おひさしぶりです。
少し和訳のモティヴェイションが落ちたので、ちょっとペースダウンしてちまちまやってました。完全には止めないように「仕事帰りの地下鉄ではとにかく和訳」と決めて、最低でもそれだけはやるようにという感じで進めました。止めない限りはいつかは辿り着くわけで、どうにか完成できた次第です。

先日レッドゾーンのとこだけ訳したキブラーの自作デッキ解説です。存外面白かったので、せっかくだから完訳してみました。前回も思いましたが、キブラーは意外なほど訳しやすい英語を書きます。

普通にやればたぶん1本で入るんですが、註が多過ぎた所為か「-1,507文字」とか出てました。無念です。前後編に分けます。

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原文:The Dragonmaster’s Lair - The Best Decks I’ve Ever Played (2011-04-08)
http://www.starcitygames.com/magic/misc/22234_The_Dragonmasters_Lair_The_Best_Decks_Ive_Ever_Played.html


SCG オープン・シリーズのスタンダードでは「コー・ブレイド(カウ・ブレード)」が支配を続けてるわけだが、プロツアー・パリでも素晴らしい成績を残すことになった。2人のプレイヤーがトップ8に入って、うちひとりがチャンピオンのベン・スターク、んでもってトップ 16 まで広げるともう4人入ったことになる。ほんとに支配的って言っていい活躍だったんじゃないか。俺自身はひどい成績で、まったくぱっとしない6勝4敗だったけど、それでも俺たちのデッキはあのトーナメントでは間違いなく最強だったと思う。

「コー・ブレイド」は継続して好成績を残していて、デッキ自体がたしかに強いと言える。だがひとつ憶えておいてほしいのは、マジックでデッキ構築をする上で重要なことは、環境に君臨する要塞みたいなデッキを作ることじゃなくて、適切なタイミングで適切なデッキを持ち込むことだってことだ。「最強デッキ」の話となると、多くのプレイヤーは特定の環境で一定期間以上継続して実績を残したデッキを挙げると思うけど、トップレベルのトーナメントでは持続的な支配は実は大抵意味がない。プロツアーにしてもグランプリにしても単発のトーナメントで、そのイベントで一番いいパフォーマンスを見せた奴が最高の報酬を得られる。

プロツアー・レベルで戦うことと、例えば SCG オープン辺りとの最大の違いは多分そこにある。オープンシリーズは毎週あって、メタゲームは――少なくともトップレベルでは――毎週着実に進んでいく。ある週においてフォーマットを“ぶっ壊し”て、完璧に環境を攻略するデッキを持ち込めたとしても、見返りは比較的小さい。次の週には誰もが追随してくるからだ。
しかしプロツアーやグランプリでは話が別で、見返りは巨大なものになる。そもそも賞金がでかいし、なんたって次のイヴェントは違うフォーマットなんだから! 

オープンシリーズやプロツアー予選での連戦は、コンスタントに強力なデッキを使い続けてプレイングを磨くのがおそらく一番いいやり方になる。イベントごとに全く新しいデッキを持ち込もうとするのは、コストと見返りを考えると見合わない。

そこら辺を頭に置いてもらいつつ、俺がこれまで使った最強のデッキを紹介していこう。紹介するデッキは必ずしもプロツアー予選シーズンやフライデー・ナイト・マジックを席巻したわけじゃないが、適切なタイミングに適切な場所で使われたことは確かなんだ。

デッキが素晴らしい順にランク付けをしようかとも思ったんだが、ストーリーをつけることにしたんで、時系列順のままにした。


デッキ名:セラテッド・イリュージョニスト
イベント:グランプリ・トロント
デッキリスト:


メインデッキ:
4 《ギザギザ・バイスケリオン/Serrated Biskelion》
4 《大クラゲ/Man-o’-War》
4 《知恵の蛇/Ophidian》
4 《ヴォーデイリアの幻術師/Vodalian Illusionist》
4 《竜巻のジン/Waterspout Djinn》
3 《誘拐/Abduction》
4 《雲散霧消/Dissipate》
4 《衝動/Impulse》
2 《記憶の欠落/Memory Lapse》
3 《魔力消沈/Power Sink》
1 《命令の光/Ray of Command》
17 《島/Island》
4 《流砂/Quicksand》
2 《七曲がりの峡谷/Winding Canyons》

