残った餌食が互いのみ
2013年6月27日 ポエム「プレコンってまだあったんだな」
奴が急に言い出した。スマートフォンの画面に目を落としているところから察するに、どうも公式のウェブサイト辺りを見ているらしい。
「最近はイベントデッキっていうのか。なんかイベントとかあんの? それ使って対戦するとか」
いや、そういう意味じゃない。
僕は応じてやる。
これを買ってその場でフライデーナイトマジックみたいなイベントに出られますよってこと。あと、未だにプレコンって呼んでるのは世界中でおまえひとり。
え、プレコン言わないか?
彼はさほど意外でもなさそうな表情で聞いてきた。
言わないよ。だいたいおれたち始めた頃もうテーマデッキって名前になってただろ。
そうだっけ。
奴はどうでもよさそうに応じる。今回から1種類になったのか。まあ抱き合わせだっつって評判悪かったもんな。昔は4種類ぐらいあっただろ、あれ。レアも2枚ぐらいしか入ってなくて、ブロック構築でも弱いだろこれ、みたいな強さでなあ。
マジックの構築済デッキ商品は最初は文字通り preconstructed deck —— 構築済デッキ、という名前で売られていたが、そのうちにテーマデッキ、エントリーセットなどと名前を変えていった。かつては複数のデッキが同時にリリースされるのが常だった。ストーリーと関連がある内容でもなければ、特別なプロモカードが入っているわけでもなかった。要するになんなのかわからない商品だった。それでもたまに強いレアが入っていることがあって、そういう奴だけ瞬く間に売り切れた。小売店としては全種類を同数仕入れなければならないという制約があったので、1種類になったのは有難い変更かも知れなかった。
でも実はあれはあれでまた作ってるんだよ、と僕は教えてやった。そっちはエントリーセットって名前。ついにラヴニカへの回帰から日本語版作らなくなっちゃったみたいだけど。
そうなのか。よくわからねえな。
うん、おれもよくわからない。
「そいで、今回のデッキはどうよ」
奴が訊いてきた。
いいんじゃない。ギルドひとつに絞って、その固有メカニズムをフィーチャーする。前のブロックでも実はトークンがテーマになってたからそれとも絡めて、未練ある魂みたいな強くて人気のあるカードを収録してる。ワームの到来やショックランドも目玉になるカードとして文句無い。2500 円なら相当いいと思うけどね、これ。
ふむふむ。
それで、1枚だけ《似通った生命》が入ってるのが素晴らしい。トークンが場に出るとき代わりにその2倍の数トークンが出るってだけのエンチャントで、すごく狭いカードで殆ど陽が当たったことないと思うんだけど、こういうデッキなら意味がある。逆に言うとこのデッキじゃないと意味がない。5/5 出てる時にこれ張ってて《反射起こし》とか打ったらおおってなるじゃん。
まあな。
そういう発見の体験みたいなのがあると思うんだよね、イベントデッキ本気で買っちゃうような初心者にとっては。ネットに転がってるデッキリストじゃ見かけないようなカードだけど、ちゃんとシナジーがあるように組めば強い場面もある。それにシングルで買い足そうと思っても安い。それがかえって「おれのカード」みたいな錯覚を起こさせる作用もあるんじゃないかと思う。なんか、そこら辺も含めて、強いカードが入ってるってだけじゃなくて、頑張って作ってるなって感じがする。
そいで?
そんなもんかな。
「30点ぐらいだな」 奴が例によって殆どためらわずに採点を下した。
「低いですねえ」 流石にちょっと意外だったのは声音にもあらわれていたと思う。
だっておまえ、プレコンでそんな発見の体験とかしたことあんのかよ。おまえは。
……いや。ないね。
ねーだろ。ほとんど無理なんだって、そんなもん。R&D の期待としてはそういうのあんだろうけど、ほぼ無駄だよ。で、そういうの発見する奴は逆にイベントデッキなんて買わなくても発見すんだ。強いて言えば周りにそういうの好きな奴が多くてそういうのが評価されるような風潮があればまた違うかもしれねえけど、基本的にデッキいっこぐらいでそういう体験を植え付けようってのは無理だ。
そうかなあ。
僕は言ったが、声に力が入らないことは自覚していた。奴が言ったことはほとんど僕も内心考えたことがあった内容だからだ。
でもまあ、やらないよりはましだろ。
そりゃ当たり前だよ。作って売ることが決まってるんだったらそういうカード入れたってリスクは殆ど無いだろうしな。俺はリターンも殆ど無いと思うけど、でもまあ、エントリーセットだっけ? その昔ながらのプレコンもまだ作る程度には売れてるってことなんだろうから、商売としてはそれなりに堅いんだろうし、少しぐらい遊んでもいいとは思うけどな。
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時間はできたのだけど新展開を模索して頓挫したりしていたらかなり間が空いてしまった。
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定期追記。このシリーズは「傘をひらいて、空を」というブログ(http://d.hatena.ne.jp/kasawo/)をかなりがっつりパクっています。このシリーズが気に入った方がもしいらしたら、是非リンク先もご覧になってみてください。
奴が急に言い出した。スマートフォンの画面に目を落としているところから察するに、どうも公式のウェブサイト辺りを見ているらしい。
「最近はイベントデッキっていうのか。なんかイベントとかあんの? それ使って対戦するとか」
いや、そういう意味じゃない。
僕は応じてやる。
これを買ってその場でフライデーナイトマジックみたいなイベントに出られますよってこと。あと、未だにプレコンって呼んでるのは世界中でおまえひとり。
え、プレコン言わないか?
