて重いカードをごっちゃり詰め込んだ「お子様」デッキをそう総称するのかはちょっとわからず。一応 MTG Salvation のフォーラムには言及のあるスレッドがあった。それによるとエクステンディッドの《ゴブリンの溶接工》入りリアニメイターらしい。
http://forums.mtgsalvation.com/showthread.php?t=6453
古い翻訳:《真面目な身代わり》プレヴュー
2011年7月31日 翻訳 コメント (3)《真面目な身代わり》すげえ値上がりしてるらしいですね!ということで初代イェンスが刷られた時の公式のプレヴュー記事。まあ本家にも翻訳あるんだけどめちゃめちゃ見つけづらいので温故知新的な意味も込めて。
ミラディン・カードプレヴュー:《真面目な身代わり》
ジョセフ・クロスビーとマイケル・J・フロレス
マジック・インヴィテーショナルの勝者がデザインするカードは、ふたつに分かれる。一方は、一部のデッキでしか使われないカードたち――《ルートウォーターの泥棒》や《森を護る者》。もう一方は、様々なデッキに採用されたカードたち――《なだれ乗り》や《翻弄する魔道士》といった面々だ。
筆者が思うに、イェンス・ソーレンがインヴィテーショナルで優勝したとき、多くのプレイヤーが、ソーレンの提出したカード《森の民》は「前者」になってしまうんじゃないか、と心配したのではないだろうか。
《森の民》は面白いし、どちらの能力も悪くない……だが、全体ではちょっとがっかり、って大抵のプレイヤーは思うだろう。
そこで、ウィザーズのR&Dはマナ・コストから青も緑もとっぱらってしまった。
金色のカード、特に本当に強力な金色のカードとなると、そのカード自身は強力なのにもかかわらず、入るデッキが無いために出番の無かったカードのことがどうしても思い出される。例えば、《影魔道士の浸透者》は、明らかに《知恵の蛇》よりも強かったが、実際には《知恵の蛇》ほどは使われなかった。《知恵の蛇》の方が、入るデッキが多かったからだ。青緑の《貿易風ライダー》デッキに、黒マナソースを足してまで《浸透者》を入れるだろうか? あるいは青単の「ドロー・ゴー」に、敢えて《沼》を足さずとも、役に立つカードは他にいくらもある。イェンスのデザインにおけるマナ・コストは、とても理に適っている(《不屈の自然》は緑の能力だし、《強迫的な捜索》は青いカードだ)が、青緑デッキとなると、いまぱっと思い浮かぶのは《不可思議》やら《野生の雑種犬》やらがわんさか入ってるデッキか、《ドルイドの誓い》から《スパイクの織り手》が出てくるようなデッキだ。《森の民》は前者の攻撃的なデッキには遅すぎるし、後者に入れるには場をコントロールする力がなさ過ぎる。ところが、これがアーティファクトとなると――おお! 勢力のマルチカラー・カード《森の民》はぱっとしないが、色マナが全く要らない《真面目な身代わり》になれば、あらゆるデッキに居場所が見つかるだろう。
デザイン・チームと開発チームが、イェンスが最初に提出したアイデアから、色マナを取り除く以外は何の修正もしなかったのに、冴えない《森の民》が、どきどきするような《真面目な身代わり》に変わってしまうのは、妙なことに思える。このカードには、ぱっと見て人を興奮させるようなところは何もない。パワー・ナインのマイナーダウン・ヴァージョンってわけでもないし、5ターン・キルのできるコンボデッキのパーツでもない。4マナでたったの2/2しかないから、格安の白のウィニー・クリーチャーや、今日日のでっかい天使やドラゴンみたいにビートダウンもできない。このカードは、新環境でのコントロール・デッキで、中核に据えるべきクリーチャーだ。
