「え、なんだよそのカード」
わたしが《アムローの軍団兵偵察兵》の能力を起動して場に出したカードを見て、彼はあまりにも予想通りの反応をした。
見せてくれ。
彼は言いながら既にカードを手に取っていた。スコット・M・フィッシャーの描いた、いかにも邪悪そうな兵士のイラスト。
3マナ払うとレベルを一体ライブラリーに戻せます。
へー、こんなカードあったのか。これプロフェシーだよな、この水晶みたいな奴。
当時はレベルのミラーマッチ用のサイドボードにちょくちょく見かけたよ。日本語名は《反逆者の密告人》。
ああ、反逆者の密告人って黒のカードだったっけ。ほとんどデッキリストでしか見たことなかったから忘れてたな。
彼はしみじみと懐かしそうに言った。その表情を見てわたしはなんとなく可笑しくなってしまった。場に出したときの反応と言い、期待を裏切らない人だ。
「これ、傭兵のも居たよな」
急に彼が訊く。
うん。それは憶えてるんだ。
ああ、これ見て思い出した。そっちが白だったのか。なるほどな。それぞれの裏切り者なんだから、そりゃ反対側の色に決まってるよな。
この2枚は一見典型的なトップダウン・デザインのカードに見える。実際そうだったのかも知れないが、どちらかと言えばレベルにヘイトカードが必要になって急に作ることになった、という方がありそうにも思える。聞くところではマスクス・ブロック構築では右を見ても左を見てもレベルレベルで、レベルをどっちゃり並べて《恭しきマントラ》を打ち合う、とか、緑を無理矢理タッチしてファッティを入れた「メロン」ってデッキがあった、とか、中々におぞましいことになっていたらしい。
「あったあった」
わたしはデッキケースからカードを取り出した。こちらはネルソン・デカストロの描いた横向きの兵士のイラスト。「こっちが《傭兵の密告人》」
こっちは使われてなかったよな。
言いながら彼はカードを持ち、テキスト欄に目を落とす。あれ、こいつは色マナ要るのかよ。
そうなんだよね。
《反逆者の密告人》と《傭兵の密告人》は対称のデザインになっている。色は黒と白。マナコストは 2B と 2W 。パワー/タフネスは 1/2 と 2/1 。クリーチャータイプは傭兵・レベルとレベル・傭兵(のちにそれぞれ人間が追加された)。前者は白の呪文や能力の対象にならず、後者は黒の呪文や能力の対象にならない。なのに、起動型能力のコストだけが違う。傭兵の密告人は 2W なのに対し、反逆者の密告人は 3 と無色マナだけでも運用できるようになっている。だからこそレベルのミラーマッチでこの黒いカードが使われたのだ。
基本的には違う色のカードって運用できないことになってるから、《傭兵の密告人》の方が本来のデザインなんだと思うんだけどね。それはそれで、クリーチャータイプに傭兵が入ってる意味がないんだけど。
わたしが言うと、彼はすぐに応じた。
え、でもあいつら無色だっただろ。ネメシスの、ほら、《海のハンター》とか。あとなんかモグを棒にぶら下げて担いでる奴とか。あれ、起動コストは無色だろ。
「……あ」
そこに考えが及んだことはなかった。
ネメシスに、レベルや傭兵でありながら他の部族にアクセスできるリクルーター・クリーチャーの半サイクルがある。《海のハンター》、《モグ捕り人》、そしておそらくもっとも有名な《スカイシュラウドの密猟者》。いずれもレベルや傭兵と同じく、起動型能力のコストには色マナが必要ない。
うーん、でもあいつらやっぱりオフカラーじゃ使いものにならないと思う。
そりゃそうか。持ってくるクリーチャーも全部色合わねえからな。でもこいつらは起動コスト無色でもいいんじゃないか。色が合わなければ手札に来た時困るわけだし、実際これ黒マナ必要だったら誰も使ってないだろ。
わたしは笑った。そりゃそうかもね。
彼は再び戦場に出ている《Rebel Informer》を手にとって、少しの間眺めた。それから首を小さく横に振ると、「それにしても一番不思議なのはなんでクリーチャータイプを『レベル』って訳にしたかだよな」
それはわたしも同感だった。「反逆者」あるいは「反乱者」ではいけなかった理由を未だにわたしは考えつかない。そもそも、恥ずかしい話だが、このカード——《反逆者の密告人》とその英語名を見るまで、わたしは rebel が反逆者という意味だとすら知らなかったのだ。
「うん、それはほんとそう思う」
おれ最初カテランみたいにそういう名前の集団なんだと思ってたぜ。
それはないよ。わたしは言ったが確信は持てなかった。そう思い込んでいた人も、もしかすると結構いたりしたのかも知れない。


----
定期追記。このシリーズは「傘をひらいて、空を」というブログ(http://d.hatena.ne.jp/kasawo/)の表層をかなりがっつりパクっています。このシリーズが気に入った方がもしいらしたら、是非リンク先もご覧になってみてください。

--
カード名を修正(《アムローの偵察兵》)。コメント欄参照。

コメント

re-giant
2013年2月11日9:29

Rebelの訳が「レベル」なのは不思議ですよね。レベリオンという単語でギリギリ分かる人もいるかもしれない、というくらいであまり日本で知られている英単語とも思えないですし。

>《アムローの軍団兵》の能力を起動して

「アムローの軍団兵」で画像検索したらガンダムのカードダスしかヒットしなかったので、おそらく《アムローの偵察兵/Amrou Scout》かと。

高潮の
2013年2月13日0:38

レベルはほんと謎ですよね。実は今回一番書きたかったところはそれなので拾っていただけて幸いです(前振りの方がはるかに長くなってしまった)。なにか事情があったのかも知れず、そうだとしたら知りたいですが。

偵察兵はご指摘の通りです。ありがとうございます。使ったこともないカードをうろ覚えで書いているのでこういうことになる。ついでにカード名辞書のたぐいを使ってないことが露呈しました。ともあれ以後気をつけます。

nophoto
あいしゃ
2013年2月13日21:18

全くの予想なのですが

「反逆者」「反乱者」という訳にしてしまうと「白らしくない」から? と思っています。
マスクスで登場したレベル軍団は簡単に言うと「悪の支配に対抗する正義の反乱軍」という設定のためかほとんどが白です。ですが「反逆者」ではむしろアナーキスト的なものを感じさせて白というよりは赤っぽい印象になってしまうのかな、と。あくまで勝手な予想です。

高潮の
2013年2月14日1:22

赤っぽい、というのはちょっとわかる気がします。しかしそれは名前の問題ではないような気もしますし、ぴんと来ない訳語を当てて解消されることでもないと思うのですよね。ヒーローたちが与する軍団ということで、反逆者であっても白であることに違和感はありませんし、メカニズム的にもまあ白っぽいです。やはり普通に「反逆者」でよかったように思いますが……。

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

日記内を検索