サイドボード:
2 《水門/Floodgate》
2 《霧の騎士/Knight of the Mists》
1 《夢の潮流/Dream Tides》
1 《海嘯/Flooded Shoreline》
2 《ブーメラン/Boomerang》
2 《撹乱/Disrupt》
1 《魔力消沈/Power Sink》
2 《命令の光/Ray of Command》
2 《再帰/Undo》


ストーリー:

読者は上のリストのうちどれぐらいのカードを知ってるのかな? グランプリ・トロントはミラージュ/ビジョンズ/ウェザーライトのブロック構築だった。1997 年のことで、マジックは今とは全く違うものだった。もちろんカードも今とは全然違うがそれだけじゃない。インターネットでマジックについて知識を得ようと思ったら、二種類しか方法がなかったんだ。ひとつがユーズネットの掲示板(*1)で、もうひとつがマジック・ドージョー(*2)。ドージョーは当時の「テク」のまさに中心で、メタゲームって奴を正確に知ろうと思ったら、そこに投稿されてる記事を熟読するしかなかった。

俺の記憶が正しければ、グランプリ前のミラージュブロック構築で一番人気があったのは黒単のアグロで、《堕ちたるアスカーリ》《ネクロエイトグ》《墓所のネズミ》辺りを《ネクラタル》や《闇への追放》といった除去でバックアップするデッキだった。グランプリ・トロントの直前に、ゲリー・ワイズ(そう、あのゲリー・ワイズ(*3)だ!)がドージョーにトロント近郊のプロツアー予選で優勝したって内容のトーナメントレポートを投稿してた。《血の歌》と《ネクロエイトグ》のコンボを内蔵したデッキで、墓地を肥やすことで黒単を踏みつぶせた、という内容だった。

俺はそれを読んでメタゲームの最先端に立てた気になって、そのデッキを地元ボストンのプロツアー予選に持ち込んだ。そこで長年来の IRC の友人で、後にはリアルでも友人になるブライアン・シュナイダーにたまたま会った。ブライアンは青単の《知恵の蛇》デッキを持ってきてたんだけど、なかなかいい感じのデッキに見えた。トーナメントが始まるまで、俺たちは何度か対戦した。彼のデッキにはいくつか入るべきカード、例えば《衝動》とかが欠けているように思えたが、それでもおれはそのデッキが気に入った。ブライアンが俺に殆ど勝ち続けてたんだから尚更だった。運命のいたずらか、俺たちは1ラウンドで対戦することになって、やっぱりブライアンが勝った。俺はほどなく2敗目を喫して(そこらじゅう《血の歌》デッキだらけだった)、トーナメントを棄権した。

マイク・ブレゴリ(misetings.com(*4) でおなじみの)がグランプリとかいうもののことを教えてくれたのはその時だった。まさにグランプリ・サーキットが始まろうとしていたときで、でかいイベントでプレイするってのはすごく魅力的だった。俺はちょうどアメリカ合衆国選手権で悲しい成績を収めたばっかりだった。直前最終予選を抜けて本戦に出て、スイスラウンドの最終ラウンドで勝てばトップ8ってとこまで行っておきながら、その年のアメリカ代表になったジェフ・バッツに負けて、傷心のうちに 12 位でトーナメントを終えた。俺はまたでかい舞台で戦いたかった。そのためなら 10 時間のドライヴぐらいどうってことないと思った。

次の週いっぱいかけて、俺は《知恵の蛇》デッキをぶっ通しでオンラインで調整した。ここでいうオンラインってのは Apprentice のことだ。なにしろマジック・オンラインが出るまだ何年も前の話だから。調整相手は IRC の #mtgpro チャンネルの住人で、ブライアン・シュナイダー、ラン・ホー、マット・プレイス、エリック・ローアー(*5)辺りも入ってた。
グランプリの一週間前、マット・プレイスが《ヴォーデイリアの幻術師》のスロットに《ドレイクの雛》が入っている以外は殆ど同じ構成の青単でプロツアー予選を勝った。俺は青単が増えるだろうと予想してデッキのマナ・ベースに《七曲がりの峡谷》を2枚足した。青単を使うって決めた他の連中より確実に長期戦のゲームで強くなるように。