対ビートダウン・クリーチャーとして悪名高い《花の壁》や《ヤヴィマヤの古老》と並んで、《真面目な身代わり》も、戦闘フェイズが大好きな対戦相手にとって一番目にしたくないクリーチャーになるだろう。大抵の対抗カードが失敗する中で、これらのカードがビートダウンに対して役に立っているのは、戦闘やスペルでの交換をためらわせるような能力があるからだ。これらのカードが稼ぐカード・アドヴァンテージは、コントロール・プレイヤーが土地を並べる助けになり、さらに脅威に対する直接の解答となるカードを引いてくることもある。《真面目な身代わり》は、これらの「エクステンディッドでも折り紙つき」クリーチャーたちよりは重いとはいえ、必要な要素は全部持っている。土地を場に出して、脅威と1対1の交換ができる。これだけで、コントロール・デッキのするべきことが二つまとめてできている上に、カード1枚分デッキを圧縮できる。さらに、墓地に置かれた時には、もう1枚カードを引くことができる。つまり、《ゴブリンの群集追い》や《萎縮した卑劣漢》と戦闘で相討ちになったりした場合には、土地1枚とカード1枚得することになる。対戦相手は、エコーを持つクリーチャーを相手にした時のように「待つ」こともできない。コントロール・プレイヤーが4マナに届くなり、必ず多大なアドヴァンテージを稼がれてしまう。
《花の壁》と《ヤヴィマヤの古老》は、ただクリーチャーを止めるだけではなかった。これらが場に出たときの能力や、場を離れたとき、あるいは場から墓地に置かれたときの能力はぶっ壊れていた。これらは《貿易風ライダー》=《繰り返す悪夢》デッキの優秀なメンバーだった。ただでさえ能力がマッチしている上に、《ライダー》や《悪夢》とのコンボも素晴らしかった。場に出たときと、場から墓地に置かれたときの能力を併せ持つ《真面目な身代わり》も、この歴史の系譜に連ねようと考えるプレイヤーも多いだろう。スタンダードやブロック構築をやってる人なら、場に出たとき、と聞いて思い浮かべたカードは同じだった筈――《霊体の地滑り》だ。
どちらのフォーマットでもその力を発揮した「リフト=スライド」デッキは、《真面目な身代わり》の全ての能力を歓迎するだろう。マナ喰い虫のコントロール・デッキにとっては、《イェンス》はビートダウン・デッキに対する減速凹凸で、同時にコントロール・デッキに対する脅威になる。それに、マナ・カーヴにもすんなりはまるところが素晴らしい。2ターン目《稲妻の裂け目》、3ターン目《霊体の地滑り》、4ターン目に《真面目な身代わり》を出せば、5ターン目には《賛美された天使》が登場する――表向きで! おそらく、コントロール・デッキを使う対戦相手は《裂け目》や《地滑り》やその他のスペルを使ってこの真面目くんを除去したいとは思わない筈だ。ゲームの中盤から終盤にかけて、《真面目な身代わり》は《霊体の地滑り》とのコンボで、クリーチャーを毎ターン一体足止めし続けると同時に、デッキから土地だけを抜いて着実に圧縮してくれることだろう。《ティーロの信者》みたいな、《霊体の地滑り》とのシナジーがある他のクリーチャーと違って、《イェンス》は死んだ時にもさらにおまけをもたらしてくれる。
このカードはアーティファクトのデザインの掟を破っている。ウルザズ・ディスティニーが発売された後で、ランディー・ビューラーは《マスティコア》は失敗だった、と語っていた。プレイヤーがクリーチャーをアーティファクトに依存するのはよろしくない、とR&Dは考えているらしかった。筆者の思い出せる範囲では、《真面目な身代わり》は土地をライブラリーから探し出せるアーティファクトの中で、初めてトーナメント・レベルに到達したものと言えると思う。少なくともディスティニーに入っていた《ブレイドウッドの六分儀》よりははるかに強いはずだ。PTベネチアでジョン・フィンケルは、使っていたサイクリング・デッキのマナ・ベースを大幅に作り替えて、なんとかマナ加速ができるような形にしたいと考えていたようだったが、ミラディンが加入した後は、そんな心配はしなくてもよくなる。《真面目な身代わり》はたったひとつのアーティファクトとは思えないほど多芸だ。「サイカトグ」デッキには《花の壁》は入れられないが、《イェンス》は青単コントロールだろうと、黒単だろうと、ポンザだろうと、……入る可能性のあるデッキは無限にある。
