翻訳:歴史に残る支配的なデッキ(後編)/ズヴィ・モーショウィッツ
2011年9月22日 翻訳 コメント (7)原文:The Most Dominant Decks Of All Time -- by Zvi Mowshowitz (2011-03-24)
http://www.starcitygames.com/magic/misc/21457_The_Most_Dominant_Decks_Of_All_Time.html
前編はこちら→http://drk2718.diarynote.jp/201109030047489054
トリックス/ミシェル・ブッシュ ―― 初期型(*12),2000 年(エクステンディッド)
メインデッキ:
4 《魔力の櫃/Mana Vault》
4 《Illusions of Grandeur》
4 《ネクロポーテンス/Necropotence》
1 《ブーメラン/Boomerang》
4 《暗黒の儀式/Dark Ritual》
4 《Demonic Consultation》
1 《炎の嵐/Firestorm》
4 《Force of Will》
4 《吸血の教示者/Vampiric Tutor》
4 《寄付/Donate》
4 《強迫/Duress》
4 《Badlands》
1 《真鍮の都/City of Brass》
4 《宝石鉱山/Gemstone Mine》
4 《泥炭の沼地/Peat Bog》
4 《サプラーツォの岩礁/Saprazzan Skerry》
1 《地底の大河/Underground River》
4 《Underground Sea》
(訳注:サイドボード未掲載)
多くの支配的なデッキと違って、「トリックス」は初めてトーナメントリーガルになったプロツアー(*13)では姿を見せなかった。トニー・ドブソンが「ココア・ペブルス」デッキ――《ネクロポーテンス》を使って作られた初めてのトップレベルのコンボデッキで、「フルーティ・ペブルス」デッキに使われていた《永劫の輪廻》《ゴブリンの大砲》、そして《ファイレクシアの歩行機械》のような0マナクリーチャーの3枚コンボに《ネクロポーテンス》を加えたもの――を持ち込んだが、そのプロツアーが終わるとほどなくコンボ部分は《Illusions of Grandeur》と《寄付》に置き換えられた。《ネクロポーテンス》はこれまでも長年もっとも危険なカードドロー・エンジンと見なされてきたが、真の潜在能力はコンボデッキのドローエンジンとして使われた時初めて解放されたのだった。《永劫の輪廻》はカードが3枚必要な上に不完全なコンボエンジンで、《ネクロポーテンス》とも強いシナジーを形成するとは言えないが、それでも人を殺せたし、トップレベルのデッキになるに充分な力があった。3枚コンボが2枚コンボになって、そのうちの1枚は消耗したエンジンを復活させてくれて、2枚とも《Force of Will》で切れる青いカードで、《魔力の櫃》によるマナ加速を最大限に活かせる、とここまで揃えば、他のデッキにできることはなにもなかった。
どのトーナメントにもトリックスはいた。トリックスに入ってる8枚のコンボパーツと1、2枚のパーマネントに対処する保険のカード以外のすべてのカードは《ネクロポーテンス》を唱えるためか通すためのカードだった。メインデッキにすら《強迫》と《Force of Will》が入っていて、《Demonic Consultation》が状況に応じてどちらかを引っ張ってくる、あるいは《ネクロポーテンス》に化けてくれた。対策カードはあるにはあったが、トリックスの基礎部分は妨害カードのかたまりで、どんな戦略のデッキを相手にしても役に立った。そのため、特に同型対決では《寄付》が《寄付》し返される可能性があるため使いづらいカードになることもあって、変形サイドボードは一般的な戦略になっていった。トリックスがリーガルだった時代の最後の頃には、殆どのプレイヤーはどのトーナメントでも一番勝ちに近いのは最強のトリックス使いだと考えるようになっていた。際限なく続くミラーマッチを勝ち抜く自信がないプレイヤーや、勝ち抜ける力はあっても耐えられないと感じるプレイヤーは、トリックス以外のデッキをプレイするようになっていた。マジックは常に勝つ可能性を最大限に高めるゲームじゃない。もっと楽しいものであっていいし、大半の時間は楽しいものであるべきなんだ。
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(*12)初期型
このリストをどこから持ってきたか判らないが、おそらく最初期のものではない。最初期のトリックスは2色で組まれた。赤が足されて3色になるのは翌春のマスターズ・ニューヨークを待たなければならない。
(*13)初めてトーナメントリーガルになったプロツアー
プロツアー・シカゴ 1999 のこと。この時東野将幸が《Illusions of Grandeur》と《寄付》のコンボデッキを持ち込んでいるが、それは青単色で組まれていた。
# その他トリックスに興味のある向きは
http://www5.atpages.jp/rom/?mode=read&key=1281711019&log=0
を読まれたし。自分が書いた記事で、完璧にはほど遠いが、にもかかわらず今ネット上で読めるトリックスに関する文章としてはもっとも網羅的であると思う。これより詳しいものがあればむしろ読んでみたいので教えて欲しい。
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レベル/ウォーレン・マーシュ ―― プロツアー・ニューヨーク:準優勝,2000-04-14~16
メインデッキ:
2 《レイモス教の副長/Ramosian Lieutenant》
3 《レイモス教の兵長/Ramosian Sergeant》
4 《不動の守備兵/Steadfast Guard》
4 《果敢な勇士リン・シヴィー/Lin Sivvi, Defiant Hero》
3 《真理の声/Voice of Truth》
1 《レイモス教の空の元帥/Ramosian Sky Marshal》
1 《ジョーヴァルの女王/Jhovall Queen》
4 《パララクスの波/Parallax Wave》
4 《物語の円/Story Circle》
4 《恭しきマントラ/Reverent Mantra》
2 《解呪/Disenchant》
2 《浄化の印章/Seal of Cleansing》
22 《平地/Plains》
4 《リシャーダの港/Rishadan Port》
サイドボード:
1 《ひずんだレンズ/Distorting Lens》
4 《ヴェクの防衛者/Defender en-Vec》
1 《光をもたらす者/Lightbringer》
1 《夜風の滑空者/Nightwind Glider》
1 《真理の声/Voice of Truth》
1 《浄化の印章/Seal of Cleansing》
2 《解呪/Disenchant》
4 《ぐらつき/Topple》
あらためて考えてみると「レベル(反逆者)」はマジック史上でももっともまずいネーミングだ。レベルたちはなにも変革しない。奴らはどのゲームでも全く同じ動きを見せる。繰り返し繰り返し。お決まりの手順で、一度に一体ずつコントロールするクリーチャーを増やしていく。これは僕が反逆者って言葉を聞いて思い浮かべる概念とは全く違う。だから、シグルド・エシェランドが奴らを本来の牢獄に送り返したとき本当に嬉しかった。レベルはトーナメント全体を完全に支配してた。奴らは環境の 40% 以上を占めてて、2日目でも最多の勢力だった。2日目の朝、僕はジャスティン・ゲーリーに約束の地である《森》や《山》や《沼》について期待をこめて聞いてみた。でもそういう土地はどこにもなかったんだ。
面白かったのは、最高順位って尺度から見れば、レベルはこのプロツアーで一番成功したデッキじゃなくて、その名誉を「《水位の上昇》(ライジング・ウォーターズ)」デッキに譲ってたってことだ。「ライジング・ウォーターズ」はレベルともやりあえたし、環境の他のデッキを全部蹴散らすことができた。トーナメントの最後のほうになると、このふたつ以外のデッキは存在自体が珍しくなっていたが、黒緑だけは辛うじて生き残っていた。しかし黒緑はレベルには強いものの、ライジング・ウォーターズとやりあえる力はなかった。
不幸なことに、反逆者たちの反乱はこの後も長らくスタンダードを舞台に繰り広げられることになってしまう。そしてプロツアー・シカゴ 2000 では、とうとう反逆者同士が決勝で戦うことになってしまった。だが、そのプロツアー自体は、間違いなくまるで違う戦略のデッキが支配していた。
シェヴィ・ファイアーズ(または、もう少し不名誉な名で言えば、「マイ・ファイアーズ」)/ズヴィ・モーショウィッツ ―― プロツアー・シカゴ:7位,2000-12-01~03(スタンダード)
メインデッキ:
4《極楽鳥/Birds of Paradise》
4《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》
4《キマイラ像/Chimeric Idol》
4《ブラストダーム/Blastoderm》
3《翡翠のヒル/Jade Leech》
3《双頭のドラゴン/Two-Headed Dragon》
