翻訳:歴史に残る支配的なデッキ(前編)/ズヴィ・モーショウィッツ
2011年9月3日 翻訳 コメント (2)同じ人の文章ばっかり訳してると脳の使う部分が偏るので違う人のを訳してみる。で、ズヴィ。今年の3月に SCG で書かれた記事。例によって少し長いので、前後編に分けます。
原文:The Most Dominant Decks Of All Time -- by Zvi Mowshowitz(*0) (2011-03-24)
http://www.starcitygames.com/magic/misc/21457_The_Most_Dominant_Decks_Of_All_Time.html
真の意味で“支配的な”デッキとはなんだろうか?
あるトーナメントの中で最良のデッキであることは簡単だ。あまたのコピーデッキより高い勝率を示すことや、トップ8に複数のプレイヤーを送り込むことも簡単だ。だから、誰かのデッキがその程度の成功をおさめたところでなにもがっかりすることはない(*1)。もし正しいコンセプトのデッキを正しいタイミングで使えば、きみはトーナメント会場を「支配」できる。それは実に素晴らしいことだ。きみはその日のトーナメントの「ソリューション」(*2)になれる。きみは他のプレイヤーたちが予想もしない角度から切り込んで、みんなが役にも立たない悪あがきをするのを眺めることができる。次の週になると、誰もがきみのデッキをコピーする。その次の週には、全員が対策を知っていて、そして世界は新しい平衡状態になる。
持続的な支配というのは難しい。真の支配的なデッキはメタゲームの産物やシステムの穴みたいなものじゃなくて、数週間は君臨する。これらはプレイテストを重ねた上で抜きん出て強く、ファンデッキ的な要素は一切なくて、純粋なデッキパワーを持っている。こういうデッキを倒すためにデッキリストをいじるのは簡単な仕事じゃない。それも、環境の他のデッキをまるっきり無視したとしてもだ。多くのデッキビルダーはサイドボードの対策スロットをたっぷり使って、メインでも歪んだ調整をして、やっとマッチアップが互角になったと感じられるのが関の山だ。で、そのデッキビルダーたちは自分が間違ってたことに気付いて、自分たちは革命を起こせない側なんだって気付くわけだ。
候補となるデッキの一覧を見て検討を重ねながら、僕は持続的な支配をなしとげたデッキを探していた。純粋に強くて、メタゲームの目標にされても生き残ることができたようなデッキ。つまり、複数のトーナメントにわたってメタゲームの中心であり続けたデッキか、たった1回の活躍でも誰もが知るにいたって、環境に知れ渡ることになったデッキだ。
そうしてリストのデッキは 11 にまで絞られた。つまりそれが、この記事で僕がとりあげるデッキの数ってわけだ。ここに挙がっていないデッキで、僕が入れるべきだったものがあると考える人は、是非フォーラムで議論をして欲しい。強い瞬間があったデッキは確かにたくさんある(*3)。
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(*0)Zvi Mowshowitz
アメリカ合衆国の誇る奇才デッキビルダーにしてライター。殿堂プレイヤー。独特のデッキ、面白い文章、奇矯な振る舞いで大人気。2005 年からウィザーズ・オヴ・ザ・コースト社で働いていたが、働き始めてから2週間で「全く楽しくない」と気付き、翌年には退職してしまったという経歴を持っている。
(*1)誰かのデッキがその程度の成功をおさめたところでなにもがっかりすることはない
くそ自信ない。ひとつ前の文から載せてみる。
It’s easy to put up a good match-win percentage over many copies or to fill a lot of Top 8 slots. There’s not even anything discouraging about that when it happens.
about that が何を指すのか、when it happens の it は何なのか、そして何故それが there’s not anything discouraging なのか、文の頭からケツまで解らない。ひとつ考えついたのは、(ズヴィによると)それは簡単なのだから、誰か自分以外の奴が作ったデッキがトップ8に何人も入ってたりしてもがっかりすることはないんだ、という解釈。一応その線に沿って訳しているが苦しい。難しい。
(*2)「ソリューション」
構築戦の、特定のトーナメントにおける最良のデッキ。プロツアー東京でモーショヴィッツ自身が使って優勝したデッキ「The Solution」が元ねた。「必ずしもフォーマット最強のデッキではないがその日のデッキ分布のもとでは一番いいデッキ」みたいなニュアンスを含意している。ちなみに本家 The Solution は7人が使って二日目に6人が残り、ひとりが優勝、トップ 16 にもうひとりだった。
(*3)強い瞬間があったデッキは確かにたくさんある
原文は「There are many decks that can make a strong case.」 make a strong case をどう訳したものか。
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ネクロポーテンス/グレアム・タトーマー ―― プロツアー・ニューヨーク:ジュニア部門優勝,1996-02-17/18(修正タイプ2)
メインデッキ:
1《象牙の塔/Ivory Tower》
3《ネビニラルの円盤/Nevinyrral’s Disk》
1《Zuran Orb》
4《惑乱の死霊/Hypnotic Specter》
4《Order of the Ebon Hand》
3《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》