《爆発的植生》がオンスロート・ブロックでどれほど強かったかは御存知だろう。だが、《植生》は点数で見たマナ・コストこそ《真面目な身代わり》と同じだったものの、使うためにはそれ用のデッキを組まなければならなかった。それに、いかに完璧にデザインされたデッキでも、4ターン目に《植生》を打ってタップアウトすることは、特に攻撃的なデッキ――「ゴブリン」やら「ゾンビ」やら「ゴブリン召集」やら「ゾンビ召集」やら――を」相手にしている時は、危険が大きいと言わざるを得ない。この新型のアーティファクト・クリーチャーなら、単純にマナ加速の面でも《植生》より大きなアドヴァンテージを稼いでくれる可能性があるし、色を選ばないし、さらにそれと同時にウィニー・クリーチャーから身を守る役にも立つ。このように汎用性の高いクリーチャーからは、あらゆるタイプのコントロール・デッキが恩恵を受けることができるだろう。その上で《霊体の地滑り》みたいに相性の好いメカニズムを使えるのなら、嬉しさも二倍になろうってものだ。
伝統的に、アーティファクトの弱点は簡単に除去されてしまうことだ。だが、繰り返すが、《真面目な身代わり》はただで除去されはしない。使い捨てのできるアーティファクトは、ミラディン後の環境では強力なパーマネントになるだろう。いくつかのスペルは、場に出ているアーティファクトひとつにつきコストが1マナずつ軽くなるという、新しいメカニズムを持っている。他にも多くのカードが、アーティファクトを追加コストにしたり、場にあるアーティファクトによって効果が変わったりする。《イェンス》が居れば、こういった恩恵は全部受けられる上に、新しいアーティファクト除去のことはあまり心配しなくても構わない。イェンスの提出した案になされた、ほんの小さな修正が、《真面目な身代わり》を強力で、使いやすくした。これはインヴィテーショナルでデザインされたカードとしては、《翻弄する魔道士》や《なだれ乗り》に続くカードになることだろう。向こう二年間、構築戦のさまざまなデッキで見かけることになる筈だ。
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原文 Joseph Crosby & Michael J. Flores
http://www.wizards.com/default.asp?x=sideboard/feature/20030910a
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プレヴュー記事では「盛る」のがお約束なんだけど、このカードは珍しく本当にかなり使われた。インヴィテーショナルカードの中でおそらく一番原案に忠実に印刷されたカードで、それでいてこのカードパワーだったのだから、歴代でもっともセンスのいいデザインと断言してしまってもいいだろう。カイ・ブッディはインヴィテーショナルカードのことを「あんなのはくじびきみたいなもんだ」とディスっていたが、本当に適切なデザインを提出できればちゃんと使えるカードを刷ってもらえるのだ。まあそれにしたって《非凡な虚空魔道士》は気の毒だったとは思う。それには同情する。
訳は今見るといまいちだが当時のおれとしてはまともな方だとも思う。面倒なので敢えて直したりはしないが、ひとつだけ書いておくと「どちらのフォーマットでも」はあんまりだ。ブロック構築とスタンダードを指していて、まあ文脈的にはわかるのだが、訳としてはひどい。あと読点が今のおれの基準からすると異常なほどに多い。8年前はこんな文を書いていたのか。
あとこれ公式の訳が出る前に書いたんだけど、本家の原文に出てるカード画像のファイル名を見て、他のカードの日本語版のカード画像のファイル名を見て、確かなんか「ja」をつければよさそう、みたいなのを発見して直打ちしてみたらほんとに見つかったので、それで正式な日本語名をプレヴューの前に知ることができた。だからどうということもないのだけど、見つけたときは結構嬉しかったのを憶えている。