4《ヤヴィマヤの火/Fires of Yavimaya》
4《はじける子嚢/Saproling Burst》
4《暴行+殴打/Assault+Battery》
1《地震/Earthquake》
10《森/Forest》
5《山/Mountain》
2《黄塵地帯/Dust Bowl》
4《カープルーザンの森/Karplusan Forest》
4《リシャーダの港/Rishadan Port》
サイドボード:
4《カヴーのカメレオン/Kavu Chameleon》
2《もつれ/Tangle》
3《地震/Earthquake》
3《野火/Flashfires》
1《抹消/Obliterate》
2《恭しき沈黙/Reverent Silence》
ランディ・ビューラーがマジック・ザ・ギャザリングの研究開発部に足を踏み入れてから、マジックは〈コンボの冬〉を乗り越えて活気を取り戻しつつあった。ビューラーの最大の失敗は、「盲点」に陥ってしまったことだった。ひとたびウィザーズ社に入社すると、1年間はあっちこっち旅して回る羽目になる。それによってその1年間に刷られたカードについては他のカードよりも馴染みが薄くなる。結果として、それらのカードに関する本来もっと早く気付く筈だったシナジイやコンボに気付くのが遅くなってしまう。この時は、《はじける子嚢》と《ヤヴィマヤの火》を組み合わせるとどうなるのか誰も気付いていなかった。このあまりに強力な組み合わせは“結合”(*14)と呼ばれることになった。
どちらのカードも伝統的な赤緑デッキの戦略に合っているものの、そういうデッキには普通単体ではどちらのカードも入らない。ところが“結合”は「ファイアーズ」デッキのクリーチャーに速攻を持たせると同時に、1枚のカードから複数の大型クリーチャーを生成する能力をもたらした。これによって全体除去を持つ相手にも特に失うものもなくダメージを叩き出せるようになり、他のカードにはできないような予想外の角度から攻撃を仕掛けて勝利をもぎとることができるようになっていった。ひとたび“結合”が完成したら、大抵の場合対戦相手は速やかに死ぬ。これは比較的相性が悪いデッキ相手にすら通用するし、対戦相手をサイドボード後に地獄に突き落とすことができることもある。こっちはその気になればアーティファクトとエンチャントを全抜きして相手の(アーティファクト/エンチャント)除去を役立たずにさせることができるから、相手は“結合”に対するサイドボードを無条件で入れることができないんだ。
このデッキの僕が使ったヴァージョンは、カード一枚一枚にいたるまで細かに説明した“マイ・ファイアーズ”(*15)という7つものパートに分かれた僕のコラムとともに、未だにある種の汚名とともに語られている。この無残で悲惨な失敗のおかげで、僕はどういう要素がマジックに関する記事をいいものにするのか、あるいは人気のあるものにするのかを考え直さざるを得なくなった。結論としては、ひとつのものをあんまり多くの部分に分割しちゃいけないってことだ。もし全く同じ記事を前後編で投稿していたら、多分素晴らしいって評価を受けてたと思う。でもああいう風にしちゃったから、一種のジョークになってしまった。
このヴァージョンはプロツアー・シカゴの中でも最良のデッキだった。僕はこの後サイドボードを少しいじっただけで、メインは全く同じ構成のまま、第2回ボストン vs. ニューヨーク・グラッジ・マッチ(*16)を勝つことができた。
シカゴでは優勝できなかったにもかかわらず、「ファイアーズ」はスタンダードを支配し、あらゆるデッキはファイアーズを意識して組まれるようになった。《はじける子嚢》がスタンダードから落ちるまで、ファイアーズは環境の最多数派であり続けた。ファイアーズは弱点も多いデッキで、特に青白コントロールは苦手としていたが、完膚なきまで叩きのめされることもまたなかった。色々な意味でこのデッキは支配的なデッキの理想の形だったと思う。組むのにお金がかかりすぎないし、本当のマジックをプレイできるし、倒そうと思えば普通に倒すことができる。ミラーマッチも多くのプレイヤーが気づいていたよりずっとプレイングの腕を問われるものだった。“結合”をいつも気にしてなきゃならないのはちょっとストレスだったけど、それでも僕が思うにファイアーズのせいでマジックを嫌いになった人は殆ど居なかったんじゃないかと思う。過去の「ハイ・タイド」や「アカデミー」、あるいは後の「親和」がやらかしたようには。
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(*14)“結合”
原文では "The Fix"。実に訳しづらい言葉で、辞書に出ているどの意味を選んでもぴんと来ない。一応「結合」としておいたが、fix には結合という意味はない。
(*15)“マイ・ファイアーズ”
そのまま "My Fires"。ここに書かれている通り、ズヴィがサイドボード・オンラインに投稿したこのデッキの解説記事。採用しなかったカードにまで事細かに触れたパラノイア的な長文記事だったがくそ面白かった。「デュエリスト・ジャパン」誌にも日本語訳が掲載されていて(vol.14 辺りだったと思う。訳されていたのはパート4まで)、当時夢中になって何度も読んだ憶えがある。ズヴィの真骨頂の記事だ、と認識していたので、この記事を読むまでそこまで評価が低いとも知らなかったし、この本人の殆ど卑屈な文章を見てちょっと悲しくなってしまった。少なくともおれは一連の記事を失敗だとは思っていないし、デッキ自体もズヴィの代表作のひとつだと思っている。多くの日本人は似たような感想を持っているのではないだろうか。
なお、原文では記事にリンクが張ってあるが、diarynote ではもちろんできないのでここに置いておく。
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20001215a
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20001219a
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20001227a
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20010103a
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20010110a
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20010116a
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20010124b
(*16)ボストン vs. ニューヨーク・グラッジ・マッチ
ボストンのショップ Your Move Games とニューヨークのショップ Neutral Grounds が年2回のペースで行っていた対抗戦。各店舗で予選のシリーズを行い、それぞれの優勝者同士で決勝戦を行う。決勝戦のフォーマットが面白くて、スタンダードのデッキを3つずつ用意してそれぞれを1回ずつ使って3試合行うのだが、同一のカードは3つのデッキを合わせて4枚までしか使えないという制限があった。まあそういう制限ないと3つデッキ作る意味がなくなっちゃうんだけど。
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スタンダード・ティンカー/ジョン・フィンケル ―― 世界選手権於ブリュッセル:優勝,2000-08-02~06
メインデッキ:
1 《崩れゆく聖域/Crumbling Sanctuary》
4 《厳かなモノリス/Grim Monolith》
1 《ミシュラのらせん/Mishra’s Helix》
4 《ファイレクシアの処理装置/Phyrexian Processor》
4 《からみつく鉄線/Tangle Wire》
4 《スランの発電機/Thran Dynamo》
4 《通電式キー/Voltaic Key》
4 《マスティコア/Masticore》
4 《金属細工師/Metalworker》
1 《ファイレクシアの巨像/Phyrexian Colossus》
4 《渦まく知識/Brainstorm》
4 《修繕/Tinker》
9 《島/Island》
4 《水晶鉱脈/Crystal Vein》
4 《リシャーダの港/Rishadan Port》
4 《サプラーツォの岩礁/Saprazzan Skerry》
サイドボード:
1 《ミシュラのらせん/Mishra’s Helix》
4 《寒け/Chill》
2 《水位の上昇/Rising Waters》
4 《無効/Annul》
4 《誤算/Miscalculation》
ジョージ・W・ボッシュ(ティンカー)/リカルド・オステルベリィ ―― プロツアー・ニューオーリンズ:優勝,2003-10-31~11-02
メインデッキ:
2 《彩色の宝球/Chromatic Sphere》
1 《シタヌールのフルート/Citanul Flute》
1 《金粉の水蓮/Gilded Lotus》
4 《厳かなモノリス/Grim Monolith》
3 《稲妻のすね当て/Lightning Greaves》
