さらばブロック構築(番外編)
2015年5月28日 ポエム コメント (2)「タルキールのブロック構築、全然人が集まらないらしいな」
奴が言った。「とうとうイベントそのものまでなくなっちまったのか。ひでえな」
そういえばそんなような話は目にしたことがあった。運命再編が入って以来 MO の DE が一度も成立していないとかなんとか。まだその状況が続いてたのか……と僕はぼんやり思ったが、それと同時に腑に落ちたような感覚もあった。
「イベント開くこと自体にはほとんどコストかからないだろうに、なんでやめちゃうんだろうね」 彼女が言う。
僕は考えを整理しながら訊いた。「ブロック構築って、そもそもなんのためのフォーマットだと思う?」
面白えじゃん、と奴が間髪を入れずに応じた。
なんのためか訊いてるんだっつーの。
面白いことが存在理由じゃいけねえのかよ。トレーディングカードゲームの存在意義否定かよ。
そうは言ってないだろ。
「次のスタンダード環境を占うための実験場、でしょ」
不毛な言い争いを断ち切るように彼女が言った。「きみが言ってたんじゃないか」
「その通り」
一般的にはあまり人気の高いフォーマットとは言えないけど(面白えのに、と奴がしつこく言うのを僕は無視した)、主にR&D的な事情で大事にされてきた。実際にブロック構築から生まれたスタンダードのデッキもたくさんある。少なくともそういう風に言われてきたし、だいたいは事実に近かったんじゃないかと思う。
「でも秋からはそうはならなくなる。ブロック構築で次期のスタンダードを占うのは難しくなる」
ここまで言えば彼女は察したようだった。この辺りはさすがだ。
「ローテーションが変わるからか」
「その通り。これまでは新しいスタンダードのカードプールの半分ぐらいはいっこ前のブロックのカードだった。基本セットのカードの影響が限定的であることを考えれば、実質的な占有率はもっと大きい。それが新しいローテーションになるとかなり下がる」
「……正味で4割ぐらいかな?」 彼女は手元に何か書きつけながら言った。
だいたいそんなものだろう。基本セットはなくなるのでほぼ占有率が影響力に近くなる筈だが、それでも半分を切る。それに、ひとつ前のブロックが丸々残るのもこれまでと違うところだ。つまるところ、ブロック構築のデッキはスタンダードのメタゲームにはこれまでのようにはリンクしなくなってくるに違いない。……というようなことを僕は説明した。
「なるほどねえ」
彼女はうなずいた。「それに、そもそも年2回ブロック構築のプロツアーやるわけにもいかないもんね。実験場としてはプロツアーじゃないと意味がないし、プロツアーは年に4回しかない」
「現実的な理由としてはそれもあるだろうね」
僕は肯いた。
「じゃあどうなるんだ、ブロック構築」
奴が訊いた。
「一番ありそうなシナリオは、このままなし崩し的に無くなる」
僕は正直に言った。
「まじか」
「まじだ」
腑に落ちたというのは、つまりウィザーズ社はもうブロック構築を必要としていないんだ、というのが突然わかったからだ。
秋にローテーションの変更を聞いたときにも、ブロック構築がこれまで通りには運用できないだろうということはわかっていた。それでも僕はなんとなくブロック構築そのものは存続するんじゃないかと思っていた。でもそれはもはや根拠のないことだった。冷静に考えれば、ブロック構築が廃止される――廃止までする必要はないが、主要フォーマットからは外されるほうが、ずっと筋が通っている。
「特にてこ入れとかアナウンスとかもなくて、なんか淡々と開催予定から消えてるような話だったから、もう無理に維持する必要も感じてないんじゃないかな」
「でも廃止までする必要はないんじゃねえの?」 奴は言った。「MO でもカジュアルなフォーマット色々あるんだろ。モミールとかポーパーとか」
「じゃあ訊くが、エクステンディッドっていまどうなってるか知ってるかね」
「…………死んだ?」
「あれ、フォーマットとしては残ってるんじゃなかった?」
