翻訳:アグロ(前編)/パウロ・ヴィトフ・ダモ・ダ・ホサ
2013年8月25日 翻訳原文:PV’s Playhouse - Aggro
http://www.channelfireball.com/articles/pvs-playhouse-aggro/
2012-03-29
こんにちは!
今回から新しいシリーズを始めようと思います。マジックのデッキのマクロ・アーキタイプ——つまり「アグロ」「コントロール」「コンボ」、そして言及する余裕があれば「アグロコントロール」や「中速」(みなさんが知りたいと思うかどうかは知りませんが)——について、少し細かいことまで語ってみるつもりです。基本的には、このシリーズではデッキの構築とプレイングを中心に書いていくつもりです。第1回の今日はアグロをとりあげたいと思います。特に理由はありません、なんとなくアグロについて書きたい気分だからです。
まず忘れないでほしいのは、こうしてデッキをカテゴライズしたとはいえ、同一カテゴリ内であってもそれぞれにデッキは異なるということです。すべてのデッキは、ひとつひとつ違うプレイングが必要です。というかむしろ、同じデッキであっても、プレイングはゲームごとに変えなければなりません。でも、とにかく一般化は必要ですし、だとすればこれが一番いいやり方に思えます。少なくとも同じカテゴリの中のデッキの方が、違うカテゴリのデッキよりは似ているという風にはできますからね。まあ能書きはこのくらいにして、始めましょう!
1996年のことから語りたいと思います——私がマジックを始めた年ですね。この時点では私は全くのどボンクラで、マジックについてはなにもわかっていませんでした(というか、ほんとのところあらゆることについてなにもわかってませんでした。なにしろまだ8歳だったのです)。それでもわずかに知っていたことのひとつは、カードパワーが高いのはいいことだということでした。わたしはとにかく持っている中で一番強いカードをプレイしたくてしょうがなくて、マナコストなんてなんの問題でもないと思ってました。むしろ、高いコストは魅力的にすら見えました。なんたってコストが高いカードは強いですからね。私は友人が持っていた《機械仕掛けの獣》を今でも憶えています。あの頃どれほどあのカードが欲しかったことか。
しかし時は下り、いつだったかは憶えていませんが、その対戦相手は現実の厳しさを私の顔にたたきつけてくれました。私はひとつたりともスペルを唱えられないうちに負けてしまったのです——その経験こそが、私にマナカーヴの重要さを教えてくれた最初の一歩でした。《マハモティ・ジン》は強いカードですが、もし私がそれを唱えることができるようになるまえにちっぽけな敵たちに踏みつぶされてしまったら、なんの役にも立たないのです。その同じ年に、ポール・スライ Paul Sligh という男がマジックプレイヤー全員の顔に私が喰らったのと同じ現実をたたきつけました。(*1) つまり、当時はまったく実戦レベルではないと考えられていたカードが山のように詰め込まれたデッキで、プロツアー予選を準優勝したのです:
メインデッキ
2 《ドワーフ都市の廃墟/Dwarven Ruins》
4 《ミシュラの工廠/Mishra’s Factory》
13 《山/Mountain》
4 《露天鉱床/Strip Mine》
4 《真鍮人間/Brass Man》
2 《火の兄弟/Brothers of Fire》
2 《チビ・ドラゴン/Dragon Whelp》
3 《Dwarven Lieutenant》
2 《Dwarven Trader》
2 《フラーグのゴブリン/Goblins of the Flarg》
4 《鉄爪のオーク/Ironclaw Orcs》
2 《オーク弩弓隊/Orcish Artillery》
2 《Orcish Cannoneers》
2 《オークの司書/Orcish Librarian》
1 《黒の万力/Black Vise》
1 《爆破/Detonate》
1 《火の玉/Fireball》
1 《炎の供犠/Immolation》
4 《火葬/Incinerate》
4 《稲妻/Lightning Bolt》
1 《粉砕/Shatter》
サイドボード
3 《活火山/Active Volcano》
1 《An-Zerrin Ruins》
1 《爆破/Detonate》
1 《火の玉/Fireball》
4 《魔力のとげ/Manabarbs》
1 《弱者の石/Meekstone》
2 《鋸刃の矢/Serrated Arrows》
1 《粉砕/Shatter》
1 《Zuran Orb》
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(*1) ポール・スライという男が 〜 たたきつけました。
広く知られている事実だとは思うが書いておくと、この時の「スライのデッキ」のデザイナーはジェイ・シュナイダー Jay Schneider である。ポール・スライの名はマジック史上この1回しか登場しないが、その1回のために今日にまで知られる名前になった。
当時のトーナメントはシングルエリミネーションだったことにも注意されたい。