ミラディン・カードプレヴュー:《真面目な身代わり》
ジョセフ・クロスビーとマイケル・J・フロレス
マジック・インヴィテーショナルの勝者がデザインするカードは、ふたつに分かれる。一方は、一部のデッキでしか使われないカードたち――《ルートウォーターの泥棒》や《森を護る者》。もう一方は、様々なデッキに採用されたカードたち――《なだれ乗り》や《翻弄する魔道士》といった面々だ。
筆者が思うに、イェンス・ソーレンがインヴィテーショナルで優勝したとき、多くのプレイヤーが、ソーレンの提出したカード《森の民》は「前者」になってしまうんじゃないか、と心配したのではないだろうか。
《森の民》
2青緑
クリーチャー――エルフ・ウィザード
2/2
森の民が場に出たとき、あなたはあなたのライブラリーから基本地形カードを
1枚探し、それをタップ状態で場に出してもよい。そうしたなら、あなたのラ
イブラリーを切り直す。
森の民が場を離れたとき、あなたはカードを1枚引く。
《森の民》は面白いし、どちらの能力も悪くない……だが、全体ではちょっとがっかり、って大抵のプレイヤーは思うだろう。
そこで、ウィザーズのR&Dはマナ・コストから青も緑もとっぱらってしまった。
金色のカード、特に本当に強力な金色のカードとなると、そのカード自身は強力なのにもかかわらず、入るデッキが無いために出番の無かったカードのことがどうしても思い出される。例えば、《影魔道士の浸透者》は、明らかに《知恵の蛇》よりも強かったが、実際には《知恵の蛇》ほどは使われなかった。《知恵の蛇》の方が、入るデッキが多かったからだ。青緑の《貿易風ライダー》デッキに、黒マナソースを足してまで《浸透者》を入れるだろうか? あるいは青単の「ドロー・ゴー」に、敢えて《沼》を足さずとも、役に立つカードは他にいくらもある。イェンスのデザインにおけるマナ・コストは、とても理に適っている(《不屈の自然》は緑の能力だし、《強迫的な捜索》は青いカードだ)が、青緑デッキとなると、いまぱっと思い浮かぶのは《不可思議》やら《野生の雑種犬》やらがわんさか入ってるデッキか、《ドルイドの誓い》から《スパイクの織り手》が出てくるようなデッキだ。《森の民》は前者の攻撃的なデッキには遅すぎるし、後者に入れるには場をコントロールする力がなさ過ぎる。ところが、これがアーティファクトとなると――おお! 勢力のマルチカラー・カード《森の民》はぱっとしないが、色マナが全く要らない《真面目な身代わり》になれば、あらゆるデッキに居場所が見つかるだろう。
デザイン・チームと開発チームが、イェンスが最初に提出したアイデアから、色マナを取り除く以外は何の修正もしなかったのに、冴えない《森の民》が、どきどきするような《真面目な身代わり》に変わってしまうのは、妙なことに思える。このカードには、ぱっと見て人を興奮させるようなところは何もない。パワー・ナインのマイナーダウン・ヴァージョンってわけでもないし、5ターン・キルのできるコンボデッキのパーツでもない。4マナでたったの2/2しかないから、格安の白のウィニー・クリーチャーや、今日日のでっかい天使やドラゴンみたいにビートダウンもできない。このカードは、新環境でのコントロール・デッキで、中核に据えるべきクリーチャーだ。