4 《からみつく鉄線/Tangle Wire》
3 《通電式キー/Voltaic Key》
1 《マスティコア/Masticore》
4 《金属細工師/Metalworker》
1 《ペンタバス/Pentavus》
1 《白金の天使/Platinum Angel》
4 《ゴブリンの溶接工/Goblin Welder》
4 《知識の渇望/Thirst For Knowledge》
1 《精神隷属器/Mindslaver》
1 《鉄のゴーレム、ボッシュ/Bosh, Iron Golem》
4 《修繕/Tinker》
2 《大焼炉/Great Furnace》
4 《教議会の座席/Seat of the Synod》
4 《古えの墳墓/Ancient Tomb》
3 《真鍮の都/City of Brass》
4 《裏切り者の都/City of Traitors》
4 《シヴの浅瀬/Shivan Reef》
サイドボード:
3 《防御の光網/Defense Grid》
4 《溶接の壺/Welding Jar》
1 《エルフの模造品/Elf Replica》
1 《トリスケリオン/Triskelion》
3 《荒残/Rack and Ruin》
2 《破壊的脈動/Shattering Pulse》
1 《精神隷属器/Mindslaver》
《修繕》は、刷られた当初は影が薄かった。当時は〈コンボの冬〉の最中で、みんなアーティファクトをいじって遊ぶのに忙しかった。
最初に「ティンカー」デッキがブレイクしたのはウルザ・ブロック構築のプロツアーで、トップ8のうち6人を占めた。エクステンディッドでは当初は二種類のアプローチが試されていて、ひとつは「スーサイド・ブラウン」、もうひとつは「アイアン・ジャイアント」と呼ばれていた。スーサイド・ブラウンはスタンダードでの構築をベースにしていて、やはり最強のアーティファクト戦略を目指すデッキだった。つまり《ファイレクシアの処理装置》を可能な限り早く場に出して、巨人を降臨させる。たった4マナで起動できる《処理装置》が回り出せば殆どのデッキにはどうすることもできない。《崩れゆく聖域》は《処理装置》で支払ったライフを事実上なかったことにしてくれるし、《処理装置》がゲームを支配するまでの時間を稼いでくれる。ジョン・フィンケルとボブ・マーハーが世界選手権の決勝で実質的なミラーマッチを戦ったのは、まさしくこのデッキが環境を支配していたからだった。ボブ・マーハーの「ティンカー」には、その後マスターズ優勝という戦績も加わることになった。
《修繕》を悪用しようと思ったら、まず思いつくのができるだけマナ・コストの高いアーティファクトを探してきてそのコストを踏み倒そうとすることだが、実際のところこのやり方だと《修繕》は大して強くない。コストの高いアーティファクトは基本的に弱いからだ。一番ましなのが《白金の天使》だが、それだって対処が難しいカードじゃない。《修繕》が強いのは、《ファイレクシアの処理装置》や《スランの発電機》を出せるだけで充分以上な効果なのに、ひとたびそれらのカードが場に出てしまえば、1、2枚のカードの損は殆ど問題にならないからだ。それに加えてライブラリーから好きなカードを探し出せる能力があって、コストには余った無色のマナソースをあてることができる。
後に「ティンカー」がエクステンディッド環境を支配したときには、このデッキは大量のマナを稼ぐ手段とそのマナを勝利に結びつける手段をそれぞれ何通りも持ち合わせていた。このデッキがマナを大量生産することを止めるのは不可能で、ひとたびマナを生産されてしまったら、素早くエンドカードが飛び出してくる。あまりにも脅威が早すぎるため、どんなデッキも有効な回答は用意できなかった。逆に「ティンカー」はたとえ防御側に回っても、相手の攻撃を押しとどめるアーティファクトをサーチする手段を複数持っていた。
プロツアー・ニューオーリーンズでは、環境全体としては伝統的なティンカーに支配されていたが、勝利を収めたのは先進的な構成のリカルド・オステルベリィのデッキだった。彼のデッキがやってのけたことは、僕たちのチームがテストしてみようとすら思いつかなかったことだった。
ここまでは初期のミラディンの力の片鱗にすぎない。この後事態はずっとずっと悪くなっていく。
薬瓶親和/イェルガー・ヴィーガーズマ プロツアー・神戸:4位,2004-02-27~29(ミラディン・ブロック構築)
メインデッキ:
4《霊気の薬瓶/Aether Vial》
2《彩色の宝球/Chromatic Sphere》
4《頭蓋骨絞め/Skullclamp》
1《威圧のタリスマン/Talisman of Dominance》
4《電結の荒廃者/Arcbound Ravager》
4《電結の働き手/Arcbound Worker》
4《金属ガエル/Frogmite》
4《マイアの処罰者/Myr Enforcer》
3《マイアの回収者/Myr Retriever》
3《羽ばたき飛行機械/Ornithopter》
4《大霊堂の信奉者/Disciple of the Vault》
4《物読み/Thoughtcast》
4《ダークスティールの城塞/Darksteel Citadel》
2《大焼炉/Great Furnace》
4《教議会の座席/Seat of the Synod》
4《囁きの大霊堂/Vault of Whispers》
4《ちらつき蛾の生息地/Blinkmoth Nexus》
1《空僻地/Glimmervoid》
サイドボード:
3《起源室/Genesis Chamber》
1《マイアの回収者/Myr Retriever》
1《炉のドラゴン/Furnace Dragon》
4《静電気の稲妻/Electrostatic Bolt》
3《恐怖/Terror》
1《大焼炉/Great Furnace》
2《空僻地/Glimmervoid》
ぶっ壊れたアーティファクトの雪崩の真最中に、ひとりの男が《霊気の薬瓶》が転がり落ちてくるのを見た。僕はこんなカードがあっていいのか疑いながら(*17)も、セットのベスト10にこのカードを入れて、細部は大きく違うものの、この明らかにこれまでのものとは力が違う、新しいヴァージョンの「親和」デッキを作り組み上げた。プレイヤーはいずれにしてもこのデッキの強さに気付いたことだろう。ブロック構築のプロツアーでの「親和」のパフォーマンスは思わしくなかったが、これはマジックの歴史には時々現れる現象の一例だった。すなわち、その環境初のプレミアイベントで、プレイヤーたちがよってたかってひとつのデッキの対策のためにリソースを注ぎ込んだ結果、そのデッキは本来持つ力よりはるかに低い能力しか発揮できない、という現象である。そうなった原因は、この環境では全くアーティファクトをデッキに入れないことが難しく、したがってアーティファクト対策が裏目に出ることが少ないことにあった。
時が経つと、状況は悪化していった。ブロック構築のトーナメントは完全に親和に支配され、スタンダードでも同様だった。ウィザーズ社は《頭蓋骨締め》のみならず《大霊堂の信奉者》とアーティファクトランド全てを禁止にして、親和が本当に完全に死に絶えるようにせざるを得なくなった。確かに目論見通り親和は死んだ。だが、その時にはすでに深い傷跡が刻まれたあとだった。多くのプレイヤーがマジックを去るか、あるいは数ヶ月間潜伏することを選んでいて、僕もそのひとりだった。誰もわかりきった壁にぶちあたって死ぬ毎回理不尽に負けることを望んではいなかったし、際限なく続く親和同士のミラーマッチで退屈とストレスを味わい続けたくもなかったからだ。(*18)
今やマジックは復活し、往時より強固な立場を築いているが、しかし親和の君臨はマジックのもっとも根本的な失敗だったといえるだろう。たったひとつのデッキが全員を不幸にしていたのに、あまりにも長い期間存続が許されていたのだ。
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(*17)僕はこんなカードがあっていいのか疑いながら
自信なし。ちょっと長めに引用してみる。この注の部分は青字。
Amidst an avalanche of broken artifacts, one man saw Aether Vial coming. I doubt my noticing it, putting it in my top ten of the set, and building this version of Affinity made that much difference.
最初さらっと見て「僕はこれに気付いていたかどうか憶えていないんだけど」というような意味かと思ったのだが、その後のトップ 10 に入れたというのと整合しない。あと分詞構文って割と何気なく訳しちゃうけど突き詰めると正しいかどうか自信なくなってくるな。
(*18)誰もわかりきった壁にぶちあたって死ぬことを望んではいなかったし、際限なく続く親和同士のミラーマッチで退屈とストレスを味わい続けたくもなかったからだ。
今週のどハマリ。前半部分が本当にわからない。
No one wanted to face dying out of nowhere on a consistent basis or the tedium and frustration of endless Affinity mirrors.
