「しじみ交換会みたいなもんかな」
奴の奥さんはそう言った。
僕たちは仲間内で定期的に開催しているレガシーの対戦会からの帰り道だった。途中まで方向が同じなので、僕は奴と、買い物をしていて先ほど合流したその奥さんと一緒の電車に乗っていた。奴の奥さんはなんというかとても可愛い人で、カードゲームという趣味にも一定の寛容さを示している。僕は彼女が奴の奥さんになる少し前からの知り合いだけど、残念ながらそれ以上のことはよく知らない。
電車は時折左右に小さくかしぎながら夕闇に覆われた町を走る。車内は混んではいないが、かといって座れるほどでもない。僕たちはドアの近くにかたまって立っている。
彼女が今日は誰が勝ったの、と聞いてきて、僕たちはぱっと答えることができない。
いや、そういうんじゃないんだよ。勝ったとか負けたとか。やっと奴が応じて、それで冒頭の言葉を奥さんが発した。
しじみ交換会? 僕は訊き返す。
そういう世界があるんですよ、と彼女は答える。しじみ巾着っていって、可愛い生地で作るちいさな巾着があるんだけど、それをやってる人たち同士が交換会をする。まあオフ会みたいなもんです。生地を探したり、いろいろ趣向をこらして、参加者同士で作ったしじみ巾着を交換するんだけど、いやあたしは怖いのでそっちの方は行ったことないんだけど。そういうのじゃない?
具体的なことは全くわからないが、そういう世界が存在することは理解できる。
そうかも知れない、と言おうとした時に、奴が口を開く。
「違う」
ちょっとだけ間を置いて続ける。俺たちは現役じゃないんだよ、もう全然。その、しじみの人たちはばりばり現役なんだろ。戦ってるわけじゃないかも知れないけど、結構前線に居るわけだろ。俺たちはもうむしろ、いやしじみ交換会ちょっときついわみたいな感じなわけ。
ああ、なるほど。奥さんは深々とうなずく。
どっちかっていうと、骨董品見せ合うみたいな感じかも知れない。僕は言った。それぞれの自慢の品を持ち寄って、いいでしょういいでしょう、いやあなたのこそすばらしい。みたいな。まあ骨董品見せ合ったことないんだけど。
なるほどなるほど。奥さんはにっこりと笑った。やっとどんな感じなのかわかったわ。
僕は感心して、同時に少し呆れてしまう。
窓の外が急にふわっと明るくなり、見上げると既に外はプラットフォームだ。電車はふたりの降りる駅に、滑らかに減速しながら滑り込む。
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唐突かつ今更ながら書いておきますと、このシリーズは「傘をひらいて、空を」というブログ(http://d.hatena.ne.jp/kasawo/)をかなりがっつりパクっています。形式だけならともかく文体まで真似てるのでどうなんだろうと思わなくもなく。このシリーズが気に入った方がもしいらしたら、是非リンク先もご覧になってみてください。
奴の奥さんはそう言った。
僕たちは仲間内で定期的に開催しているレガシーの対戦会からの帰り道だった。途中まで方向が同じなので、僕は奴と、買い物をしていて先ほど合流したその奥さんと一緒の電車に乗っていた。奴の奥さんはなんというかとても可愛い人で、カードゲームという趣味にも一定の寛容さを示している。僕は彼女が奴の奥さんになる少し前からの知り合いだけど、残念ながらそれ以上のことはよく知らない。
電車は時折左右に小さくかしぎながら夕闇に覆われた町を走る。車内は混んではいないが、かといって座れるほどでもない。僕たちはドアの近くにかたまって立っている。
彼女が今日は誰が勝ったの、と聞いてきて、僕たちはぱっと答えることができない。
いや、そういうんじゃないんだよ。勝ったとか負けたとか。やっと奴が応じて、それで冒頭の言葉を奥さんが発した。
しじみ交換会? 僕は訊き返す。
そういう世界があるんですよ、と彼女は答える。しじみ巾着っていって、可愛い生地で作るちいさな巾着があるんだけど、それをやってる人たち同士が交換会をする。まあオフ会みたいなもんです。生地を探したり、いろいろ趣向をこらして、参加者同士で作ったしじみ巾着を交換するんだけど、いやあたしは怖いのでそっちの方は行ったことないんだけど。そういうのじゃない?
具体的なことは全くわからないが、そういう世界が存在することは理解できる。
そうかも知れない、と言おうとした時に、奴が口を開く。
「違う」
ちょっとだけ間を置いて続ける。俺たちは現役じゃないんだよ、もう全然。その、しじみの人たちはばりばり現役なんだろ。戦ってるわけじゃないかも知れないけど、結構前線に居るわけだろ。俺たちはもうむしろ、いやしじみ交換会ちょっときついわみたいな感じなわけ。
ああ、なるほど。奥さんは深々とうなずく。
どっちかっていうと、骨董品見せ合うみたいな感じかも知れない。僕は言った。それぞれの自慢の品を持ち寄って、いいでしょういいでしょう、いやあなたのこそすばらしい。みたいな。まあ骨董品見せ合ったことないんだけど。
なるほどなるほど。奥さんはにっこりと笑った。やっとどんな感じなのかわかったわ。
僕は感心して、同時に少し呆れてしまう。
窓の外が急にふわっと明るくなり、見上げると既に外はプラットフォームだ。電車はふたりの降りる駅に、滑らかに減速しながら滑り込む。
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唐突かつ今更ながら書いておきますと、このシリーズは「傘をひらいて、空を」というブログ(http://d.hatena.ne.jp/kasawo/)をかなりがっつりパクっています。形式だけならともかく文体まで真似てるのでどうなんだろうと思わなくもなく。このシリーズが気に入った方がもしいらしたら、是非リンク先もご覧になってみてください。
コメント
まだいくつかに目を通しただけなのですが、かなり楽しめそうです。
紹介してくださった事に感謝します。