3《ネクロポーテンス/Necropotence》
2《麻痺/Paralyze》
4《暗黒の儀式/Dark Ritual》
3《Demonic Consultation》
4《Hymn to Tourach》
4《Icequake》
18《沼/Swamp》
4《ミシュラの工廠/Mishra’s Factory》
2《露天鉱床/Strip Mine》
(訳注:サイドボードは未掲載)
ネクロポーテンス/レオン・リンドバック ―― プロツアー・ニューヨーク,1996-02-17/18(修正タイプ2)
メインデッキ:
1《象牙の塔/Ivory Tower》
1《ジェイラム秘本/Jalum Tome》
2《ネビニラルの円盤/Nevinyrral’s Disk》
2《鋸刃の矢/Serrated Arrows》
1《Zuran Orb》
4《惑乱の死霊/Hypnotic Specter》
3《ストロームガルドの騎士/Knight of Stromgald》
4《Order of the Ebon Hand》
1《Dance of the Dead》
4《ネクロポーテンス/Necropotence》
1《闇への追放/Dark Banishing》
4《暗黒の儀式/Dark Ritual》
4《生命吸収/Drain Life》
4《Hymn to Tourach》
1《霊魂焼却/Soul Burn》
17《沼/Swamp》
2《漆黒の要塞/Ebon Stronghold》
4《露天鉱床/Strip Mine》
サイドボード:
1《Apocalypse Chime》
1《フェルドンの杖/Feldon’s Cane》
1《ジェイラム秘本/Jalum Tome》
1《弱者の石/Meekstone》
2《ネビニラルの円盤/Nevinyrral’s Disk》
1《鋸刃の矢/Serrated Arrows》
3《拷問台/The Rack》
1《ストロームガルドの陰謀団/Stromgald Cabal》
1《拷問/Torture》
1《灰は灰に/Ashes to Ashes》
1《真鍮の都/City of Brass》
1《隠れ家/Safe Haven》
史上初のプロツアーでは、最良のデッキはジュニア部門にあらわれた。僕は土曜日に行われるイヴェントの参加に対して親から拒否権を発動されてしまって、なすすべなく脇で眺めながら、来る人来る人を《灰燼のグール》と《冥界の影》がフル投入された《ネクロポーテンス》デッキでなぎ倒しているしかなかった。(*4)
レオン・リンドバックはかなり正しいカード選択をしてるヴァージョンをシニア部門に持ち込んだけど、グレアム・タトーマーは他のプレイヤーがたどり着けなかった《Demonic Consultations》を3枚デッキに入れる英断を下していた。このカードのデッキを大幅に削って(時には即死して)しまう効果に他のプレイヤーたちはおびえてたが、グレアムは制限カード以外のあらゆるカードを1マナで持って来られる上に、緊急時には博打的な使い方もできる(*5)このカードの強さをよくわかっていた。グレアムは《生命吸収》で時間稼ぎをしようとはせず攻撃的な戦略をとっていて、肝腎の《ネクロポーテンス》を3枚しか入れていないというミスを犯していた。しかし、すぐにプレイヤーたちは4枚目の《ネクロポーテンス》を入れて、《Icequake》の代わりに《生命吸収》を入れるべきだという結論にたどり着いていた。
《ネクロポーテンス》に対処するのは当時のデッキにとって長期的な課題となった。多くのプレイヤーは対策カードを詰め込んで対抗しようとしたが、あまりにも頻繁に《Hymn to Tourach》や《露天鉱床》に妨害され、《ネビニラルの円盤》にずたずたにされた。《ネクロポーテンス》のプレイヤーは継続的にカードアドヴァンテージを稼ぐとともに、デッキに詰め込まれたほとんどあらゆる対策カードに対する回答をサーチすることができた。プロテクション(黒)や小型クリーチャーには《鋸刃の矢》があったし、《生の躍動》みたいなカードにすら《ネビニラルの円盤》は有効だった。《対抗呪文》も《ネクロポーテンス》を止められなかった。仮に《Hymn to Tourach》で落ちなくても、ネクロ側のプレイヤーは《暗黒の儀式》でカウンターをかいくぐって《ネクロポーテンス》を通してきた。もし《ネクロポーテンス》というドローエンジンを沈黙させても、デッキの残りの部分は普通に機能した。
結局、役に立った対抗策はふたつしかなかった。ひとつはバーン戦略だ。《ネクロポーテンス》デッキはあまりにも自分からライフを減らすため、《魔力のとげ》みたいなカードには耐えられなかった。バーンデッキは《ネクロポーテンス》との対戦以外ではぱっとしなかったが、とにかく自分の仕事はした。もうひとつは「ターボ・ステイシス」デッキ(*6)だった。《吠えたける鉱山》が《ネクロポーテンス》が稼ぎ出すカード差を埋めてくれて、かつマナをロックすることで《ネクロポーテンス》がもたらしたカードを使わせる機会を与えない。ゲームを長引かせることで、ネクロ側はドロー・ステップを飛ばすというデメリットで自滅していった。
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(*4)僕は土曜日に行われる~なぎ倒しているしかなかった。
自信なし。原文は以下の通り。
I was upstairs watching helplessly from the sidelines, unable to attend due to a parental veto of Saturday competition, and crushing all comers with my Necropotence deck built with a full complement of Ashen Ghouls and Nether Shadows.