「out of nowhere」は成句で「突然」「だしぬけに」なんだけどぴんと来ない。「consistent basis」は「首尾一貫した基礎」だけど、それもなにを指しているのかわからない。後半はどうってことないのだが。
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フェアリー/パウロ・ヴィトフ・ダモ・ダ・ホサ ―― プロツアー・ハリウッド:8位,2008-05-23~25
メインデッキ:
4 《霧縛りの徒党/Mistbind Clique》
4 《ウーナの末裔/Scion of Oona》
4 《呪文づまりのスプライト/Spellstutter Sprite》
4 《謎めいた命令/Cryptic Command》
4 《ルーンのほつれ/Rune Snag》
4 《恐怖/Terror》
3 《ヴェンディリオン三人衆/Vendilion Clique》
4 《祖先の幻視/Ancestral Vision》
4 《苦花/Bitterblossom》
4 《島/Island》
2 《フェアリーの集会場/Faerie Conclave》
4 《変わり谷/Mutavault》
3 《涙の川/River of Tears》
4 《人里離れた谷間/Secluded Glen》
2 《沈んだ廃墟/Sunken Ruins》
4 《地底の大河/Underground River》
2 《ペンデルヘイヴン/Pendelhaven》
サイドボード:
3 《ボトルのノーム/Bottle Gnomes》
3 《剃刀毛のマスティコア/Razormane Masticore》
2 《残忍なレッドキャップ/Murderous Redcap》
3 《滅び/Damnation》
4 《思考囲い/Thoughtseize》
《苦花》が刷られる前ですら「フェアリー」デッキは有力なデッキだったが、《苦花》のおかげでこのデッキは他のデッキでは手の届かないレベルに達した。《苦花》さえ場に出てしまえば「フェアリー」は殆ど負けようがないし、場に出なかったとしてもそれなりのクリーチャーデッキとして戦える。「フェアリー」はどんな展開でもうまく戦うことができて、しばしば予想外の動きをし、対戦相手のあらゆる小さなミスを逃さずとがめたてることができる。
ゆっくりと、だが確実に少しずつ少しずつプレイヤーたちはダークサイドに堕ちていき、少しずつ少しずつミラーマッチが増え、それはしばしば一方だけが場に出した《苦花》で勝敗が決した。こうなるとフェアリーの優位性は薄れ、数多くのデッキの中のひとつという位置づけになったが、それでもこのデッキの柔軟性とパワーのおかげでトーナメントでの使用率は3割前後程度の数字を保ち、常に平均以上の成績を叩き出した。ブロック構築、スタンダード、エクステンディッドと、フォーマットやカードプールは変わっても、「フェアリー」はその翼を広げ続け、デッキは本質的な部分ではずっと変わらなかった。このデッキに数え切れないほどの時間を注ぎ込んだプレイヤーたちは、使うデッキを変えようとはせず、自分たちの経験に基づいて微調整を施すことで、不利な環境や対戦相手にも備えられると信じていた。サム・ブラックはこの点で悪名高く、何度も何度も新作のデッキをプレイするのだと喧伝していたが、誰も彼には耳を貸さなかった。今日に至るまで、みんなが彼の言うことに耳を貸すだろうということを彼に納得させることは難しい。
「フェアリー」が嫌になってしまうのは決して姿を消してくれなかったことだ。このデッキを倒す簡単な方法は存在しなかった(とにかく柔軟性が非常に高いからだ)し、他にどんなカードが刷られようとも「フェアリー」デッキの基礎自体は全然変わらない。ある年の世界選手権に僕が初期のフェアリーを持ち込んだことがあったんだけど、研究開発部の連中が何のデッキを使ってるのか訊いてきた。フェアリーだってわかると、誰がデザインしたんだって訊いてきたもんだから、僕は連中を見渡しながらもったいぶって考え込んで、アーロン・フォーサイス(*19)を指さしてやった。僕は正しかった。
このデッキは一度や二度なら楽しい。でも同じカードを使っておんなじことを繰り返し繰り返しやってると、あっという間にくたびれ果ててしまう。もし「親和」がどんなコストを払ってもなんとしても避けなければならない災害型の失敗だったとしたら、「フェアリー」はもっと潜伏期間の長い疫病のようなものだ。決して物事をひどく悪くし過ぎることはなかったから、僕たちはただ座ってうんざりしていることしかできなかった。僕は《苦花》を禁止にしろという人全員に同情したけど、内心ではそんなことは決してできっこないと知っていた。
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(*19)アーロン・フォーサイス
Aaron Forsythe。チーム CMU(前編の(*8)参照)で活躍した後にウィザーズ社入り。いくつかのセットのデザイナーを勤めた後、研究開発部のディレクターとなった。ローウィンではリード・デザイナーをつとめているので、ズヴィの指摘はあながち冗談とも言い切れない。
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ソプター・デプス/ジェリー・トンプソン ―― マジック・オンライン・プロツアー予選:優勝,2010-01-17
メインデッキ:
4 《金属モックス/Chrome Mox》
1 《仕組まれた爆薬/Engineered Explosives》
2 《弱者の剣/Sword of the Meek》
3 《飛行機械の鋳造所/Thopter Foundry》
4 《闇の腹心/Dark Confidant》
4 《吸血鬼の呪詛術士/Vampire Hexmage》
1 《破滅の刃/Doom Blade》
1 《乱動への突入/Into the Roil》
4 《交錯の混乱/Muddle the Mixture》
1 《殺戮の契約/Slaughter Pact》
4 《渇き/Thirst》 For Knowledge
3 《女王への懇願/Beseech the Queen》
4 《思考囲い/Thoughtseize》
2 《島/Island》
2 《沼/Swamp》
4 《涙の川/River of Tears》
4 《沈んだ廃墟/Sunken Ruins》
3 《トレイリア西部/Tolaria West》
1 《アカデミーの廃墟/Academy Ruins》
4 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ/Urborg, Tomb of Yawgmoth》
4 《暗黒の深部/Dark Depths》
サイドボード:
1 《虚空の杯/Chalice of the Void》
1 《弱者の剣/Sword of the Meek》
1 《飛行機械の鋳造所/Thopter Foundry》
1 《トーモッドの墓所/Tormod’s Crypt》
3 《根絶/Extirpate》
1 《ハーキルの召還術/Hurkyl’s Recall》
3 《死の印/Deathmark》
3 《強迫/Duress》
1 《幽霊街/Ghost Quarter》
ソプター・デプス(以下 TTD)は、ゆっくりと締めあげるようにエクステンディッドを支配し、環境から締め出されるまでその死の手を離さなかった。つまり、《暗黒の深部》がローテイトアウトして、《弱者の剣》が禁止されるまで。TTD の対戦相手は決して何が起きているかを知ることはなかった。不幸にも何が起きるかを正確に知ったときには、二種類のコンボに全く違った角度から攻めたてられている。もしマリット・レイジや《暗黒の深部》に対処できるカードを入れていても、《飛行機械の鋳造所》の前では何の役にも立たないし、《飛行機械の鋳造所》への回答を握りしめていても、《暗黒の深部》を止めることはできない。さらに TTD は相手の手札を《思考囲い》や《強迫》でのぞき込んできて、《闇の腹心》で第3の角度からアドヴァンテージを稼ぎにかかり、それらをどう組み合わせれば相手が対処できないかを経験から知っている。このデッキには本当にたくさんできることがあって、大抵の問題にも様々なカードをサーチする能力を使って対処することができる。
ソプター・デプスは他の著名なデッキができなかったことを成し遂げている。すなわち、対戦相手はこのデッキを目の敵にしながらも、どうやったら勝てるのかが全くわからないのだ。誰ひとりとして、TTD に対抗できてかつ有効な脅威を突きつけることのできるデッキを、半分も完成させることができていない。もし勝つ手段を見つけられたとしても、あまりにも多くの妨害が待っているし、デッキの力の差は歴然としている。シーズンの終了までに、エクステンディッドのトップクラスプレイヤーたちはみな肩をすくめて TTD への回答を見つけるのを諦め、ミラーマッチでの戦い方を究めることに集中しはじめていた。
他のフォーマットには派生しなかったことと、あまり長く存続したデッキではなかったことで、TTD は過去の先達たちのような汚名は着せられずに済んだが、これ以上の実績を残せるデッキはちょっと考えづらい。まさに“倒せるものなら倒してみろ”と言わんばかりのデッキであり、その挑発に対して世界は全き沈黙で応じるしかなかった。
それこそが、僕にとっての、真の支配だ。
最初の候補一覧を作り、その中から最終的な 11 のデッキを選ぶのにも協力してくれたジョン・デイル・ビーティに感謝したい。
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というわけで後編でした。随分かかったと思ったけどまだ三週間経ってないのだから悲観したものでもないですね。しかしどういうわけか後編の方が難しくて、時間がかかってしまいました。
註については特にコメントもありませんでしたし引き続き途中に挟んでいます。少なくとも書いている方としてはこの方が楽なので。
例によって誤訳の指摘や「自分ならこう訳す」といった意見は歓迎します。今回特に難しかったのでお知恵を拝借できると有難いです。コメント欄へお願いします。
ちょっとモティヴェイションが落ちてきたので、次に何をやるかは悩みどころです。
http://www.starcitygames.com/magic/misc/21457_The_Most_Dominant_Decks_Of_All_Time.html