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「スライ」はマジック史上もっとも有名なアグロ・デッキでしょう。同じく 1996 年から存在する“ザ・デック”と同じ立ち位置にあるアグロ側のデッキと言えます。スライのデッキは新しいコンセプトを生み出しました。カードパワーの高さがデッキの強さを決めるのではないということ——少なくとも、カードパワーだけが唯一の王ではなく、私たちは今やスタニス・バラシオン(*2)マナ・カーヴという評価軸を持っています。
今日ではマナ・カーヴはビートダウン・デッキの基本中の基本になっています——他のことは忘れたとしてもこれだけは絶対に頭に入れてください。アグロ・デッキを組む上でもっともありがちなミスはマナ・カーヴを高くしてしまうことですし、アグロ・デッキを倒す一番簡単な方法はマナ・カーヴに沿った展開を阻害することです。
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(*2)スタニス・バラシオン Stannis Baratheon
ジョージ・R・R・マーティンの大河小説『炎と氷の歌』シリーズの登場人物。原文では one in which power was not the king - or at least not the only king, as we now have Stannis Baratheonmana curve という流れで登場する。王位継承権を持つ人物らしい(?)ので、もしかすると作中に ’we now have Stannis Baratheon’ というような科白が登場するのかも知れない。未読なのでこれ以上はご勘弁。
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一般的に、アグロ・デッキはそれ以外のデッキほどカードパワーが高くなく、より状況を選ぶカードがたくさん入っています。ここでの「状況を選ぶ」というのは一般的な意味ではありません。このことによってアグロ・デッキのカードは序盤では実に有用なシナジーを形成しますが、ゲームが進むにつれてだんだん役に立たなくなっていきます。ふつうシナジーの豊富なデッキは後半の方が有利だと考えるでしょう。リソースが多い方がシナジーも大きくなりますから。しかしアグロにはそれは当てはまりません。そんなわけで、ゴールラインが設定されます——デッキの弱点が露呈する前に、勝負をつけてしまわなければなりません。攻撃的なデッキでは、序盤にこそ集中する必要があります。序盤こそがアグロデッキの土俵です。こちらのカードはゲームの序盤には他のどんなデッキよりも強く、逆に長引けば相手のカードの方が上回ります。相手が全てのリソースをプレイする前に勝ちきってしまいたいところです。もし相手が手札に《タイタン》を持っていても、唱えられないうちに死んでしまえばなんにもなりませんからね。
アグロデッキには大別して2種類あります。直接攻撃を持つデッキと、持たないデッキです。
直接攻撃のあるアグロデッキ
このタイプはアグロデッキの中で最良のものです。他のタイプに比べてぶん回りでの勝ち(*3)が多く、ぶん回りでの負け(*3)が少ないからです。直接攻撃というのは、対戦相手がこちらの序盤の脅威を全部対処してしまってから、なお相手にとどめを刺せる手段のことで、通常は火力です。もちろん、たいていの火力はクリーチャーを除去するのにも使えます。しかし、火力呪文を使っているときにもっとも重要なことは私が考えるところの“バーン・フェイズ”——つまりあとは本体火力しか相手に届かない状況があることです。デッキ内の火力が少ないと“バーン・フェイズ”にたどり着くのは遅くなり、そこまでにより多くのライフを減らすことができますが、しかしその残り少ないライフを削るにも足りない火力しか手札に来ない恐れがあります。逆に火力が多すぎると、あまりにも早い段階で“バーン・フェイズ”に突入してしまい、いくら火力が多くても削りきれないほどライフが残っている可能性があります。デッキによって直接攻撃の射程は異なりますが、赤が入っているアグロデッキの多くは8枚から 12 枚の火力をとっています。
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(*3) ぶん回りでの勝ち/ぶん回りでの負け
それぞれ free win、free lose。あとで free loss という言葉は登場していて、そこでは「殆ど何もできないで負けること」。
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今現在、直接攻撃のあるアグロデッキの殆どはモダン環境で見られます。「ズー」「ボロス」「(《爆片波》の入った)親和」などです。マジック史上の大抵の期間において、最良のクリーチャーは火力や除去とは違う色に配されてきました。そのためにアグロデッキのマナ・ベースは非常に繊細なものです(とにかくゲームの初期に充分な呪文をプレイできなければなりません。そうできなければ負けです)。ですから、良質のクリーチャーと火力を擁するデッキというのは土地が強力なフォーマットでより多く見られるということになるわけです。「ズー」はたぶん今日ではもっとも有名な直接攻撃のあるアグロデッキでしょう。ここでは(*4)の最新版のリストを載せることにします。(この記事内のリストは私が説明に使うために載せているもので、必ずしもおすすめのデッキというわけではありません)