「土曜日は出させてもらえなくて日曜日は会場の脇で見てた」というような状況だったのだろうと想像。
(*5)緊急時には博打的な使い方もできる
原文では「and in an emergency, the ability to roll the dice.」 1枚挿しのカードをサーチするのにも使ったということだろうか。
(*6)「ターボ・ステイシス」デッキ
《停滞》と《吠えたける鉱山》を用いたロックデッキ。《停滞》のアップキープコストを《吠えたける鉱山》による追加ドローで引いてくる土地でなんとかしよう、という大雑把なデッキ。
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デッドガイ・レッド/デイヴィッド・プライス ―― プロツアー・ロサンゼルス:優勝,1998-05-06~08(テンペスト・ブロック構築)
メインデッキ:
4《呪われた巻物/Cursed Scroll》
2《煮沸ばさみ/Scalding Tongs》
4《峡谷の山猫/Canyon Wildcat》
4《投火師/Fireslinger》
4《ジャッカルの仔/Jackal Pup》
4《モグの徴集兵部隊/Mogg Conscripts》
4《モグの狂信者/Mogg Fanatic》
4《モグの略奪者/Mogg Raider》
2《ラースのドラゴン/Rathi Dragon》
4《巨人の力/Giant Strength》
4《焚きつけ/Kindle》
16《山/Mountain》
4《不毛の大地/Wasteland》
サイドボード:
2《凶運の彫像/Jinxed Idol》
2《煮沸ばさみ/Scalding Tongs》
1《拷問室/Torture Chamber》
1《ラースのドラゴン/Rathi Dragon》
4《粉砕/Shatter》
1《黙示録/Apocalypse》
4《石の雨/Stone Rain》
僕がまだ世界の片隅に居て、自力で赤いデッキを「発見」したりしていた頃、既に世界の残りの部分ではそのデッキはそびえ立つ巨人と見なされていた。それまでにも支配的なデッキってのは存在したし、「プロス-ブルーム」デッキ(*7)はひとつ前のブロック構築のプロツアーでは大いなる脅威だったけど、このデッキはこれまでと違う点がふたつあった――広く知られていて、かつたどり着くのもいじるのも簡単だってことだ。このプロツアーが始まった時点では、様々なヴァリエーションこそあったけど、環境の4割近くは同じ色のデッキを持ち込もうとしているみたいだった。赤単はスタンダードのデッキと張り合えるほど強くて、ブロック構築じゃ並ぶものもなく、赤いデッキを倒すためだけに組まれたデッキですら満足に仕事をさせてもらえなかった。(これは支配的なデッキにはしばしば起きることなんだ。)
なんとか対抗できる程度には強いデッキは3つだけあった。ひとつは CMU(*8)の天才どもが作ったスリヴァー・デッキ「CMU グリーン」で、これはどうにか勝負には加わわれるってとこだった。最高成績は7位と同ポイントで、タイブレーカーの結果 11 位だったブライアン・シュナイダー。大差じゃなかったけど、洗練された赤単にはかなわなかった。
それよりは強かったのが、パワフルな《ボトルのノーム》を擁する「《生ける屍》」デッキで、ふたつのデッキがトップ8に残った。ベン・ルビンが使ってた三色ヴァージョンの方は決勝まで残って悪くないゲームをしてたんだけど、真打ちはダーウィン・キャッスルが組んだ二色ヴァージョンの方だ。もう少しでアダム・カッツにプロツアー優勝をもたらすとこだった。実に理にかなった構成で、マナトラブルを避けるために二色にまとめられてて、ナチュラルに厄介なクリーチャーたちが詰め込まれてた。僕と当たった時点では(*9)、ダーウィン・キャッスルは赤単に対して 7-0 という成績を残していた。あと1勝すればアダム・カッツと並んでトップ8へのタイブレーカーラインまで届いていたところだった。
終わってみると、赤単はずば抜けて強いデッキで、ブロック内でも最強の戦略だってことがはっきりした。他のデッキにも出番を与えるために、ブロック構築では赤単の最強カード《呪われた巻物》が禁止された。それでも赤単はなお使うに値する程度には強かったし、フォーマットにはバランスと活気が取り戻された。このブロックはめでたしめでたし、で終われたけど、ブロック構築って奴はしばしば片手に収まる程度しか使えるデッキがなくなっちゃったりする。またしてもおんなじぐらいぶっ壊れたブロック構築のプロツアーが開催されるまで、それほどの年月はかからなかった。
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(*7)「プロス-ブルーム」デッキ
《死体の花》と《資源の浪費》《自然の均衡》《繁栄》を用いたコンボデッキ。手札とマナを相互に変換しながらマナを増やし、最後は《生命吸収》で止めを刺す。ブロック構築とは思えぬほど入り組んだコンボデッキ。
(*8)CMU
1997 年から 00 年代初頭にかけて活躍した、一説にはマジック史上最も成功したチーム……なのだが日本では妙に知名度が低い(と思う)。チーム名の由来はカーネギー・メロン大学の略で、実際キャンパス内でマジックやってたらしい。後にウィザーズ・オヴ・ザ・コースト社の研究開発部に多くのメンバーを送り込んだ。
(*9)僕と当たった時点では
ズヴィはこの時が初のシニア・プロツアー参戦で、本人によると《日和見主義者》の入った赤単を使い、キャッスルに勝って 12 位に入賞した。13 位の石田格が 10-4 ながらオポネントマッチウィンパーセンテージが 70% あったそうなので、ズヴィは 10-3-1 ぐらいだったと推測される。
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CMU アカデミー/エリック・ローアー ―― プロツアー・ローマ:トップ8,1998-11-13~15(エクステンディッド)
メインデッキ:
4《水蓮の花びら/Lotus Petal》
4《魔力の櫃/Mana Vault》
4《モックス・ダイアモンド/Mox Diamond》
3《巻物棚/Scroll Rack》
2《ウルザのガラクタ/Urza’s Bauble》
1《精神力/Mind Over Matter》
3《中断/Abeyance》
2《対抗呪文/Counterspell》
4《衝動/Impulse》
1《天才のひらめき/Stroke of Genius》
3《吸血の教示者/Vampiric Tutor》
4《時のらせん/Time Spiral》
4《意外な授かり物/Windfall》
3《真鍮の都/City of Brass》
3《Tundra》
4《Underground Sea》
3《Volcanic Island》
4《不毛の大地/Wasteland》
4《トレイリアのアカデミー/Tolarian Academy》
サイドボード:
1《ゴリラのシャーマン/Gorilla Shaman》
4《寒け/Chill》
1《孤独の都/City of Solitude》
1《憂鬱/Gloom》
1《中断/Abeyance》
1《転覆/Capsize》
2《水流破/Hydroblast》
3《紅蓮破/Pyroblast》
1《非業の死/Perish》
