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平安という花を摘むのだ
2014年1月9日 ポエム「《無視》って再録されたんだな」
奴が例によってスリーヴにも入れてないカードを無造作にシャッフルしている。どうやら M14 のパックを剥いたらしい。僕はその中にどうやらレア以上のカードが入っていないことを見てとって、他人のものなのに何故か少しほっとする。
へえ、無視なんて憶えてたんだ。
僕が素直に感心すると、奴は英語名すら言ってみせた。
《Pay No Heed》だろ。オデッセイ・ブロックのカードだったよな。ジャッジメントか?
トーメントらしいよ。おれも忘れてたけど。
奴にしては惜しかった。むしろブロックまで合っていたのは驚異的と言っていい。白らしいリミテッド向けのコンバットトリックで、一応それ以外にも用途が無くもない。軽くてシンプルで使い方に工夫が要って、渋いけどいいカードだ。再録を知って調べてみて、通常セットでは初の再録だと書かれていて結構驚かされた。
「英語名が単語3つなのに日本語が1語なのって結構珍しいよな」 奴がカードをしげしげと眺めて言う。
「そうなんだよ」
僕は肯いた。
カード名は重複が許されない。それは英語も日本語も同じだ。だから機能的なことだけ考えればカード名に関しては逐語訳がのぞましい。1単語に1語をあてるようにして、その対応に重複がないようにすることができれば、自動的にカード名の重複を防ぐことができる。
でもまあそれはあんまり現実的じゃないよね。僕は説明を続ける。変なカード名になっちゃうことも多いだろうし、そもそも日本語として成り立たないかも知れない。でも、理想としては多分それは意識してると思うんだよ。特に長いカード名に日本語で短い単語だけ、みたいな対応はなるべくしたくない筈だ。その短い単語を使いたくなるような短いカード名のカードが刷られる可能性ってそれなりにあるから。
「具体的に言うと、《Ignore》って名前のカードが刷られたらやっぱり《無視》ってつけたいよね。もっとひどいのは、もう《無視》とはつけられないからしかたなく《Ignore》には《軽視》ってつけて、そうしたら今度は《軽視》って付けたいカードが出てきて、みたいになること。」
ああ、なるほどな。一枚のカードの問題だけじゃ済まなくなるのか。
うん。最初に変な訳語当てちゃうと一対一の原則があるからめんどくさいことになる、ってのと裏返しで、意訳で対応を決めちゃうと直訳のスロットが埋まっちゃうことがあるんだよ。今ぱっと具体例思い浮かばないけど、実際のカードでも時々やらかしちゃってると思う。
あ、あとあれだ、基本セット向きのカードは短い名前にするみたいなのあったよな確か。
そうそう。当時は基本セットのカードは全部再録だったから、将来基本セットに入れたいカードはまずエキスパンションに入れてたんだよね。その時に基本セットに入るような基本的な効果のカードはなるべく短いカード名にしたい、みたいなことマローがどっかで書いてた。
この日が来ることを予想してこの日本語名にしたのか。だとしたら凄すぎるな。
そんなことないと思うけどね。でも結果的に基本セットに再録されたのは事実で、そのカードにシンプルな名前がついてるのも事実。しかもスタンダードでもちょっとだけ使われてたらしいよ。《雷口のヘルカイト》の ETB とか《忌むべき者のかがり火》とか一応これ一枚で全部防げるから。
鶴田慶之かよ。
奴が言って僕たちは笑った。当時ホビージャパン社が出していた公式ハンドブックは鶴田慶之氏が文章を担当していて、すでに競技の一線から退いて久しかった鶴田氏による、現環境とかカードパワーの水準とかに全く関係のないカード評価ががんがん書かれていた。あの頃は鼻で笑ったりくさしたりしていたけど、今になるとあれはあれで味があったのかもな、なんて思ったりもする。たしか鶴田氏が《無視》について《地震》のダメージをこれ一枚で全て軽減できる、というようなことを書いていたような記憶がある。
「いやでも、おまえが《酷暑》に《無視》決めたときの顔は今でも忘れられないよ」
「え?」
ジャッジメントかな、2体に2点ずつ飛ばせるソーサリーあっただろ。
いや酷暑はわかる。そんなこと、あったか? おまえが相手だった?
サキモトだよ。
明らかに奴は驚いた様子だった。ほんとに覚えてねえのか。今で言やドヤ顔としかいいようがねえ顔してたのに。
顔は自分じゃ見られないからなあ。
「そういうことじゃねえよ」 奴が言う。
サキモトが相手だった? 酷暑に無視を合わせて、それで彼女はどんな反応をしたんだ?
あらためて思い起こそうとしてみても僕はその事実を憶えていなかった。そんなことってあり得るものだろうか、と考えてから、まああるのかも知れないな、と思い直した。人はすべてのことを憶えていられるわけではないし、自分が好きだと思っていたもののことでも驚くほど記憶から抜けてしまうこともある。こんな風に人はいろいろなことを忘れていくのかも知れない。そう自分を納得させようとしながら、僕はなにか胸のうちをさらさらしたものが零れ落ちていくような感覚を覚えていた。
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あけましておめでとうございます。
なんとこのカテゴリ5ヶ月ぶりのようで、確かに内容的にも M14 のカードの話なんですよね。ねたは思いついたものの書き始めてすらおらず、書き始めてからも進まず、とうとう年が明けてしまいました。
ともあれ今年もぼちぼち書き継いでいきたいなとは思っていますので、よろしければおつきあいください。
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定期追記。このシリーズは「傘をひらいて、空を」というブログ(http://d.hatena.ne.jp/kasawo/)をかなりがっつりパクっています。このシリーズが気に入った方がもしいらしたら、是非リンク先もご覧になってみてください。
奴が例によってスリーヴにも入れてないカードを無造作にシャッフルしている。どうやら M14 のパックを剥いたらしい。僕はその中にどうやらレア以上のカードが入っていないことを見てとって、他人のものなのに何故か少しほっとする。
へえ、無視なんて憶えてたんだ。
僕が素直に感心すると、奴は英語名すら言ってみせた。
《Pay No Heed》だろ。オデッセイ・ブロックのカードだったよな。ジャッジメントか?