対ビートダウン・クリーチャーとして悪名高い《花の壁》や《ヤヴィマヤの古老》と並んで、《真面目な身代わり》も、戦闘フェイズが大好きな対戦相手にとって一番目にしたくないクリーチャーになるだろう。大抵の対抗カードが失敗する中で、これらのカードがビートダウンに対して役に立っているのは、戦闘やスペルでの交換をためらわせるような能力があるからだ。これらのカードが稼ぐカード・アドヴァンテージは、コントロール・プレイヤーが土地を並べる助けになり、さらに脅威に対する直接の解答となるカードを引いてくることもある。《真面目な身代わり》は、これらの「エクステンディッドでも折り紙つき」クリーチャーたちよりは重いとはいえ、必要な要素は全部持っている。土地を場に出して、脅威と1対1の交換ができる。これだけで、コントロール・デッキのするべきことが二つまとめてできている上に、カード1枚分デッキを圧縮できる。さらに、墓地に置かれた時には、もう1枚カードを引くことができる。つまり、《ゴブリンの群集追い》や《萎縮した卑劣漢》と戦闘で相討ちになったりした場合には、土地1枚とカード1枚得することになる。対戦相手は、エコーを持つクリーチャーを相手にした時のように「待つ」こともできない。コントロール・プレイヤーが4マナに届くなり、必ず多大なアドヴァンテージを稼がれてしまう。
《花の壁》と《ヤヴィマヤの古老》は、ただクリーチャーを止めるだけではなかった。これらが場に出たときの能力や、場を離れたとき、あるいは場から墓地に置かれたときの能力はぶっ壊れていた。これらは《貿易風ライダー》=《繰り返す悪夢》デッキの優秀なメンバーだった。ただでさえ能力がマッチしている上に、《ライダー》や《悪夢》とのコンボも素晴らしかった。場に出たときと、場から墓地に置かれたときの能力を併せ持つ《真面目な身代わり》も、この歴史の系譜に連ねようと考えるプレイヤーも多いだろう。スタンダードやブロック構築をやってる人なら、場に出たとき、と聞いて思い浮かべたカードは同じだった筈――《霊体の地滑り》だ。
どちらのフォーマットでもその力を発揮した「リフト=スライド」デッキは、《真面目な身代わり》の全ての能力を歓迎するだろう。マナ喰い虫のコントロール・デッキにとっては、《イェンス》はビートダウン・デッキに対する減速凹凸で、同時にコントロール・デッキに対する脅威になる。それに、マナ・カーヴにもすんなりはまるところが素晴らしい。2ターン目《稲妻の裂け目》、3ターン目《霊体の地滑り》、4ターン目に《真面目な身代わり》を出せば、5ターン目には《賛美された天使》が登場する――表向きで! おそらく、コントロール・デッキを使う対戦相手は《裂け目》や《地滑り》やその他のスペルを使ってこの真面目くんを除去したいとは思わない筈だ。ゲームの中盤から終盤にかけて、《真面目な身代わり》は《霊体の地滑り》とのコンボで、クリーチャーを毎ターン一体足止めし続けると同時に、デッキから土地だけを抜いて着実に圧縮してくれることだろう。《ティーロの信者》みたいな、《霊体の地滑り》とのシナジーがある他のクリーチャーと違って、《イェンス》は死んだ時にもさらにおまけをもたらしてくれる。
このカードはアーティファクトのデザインの掟を破っている。ウルザズ・ディスティニーが発売された後で、ランディー・ビューラーは《マスティコア》は失敗だった、と語っていた。プレイヤーがクリーチャーをアーティファクトに依存するのはよろしくない、とR&Dは考えているらしかった。筆者の思い出せる範囲では、《真面目な身代わり》は土地をライブラリーから探し出せるアーティファクトの中で、初めてトーナメント・レベルに到達したものと言えると思う。少なくともディスティニーに入っていた《ブレイドウッドの六分儀》よりははるかに強いはずだ。PTベネチアでジョン・フィンケルは、使っていたサイクリング・デッキのマナ・ベースを大幅に作り替えて、なんとかマナ加速ができるような形にしたいと考えていたようだったが、ミラディンが加入した後は、そんな心配はしなくてもよくなる。《真面目な身代わり》はたったひとつのアーティファクトとは思えないほど多芸だ。「サイカトグ」デッキには《花の壁》は入れられないが、《イェンス》は青単コントロールだろうと、黒単だろうと、ポンザだろうと、……入る可能性のあるデッキは無限にある。