4 《稲妻/Lightning Bolt》
4 《流刑への道/Path to Exile》
3 《炎の印章/Seal of Fire》
4 《渋面の溶岩使い/Grim Lavamancer》
4 《密林の猿人/Kird Ape》
4 《壌土のライオン/Loam Lion》
4 《ステップのオオヤマネコ/Steppe Lynx》
4 《稲妻のらせん/Lightning Helix》
4 《タルモゴイフ/Tarmogoyf》
4 《スレイベンの守護者、サリア/Thalia, Guardian of Thraben》
4 《湿地の干潟/Marsh Flats》
4 《沸騰する小湖/Scalding Tarn》
4 《乾燥台地/Arid Mesa》
2 《霧深い雨林/Misty Rainforest》
2 《踏み鳴らされる地/Stomping Ground》
2 《聖なる鋳造所/Sacred Foundry》
1 《寺院の庭/Temple Garden》
1 《山/Mountain》
1 《平地/Plains》
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(*4) オーウェン
オーウェン・ターテンワルド Owen Turtenwald のこと。筆者(PV)のチームメイト。CFB のサイトでは ’Owen’s a win’ を連載している。
昨年(2012年)のプレイヤー選手権の質問コーナーで一番好きな本は何かという問いに『蝿の王』と答えていたことで(おれの中では)知られる。
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このオーウェンのリストは一般的なものよりやや低マナ域に寄せてあって、1マナクリーチャーが 16 枚入っていますが、これはメタゲームによるものですし、シーズンごとに変化するものです。
スタンダードでは、直接攻撃を持つアグロデッキはふたつだけあります。ただしどちらにも直接攻撃は殆ど入っておらず、単なるアグロデッキと言ってもいいほどです。そのふたつというのは「ゾンビ」と「赤緑」です。
2 《迫撃鞘/Mortarpod》
1 《虚無の呪文爆弾/Nihil Spellbomb》
1 《戦争と平和の剣/Sword of War and Peace》
1 《ファイレクシアの変形者/Phyrexian Metamorph》
4 《戦墓のグール/Diregraf Ghoul》
4 《ゲラルフの伝書使/Geralf’s Messenger》
4 《墓所這い/Gravecrawler》
4 《幻影の像/Phantasmal Image》
4 《ファイレクシアの抹消者/Phyrexian Obliterator》
4 《ゲスの評決/Geth’s Verdict》
4 《悲劇的な過ち/Tragic Slip》
1 《ヴェールのリリアナ/Liliana of the Veil》
4 《困窮/Distress》
14 《沼/Swamp》
4 《闇滑りの岸/Darkslick Shores》
4 《水没した地下墓地/Drowned Catacomb》
直近の SCG スタンダードトーナメントで優勝したデッキリストです。このデッキの直接攻撃は2枚の《迫撃鞘》、4枚の《ゲラルフの伝書使》、そして後者をコピーする5枚のカードです(《ゲスの評決》も一応含めていいかも知れません)。これは多いとは言えませんが、無いのとは全然違ってきます。こういうデッキは最後の数点をブロッカー越しに削り切ることで多くのゲームをものにするのです。黒赤のヴァージョンだとクローン系のカードが減りますが、《硫黄の流弾》が入り、直接攻撃は増えます。
赤緑のデッキについてはクアラルンプールのジェイソン・ヤップ Jason Yap(*5)のデッキが参考になるでしょう:
4 《銅線の地溝/Copperline Gorge》
7 《森/Forest》
2 《ケッシグの狼の地/Kessig Wolf Run》
6 《山/Mountain》
4 《根縛りの岩山/Rootbound Crag》
1 《酸のスライム/Acidic Slime》
4 《極楽鳥/Birds of Paradise》
3 《地獄乗り/Hellrider》
4 《高原の狩りの達人/Huntmaster of the Fells》
3 《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》
2 《ファイレクシアの変形者/Phyrexian Metamorph》
4 《絡み根の霊/Strangleroot Geist》
1 《最後のトロール、スラーン/Thrun, the Last Troll》
4 《感電破/Galvanic Blast》
3 《緑の太陽の頂点/Green Sun’s Zenith》
3 《火葬/Incinerate》
1 《赤の太陽の頂点/Red Sun’s Zenith》
1 《饗宴と飢餓の剣/Sword of Feast and Famine》
3 《戦争と平和の剣/Sword of War and Peace》
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(*5) ジェイソン・ヤップ