ふたりの回答は分かれた。この問いに自信を持って答えられる人はそれほど多くないのではないかと思う。
「正解は『一昨年の7月に正式に終了した』。競技フォーマットだったからサポートはされてたし、正式に終了するまでは申請すれば公認の大会も開けた。でも、プレミアイベントから外れてからは誰も見向きもしなかっただろ。ただでさえ人気があるとは言えないブロック構築がプロツアーから外れたら、まあどうなるかはお察しだ」
「ぐぬぬ」
奴はしかしなおも粘った。「でもそうなるとプロツアーの構築フォーマットってモダンとスタンダードのテレコにならねえか? それでいいのか?」
「もうなりつつあるんだよ、すでに」 僕は応じた。「ここ何年か、プロツアーはスタンダード、モダン、ブロック構築ってローテーションで開催されてた。それが、去年のニクスへの旅を最後にブロック構築のプロツアーは開催されてない。本来ブロック構築の順番だった筈のタルキール龍紀伝もスタンダードだった。グランプリも年に1回は辛うじてやってたのが今シーズンはやってない。もうはっきりしてたんだよ。気付くのが遅すぎたぐらいだ」
「でもこんな終わり方じゃあんまりじゃない?」
彼女は言った。「歴史もあるし、数々の名勝負を生んだフォーマットなのに」
「もちろんウィザーズだってこのブロック終わるまでは普通にやるつもりだったと思うよ」 僕は応じた。「今やってないのは単に卓が立たなさすぎて止めただけで、ブロック構築を終了することとは多分関係ない。」
そのふたつの事象は直接の原因は独立だが、もしかすると関係はあるかも知れない。ブロック構築をフォーマットとして想定せずにデザイン/デヴェロップされた環境ではやはりブロック構築は面白くなりようがない、という可能性は充分ある。だがいずれにしても、DE が成立しなくなってフォーマットごとフェイドアウトする、なんて結末をウィザーズが意図していたとは考えられない。
「そうかー。」 奴が珍しく本気で感慨深そうに言った。「好きだったけどなあ、ブロック構築」
「でももうここ何年もやってないだろ、ブロック構築なんて」
まあそうなんだけどさ。言いながら奴は苦笑いを浮かべた。
「それにまだ、決まったわけではないよね」
彼女がいちおう、という感じで言った。
遅くとも、秋にはすべてが判る。おそらくは夏までには正式な発表があるだろう。少しカードパワーの落ちる、狭いプールで繰り広げられるメタゲームには独特の味わいがあった。ズヴィ・モーショヴィッツも一番好きなフォーマットに挙げていたことがあった筈だ。もう二度とブロック構築シーズンが来ないのだとすれば、到底熱心なファンとは言えなかった僕にとっても、やはりいくばくかの寂しさがあるのは否めなかった。まして最後の季節が昨年のうちに終わってしまったのだとすれば、それはいささか不当過ぎる扱いのような気はするのだ。
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このエントリは以下のエントリに触発されて書きました。だいぶ時間がかかってしまいましたが。
http://mtgmtg.diarynote.jp/201504071143234639/
【悲報】タルキール覇王譚ブロック構築、遂に消滅する -- タルキール覇王譚ブロック構築のブログ
また、MO の DE の動向については下のブログを参考にしました。
http://eiseal.diarynote.jp/
当ブログの「ポエム」というカテゴリにあるエントリは基本的に筆者の妄想であり、マジックに関することでは大きな嘘は書いていないつもりですが、内容の保証はしかねます。
奴が言った。「とうとうイベントそのものまでなくなっちまったのか。ひでえな」
そういえばそんなような話は目にしたことがあった。運命再編が入って以来 MO の DE が一度も成立していないとかなんとか。まだその状況が続いてたのか……と僕はぼんやり思ったが、それと同時に腑に落ちたような感覚もあった。
「イベント開くこと自体にはほとんどコストかからないだろうに、なんでやめちゃうんだろうね」 彼女が言う。
