翻訳:ボルトとナット——カード・コード/マーク・ローズウォーター
2012年4月14日 翻訳 コメント (9)ひさびさの翻訳。いつ以来か調べようと思ったけど翻訳記事に独立したカテゴリをつけていないのでいちいち遡らなければならなかった。正直このブログで読む価値があるのは翻訳ぐらいなのでこの際カテゴリをつけることにしたのだが、例によって適切なのがなかったので「おしゃれ」にしておいた。実は自分でカテゴリを作る機能があるのではないかとうすうす思い始めたところなのだけど、どうしても見つけることができないのだ。(追記:コメント欄で教えていただいたのでカテゴリ新設しました。「翻訳」にしています。ふつうに。)
さておき翻訳は 12-04 のズヴィに訊け!以来らしい。ほぼ4ヶ月ぶりということになろうか。もう 10 年近くマジック界隈の英文を和訳してるのに、マーク・ローズウォーターの文章を訳すのは今回が初めてだ。事前に勝手に想像していたよりは平易な英語だったが、使う語彙にちょっと癖があるように思う。
原文:Nuts & Bolts: Card Codes (*0)
http://www.wizards.com/Magic/magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/mm/21
2009-01-12 Mark Rosewater
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(*0) タイトル
このシリーズはこの後も続いていて、つい先日も新作が書かれて公式に翻訳が載っていた。だからこそこれを訳すことにしたのだが、公式ではシリーズのタイトルである ’Nuts & Bolts’ が「基本根本」と訳されている。ここで「ボルトとナット」としたのにはもちろん理由があるのだが、書き出したらクソ長くなってしまったので後日気が向いたら別のエントリで書くことにする。
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テレビに映される犯罪の 95% は凶悪犯罪で、軽微な犯罪は 5% しかない。これは現実に起きている割合のほぼ真逆だ(*1)。どうしてこんなことになるのか? 殺人は信号無視よりもずっと面白い物語になるからだ。
こうした逆転の結果、人々は世界の認識を少し歪められてしまう。テレビが教えてくれるところによると、世界ってのは危険なところらしい——見ろよ、あんなにやばい犯罪が毎日起き続けてるんだぜ。
こんな話題から始めたのは、この「メイキング・マジック」がまさにそれと同じ罪を犯しているのではないかと思えてきたからだ。私は「メイキング裏話」を語る際に、ほとんどの紙幅をカードデザインやカラーパイの話に費やしてきた。もちろんそれらはカード作成の工程でもっとも本質的な部分なのだが、一方で全体からすれば小さな部分でもある。多くの時間は細部を詰めるために、いわばボルトとナットのために費やされるのだ。一軒の家を建てるのには、設計士よりも大工の方がはるかに多くの時間を費やす。壁を塗ったり釘を打ったりする時間の方が、設計士との打ち合わせよりもずっと長い時間である筈だ。カードデザインにおいても同じことが言える。
……ということに気づいたので、私は新しいシリーズを始めることにした。その名も「ボルトとナット」だ。このシリーズでは、我々の製作過程においては重要であるがいささかめんどくさい細部にみなさんをご案内しよう。些細と思われがちな部分の重要さを多少たりともつかんでもらえれば幸いだ。研究開発部の新人が学ばなきゃならないことの中で一番きついことは、カード製作全体の工程が正しく働くために欠かせない無数の細かい作業を全部理解しなければならないことなのだ。このシリーズでは私は皆さんがなんの予備知識も持っていないと仮定して話を進めたいと思う。正直なところ、皆さんはこのコラムで語られる内容がどんなものか見当もついていないだろうし、そういう人がこのコラムのどこに興味を持つのかわからないからだ。
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(*1)テレビに映される犯罪の 95% は凶悪犯罪で、軽微な犯罪は 5% しかない。これは現実に起きている割合のほぼ真逆だ。
この話は re-giant さんが訳したコラムでも使われていて、読んだ時にはちょうどこちらを訳し始めていたからちょっと面白かった。
【翻訳】2人でサイクリング週間の旅に出よう/A Cycling Built For Two【Daily MTG】
http://regiant.diarynote.jp/201203102223182661/
ところで、リンク先ではこの割合がそれぞれ「90%」と「10%」になっていて、それは違う意味で面白かった。それを読んだ瞬間おれの中で感心度合いがちょっと下がったからだ。つまり「マローの奴いい加減なこと言ってやがんな」って反射的に思ったわけです。自分の理解ではこの具体的な数字自体にはあまり意味が無くて、極端な割合でありさえすれば 80% でも 92% でも 97% でも話の説得力には差がないと理屈では考えるのに、にもかかわらず別々のコラムで違う数字を出されると信用できない話だと感覚的には思ってしまう。こういう事例に出会うと説得力って理屈じゃねえんだなーってあらためて思う。まあそれは当たり前のことなんだけど。
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符号の解読
今回のお題は「カード・コード」だ。まさに上に書いたとおり、一見平凡だが大変重要なものだ。カード・コードってなんなのかって? このコラムで私は何度となくプレイテスト用のカードをお見せしてきた。こんなやつだ:
(Wall of Kelp のイラスト)
そこの、アルファベットと数字の羅列は何だろう?
(ルーペで拡大すると、「ME2-UU02」と書かれている。)
そう、これだ。私はまさにこれからこの数字について話そうとしている。これがカード・コードだ。とにかくものすごく基本的なことから説明していこう。
カード・コードってなんだ?
カード・コードはいくつかの文字といくつかの数字からなり(基本的には英字2文字に数字2桁が続く)、研究開発部や社内の他の部署で特定のカードを識別するための符号として使われている。
何故そんなものが必要なのか?