《ギザギザ・バイスケリオン》と《ヴォーデイリアの幻術師》のセットをいつ入れることにしたのかはっきり憶えてないんだが、この2枚のおかげで環境に存在した他の青いデッキに差をつけることができたのは確かだった。この“コンボ”はミラーマッチで強力な決め手になってくれた。なにしろこのデッキのミラーはお互いの《知恵の蛇》が睨みあって、それぞれになんとかしてそれを通そうとして《誘拐》やらバウンス呪文やらを唱えあう、というものだからだ。
そういえば、今日日だったらこのコンボは2枚のカードテキストを読めば誰にでもわかるものだよな。対戦相手のクリーチャーを対象に《ギザギザ・バイスケリオン》を起動して、《幻術師》でフェイズ・アウトさせる。そうすると、相手のクリーチャーにだけ -1/-1 カウンターが乗って、こちらには乗らない。
でも当時はまだルールが全然整ってなくて、“解釈”次第で変わっちまう余地が今よりずっと大きかったんだ。あるイベントでこのルールについて訊かれて、ジャッジが《バイスケリオン》は自分自身にカウンターを乗せない限り対象にもカウンターを乗せることができない、なんて裁定を下したこともあった。俺はグランプリに向けて、まずヘッドジャッジがルールを正しく理解してくれて、俺のコンボが正しく機能することを祈らなくちゃいけなかった。

幸いにもルーリングはトーナメントの間中俺の望んだ通りになってくれた。俺は二日間の戦いで凶悪な対戦相手をばったばったとなぎ倒した。アレックス・シュヴァルツマン、テリー・ボアラー、スティーヴ・OMS、マット・プレイス、ワース・ウォルパート。俺はトップ8に残れて、シングル・エリミネーションではマイク・チュリアンに勝ち、マット・プレイス(またしても!)に勝ち、最後はエリック・ローアーに勝って初めてのグランプリタイトルを手に入れた。

この時は適切な時に適切なデッキを使うだけじゃなくて、適切なルーリングも味方になったって感じかな!


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(*1)ユーズネットの掲示板
揚げ足取りに近いしマジック関係ないんだが、「ユーズネットの掲示板」(原文だと Usenet bulletin boards)って言い方はおかしい。ユーズネットは今で言えばニューズグループみたいなもんなんだから、掲示板ではない。でもまあ、知らない人は掲示板みたいなもんだと思っておけばいいと思うし、キブラーもそう思ってわざと書いたのかも知れない。
(*2)ドージョー
The Dojo。インターネット黎明期の伝説的なウェブサイト。管理人はフランク・クスモト。サイト自体は現存しないが、大手サイトで記事を引き取ったりしてるっぽい。あと、Internet Archive にかなりよく残っている。
(*3)ゲリー・ワイズ
Gary Wise。殿堂プレイヤーで、ライターとしても著名だった。初期のドージョーでも活躍したらしい。公式サイトにも Wise Words という連載を持っていた。2004 年にマジックからは引退、以後ポーカーに転向している。親日家だが書く文章は訳しづらい。
(*4)misetings.com
マジック系のジョークサイト。いつからあったのかはちょっとわからないが、2007 年に閉鎖されたとのこと。
(*5)エリック・ローアー
Erik Lauer。チーム CMU でデッキビルダーとして活躍し、のちにウィザーズ社のマジック研究開発部入りという黄金ルートを辿った。ところでこの人の苗字、公式の日本語記事だと「ラウアー」って書かれてるんだけど、この綴りは英語だと普通はラウアーとは読まないのでいつも気になっている。まあ公式だから直接聞いたりしてそうなんだけど。

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デッキ名:ティンカー
イベント:世界選手権 2000
デッキリスト:


メインデッキ:
1 《崩れゆく聖域/Crumbling Sanctuary》
4 《厳かなモノリス/Grim Monolith》
1 《ミシュラのらせん/Mishra’s Helix》
4 《ファイレクシアの処理装置/Phyrexian Processor》
4 《からみつく鉄線/Tangle Wire》
4 《スランの発電機/Thran Dynamo》
4 《通電式キー/Voltaic Key》
4 《マスティコア/Masticore》
4 《金属細工師/Metalworker》
1 《ファイレクシアの巨像/Phyrexian Colossus》
4 《渦まく知識/Brainstorm》
4 《修繕/Tinker》
9 《島/Island》
4 《水晶鉱脈/Crystal Vein》
4 《リシャーダの港/Rishadan Port》
4 《サプラーツォの岩礁/Saprazzan Skerry》

サイドボード:
1 《ミシュラのらせん/Mishra’s Helix》
4 《寒け/Chill》
2 《水位の上昇/Rising Waters》
4 《無効/Annul》
4 《誤算/Miscalculation》


ストーリー:

2000 年の世界選手権は、俺にとって数年ぶりに参加するプロ・レベルのイベントだった。高校時代何年間かちょっと他のことをやったりしてて(*6)マジックからは離れてたんだけど、大学に上がってみるとすぐに退屈で刺激のない日々が待ってたもんで、またマジックの世界にはまり始めたところだった。ある日のチャットで、ラン・D・ホーにプロツアー・シカゴ 99 を観に来ないか、ついでに旧友にも会えるし、と誘われた。悪くないプランに思えたんで、俺はシカゴに行って、ランが“アイアン・ジャイアント”ティンカー・デッキを組むのを初日の前夜に手伝う羽目になった。のちにマジックのヘッド・ディヴェロッパーになるブライアン・シュナイダーと、計り知れぬ男ダン・バーディックも一緒だった。俺たちは徹夜で《冬の宝珠》/《氷の干渉器》のくそロックデッキを爆発的にパワフルなデッキに作り替えた。ランはもう少しでトップ8に残れるところまで行って、俺はまたこのゲームのとりこになってた。

俺は地元のプロツアー予選に何回か出て、毎回いいところまでは行くんだが一度も勝てずにいた。そうこうしてるうちにレーティングがぐんぐん上がって、とうとう世界選手権に招待される数字になった。俺は昔なじみの友人たちのオンラインでのプレイテストグループに加わった。グループにはベン・ルビン、ウィリアム・ジェンセン、ジョン・フィンケル、OMS 兄弟辺りが入ってた。コネは作っといて損はしないぜ!

当時のスタンダード環境は実に多様性に富んでいて、「ストンピィ」「ポンザ」「アングリー・ハーミット」「アクセラレイティッド・ブルー」「補充」辺りがそれぞれメタゲームの確固たる地位を占めていた。ジョン・フィンケルは黒単の「ナップスター」デッキで全米選手権を勝ってたけど、なにしろ全員にネタバレしているというのはかなりのマイナス材料だった。この環境に適したデッキを探しているうちに、ダン・OMS と俺はカナダ選手権に出ていた《金属細工師》入り「ティンカー」デッキを見つけた。そのデッキにはかなりの潜在能力があるように思えた。爆発的なスピードがあって、環境のクリーチャーデッキではついて来れなかったし、《リシャーダの港》から《からみつく鉄線》にいたるまでマナ拘束が入ってて、コントロールとも充分やれた。それになにより、このデッキを真面目に検討してる奴は殆ど居なかったから、対策されることがなさそうだった。

なんでこのデッキの評価がそんなに低かったかっつうと、絶望的に「《補充》」デッキに対して相性が悪かったからだ。《浄化の印章》にはでかいアーティファクトを叩き割られちまうし、こっちのマナロック手段である《からみつく鉄線》《リシャーダの港》《ミシュラのらせん》は全部マナを浮かせてからのドロー・ステップ《大あわての捜索》で全部かわされちまう。「補充」は間違いなく世界選手権でもメタゲームの中心になるはずだし、このデッキにとっては悪夢のマッチアップだった。少なくとも、そう信じられていた。

でも「ティンカー」はやっぱり強かったんで、俺は簡単には諦めようとは思わなかった。俺は解答を探し始めた。必要だったのは《大あわての捜索》に対抗できるカードだった。なにしろこれ1枚でこっちのマナ拘束を抜け出しちまうんだから。俺はその解答がもともとプロツアー・シカゴ 99 でランが使ってたオリジナルのデッキの中に入ってたことに気がついた。《冬の宝珠》、すなわち《水位の上昇》だ。《無効》《誤算》《水位の上昇》に加えて2枚目の《ミシュラのらせん》まで突っ込んだサイドボーディングで、相性は「ほぼ勝てない」から「圧倒的」に転換した。

トーナメント中に、ジョン・フィンケルは一度ゲーム・ロスを喰らった。対戦相手(いくつかの理由で名前が思い出せない(*7))のデッキは「補充」だった。俺は要するにこれってマッチ・ロスと同じだよな、とジョークを飛ばした。なんたって1ゲーム目はほぼ勝てないし、サイドボード後にやっとその逆になるんだから。

俺個人のスタンダードの成績は 4-2 どまりだったんだが、ジョン・フィンケルとボブ・マーハーが殆ど同じデッキで対決したのは、たぶんプロ・ツアー史上でも一番印象に残る決勝戦だったんじゃないかな。俺がそれに一役買えたことを嬉しく思うよ。