マレーシアのプレイヤー。この GP クアラルンプール 2012 で8位入賞し、それが唯一の GP/PT トップ8と思われる。トップ8インタヴューでは「もしこのデッキをもう一度使うならどこを直したい?」という問いに「全部このままで行くよ! 素晴らしいデッキだ」と答えていたが準々決勝で敗れた。
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このデッキには《火葬》《感電破》といった火力と、火力に準じたカードとして《地獄乗り》《高原の狩りの達人》が入っています。そして殆ど直接攻撃と言える強力なカード、《ケッシグの狼の地》を擁しています。これは除去ではありませんが、巨大なブロッカーを突破させてくれます。
世の中には「バーン」と呼ばれるデッキもあります。これはゲームが始まるなり“バーン・フェイズ”に突入するデッキです。基本的にはひどいデッキタイプです。最大の問題は、デッキに入っているあらゆるカードが(相手に止めを刺せる)7枚目以外はなんの役にも立たないということです。もし相手のライフが8だったら、《稲妻》はなんの役にも立ちません。3枚まとめて引いて初めて3枚ともが役に立つのです。対戦相手は「バーン」使いが唱える6枚目の呪文までは完全に無視することができます。そしてもし相手が止めの一撃を防ぐ手段を手に入れてしまえば、「バーン」側はなにもしなかったのと同じことです。実際のところ、「バーン」デッキはアグロ・デッキよりもコンボ・デッキに近いかも知れません(特定のリソースが一定枚数必要で、それが揃えば勝つし揃わなければ負けるので)。しかしまあ、いずれにしてもまったくプレイするには値しないデッキなので、どっちに近かろうと知ったことではありません。
直接攻撃のないアグロ・デッキ
直接攻撃を持たないアグロ・デッキは大抵白か緑を中心に組まれていて、赤は入っていません。基本的なコンセプトとしてはこういうデッキは駄目です。私の最近のデッキ選択を見ていただければおわかりかと思うのですが。
これらのデッキは“バーン・フェイズ”には入りにくいように作られているのですが、ひとたび突入してしまえば破滅が待っています。まあ、だって、火力が入ってないんですからね。火力がないために、このデッキには“ただ負け”がしばしば起こります。つまり殆どなにもできないままゲームを落としてしまうということです。もし《稲妻》がデッキに入っていれば、たまたまそれを固め引きするだけでゲームに勝ってしまうということが起こり得ます(それが《部族の炎》みたいなカードだったら、対戦相手に安全圏は殆どありません)。でも、直接攻撃のないデッキだと、盤面で行き詰まったら死ぬしかありませんし、対戦相手もそれを知っているのです! もし火力がデッキに入っていれば、対戦相手はトン死を防ぐためにひどいプレイとわかっていてもライフを守らざるを得ない状況があります。たとえ実際には手札に火力を持っていなかったとしても、です。ところが《平地》しか並べていないとしたら、対戦相手は喜んでライフを2点まで削らせてそれから悠々勝つでしょう。それだけ相手を楽にしてしまっているわけです。さらによろしくないことには、そういう緑白ベースのデッキは、基本的に対戦相手がやろうとしてることを妨害する手段をいっさい持っていません。できることと言えば祈ることぐらいなのです——相手のしようとしてることは僕のデッキを止めるのには力不足でありますように。もしくは僕のデッキを止められるようになる前に相手を倒してしまえますように。
このタイプの典型的なデッキは「白ウィニー」なのですが、人間たちは最近全然ぱっとしないので、ここでは私たちが世界選手権で使った「《鍛えられた鋼》」デッキを紹介しましょう。
4 《墨蛾の生息地/Inkmoth Nexus》
2 《ムーアランドの憑依地/Moorland Haunt》
9 《平地/Plains》
4 《金属海の沿岸/Seachrome Coast》
4 《刻まれた勇者/Etched Champion》
4 《きらめく鷹/Glint Hawk》
4 《メムナイト/Memnite》
1 《月皇ミケウス/Mikaeus, the Lunarch》
4 《信号の邪魔者/Signal Pest》
4 《大霊堂のスカージ/Vault Skirge》
4 《急送/Dispatch》
4 《きらめく鷹の偶像/Glint Hawk Idol》
4 《オパールのモックス/Mox Opal》
4 《起源の呪文爆弾/Origin Spellbomb》
4 《鍛えられた鋼/Tempered Steel》
このデッキが非常に速く、シナジーに満ちていて、すぐにリソースが尽きることは見ただけでわかるでしょう。序盤にゲームを決め損ねた場合の勝ち筋は《墨蛾の生息地》しかありません。直接攻撃のないアグロ・デッキを使うのは、常にメタゲームの上では賭けになります。いくつかのデッキにはだいたい勝てますが、決して勝てない相手も少なくありませんし、できることと言えばその勝てない相手があんまり多くありませんように祈ることぐらいです。言うまでもありませんが、私はこういう戦略は好きではありません。この手のデッキに触るのはよほどメタゲームを読み切った自信があるときだけです。
→後編に続く
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2012-03-29
こんにちは!
