何を欲しがるかじゃなく/すべて彼らには同じもの
2016年2月13日 ポエム コメント (2)「《願望売り》」
彼女はちょっと照れたような笑みを浮かべながら答えた。
して、そのこころは。
うーん、この訳文の感じが好きなんだよね。このイラストといい、マナさえ出せば誰にでも力を貸しちゃう能力といい、はっきり言って胡散臭いじゃないこいつ。その感じが上手く出てる口調になってると思うんだ。「あんた」っていう絶妙の二人称といい、そのくせ最後は丁寧語で「どう欲しがるかなんです」とか言っててさ。
この口調は良いよね。ちゃんと腹立たしいもんな。
あ、そうそう、二人称といえば、これ教科書的に言えば you はいわゆる無人称主語だから訳さなくていいんだよね、たぶん。「なにを欲しがるかじゃなくて、どう欲しがるかが大事なんですよ」とかが穏当な訳になるのかな。でもそこを敢えて訳してこういう口調にしてるところも好き。
これはわざとだよね。
だと思うんだけどね。彼女はうなずいた。……あとはまあ、内容としても、この能力ちょっとだけ使い方に工夫が必要で、何色のプロテクションをどのタイミングでつけるのか、あるいはつけないで構えておくのか、そういう選択が多いんだよね。そのあたりを「何を欲しがるかじゃなく、どう欲しがるか」っていう短い言葉にこめてるのもよかったと思う。
そっか。他のモンガーたちは起動するかどうかだけだ。
まあだいたい強い奴に二色ぐらいつけて無理矢理攻撃通しに行ってた気もするんだけど。
あはは、そうだったかも知れない。
あとそうだ、今回調べるついでにテキストも見直したんだけど、この能力対象になったクリーチャーのコントローラーがプロテクションを得る色を選べるようになってて、今更ながらそれはエレガントだと思った。
ああ、そうなってるのか。
僕は普通にちょっと感心した。いや、これ起動した方が好きな色選べるとこいつの能力で全部フィズらせられちゃうし、かといってソーサリータイミングでしか使えないと全然楽しくないし、どうなってたっけなあって思ってたんだ。頭いいねそれは。
さりげなくデザインの妙味もこもっているカードであると思います。……以上です。
ありがとうございました。
「では、きみは?」
*
「《スランのレンズ》かなあ」
彼はあまり自信がなさそうに応じた。
渋いカード出てきましたねえ。そのこころは。
わたしがうながすと、彼は額のあたりに指を当てて続けた。
まあこれ、当時やってた人じゃないとあんまりぴんと来ないかも知れないんだけど。あの頃は、アーティファクトは必ず無色のカードだった。何色のマナでも唱えられたし、起動型能力も色マナを要求することはなかったよね。それでいて様々なことができるカードがあった。コスト的には高くつくけど、カードを引いたり、ダメージを与えたり、リセットしたり、ルールを変えたり、大抵のことはできた。
そうだよね。
もちろん、アーティファクトが全部色と無縁だったわけじゃなくて、古来一番強いアーティファクトは好きな色のマナが3点出る奴だし、そうでなくても色マナを出すアーティファクトはたくさんある。ラッキー・チャームみたいに色にかかわるアーティファクトもある。だけど基本的には無色だった。無色なのにいろいろできた。単にそういうもんなんだ、ってずっと思ってたけど、このフレイバーテキスト見たときにおおおおってなったんだよね。そういうことだったのか、って思った。それでこのカードの効果でしょ。
——すべてのパーマネントは無色になる。
そう、もう全部無色なの。古代のひと色とか関係なかったんだ!ってなって、それでウルザブロックに強いアーティファクトいくつも入ってて、圧倒的なオーパーツ感があったじゃない。その、マジックのカードタイプひとつを、そのカードタイプのメカニズム的な、フレイバー的な位置づけを、このたった一枚のカードのテキストとフレイバーテキストで、説明しちゃってるんだよ。
ある意味ではそうだね、確かに。
わたしは言った。彼らしい詭弁も混じっているけど、当時のアーティファクトのある側面をうまくフレイバーに落としこんだカードであるのは事実だった。
ただ、訳が一ヶ所ちょっと微妙かなって思う。彼は言った。
どこ?