ひとたび世に出たカードの場合、プレイヤーはある特定のカードを指すのには普通カード名を用いる。「緑色のインスタントでコストが (1緑) で“アーティファクトひとつかエンチャントひとつを対象とする。それを破壊する”って書かれてるカード」って言うかわりに《帰化》という名前で呼ぶわけだ。この方法が問題なく機能するのは、印刷されたカードは変化することがないからだ。《帰化》というカードは常に同じものを意味する(ああ、エラッタの問題は常につきまとうんだけど、今回はパスだ)。
ところが、デザインやデベロップメントのあいだは、カードはもう少し曖昧なものだ。名前なんてしょっちゅう変わっている。多くのカードはデザイン中に何度も名前が変わるし、その後クリエイティヴ・チームがアーティストにうまくイメージを伝えるためにまた名前を変えるなんてことも珍しくない。それから実際のカード名がつけられるが、それさえも正式決定する前に一度ないし二度変わることがあり得る。それもいくつかの原因が重なって。
名前なんてものは開発中には忘れてもかまわないぐらいだ。デザインとデベロップメントの世界ではカード全体が作り替えられることは珍しくないし、時には最初に作り始めたときとはまるっきり別物になってしまうこともある。研究開発部はカードを単体で考えることはない。かわりに私たちはスロットという概念を用いる。例えば、小型エクスパンションではコモンが 60 枚ある。単色のカードしか入ってなくて、コモンには土地もアーティファクトも入ってないとしよう。すると各色には 12 スロットずつあることになる(60 を 5 で割ってみよう)。研究開発部流の言い方で言えば、コモンの白は 12 のスロットを持っている、となる。
ここで気をつけてほしいのが、カード・コードは特定のカードにつけられた符号ではなくて、特定のスロットにつけられた符号だということだ。それぞれのカードは没になったり新しく作られたりするが、CW01 は常に白のコモンの1番目のカードを指す(昇順で一番初めに来るということだ少なくともコレクター番号順に並べた時には(*2))。
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(*2)昇順で一番初めに来るということだ
まったく自信なし。というか多分合ってない。コラム全体の中ではさしたる意味を持たない部分ではないかと思うが、それはそれとして全然わからない。一文まるごと引用しておく。
:Cards can come and go but CW01 will always be the first card (collector numberwise at least).
追記:コメント欄で教えていただいたので修正。
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それで、文字と数字にはどういう意味がある?
解析していこう。さっき CW01 なんてコードを口にしたから、その CW01 で見ていこうか。
CW01
このコードは3つの情報を表す部分から作られている。
C-W-01
——1文字目、2文字目、そして2桁の数字だ。それぞれについて、どんな数字や文字が入るのか、ゆっくり見ていこう。
1文字目
最初の文字はカードのレアリティだ。レアリティというのは重要だ。印刷工程の都合で、異なるレアリティのカードは異なる場所に置かれることが多いからだ(ここでは工程にはこれ以上触れない。このコラムは研究開発部がどのようにカード情報を管理しているかを知らしめるものだ)。だからカード・コードの第一の機能はそのカードのレアリティを誰にでもわかるようにすることにあてられている。ところで、マジックにはレアリティは何種類あるだろうか。ちょっと真面目に考えてみてほしい。答えを心に決めたら、次の段落へ進んでみてくれ。
3だと思った? アラーラの断片から導入された神話レアのことをお忘れかな。
4だと思った? 大型エクスパンションには実際のところ5つのレアリティがあるってことをお忘れかな。5つ目はなにかって? 基本土地だ。コモンよりもありふれたレアリティとして設定されている。
5だと思った? 古今を問わずマジックには特殊なレアリティが設定されてきたのをお忘れかな。例えば時のらせんに登場した“タイムシフト”枠のような。
6だと思った? ブースターパックにはカードの枠とイラストが印刷されてるけどトーナメントリーガルじゃないカードが入っているのをお忘れかな。そう、トークン・カードだ。トークンはそれだけで独立したレアリティになっている。(実のところ、トークンにはトークン内での様々なレアリティがあるのだが、カード・コードではひとつのレアリティとして扱っている。)
そう、現在マジックのカード・コードのレアリティを表す文字は7種類となっている。
C——コモン
U——アンコモン
R——レア
M——神話レア
L——土地(これは「基本土地」だけを意味する。他のあらゆる土地は上の4つのレアリティのどれかに含まれる)
T——トークン
S——スペシャル(これには時のらせんの“タイムシフト”シートや、アンヒンジドの“《Super Secret Tech》(*3)”なんかが含まれる。ついでに書いておくと、時のらせんのデザイン中はこのシートはボーナス・シートの頭文字で「B」と呼ばれていた——特に先例もなかったので、私が勝手に選んだ文字がそのまま使われていたのだ——が、セットが完成して正式に工場に送り出される前に、正式にレアリティ記号も変更された。)
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(*3)《Super Secret Tech》
アンヒンジド 141 枚目のカード、らしい。プレミアム・カードしか存在しない、シークレットカード。
Magic Rarities によると
「このカードの出現率はアンヒンジドの他のフォイルレアに比べると 10 倍以上と推定されている」ということらしいが、このコラムでの記述からすると通常のフォイルレアのシートとは別に《Super Secret Tech》だけのシートが存在したのだろう。アンヒンジドのレアは 40 種類なので、「10 倍以上」というのが比較的 10 倍に近い数字という意味なのであれば、通常のフォイルレアのシートと《Super Secret Tech》のシートとの印刷数の比が概ね 4:1 前後だったと推定できる。この推定まじで無意味。
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2文字目