今回から新しいシリーズを始めようと思います。マジックのデッキのマクロ・アーキタイプ——つまり「アグロ」「コントロール」「コンボ」、そして言及する余裕があれば「アグロコントロール」や「中速」(みなさんが知りたいと思うかどうかは知りませんが)——について、少し細かいことまで語ってみるつもりです。基本的には、このシリーズではデッキの構築とプレイングを中心に書いていくつもりです。第1回の今日はアグロをとりあげたいと思います。特に理由はありません、なんとなくアグロについて書きたい気分だからです。
まず忘れないでほしいのは、こうしてデッキをカテゴライズしたとはいえ、同一カテゴリ内であってもそれぞれにデッキは異なるということです。すべてのデッキは、ひとつひとつ違うプレイングが必要です。というかむしろ、同じデッキであっても、プレイングはゲームごとに変えなければなりません。でも、とにかく一般化は必要ですし、だとすればこれが一番いいやり方に思えます。少なくとも同じカテゴリの中のデッキの方が、違うカテゴリのデッキよりは似ているという風にはできますからね。まあ能書きはこのくらいにして、始めましょう!
1996年のことから語りたいと思います——私がマジックを始めた年ですね。この時点では私は全くのどボンクラで、マジックについてはなにもわかっていませんでした(というか、ほんとのところあらゆることについてなにもわかってませんでした。なにしろまだ8歳だったのです)。それでもわずかに知っていたことのひとつは、カードパワーが高いのはいいことだということでした。わたしはとにかく持っている中で一番強いカードをプレイしたくてしょうがなくて、マナコストなんてなんの問題でもないと思ってました。むしろ、高いコストは魅力的にすら見えました。なんたってコストが高いカードは強いですからね。私は友人が持っていた《機械仕掛けの獣》を今でも憶えています。あの頃どれほどあのカードが欲しかったことか。
しかし時は下り、いつだったかは憶えていませんが、その対戦相手は現実の厳しさを私の顔にたたきつけてくれました。私はひとつたりともスペルを唱えられないうちに負けてしまったのです——その経験こそが、私にマナカーヴの重要さを教えてくれた最初の一歩でした。《マハモティ・ジン》は強いカードですが、もし私がそれを唱えることができるようになるまえにちっぽけな敵たちに踏みつぶされてしまったら、なんの役にも立たないのです。その同じ年に、ポール・スライ Paul Sligh という男がマジックプレイヤー全員の顔に私が喰らったのと同じ現実をたたきつけました。(*1) つまり、当時はまったく実戦レベルではないと考えられていたカードが山のように詰め込まれたデッキで、プロツアー予選を準優勝したのです:
メインデッキ
2 《ドワーフ都市の廃墟/Dwarven Ruins》
4 《ミシュラの工廠/Mishra’s Factory》
13 《山/Mountain》
4 《露天鉱床/Strip Mine》
4 《真鍮人間/Brass Man》
2 《火の兄弟/Brothers of Fire》
2 《チビ・ドラゴン/Dragon Whelp》
3 《Dwarven Lieutenant》
2 《Dwarven Trader》
2 《フラーグのゴブリン/Goblins of the Flarg》
4 《鉄爪のオーク/Ironclaw Orcs》
2 《オーク弩弓隊/Orcish Artillery》
2 《Orcish Cannoneers》
2 《オークの司書/Orcish Librarian》
1 《黒の万力/Black Vise》
1 《爆破/Detonate》
1 《火の玉/Fireball》
1 《炎の供犠/Immolation》
4 《火葬/Incinerate》
4 《稲妻/Lightning Bolt》
1 《粉砕/Shatter》
サイドボード
3 《活火山/Active Volcano》
1 《An-Zerrin Ruins》
1 《爆破/Detonate》
1 《火の玉/Fireball》
4 《魔力のとげ/Manabarbs》
1 《弱者の石/Meekstone》
2 《鋸刃の矢/Serrated Arrows》
1 《粉砕/Shatter》
1 《Zuran Orb》
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(*1) ポール・スライという男が 〜 たたきつけました。
広く知られている事実だとは思うが書いておくと、この時の「スライのデッキ」のデザイナーはジェイ・シュナイダー Jay Schneider である。ポール・スライの名はマジック史上この1回しか登場しないが、その1回のために今日にまで知られる名前になった。
当時のトーナメントはシングルエリミネーションだったことにも注意されたい。
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「スライ」はマジック史上もっとも有名なアグロ・デッキでしょう。同じく 1996 年から存在する“ザ・デック”と同じ立ち位置にあるアグロ側のデッキと言えます。スライのデッキは新しいコンセプトを生み出しました。カードパワーの高さがデッキの強さを決めるのではないということ——少なくとも、カードパワーだけが唯一の王ではなく、私たちは今やスタニス・バラシオン(*2)マナ・カーヴという評価軸を持っています。