彼はさほど意外でもなさそうな表情で聞いてきた。
言わないよ。だいたいおれたち始めた頃もうテーマデッキって名前になってただろ。
そうだっけ。
奴はどうでもよさそうに応じる。今回から1種類になったのか。まあ抱き合わせだっつって評判悪かったもんな。昔は4種類ぐらいあっただろ、あれ。レアも2枚ぐらいしか入ってなくて、ブロック構築でも弱いだろこれ、みたいな強さでなあ。
マジックの構築済デッキ商品は最初は文字通り preconstructed deck —— 構築済デッキ、という名前で売られていたが、そのうちにテーマデッキ、エントリーセットなどと名前を変えていった。かつては複数のデッキが同時にリリースされるのが常だった。ストーリーと関連がある内容でもなければ、特別なプロモカードが入っているわけでもなかった。要するになんなのかわからない商品だった。それでもたまに強いレアが入っていることがあって、そういう奴だけ瞬く間に売り切れた。小売店としては全種類を同数仕入れなければならないという制約があったので、1種類になったのは有難い変更かも知れなかった。
でも実はあれはあれでまた作ってるんだよ、と僕は教えてやった。そっちはエントリーセットって名前。ついにラヴニカへの回帰から日本語版作らなくなっちゃったみたいだけど。
そうなのか。よくわからねえな。
うん、おれもよくわからない。
「そいで、今回のデッキはどうよ」
奴が訊いてきた。
いいんじゃない。ギルドひとつに絞って、その固有メカニズムをフィーチャーする。前のブロックでも実はトークンがテーマになってたからそれとも絡めて、未練ある魂みたいな強くて人気のあるカードを収録してる。ワームの到来やショックランドも目玉になるカードとして文句無い。2500 円なら相当いいと思うけどね、これ。
ふむふむ。
それで、1枚だけ《似通った生命》が入ってるのが素晴らしい。トークンが場に出るとき代わりにその2倍の数トークンが出るってだけのエンチャントで、すごく狭いカードで殆ど陽が当たったことないと思うんだけど、こういうデッキなら意味がある。逆に言うとこのデッキじゃないと意味がない。5/5 出てる時にこれ張ってて《反射起こし》とか打ったらおおってなるじゃん。
まあな。
そういう発見の体験みたいなのがあると思うんだよね、イベントデッキ本気で買っちゃうような初心者にとっては。ネットに転がってるデッキリストじゃ見かけないようなカードだけど、ちゃんとシナジーがあるように組めば強い場面もある。それにシングルで買い足そうと思っても安い。それがかえって「おれのカード」みたいな錯覚を起こさせる作用もあるんじゃないかと思う。なんか、そこら辺も含めて、強いカードが入ってるってだけじゃなくて、頑張って作ってるなって感じがする。
そいで?
そんなもんかな。
「30点ぐらいだな」 奴が例によって殆どためらわずに採点を下した。
「低いですねえ」 流石にちょっと意外だったのは声音にもあらわれていたと思う。
だっておまえ、プレコンでそんな発見の体験とかしたことあんのかよ。おまえは。
……いや。ないね。
ねーだろ。ほとんど無理なんだって、そんなもん。R&D の期待としてはそういうのあんだろうけど、ほぼ無駄だよ。で、そういうの発見する奴は逆にイベントデッキなんて買わなくても発見すんだ。強いて言えば周りにそういうの好きな奴が多くてそういうのが評価されるような風潮があればまた違うかもしれねえけど、基本的にデッキいっこぐらいでそういう体験を植え付けようってのは無理だ。
そうかなあ。
僕は言ったが、声に力が入らないことは自覚していた。奴が言ったことはほとんど僕も内心考えたことがあった内容だからだ。
でもまあ、やらないよりはましだろ。
そりゃ当たり前だよ。作って売ることが決まってるんだったらそういうカード入れたってリスクは殆ど無いだろうしな。俺はリターンも殆ど無いと思うけど、でもまあ、エントリーセットだっけ? その昔ながらのプレコンもまだ作る程度には売れてるってことなんだろうから、商売としてはそれなりに堅いんだろうし、少しぐらい遊んでもいいとは思うけどな。
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時間はできたのだけど新展開を模索して頓挫したりしていたらかなり間が空いてしまった。
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定期追記。このシリーズは「傘をひらいて、空を」というブログ(http://d.hatena.ne.jp/kasawo/)をかなりがっつりパクっています。このシリーズが気に入った方がもしいらしたら、是非リンク先もご覧になってみてください。
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