では2文字目はなにを表しているのだろうか。色だって? 残念、間違いだ。2文字目はカードの地の色を示している。実は、これはカード・コードのそもそもの機能でもある。つまり、工場の人たちにそのカードの地の色を何色で刷るべきなのか伝えているわけだ。
アルファの頃に比べると、地の色ははるかに複雑になっている。2色のマルチカラーのカードは専用の塗り分けがされるようになったし、1色もしくは2色のマナを出せる土地はどの色が出るかぱっとわかるようなカラーリングになっているし、ラヴニカではギルドの紋章が透かし模様で入ったりもした。いまや工場の人はカード・コードの2文字目を見てもそれだけで地の色を知ることはできないが、とにかく最低限のヒントを得ることはできる。
2文字目に入り得る文字のリストはこんな感じ:
W——白
U——青
B——黒
R——赤
G——緑
Z——多色
X——分割カード(ここでの分割カードは単色でないものを指す。たとえば次元の混乱で登場した両方とも赤の分割カードには単にRを使った。)
A——アーティファクト(ここでは伝統的な無色のアーティファクトをいう。色付きのアーティファクトは(《ギルド渡りの急使》と《刈り取りの王》を除いて)それぞれの色のコードを用いる。)
先へ進む前に、青についてちょっと書いておこう。私たちヴェテランはUが青を意味することを知ったときの違和感をすっかり忘れきってしまっているが、実はここは初心者が必ずひっかかるポイントだ。で、なんで青はUなんだろう? カード・コードが正しく機能するためには、同じ場所に来る文字がふたつ以上の意味で使われていてはいけない。(逆に、違う場所に来るのであれば同じ文字を使っても構わない——だからUは青でありアンコモンであるし、Rはレアであり赤でもある。)青 blue と黒 black はどちらもBで始まる。つまりどちらかには別の字をあてなくちゃいけない。
どちらの色も2文字目が「L」であることまで同じだ。上にも書いた通りLは土地を意味する。もちろんできれば1文字目を使えるに越したことはないので、土地はやはりLであるべきだ。黒 black の3文字目は「A」だ。Aはアーティファクトの予約席だ。つまり、青には「U」と「E」が空いていて、黒には「C」と「K」が空いている。(実はウィザーズ内でこれが明文化される前は、黒を「K」で表すプレイヤーも居た。)最終的にUで行くことにしたのはどうしてかって? 単純に、Uは青 blue の3文字目で、黒 black のCやKより前の文字だからだ。
最後にもうひとつだけ書いておくと、上に挙げた地の色の順番はカード・ファイルに並ぶ順番と同じだ。単色(白青黒赤緑 WUBRG の順——研究開発部で口にされるときは「ウーバーグ」と発音される)、マルチカラー、分割カード、アーティファクト、土地、の順になる。
2桁の数字
数字に関するルールはごく短い:
#1——数字は必ず2桁で表す。このルールがある理由は単純だ。こうしておけば、何か情報が抜け落ちたのではないということがわかる。もし CW1 と書かれていたら、それが白の1番目のコモンなのか、それとも 10 番台のコモンを指そうとしているのに2桁目が消えてしまったのか区別できない。常に2桁で表記することで、情報が脱落していないことを確かめることができるわけだ。このルールから導かれる系として、「最初の9枚のカードは必ず 0x、つまり 01〜09 の形で表される」というものがある。
#2——ナンバリングは必ず 01 から始める。この数字が表すもっとも重要な情報は、特定の「レアリティ+色」の組み合わせにいくつのスロットがあるかということだ。あるレアリティ+色の中で最大の番号が、とりもなおさずそのレアリティ+色に何種類のカードがあるかを示すことになる。この情報は実に便利で、デザインとデベロップのあいだはしょっちゅう参照されることになる。
#3——工場で番号を刷るまでは、順番は問題ではない。コモンの白に 12 枚カードがあるということに変わりがなければ、どの番号がどのカードに割り振られていようとも構わない。構わないのだけど、実は研究開発部は独自にいくつかのルールを定めている:
A——クリーチャーはクリーチャー以外のカードより前に来る。デザインとデベロップメントの過程では、ある色のあるレアリティに何枚クリーチャーが含まれているのかを定期的にチェックしていなければならない。その作業を簡単にするために、クリーチャーは常にひとまとめにして若い番号のところに並べられる。
B——サイクルのカードには同じ番号を振る。サイクルのカードを参照しやすいように、私たちはサイクルのカードには同じ番号を割り当てることにしている。たとえば、コモンに 1/1 クリーチャーのサイクルを作る(これらはどの色であっても1マナが適正なコストになる)場合、それらに全て「01」という番号を振る。このルールは必ず守らなければならないものではないが、しかし事情が許す限りは従うようにしている。ルールAはしばしばこのルールに立ちはだかり、私たちの頭痛の種になる。クリーチャーとクリーチャー以外のカードの境目は色によってまちまちだからだ。
C——同じスロットを争っているカードには同じ番号をつけてしまう。研究開発部で用いる小技のひとつに、複数のカードに同じカード・コード・スロットを割り当ててしまう、というものがある。これはとりもなおさず「これらのカードは同一のセットには収録することができないので、現在どれが入るかをテスト中だ」ということを意味する。ついでに、こうしておくことでリード・デザイナーは「この2枚のカードは機能がかぶってる」というコメントが山ほどつけられることを未然に防ぐことができる。
D——カードはそれぞれの区分(クリーチャー/クリーチャー以外)の中ではマナコストの低い方から高い方へ順に並べる。これも必ずしも常に守られるルールではないが、このルールでファイルをソートし直すと、チーム全員がこのセット全体のマナ・カーヴがどうなっているかを共有することができる。
E——地の色が同じサイクル(ほとんどがアーティファクトか土地だ)には連続した番号を振る。必ず白青黒赤緑 WUBRG の順にする。連続した番号をつけることができるサイクル、すなわちほとんどがアーティファクトか土地であるサイクルには、連続した番号をつけてまとめて管理する。ついでに書くと、あらゆるものは可能な限り白青黒赤緑 WUBRG の順にする。土地のサイクルや各色に関係のあるアーティファクトのサイクルであってもそれは変わらない。
研究開発部がファイルの編集を完了するときには、カード・コードには常に連続した番号が使われているが、研究開発部の中ではいくつか特別な意味を持つ数字が定められている。これらのコードはデザインとデベロップメントのあいだだけ使うことが許されていて、ファイルが余所者の手に引き渡されるまでにはすべて正しい数字に置き換えられている。それらのコードを紹介しておこう:
99——一番よく使われるコード。そのセットには収録されないことが決定したが、将来また戻ってこないとも限らない、ということを意味する。「カードを 99 する」というのは研究開発部で実際に使われてるスラングで、何かが取り除かれた時に使う。(“《肥満エルフ》はどうなった?”“99 されたよ。”)
88——そのカードはまだ正式にはセット入りしていないが、入るべきスロットを探している状態を指す。99 との違いは、こちらはどちらかと言えば収録する方向で検討されている、ということ。
33,44,55,66,77——デザインの際、私はこれらのコードをそれぞれチーム内のデザイナーひとりひとりに割り振っておく。そして、セットに入れるかどうか検討中のカードにそれらのコードを振る。こうしておくと、誰がデザインしたカードかがわかる。
00——このコードは一般的な注意書きに使われる。一番よく使われるのは CW00 で、これはファイル全体の先頭に来ることになる。あまり多くはないが、特定のセクションの注意書きとして 00 が使われることもある。
10,20,30,40,50——この区分は最近作られたもので、シャドウムーアのデザイン中に発明された。ラヴニカで初めてハイブリッドが登場したときには、単にZを使うだけで事足りた。ファイル全体でもハイブリッドは高々 12 枚しかなかったからだ。しかしシャドウムーアのデザインを始めてみると、困ったことになることに気がついた。セットの半分がハイブリッドだということは、セットの半分のカードがZのコードを持つことになってしまう。そんな有様で、デザインやデベロップメントの時にどうやって {白/青} を {青/黒} や {黒/赤} {赤/緑} {緑/白} と区別して扱えばいいだろう? これまで述べてきた通り、デザインやデベロップメントの作業にあたっては、各色や各レアリティの枚数や内訳がぱっとわかることはとても重要だ。解決方法は以下の通りだった。{白/青} には全部 10 番台のカード・コードをつける。同じように、{青/黒} には 20 番台、{黒/赤} には 30 番台、{赤/緑} は 40 番台、{緑/白} には 50 番台をそれぞれ割り当てた。こうすることで、研究開発部の誰がシャドウムーアのファイルを開いても、すぐにお目当ての色のハイブリッドにたどりつくことができる。このシステムは、イーブンタイドで対抗色のハイブリッドが登場したときも使われた。
コード・レッド(*4)(あとホワイトとブルーとブラックとグリーン)
カード・コードについてはこれで語り尽くした。
私の今日の目標は、一見ささやかで取るに足らないものが、実際にはデザインとデベロップメントの道具としてどれほど重要で役に立っているかということを示すことだった。デザインという仕事全体の流れや、そこで使われている言葉は、すべてカード・コードという道具を中心に形作られている。
最後にこれを訊いて今日のコラムの締めとさせてもらいたい:今日のコラムは面白かっただろうか? ゲームという仕掛けの裏で動いているデザインという仕事を形作っている小さな部品についての話を聞く、というのは楽しかったかな? それとも、コラムのねたには向いてない退屈な話だと思っただろうか? 私は信号無視のことは忘れて殺人の話に戻った方がいいのかな? 本気で私は答えを聞きたい。今回のような話に需要があるのかどうか私にはさっぱりわからないからだ。それでもこれを書いたのは、その答えを知るためには実際に記事を1本書いてその反応を聞いてみるのが一番だと思ったからだ。というわけで、みなさん、お答えを! 「ボルトとナット」はシリーズ化すべきか、否か?
来週はコンフラックスのプレヴューが始まるので、皆さんには新セットの味見をしていただくことができるだろう。待ちきれないあなたには、コンフラックスのオーブ・オブ・インサイトが既に稼働中だということだけお伝えしておこう。
ではまた来週。皆様が小さな物事にも大きな意味があることを学ばれませんことを。
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(*4)コード・レッド
Code Red。一昔前のコンピュータウイルス、らしい。
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この記事を書くのに先立って翻訳記事のカテゴリを全部変更して、さて本文を更新するかと思ったらちょうど中断せざるを得なくなって、それから一週間まったく更新の機会がなかった。カテゴリ変更に気づいた人がもし居たらさぞ奇妙に思ったことだろう。
追記:なにか忘れてると思ったらいつものあれだった。誤訳の指摘や「自分ならこう訳す」といった意見は歓迎します。コメント欄へお願いします。
さておき翻訳は 12-04 のズヴィに訊け!以来らしい。ほぼ4ヶ月ぶりということになろうか。もう 10 年近くマジック界隈の英文を和訳してるのに、マーク・ローズウォーターの文章を訳すのは今回が初めてだ。事前に勝手に想像していたよりは平易な英語だったが、使う語彙にちょっと癖があるように思う。
原文:Nuts & Bolts: Card Codes (*0)
http://www.wizards.com/Magic/magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/mm/21
2009-01-12 Mark Rosewater
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(*0) タイトル
このシリーズはこの後も続いていて、つい先日も新作が書かれて公式に翻訳が載っていた。だからこそこれを訳すことにしたのだが、公式ではシリーズのタイトルである ’Nuts & Bolts’ が「基本根本」と訳されている。ここで「ボルトとナット」としたのにはもちろん理由があるのだが、書き出したらクソ長くなってしまったので後日気が向いたら別のエントリで書くことにする。
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テレビに映される犯罪の 95% は凶悪犯罪で、軽微な犯罪は 5% しかない。これは現実に起きている割合のほぼ真逆だ(*1)。どうしてこんなことになるのか? 殺人は信号無視よりもずっと面白い物語になるからだ。