プロツアー・ローマはいくつかの点で特別なプロツアーだったと言えるけど、中でもいちばん特別だったのは、デッキ分布がカード資産に影響を受けたってことだ。この時点での最強のデッキは、発見したり構築したりするのが難しいわけじゃなかったのに、パーツを手に入れられなくて使うことができなかったプレイヤーがたくさん居たんだ。未だにどうしてだかわからないんだけど、この時僕が使ったデッキは本当にひどいもんで、当時のスタンダードのデッキの方がよっぽどましって代物だった。それはそれとして、多くのプレイヤーは「アカデミー」デッキを使いたくても《トレイリアのアカデミー》や《時のらせん》が手に入らなくて諦めていた。そういう事情さえなければ「アカデミー」デッキは歴史的な使用率になってたはずだ。といっても実際に残した数字の二倍は行かなかっただろうけど(*10)。でも、首尾よく「アカデミー」デッキで出ることができたプレイヤーたちの多くは、その幸運を上回るつけを払わされる羽目になった。
「アカデミー」デッキは本当に強力で支配的だったのに、このプロツアーでは実に控えめな結果しか残せなかった。大半のプレイヤーは「アカデミー」のようなデッキについてはまるで練習不足だった。特に厳しいトーナメントでの経験が不足していて、結果として多くのゲームや試合を落とすことになった。適切に構築されてなかったり、正しいサイドボーディングができていないデッキもすごく多かった。トミ・ホヴィが使って優勝したデッキリストは明らかに最低限の構成だったが、これはホヴィが《Force of Will》をはじめとするエクステンディッドならではのパワーカードに手を伸ばさず、スタンダードのデッキをそのまま持ち込んで若干修正する作戦をとったからだ。充分優勝に値するデッキだったが、最強のデッキを持ち込んだのは(《Gustha’s Scepter》を使ったハッカーのデッキを別にすれば)チーム CMU だったと思う。連中は《吸血の教示者》がデッキにぴったりだって気付いてた。これがあればキーカードを探すことができるのと同時に、1枚挿しのサイドボードをとれるので、サイドボーディングの枚数が多すぎてデッキ本来の動きが機能不全に陥る事態を防げた。
だれもが禁止はやむを得ないと考えていたことは疑いの余地がなかった。それ以外に「アカデミー」の支配を止める方法はなかった。
「アカデミー」が去ると、「ハイ・タイド」デッキがコンボデッキの中心に浮かび上がった。でも「アカデミー」に対処する必要がなくなった今となっては、「ハイ・タイド」はどんなデッキでも充分対処可能なデッキになっていた――ウルザズ・レガシーが発売され、《大あわての捜索》が世に出るまでは。
かくして、「ハイ・タイド」は支配的なデッキの座を受け継いだ。
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(*10)といっても実際に残した数字の二倍は行かなかっただろうけど
原文は although it wouldn’t have put up the same percentages as it did. 最初「それがかつて叩き出したパーセンテージには及ばなかっただろう」と解釈して、どっか別のトーナメントですげえ使用率出してたのかなと思ったのだが、だとするとローマではカード資産が原因で人数が少なかったというのに説明がつかないし、時制的にも最後 it had done になってないとおかしい気がするのでこう訳した。合ってるかはわからない。
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ハイ・タイド/カイ・ブッディ ―― グランプリ・ウィーン:優勝,1999-05-13~15(エクステンディッド)
メインデッキ:
1《パリンクロン/Palinchron》
2《Arcane Denial》
1《渦まく知識/Brainstorm》
4《対抗呪文/Counterspell》
4《Force of Will》
3《大あわての捜索/Frantic Search》
4《High Tide》
4《衝動/Impulse》
1《神秘の教示者/Mystical Tutor》
3《天才のひらめき/Stroke of Genius》
3《転換/Turnabout》
3《商人の巻物/Merchant Scroll》
4《時のらせん/Time Spiral》
16《島/Island》
4《Thawing Glaciers》
3《Volcanic Island》
サイドボード:
2《無のロッド/Null Rod》
4《知恵の蛇/Ophidian》
4《水流破/Hydroblast》
4《紅蓮破/Pyroblast》
1《山/Mountain》
「アカデミー」デッキは組むのが難しく、構築ミスも起こりがちだが、「ハイ・タイド」デッキは驚くほど構築ミスの少ないデッキだ。このデッキにはマナソースと打ち消し呪文とドロー呪文と勝ち手段しか入ってなくて、早ければ3ターン目には勝ってしまう。対戦相手はタップアウトすれば負けてしまうかも知れないとわかっていても、どうすればいいかわからない。
《Thawing Glaciers》が入っていることで、「ハイ・タイド」デッキはコントロールデッキ並みに受動的に動くことができる。さらにサイドボード後には《知恵の蛇》と《紅蓮波》、あるいは打ち消し呪文の増量として《紅蓮波》だけを入れることで、文字通り本物のコントロールデッキに変形することもできる。「ハイ・タイド」に対抗する最も有効な戦略は3ターン目に「ハイ・タイド」側が勝ち手段を整えてしまう前に片をつけてしまうことだったが、(訳注:《大あわての捜索》のおかげで(*11))その隙は半ターン縮まった。「ハイ・タイド」はカウンターデッキより打ち消し合戦に強く、ビートダウンデッキよりも確実に速く、対抗する術は殆どなかった。
ウィーンの二日目はほぼ完全に「ハイ・タイド」に支配されていた。そしてこの状況は禁止カードが次々に指定されて「ハイ・タイド」が成立しなくなるまで、かけらもましにならなかった。
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(*11)《大あわての捜索》のおかげで
原文には書かれておらず、単に and that window was narrower by half a turn. とあるだけなので、ここは全く自信のない部分。ただ、前段落の最後で《大あわての捜索》が世に出るまではハイ・タイドは対処可能なデッキだった、と書かれていることと、他に事情らしき説明はないことから、まあそうなのではないかと。
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前編はここまで。5つ紹介したところですが、序文があるのでちょうどこれで半分ぐらいです。
今回は註を途中に入れてみました。diarynote は註へのリンクを張れない(というかまあ、大抵のことはできない)ので、本文が長くなると参照するのがくそめんどくさいんですよね。さいわいデッキごとにパートが切れるのでそこに挟んでみた次第。どっちがいいとかどっちもよくないとかあればコメント欄でお知らせください。
例によって誤訳の指摘や「自分ならこう訳す」といった意見は歓迎します。こちらもコメント欄へお願いします。
原文:The Most Dominant Decks Of All Time -- by Zvi Mowshowitz(*0) (2011-03-24)
http://www.starcitygames.com/magic/misc/21457_The_Most_Dominant_Decks_Of_All_Time.html
真の意味で“支配的な”デッキとはなんだろうか?