僕は考えを整理しながら訊いた。「ブロック構築って、そもそもなんのためのフォーマットだと思う?」
面白えじゃん、と奴が間髪を入れずに応じた。
なんのためか訊いてるんだっつーの。
面白いことが存在理由じゃいけねえのかよ。トレーディングカードゲームの存在意義否定かよ。
そうは言ってないだろ。
「次のスタンダード環境を占うための実験場、でしょ」
不毛な言い争いを断ち切るように彼女が言った。「きみが言ってたんじゃないか」
「その通り」
一般的にはあまり人気の高いフォーマットとは言えないけど(面白えのに、と奴がしつこく言うのを僕は無視した)、主にR&D的な事情で大事にされてきた。実際にブロック構築から生まれたスタンダードのデッキもたくさんある。少なくともそういう風に言われてきたし、だいたいは事実に近かったんじゃないかと思う。
「でも秋からはそうはならなくなる。ブロック構築で次期のスタンダードを占うのは難しくなる」
ここまで言えば彼女は察したようだった。この辺りはさすがだ。
「ローテーションが変わるからか」
「その通り。これまでは新しいスタンダードのカードプールの半分ぐらいはいっこ前のブロックのカードだった。基本セットのカードの影響が限定的であることを考えれば、実質的な占有率はもっと大きい。それが新しいローテーションになるとかなり下がる」
「……正味で4割ぐらいかな?」 彼女は手元に何か書きつけながら言った。
だいたいそんなものだろう。基本セットはなくなるのでほぼ占有率が影響力に近くなる筈だが、それでも半分を切る。それに、ひとつ前のブロックが丸々残るのもこれまでと違うところだ。つまるところ、ブロック構築のデッキはスタンダードのメタゲームにはこれまでのようにはリンクしなくなってくるに違いない。……というようなことを僕は説明した。
「なるほどねえ」
彼女はうなずいた。「それに、そもそも年2回ブロック構築のプロツアーやるわけにもいかないもんね。実験場としてはプロツアーじゃないと意味がないし、プロツアーは年に4回しかない」
「現実的な理由としてはそれもあるだろうね」
僕は肯いた。
「じゃあどうなるんだ、ブロック構築」
奴が訊いた。
「一番ありそうなシナリオは、このままなし崩し的に無くなる」
僕は正直に言った。
「まじか」
「まじだ」
腑に落ちたというのは、つまりウィザーズ社はもうブロック構築を必要としていないんだ、というのが突然わかったからだ。
秋にローテーションの変更を聞いたときにも、ブロック構築がこれまで通りには運用できないだろうということはわかっていた。それでも僕はなんとなくブロック構築そのものは存続するんじゃないかと思っていた。でもそれはもはや根拠のないことだった。冷静に考えれば、ブロック構築が廃止される――廃止までする必要はないが、主要フォーマットからは外されるほうが、ずっと筋が通っている。
「特にてこ入れとかアナウンスとかもなくて、なんか淡々と開催予定から消えてるような話だったから、もう無理に維持する必要も感じてないんじゃないかな」
「でも廃止までする必要はないんじゃねえの?」 奴は言った。「MO でもカジュアルなフォーマット色々あるんだろ。モミールとかポーパーとか」
「じゃあ訊くが、エクステンディッドっていまどうなってるか知ってるかね」
「…………死んだ?」
「あれ、フォーマットとしては残ってるんじゃなかった?」
ふたりの回答は分かれた。この問いに自信を持って答えられる人はそれほど多くないのではないかと思う。
「正解は『一昨年の7月に正式に終了した』。競技フォーマットだったからサポートはされてたし、正式に終了するまでは申請すれば公認の大会も開けた。でも、プレミアイベントから外れてからは誰も見向きもしなかっただろ。ただでさえ人気があるとは言えないブロック構築がプロツアーから外れたら、まあどうなるかはお察しだ」
「ぐぬぬ」
奴はしかしなおも粘った。「でもそうなるとプロツアーの構築フォーマットってモダンとスタンダードのテレコにならねえか? それでいいのか?」