前編はこちら→http://drk2718.diarynote.jp/201109030047489054
トリックス/ミシェル・ブッシュ ―― 初期型(*12),2000 年(エクステンディッド)
メインデッキ:
4 《魔力の櫃/Mana Vault》
4 《Illusions of Grandeur》
4 《ネクロポーテンス/Necropotence》
1 《ブーメラン/Boomerang》
4 《暗黒の儀式/Dark Ritual》
4 《Demonic Consultation》
1 《炎の嵐/Firestorm》
4 《Force of Will》
4 《吸血の教示者/Vampiric Tutor》
4 《寄付/Donate》
4 《強迫/Duress》
4 《Badlands》
1 《真鍮の都/City of Brass》
4 《宝石鉱山/Gemstone Mine》
4 《泥炭の沼地/Peat Bog》
4 《サプラーツォの岩礁/Saprazzan Skerry》
1 《地底の大河/Underground River》
4 《Underground Sea》
(訳注:サイドボード未掲載)
多くの支配的なデッキと違って、「トリックス」は初めてトーナメントリーガルになったプロツアー(*13)では姿を見せなかった。トニー・ドブソンが「ココア・ペブルス」デッキ――《ネクロポーテンス》を使って作られた初めてのトップレベルのコンボデッキで、「フルーティ・ペブルス」デッキに使われていた《永劫の輪廻》《ゴブリンの大砲》、そして《ファイレクシアの歩行機械》のような0マナクリーチャーの3枚コンボに《ネクロポーテンス》を加えたもの――を持ち込んだが、そのプロツアーが終わるとほどなくコンボ部分は《Illusions of Grandeur》と《寄付》に置き換えられた。《ネクロポーテンス》はこれまでも長年もっとも危険なカードドロー・エンジンと見なされてきたが、真の潜在能力はコンボデッキのドローエンジンとして使われた時初めて解放されたのだった。《永劫の輪廻》はカードが3枚必要な上に不完全なコンボエンジンで、《ネクロポーテンス》とも強いシナジーを形成するとは言えないが、それでも人を殺せたし、トップレベルのデッキになるに充分な力があった。3枚コンボが2枚コンボになって、そのうちの1枚は消耗したエンジンを復活させてくれて、2枚とも《Force of Will》で切れる青いカードで、《魔力の櫃》によるマナ加速を最大限に活かせる、とここまで揃えば、他のデッキにできることはなにもなかった。
どのトーナメントにもトリックスはいた。トリックスに入ってる8枚のコンボパーツと1、2枚のパーマネントに対処する保険のカード以外のすべてのカードは《ネクロポーテンス》を唱えるためか通すためのカードだった。メインデッキにすら《強迫》と《Force of Will》が入っていて、《Demonic Consultation》が状況に応じてどちらかを引っ張ってくる、あるいは《ネクロポーテンス》に化けてくれた。対策カードはあるにはあったが、トリックスの基礎部分は妨害カードのかたまりで、どんな戦略のデッキを相手にしても役に立った。そのため、特に同型対決では《寄付》が《寄付》し返される可能性があるため使いづらいカードになることもあって、変形サイドボードは一般的な戦略になっていった。トリックスがリーガルだった時代の最後の頃には、殆どのプレイヤーはどのトーナメントでも一番勝ちに近いのは最強のトリックス使いだと考えるようになっていた。際限なく続くミラーマッチを勝ち抜く自信がないプレイヤーや、勝ち抜ける力はあっても耐えられないと感じるプレイヤーは、トリックス以外のデッキをプレイするようになっていた。マジックは常に勝つ可能性を最大限に高めるゲームじゃない。もっと楽しいものであっていいし、大半の時間は楽しいものであるべきなんだ。
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(*12)初期型
このリストをどこから持ってきたか判らないが、おそらく最初期のものではない。最初期のトリックスは2色で組まれた。赤が足されて3色になるのは翌春のマスターズ・ニューヨークを待たなければならない。
(*13)初めてトーナメントリーガルになったプロツアー
プロツアー・シカゴ 1999 のこと。この時東野将幸が《Illusions of Grandeur》と《寄付》のコンボデッキを持ち込んでいるが、それは青単色で組まれていた。
# その他トリックスに興味のある向きは
http://www5.atpages.jp/rom/?mode=read&key=1281711019&log=0
を読まれたし。自分が書いた記事で、完璧にはほど遠いが、にもかかわらず今ネット上で読めるトリックスに関する文章としてはもっとも網羅的であると思う。これより詳しいものがあればむしろ読んでみたいので教えて欲しい。
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レベル/ウォーレン・マーシュ ―― プロツアー・ニューヨーク:準優勝,2000-04-14~16
メインデッキ:
2 《レイモス教の副長/Ramosian Lieutenant》
3 《レイモス教の兵長/Ramosian Sergeant》
4 《不動の守備兵/Steadfast Guard》
4 《果敢な勇士リン・シヴィー/Lin Sivvi, Defiant Hero》
3 《真理の声/Voice of Truth》
1 《レイモス教の空の元帥/Ramosian Sky Marshal》
1 《ジョーヴァルの女王/Jhovall Queen》
4 《パララクスの波/Parallax Wave》
4 《物語の円/Story Circle》
4 《恭しきマントラ/Reverent Mantra》
2 《解呪/Disenchant》
2 《浄化の印章/Seal of Cleansing》
22 《平地/Plains》
4 《リシャーダの港/Rishadan Port》
サイドボード:
1 《ひずんだレンズ/Distorting Lens》
4 《ヴェクの防衛者/Defender en-Vec》
1 《光をもたらす者/Lightbringer》
1 《夜風の滑空者/Nightwind Glider》
1 《真理の声/Voice of Truth》
1 《浄化の印章/Seal of Cleansing》
2 《解呪/Disenchant》
4 《ぐらつき/Topple》
あらためて考えてみると「レベル(反逆者)」はマジック史上でももっともまずいネーミングだ。レベルたちはなにも変革しない。奴らはどのゲームでも全く同じ動きを見せる。繰り返し繰り返し。お決まりの手順で、一度に一体ずつコントロールするクリーチャーを増やしていく。これは僕が反逆者って言葉を聞いて思い浮かべる概念とは全く違う。だから、シグルド・エシェランドが奴らを本来の牢獄に送り返したとき本当に嬉しかった。レベルはトーナメント全体を完全に支配してた。奴らは環境の 40% 以上を占めてて、2日目でも最多の勢力だった。2日目の朝、僕はジャスティン・ゲーリーに約束の地である《森》や《山》や《沼》について期待をこめて聞いてみた。でもそういう土地はどこにもなかったんだ。
面白かったのは、最高順位って尺度から見れば、レベルはこのプロツアーで一番成功したデッキじゃなくて、その名誉を「《水位の上昇》(ライジング・ウォーターズ)」デッキに譲ってたってことだ。「ライジング・ウォーターズ」はレベルともやりあえたし、環境の他のデッキを全部蹴散らすことができた。トーナメントの最後のほうになると、このふたつ以外のデッキは存在自体が珍しくなっていたが、黒緑だけは辛うじて生き残っていた。しかし黒緑はレベルには強いものの、ライジング・ウォーターズとやりあえる力はなかった。
不幸なことに、反逆者たちの反乱はこの後も長らくスタンダードを舞台に繰り広げられることになってしまう。そしてプロツアー・シカゴ 2000 では、とうとう反逆者同士が決勝で戦うことになってしまった。だが、そのプロツアー自体は、間違いなくまるで違う戦略のデッキが支配していた。
シェヴィ・ファイアーズ(または、もう少し不名誉な名で言えば、「マイ・ファイアーズ」)/ズヴィ・モーショウィッツ ―― プロツアー・シカゴ:7位,2000-12-01~03(スタンダード)
メインデッキ:
4《極楽鳥/Birds of Paradise》
4《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》
4《キマイラ像/Chimeric Idol》
4《ブラストダーム/Blastoderm》
3《翡翠のヒル/Jade Leech》
3《双頭のドラゴン/Two-Headed Dragon》
4《ヤヴィマヤの火/Fires of Yavimaya》
4《はじける子嚢/Saproling Burst》
4《暴行+殴打/Assault+Battery》
1《地震/Earthquake》
10《森/Forest》
5《山/Mountain》
2《黄塵地帯/Dust Bowl》
4《カープルーザンの森/Karplusan Forest》
4《リシャーダの港/Rishadan Port》
サイドボード:
4《カヴーのカメレオン/Kavu Chameleon》
2《もつれ/Tangle》
3《地震/Earthquake》
3《野火/Flashfires》
1《抹消/Obliterate》
2《恭しき沈黙/Reverent Silence》
ランディ・ビューラーがマジック・ザ・ギャザリングの研究開発部に足を踏み入れてから、マジックは〈コンボの冬〉を乗り越えて活気を取り戻しつつあった。ビューラーの最大の失敗は、「盲点」に陥ってしまったことだった。ひとたびウィザーズ社に入社すると、1年間はあっちこっち旅して回る羽目になる。それによってその1年間に刷られたカードについては他のカードよりも馴染みが薄くなる。結果として、それらのカードに関する本来もっと早く気付く筈だったシナジイやコンボに気付くのが遅くなってしまう。この時は、《はじける子嚢》と《ヤヴィマヤの火》を組み合わせるとどうなるのか誰も気付いていなかった。このあまりに強力な組み合わせは“結合”(*14)と呼ばれることになった。