あるトーナメントの中で最良のデッキであることは簡単だ。あまたのコピーデッキより高い勝率を示すことや、トップ8に複数のプレイヤーを送り込むことも簡単だ。だから、誰かのデッキがその程度の成功をおさめたところでなにもがっかりすることはない(*1)。もし正しいコンセプトのデッキを正しいタイミングで使えば、きみはトーナメント会場を「支配」できる。それは実に素晴らしいことだ。きみはその日のトーナメントの「ソリューション」(*2)になれる。きみは他のプレイヤーたちが予想もしない角度から切り込んで、みんなが役にも立たない悪あがきをするのを眺めることができる。次の週になると、誰もがきみのデッキをコピーする。その次の週には、全員が対策を知っていて、そして世界は新しい平衡状態になる。
持続的な支配というのは難しい。真の支配的なデッキはメタゲームの産物やシステムの穴みたいなものじゃなくて、数週間は君臨する。これらはプレイテストを重ねた上で抜きん出て強く、ファンデッキ的な要素は一切なくて、純粋なデッキパワーを持っている。こういうデッキを倒すためにデッキリストをいじるのは簡単な仕事じゃない。それも、環境の他のデッキをまるっきり無視したとしてもだ。多くのデッキビルダーはサイドボードの対策スロットをたっぷり使って、メインでも歪んだ調整をして、やっとマッチアップが互角になったと感じられるのが関の山だ。で、そのデッキビルダーたちは自分が間違ってたことに気付いて、自分たちは革命を起こせない側なんだって気付くわけだ。
候補となるデッキの一覧を見て検討を重ねながら、僕は持続的な支配をなしとげたデッキを探していた。純粋に強くて、メタゲームの目標にされても生き残ることができたようなデッキ。つまり、複数のトーナメントにわたってメタゲームの中心であり続けたデッキか、たった1回の活躍でも誰もが知るにいたって、環境に知れ渡ることになったデッキだ。
そうしてリストのデッキは 11 にまで絞られた。つまりそれが、この記事で僕がとりあげるデッキの数ってわけだ。ここに挙がっていないデッキで、僕が入れるべきだったものがあると考える人は、是非フォーラムで議論をして欲しい。強い瞬間があったデッキは確かにたくさんある(*3)。
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(*0)Zvi Mowshowitz
アメリカ合衆国の誇る奇才デッキビルダーにしてライター。殿堂プレイヤー。独特のデッキ、面白い文章、奇矯な振る舞いで大人気。2005 年からウィザーズ・オヴ・ザ・コースト社で働いていたが、働き始めてから2週間で「全く楽しくない」と気付き、翌年には退職してしまったという経歴を持っている。
(*1)誰かのデッキがその程度の成功をおさめたところでなにもがっかりすることはない
くそ自信ない。ひとつ前の文から載せてみる。
It’s easy to put up a good match-win percentage over many copies or to fill a lot of Top 8 slots. There’s not even anything discouraging about that when it happens.
about that が何を指すのか、when it happens の it は何なのか、そして何故それが there’s not anything discouraging なのか、文の頭からケツまで解らない。ひとつ考えついたのは、(ズヴィによると)それは簡単なのだから、誰か自分以外の奴が作ったデッキがトップ8に何人も入ってたりしてもがっかりすることはないんだ、という解釈。一応その線に沿って訳しているが苦しい。難しい。
(*2)「ソリューション」
構築戦の、特定のトーナメントにおける最良のデッキ。プロツアー東京でモーショヴィッツ自身が使って優勝したデッキ「The Solution」が元ねた。「必ずしもフォーマット最強のデッキではないがその日のデッキ分布のもとでは一番いいデッキ」みたいなニュアンスを含意している。ちなみに本家 The Solution は7人が使って二日目に6人が残り、ひとりが優勝、トップ 16 にもうひとりだった。
(*3)強い瞬間があったデッキは確かにたくさんある
原文は「There are many decks that can make a strong case.」 make a strong case をどう訳したものか。
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ネクロポーテンス/グレアム・タトーマー ―― プロツアー・ニューヨーク:ジュニア部門優勝,1996-02-17/18(修正タイプ2)
メインデッキ:
1《象牙の塔/Ivory Tower》
3《ネビニラルの円盤/Nevinyrral’s Disk》
1《Zuran Orb》
4《惑乱の死霊/Hypnotic Specter》
4《Order of the Ebon Hand》
3《センギアの吸血鬼/Sengir Vampire》
3《ネクロポーテンス/Necropotence》
2《麻痺/Paralyze》
4《暗黒の儀式/Dark Ritual》
3《Demonic Consultation》
4《Hymn to Tourach》
4《Icequake》
18《沼/Swamp》
4《ミシュラの工廠/Mishra’s Factory》
2《露天鉱床/Strip Mine》
(訳注:サイドボードは未掲載)
ネクロポーテンス/レオン・リンドバック ―― プロツアー・ニューヨーク,1996-02-17/18(修正タイプ2)
メインデッキ:
1《象牙の塔/Ivory Tower》
1《ジェイラム秘本/Jalum Tome》
2《ネビニラルの円盤/Nevinyrral’s Disk》
2《鋸刃の矢/Serrated Arrows》
1《Zuran Orb》
4《惑乱の死霊/Hypnotic Specter》
3《ストロームガルドの騎士/Knight of Stromgald》
4《Order of the Ebon Hand》
1《Dance of the Dead》
4《ネクロポーテンス/Necropotence》
1《闇への追放/Dark Banishing》
4《暗黒の儀式/Dark Ritual》
4《生命吸収/Drain Life》
4《Hymn to Tourach》
1《霊魂焼却/Soul Burn》