最初の「スランの啓発」ってところ。enlightenment、啓発だとちょっとちがうと思うんだよね。辞書引くと確かに啓発としか出てなかったりするし、「啓発する」の名詞形だから啓発なんだけど、いやそうじゃなくって、って感じ……もう全然他に適切な日本語思いつかないから説得力全然ないんだけど、でも違うんだと思うんだよなー。
彼は大きく手ぶりをつけながら、いかにももどかしそうに説明した。
あーそうだ、《Enlightened Tutor》は《啓発された教示者》じゃないでしょ。あれは悟りじゃん。他動詞の受け身だけど、 誰かにされるわけじゃない。あれだと思うんだよこの enlightenment は。
そこで急に彼は顔を上げて、わたしと目が合うと首をちょっとすくめてみせた。
や、ごめん、むきになってしまった。ええと、訳としてそんなひどいとかは全然なくて、このカードのフレイバーにとっての瑕疵にもまったくなっていません。カードとしてはなんに使うのかよくわからないけど、実際トーナメントクラスでもサイドボードでちらほら見かけたりして意外と役に立ってたっぽかったのがよかった。……以上です。
ありがとうございました。
*
では、あなたは?
--
あけましておめでとうございます。とかいいつつスーパーボウルも終わってしまいましたが。ヴォン・ミラーちょう素晴らしかったですね。ディフェンスの選手が誰もが納得するMVPに選ばれるというのはほんとにすごいと思います。5月のジロまでスポーツ観戦はひと息つけるのでしばらくは溜まったダウントンアビーでも消化しようと思います。
今回のは、遅くなってしまいましたが、九印えらり氏の以下の二本のエントリに対するアンサーエントリです。
http://blog.goo.ne.jp/kuin_erari/e/7f9c152ced620ca4619fee05743fdfc9
《魔力のとげ/Manabarbs》のフレイバーテキストが素晴らしいという話
http://blog.goo.ne.jp/kuin_erari/e/9a1044b4a6c2fe1575fda248f08d3a3a
《命知らずの群勢/Reckless Cohort》のフレイバーテキストが素晴らしいという話
はっきり言って両エントリともレベルが高すぎて、呼応したエントリを書くのに気が引けました。取りあげたテキストもその読み解きも素晴らしく水準が高くて、これはとてもかなわないな、と。
ただ、逆にまあ絶対かなわないなら背伸びする必要もないのだし、と思い直してこれを書きました。
みなさんも、好きなフレイバーテキストについて、ぜひ書いてみてください。
--
今回で40回目、らしいです。だからというわけではないですが、実は第1回と対になっています。
彼女はちょっと照れたような笑みを浮かべながら答えた。
あんたが何を欲しがるかじゃなく、それをどう欲しがるかなんです。
"It’s not what you ask for, but how you ask for it."
http://whisper.wisdom-guild.net/card/Wishmonger/
して、そのこころは。
うーん、この訳文の感じが好きなんだよね。このイラストといい、マナさえ出せば誰にでも力を貸しちゃう能力といい、はっきり言って胡散臭いじゃないこいつ。その感じが上手く出てる口調になってると思うんだ。「あんた」っていう絶妙の二人称といい、そのくせ最後は丁寧語で「どう欲しがるかなんです」とか言っててさ。
この口調は良いよね。ちゃんと腹立たしいもんな。
あ、そうそう、二人称といえば、これ教科書的に言えば you はいわゆる無人称主語だから訳さなくていいんだよね、たぶん。「なにを欲しがるかじゃなくて、どう欲しがるかが大事なんですよ」とかが穏当な訳になるのかな。でもそこを敢えて訳してこういう口調にしてるところも好き。
これはわざとだよね。
だと思うんだけどね。彼女はうなずいた。……あとはまあ、内容としても、この能力ちょっとだけ使い方に工夫が必要で、何色のプロテクションをどのタイミングでつけるのか、あるいはつけないで構えておくのか、そういう選択が多いんだよね。そのあたりを「何を欲しがるかじゃなく、どう欲しがるか」っていう短い言葉にこめてるのもよかったと思う。
そっか。他のモンガーたちは起動するかどうかだけだ。
まあだいたい強い奴に二色ぐらいつけて無理矢理攻撃通しに行ってた気もするんだけど。
あはは、そうだったかも知れない。
あとそうだ、今回調べるついでにテキストも見直したんだけど、この能力対象になったクリーチャーのコントローラーがプロテクションを得る色を選べるようになってて、今更ながらそれはエレガントだと思った。
ああ、そうなってるのか。
僕は普通にちょっと感心した。いや、これ起動した方が好きな色選べるとこいつの能力で全部フィズらせられちゃうし、かといってソーサリータイミングでしか使えないと全然楽しくないし、どうなってたっけなあって思ってたんだ。頭いいねそれは。
さりげなくデザインの妙味もこもっているカードであると思います。……以上です。
ありがとうございました。
「では、きみは?」
*
「《スランのレンズ》かなあ」
彼はあまり自信がなさそうに応じた。
掘削施設の中の器械類はすべてスランの啓発の証拠だ。マナはすべて彼らには同じものだった。岩からのものでも、水からのものでも、成長するものも崩壊するものも、そんな調和のとれた洞察力が想像できるか。
——— ウルザの日記
"Every device in the rig is evidence of Thran enlightenment. All mana was the same to them, whether from rock or water, growth or decay. Can you imagine such unity of vision?"