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(*6)ちょっと他のことをやったりしてて
世界選手権2000のカバレッジにキブラーへのショートインタビューがあって、その中では「レスリングをやってた」と明記されている。元レスラーというのは時々書かれてて元ねたわからなかったんだが、やっとそれらしい記述を見つけた。
(*7)いくつかの理由で名前が思い出せない
調べたらロバート・ドハティだった。まさかドハティの名前を忘れるとも思えないので、なんらかの意図があるのだろうけど、詳しいことは不明。あるいはまるっきりの誤訳かも知れない。原文は (for reasons that escape me right now)。

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訳注:この「レッドゾーン」のパートは以前訳載したものとほぼ同じ。

デッキ名:レッドゾーン
トーナメント:プロツアー・シカゴ 2000
デッキリスト:


メインデッキ:
4 《極楽鳥/Birds of Paradise》
4 《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》
4 《リバー・ボア/River Boa》
4 《キマイラ像/Chimeric Idol》
4 《ブラストダーム/Blastoderm》
3 《翡翠のヒル/Jade Leech》
4 《古代のハイドラ/Ancient Hydra》
2 《煽動するものリース/Rith, the Awakener》
3 《増進+衰退/Wax+Wane》
4 《ハルマゲドン/Armageddon》
8 《森/Forest》
4 《低木林地/Brushland》
4 《真鍮の都/City of Brass》
4 《カープルーザンの森/Karplusan Forest》
4 《リシャーダの港/Rishadan Port》

サイドボード:
3 《カヴーのカメレオン/Kavu Chameleon》
4 《アルマジロの外套/Armadillo Cloak》
2 《サイムーン/Simoon》
3 《サーボの命令/Tsabo’s Decree》
2 《野火/Flashfires》
1 《抹消/Obliterate》


ストーリー:

世界選手権が終わってみると、俺はまた権利無しの立場に戻ってるってことに気がついた。当時はまだニューイングランドに住んでたんだけど、とにかく夏中プロツアー予選に出続けて、一度も権利が取れなかった。秋になったら学校に戻らなくちゃならなくなって、当面プロツアーに戻れる見込みはなくなった。ある日、ベアネイキッド・レディース(*8)のライヴに行って、すっかり遅くなって(ついでにしこたま酔っぱらって)帰ったら、ダン・ブライディからインスタント・メッセージが届いてた。

「よう、権利が取れたらしいな!」

心臓が胸郭の中でひっくり返った。何が取れたって? 俺はシカゴのレーティングによる権利獲得者リストの一覧表のリンクを踏んで、確かに自分の名前があるのを確認した。ちょうどその頃ウィザーズがスタンダードとエクステンディッドのレーティングを統合して「構築」にして、それに伴ってレーティングでの招待をあてにしてた奴が権利取れないなんてことがないように、全員のレーティングが「凍結」された。俺のレートは凍結直前で招待枠の下から二番目だったんだ。つってもその時その辺の事情までわかったわけじゃない。その日俺がしたことと言えば一晩中寮の周りを大声で叫びながら走り回ることと、カレッジの友人全員に「MISE MISE MISE MISE MISE!(*9)」って書いたメッセージを送りつけまくることだった。誰にも意味がわからなかったと思う。

俺は Apprentice(*10) でのプレイテストを再開した。面子は世界選手権の時とほぼ同じ。シカゴで予想されるデッキは「《ヤヴィマヤの火》(ファイアーズ)」デッキ、「レベル」、《まばゆい天使》を使った「青白コントロール」、そして「青黒《冥界のスピリット》コントロール」辺りで、大雑把にこの順番で多いだろうと思った。俺はこの全部に勝てるデッキを作り始めた。

テストを始めてすぐに、上に挙げたこの環境でのメジャーなデッキは全部マナ喰い虫だってことに気がついた。「ファイアーズ」は《はじける子嚢》を出したいし、「レベル」はクリーチャーを連れてくるために(*11)マナをめちゃくちゃ使う。そしてコントロールデッキはなにをするにもマナがたくさん欲しい。俺はこいつらを倒すために《ハルマゲドン》の入ったデッキを組んでやろうと決めた。