《爆発的植生》がオンスロート・ブロックでどれほど強かったかは御存知だろう。だが、《植生》は点数で見たマナ・コストこそ《真面目な身代わり》と同じだったものの、使うためにはそれ用のデッキを組まなければならなかった。それに、いかに完璧にデザインされたデッキでも、4ターン目に《植生》を打ってタップアウトすることは、特に攻撃的なデッキ――「ゴブリン」やら「ゾンビ」やら「ゴブリン召集」やら「ゾンビ召集」やら――を」相手にしている時は、危険が大きいと言わざるを得ない。この新型のアーティファクト・クリーチャーなら、単純にマナ加速の面でも《植生》より大きなアドヴァンテージを稼いでくれる可能性があるし、色を選ばないし、さらにそれと同時にウィニー・クリーチャーから身を守る役にも立つ。このように汎用性の高いクリーチャーからは、あらゆるタイプのコントロール・デッキが恩恵を受けることができるだろう。その上で《霊体の地滑り》みたいに相性の好いメカニズムを使えるのなら、嬉しさも二倍になろうってものだ。
伝統的に、アーティファクトの弱点は簡単に除去されてしまうことだ。だが、繰り返すが、《真面目な身代わり》はただで除去されはしない。使い捨てのできるアーティファクトは、ミラディン後の環境では強力なパーマネントになるだろう。いくつかのスペルは、場に出ているアーティファクトひとつにつきコストが1マナずつ軽くなるという、新しいメカニズムを持っている。他にも多くのカードが、アーティファクトを追加コストにしたり、場にあるアーティファクトによって効果が変わったりする。《イェンス》が居れば、こういった恩恵は全部受けられる上に、新しいアーティファクト除去のことはあまり心配しなくても構わない。イェンスの提出した案になされた、ほんの小さな修正が、《真面目な身代わり》を強力で、使いやすくした。これはインヴィテーショナルでデザインされたカードとしては、《翻弄する魔道士》や《なだれ乗り》に続くカードになることだろう。向こう二年間、構築戦のさまざまなデッキで見かけることになる筈だ。
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原文 Joseph Crosby & Michael J. Flores
http://www.wizards.com/default.asp?x=sideboard/feature/20030910a
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プレヴュー記事では「盛る」のがお約束なんだけど、このカードは珍しく本当にかなり使われた。インヴィテーショナルカードの中でおそらく一番原案に忠実に印刷されたカードで、それでいてこのカードパワーだったのだから、歴代でもっともセンスのいいデザインと断言してしまってもいいだろう。カイ・ブッディはインヴィテーショナルカードのことを「あんなのはくじびきみたいなもんだ」とディスっていたが、本当に適切なデザインを提出できればちゃんと使えるカードを刷ってもらえるのだ。まあそれにしたって《非凡な虚空魔道士》は気の毒だったとは思う。それには同情する。
訳は今見るといまいちだが当時のおれとしてはまともな方だとも思う。面倒なので敢えて直したりはしないが、ひとつだけ書いておくと「どちらのフォーマットでも」はあんまりだ。ブロック構築とスタンダードを指していて、まあ文脈的にはわかるのだが、訳としてはひどい。あと読点が今のおれの基準からすると異常なほどに多い。8年前はこんな文を書いていたのか。
あとこれ公式の訳が出る前に書いたんだけど、本家の原文に出てるカード画像のファイル名を見て、他のカードの日本語版のカード画像のファイル名を見て、確かなんか「ja」をつければよさそう、みたいなのを発見して直打ちしてみたらほんとに見つかったので、それで正式な日本語名をプレヴューの前に知ることができた。だからどうということもないのだけど、見つけたときは結構嬉しかったのを憶えている。