17《沼/Swamp》
2《漆黒の要塞/Ebon Stronghold》
4《露天鉱床/Strip Mine》
サイドボード:
1《Apocalypse Chime》
1《フェルドンの杖/Feldon’s Cane》
1《ジェイラム秘本/Jalum Tome》
1《弱者の石/Meekstone》
2《ネビニラルの円盤/Nevinyrral’s Disk》
1《鋸刃の矢/Serrated Arrows》
3《拷問台/The Rack》
1《ストロームガルドの陰謀団/Stromgald Cabal》
1《拷問/Torture》
1《灰は灰に/Ashes to Ashes》
1《真鍮の都/City of Brass》
1《隠れ家/Safe Haven》
史上初のプロツアーでは、最良のデッキはジュニア部門にあらわれた。僕は土曜日に行われるイヴェントの参加に対して親から拒否権を発動されてしまって、なすすべなく脇で眺めながら、来る人来る人を《灰燼のグール》と《冥界の影》がフル投入された《ネクロポーテンス》デッキでなぎ倒しているしかなかった。(*4)
レオン・リンドバックはかなり正しいカード選択をしてるヴァージョンをシニア部門に持ち込んだけど、グレアム・タトーマーは他のプレイヤーがたどり着けなかった《Demonic Consultations》を3枚デッキに入れる英断を下していた。このカードのデッキを大幅に削って(時には即死して)しまう効果に他のプレイヤーたちはおびえてたが、グレアムは制限カード以外のあらゆるカードを1マナで持って来られる上に、緊急時には博打的な使い方もできる(*5)このカードの強さをよくわかっていた。グレアムは《生命吸収》で時間稼ぎをしようとはせず攻撃的な戦略をとっていて、肝腎の《ネクロポーテンス》を3枚しか入れていないというミスを犯していた。しかし、すぐにプレイヤーたちは4枚目の《ネクロポーテンス》を入れて、《Icequake》の代わりに《生命吸収》を入れるべきだという結論にたどり着いていた。
《ネクロポーテンス》に対処するのは当時のデッキにとって長期的な課題となった。多くのプレイヤーは対策カードを詰め込んで対抗しようとしたが、あまりにも頻繁に《Hymn to Tourach》や《露天鉱床》に妨害され、《ネビニラルの円盤》にずたずたにされた。《ネクロポーテンス》のプレイヤーは継続的にカードアドヴァンテージを稼ぐとともに、デッキに詰め込まれたほとんどあらゆる対策カードに対する回答をサーチすることができた。プロテクション(黒)や小型クリーチャーには《鋸刃の矢》があったし、《生の躍動》みたいなカードにすら《ネビニラルの円盤》は有効だった。《対抗呪文》も《ネクロポーテンス》を止められなかった。仮に《Hymn to Tourach》で落ちなくても、ネクロ側のプレイヤーは《暗黒の儀式》でカウンターをかいくぐって《ネクロポーテンス》を通してきた。もし《ネクロポーテンス》というドローエンジンを沈黙させても、デッキの残りの部分は普通に機能した。
結局、役に立った対抗策はふたつしかなかった。ひとつはバーン戦略だ。《ネクロポーテンス》デッキはあまりにも自分からライフを減らすため、《魔力のとげ》みたいなカードには耐えられなかった。バーンデッキは《ネクロポーテンス》との対戦以外ではぱっとしなかったが、とにかく自分の仕事はした。もうひとつは「ターボ・ステイシス」デッキ(*6)だった。《吠えたける鉱山》が《ネクロポーテンス》が稼ぎ出すカード差を埋めてくれて、かつマナをロックすることで《ネクロポーテンス》がもたらしたカードを使わせる機会を与えない。ゲームを長引かせることで、ネクロ側はドロー・ステップを飛ばすというデメリットで自滅していった。
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(*4)僕は土曜日に行われる~なぎ倒しているしかなかった。
自信なし。原文は以下の通り。
I was upstairs watching helplessly from the sidelines, unable to attend due to a parental veto of Saturday competition, and crushing all comers with my Necropotence deck built with a full complement of Ashen Ghouls and Nether Shadows.
「土曜日は出させてもらえなくて日曜日は会場の脇で見てた」というような状況だったのだろうと想像。
(*5)緊急時には博打的な使い方もできる
原文では「and in an emergency, the ability to roll the dice.」 1枚挿しのカードをサーチするのにも使ったということだろうか。
(*6)「ターボ・ステイシス」デッキ
《停滞》と《吠えたける鉱山》を用いたロックデッキ。《停滞》のアップキープコストを《吠えたける鉱山》による追加ドローで引いてくる土地でなんとかしよう、という大雑把なデッキ。
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デッドガイ・レッド/デイヴィッド・プライス ―― プロツアー・ロサンゼルス:優勝,1998-05-06~08(テンペスト・ブロック構築)
メインデッキ:
4《呪われた巻物/Cursed Scroll》
2《煮沸ばさみ/Scalding Tongs》
4《峡谷の山猫/Canyon Wildcat》
4《投火師/Fireslinger》
4《ジャッカルの仔/Jackal Pup》
4《モグの徴集兵部隊/Mogg Conscripts》
4《モグの狂信者/Mogg Fanatic》
4《モグの略奪者/Mogg Raider》
2《ラースのドラゴン/Rathi Dragon》
4《巨人の力/Giant Strength》
4《焚きつけ/Kindle》
16《山/Mountain》
4《不毛の大地/Wasteland》
サイドボード:
2《凶運の彫像/Jinxed Idol》
2《煮沸ばさみ/Scalding Tongs》
1《拷問室/Torture Chamber》
1《ラースのドラゴン/Rathi Dragon》
4《粉砕/Shatter》
1《黙示録/Apocalypse》
4《石の雨/Stone Rain》