「もうなりつつあるんだよ、すでに」 僕は応じた。「ここ何年か、プロツアーはスタンダード、モダン、ブロック構築ってローテーションで開催されてた。それが、去年のニクスへの旅を最後にブロック構築のプロツアーは開催されてない。本来ブロック構築の順番だった筈のタルキール龍紀伝もスタンダードだった。グランプリも年に1回は辛うじてやってたのが今シーズンはやってない。もうはっきりしてたんだよ。気付くのが遅すぎたぐらいだ」
「でもこんな終わり方じゃあんまりじゃない?」
彼女は言った。「歴史もあるし、数々の名勝負を生んだフォーマットなのに」
「もちろんウィザーズだってこのブロック終わるまでは普通にやるつもりだったと思うよ」 僕は応じた。「今やってないのは単に卓が立たなさすぎて止めただけで、ブロック構築を終了することとは多分関係ない。」
そのふたつの事象は直接の原因は独立だが、もしかすると関係はあるかも知れない。ブロック構築をフォーマットとして想定せずにデザイン/デヴェロップされた環境ではやはりブロック構築は面白くなりようがない、という可能性は充分ある。だがいずれにしても、DE が成立しなくなってフォーマットごとフェイドアウトする、なんて結末をウィザーズが意図していたとは考えられない。
「そうかー。」 奴が珍しく本気で感慨深そうに言った。「好きだったけどなあ、ブロック構築」
「でももうここ何年もやってないだろ、ブロック構築なんて」
まあそうなんだけどさ。言いながら奴は苦笑いを浮かべた。
「それにまだ、決まったわけではないよね」
彼女がいちおう、という感じで言った。
遅くとも、秋にはすべてが判る。おそらくは夏までには正式な発表があるだろう。少しカードパワーの落ちる、狭いプールで繰り広げられるメタゲームには独特の味わいがあった。ズヴィ・モーショヴィッツも一番好きなフォーマットに挙げていたことがあった筈だ。もう二度とブロック構築シーズンが来ないのだとすれば、到底熱心なファンとは言えなかった僕にとっても、やはりいくばくかの寂しさがあるのは否めなかった。まして最後の季節が昨年のうちに終わってしまったのだとすれば、それはいささか不当過ぎる扱いのような気はするのだ。
---
このエントリは以下のエントリに触発されて書きました。だいぶ時間がかかってしまいましたが。
http://mtgmtg.diarynote.jp/201504071143234639/
【悲報】タルキール覇王譚ブロック構築、遂に消滅する -- タルキール覇王譚ブロック構築のブログ
また、MO の DE の動向については下のブログを参考にしました。
http://eiseal.diarynote.jp/
当ブログの「ポエム」というカテゴリにあるエントリは基本的に筆者の妄想であり、マジックに関することでは大きな嘘は書いていないつもりですが、内容の保証はしかねます。
コメント
時代とともに求められるフォーマットも変わるので、きっとまた新たなフォーマット(モダンのような)が現れてデッキビルダーたちのやる気を引き出してくれんではないだろうか、と思ってます。
>当ブログの「ポエム」というカテゴリにあるエントリは基本的に筆者の妄想であり
今後も期待しております。
自分は一番マジックやってた頃ということでオデッセイブロックですかね。マッドネスと黒コンとサイカトグしかない、みたいなひっでえ環境だったんですが。
新しいフォーマット、きっと作るでしょうね。ウィザーズはTCGというビジネスにおいては安寧が最大の敵だとおそらく意識していて、それが経験的に正しいことも多分知っています。構築の競技フォーマットがスタンダードとモダンだけでいいとは考えていないでしょう。一応あらためて予防線を張っておくと、ブロック構築が無くなると決まったわけではないです。
今回のねたは4月中には普通のエントリとして書き上げていて、2日ぐらいで書けたのですが、ポエムに仕立て直してたらひと月近くかかってしまいました。妄想力の低下を感じます。でもまあ、自分で読み返すときはポエムにしといた方が断然楽しいので、多分これからも書くとは思います。