「“戦乱のゼンディカー しょっぱい”っていう検索でおれのブログに人が来ててさ」
友人が言って、俺は思わず笑った。いろいろ形容はあり得るだろうによりによってしょっぱいという単語を選ぶ辺りにセンスを感じる。
今日フルスポイラー出たけど、まあ確かにしょっぱめかねえ。
今更なに言ってやがんだ。
俺は言った。おまえ何年プレヴュー見てるんだよ。プレヴューで出てこなかったすげえカードがフルスポイラーになって突然出てくることなんてねえんだから。もう出てくるもんのインパクトはとっくにピーク越えてるんだって。
うーん、理屈ではわかってる心算なんだが。
今回で言や明らかにプレミアム神話土地だ。どんなに強いカードだってまああれのインパクトにはかなわないんだから、あれを出したらあれよりいいもんは出てこねえよ。カードパワーで言えばあれの前後に公開されたあたりが一番高いだろ、多分。ウィザーズだって早いうちにいいカード見せていっぱい予約してもらったほうがいいに決まってるんだから、もったいぶる意味がない——
「つまり奇数野郎最強ってことだ」
俺は堂々と結論を述べたが、普通に突っ込まれた。
いやあいつ出てきたのつい先週だろ。
いやーああいうわけのわからんデザイン好きでさ。わくわくするっていうか、なんだろうな、じっとしてられん感じがする。俺に対するアピール力では間違いなく最強。
それ KP 関係ないじゃん、などと彼はぶつぶつ言っていたが、俺はとりあわなかった。
「そういや一昨日、なんでマルドゥ戦士出さなかったんだよ。ていうか出しかけて引っ込めてたのはなんなんだ」
俺は特別な準備は何もしなかったが、彼は一応与えられた条件(ひさしぶりにこのゲームを遊ぶ、おそらく過去のスタンダードのデッキを持ってくる)をもとに手持ちの中では一番よさそうなデッキを選んできた、というようなことを言っていた。そんなに尖りすぎないフェアデッキがいいだろう、という結論だったらしいのだが、それはものすごく当たり前だし、だいたいあいつが普段手持ちにしているデッキは九割がたその条件に当てはまる。あとの一割はオリジナルコンボデッキの出来損ないだ。
彼はなにかちょっとほっとしたような顔をして、しかしぐずぐずと言った。「いやー、スリーヴがキャラスリのまんまだったんだよね」
ああ。あれか。
彼は普段はだいたい実用的な無地のスリーヴを使っていて、時々ウルトラプロあたりのマナシンボルとか公式のイラストとかの奴を使う程度なのだが、少し前にどうした風の吹き回しかキャラクタースリーヴを一組だけ使い出した。やったこともないカードゲームのスリーヴだったが、発売から少し日が経って投げ売りされていたのだという。「安かったしイラストが気に入ったから」買ってきたのだと本人は言っていたが、品質の方には不満があったようで、ぺらぺらだなこれ、と評していた。そのわりには普通に使っていたので、気に入っていないわけではないようだった。
「あれやっぱだめだよなあ」
肝心のイラストは、そのカードゲームに登場するらしいキャラクターで、若くてかわいい女の子で巨乳で、大雑把に言えば水着みたいな服を着ていた。
おまえ、あのイラストを会社のパソコンの壁紙に設定できるか?
俺が聞くと彼は首を横に振った。できない。
どうしてできないって考える?
……セクハラになるだろ、たぶん。
じゃあ聞くまでもねえじゃねえか。駄目だ、それは。そっち系の趣味があるんだと思われたら恥ずかしいとかめんどくさいとかいう理由なんだったらそれは個人の趣味の範疇だから、カードゲームで使うんならぜんぜん問題ないと思うぜ。でもセクハラはどこ行ってもセクハラだろ。
そうだよなあ。
ついでだから聞くけど、おまえあのスリーブサキモト相手には普通に使ってたよな?
そうなんだよ。それもひどい話だなあと思ってさ。
なにがひどい話だ、と俺は内心思ったがとりあえずは口に出さない。これまで黙っていたという意味では俺にも非がないわけでもないような気がするからだ。それに、いずれにしてもここから先はこいつの問題だ。
今日来るのかな。彼がつぶやくように言った。
サキモトなら来ねえっつってたぞ。俺は教えてやってからメールの文面を思い出した。そうか、おまえには入ってなかったんだ。
彼は後ろ手に尻ポケットに手を突っ込んで、いささか年季の入ったガラケーを引っぱりだした。ボタンを2回ほど押して、あ、おれにも来てるっぽい、と言いながら端末を開き、もう2回ボタンを押して画面に見入った。2秒ほどでその眉間にはっきりとしわが寄る。「はあ?」
なんだって?