《ハルマゲドン》の最良のお供がマナ・クリーチャーなのは間違いないので、色は緑白に決まった。まずは直球の緑白デッキを組んでみたが、時代は《剣を鍬に》後《流刑への道》前だったんで、緑白デッキは対戦相手のクリーチャーに手出しができなかった。コントロールデッキが《まばゆい天使》という絶対殺さなきゃならないクリーチャーを積んでるってわかってるのに除去無しで戦うのは嫌だった。当時「レベル」が使ってたみたいに《パララクスの波》を入れる手も考えたんだが、《ヤヴィマヤの火》《はじける子嚢》《パララクスの波》があふれる環境で、エンチャント除去はみんな積んでるだろうから、エンチャントにクリーチャー除去の役目を任せる気にはなれなかった。

そこへ《古代のハイドラ》があらわれた。アプレンティスではだいたいベン・ルビンと調整してたんだけど、《ハイドラ》はルビンが「ファイアーズ」に入れてたあんまり見慣れないカードだった。俺は《ハイドラ》が気に入った。殆どの除去呪文と違って、どんな時に引いても無駄カードにならないのがいい。《まばゆい天使》を倒せるだけじゃなくて、複数の《ラノワールのエルフ》や《極楽鳥》を片付けて、その後の《ハルマゲドン》を壊滅的な打撃にすることもできる。緑白が緑白赤になるまで時間はかからなかった。

運命というべきだろう、その三色のマルチカラーのカードが《扇動するもの、リース》だった。俺は「ファイアーズ」デッキはでかいクリーチャーを倒す有効な手段を持ってないってことに気付いてた。ファイアーズとやり合う一番いい方法は、エンチャント除去をデッキに入れつつ、相手よりでかいクリーチャーを出すことだ。リースはこのプランの中心になった。彼女は《ブラストダーム》をブロックしても生き残れる(被覆があるおかげで《ヤヴィマヤの火》で対象にとることができないからだ)し、1回でも殴って苗木を出すことができれば、ファイアーズ側が挽回することは殆ど不可能だ。

ファイアーズの棺桶に打ち込むための最後の釘をサイドボードに用意した。《アルマジロの外套》は州別選手権でジョン・ソンヌが使ってた緑白デッキのサイドボードで見かけたカードなんだが、「ファイアーズ」デッキとのマッチアップには完璧に思えた。面白かったのは、そもそもは《翡翠のヒル》とか《リバー・ボア》とかに《外套》をつけて盤面を支配したり、「《ヤヴィマヤの火》+《はじける子嚢》」の総攻撃に備えるためのライフを稼いだりするだけの心算だったのが、実際使ってみるともっとずっとすごいことができるカードだったってこと。

《リース》に《アルマジロの外套》をつけたってのがトーナメントの後には話題になってたんだが、一番役に立ったサイドボードは2枚のインスタントだった。《サイムーン》と《サーボの命令》はこのイベントを通しての MVP だ。どっちも最後の方に足したカードだったが――《命令》なんて当日の朝入れたんだぜ――それぞれ完璧に「ファイアーズ」と「レベル」を叩きのめしてくれた。ファイアーズとの対戦はとにかくマナがなにより重要で、特に絶対に相手には充分なマナを与えないようにしなくちゃいけない。《ハルマゲドン》と《古代のハイドラ》がその仕事の担当なんだが、《サイムーン》はもっと速い。俺は2枚の《サイムーン》だけで何ゲームかは拾ったと思う。《サーボの命令》はレベルを使ってる対戦相手が全員すげえ驚いてたが、到底勝てそうもないゲームをたった一枚でひっくり返してくれて、これだけでマッチアップの相性までこっちの有利がつくぐらいだった。

もしあの準決勝でもう少し引きに恵まれて、もう少しだけいいプレイングができてたら、カイ・ブッディが「ジャーマン・ジャガーノート」って呼ばれるのもちょっとだけ遅くなってたかも知れない。で、俺がプロツアーを勝つのも 10 年ばかり早くなってたかも知れないんだ。


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(*8)ベアネイキッド・レディース
Barenaked Ladies。バンドの名前。
(*9)mise
マジックのスラングで、単なるラッキーを指す言葉らしい。語源は might as well から、とのこと。(*4) MiseTings のネーミングもこれが由来らしい。
参考→http://wiki.mtgsalvation.com/article/Magic_slang
(*10)Apprentice
オンラインでマジックの対戦ができるフリーウェア。
(*11)クリーチャーを連れてくるために
「レベル」という部族テーマのメカニズムのひとつに「ライブラリからレベル・クリーチャーを直接場に出せる」という能力があって、「レベル」デッキの強さはこのメカニズムがもたらす膨大なカード/ボードアドヴァンテージにある。

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後編につづきます。

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