こうした逆転の結果、人々は世界の認識を少し歪められてしまう。テレビが教えてくれるところによると、世界ってのは危険なところらしい——見ろよ、あんなにやばい犯罪が毎日起き続けてるんだぜ。
こんな話題から始めたのは、この「メイキング・マジック」がまさにそれと同じ罪を犯しているのではないかと思えてきたからだ。私は「メイキング裏話」を語る際に、ほとんどの紙幅をカードデザインやカラーパイの話に費やしてきた。もちろんそれらはカード作成の工程でもっとも本質的な部分なのだが、一方で全体からすれば小さな部分でもある。多くの時間は細部を詰めるために、いわばボルトとナットのために費やされるのだ。一軒の家を建てるのには、設計士よりも大工の方がはるかに多くの時間を費やす。壁を塗ったり釘を打ったりする時間の方が、設計士との打ち合わせよりもずっと長い時間である筈だ。カードデザインにおいても同じことが言える。
……ということに気づいたので、私は新しいシリーズを始めることにした。その名も「ボルトとナット」だ。このシリーズでは、我々の製作過程においては重要であるがいささかめんどくさい細部にみなさんをご案内しよう。些細と思われがちな部分の重要さを多少たりともつかんでもらえれば幸いだ。研究開発部の新人が学ばなきゃならないことの中で一番きついことは、カード製作全体の工程が正しく働くために欠かせない無数の細かい作業を全部理解しなければならないことなのだ。このシリーズでは私は皆さんがなんの予備知識も持っていないと仮定して話を進めたいと思う。正直なところ、皆さんはこのコラムで語られる内容がどんなものか見当もついていないだろうし、そういう人がこのコラムのどこに興味を持つのかわからないからだ。
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(*1)テレビに映される犯罪の 95% は凶悪犯罪で、軽微な犯罪は 5% しかない。これは現実に起きている割合のほぼ真逆だ。
この話は re-giant さんが訳したコラムでも使われていて、読んだ時にはちょうどこちらを訳し始めていたからちょっと面白かった。
【翻訳】2人でサイクリング週間の旅に出よう/A Cycling Built For Two【Daily MTG】
http://regiant.diarynote.jp/201203102223182661/
ところで、リンク先ではこの割合がそれぞれ「90%」と「10%」になっていて、それは違う意味で面白かった。それを読んだ瞬間おれの中で感心度合いがちょっと下がったからだ。つまり「マローの奴いい加減なこと言ってやがんな」って反射的に思ったわけです。自分の理解ではこの具体的な数字自体にはあまり意味が無くて、極端な割合でありさえすれば 80% でも 92% でも 97% でも話の説得力には差がないと理屈では考えるのに、にもかかわらず別々のコラムで違う数字を出されると信用できない話だと感覚的には思ってしまう。こういう事例に出会うと説得力って理屈じゃねえんだなーってあらためて思う。まあそれは当たり前のことなんだけど。
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符号の解読
今回のお題は「カード・コード」だ。まさに上に書いたとおり、一見平凡だが大変重要なものだ。カード・コードってなんなのかって? このコラムで私は何度となくプレイテスト用のカードをお見せしてきた。こんなやつだ:
(Wall of Kelp のイラスト)
そこの、アルファベットと数字の羅列は何だろう?
(ルーペで拡大すると、「ME2-UU02」と書かれている。)
そう、これだ。私はまさにこれからこの数字について話そうとしている。これがカード・コードだ。とにかくものすごく基本的なことから説明していこう。
カード・コードってなんだ?
カード・コードはいくつかの文字といくつかの数字からなり(基本的には英字2文字に数字2桁が続く)、研究開発部や社内の他の部署で特定のカードを識別するための符号として使われている。
何故そんなものが必要なのか?
ひとたび世に出たカードの場合、プレイヤーはある特定のカードを指すのには普通カード名を用いる。「緑色のインスタントでコストが (1緑) で“アーティファクトひとつかエンチャントひとつを対象とする。それを破壊する”って書かれてるカード」って言うかわりに《帰化》という名前で呼ぶわけだ。この方法が問題なく機能するのは、印刷されたカードは変化することがないからだ。《帰化》というカードは常に同じものを意味する(ああ、エラッタの問題は常につきまとうんだけど、今回はパスだ)。
ところが、デザインやデベロップメントのあいだは、カードはもう少し曖昧なものだ。名前なんてしょっちゅう変わっている。多くのカードはデザイン中に何度も名前が変わるし、その後クリエイティヴ・チームがアーティストにうまくイメージを伝えるためにまた名前を変えるなんてことも珍しくない。それから実際のカード名がつけられるが、それさえも正式決定する前に一度ないし二度変わることがあり得る。それもいくつかの原因が重なって。
名前なんてものは開発中には忘れてもかまわないぐらいだ。デザインとデベロップメントの世界ではカード全体が作り替えられることは珍しくないし、時には最初に作り始めたときとはまるっきり別物になってしまうこともある。研究開発部はカードを単体で考えることはない。かわりに私たちはスロットという概念を用いる。例えば、小型エクスパンションではコモンが 60 枚ある。単色のカードしか入ってなくて、コモンには土地もアーティファクトも入ってないとしよう。すると各色には 12 スロットずつあることになる(60 を 5 で割ってみよう)。研究開発部流の言い方で言えば、コモンの白は 12 のスロットを持っている、となる。
ここで気をつけてほしいのが、カード・コードは特定のカードにつけられた符号ではなくて、特定のスロットにつけられた符号だということだ。それぞれのカードは没になったり新しく作られたりするが、CW01 は常に白のコモンの1番目のカードを指す(
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(*2)昇順で一番初めに来るということだ
まったく自信なし。というか多分合ってない。コラム全体の中ではさしたる意味を持たない部分ではないかと思うが、それはそれとして全然わからない。一文まるごと引用しておく。
:Cards can come and go but CW01 will always be the first card (collector numberwise at least).