僕がまだ世界の片隅に居て、自力で赤いデッキを「発見」したりしていた頃、既に世界の残りの部分ではそのデッキはそびえ立つ巨人と見なされていた。それまでにも支配的なデッキってのは存在したし、「プロス-ブルーム」デッキ(*7)はひとつ前のブロック構築のプロツアーでは大いなる脅威だったけど、このデッキはこれまでと違う点がふたつあった――広く知られていて、かつたどり着くのもいじるのも簡単だってことだ。このプロツアーが始まった時点では、様々なヴァリエーションこそあったけど、環境の4割近くは同じ色のデッキを持ち込もうとしているみたいだった。赤単はスタンダードのデッキと張り合えるほど強くて、ブロック構築じゃ並ぶものもなく、赤いデッキを倒すためだけに組まれたデッキですら満足に仕事をさせてもらえなかった。(これは支配的なデッキにはしばしば起きることなんだ。)
なんとか対抗できる程度には強いデッキは3つだけあった。ひとつは CMU(*8)の天才どもが作ったスリヴァー・デッキ「CMU グリーン」で、これはどうにか勝負には加わわれるってとこだった。最高成績は7位と同ポイントで、タイブレーカーの結果 11 位だったブライアン・シュナイダー。大差じゃなかったけど、洗練された赤単にはかなわなかった。
それよりは強かったのが、パワフルな《ボトルのノーム》を擁する「《生ける屍》」デッキで、ふたつのデッキがトップ8に残った。ベン・ルビンが使ってた三色ヴァージョンの方は決勝まで残って悪くないゲームをしてたんだけど、真打ちはダーウィン・キャッスルが組んだ二色ヴァージョンの方だ。もう少しでアダム・カッツにプロツアー優勝をもたらすとこだった。実に理にかなった構成で、マナトラブルを避けるために二色にまとめられてて、ナチュラルに厄介なクリーチャーたちが詰め込まれてた。僕と当たった時点では(*9)、ダーウィン・キャッスルは赤単に対して 7-0 という成績を残していた。あと1勝すればアダム・カッツと並んでトップ8へのタイブレーカーラインまで届いていたところだった。
終わってみると、赤単はずば抜けて強いデッキで、ブロック内でも最強の戦略だってことがはっきりした。他のデッキにも出番を与えるために、ブロック構築では赤単の最強カード《呪われた巻物》が禁止された。それでも赤単はなお使うに値する程度には強かったし、フォーマットにはバランスと活気が取り戻された。このブロックはめでたしめでたし、で終われたけど、ブロック構築って奴はしばしば片手に収まる程度しか使えるデッキがなくなっちゃったりする。またしてもおんなじぐらいぶっ壊れたブロック構築のプロツアーが開催されるまで、それほどの年月はかからなかった。
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(*7)「プロス-ブルーム」デッキ
《死体の花》と《資源の浪費》《自然の均衡》《繁栄》を用いたコンボデッキ。手札とマナを相互に変換しながらマナを増やし、最後は《生命吸収》で止めを刺す。ブロック構築とは思えぬほど入り組んだコンボデッキ。
(*8)CMU
1997 年から 00 年代初頭にかけて活躍した、一説にはマジック史上最も成功したチーム……なのだが日本では妙に知名度が低い(と思う)。チーム名の由来はカーネギー・メロン大学の略で、実際キャンパス内でマジックやってたらしい。後にウィザーズ・オヴ・ザ・コースト社の研究開発部に多くのメンバーを送り込んだ。
(*9)僕と当たった時点では
ズヴィはこの時が初のシニア・プロツアー参戦で、本人によると《日和見主義者》の入った赤単を使い、キャッスルに勝って 12 位に入賞した。13 位の石田格が 10-4 ながらオポネントマッチウィンパーセンテージが 70% あったそうなので、ズヴィは 10-3-1 ぐらいだったと推測される。
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CMU アカデミー/エリック・ローアー ―― プロツアー・ローマ:トップ8,1998-11-13~15(エクステンディッド)
メインデッキ:
4《水蓮の花びら/Lotus Petal》
4《魔力の櫃/Mana Vault》
4《モックス・ダイアモンド/Mox Diamond》
3《巻物棚/Scroll Rack》
2《ウルザのガラクタ/Urza’s Bauble》
1《精神力/Mind Over Matter》
3《中断/Abeyance》
2《対抗呪文/Counterspell》
4《衝動/Impulse》
1《天才のひらめき/Stroke of Genius》
3《吸血の教示者/Vampiric Tutor》
4《時のらせん/Time Spiral》
4《意外な授かり物/Windfall》
3《真鍮の都/City of Brass》
3《Tundra》
4《Underground Sea》
3《Volcanic Island》
4《不毛の大地/Wasteland》
4《トレイリアのアカデミー/Tolarian Academy》
サイドボード:
1《ゴリラのシャーマン/Gorilla Shaman》
4《寒け/Chill》
1《孤独の都/City of Solitude》
1《憂鬱/Gloom》
1《中断/Abeyance》
1《転覆/Capsize》
2《水流破/Hydroblast》
3《紅蓮破/Pyroblast》
1《非業の死/Perish》
プロツアー・ローマはいくつかの点で特別なプロツアーだったと言えるけど、中でもいちばん特別だったのは、デッキ分布がカード資産に影響を受けたってことだ。この時点での最強のデッキは、発見したり構築したりするのが難しいわけじゃなかったのに、パーツを手に入れられなくて使うことができなかったプレイヤーがたくさん居たんだ。未だにどうしてだかわからないんだけど、この時僕が使ったデッキは本当にひどいもんで、当時のスタンダードのデッキの方がよっぽどましって代物だった。それはそれとして、多くのプレイヤーは「アカデミー」デッキを使いたくても《トレイリアのアカデミー》や《時のらせん》が手に入らなくて諦めていた。そういう事情さえなければ「アカデミー」デッキは歴史的な使用率になってたはずだ。といっても実際に残した数字の二倍は行かなかっただろうけど(*10)。でも、首尾よく「アカデミー」デッキで出ることができたプレイヤーたちの多くは、その幸運を上回るつけを払わされる羽目になった。