どちらのカードも伝統的な赤緑デッキの戦略に合っているものの、そういうデッキには普通単体ではどちらのカードも入らない。ところが“結合”は「ファイアーズ」デッキのクリーチャーに速攻を持たせると同時に、1枚のカードから複数の大型クリーチャーを生成する能力をもたらした。これによって全体除去を持つ相手にも特に失うものもなくダメージを叩き出せるようになり、他のカードにはできないような予想外の角度から攻撃を仕掛けて勝利をもぎとることができるようになっていった。ひとたび“結合”が完成したら、大抵の場合対戦相手は速やかに死ぬ。これは比較的相性が悪いデッキ相手にすら通用するし、対戦相手をサイドボード後に地獄に突き落とすことができることもある。こっちはその気になればアーティファクトとエンチャントを全抜きして相手の(アーティファクト/エンチャント)除去を役立たずにさせることができるから、相手は“結合”に対するサイドボードを無条件で入れることができないんだ。
このデッキの僕が使ったヴァージョンは、カード一枚一枚にいたるまで細かに説明した“マイ・ファイアーズ”(*15)という7つものパートに分かれた僕のコラムとともに、未だにある種の汚名とともに語られている。この無残で悲惨な失敗のおかげで、僕はどういう要素がマジックに関する記事をいいものにするのか、あるいは人気のあるものにするのかを考え直さざるを得なくなった。結論としては、ひとつのものをあんまり多くの部分に分割しちゃいけないってことだ。もし全く同じ記事を前後編で投稿していたら、多分素晴らしいって評価を受けてたと思う。でもああいう風にしちゃったから、一種のジョークになってしまった。
このヴァージョンはプロツアー・シカゴの中でも最良のデッキだった。僕はこの後サイドボードを少しいじっただけで、メインは全く同じ構成のまま、第2回ボストン vs. ニューヨーク・グラッジ・マッチ(*16)を勝つことができた。
シカゴでは優勝できなかったにもかかわらず、「ファイアーズ」はスタンダードを支配し、あらゆるデッキはファイアーズを意識して組まれるようになった。《はじける子嚢》がスタンダードから落ちるまで、ファイアーズは環境の最多数派であり続けた。ファイアーズは弱点も多いデッキで、特に青白コントロールは苦手としていたが、完膚なきまで叩きのめされることもまたなかった。色々な意味でこのデッキは支配的なデッキの理想の形だったと思う。組むのにお金がかかりすぎないし、本当のマジックをプレイできるし、倒そうと思えば普通に倒すことができる。ミラーマッチも多くのプレイヤーが気づいていたよりずっとプレイングの腕を問われるものだった。“結合”をいつも気にしてなきゃならないのはちょっとストレスだったけど、それでも僕が思うにファイアーズのせいでマジックを嫌いになった人は殆ど居なかったんじゃないかと思う。過去の「ハイ・タイド」や「アカデミー」、あるいは後の「親和」がやらかしたようには。
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(*14)“結合”
原文では "The Fix"。実に訳しづらい言葉で、辞書に出ているどの意味を選んでもぴんと来ない。一応「結合」としておいたが、fix には結合という意味はない。
(*15)“マイ・ファイアーズ”
そのまま "My Fires"。ここに書かれている通り、ズヴィがサイドボード・オンラインに投稿したこのデッキの解説記事。採用しなかったカードにまで事細かに触れたパラノイア的な長文記事だったがくそ面白かった。「デュエリスト・ジャパン」誌にも日本語訳が掲載されていて(vol.14 辺りだったと思う。訳されていたのはパート4まで)、当時夢中になって何度も読んだ憶えがある。ズヴィの真骨頂の記事だ、と認識していたので、この記事を読むまでそこまで評価が低いとも知らなかったし、この本人の殆ど卑屈な文章を見てちょっと悲しくなってしまった。少なくともおれは一連の記事を失敗だとは思っていないし、デッキ自体もズヴィの代表作のひとつだと思っている。多くの日本人は似たような感想を持っているのではないだろうか。
なお、原文では記事にリンクが張ってあるが、diarynote ではもちろんできないのでここに置いておく。
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20001215a
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20001219a
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20001227a
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20010103a
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20010110a
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20010116a
http://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20010124b
(*16)ボストン vs. ニューヨーク・グラッジ・マッチ
ボストンのショップ Your Move Games とニューヨークのショップ Neutral Grounds が年2回のペースで行っていた対抗戦。各店舗で予選のシリーズを行い、それぞれの優勝者同士で決勝戦を行う。決勝戦のフォーマットが面白くて、スタンダードのデッキを3つずつ用意してそれぞれを1回ずつ使って3試合行うのだが、同一のカードは3つのデッキを合わせて4枚までしか使えないという制限があった。まあそういう制限ないと3つデッキ作る意味がなくなっちゃうんだけど。
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スタンダード・ティンカー/ジョン・フィンケル ―― 世界選手権於ブリュッセル:優勝,2000-08-02~06
メインデッキ:
1 《崩れゆく聖域/Crumbling Sanctuary》
4 《厳かなモノリス/Grim Monolith》
1 《ミシュラのらせん/Mishra’s Helix》
4 《ファイレクシアの処理装置/Phyrexian Processor》
4 《からみつく鉄線/Tangle Wire》
4 《スランの発電機/Thran Dynamo》
4 《通電式キー/Voltaic Key》
4 《マスティコア/Masticore》
4 《金属細工師/Metalworker》
1 《ファイレクシアの巨像/Phyrexian Colossus》
4 《渦まく知識/Brainstorm》
4 《修繕/Tinker》
9 《島/Island》
4 《水晶鉱脈/Crystal Vein》
4 《リシャーダの港/Rishadan Port》
4 《サプラーツォの岩礁/Saprazzan Skerry》
サイドボード:
1 《ミシュラのらせん/Mishra’s Helix》
4 《寒け/Chill》
2 《水位の上昇/Rising Waters》
4 《無効/Annul》
4 《誤算/Miscalculation》
ジョージ・W・ボッシュ(ティンカー)/リカルド・オステルベリィ ―― プロツアー・ニューオーリンズ:優勝,2003-10-31~11-02
メインデッキ:
2 《彩色の宝球/Chromatic Sphere》
1 《シタヌールのフルート/Citanul Flute》
1 《金粉の水蓮/Gilded Lotus》
4 《厳かなモノリス/Grim Monolith》
3 《稲妻のすね当て/Lightning Greaves》
4 《からみつく鉄線/Tangle Wire》
3 《通電式キー/Voltaic Key》
1 《マスティコア/Masticore》
4 《金属細工師/Metalworker》
1 《ペンタバス/Pentavus》
1 《白金の天使/Platinum Angel》
4 《ゴブリンの溶接工/Goblin Welder》
4 《知識の渇望/Thirst For Knowledge》
1 《精神隷属器/Mindslaver》
1 《鉄のゴーレム、ボッシュ/Bosh, Iron Golem》
4 《修繕/Tinker》
2 《大焼炉/Great Furnace》
4 《教議会の座席/Seat of the Synod》
4 《古えの墳墓/Ancient Tomb》
3 《真鍮の都/City of Brass》
4 《裏切り者の都/City of Traitors》
4 《シヴの浅瀬/Shivan Reef》
サイドボード:
3 《防御の光網/Defense Grid》
4 《溶接の壺/Welding Jar》
1 《エルフの模造品/Elf Replica》
1 《トリスケリオン/Triskelion》
3 《荒残/Rack and Ruin》
2 《破壊的脈動/Shattering Pulse》
1 《精神隷属器/Mindslaver》
《修繕》は、刷られた当初は影が薄かった。当時は〈コンボの冬〉の最中で、みんなアーティファクトをいじって遊ぶのに忙しかった。
最初に「ティンカー」デッキがブレイクしたのはウルザ・ブロック構築のプロツアーで、トップ8のうち6人を占めた。エクステンディッドでは当初は二種類のアプローチが試されていて、ひとつは「スーサイド・ブラウン」、もうひとつは「アイアン・ジャイアント」と呼ばれていた。スーサイド・ブラウンはスタンダードでの構築をベースにしていて、やはり最強のアーティファクト戦略を目指すデッキだった。つまり《ファイレクシアの処理装置》を可能な限り早く場に出して、巨人を降臨させる。たった4マナで起動できる《処理装置》が回り出せば殆どのデッキにはどうすることもできない。《崩れゆく聖域》は《処理装置》で支払ったライフを事実上なかったことにしてくれるし、《処理装置》がゲームを支配するまでの時間を稼いでくれる。ジョン・フィンケルとボブ・マーハーが世界選手権の決勝で実質的なミラーマッチを戦ったのは、まさしくこのデッキが環境を支配していたからだった。ボブ・マーハーの「ティンカー」には、その後マスターズ優勝という戦績も加わることになった。