Urza, journal
http://whisper.wisdom-guild.net/card/Thran%20Lens/
渋いカード出てきましたねえ。そのこころは。
わたしがうながすと、彼は額のあたりに指を当てて続けた。
まあこれ、当時やってた人じゃないとあんまりぴんと来ないかも知れないんだけど。あの頃は、アーティファクトは必ず無色のカードだった。何色のマナでも唱えられたし、起動型能力も色マナを要求することはなかったよね。それでいて様々なことができるカードがあった。コスト的には高くつくけど、カードを引いたり、ダメージを与えたり、リセットしたり、ルールを変えたり、大抵のことはできた。
そうだよね。
もちろん、アーティファクトが全部色と無縁だったわけじゃなくて、古来一番強いアーティファクトは好きな色のマナが3点出る奴だし、そうでなくても色マナを出すアーティファクトはたくさんある。ラッキー・チャームみたいに色にかかわるアーティファクトもある。だけど基本的には無色だった。無色なのにいろいろできた。単にそういうもんなんだ、ってずっと思ってたけど、このフレイバーテキスト見たときにおおおおってなったんだよね。そういうことだったのか、って思った。それでこのカードの効果でしょ。
——すべてのパーマネントは無色になる。
そう、もう全部無色なの。古代のひと色とか関係なかったんだ!ってなって、それでウルザブロックに強いアーティファクトいくつも入ってて、圧倒的なオーパーツ感があったじゃない。その、マジックのカードタイプひとつを、そのカードタイプのメカニズム的な、フレイバー的な位置づけを、このたった一枚のカードのテキストとフレイバーテキストで、説明しちゃってるんだよ。
ある意味ではそうだね、確かに。
わたしは言った。彼らしい詭弁も混じっているけど、当時のアーティファクトのある側面をうまくフレイバーに落としこんだカードであるのは事実だった。
ただ、訳が一ヶ所ちょっと微妙かなって思う。彼は言った。
どこ?
最初の「スランの啓発」ってところ。enlightenment、啓発だとちょっとちがうと思うんだよね。辞書引くと確かに啓発としか出てなかったりするし、「啓発する」の名詞形だから啓発なんだけど、いやそうじゃなくって、って感じ……もう全然他に適切な日本語思いつかないから説得力全然ないんだけど、でも違うんだと思うんだよなー。
彼は大きく手ぶりをつけながら、いかにももどかしそうに説明した。
あーそうだ、《Enlightened Tutor》は《啓発された教示者》じゃないでしょ。あれは悟りじゃん。他動詞の受け身だけど、 誰かにされるわけじゃない。あれだと思うんだよこの enlightenment は。
そこで急に彼は顔を上げて、わたしと目が合うと首をちょっとすくめてみせた。
や、ごめん、むきになってしまった。ええと、訳としてそんなひどいとかは全然なくて、このカードのフレイバーにとっての瑕疵にもまったくなっていません。カードとしてはなんに使うのかよくわからないけど、実際トーナメントクラスでもサイドボードでちらほら見かけたりして意外と役に立ってたっぽかったのがよかった。……以上です。
ありがとうございました。
*
では、あなたは?
--
あけましておめでとうございます。とかいいつつスーパーボウルも終わってしまいましたが。ヴォン・ミラーちょう素晴らしかったですね。ディフェンスの選手が誰もが納得するMVPに選ばれるというのはほんとにすごいと思います。5月のジロまでスポーツ観戦はひと息つけるのでしばらくは溜まったダウントンアビーでも消化しようと思います。
今回のは、遅くなってしまいましたが、九印えらり氏の以下の二本のエントリに対するアンサーエントリです。
http://blog.goo.ne.jp/kuin_erari/e/7f9c152ced620ca4619fee05743fdfc9
《魔力のとげ/Manabarbs》のフレイバーテキストが素晴らしいという話
http://blog.goo.ne.jp/kuin_erari/e/9a1044b4a6c2fe1575fda248f08d3a3a
《命知らずの群勢/Reckless Cohort》のフレイバーテキストが素晴らしいという話
はっきり言って両エントリともレベルが高すぎて、呼応したエントリを書くのに気が引けました。取りあげたテキストもその読み解きも素晴らしく水準が高くて、これはとてもかなわないな、と。
ただ、逆にまあ絶対かなわないなら背伸びする必要もないのだし、と思い直してこれを書きました。
みなさんも、好きなフレイバーテキストについて、ぜひ書いてみてください。
--
今回で40回目、らしいです。だからというわけではないですが、実は第1回と対になっています。
コメント