「アカデミー」デッキは本当に強力で支配的だったのに、このプロツアーでは実に控えめな結果しか残せなかった。大半のプレイヤーは「アカデミー」のようなデッキについてはまるで練習不足だった。特に厳しいトーナメントでの経験が不足していて、結果として多くのゲームや試合を落とすことになった。適切に構築されてなかったり、正しいサイドボーディングができていないデッキもすごく多かった。トミ・ホヴィが使って優勝したデッキリストは明らかに最低限の構成だったが、これはホヴィが《Force of Will》をはじめとするエクステンディッドならではのパワーカードに手を伸ばさず、スタンダードのデッキをそのまま持ち込んで若干修正する作戦をとったからだ。充分優勝に値するデッキだったが、最強のデッキを持ち込んだのは(《Gustha’s Scepter》を使ったハッカーのデッキを別にすれば)チーム CMU だったと思う。連中は《吸血の教示者》がデッキにぴったりだって気付いてた。これがあればキーカードを探すことができるのと同時に、1枚挿しのサイドボードをとれるので、サイドボーディングの枚数が多すぎてデッキ本来の動きが機能不全に陥る事態を防げた。
だれもが禁止はやむを得ないと考えていたことは疑いの余地がなかった。それ以外に「アカデミー」の支配を止める方法はなかった。
「アカデミー」が去ると、「ハイ・タイド」デッキがコンボデッキの中心に浮かび上がった。でも「アカデミー」に対処する必要がなくなった今となっては、「ハイ・タイド」はどんなデッキでも充分対処可能なデッキになっていた――ウルザズ・レガシーが発売され、《大あわての捜索》が世に出るまでは。
かくして、「ハイ・タイド」は支配的なデッキの座を受け継いだ。
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(*10)といっても実際に残した数字の二倍は行かなかっただろうけど
原文は although it wouldn’t have put up the same percentages as it did. 最初「それがかつて叩き出したパーセンテージには及ばなかっただろう」と解釈して、どっか別のトーナメントですげえ使用率出してたのかなと思ったのだが、だとするとローマではカード資産が原因で人数が少なかったというのに説明がつかないし、時制的にも最後 it had done になってないとおかしい気がするのでこう訳した。合ってるかはわからない。
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ハイ・タイド/カイ・ブッディ ―― グランプリ・ウィーン:優勝,1999-05-13~15(エクステンディッド)
メインデッキ:
1《パリンクロン/Palinchron》
2《Arcane Denial》
1《渦まく知識/Brainstorm》
4《対抗呪文/Counterspell》
4《Force of Will》
3《大あわての捜索/Frantic Search》
4《High Tide》
4《衝動/Impulse》
1《神秘の教示者/Mystical Tutor》
3《天才のひらめき/Stroke of Genius》
3《転換/Turnabout》
3《商人の巻物/Merchant Scroll》
4《時のらせん/Time Spiral》
16《島/Island》
4《Thawing Glaciers》
3《Volcanic Island》
サイドボード:
2《無のロッド/Null Rod》
4《知恵の蛇/Ophidian》
4《水流破/Hydroblast》
4《紅蓮破/Pyroblast》
1《山/Mountain》
「アカデミー」デッキは組むのが難しく、構築ミスも起こりがちだが、「ハイ・タイド」デッキは驚くほど構築ミスの少ないデッキだ。このデッキにはマナソースと打ち消し呪文とドロー呪文と勝ち手段しか入ってなくて、早ければ3ターン目には勝ってしまう。対戦相手はタップアウトすれば負けてしまうかも知れないとわかっていても、どうすればいいかわからない。
《Thawing Glaciers》が入っていることで、「ハイ・タイド」デッキはコントロールデッキ並みに受動的に動くことができる。さらにサイドボード後には《知恵の蛇》と《紅蓮波》、あるいは打ち消し呪文の増量として《紅蓮波》だけを入れることで、文字通り本物のコントロールデッキに変形することもできる。「ハイ・タイド」に対抗する最も有効な戦略は3ターン目に「ハイ・タイド」側が勝ち手段を整えてしまう前に片をつけてしまうことだったが、(訳注:《大あわての捜索》のおかげで(*11))その隙は半ターン縮まった。「ハイ・タイド」はカウンターデッキより打ち消し合戦に強く、ビートダウンデッキよりも確実に速く、対抗する術は殆どなかった。
ウィーンの二日目はほぼ完全に「ハイ・タイド」に支配されていた。そしてこの状況は禁止カードが次々に指定されて「ハイ・タイド」が成立しなくなるまで、かけらもましにならなかった。
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(*11)《大あわての捜索》のおかげで
原文には書かれておらず、単に and that window was narrower by half a turn. とあるだけなので、ここは全く自信のない部分。ただ、前段落の最後で《大あわての捜索》が世に出るまではハイ・タイドは対処可能なデッキだった、と書かれていることと、他に事情らしき説明はないことから、まあそうなのではないかと。
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前編はここまで。5つ紹介したところですが、序文があるのでちょうどこれで半分ぐらいです。
今回は註を途中に入れてみました。diarynote は註へのリンクを張れない(というかまあ、大抵のことはできない)ので、本文が長くなると参照するのがくそめんどくさいんですよね。さいわいデッキごとにパートが切れるのでそこに挟んでみた次第。どっちがいいとかどっちもよくないとかあればコメント欄でお知らせください。
例によって誤訳の指摘や「自分ならこう訳す」といった意見は歓迎します。こちらもコメント欄へお願いします。
コメント
昼休憩の最中に読ましていただいてます
これからも翻訳期待してます
翻訳はやる気が続けばやりますしやる気がなくなったら止めると思います。「期待してます」と言ってもらえると、少しだけやる気が続く可能性が上がる気はします。そう言ってても止める時は止めるので、あまり期待していただかない方がいいとは思いますが……。