《修繕》を悪用しようと思ったら、まず思いつくのができるだけマナ・コストの高いアーティファクトを探してきてそのコストを踏み倒そうとすることだが、実際のところこのやり方だと《修繕》は大して強くない。コストの高いアーティファクトは基本的に弱いからだ。一番ましなのが《白金の天使》だが、それだって対処が難しいカードじゃない。《修繕》が強いのは、《ファイレクシアの処理装置》や《スランの発電機》を出せるだけで充分以上な効果なのに、ひとたびそれらのカードが場に出てしまえば、1、2枚のカードの損は殆ど問題にならないからだ。それに加えてライブラリーから好きなカードを探し出せる能力があって、コストには余った無色のマナソースをあてることができる。
後に「ティンカー」がエクステンディッド環境を支配したときには、このデッキは大量のマナを稼ぐ手段とそのマナを勝利に結びつける手段をそれぞれ何通りも持ち合わせていた。このデッキがマナを大量生産することを止めるのは不可能で、ひとたびマナを生産されてしまったら、素早くエンドカードが飛び出してくる。あまりにも脅威が早すぎるため、どんなデッキも有効な回答は用意できなかった。逆に「ティンカー」はたとえ防御側に回っても、相手の攻撃を押しとどめるアーティファクトをサーチする手段を複数持っていた。
プロツアー・ニューオーリーンズでは、環境全体としては伝統的なティンカーに支配されていたが、勝利を収めたのは先進的な構成のリカルド・オステルベリィのデッキだった。彼のデッキがやってのけたことは、僕たちのチームがテストしてみようとすら思いつかなかったことだった。
ここまでは初期のミラディンの力の片鱗にすぎない。この後事態はずっとずっと悪くなっていく。
薬瓶親和/イェルガー・ヴィーガーズマ プロツアー・神戸:4位,2004-02-27~29(ミラディン・ブロック構築)
メインデッキ:
4《霊気の薬瓶/Aether Vial》
2《彩色の宝球/Chromatic Sphere》
4《頭蓋骨絞め/Skullclamp》
1《威圧のタリスマン/Talisman of Dominance》
4《電結の荒廃者/Arcbound Ravager》
4《電結の働き手/Arcbound Worker》
4《金属ガエル/Frogmite》
4《マイアの処罰者/Myr Enforcer》
3《マイアの回収者/Myr Retriever》
3《羽ばたき飛行機械/Ornithopter》
4《大霊堂の信奉者/Disciple of the Vault》
4《物読み/Thoughtcast》
4《ダークスティールの城塞/Darksteel Citadel》
2《大焼炉/Great Furnace》
4《教議会の座席/Seat of the Synod》
4《囁きの大霊堂/Vault of Whispers》
4《ちらつき蛾の生息地/Blinkmoth Nexus》
1《空僻地/Glimmervoid》
サイドボード:
3《起源室/Genesis Chamber》
1《マイアの回収者/Myr Retriever》
1《炉のドラゴン/Furnace Dragon》
4《静電気の稲妻/Electrostatic Bolt》
3《恐怖/Terror》
1《大焼炉/Great Furnace》
2《空僻地/Glimmervoid》
ぶっ壊れたアーティファクトの雪崩の真最中に、ひとりの男が《霊気の薬瓶》が転がり落ちてくるのを見た。僕はこんなカードがあっていいのか疑いながら(*17)も、セットのベスト10にこのカードを入れて、
時が経つと、状況は悪化していった。ブロック構築のトーナメントは完全に親和に支配され、スタンダードでも同様だった。ウィザーズ社は《頭蓋骨締め》のみならず《大霊堂の信奉者》とアーティファクトランド全てを禁止にして、親和が本当に完全に死に絶えるようにせざるを得なくなった。確かに目論見通り親和は死んだ。だが、その時にはすでに深い傷跡が刻まれたあとだった。多くのプレイヤーがマジックを去るか、あるいは数ヶ月間潜伏することを選んでいて、僕もそのひとりだった。誰も
今やマジックは復活し、往時より強固な立場を築いているが、しかし親和の君臨はマジックのもっとも根本的な失敗だったといえるだろう。たったひとつのデッキが全員を不幸にしていたのに、あまりにも長い期間存続が許されていたのだ。
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(*17)僕はこんなカードがあっていいのか疑いながら
自信なし。ちょっと長めに引用してみる。この注の部分は青字。
Amidst an avalanche of broken artifacts, one man saw Aether Vial coming. I doubt my noticing it, putting it in my top ten of the set, and building this version of Affinity made that much difference.
最初さらっと見て「僕はこれに気付いていたかどうか憶えていないんだけど」というような意味かと思ったのだが、その後のトップ 10 に入れたというのと整合しない。あと分詞構文って割と何気なく訳しちゃうけど突き詰めると正しいかどうか自信なくなってくるな。
(*18)誰もわかりきった壁にぶちあたって死ぬことを望んではいなかったし、際限なく続く親和同士のミラーマッチで退屈とストレスを味わい続けたくもなかったからだ。
今週のどハマリ。前半部分が本当にわからない。
No one wanted to face dying out of nowhere on a consistent basis or the tedium and frustration of endless Affinity mirrors.
「out of nowhere」は成句で「突然」「だしぬけに」なんだけどぴんと来ない。「consistent basis」は「首尾一貫した基礎」だけど、それもなにを指しているのかわからない。後半はどうってことないのだが。
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フェアリー/パウロ・ヴィトフ・ダモ・ダ・ホサ ―― プロツアー・ハリウッド:8位,2008-05-23~25
メインデッキ:
4 《霧縛りの徒党/Mistbind Clique》
4 《ウーナの末裔/Scion of Oona》
4 《呪文づまりのスプライト/Spellstutter Sprite》
4 《謎めいた命令/Cryptic Command》
4 《ルーンのほつれ/Rune Snag》
4 《恐怖/Terror》
3 《ヴェンディリオン三人衆/Vendilion Clique》
4 《祖先の幻視/Ancestral Vision》
4 《苦花/Bitterblossom》
4 《島/Island》
2 《フェアリーの集会場/Faerie Conclave》
4 《変わり谷/Mutavault》
3 《涙の川/River of Tears》
4 《人里離れた谷間/Secluded Glen》
2 《沈んだ廃墟/Sunken Ruins》
4 《地底の大河/Underground River》
2 《ペンデルヘイヴン/Pendelhaven》
サイドボード:
3 《ボトルのノーム/Bottle Gnomes》
3 《剃刀毛のマスティコア/Razormane Masticore》
2 《残忍なレッドキャップ/Murderous Redcap》
3 《滅び/Damnation》
4 《思考囲い/Thoughtseize》
《苦花》が刷られる前ですら「フェアリー」デッキは有力なデッキだったが、《苦花》のおかげでこのデッキは他のデッキでは手の届かないレベルに達した。《苦花》さえ場に出てしまえば「フェアリー」は殆ど負けようがないし、場に出なかったとしてもそれなりのクリーチャーデッキとして戦える。「フェアリー」はどんな展開でもうまく戦うことができて、しばしば予想外の動きをし、対戦相手のあらゆる小さなミスを逃さずとがめたてることができる。
ゆっくりと、だが確実に少しずつ少しずつプレイヤーたちはダークサイドに堕ちていき、少しずつ少しずつミラーマッチが増え、それはしばしば一方だけが場に出した《苦花》で勝敗が決した。こうなるとフェアリーの優位性は薄れ、数多くのデッキの中のひとつという位置づけになったが、それでもこのデッキの柔軟性とパワーのおかげでトーナメントでの使用率は3割前後程度の数字を保ち、常に平均以上の成績を叩き出した。ブロック構築、スタンダード、エクステンディッドと、フォーマットやカードプールは変わっても、「フェアリー」はその翼を広げ続け、デッキは本質的な部分ではずっと変わらなかった。このデッキに数え切れないほどの時間を注ぎ込んだプレイヤーたちは、使うデッキを変えようとはせず、自分たちの経験に基づいて微調整を施すことで、不利な環境や対戦相手にも備えられると信じていた。サム・ブラックはこの点で悪名高く、何度も何度も新作のデッキをプレイするのだと喧伝していたが、誰も彼には耳を貸さなかった。今日に至るまで、みんなが彼の言うことに耳を貸すだろうということを彼に納得させることは難しい。
「フェアリー」が嫌になってしまうのは決して姿を消してくれなかったことだ。このデッキを倒す簡単な方法は存在しなかった(とにかく柔軟性が非常に高いからだ)し、他にどんなカードが刷られようとも「フェアリー」デッキの基礎自体は全然変わらない。ある年の世界選手権に僕が初期のフェアリーを持ち込んだことがあったんだけど、研究開発部の連中が何のデッキを使ってるのか訊いてきた。フェアリーだってわかると、誰がデザインしたんだって訊いてきたもんだから、僕は連中を見渡しながらもったいぶって考え込んで、アーロン・フォーサイス(*19)を指さしてやった。僕は正しかった。
このデッキは一度や二度なら楽しい。でも同じカードを使っておんなじことを繰り返し繰り返しやってると、あっという間にくたびれ果ててしまう。もし「親和」がどんなコストを払ってもなんとしても避けなければならない災害型の失敗だったとしたら、「フェアリー」はもっと潜伏期間の長い疫病のようなものだ。決して物事をひどく悪くし過ぎることはなかったから、僕たちはただ座ってうんざりしていることしかできなかった。僕は《苦花》を禁止にしろという人全員に同情したけど、内心ではそんなことは決してできっこないと知っていた。