追記:コメント欄で教えていただいたので修正。
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それで、文字と数字にはどういう意味がある?
解析していこう。さっき CW01 なんてコードを口にしたから、その CW01 で見ていこうか。
CW01
このコードは3つの情報を表す部分から作られている。
C-W-01
——1文字目、2文字目、そして2桁の数字だ。それぞれについて、どんな数字や文字が入るのか、ゆっくり見ていこう。
1文字目
最初の文字はカードのレアリティだ。レアリティというのは重要だ。印刷工程の都合で、異なるレアリティのカードは異なる場所に置かれることが多いからだ(ここでは工程にはこれ以上触れない。このコラムは研究開発部がどのようにカード情報を管理しているかを知らしめるものだ)。だからカード・コードの第一の機能はそのカードのレアリティを誰にでもわかるようにすることにあてられている。ところで、マジックにはレアリティは何種類あるだろうか。ちょっと真面目に考えてみてほしい。答えを心に決めたら、次の段落へ進んでみてくれ。
3だと思った? アラーラの断片から導入された神話レアのことをお忘れかな。
4だと思った? 大型エクスパンションには実際のところ5つのレアリティがあるってことをお忘れかな。5つ目はなにかって? 基本土地だ。コモンよりもありふれたレアリティとして設定されている。
5だと思った? 古今を問わずマジックには特殊なレアリティが設定されてきたのをお忘れかな。例えば時のらせんに登場した“タイムシフト”枠のような。
6だと思った? ブースターパックにはカードの枠とイラストが印刷されてるけどトーナメントリーガルじゃないカードが入っているのをお忘れかな。そう、トークン・カードだ。トークンはそれだけで独立したレアリティになっている。(実のところ、トークンにはトークン内での様々なレアリティがあるのだが、カード・コードではひとつのレアリティとして扱っている。)
そう、現在マジックのカード・コードのレアリティを表す文字は7種類となっている。
C——コモン
U——アンコモン
R——レア
M——神話レア
L——土地(これは「基本土地」だけを意味する。他のあらゆる土地は上の4つのレアリティのどれかに含まれる)
T——トークン
S——スペシャル(これには時のらせんの“タイムシフト”シートや、アンヒンジドの“《Super Secret Tech》(*3)”なんかが含まれる。ついでに書いておくと、時のらせんのデザイン中はこのシートはボーナス・シートの頭文字で「B」と呼ばれていた——特に先例もなかったので、私が勝手に選んだ文字がそのまま使われていたのだ——が、セットが完成して正式に工場に送り出される前に、正式にレアリティ記号も変更された。)
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(*3)《Super Secret Tech》
アンヒンジド 141 枚目のカード、らしい。プレミアム・カードしか存在しない、シークレットカード。
Super Secret Tech (3)
アーティファクト
すべてのプレミアムの呪文をプレイするためのコストは (1) 少なくなる。
すべてのプレミアムのクリーチャーは +1/+1 の修整を受ける。
Magic Rarities によると
Its rarity is supposedly ten times more common than that of other Unhinged foil rare cards.
「このカードの出現率はアンヒンジドの他のフォイルレアに比べると 10 倍以上と推定されている」ということらしいが、このコラムでの記述からすると通常のフォイルレアのシートとは別に《Super Secret Tech》だけのシートが存在したのだろう。アンヒンジドのレアは 40 種類なので、「10 倍以上」というのが比較的 10 倍に近い数字という意味なのであれば、通常のフォイルレアのシートと《Super Secret Tech》のシートとの印刷数の比が概ね 4:1 前後だったと推定できる。この推定まじで無意味。
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2文字目
では2文字目はなにを表しているのだろうか。色だって? 残念、間違いだ。2文字目はカードの地の色を示している。実は、これはカード・コードのそもそもの機能でもある。つまり、工場の人たちにそのカードの地の色を何色で刷るべきなのか伝えているわけだ。
アルファの頃に比べると、地の色ははるかに複雑になっている。2色のマルチカラーのカードは専用の塗り分けがされるようになったし、1色もしくは2色のマナを出せる土地はどの色が出るかぱっとわかるようなカラーリングになっているし、ラヴニカではギルドの紋章が透かし模様で入ったりもした。いまや工場の人はカード・コードの2文字目を見てもそれだけで地の色を知ることはできないが、とにかく最低限のヒントを得ることはできる。
2文字目に入り得る文字のリストはこんな感じ:
W——白
U——青
B——黒
R——赤
G——緑
Z——多色
X——分割カード(ここでの分割カードは単色でないものを指す。たとえば次元の混乱で登場した両方とも赤の分割カードには単にRを使った。)
A——アーティファクト(ここでは伝統的な無色のアーティファクトをいう。色付きのアーティファクトは(《ギルド渡りの急使》と《刈り取りの王》を除いて)それぞれの色のコードを用いる。)
先へ進む前に、青についてちょっと書いておこう。私たちヴェテランはUが青を意味することを知ったときの違和感をすっかり忘れきってしまっているが、実はここは初心者が必ずひっかかるポイントだ。で、なんで青はUなんだろう? カード・コードが正しく機能するためには、同じ場所に来る文字がふたつ以上の意味で使われていてはいけない。(逆に、違う場所に来るのであれば同じ文字を使っても構わない——だからUは青でありアンコモンであるし、Rはレアであり赤でもある。)青 blue と黒 black はどちらもBで始まる。つまりどちらかには別の字をあてなくちゃいけない。
