「しかし飽きもせずによく誤訳が続きますよね」
後輩が半ば呆れたような、半ばかえって感心したというような口調で言った。
ドラゴンの迷路の日本語版でも異状集はそれなりの分量になっていた。単純な誤記あり、機能に影響する誤りあり、カード名が誤っているものあり、と多彩な間違いが並んでいる。誤訳がなかったセットというものをわたしは思い出すことができない。飽きもせず、というのはあながち大げさでもない表現だ。
まあ、これだけカードの種類があって、しかもゲームのルールっていう特殊な翻訳で、おまけに納期も多分すごく厳しい。誤訳を全く無くすのは少なくとも相当難しいだろうし、もしかすると不可能に近いと思うよ。
いつか友人が言っていたことをわたしは思い出しながら言う。自分の考えの心算で口に出しているが、かなり影響されているというかむしろ受け売りに近い。
でもだからっていくらでも間違えていいってことにはならないでしょう。たとえば刷られたカードの半分が誤訳だったりしたら完全にアウトです。つまりどこかに線はある筈なんですよ。
わたしはうなづく。それはそうだね。
ゼロにはできないから、っていうのが内蔵された言い訳になってて、ある時点で努力が止まっちゃってるように思えるんです。それはよくないと思うんですよ。組織として、会社として毎回毎回これ繰り返してるのって駄目ですよね。やり方に明らかに問題があってそれをあらためられてないってことじゃないですか。
おっしゃる通りですねえ。
わたしはもう一度うなづいた。だからとうとう今回ちゃんと文章出したもんね。具体的改善に着手しております、とまで書いてたから、流石に重い腰を上げたってことだろうし、まずは次のセットでお手並み拝見ってところじゃないかな。
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あれ、そんな文章出てましたか。それは読んでないな。
だれかを叩く時は相手をよく見てないとだめだよ?
叩くだなんてそんな人聞きの悪い。
後輩はにやりと笑う。すぐに少し真顔になって、いや、でも具体的改善だなんて随分踏み込みましたね。今までそんなこと言ったこと一度もなかったでしょう。よっぽど言われたんですかね。でもこれは評価しなくちゃいけないな。
それからわたしたちは翻訳チームが直面しているだろう困難について想像し、その勝手な想像に基づいてことによっては同情し、ことによっては理解を示し、ことによっては断罪した。納期が厳しいだろうこと、プレリリースの日程は世界共通で動かせないこと——同情。カードテキストという特殊な文書を日本語テンプレートに落とし込んで翻訳する難しさ——理解。誤訳をあと2%減らすためにコストが倍ぐらいになってしまうだろうこと——理解。高々エクセルでも管理できる程度の種類しか刷られていないのにカード名の重複が起きてしまう(それも10年以上断続的に続いている)こと——断罪。
「まあ、でもおれ、あんまり言う資格ないんですよね」 多少たりとも溜飲が下がったところで後輩が言った。「結局日本語版買わないですからね」
買わないからって批判する資格がなくなるわけじゃないよ。
わたしは応じた。わたしなんて日本語版がなければそもそも始めてたかどうかわからないし、今やってる人でもそういう人は少なくないと思うし、これから参入してくる人にとってもそうだろうと思う。だから、日本語版の出来の善し悪しって、日本のマジックコミュニティ全体に対して影響があるんだよ、大げさに言えば。あんな誤訳が多いもん買わなければいいじゃん、では本来済まない話なわけ。
ああ、まあ、それはそうですね。それでいつも日本語版買ってるんですか。
いや、それは単に日本語版の方が好きだから。マジック英語なら読めるけど、やっぱりストレスだからね。海外のカードゲームが日本語で遊べるのってほんとうに有難いことだと思う。だからこそ、誤訳はもう少し減ってほしいかな。



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