トーメントらしいよ。おれも忘れてたけど。
奴にしては惜しかった。むしろブロックまで合っていたのは驚異的と言っていい。白らしいリミテッド向けのコンバットトリックで、一応それ以外にも用途が無くもない。軽くてシンプルで使い方に工夫が要って、渋いけどいいカードだ。再録を知って調べてみて、通常セットでは初の再録だと書かれていて結構驚かされた。
「英語名が単語3つなのに日本語が1語なのって結構珍しいよな」 奴がカードをしげしげと眺めて言う。
「そうなんだよ」
僕は肯いた。
カード名は重複が許されない。それは英語も日本語も同じだ。だから機能的なことだけ考えればカード名に関しては逐語訳がのぞましい。1単語に1語をあてるようにして、その対応に重複がないようにすることができれば、自動的にカード名の重複を防ぐことができる。
でもまあそれはあんまり現実的じゃないよね。僕は説明を続ける。変なカード名になっちゃうことも多いだろうし、そもそも日本語として成り立たないかも知れない。でも、理想としては多分それは意識してると思うんだよ。特に長いカード名に日本語で短い単語だけ、みたいな対応はなるべくしたくない筈だ。その短い単語を使いたくなるような短いカード名のカードが刷られる可能性ってそれなりにあるから。
「具体的に言うと、《Ignore》って名前のカードが刷られたらやっぱり《無視》ってつけたいよね。もっとひどいのは、もう《無視》とはつけられないからしかたなく《Ignore》には《軽視》ってつけて、そうしたら今度は《軽視》って付けたいカードが出てきて、みたいになること。」
ああ、なるほどな。一枚のカードの問題だけじゃ済まなくなるのか。
うん。最初に変な訳語当てちゃうと一対一の原則があるからめんどくさいことになる、ってのと裏返しで、意訳で対応を決めちゃうと直訳のスロットが埋まっちゃうことがあるんだよ。今ぱっと具体例思い浮かばないけど、実際のカードでも時々やらかしちゃってると思う。
あ、あとあれだ、基本セット向きのカードは短い名前にするみたいなのあったよな確か。
そうそう。当時は基本セットのカードは全部再録だったから、将来基本セットに入れたいカードはまずエキスパンションに入れてたんだよね。その時に基本セットに入るような基本的な効果のカードはなるべく短いカード名にしたい、みたいなことマローがどっかで書いてた。
この日が来ることを予想してこの日本語名にしたのか。だとしたら凄すぎるな。
そんなことないと思うけどね。でも結果的に基本セットに再録されたのは事実で、そのカードにシンプルな名前がついてるのも事実。しかもスタンダードでもちょっとだけ使われてたらしいよ。《雷口のヘルカイト》の ETB とか《忌むべき者のかがり火》とか一応これ一枚で全部防げるから。
鶴田慶之かよ。
奴が言って僕たちは笑った。当時ホビージャパン社が出していた公式ハンドブックは鶴田慶之氏が文章を担当していて、すでに競技の一線から退いて久しかった鶴田氏による、現環境とかカードパワーの水準とかに全く関係のないカード評価ががんがん書かれていた。あの頃は鼻で笑ったりくさしたりしていたけど、今になるとあれはあれで味があったのかもな、なんて思ったりもする。たしか鶴田氏が《無視》について《地震》のダメージをこれ一枚で全て軽減できる、というようなことを書いていたような記憶がある。
「いやでも、おまえが《酷暑》に《無視》決めたときの顔は今でも忘れられないよ」
「え?」
ジャッジメントかな、2体に2点ずつ飛ばせるソーサリーあっただろ。
いや酷暑はわかる。そんなこと、あったか? おまえが相手だった?
サキモトだよ。
明らかに奴は驚いた様子だった。ほんとに覚えてねえのか。今で言やドヤ顔としかいいようがねえ顔してたのに。
顔は自分じゃ見られないからなあ。
「そういうことじゃねえよ」 奴が言う。
サキモトが相手だった? 酷暑に無視を合わせて、それで彼女はどんな反応をしたんだ?
あらためて思い起こそうとしてみても僕はその事実を憶えていなかった。そんなことってあり得るものだろうか、と考えてから、まああるのかも知れないな、と思い直した。人はすべてのことを憶えていられるわけではないし、自分が好きだと思っていたもののことでも驚くほど記憶から抜けてしまうこともある。こんな風に人はいろいろなことを忘れていくのかも知れない。そう自分を納得させようとしながら、僕はなにか胸のうちをさらさらしたものが零れ落ちていくような感覚を覚えていた。
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あけましておめでとうございます。
なんとこのカテゴリ5ヶ月ぶりのようで、確かに内容的にも M14 のカードの話なんですよね。ねたは思いついたものの書き始めてすらおらず、書き始めてからも進まず、とうとう年が明けてしまいました。
ともあれ今年もぼちぼち書き継いでいきたいなとは思っていますので、よろしければおつきあいください。
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定期追記。このシリーズは「傘をひらいて、空を」というブログ(http://d.hatena.ne.jp/kasawo/)をかなりがっつりパクっています。このシリーズが気に入った方がもしいらしたら、是非リンク先もご覧になってみてください。
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