今日ではマナ・カーヴはビートダウン・デッキの基本中の基本になっています——他のことは忘れたとしてもこれだけは絶対に頭に入れてください。アグロ・デッキを組む上でもっともありがちなミスはマナ・カーヴを高くしてしまうことですし、アグロ・デッキを倒す一番簡単な方法はマナ・カーヴに沿った展開を阻害することです。
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(*2)スタニス・バラシオン Stannis Baratheon
ジョージ・R・R・マーティンの大河小説『炎と氷の歌』シリーズの登場人物。原文では one in which power was not the king - or at least not the only king, as we now have Stannis Baratheonmana curve という流れで登場する。王位継承権を持つ人物らしい(?)ので、もしかすると作中に ’we now have Stannis Baratheon’ というような科白が登場するのかも知れない。未読なのでこれ以上はご勘弁。
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一般的に、アグロ・デッキはそれ以外のデッキほどカードパワーが高くなく、より状況を選ぶカードがたくさん入っています。ここでの「状況を選ぶ」というのは一般的な意味ではありません。このことによってアグロ・デッキのカードは序盤では実に有用なシナジーを形成しますが、ゲームが進むにつれてだんだん役に立たなくなっていきます。ふつうシナジーの豊富なデッキは後半の方が有利だと考えるでしょう。リソースが多い方がシナジーも大きくなりますから。しかしアグロにはそれは当てはまりません。そんなわけで、ゴールラインが設定されます——デッキの弱点が露呈する前に、勝負をつけてしまわなければなりません。攻撃的なデッキでは、序盤にこそ集中する必要があります。序盤こそがアグロデッキの土俵です。こちらのカードはゲームの序盤には他のどんなデッキよりも強く、逆に長引けば相手のカードの方が上回ります。相手が全てのリソースをプレイする前に勝ちきってしまいたいところです。もし相手が手札に《タイタン》を持っていても、唱えられないうちに死んでしまえばなんにもなりませんからね。
アグロデッキには大別して2種類あります。直接攻撃を持つデッキと、持たないデッキです。
直接攻撃のあるアグロデッキ
このタイプはアグロデッキの中で最良のものです。他のタイプに比べてぶん回りでの勝ち(*3)が多く、ぶん回りでの負け(*3)が少ないからです。直接攻撃というのは、対戦相手がこちらの序盤の脅威を全部対処してしまってから、なお相手にとどめを刺せる手段のことで、通常は火力です。もちろん、たいていの火力はクリーチャーを除去するのにも使えます。しかし、火力呪文を使っているときにもっとも重要なことは私が考えるところの“バーン・フェイズ”——つまりあとは本体火力しか相手に届かない状況があることです。デッキ内の火力が少ないと“バーン・フェイズ”にたどり着くのは遅くなり、そこまでにより多くのライフを減らすことができますが、しかしその残り少ないライフを削るにも足りない火力しか手札に来ない恐れがあります。逆に火力が多すぎると、あまりにも早い段階で“バーン・フェイズ”に突入してしまい、いくら火力が多くても削りきれないほどライフが残っている可能性があります。デッキによって直接攻撃の射程は異なりますが、赤が入っているアグロデッキの多くは8枚から 12 枚の火力をとっています。
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(*3) ぶん回りでの勝ち/ぶん回りでの負け
それぞれ free win、free lose。あとで free loss という言葉は登場していて、そこでは「殆ど何もできないで負けること」。
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今現在、直接攻撃のあるアグロデッキの殆どはモダン環境で見られます。「ズー」「ボロス」「(《爆片波》の入った)親和」などです。マジック史上の大抵の期間において、最良のクリーチャーは火力や除去とは違う色に配されてきました。そのためにアグロデッキのマナ・ベースは非常に繊細なものです(とにかくゲームの初期に充分な呪文をプレイできなければなりません。そうできなければ負けです)。ですから、良質のクリーチャーと火力を擁するデッキというのは土地が強力なフォーマットでより多く見られるということになるわけです。「ズー」はたぶん今日ではもっとも有名な直接攻撃のあるアグロデッキでしょう。ここでは(*4)の最新版のリストを載せることにします。(この記事内のリストは私が説明に使うために載せているもので、必ずしもおすすめのデッキというわけではありません)
4 《稲妻/Lightning Bolt》
4 《流刑への道/Path to Exile》