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(*19)アーロン・フォーサイス
Aaron Forsythe。チーム CMU(前編の(*8)参照)で活躍した後にウィザーズ社入り。いくつかのセットのデザイナーを勤めた後、研究開発部のディレクターとなった。ローウィンではリード・デザイナーをつとめているので、ズヴィの指摘はあながち冗談とも言い切れない。
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ソプター・デプス/ジェリー・トンプソン ―― マジック・オンライン・プロツアー予選:優勝,2010-01-17
メインデッキ:
4 《金属モックス/Chrome Mox》
1 《仕組まれた爆薬/Engineered Explosives》
2 《弱者の剣/Sword of the Meek》
3 《飛行機械の鋳造所/Thopter Foundry》
4 《闇の腹心/Dark Confidant》
4 《吸血鬼の呪詛術士/Vampire Hexmage》
1 《破滅の刃/Doom Blade》
1 《乱動への突入/Into the Roil》
4 《交錯の混乱/Muddle the Mixture》
1 《殺戮の契約/Slaughter Pact》
4 《渇き/Thirst》 For Knowledge
3 《女王への懇願/Beseech the Queen》
4 《思考囲い/Thoughtseize》
2 《島/Island》
2 《沼/Swamp》
4 《涙の川/River of Tears》
4 《沈んだ廃墟/Sunken Ruins》
3 《トレイリア西部/Tolaria West》
1 《アカデミーの廃墟/Academy Ruins》
4 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ/Urborg, Tomb of Yawgmoth》
4 《暗黒の深部/Dark Depths》
サイドボード:
1 《虚空の杯/Chalice of the Void》
1 《弱者の剣/Sword of the Meek》
1 《飛行機械の鋳造所/Thopter Foundry》
1 《トーモッドの墓所/Tormod’s Crypt》
3 《根絶/Extirpate》
1 《ハーキルの召還術/Hurkyl’s Recall》
3 《死の印/Deathmark》
3 《強迫/Duress》
1 《幽霊街/Ghost Quarter》
ソプター・デプス(以下 TTD)は、ゆっくりと締めあげるようにエクステンディッドを支配し、環境から締め出されるまでその死の手を離さなかった。つまり、《暗黒の深部》がローテイトアウトして、《弱者の剣》が禁止されるまで。TTD の対戦相手は決して何が起きているかを知ることはなかった。不幸にも何が起きるかを正確に知ったときには、二種類のコンボに全く違った角度から攻めたてられている。もしマリット・レイジや《暗黒の深部》に対処できるカードを入れていても、《飛行機械の鋳造所》の前では何の役にも立たないし、《飛行機械の鋳造所》への回答を握りしめていても、《暗黒の深部》を止めることはできない。さらに TTD は相手の手札を《思考囲い》や《強迫》でのぞき込んできて、《闇の腹心》で第3の角度からアドヴァンテージを稼ぎにかかり、それらをどう組み合わせれば相手が対処できないかを経験から知っている。このデッキには本当にたくさんできることがあって、大抵の問題にも様々なカードをサーチする能力を使って対処することができる。
ソプター・デプスは他の著名なデッキができなかったことを成し遂げている。すなわち、対戦相手はこのデッキを目の敵にしながらも、どうやったら勝てるのかが全くわからないのだ。誰ひとりとして、TTD に対抗できてかつ有効な脅威を突きつけることのできるデッキを、半分も完成させることができていない。もし勝つ手段を見つけられたとしても、あまりにも多くの妨害が待っているし、デッキの力の差は歴然としている。シーズンの終了までに、エクステンディッドのトップクラスプレイヤーたちはみな肩をすくめて TTD への回答を見つけるのを諦め、ミラーマッチでの戦い方を究めることに集中しはじめていた。
他のフォーマットには派生しなかったことと、あまり長く存続したデッキではなかったことで、TTD は過去の先達たちのような汚名は着せられずに済んだが、これ以上の実績を残せるデッキはちょっと考えづらい。まさに“倒せるものなら倒してみろ”と言わんばかりのデッキであり、その挑発に対して世界は全き沈黙で応じるしかなかった。
それこそが、僕にとっての、真の支配だ。
最初の候補一覧を作り、その中から最終的な 11 のデッキを選ぶのにも協力してくれたジョン・デイル・ビーティに感謝したい。
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というわけで後編でした。随分かかったと思ったけどまだ三週間経ってないのだから悲観したものでもないですね。しかしどういうわけか後編の方が難しくて、時間がかかってしまいました。
註については特にコメントもありませんでしたし引き続き途中に挟んでいます。少なくとも書いている方としてはこの方が楽なので。
例によって誤訳の指摘や「自分ならこう訳す」といった意見は歓迎します。今回特に難しかったのでお知恵を拝借できると有難いです。コメント欄へお願いします。
ちょっとモティヴェイションが落ちてきたので、次に何をやるかは悩みどころです。
コメント
Zviの記事は面白い反面、訳しにくいですよね、、、
後で他の部分もじっくり読みますが、訳注*17と*18だけ思ったことをとりあえず:
*17
青字部分は正しい解釈だと思います。ただ、その後のmade that much differenceは、Top10のパワーを持つAether Vial分、他のバージョンの親和より頭抜けたという意味では無いでしょうか?
*18
dying out of nowhereはこの文脈だと、”理不尽に(突然)負ける”ですね。consistant basisは”常に”という意味なので、
「皆、毎回毎回理不尽に死にたくは無かったし~」とするのはどうでしょう?
その他の部分については後でまとまった時間がある時にじっくり読み返してみます!!
昔、某所でマーハー(ティンカー)とナシフ(エンチャントレス)の決勝戦のカバレージを訳したとき、《金属細工師/Metalworker》の凄まじい爆発力にびっくりした記憶があります。
>註については特にコメントもありませんでしたし引き続き途中に挟んでいます
註はやっぱり文末より都度途中にあったほうがいいですね。註があるたびに画面末尾まで往復するのは面倒くさいと思うんですが、これは他の方の意見も聞いてみたいところです。
>(*14)“結合”
>原文では "The Fix"。実に訳しづらい言葉で、辞書に出ているどの意味を選んでも
意味としては「あつらえたような」というか「まさにそのために用意されたかのような」という感じなんでしょうけど、名詞にしろと言われたら白旗上げて原文ママで行きます。
>(*17)僕はこんなカードがあっていいのか疑いながら
>Amidst an avalanche of broken artifacts, one man saw Aether Vial coming. I doubt my noticing it, putting it in my top ten of the set, and building this version of Affinity made that much difference.
同じく自信はありませんが、2つ目の文は「セットのトップ10リストに加えてはいたけど、このカードの強さには正直気づいてなかった。この(Aether Vialを加えた)バージョンの親和デッキは桁違いの強さだった」みたいな意味かなと思いました。おそらくコンマで括られた部分は Though が省略された補足みたいなものなのかな、と。
>(*18)誰もわかりきった壁にぶちあたって死ぬことを望んではいなかったし
>No one wanted to face dying out of nowhere on a consistent basis ~
上記のしょっとこさんのコメントですっきりと語られているので付け加えることないです。
*17、解釈分かれましたね。こうなるとズヴィの当時のレビューを読んでみたいのですが、残念ながらそのものは見つかりませんでした。ただ、後に書いていた歴代アーティファクトベスト 50 の記事では「僕が《霊気の薬瓶》をトップ 10 に入れたときみんな笑ったし、(ブロック構築以外の)ほかの環境でも使われるだろうって言ったときもみんな笑ったけど、最終的には僕が正しかった」みたいなこと書いてたのでそれなりに自信あったんじゃないかと思います。もはやこれ翻訳でもなんでもないですが、そんなわけで最初の解釈で通したいです。
で、made that much difference の主語なんですけど、(しょっとこさんのおっしゃる通り)this version of Affinity であるように自分には思えます。building は分詞構文で I doubt my noticing it, putting ~, (and) building ~. と分詞節をふたつとっている形の後半部分かなと。
という辺りを踏まえて本文赤字のように修正してみました。
*18、consistant basis の実用例が中々拾えなくて意味がとれませんでしたが、「常に」なのですね。親和以外を使えば親和にぼこぼこにされるのは目に見えているし、親和を使えば終わりなきミラーマッチが待っているし……というようなところでしょうか。こちらも修正してあります。
みなさんご指摘およびご意見有難うございます! また気付いた点があれば教えてください。
註について、ご意見ありがとうございます。引き続き他の方のご意見も募集します。
フィックス、日本で少しでもそう呼ばれてたらそれで行こうと思ってたんですけど、たぶん全く例がないですよね。「結合」がいいとも思えないので悩みどころです。まあもう多分使うことないんですが。