「《闇の腹心》が正式名称で呼ばれてることってほぼないですよね」
後輩が突然言い出した。
なるほどあのカードが通称以外で呼ばれることは稀だ。デッキリストとかカバレッジとか、オフィシャルの表記が必要な場面以外では、ほとんど常にそのカードをデザインしたことになっている男のファーストネームで呼ばれる。ボブ。
でも逆に、《瞬唱の魔道士》がティアゴって呼ばれることないですよね。
後輩は続けた。
そりゃボブ・メイヤー・Jr. とティアゴ・なんとかじゃ格が違いすぎるだろ。奴が言い放つ。奴がこんな風に言う時はいつも正しい。
ティアゴちゃんって呼んだら人気出るんじゃないかな。僕は言ってみた。ティアゴお嬢さんという方向性もあり得る。
彼女が急にぱっと笑みを浮かべる。“二代目はティアゴちゃん”ってこと?
ちょっと何言ってるかわかんないです。
え、そこではしご外すの。などと彼女がのたまうので、そんな屋根に上るはしごをかけた覚えはない、と僕は言ってやる。
「インヴィテイショナル・カードでデザイナーの名前で呼ばれてたのってどれぐらいありますかね」
後輩が言い出した。ここまでの会話の当然の帰結といえた。
「あーダーウィン言ってたわおれ」
僕は切り出してみたが、瞬時に後輩に突っこまれる。「始めてなかったって言ってたじゃないですか」
「なだれ乗りはなだれ乗りだねえ」
マイク・ロングも言わないね。あれそもそもやられてる方だもんな。
次はなんだっけ。
インベイジョン・ブロックだから、《翻弄する魔道士》。
おー、ピキュラは言ってたな。超言ってたよ。あのイラスト結構似てたし、フレイバーテキストまで本人ディスってたし。
そんな調子で、僕たちは一枚一枚インヴィテイショナル・カードを検証し始めた。始めてみてわかったのは、使用頻度はデザインした人の名前で呼ばれていたかいなかったかに関係していそうだということだ。つまり、全然使われなかったカードは、そもそもあだ名で呼ばれる筈がない。
というわけで使用頻度も含めて、なんとなくあやふやなところもあるけどとにかくえいやと書き出してみて、以下のような一覧ができた。

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カード名          (デザインした人;優勝年次)  使用度   その人の名前で
なだれ乗り/Avalanche Riders (Darwin Kastle;1998)      高い   呼ばれてない
ルートウォーターの泥棒/Rootwater Thief (Michel Long;1999) 低い   呼ばれてない
翻弄する魔道士/Meddling Mage (Chris Pikula;2000)     高い   呼ばれてた
影魔道士の浸透者/Shadowmage Infiltrator (Jon Finkel;2001) 高い   呼ばれてた
森を護る者/Sylvan Safekeeper (Olle Rade;1997)       低い   呼ばれてない(と思う)
非凡な虚空魔道士/Voidmage Prodigy (Kai Budde;2002)     ない   呼ばれてたような気もする
真面目な身代わり/Solemn Simulacrum (Jens Thoren;2003)   高い   あんまり呼ばれてない
闇の腹心/Dark Confidant (Bob Maher;2004)         高い   呼ばれてた
宝石の洞窟/Gemstone Caverns (藤田剛史;2005)        低い   呼ばれてない(それはそう)
イーオスのレインジャー/Ranger of Eos (Antoine Ruel;2006) それなり?呼ばれてない?
瞬唱の魔道士/Snapcaster Mage (Tiago Chan;2007)      高い   呼ばれてない
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まとめてみると仮説は概ね正しかったと言えて、よく使われたカードほどあだ名で呼ばれる度合いは高い。それともうひとつ、デザインした人物の知名度や人気が影響しているというのは言えそうだ。イェンス・ソーレンは優れたプレイヤーだったけど、残念ながらこのリストに混じると知名度が一枚劣るのは否めない。ティアゴ・チャンもこの中ではマイナーであることは否定できないだろう。ダーウィン・キャッスルだけが例外に感じられるが、あるいは僕たちが知らないだけで結構当時はキャッスルって呼ばれてたのかも知れない。
ティアゴ・チャンもこれから有名になれば瞬唱がティアゴって呼ばれるようになるかも知れないってことですかね。後輩が言う。 
いや、ティアゴ・チャンもうマジックやってないと思うよ、あんまり。
僕は応じながら作った表に目を落とした。なにかその表に違和感があった。表の行数を数えてみる。11 行。インヴィテイショナル・カードは 11 枚だから、合ってる筈――
「これひとり抜けてない?」 彼女が言った。
え、わざと抜かしてたんじゃないのかよ、と奴がのたまう。超呼ばれてるし使われてるし、表に入れるまでもねえと思うんだけど。
そんな奴いたっけ、と口に出しかけた瞬間にわかった。
宝石の洞窟は普通はインヴィテイショナル・カードに数えない。確かにインヴィテイショナルで提出されたアイディアではあるが、優勝者がデザインしたカードではないからだ。この表から抜けているのは、その年に優勝した人物のデザインしたカード。
「ああ、テリーね。もちろん忘れるわけないし」
「穴開け魔道士さん忘れるとかありえませんし」「ですよねー」
ラクドスの穴開け魔道士/Rakdos Augermage (Terry Soh;2005)
言いながら彼女は紙を手にとってボールペンを走らせ、形だけは整った字で「全くない 呼ばれてない」と力強く書きつける。


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“二代目はティアゴちゃん”の直接の元ネタは『銀河任侠伝』。

コメント

祭谷一斗
祭谷一斗
2013年1月5日0:40

>「全くない 呼ばれてない」と力強く書きつける。
新年早々泣いた。
一応、ブッディはごくごくたまにスタン当時のサイドに入ったり、
エターナルのフィッシュに入らないこともない……気がします。
……いやかなり無理筋ですが、でもテリーはそれこそ。
何がどうしてああなっちゃったんでしょうね……。

高潮の
2013年1月5日2:10

どんな調整をするとああなるのか、本当にちょっとわからないのですよね。原案のままだと確かにやや強過ぎますし、ボブがあんまりだったので弱くしたんだろうことは想像がつくんですが、それにしてもタップ能力はひどすぎるし、自分が捨てるのも意味がわからない。とどめに二色のトリプルシンボル。流石に誰が見ても弱過ぎるとわかりそうなものですが。/ブッディについては、すみません、面白さを優先したので、実情とは異なるかも知れないことは承知しています。

nophoto
noname
2013年1月5日19:35

瞬唱は自分の周りでは「ヤソオカ」と呼ばれてました

高潮の
2013年1月6日0:14

その発想はありませんでした(マジレス)

nophoto
名無し
2013年1月17日3:55

宝石の洞窟をプロたちは「ローリーランド」って呼んでたような…

高潮の
2013年1月18日22:44

おお。存じませんでした。

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