3 《炎の印章/Seal of Fire》
4 《渋面の溶岩使い/Grim Lavamancer》
4 《密林の猿人/Kird Ape》
4 《壌土のライオン/Loam Lion》
4 《ステップのオオヤマネコ/Steppe Lynx》
4 《稲妻のらせん/Lightning Helix》
4 《タルモゴイフ/Tarmogoyf》
4 《スレイベンの守護者、サリア/Thalia, Guardian of Thraben》
4 《湿地の干潟/Marsh Flats》
4 《沸騰する小湖/Scalding Tarn》
4 《乾燥台地/Arid Mesa》
2 《霧深い雨林/Misty Rainforest》
2 《踏み鳴らされる地/Stomping Ground》
2 《聖なる鋳造所/Sacred Foundry》
1 《寺院の庭/Temple Garden》
1 《山/Mountain》
1 《平地/Plains》
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(*4) オーウェン
オーウェン・ターテンワルド Owen Turtenwald のこと。筆者(PV)のチームメイト。CFB のサイトでは ’Owen’s a win’ を連載している。
昨年(2012年)のプレイヤー選手権の質問コーナーで一番好きな本は何かという問いに『蝿の王』と答えていたことで(おれの中では)知られる。
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このオーウェンのリストは一般的なものよりやや低マナ域に寄せてあって、1マナクリーチャーが 16 枚入っていますが、これはメタゲームによるものですし、シーズンごとに変化するものです。
スタンダードでは、直接攻撃を持つアグロデッキはふたつだけあります。ただしどちらにも直接攻撃は殆ど入っておらず、単なるアグロデッキと言ってもいいほどです。そのふたつというのは「ゾンビ」と「赤緑」です。
2 《迫撃鞘/Mortarpod》
1 《虚無の呪文爆弾/Nihil Spellbomb》
1 《戦争と平和の剣/Sword of War and Peace》
1 《ファイレクシアの変形者/Phyrexian Metamorph》
4 《戦墓のグール/Diregraf Ghoul》
4 《ゲラルフの伝書使/Geralf’s Messenger》
4 《墓所這い/Gravecrawler》
4 《幻影の像/Phantasmal Image》
4 《ファイレクシアの抹消者/Phyrexian Obliterator》
4 《ゲスの評決/Geth’s Verdict》
4 《悲劇的な過ち/Tragic Slip》
1 《ヴェールのリリアナ/Liliana of the Veil》
4 《困窮/Distress》
14 《沼/Swamp》
4 《闇滑りの岸/Darkslick Shores》
4 《水没した地下墓地/Drowned Catacomb》
直近の SCG スタンダードトーナメントで優勝したデッキリストです。このデッキの直接攻撃は2枚の《迫撃鞘》、4枚の《ゲラルフの伝書使》、そして後者をコピーする5枚のカードです(《ゲスの評決》も一応含めていいかも知れません)。これは多いとは言えませんが、無いのとは全然違ってきます。こういうデッキは最後の数点をブロッカー越しに削り切ることで多くのゲームをものにするのです。黒赤のヴァージョンだとクローン系のカードが減りますが、《硫黄の流弾》が入り、直接攻撃は増えます。
赤緑のデッキについてはクアラルンプールのジェイソン・ヤップ Jason Yap(*5)のデッキが参考になるでしょう:
4 《銅線の地溝/Copperline Gorge》
7 《森/Forest》
2 《ケッシグの狼の地/Kessig Wolf Run》
6 《山/Mountain》
4 《根縛りの岩山/Rootbound Crag》
1 《酸のスライム/Acidic Slime》
4 《極楽鳥/Birds of Paradise》
3 《地獄乗り/Hellrider》
4 《高原の狩りの達人/Huntmaster of the Fells》
3 《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》
2 《ファイレクシアの変形者/Phyrexian Metamorph》
4 《絡み根の霊/Strangleroot Geist》
1 《最後のトロール、スラーン/Thrun, the Last Troll》
4 《感電破/Galvanic Blast》
3 《緑の太陽の頂点/Green Sun’s Zenith》
3 《火葬/Incinerate》
1 《赤の太陽の頂点/Red Sun’s Zenith》
1 《饗宴と飢餓の剣/Sword of Feast and Famine》
3 《戦争と平和の剣/Sword of War and Peace》
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(*5) ジェイソン・ヤップ