どちらの色も2文字目が「L」であることまで同じだ。上にも書いた通りLは土地を意味する。もちろんできれば1文字目を使えるに越したことはないので、土地はやはりLであるべきだ。黒 black の3文字目は「A」だ。Aはアーティファクトの予約席だ。つまり、青には「U」と「E」が空いていて、黒には「C」と「K」が空いている。(実はウィザーズ内でこれが明文化される前は、黒を「K」で表すプレイヤーも居た。)最終的にUで行くことにしたのはどうしてかって? 単純に、Uは青 blue の3文字目で、黒 black のCやKより前の文字だからだ。
最後にもうひとつだけ書いておくと、上に挙げた地の色の順番はカード・ファイルに並ぶ順番と同じだ。単色(白青黒赤緑 WUBRG の順——研究開発部で口にされるときは「ウーバーグ」と発音される)、マルチカラー、分割カード、アーティファクト、土地、の順になる。
2桁の数字
数字に関するルールはごく短い:
#1——数字は必ず2桁で表す。このルールがある理由は単純だ。こうしておけば、何か情報が抜け落ちたのではないということがわかる。もし CW1 と書かれていたら、それが白の1番目のコモンなのか、それとも 10 番台のコモンを指そうとしているのに2桁目が消えてしまったのか区別できない。常に2桁で表記することで、情報が脱落していないことを確かめることができるわけだ。このルールから導かれる系として、「最初の9枚のカードは必ず 0x、つまり 01〜09 の形で表される」というものがある。
#2——ナンバリングは必ず 01 から始める。この数字が表すもっとも重要な情報は、特定の「レアリティ+色」の組み合わせにいくつのスロットがあるかということだ。あるレアリティ+色の中で最大の番号が、とりもなおさずそのレアリティ+色に何種類のカードがあるかを示すことになる。この情報は実に便利で、デザインとデベロップのあいだはしょっちゅう参照されることになる。
#3——工場で番号を刷るまでは、順番は問題ではない。コモンの白に 12 枚カードがあるということに変わりがなければ、どの番号がどのカードに割り振られていようとも構わない。構わないのだけど、実は研究開発部は独自にいくつかのルールを定めている:
A——クリーチャーはクリーチャー以外のカードより前に来る。デザインとデベロップメントの過程では、ある色のあるレアリティに何枚クリーチャーが含まれているのかを定期的にチェックしていなければならない。その作業を簡単にするために、クリーチャーは常にひとまとめにして若い番号のところに並べられる。
B——サイクルのカードには同じ番号を振る。サイクルのカードを参照しやすいように、私たちはサイクルのカードには同じ番号を割り当てることにしている。たとえば、コモンに 1/1 クリーチャーのサイクルを作る(これらはどの色であっても1マナが適正なコストになる)場合、それらに全て「01」という番号を振る。このルールは必ず守らなければならないものではないが、しかし事情が許す限りは従うようにしている。ルールAはしばしばこのルールに立ちはだかり、私たちの頭痛の種になる。クリーチャーとクリーチャー以外のカードの境目は色によってまちまちだからだ。
C——同じスロットを争っているカードには同じ番号をつけてしまう。研究開発部で用いる小技のひとつに、複数のカードに同じカード・コード・スロットを割り当ててしまう、というものがある。これはとりもなおさず「これらのカードは同一のセットには収録することができないので、現在どれが入るかをテスト中だ」ということを意味する。ついでに、こうしておくことでリード・デザイナーは「この2枚のカードは機能がかぶってる」というコメントが山ほどつけられることを未然に防ぐことができる。
D——カードはそれぞれの区分(クリーチャー/クリーチャー以外)の中ではマナコストの低い方から高い方へ順に並べる。これも必ずしも常に守られるルールではないが、このルールでファイルをソートし直すと、チーム全員がこのセット全体のマナ・カーヴがどうなっているかを共有することができる。
E——地の色が同じサイクル(ほとんどがアーティファクトか土地だ)には連続した番号を振る。必ず白青黒赤緑 WUBRG の順にする。連続した番号をつけることができるサイクル、すなわちほとんどがアーティファクトか土地であるサイクルには、連続した番号をつけてまとめて管理する。ついでに書くと、あらゆるものは可能な限り白青黒赤緑 WUBRG の順にする。土地のサイクルや各色に関係のあるアーティファクトのサイクルであってもそれは変わらない。
研究開発部がファイルの編集を完了するときには、カード・コードには常に連続した番号が使われているが、研究開発部の中ではいくつか特別な意味を持つ数字が定められている。これらのコードはデザインとデベロップメントのあいだだけ使うことが許されていて、ファイルが余所者の手に引き渡されるまでにはすべて正しい数字に置き換えられている。それらのコードを紹介しておこう:
99——一番よく使われるコード。そのセットには収録されないことが決定したが、将来また戻ってこないとも限らない、ということを意味する。「カードを 99 する」というのは研究開発部で実際に使われてるスラングで、何かが取り除かれた時に使う。(“《肥満エルフ》はどうなった?”“99 されたよ。”)
88——そのカードはまだ正式にはセット入りしていないが、入るべきスロットを探している状態を指す。99 との違いは、こちらはどちらかと言えば収録する方向で検討されている、ということ。
33,44,55,66,77——デザインの際、私はこれらのコードをそれぞれチーム内のデザイナーひとりひとりに割り振っておく。そして、セットに入れるかどうか検討中のカードにそれらのコードを振る。こうしておくと、誰がデザインしたカードかがわかる。
00——このコードは一般的な注意書きに使われる。一番よく使われるのは CW00 で、これはファイル全体の先頭に来ることになる。あまり多くはないが、特定のセクションの注意書きとして 00 が使われることもある。