意味がわからん。彼は言いながら首を横に振ると、黙って開いたままの携帯を手渡してきた。
ナゼ?ナニ?ハンガーバック!読
んでナゼ・ナニ・マジック検索し
てみたらまだあったからちょっと
読んでしまった。
ははは。俺は声を出して笑った。おまえにはその程度の用しかないんだな。
そういうことみたいだね。彼は意外に明るい笑みを浮かべながら自分の携帯に手を伸ばし、ポケットにしまいこんだ。
じゃあ、やるか。
いいぜ。新作組んできた。赤白タッチ青サイクリングデッキ、名付けてツール・ド・フランス。
おまえそれ絶対名前先に考えてるだろ。
いや、意外と強いから。大丈夫だから。
--
この調子でえんえんと新キャラ姿見せないままって展開もありかも。
友人が言って、俺は思わず笑った。いろいろ形容はあり得るだろうによりによってしょっぱいという単語を選ぶ辺りにセンスを感じる。
今日フルスポイラー出たけど、まあ確かにしょっぱめかねえ。
今更なに言ってやがんだ。
俺は言った。おまえ何年プレヴュー見てるんだよ。プレヴューで出てこなかったすげえカードがフルスポイラーになって突然出てくることなんてねえんだから。もう出てくるもんのインパクトはとっくにピーク越えてるんだって。
うーん、理屈ではわかってる心算なんだが。
今回で言や明らかにプレミアム神話土地だ。どんなに強いカードだってまああれのインパクトにはかなわないんだから、あれを出したらあれよりいいもんは出てこねえよ。カードパワーで言えばあれの前後に公開されたあたりが一番高いだろ、多分。ウィザーズだって早いうちにいいカード見せていっぱい予約してもらったほうがいいに決まってるんだから、もったいぶる意味がない——
「つまり奇数野郎最強ってことだ」
俺は堂々と結論を述べたが、普通に突っ込まれた。
いやあいつ出てきたのつい先週だろ。
いやーああいうわけのわからんデザイン好きでさ。わくわくするっていうか、なんだろうな、じっとしてられん感じがする。俺に対するアピール力では間違いなく最強。
それ KP 関係ないじゃん、などと彼はぶつぶつ言っていたが、俺はとりあわなかった。
「そういや一昨日、なんでマルドゥ戦士出さなかったんだよ。ていうか出しかけて引っ込めてたのはなんなんだ」
俺は特別な準備は何もしなかったが、彼は一応与えられた条件(ひさしぶりにこのゲームを遊ぶ、おそらく過去のスタンダードのデッキを持ってくる)をもとに手持ちの中では一番よさそうなデッキを選んできた、というようなことを言っていた。そんなに尖りすぎないフェアデッキがいいだろう、という結論だったらしいのだが、それはものすごく当たり前だし、だいたいあいつが普段手持ちにしているデッキは九割がたその条件に当てはまる。あとの一割はオリジナルコンボデッキの出来損ないだ。
彼はなにかちょっとほっとしたような顔をして、しかしぐずぐずと言った。「いやー、スリーヴがキャラスリのまんまだったんだよね」
ああ。あれか。
彼は普段はだいたい実用的な無地のスリーヴを使っていて、時々ウルトラプロあたりのマナシンボルとか公式のイラストとかの奴を使う程度なのだが、少し前にどうした風の吹き回しかキャラクタースリーヴを一組だけ使い出した。やったこともないカードゲームのスリーヴだったが、発売から少し日が経って投げ売りされていたのだという。「安かったしイラストが気に入ったから」買ってきたのだと本人は言っていたが、品質の方には不満があったようで、ぺらぺらだなこれ、と評していた。そのわりには普通に使っていたので、気に入っていないわけではないようだった。
「あれやっぱだめだよなあ」
肝心のイラストは、そのカードゲームに登場するらしいキャラクターで、若くてかわいい女の子で巨乳で、大雑把に言えば水着みたいな服を着ていた。
おまえ、あのイラストを会社のパソコンの壁紙に設定できるか?
俺が聞くと彼は首を横に振った。できない。
どうしてできないって考える?
……セクハラになるだろ、たぶん。
じゃあ聞くまでもねえじゃねえか。駄目だ、それは。そっち系の趣味があるんだと思われたら恥ずかしいとかめんどくさいとかいう理由なんだったらそれは個人の趣味の範疇だから、カードゲームで使うんならぜんぜん問題ないと思うぜ。でもセクハラはどこ行ってもセクハラだろ。
そうだよなあ。
ついでだから聞くけど、おまえあのスリーブサキモト相手には普通に使ってたよな?
そうなんだよ。それもひどい話だなあと思ってさ。
なにがひどい話だ、と俺は内心思ったがとりあえずは口に出さない。これまで黙っていたという意味では俺にも非がないわけでもないような気がするからだ。それに、いずれにしてもここから先はこいつの問題だ。
今日来るのかな。彼がつぶやくように言った。
サキモトなら来ねえっつってたぞ。俺は教えてやってからメールの文面を思い出した。そうか、おまえには入ってなかったんだ。
彼は後ろ手に尻ポケットに手を突っ込んで、いささか年季の入ったガラケーを引っぱりだした。ボタンを2回ほど押して、あ、おれにも来てるっぽい、と言いながら端末を開き、もう2回ボタンを押して画面に見入った。2秒ほどでその眉間にはっきりとしわが寄る。「はあ?」
なんだって?
意味がわからん。彼は言いながら首を横に振ると、黙って開いたままの携帯を手渡してきた。
ナゼ?ナニ?ハンガーバック!読
んでナゼ・ナニ・マジック検索し
てみたらまだあったからちょっと
読んでしまった。
ははは。俺は声を出して笑った。おまえにはその程度の用しかないんだな。
そういうことみたいだね。彼は意外に明るい笑みを浮かべながら自分の携帯に手を伸ばし、ポケットにしまいこんだ。
じゃあ、やるか。
いいぜ。新作組んできた。赤白タッチ青サイクリングデッキ、名付けてツール・ド・フランス。
おまえそれ絶対名前先に考えてるだろ。
いや、意外と強いから。大丈夫だから。
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この調子でえんえんと新キャラ姿見せないままって展開もありかも。
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