マレーシアのプレイヤー。この GP クアラルンプール 2012 で8位入賞し、それが唯一の GP/PT トップ8と思われる。トップ8インタヴューでは「もしこのデッキをもう一度使うならどこを直したい?」という問いに「全部このままで行くよ! 素晴らしいデッキだ」と答えていたが準々決勝で敗れた。
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このデッキには《火葬》《感電破》といった火力と、火力に準じたカードとして《地獄乗り》《高原の狩りの達人》が入っています。そして殆ど直接攻撃と言える強力なカード、《ケッシグの狼の地》を擁しています。これは除去ではありませんが、巨大なブロッカーを突破させてくれます。
世の中には「バーン」と呼ばれるデッキもあります。これはゲームが始まるなり“バーン・フェイズ”に突入するデッキです。基本的にはひどいデッキタイプです。最大の問題は、デッキに入っているあらゆるカードが(相手に止めを刺せる)7枚目以外はなんの役にも立たないということです。もし相手のライフが8だったら、《稲妻》はなんの役にも立ちません。3枚まとめて引いて初めて3枚ともが役に立つのです。対戦相手は「バーン」使いが唱える6枚目の呪文までは完全に無視することができます。そしてもし相手が止めの一撃を防ぐ手段を手に入れてしまえば、「バーン」側はなにもしなかったのと同じことです。実際のところ、「バーン」デッキはアグロ・デッキよりもコンボ・デッキに近いかも知れません(特定のリソースが一定枚数必要で、それが揃えば勝つし揃わなければ負けるので)。しかしまあ、いずれにしてもまったくプレイするには値しないデッキなので、どっちに近かろうと知ったことではありません。
直接攻撃のないアグロ・デッキ
直接攻撃を持たないアグロ・デッキは大抵白か緑を中心に組まれていて、赤は入っていません。基本的なコンセプトとしてはこういうデッキは駄目です。私の最近のデッキ選択を見ていただければおわかりかと思うのですが。
これらのデッキは“バーン・フェイズ”には入りにくいように作られているのですが、ひとたび突入してしまえば破滅が待っています。まあ、だって、火力が入ってないんですからね。火力がないために、このデッキには“ただ負け”がしばしば起こります。つまり殆どなにもできないままゲームを落としてしまうということです。もし《稲妻》がデッキに入っていれば、たまたまそれを固め引きするだけでゲームに勝ってしまうということが起こり得ます(それが《部族の炎》みたいなカードだったら、対戦相手に安全圏は殆どありません)。でも、直接攻撃のないデッキだと、盤面で行き詰まったら死ぬしかありませんし、対戦相手もそれを知っているのです! もし火力がデッキに入っていれば、対戦相手はトン死を防ぐためにひどいプレイとわかっていてもライフを守らざるを得ない状況があります。たとえ実際には手札に火力を持っていなかったとしても、です。ところが《平地》しか並べていないとしたら、対戦相手は喜んでライフを2点まで削らせてそれから悠々勝つでしょう。それだけ相手を楽にしてしまっているわけです。さらによろしくないことには、そういう緑白ベースのデッキは、基本的に対戦相手がやろうとしてることを妨害する手段をいっさい持っていません。できることと言えば祈ることぐらいなのです——相手のしようとしてることは僕のデッキを止めるのには力不足でありますように。もしくは僕のデッキを止められるようになる前に相手を倒してしまえますように。
このタイプの典型的なデッキは「白ウィニー」なのですが、人間たちは最近全然ぱっとしないので、ここでは私たちが世界選手権で使った「《鍛えられた鋼》」デッキを紹介しましょう。
4 《墨蛾の生息地/Inkmoth Nexus》
2 《ムーアランドの憑依地/Moorland Haunt》
9 《平地/Plains》
4 《金属海の沿岸/Seachrome Coast》
4 《刻まれた勇者/Etched Champion》
4 《きらめく鷹/Glint Hawk》
4 《メムナイト/Memnite》
1 《月皇ミケウス/Mikaeus, the Lunarch》
4 《信号の邪魔者/Signal Pest》
4 《大霊堂のスカージ/Vault Skirge》
4 《急送/Dispatch》
4 《きらめく鷹の偶像/Glint Hawk Idol》
4 《オパールのモックス/Mox Opal》
4 《起源の呪文爆弾/Origin Spellbomb》
4 《鍛えられた鋼/Tempered Steel》
このデッキが非常に速く、シナジーに満ちていて、すぐにリソースが尽きることは見ただけでわかるでしょう。序盤にゲームを決め損ねた場合の勝ち筋は《墨蛾の生息地》しかありません。直接攻撃のないアグロ・デッキを使うのは、常にメタゲームの上では賭けになります。いくつかのデッキにはだいたい勝てますが、決して勝てない相手も少なくありませんし、できることと言えばその勝てない相手があんまり多くありませんように祈ることぐらいです。言うまでもありませんが、私はこういう戦略は好きではありません。この手のデッキに触るのはよほどメタゲームを読み切った自信があるときだけです。
→後編に続く
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