10,20,30,40,50——この区分は最近作られたもので、シャドウムーアのデザイン中に発明された。ラヴニカで初めてハイブリッドが登場したときには、単にZを使うだけで事足りた。ファイル全体でもハイブリッドは高々 12 枚しかなかったからだ。しかしシャドウムーアのデザインを始めてみると、困ったことになることに気がついた。セットの半分がハイブリッドだということは、セットの半分のカードがZのコードを持つことになってしまう。そんな有様で、デザインやデベロップメントの時にどうやって {白/青} を {青/黒} や {黒/赤} {赤/緑} {緑/白} と区別して扱えばいいだろう? これまで述べてきた通り、デザインやデベロップメントの作業にあたっては、各色や各レアリティの枚数や内訳がぱっとわかることはとても重要だ。解決方法は以下の通りだった。{白/青} には全部 10 番台のカード・コードをつける。同じように、{青/黒} には 20 番台、{黒/赤} には 30 番台、{赤/緑} は 40 番台、{緑/白} には 50 番台をそれぞれ割り当てた。こうすることで、研究開発部の誰がシャドウムーアのファイルを開いても、すぐにお目当ての色のハイブリッドにたどりつくことができる。このシステムは、イーブンタイドで対抗色のハイブリッドが登場したときも使われた。
コード・レッド(*4)(あとホワイトとブルーとブラックとグリーン)
カード・コードについてはこれで語り尽くした。
私の今日の目標は、一見ささやかで取るに足らないものが、実際にはデザインとデベロップメントの道具としてどれほど重要で役に立っているかということを示すことだった。デザインという仕事全体の流れや、そこで使われている言葉は、すべてカード・コードという道具を中心に形作られている。
最後にこれを訊いて今日のコラムの締めとさせてもらいたい:今日のコラムは面白かっただろうか? ゲームという仕掛けの裏で動いているデザインという仕事を形作っている小さな部品についての話を聞く、というのは楽しかったかな? それとも、コラムのねたには向いてない退屈な話だと思っただろうか? 私は信号無視のことは忘れて殺人の話に戻った方がいいのかな? 本気で私は答えを聞きたい。今回のような話に需要があるのかどうか私にはさっぱりわからないからだ。それでもこれを書いたのは、その答えを知るためには実際に記事を1本書いてその反応を聞いてみるのが一番だと思ったからだ。というわけで、みなさん、お答えを! 「ボルトとナット」はシリーズ化すべきか、否か?
来週はコンフラックスのプレヴューが始まるので、皆さんには新セットの味見をしていただくことができるだろう。待ちきれないあなたには、コンフラックスのオーブ・オブ・インサイトが既に稼働中だということだけお伝えしておこう。
ではまた来週。皆様が小さな物事にも大きな意味があることを学ばれませんことを。
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(*4)コード・レッド
Code Red。一昔前のコンピュータウイルス、らしい。
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この記事を書くのに先立って翻訳記事のカテゴリを全部変更して、さて本文を更新するかと思ったらちょうど中断せざるを得なくなって、それから一週間まったく更新の機会がなかった。カテゴリ変更に気づいた人がもし居たらさぞ奇妙に思ったことだろう。
追記:なにか忘れてると思ったらいつものあれだった。誤訳の指摘や「自分ならこう訳す」といった意見は歓迎します。コメント欄へお願いします。
コメント
いつも楽しく読ませていただいてます。
>実は自分でカテゴリを作る機能があるのではないかとうすうす思い始めたところなのだけど、どうしても見つけることができないのだ。
と言う事でしたので、
1.「管理トップ」をクリック。
2.管理画面の左端にある「日記の設定」の上から2つ目の「テーマの変更」をクリック。
3.テーマ名を入力し、ジャンルを選択して画面下の「登録する」をクリックする。
以上で任意のカテゴリを作成する事が出来ます。
これからも更新を楽しみにしております。
それでは失礼します。
もしかすると原文を読んだだけだったのかも。
>(collector numberwise at least)
(少なくともコレクター番号順では)
「コレクター番号」はrule 212.1cです。
>code red
確かにそういうのもありましたが、code redはcode redでいいのでは。
洋画の吹き替えで普通に「コード・レッド」言ってる気がしますけども。
あれはコレクター番号というのですね。そもそも日本語でその認識がありませんでした。ご指摘ありがとうございます。修正します。
code red は意味的には「非常事態発生」みたいな感じでしょうか。ここでは意味自体に殆ど意味はありませんし、単純に「コード・レッド」でよさそうです。
もろもろありがとうございました。
カードセット作りにおけるのノウハウ話は、デザイン側の意図が透けて見えて面白いですね。
同じく日本語公式のシリーズ最新作をみて過去シリーズを読んで「訳してみようかな」と思ってました。手を出さなくて良かった、とほっとしてます。
>テレビに映される犯罪の 95% は凶悪犯罪で、軽微な犯罪は 5% しかない
ああ、確かにサイクリング週間のコラムでも同じこと言ってましたね。話自体は説得力あるのに、データが食い違うという関係ないところで信憑性が下がるのは確かに面白い現象だと思います。
説得力に関しては、この手のことは多分結構たくさんあるんじゃないかと勝手に推測しています。
かぶること自体は「結果的にかぶってしまったらしょうがない」と考えているのですが(積極的に防ぐ手だてをとっていない)、それはそれとしてかぶると勿体ないと思うのも確かです。リソースが限られている以上かぶらない方がいいのでしょうね。
説得力に関してですが、たぶんその手のことを意識している人にとっては常識に近いことなのかな、という気はします。似たような「説得力を下げてしまう行為」とか、逆に「説得力を上げる行為」とかはかなり研究されているのではないでしょうか。